
やー、面白い論文たち
1,2に出会いました!2つあるんですが、どちらも2020年11月25日に発表された最新論文。読み応えあり!まとめます(まだManuscript状態のPDFしかないので、記事タイトルの画像を挿入するのは正式に出版されてからにします。でもE-pubはされてますので、どなたでも全文オンラインで読めますよぅ)。
さて、議題は「Patellofemoral Pain(PFP、膝蓋大腿疼痛)」なんですが、広く言うと「慢性疼痛」全般に当てはまる考え方かなと思います。過大解釈な自覚はありますけども。
PFPというと症状がnagging且つ継続的で、反復性が高く、運動機能ひいてはHRQOLが低下する3-8、というイメージは皆様お持ちかと思いますが、「単にAlignment/Biomechanical(構造的・バイオメカニクス的)な問題でしょ?」と考えている方も多いのでは?もちろんそれも要素のひとつとしては言われていますが、それだけでは解決できない(例: AlignmentやBiomechanicalな問題に介入しそれらが改善したのに症状はよくならない、または、そもそもそういった問題がないのに症状が出ている症例など)のも事実。
そこで最近の疼痛関連の文献でよく目にするキーワードが「Central Sensitization (中枢感作)」です9。International Association for the Study of Pain (IASP、国際疼痛学会)はこの言葉を "Increased responsiveness of nociceptive neurons in the central nervous system to their normal or subthreshold afferent input.10" つまり、「正常あるいは閾値以下の求心性入力に対して示す中枢神経系の侵害受容ニューロンの亢進した反応性」と定義しています。平たく言ってしまえば、本来「痛み」と感じるに足らないような感覚入力に対して、侵害受容ニューロンが過敏に反応してしまい、「痛い!」と感じてしまうことですよね。具体的には、
- Allodynia: 無害刺激 (non-noxious stimuli)に対して痛みを感じてしまう
- Primary Hyperalgesia: 該当部位に起こる痛みへの過敏性
- Secondary Hyperalgesia: 該当部位外に起こる痛みへの過敏性 (例: 膝傷害が元で、上肢にも過敏性が広がる)
の3種類が代表的11です。もしかしたら今まで、疼痛のこういった側面を無視し、やれ筋力のバランスだ、ランニングフォームの修正だと、そういった力学的なことばかりに焦点を当ててきたから、治療効果がイマイチだったんじゃないの?とも言い換えられますね。このあたりは私も概ね同意します。
んで、他の多くの慢性疼痛と同じように、PFPもCentral Sensitizationによる影響ってのは大きいんじゃないかと。ちょっとそのあたりシステマティックレビュー・メタ分析して調査してみますわ、というのがひとつめの論文1です。
さて。まずは気になったところから。
私が見ているのがまだE-pub版なので、本編での発表時には修正されているかもしれませんが、「含まれた研究は全部で15編、うち15編はメタ分析、8編はシステマティックレビューに…」とあるところとフローチャートの文献数が一致しないのは問題です。このフローチャート自体も不明瞭な箇所は多く感じるのですが(例: スクリーンされた文献が56で、はじかれた文献が34と全文アセスメントをおこなった文献が21では、足しても56にならない?とか、そもそもスクリーンで弾いたものも内訳出したほうがいいのでは?Duplicatesを除いた文献数が78あったのにスクリーニングしたのは56とか、なんで20以上も文献いつのまにか減ってるの?とか)、この表では「含まれた研究は全部で15編、うち11編はメタ分析、8編はシステマティックレビュー」に含まれたことになっています。ただのTypoだといいのですが。
あと、「システマティックレビュー兼メタ分析」って論文はよくみますが、フツー、システマティックレビューに含まれる論文のほうが、メタ分析に含まれるそれよりも多いですよね?メタ分析できるほど詳細が含まれている論文をシステマティックレビューでは使わない理由ってなに?ぽつぽつと疑問が残る造りです。
さておき、中身です。メタ分析部分は…
Primary Hyperalgesia: 該当部位の著しいPressure Pain Thresholds(PPT、加圧疼痛閾値)低下に関する強いエビデンスあり(6 high- and 5 moderate-quality studies; n = 983; SMD -0.91, 95%CI -1.22~-0.60)
Secondary Hyperalgesia: 上肢のPPTが中程度低下する強いエビデンスあり(7 high- and 3 moderate-quality studies; n = 955; SMD -0.71, 95%CI -0.97~-0.46)
Primary & Secondary Hyperalgesia: Conditioned Pain Modulation (CPM、痛みが痛みを抑制するDescending Pain Inhibitionのメカニズム)抑制が小程度起こる強いエビデンスあり(5 high-quality studies; n = 554; SMD -0.42, 95%CI -0.61~-0.24)
Temporal Summation Response (時間的加重、侵害刺激が持続したり繰り返されると疼痛がどんどん増強されていく反応)が中程度起こるという強いエビデンスあり(4high-quality studies; n = 492; SMD 0.69, 95%CI 0.48~0.90)
*ちなみにSMDはsmall = 0.2, medium = 0.5, large = 0.8と解釈されるのが一般的
システマティックレビュー部分は…
温・冷痛閾値に関しては矛盾するエビデンスが存在。温・冷痛閾値が著しく下がる(1.2, 99%CI 0.8~1.63)という報告が一件と、大差ないという報告が一件混在している。
*ちなみに99%CIというのも95%CIのTypoじゃないかなぁ…。
Pain Mappingについては5つの良質な研究(n = 518)が報告をしていたが、その質が異なりすぎて情報のpoolingは不可。2件の研究では痛みがどれほど広がっていたという具体的な報告に欠け、残り3件の報告ではPFP患者は痛みのない健康な被験者と比較して、痛みを感じている部位が広きにわたって広がっている様子が確認されたとのこと。
んで、結論はシンプルに、「やはりPFP患者の間でCentral Sensitizationは起きている」。具体的には、上肢も下肢もより低い加圧で痛みを感じるようになっていたり、痛みの抑制メカニズムが上手く機能していなかったり、実際に日常的に痛みを感じている箇所が障害がないはずの広範囲に及んでいたり。では次に気になるのが、「じゃあそれらにどうやって介入していけばいいの?」ですよね。この疑問の答えを探るには、ふたつめの論文2を見てみましょう。
通常のリハビリテーションに、Mindfulness Practiceを足したらどうなるか?というのをRCT形式で検証しているのがこの論文。上のひとつめの論文内容とよくリンクしていますよね。
Mindfulnessというのは、日本語でもそのまま「マインドフルネス」でしょうか。ご存じの方も多いとは思うのですが、この言葉には「今この瞬間、感覚的に経験していることに深く意識を向けること(=そのことに対して何を思い、どう解釈するか考えることはせずに)」という意味合いがあり12ます。自分の中で自動的と言ってもいいほど自然に湧き上がってくる(出来事に対する)「感情的・認知的反応」に一時停止をかけ、今起きて感じている感覚的経験のみに客観的に向き合うというのは、それなりの努力を必要とします。だからこそのトレーニングというわけですよね。
慢性疼痛の患者さんは、痛みそのものについて考え、リフレクションする機会がどうしても多くなってしまうため、Pain Catastrophizing (痛みの強迫観念に捕らわれ常に考え続けてしまい、痛みを脅威として過大解釈し、絶望する)という負の循環にはまりがちです。だからこういったトレーニングを受け、『今この瞬間に実際に起きていること』と、『それを受けてうねり始める自分の中の感情や認知』を上手く切り離す能力が身に付けば、プラスになるのではないか?というような仮説でございます。
この研究、具体的には片または両膝にPFPの症状が最低でも3ヶ月出ている女性のRecreational Runner30名を被験者とし、マインドフルネス・トレーニングを受ける・受けないの2組で疼痛や機能等のアウトカムがどう変化するかを検証しています。1) 両グループともに18週間、週3回60-90回のセッションを繰り返す同一リハビリテーションプログラム(=エクササイズ)に従事してもらう(文中に詳細なプログラムの掲載あり)、2) 痛み、疲労感等を基準にエクササイズをProgress/Regressする共通プロトコルを適応しながらリハビリテーションが進行していく、3) 趣味のランニングに関しても、毎週専門家によるランニングテクニックの分析、アドバイスと、ランニングの距離・頻度に関しても指導があるなど、エクササイズ以外の要素も充実している、4) 評価者、分析者はGroup AllocationにBlinded、5) 全ての評価は一人のPhysiotherapistが一貫しておこなう、6) グループ分けはランダムに決定される…など、明文化されていることが多く、なかなか丁寧にデザインされた研究だなぁと思えます。…が、時間軸だけが表記に一貫性がなく、どうも理解できないところがあるんですよね。
文中には、1) マインドフルネスのトレーニングは8週間の長さで、18週間のリハビリテーションに追加される形でおこなう、2) エクササイズ開始の4週間前からマインドフルネス・トレーニングを開始、3) マインドフルネス・トレーニングの後半4週間はエクササイズと被る形で、同時進行でおこなう…と書かれているんですが、それ以上の記述はありません。んで、4) データ計測は、Baseline、Week 9 (mid-intervention)、Week 18 (@end of intervention)、介入終了2ヶ月後(Follow-up)の4回おこなった、とありますので、これを総合的に解釈すると、以下のふたつの可能性が考えられます。

可能性1の孕む問題点は、エクササイズ組がBaseline測定をしてから4週間も放置されていること。この間、指導もなく自分の知識でランニングを続けていたら、症状が悪化していく可能性が考えられます。実際の臨床で、問題があることを認識していながら4週間もなにもしないってあまりないですよね。だとすると、この状況はClinically Applicableなのか?
可能性2の抱える問題は、グループ間で(広い目で見た)「介入期間」が18週 vs 22週と、4週間も違いが出てしまうこと。そしてアウトカム・アセスメントのタイミング(Week 9, 18、及び2ヶ月後)がグループ間でずれてくること。具体的には、マインドフルネス組のほうがアセスメントが起こるのが時間軸的に遅くなるので、そりゃ症状も和らいでくるかもしれないよね、という。どちらにしても、ややこしい!なぜこんな面倒な造りにしたんだろ。

個人的には、「追加」っていうんだからシンプルにこうすればよかったのではないか(↑)と思ったりなどします。History Effectsのバイアスは取れますから。なにかできない事情もあったのかもしれないけど。
それから具体的なマインドフルネス・トレーニングについて。トレーニングは一対一ではなく、一人のスポーツ心理学者によって、7人、8人のそれぞれグループ形式でおこなわれたんだそう。ふーん、となると、被験者同志で交流する場があり、膝痛いですよねー!とか、どんな靴使ってます?とか、リハビリのあれ、キツくないですか?とか、元々共通項の多い方たちですから、もしかしたらとても仲良くなって「一緒に頑張ろう」という一体感が芽生えた可能性はあります*ね。実際、各グループの平均セッション参加率は
エクササイズのみ: エクササイズ 87.7%
マインドフルネス+エクササイズ: エクササイズ 92.3%、マインドフルネス・トレーニング 100%
…と、マインドフルネス・トレーニングも導入したグループのほうが高い数値が出ています。これはアウトカムにも影響し得た要素かと思います。
マインドフルネス・トレーニングの頻度は不明(たぶん一週間に一回?なのか?)、一回のセッションの長さも不明。内容は呼吸、瞑想、ヨガなどで、セッション後、家でも瞑想などを毎日最大45分実践するよう指導したそうな。この「家での実践頻度」は、紙のフォームで各自記録してもらい、それを研究チームが確認することで実践を促したらしいのですが、その結果は文中では触れられていません(実際はめっちゃ実践していたのか、はたまた全然やっていなかったのか?)。一応、本文中にトレーニング内容のアウトラインが記載されているんですけど、3-6つの箇条書きで簡単に要点がまとめられているだけで、実際どんな練習をしたのかなども不明です。少なくとも私が読んでいて、「ああ、アレね!」とピンとくる感じではない。これを見る限りでは、この実験で採用されたマインドフルネス・トレーニングの再現性は高いとは言えないのではないかな。スポーツ心理学者の誰もが同じマインドフルネス・トレーニングを提供してますってわけじゃないだろうし。
*ちなみにLimitationsの箇所でこっそりリハビリテーションもグループセッションでおこなった、と書かれています。こちらのセッションは具体的に何名だったのかは不明ですし、描写がない以上、2つのグループの被験者がここで混ざった可能性もあります(30名が一堂に会した可能性も)。となると、グループ間のコンタミネーションが起こった可能性があるのは否定できません。
さてさて、結果です。こちらは表を見たほうが早いので下のものを参照ください。文中Table 2と3を基に、もう少しスッキリさせて作成しなおしました。aがBaselineとの統計的に有意な差が認められたもの、*はグループ間の著しい差があったものにつけています。

言葉でまとめると、「両グループ共に疼痛軽減、膝機能向上、治療効果の実感、動作に伴う恐怖感の現象、Pain Catastrophizingの緩和が見られたが、
マインドフルネス・トレーニングもおこなったグループのほうがその全てにおいてより著しい効果が見られ、2ヶ月後のFollow-up時にもそれらのポジティブな効果は持続していた」というところでしょうか。この表ではややこしくなるので入れなかったのですが、他にもCoping Strategies(痛みが実際に生じた時の対処法)の活用も計測していて、Distraction, Ignoring Pain Sensations, Distancing from Painなどの具体的なメソッドも、マインドフル組のほうがより確実に活用できるようになった、という結果も本文には含まれています。つまり、「慢性疼痛というモンスターに立ち向かう際には、器質的なアプローチと平行してマインドフルネス・トレーニングに代表されるような認知・精神的介入も同時進行したほうが効果が格段に高そうだ」ということがわかったんですよね。ふむー!そうだろうと思ったけど、やっぱりそうかー!という気持ちと、それにしたってこんなに全てのアウトカムにこんなに綺麗に結果が出るとはねー、びっくりー!という感想でございます。
ただ、ここまでにも指摘しているように、この研究にもLimitationは多くあります。著者ら自身も言及していますが、「一時は98名も集められた被験者候補のうち68名が除外された」ということは、被験者がHighly selectiveだったということとも同意なわけで。我々が目にする多くの患者にはこの研究の結果が当てはまらない可能性があります(除外されたうち4名は理由不明ですし)。先の1) 研究デザイン上の不可解な点、2) 肝心のマインドフルネス・トレーニングの詳細の欠如と、再現性の低さ は大きな問題だと思いますし、それに加えて週3回の60-90分のリハビリテーションというのもATとしてはなかなか実践しづらい長さかもしれません。マインドフルネス・トレーニングそのものというより、被験者たちが交流をして得たSocial Support/Bondがアウトカムに影響を与えたかもしれない、というバイアスを減らすには、「週に一度集まってお喋りだけする」みたいなPlacebo介入も将来的には導入を検討すべきなのかもしれません。マインドフルネス・トレーニングの内容ももっともっとrefiningできるならば「どういった要素を含んでいるべきか」というところに踏み込んだ研究も見てみたい。いやいや、色々欲が出てきてしまいますね。あれもこれも知りたいなって欲が出てくるってことは、やっぱりいい研究だってことだと思うんですよね。
そんなわけで。ATとしてマインドフルネス・トレーニングをできるようになろう!というより、やはりこういった部分の影響も理解、考慮できるATでありたい、というところと、それからこういった介入をできる専門家さんときちんと繋がり、共通言語を話せるようにならないとね、というところが今回の自分のオトシドコロです。Interprofessional Practiceですよね。これが実践できる人材を世に出せるような教育をしていないと、いよいよ私も用無しになってしまうぞ。肝に銘じます。
1. Sigmund KJ, Hoeger Bement MK, Earl-Boehm JE. Exploring the pain in patellofemoral pain: A systematic review and meta-analysis examining signs of central sensitization [published online November 25, 2020]. J Athl Train. 2020. doi: 10.4085/1062-6050-0190.20.2. Bagheri S, Naderi A, Mirali S, Calmeiro L, Brewer BW. Adding mindfulness practice to exercise therapy for female recreational runners with patellofemoral pain: A randomized controlled trial [published online November 25, 2020]. J Athl Train. 2020. doi: 10.4085/1062-6050-0214.20.
3. Lankhorst NE, Damen J, Oei EH, Verhaar JAN, Kloppenburg M, Bierma-Zeinstra SMA, van Middelkoop M. Incidence, prevalence, natural course and prognosis of patellofemoral osteoarthritis: the Cohort Hip and Cohort Knee study. Osteoarthritis Cartilage. 2017;25(5):647-653. doi: 10.1016/j.joca.2016.12.006.
4. Lankhorst NE, van Middelkoop M, Crossley KM, et al. Factors that predict a poor outcome 5-8 years after the diagnosis of patellofemoral pain: a multicentre observational analysis. Br J Sports Med. 2016;50(14):881-886. doi: 10.1136/bjsports-2015-094664.
5. Rathleff MS, Rathleff CR, Olesen JL, Rasmussen S, Roos EM. Is knee pain during adolescence a self-limiting condition? Prognosis of patellofemoral pain and other types of knee pain. Am J Sports Med. 2016;44(5):1165-1171. doi: 10.1177/0363546515622456.
6. Matthews M, Rathleff MS, Claus A, McPoil T, Nee R, Crossley K, Vicenzino B. Can we predict the outcome for people with patellofemoral pain? A systematic review on prognostic factors and treatment effect modifiers. Br J Sports Med. 2017;51(23):1650-1660. doi: 10.1136/bjsports-2016-096545.
7. Rathleff CR, Olesen JL, Roos EM, Rasmussen S, Rathleff MS. Half of 12-15-year-olds with knee pain still have pain after one year. Dan Med J. 2013;60(11):A4725.
8. Stathopulu E, Baildam E. Anterior knee pain: a long-term follow-up. Rheumatology (Oxford). 2003;42(2):380-382. doi: 10.1093/rheumatology/keg093.
9. Arendt-Nielsen L, Morlion B, Perrot S, et al. Assessment and manifestation of central sensitisation across different chronic pain conditions. Eur J Pain. 2018;22(2):216-241. doi: 10.1002/ejp.1140.
10. International Association for the Study of Pain. IASP Terminology website. Updated December 14, 2017. Accessed January 27, 2021. https://www.iasp-pain.org/terminology.
11. Woolf CJ. Central sensitization: implications for the diagnosis and treatment of pain. Pain. 2011;152(3 Suppl):S2-S15. doi: 10.1016/j.pain.2010.09.030.
12. Desbordes G, Gard T, Hoge EA, et al. Moving beyond mindfulness: defining equanimity as an outcome measure in meditation and contemplative research. Mindfulness. 2015;6(2):356-372. doi: 10.1007/s12671-013-0269-8.