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小脳に関する論文まとめ・おまけ: 小脳と感情。

生きていると感情って合理的じゃないなぁ、という場面にも多々出くわしますが、そもそも感情とは我々の生存率を高めるものなんでしょうか、それとも低めるものなんでしょうか?例えば生きていく上で何が怪しい、嫌な予感がする、近づかないでおこう、という感情に耳を傾けて生存率が高まることもあれば、単純な欲求に駆られてリスクの高い行動を取り、結果死ぬこともあるんじゃないかと思うんです。もし前者が「真実」ならば生き残ってきた我々は合理主義の感情に流されず、論理だてて物事を考えるヒトたち、ということになるし、後者が当てはまれば感情的なニンゲンばかりが生き残った社会になる。まぁ、どちらもそれはそれでしんどそうな世の中ですが…。

さて、小脳がいかに正常な運動機能に重要な役割を果たしているかはもう200年以上も前から論じられてきましたが、今回お話したいもうひとつの小脳が持つと言われている機能に「感情」があります。様々な論文をまとめながら要点をさらっていきたいと思います。
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解剖学的に小脳は片葉小節葉(flocculonodular lobe)、虫部(vermis)と外側小脳半球(lateral cerebellar hemispheres)に分けることができ、片葉小節葉はバランスと平衡感覚に、外側小脳半球はモータープランニングとその実行にチカラを発揮すると言われているが、中でも小脳虫部はcoordinationと感情のつながりが研究によって示唆されており、Limbic Cerebellumという異名も持つ。1 小脳の特定部位に損傷が見られる場合、感情的引きこもり(emotional withdrawal)や感情コントロールの不具合、またそれに伴う行動異常が見られることが報告されているのである。1

●恐怖
恐怖(fear)とは生物にとって強烈な意味と力を持つ感情である。恐怖とそれに結びついた刺激を記憶することで生存率を高めてきたからだ。1 生物は恐怖という感情が沸き上がったとき、自律神経システム(i.e. 血圧や心拍の変化、瞳孔の拡張)と内分泌システム(i.e. 発汗)、そして行動(i.e. 震え、驚愕反射など)を用い、その全身を使って反応を示す。小脳はどうやらそのfear-conditioning(恐怖条件付け、これが怖いと以前は恐怖対象に感じなかったものを恐怖を覚えるべき対象であると再認識すること)に関わっているようなのである。特定の刺激(i.e. 音を聞かせる)を与えた後に電気刺激で痛みを与える、というfear-conditioningを繰り返した際、健常者は音を聞いただけで心拍の変化が見られたり、驚愕反射を見せたりしたが、小脳を損傷した患者はこれら変化が見られなかった。2,3

●情動処理(emotional processing)
より感情的な記憶を思い起こそうとすると小脳虫部の活性が起こることも報告されており、4 脳が感情をどう処理するかも小脳無くしては語れないようである。fMRIを使った研究等では被験者自身が痛みを感じると小脳虫前部が、痛みを思い出させるような刺激を見たり、他人が痛みを受けてる場面を目にすると(=痛みに共感を覚える)と小脳虫後部が一定のパターンで活性することが分かってきた。5-7 様々な感情を引き起こす刺激を与え、それに伴う脳活性を検証した実験では、「嫌悪感」を感じたときには小脳虫部と半球が、「幸福感」を感じたときには半球後部が活性したという結果も出ており、8,9 小脳の感情の特異性(the concept of regional localization of emotional processing within the cerebellum; emotion specificity; 特定部位が特定の感情に対して反応する)が存在する可能性も示唆している。

●他人の表情から感情を読み取る
ヒトは他人の表情からその意図を汲み取るものであり、これは小脳に損傷がある患者が思うようにできなくなることでもある。実際、ヒトが他人の表情を読んでいる時は小脳、皮質下領域、大脳辺縁領域、側頭頭頂野、前前頭野に視覚領域と様々な脳の部位の活性を必要とする。ちなみにこれには感情の特異性はなく、「他人の感情を読む」ことに関しては喜んでいる、怒っているなどに特異した脳の部位は存在しないようだ、という説もあれば、いやこの部位が感知する感情は喜びだ、恐怖だ、怒りだ云々と専門家の中でも意見が分かれるところである。1

●感情に関わる疾患患者など
精神分裂症の患者は小脳半球のサイズは健常者と変わらないが小脳虫部は委縮している、という報告や(これは確立されたものではないが)、これを逆手にとって精神病患者の小脳虫部を電極で刺激することで治療が行えないかを検証した研究なども存在する。10-12 同様に、鬱を患う患者にも小脳の委縮が見られたり、小脳の退化を伴う脊髄小脳失調症や多系統萎縮症の患者は精神経疾患を発症する可能性が2倍になるなど13 小脳と精神疾患の繋がりを説く研究は少なくない。
*小脳以上と自閉症についての記載も多くの論文に含まれていたが、これは以前触れたので割愛。

●意識的、無意識的な感情処理
小脳の情動処理を意識的(conscious processing; explicit)と無意識的(unconscious processing; implicit)に分ける見方もあり、意識的な処理にはfear-conditioningや相手の感情から表情を意図的に読む行為、自分が感じている感情の認知があり、無意識的な処理には自律神経反応の調整、自動的な感情学習や無意識に起こる表情の読み取りなどがある(Table 1参照)。無意識の処理は小脳虫部が、意識的な、higher-orderの処理は小脳半球で行われているのでは、という報告もあるそうだ。14
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Clausi et al., 201714より、Table 1

感情処理はBottom-upでもTop-downでも両方起こる、という文章が印象的。Clausi et al14は“sequence detection model”という説を推奨しており、小脳は運動、認知、感情に関わらず、繰り返し起こるイベントに対して法則性を見出し、解釈を内から作り出し、それに基づいて「次に何が起こるか」を予測する(*…もっと言うと、その「予測」が正解だったかどうかを見極め、次回の「予測」を修整するところまで関わっているんじゃないかと個人的には思いますが)ことが仕事なのではないか、と述べており、常に変化しつつある環境に行動・認知・感情の観点からチューニングを行ってくれているのではと締めくくっている。

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Cerebellumというジャーナルに掲載された合意声明(↑)15 では、まだこれからも様々な実験が行われなければいけないとしながらも、

- 小脳は様々な感情の処理に関わるが、特にネガティブな感情処理に関わりがあること(これは相手が怒っている場合、それを察知して守りに入る準備をしなければいけないなど、生存に直接影響を与えたと推測される)
- 最近の研究では小脳に損傷があっても恐怖から正しい結果を推測し、恐怖を避ける選択ができることが判明している一方で、自身の中にあるネガティブな感情を推し量る能力が低下していることが分かってきた。つまり、情動処理能力(emotional processing)は言われていたよりできるのかもしれないが、感情知覚能力(emotional perception)は大きな影響を受けているのでは、という説がある
- 言語で真意を伝える際、Emotional prosody(感情的韻律、発話のリズム、強弱、抑揚やピッチの変化)は非常に重要な役割を持つが、小脳に損傷を負った患者の発生はゆっくりになり、モノトーン、途切れ途切れや、ぼそぼそと聞き取りづらかったりなど、韻律に問題が出ることが多いと言う。話し相手の発するProsodyの読み取りには右小脳の後部の活性が必要とされるので、小脳障害はProsody production(韻律作成)のみでなく、Prosody recognition(韻律認知)にも問題が出るようである
- 小脳虫部は感情記憶(emotional memories)の全てのフェーズ…記憶獲得(acquisition)、整理(consolidation)、保管と取り出し(storage/retrieval)、消去(extinction)…に一役買っている
- 社会的環境の中で他人をどう理解し、どう関わっていくか、という能力「social cognition(社会認知)」…詳しくはMentalizing(他者の心理を行動から想像や理解する能力)やMirroring(相手の言動や仕草などを鏡のように真似、親近感や好感を抱かせる)にも小脳が関わっており、道徳心(morality)やそれに関わる決断を下す際にも活性するなど、小脳の機能は実に多岐にわたる

…など、これまた興味深いことが色々と書いてありました。小脳と感情の世界は、奥が深いっす…。

1. Snow WM, Stoesz BM, Anderson JE. The cerebellum in emotional processing: evidence from human and non-human animals. AIMS Neuroscience. 2014;1(1):96-119. doi: 10.3934/Neuroscience.2014.1.96.
2. Maschke M, Schugens M, Kindsvater K, et al. Fear conditioned changes of heart rate in patients with medial cerebellar lesions. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2002;72(1):116-118.
3. Maschke M, Drepper J, Kindsvater K, Kolb FP, Diener HC, Timmann D. Fear conditioned potentiation of the acoustic blink reflex in patients with cerebellar lesions. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2000;68(3):358-364.
4. Damasio AR, Grabowski TJ, Bechara A, et al. Subcortical and cortical brain activity during the feeling of self-generated emotions. Nat Neurosci. 2000;3(10):1049-1056.
5. Ploghaus A, Tracey I, Clare S, Gati JS, Rawlins JN, Matthews PM. Learning about pain: The neural substrate of the prediction error for aversive events. Proc Natl Acad Sci USA. 2000;97(16):9281-9286.
6. Ploghaus A, Tracey I, Gati JS, et al. Dissociating pain from its anticipation in the human brain. Science. 1999;284(5422):1979-1981.
7. Singer T, Seymour B, O'Doherty J, Kaube H, Dolan RJ, Frith CD. Empathy for pain involves the affective but not sensory components of pain. Science. 2004;303(5661):1157-1162.
8. Baumann O, Mattingley JB. Functional topography of primary emotion processing in the human cerebellum. Neuroimage. 2012;61(4):805-811.
9. Schienle A, Scharmuller W. (2013) Cerebellar activity and connectivity during the experience of disgust and happiness. Neuroscience. 2013;246:375-381.
10. Aylward EH, Reiss A, Barta PE, et al. Magnetic resonance imaging measurement of posterior fossa structures in schizophrenia. Am J Psychiatry. 1994;151(10):1448-1452.
11. Heath RG. Modulation of emotion with a brain pacemaker. Treatment for intractable psychiatric illness. J Nerv Ment Dis. 1977;165(5):300-317.
12. Demirtas-Tatlidede A, Freitas C, Cromer JR, et al. Safety and proof of principle study of cerebellar vermal theta burst stimulation in refractory schizophrenia. Schizophr Res. 2010;124(1-3):91-100.
13. Leroi I, O'Hearn E, Marsh L, Lyketsos CG, et al. Psychopathology in patients with degenerative cerebellar diseases: A comparison to huntington's disease. Am J Psychiatry. 2002;159(8):1306-1314.
14. Clausi S, Iacobacci C, Lupo M, Olivito G, Molinari M, Leggio M. The role of the cerebellum in unconscious and conscious processing of emotions: a review. Applied Sci. 2017;7(5):1-16.
15. Adamaszek M, D'Agata F, Ferrucci R, et al. Consensus paper: cerebellum and emotion. Cerebellum. 2017;16(2):552-576. doi: 10.1007/s12311-016-0815-8.

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  by supersy | 2018-08-27 22:00 | Athletic Training

小脳に関する論文まとめ3: 小脳回路とその機能不全によって起こる運動障害の種類。

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4. Choi, 20161
この論文では小脳回路(cerebellar circuit or circuitry↓)とその機能が阻害されたときに起こる運動障害について主に話されています。つまり小脳には電気信号が行きっぱなしではなく、行って帰ってきてそのループを閉じるような、ongoing communicationシステム(お互いがお互いの状況をチェックし合うようなシステム)があるということですね。フィードとフィードバックと、そのフィードバックを受けてのリアクション・反応が作れる神経構成をしているというわけです。
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脳血管疾患や脳卒中が起こると副次的に運動障害が起こることがある。この脳部位がやられると運動障害が起こる、という局所的な定義が明確にあるわけではないが、大脳基底核(basal ganglion、大脳皮質と視床、脳幹を結びつけている神経核の集まり、↓写真)とその回路周りが損傷を起こすと特にその発生頻度は高くなる。しかし、小脳回路も忘れてはいけない運動機能を支配・調整している重要な脳の部位であり、ここで起こる脳卒中も同様に運動機能障害を引き起こす。実際に小脳損傷で起こる運動機能障害には、
- 運動失調症(ataxia)や共同運動失調症(asynergia)などのcoordinationの損失
- 物事との距離を見誤る測定障害(dysmetria)
- 意図振戦(intention tremor)、作動振顫(action tremor)、ホームズ振戦(Holme's tremor)、口蓋振戦(palatal tremor)、羽ばたき振戦(asterixis)、ジストニア(dystonia)
…などがある。ごく稀に常同症(stereotypy, 反復的・儀式的な行動、姿勢、発声など)も見られる。
*脳卒中に起因する運動障害は決して頻繁に見られるものではない(脳卒中全体の1~3.7%)が、中でも小脳内での脳卒中によって起こるそれは特に症例が少ない(0.1~0.3%)。
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●運動回路
先ほど脳の運動機能の代表的な平行経路(parallel pathways)に大脳基底核回路小脳回路があると言及したが、大脳基底核回路は主に学習され自動化された行動と、意図的な動作を可能にするためにバックグラウンドで機能しているべき姿勢制御や支持を担当している一方、小脳回路は協調性のある動作(coordination)、運動中のエラー修正を担当している。故に、小脳回路の損傷はcoordinationの損失、筋収縮のタイミングエラーに繋がるわけである。

小脳の神経ネットワークは複雑だが、重要な回路はふたつ存在する。cortico-cerebellar-cortical circuit (皮質-小脳-皮質回路: ↓図のが求心性のcortico-ponto-cerebellar tract; 図のが遠心性のdentato-rubro-thalamo-corcical tract)とmodulatory dentato-rubro-olivary circuit(歯状赤核オリーブ回路Guillain-Mollaret triangle又はGMT/ギラン・モラレの三角とも呼ばれる: ↓図のが求心性、が遠心性)である。このギラン・モラレの三角は小脳と脳幹をフィードバックループで繋ぐ、脊髄の運動機能をコントロールしている。
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運動障害の多くはこの回路のどこか一点に損傷が生じた、というより回路の伝達性・機能的接続性に問題がある場合に起こる。運動障害の症状が出てくるのは脳卒中後早くて当日、遅いものは数年かかることがあるが、これは障害のタイプによる。一般的に…
 急性(acute): 小脳性振戦(cerebellar tremor), 羽ばたき振戦(asterixis)
 遅延性(delayed): ホームズ振戦(Holme's tremor; 数週間から数か月), 口蓋振戦(palatal tremor; 2-49ヵ月)、ジストニア(dystonia; 1-5日)
…などの分類ができるが、それぞれの障害にも広い発症幅があり、個人差も大きい。脳の損傷が起こってから症状が出始めるまでは、損傷が起きた年齢が早ければ早いほど遅いという傾向があり、これは脳代謝と脳の可塑性によるものかもしれない。特に遅延性のあるものに関しては、画像研究などで下オリーブ核がじわじわと肥大・退化などが可塑的変化と共に起こることなどが分かっているが、真の病理生理学的原理はまだ解明され切れていない。

●障害の臨床的特徴
頻繁に起こる運動異常
- 小脳流出振戦/Cerebellar outflow tremor
小脳振戦で多いものが動作時振戦(action tremor)で、安静時振戦(rest tremor)は稀。中でも多いのが意図振戦(intention tremor)で、症状が出る部位は腕か足、周波数は<5Hzのものがほとんどである。振戦の多くが片側性(unilateral)で、体節的もしくは多焦点(segmental or multifocal)で局所的でも全身性でもなく(rather than focal or generalized)、GMTに問題があることが多い。

- ホームズ振戦/Holme's tremor
脳卒中や脳幹の障害で発症すると言われる稀な振戦。GMT機能の阻害によって起こる。動作時と安静時の複合症振戦で、片側上肢に現れる。反対側には測定障害(dysmetria)や拮抗運動反復不全(dysdiadochokinesia)が出るのが一般的で、姿勢振戦も付随することが多い。周波数は通常4.5Hzかそれ以下だが、イレギュラーなこともある。

- 口蓋振戦/Palatal tremor
軟口蓋そのものや咽頭・喉頭・顔面や胴体の筋肉がゆっくり(1-3Hz)とリズミカルに動くことによって起こる。Essential(原因不明; 1/4の患者はこれ)とSymptomatic(脳幹や小脳、引いてはGMTへの損傷によって起こる)の2種類に大別することができ、前述のように受傷後1週間から49ヵ月以内に発症するという幅を持つ。

- 羽ばたき振戦/Asterixis
自分の意志とは無関係な運動を起こす不随意運動の一種で、筋収縮を保てないが故に伸ばした腕を羽ばたくように返す(flap)動作を生むのが特徴(↓動画有り)。通常両側で起こり、GMTの機能不全に起因するようである。


- ジストニア/Dystonia
反復性の身体を捩じるようなパターン化された筋収縮により、通常の動作が阻害される運動障害。小脳の脳卒中で起こる場合、症状が出るまで通常1ヵ月から15年かかる。

その他の運動異常
- 常同症/Stereotypy
反復性の目的のない動作が一定の時間内で繰り返される動作異常。精神分裂症や知的障害、自閉症の患者によく見られるが、脳卒中が原因で起こることもある。

- 下肢静止不能症候群・むずむず脚症候群/Restless legs syndrome
下肢に不快感を覚えたりむずむず痒い感覚を覚えるなどする症候群で、小脳の脳卒中では起こらないが、その他の様々な脳部位(大脳基底核、放射冠、脳橋、視床、内包、大脳皮質)での脳卒中に於いて起こる。

こうした運動障害の生理学的背景やよく見られる症状などを把握しておくことは的確な診断と処置のために欠かすことはできない。

1. Choi SM. Movement disorders following cerebrovascular lesions in cerebellar circuits. J Mov Disord. 2016;9(2):80-88. doi: 10.14802/jmd.16004.

この論文とは直接関係がないんですけど、ここらへんの動画は以前リハビリの授業で脳の可塑性を教えるために使っていました。Focal Dystonia患者さんの話です。興味がある方はどうぞ。脳は変えられる。例え機能不全があっても。




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  by supersy | 2018-08-24 23:59 | Athletic Training

小脳に関する論文まとめ2: 小脳の二重隔離性と動作記憶能力。

今回は短めの論文をふたつ。
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2. Allen et al., 19971
こちらは有名なサイエンス誌に掲載された古い小脳に関する記事。冒頭に小脳は脳内で最も神経学的に忙しい交差点である("one of the busiest intersections in the human brain")と表現しており、なるほどええ表現やー、と唸りたくなります。
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小脳は動作をcoordinateすることが主だたる機能である、ということはよく知られているが、それ以外の非動作的機能、例えば1) 感覚識別(sensory discrimination), 2) 注意(attention), 3) 作業記憶・作動記憶(短い時間に心の中で情報を保持し,同時に処理する能力のこと、working memory), 4) 意味的連想(semantic association), 5) 言語学習と記憶(verbal learning and memory), 6) 複雑な問題解決能力(complex problem solving)にもその力を発揮しているのではないか、という説が議論を呼んでいる。…とはいえ、これらのタスクが動作レスポンスのプランニングを要することも事実なので、結局小脳が関わっているのはそのタスク完遂における「動作」要素なのか、「非動作」要素なのかで専門家でも意見が分かれるところだ。

なので、今の段階で行われるべき研究は1) 動作を全く必要としない認知タスクを課し、それでも小脳の活性が見られるか?; 2) もし小脳が認知能力に関わっているとしたら、その機能は動作制御と全く同じ箇所に位置するのか、それとも小脳内の別部位にあるのか?という2つの疑問を解決するようなものでなくてはならない。

これを検証するため、私たちはfMRIと6人の健康な被験者(全員右利き)を用いて1) 動作要素のない認知タスク(visual attention task、色と形の異なる物体を見て、ターゲットとなる視覚刺激…例えば赤の四角などが何回出てきたか数える)、2) 認知要素のない動作タスク(自分のペースで右手を一定のパターンで動かす)、3) 認知+動作タスク(特定の視覚刺激を見たら右手を動かす)を行わせ、被験者の脳活性を画像化するという実験を試みた。すると、面白いことに同じ小脳内でも認知タスクを行う際に活性される場所(↓Attention region of interest, ROI)と動作タスクを行う際に活性される箇所(↓Motor ROI)は異なることが見えてきたのである。この小脳の「認知」部位は、「動作」部位の活性とは独立して活動するようである。
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もう少し詳しく分析してみると、動作タスク時にはほんの一瞬「認知」部位の活性が起こっていることから(↓赤矢印)、仮にシンプルな動作タスクでもその開始(initiation)時には少しばかり「attention = 注意」を払う必要があることを示している(が、タスクを続けるにはこの「注意」は必要ない)。逆に認知タスクの際はというと、「運動」部位の活性は全く見られなかった。
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これらの結果によって見えてくるものに、小脳活性の機能的独立性がある。「運動」による活性は「認知」を必要とするが、「認知」のみの活性は「運動」がなくても行える。これはこの二つの部位の二重乖離性(double dissociation)を反映しており、小脳が一つの仕事をするだけの部位ではないことも示している。感覚、認知、注意…我々が思っていたより、小脳とはもっと複雑な造りをしており、新たな物事を学習したり、スムーズな動作を達成するときにカギとなる役目を果たすようである。

*2018年現在、脳の「可塑性」についてもよく知られるようになった今、「二重乖離」はどれだけ独立したものなのか新たな興味はでてきますが、それでも言わんとしていることは分かります。
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3. Wickelgren, 19982
こちらもサイエンス誌掲載の、興味深い記事。…とはいえ、先ほどと違いあんまりpeer-reviewedっぽくありませんが。(現在有効な形式の)文献引用もなく、「イチ専門家の意見」色が強いです。まとめます。

1990年以前は小脳が単関節にもたらす単独の動作(i.e. 肘の屈曲など)の研究ばかりが盛んであったが、技術の進歩もあり、多関節で起こるcoordinationという機能が近年推し量れるようになってきた。小脳は、複雑な動きの中で肢にかかる複数のチカラを予測し、目的を成し遂げるために出力をアジャストするという大事な役割を果たしていることが分かってきたのである。

小脳のカギとなる機能は、筋発火のタイミング出力微調整。具体的な研究例としては、初期に人間やサルを対象にした実験で、小脳に損傷があると単関節動作反応が0.025秒遅れること、出力の調整が下手になることなどの結果が報告されていた。0.025秒なんで僅かな出力エラーだと思えるかもしれないが、この微妙な発火タイミング・出力のズレが歩行のような多関節に及ぶ複雑な動作(i.e. 歩行や投球など)をする上でより大きな影響を及ぼすことは想像にたやすい。他にも興味深い実験に、健康な被験者 vs 小脳に損傷がある被験者に、目の前に吊るされたボールに手を伸ばしてもらい、その際にかかった各関節へのチカラを分析する、というものがあったのだが、1) 健康な被験者の手は真っ直ぐボールに伸びたのに対して、小脳に損傷のある被験者の手はボールを通り越し(overshoot)、回るようにボールに戻ってきた。2) 小脳に損傷がある被験者は「interaction torque」と呼ばれるそれぞれの関節がお互いに対して回旋し合って生まれる捻じれ(回旋)ストレスが身体を支配しており、複数の関節が効率よく連動していないことが浮き彫りになった。

よく動作記憶(motor memories)という表現が使われるが、これが貯蔵されているのも小脳なのかもしれない。小脳を損傷すると、今までに学習した条件反射(conditioned reflexes)や適応行動(adaptive behaviors)が失われるという報告もある。しかしこれらの記憶は比較的シンプルな動作が対象のようで、例えば絵を描くなどの複雑な動作にはこの「記憶貯蔵」機能は当てはまらない。

小脳はシンプルな動作は記憶し、その記憶を貯蔵する。しかし、複雑な動作スキルに対してはあくまでチューニングを合わせる役目を果たすのであって、それを記憶として留めておくわけではない…というタスクの複雑性に合わせた機能の違いはなかなかに興味深い。

*最後の神経細胞の活動メカニズムの説考察は前に書いたものも含むので割愛。

1. Allen G, Buxton RB, Wong EC, Courchesne E. Attentional activation of the cerebellum independent of motor involvement. Science. 1997;275(5308):1940-1943.
2. Wickelgren I. The cerebellum: the brain's engine of agility. Science. 1998;281(5383):1588-1590.

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  by supersy | 2018-08-22 22:30 | Athletic Training

小脳に関する論文まとめ1: 小脳と前頭前皮質の関り。

白状します。発達学というのがあまり得意ではありません。
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中でも認知発達はともかく、運動発達は本当に苦手で、あまり文献を読んだこともありませんでした。ちょっといい機会なので、複数回にわけて小脳(↑)とそれが運動発達の過程でもたらす影響や果たす役割についての論文を一度にひとつずつ読みまとめてみようと思います。

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1. Diamond, 20001
今まで「運動発達(motor development)」と「認知発達(cognitive development)」は同じ個体内で同時期に起こるにも関わらず独立した現象であると考え、研究されてきた。しかし、これらの現象は我々が思っているよりもinterrelated(互いに関わり合っている)、どころかintertwined(絡み合っている)と表現されるべきなのである。
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認知能力を司ると言われる前頭前皮質(↑写真左、pre-frontal cortex、厳密には"dorsolateral prefrontal cortex"と呼ばれる部位)と運動技術に大きな影響を及ぼす小脳(↑写真右、cerebellum、厳密には"neocerebellum"と呼ばれる部位)は、どちらも霊長類の進化と共に拡張してきており、中でも小脳は運動のみならず認知に対しての機能も併せ持つ、なんなら前頭前皮質に匹敵すると言っても過言ではないくらい認知機能には欠かせない重要部位である。

●前頭前皮質と小脳の関係性
このふたつの脳部位の認知タスク処理における活性度は連動しており、例えば「名詞を見て、それに呼応する動詞を言う(i.e. 「映画」→「見る」)という"verb generation task"の研究2 や「一分間で思いつく限りの単語を言う」"verbal fluency task"の研究、3受け取ったカードを色や形、名前別に分類していく"Wisconsin Card Sorting Test"を研究したもの4,5 などでもこの現象が画像から確認されている。どうやら認知タスクが複雑で新しく、予期できない、変化を伴う、(もたもたではなく)素早い反応を必要とする場合にこれらの部位は特に活性されるようなのである。

損傷による不活性の場合にもこの相関性が確認できる。前頭前皮質に何らかの損傷を負った場合、逆側の小脳にも代謝低下(hypometabolism)が確認できるし、この逆も然り、なのである。小脳に損書を負った患者が前述したような"verb generation task," "verbal fluency task,"や"Wisconsin card sorting"に加え、その他のプランニングや記憶に関わるタスクが達成できなくなることも多々報告されている。
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●小脳
ニンゲンの小脳に含まれる神経細胞(neuron)の数は非常に多く、(小脳以外の)残りの神経系全てのそれを合わせても足りないほどである。小脳皮質(cerebellar cortex)は顆粒細胞(granule cell)とプルキンエ細胞(Purkinje cell)、登上線維(climbing fiber)と平行線維(parallel fiber)から成り、これ以上ないほど絶妙な格子状の、正確で規律がある構造をしている(↑)。

動作学習(motor learning)において、小脳は早期ステージやタスクに変更があって「書き換え」が必要な際にその機能を発揮し、たんだんタスクに慣れて「自動モード」に切り替わってくると共にその活動は低下してくる。この活動パターンは認知学習でも同様で、つまるところ本人がより「集中しなきゃ」と思う環境で小脳の活性が起こるのである。逆に言えば、小脳無しでのタスクは(運動でも認知でも)より努力を要し、ゆっくりなものとなり、不正確で安定しない(variable)。自閉症やADHD、失読症(dyslexia)、特定の言語障害などは個人差はあるものの運動障害を持っていることが多いとも報告されている。ちなみに損傷や発達障害などで小脳の大きさが通常よりも小さい子供は、その前頭前皮質も小さかったりとサイズ的相関性があるようである。

脳の機能・構造から考察するに、これは小脳に「エラーを感知する能力」及び「エラーから学ぶ能力」があるからだという仮説がある。小脳を損傷した患者はタスクを行う際に明らかなエラーを犯し、練習を重ねてもそのタスクが上手になっていかないことが確認されているからだ。他にも「小脳はタスクを行う際のレスポンス要素を組み合わせ、より大きな単位のグルーピングを行うことで、文脈に沿ったレスポンスがスムーズに出るようにしている」という説を唱える学者もいれば、「小脳は脳の他の部位の機能を引き出す中間管理職的な役目を果たすのでは」という研究者もいる。ここのところの実証はもっと多くの研究を要り様とすることだろう。

●前頭前皮質
前頭前皮質も我々が「Distractionに気を取られず、やるべきタスクに集中を保てるか」「ついやりたくなってしまうことよりやるべきことを優先できるか」「すぐ飛びつきたいところをこらえていかに絶妙なタイミングでタスクを実行できるか」…という高等な運動スキルを発揮するために欠かせない認知タスクも処理してくれていると考えれば、運動に大いに貢献している功労者と呼ばれても不思議はない。適切な動きを計画、準備、導いてくれる重要な立役者だ。
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●尾状核
最後に、尾状核(caudate nucleus)についても少しばかり言及しておきたい。尾状核はCの字の形をした側脳室(lateral ventricle)と並行して位置する脳の部位(↑)で、「正しい動きを遂行するのにどの筋肉をどのくらいのチカラで活性すればいいか」など動きを司る大脳基底核(basal ganglia)の一部である。パーキンソン病や失動症(akinesia)、緊張亢進症(hypertonia)の患者は総じて大脳基底核のドーパミンが足りないと言われているし、尾状核の細胞体が失われると運動過剰症(hyperkinesia)や筋緊張低下症(hypotonia)を引き起こすなるようである。

尾状核は運動のみならず前頭前皮質と共に脳神経回路を構成しており、認知タスクのアウトプット役も担っている。パーキンソン病患者に起こる尾状核の損傷は(全てではないが)よく前頭前皮質損傷時に見られるような認知障害を引き起こす発端となることからも、その関りの強さが伺える。ADHDの子供たちは尾状核にも委縮や機能低下が見られるという報告もある。

そういった意味では、尾状核も小脳と前頭前皮質同様、「運動機能と認知機能を繋げる重要な神経システムの一部」なのかも知れない。

1. Diamond A. Close interrelation of motor development and cognitive development and of the cerebellum and prefrontal cortex. Child Dev. 2000;71(1):44-56.
2. Raichle ME, Fiez JA, Videen TO, et al. Practice-related changes in human brain functional anatomy during nonmotor learning. Cereb Cortex. 1994;4(1):8-26.
3. Schlösser R, Hutchinson M, Joseffer S, et al. Functional magnetic resonance imaging of human brain activity in a verbal fluency task. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 1998;64(4):492-498.
4. Berman KF, Ostrem JL, Randolph C, et al. Physiological activation of a cortical network during performance of the Wisconsin Card Sorting Test: a positron emission tomography study. Neuropsychologia. 1995;33(8):1027-1046.
5. Nagahama Y, Fukuyama H, Yamauchi H, et al. Cerebral activation during performance of a card sorting test. Brain. 1996;119(5):1667-1675.

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  by supersy | 2018-08-21 23:59 | Athletic Training

PRIに関する最新研究論文のまとめ。その2。

なぜ風船を使ってエクササイズをするのか?(2016-02-18)
PRIに関する最新研究論文のまとめ。(2018-03-02)

以前PRI関連の文献を4つ(全部インド研究者によるマイナー・ジャーナルのもの)をまとめましたが(2018年3月2日付↑)、今回新たにまた別のジャーナルでPRI関連の研究が発表された1と耳にしたのでレビューしておきます。何故かこれもインドの研究者によるもので、PRI本部も「なぜインドがアツいんだ??」と困惑しているようです(以前にも書きましたが、これらの研究者さんがPRI講習を受講したという記録が一切見つからないのです。どこでどう知ったのか…)。
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なんか…前回からの偏見かもしれませんがまず見た目が怪しいですね、第3著者の名前に「Prof.」って入ってますけど、普通そんなの入れませんもん。Global Journal for Research Analysisというジャーナル、見たことも聞いたことが無かったのでこれもついでに調べてみました。Impact Factor(IF)が5.156って該当ウェブサイトには書いてあるんですけど…(これが真実であればトップ6.5%に入る超優良ジャーナルということになりますが。記事左上にはIF 4.547と異なる数字が書いてあり、どれが最新なのか…)、うーん、とてもホントウとは思えません。インターネットでその評判を調べてみたら、最近増えてきているPredatory Journal(お金さえ払えば論文掲載させてくれる、学術的価値はほぼ無いとされる「エセ学術誌」)の類だと言われているようで、なんというか…納得です。正直、前回紹介したジャーナル4つ全てもPredatoryだと思います。

…で、肝心の記事なんですが、2ページしかありません。マトモな研究が2ページにまとめられるはずもないのでこれまた嫌な予感しかありません。

イントロ部分からして突っ込みどころがいっぱいです。「腰痛(LBP)はこういう風に定義されています」や「腰痛は発症率が異様に高い、世界的に深刻な問題なんです、そしてインドも例外ではありません…」という導入を書こうとしている狙いは分かりますし、その内容は間違っていないと思うのですが、例えば「WHOによって成人の84%は生涯のうち一度は腰痛を経験していると報告されている」という誰もが目にしたことのあるあの文句を引用なしで書いていたりとか、「インドでも腰痛発症率は23.09%と報告されている」という個所は(ここは唯一引用があり、それは評価しなければなりませんが)その数字が世界的なものと比べて圧倒的に低かったりとか(84% vs 23%? その程度ならインドはうまいこと腰痛をmanageできてるってことになりませんか?)…もし私の学生がこういうイントロを書いてきたら、「not a bad intention, need to cite more sources(意図は悪くないけど、文献引用が足りないから説得力に欠ける)」と批評されること間違いなしです。

腰痛におけるハムストリングと腹壁の活性の重要性についての論理的背景はこれ(↓)しか書かれていません。
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一文一文が無駄に長く、一般的に「論文を書く際に使うべき好まれる英語」ではありません。繰り返しも多く、分かりづらい構成です。最初の文に限っては文章が終わっておらず(ピリオドがない…)、ふわふわと浮いた状態になっています。私が書き換えるなら、

The Postural Restoration Institute has proposed the holistic approach to patients with LBP: Their principles emphasize the importance of 1) the restoration of the proper diaphragmatic mechanics and 2) hamstring and abdominal muscles activation as a mean of regulating polyarticular chains of muscles and thus altering Ober's test results. Recent case reports1-3 and a RCT4 support this point of view and have reported that exercises with such emphasis can decrease immediately pain and increase passive hip abduction ROM.

1. Robey JH, Boyle K. The role of prism glass and postural restoration in managing a collegiate baseball player with bilateral sacroiliac joint dysfunction: a case report. Int J Sports Phys Ther. 2013;8(5):716-728.
2. Tenney HR, Boyle KL, Debord A. Influence of hamstring and abdominal muscle activation on a positive ober's test in people with lumbopelvic pain. Physiother Can. 2013;65(1):4-11. doi: 10.3138/ptc.2011-33.
3. Fernandes J, Chougule A. Effects of hemibridge with ball and balloon exercise on forced expiatory volume and pain in patients with chronic low back pain: an experimental study. Int J Med Res Health. 2017;6(8):47-52.
4. Kage V, Naidu SK. Effect of iliotibial band stretching versus hamstrings and abdominal muscle activation on a positive ober’s test in subjects with lumbopelvic pain: a randomized clinical trial. IJTRR. 2015;4(4):111-116. doi:10.5455/ijtrr.00000075.

…という感じでしょうか。それにしたって一文目にまだ引用が必要だと思うけど。
まぁ文章の構成とか引用とか理論の立て方とか指摘しているとキリがないので、この研究のキモの話に移ります。

腰痛持ちでOber's Test陽性の30人の被験者(性別、年齢不明)をランダムにグループAかBに分類し、グループAはヒートパックとITバンドのストレッチ(側臥位で、1分間ホールドx3回)を、グループBはヒートパックとPRIエクササイズ(90-90 Hip Lift with Balloonと90-90 Hemibridge with Balloon)を、合計6セッション行って前後のテスト結果を比較したそうです。一週間に何セッションやったかは明記されていませんので、例えば一週間あたり3セッションで2週間かけてこれらのInterventionを行ったのか、はたまた一日に6セッション詰め込んで一気にデータコレクションを終わらせたのか(まぁこれはないとは思いますが、記述がない以上否定はできないので)は不明です。計測されたアウトカムはVAS、Oswestry Disability Index (ODI)、スマホを使ったInclinometer (Ober's Test時の股関節内転角度)とPelvic Inclinometer(骨盤の前傾度、しかしどのようなポジションで何をlandmarkに計測されたのか記述無し)だったそうで。
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結果はこちら(↑)です。ベースラインで腰痛が60mm程度ならば、VASのMCIDは19mmで、2 ODIのMCIDは12.8-12.9のはず3,4 ですから、「両グループとも等しく、統計学的にも臨床的にも有意な痛み(VAS 30-34mm)と機能(ODI 18-19)の向上が認められた」「両グループとも等しく股関節の内転度(約4°)は向上したが、骨盤の前傾度はグループBのみ改善(0.087°)が見られた…とはいえ、臨床的意味があるような角度とは考えにくい」と私ならば結論づけたくなるのですが…著者は「ストレッチも効果的だったが、PRIエクササイズのほうがより統計学的に大きな効果が見られた」「臨床的に、ストレッチの効果は短期で消失したのに比べ、PRIエクササイズは痛み・股関節可動域・骨盤傾度・機能においてよりその効果がより長持ちした」「つまり、総合的にOber's Test陽性の腰痛患者にはITバンドのストレッチよりPRIエクササイズのほうが有効」と結論づけています。個人的には、以下の理由で同意しかねます
- 「統計学的に」というならどういった統計的分析に基づいて「PRIエクササイズのほうが優れている」と断定できたのか?各グループ内のpre-とpost-interventionの比較こそあれ、グループ間の改善幅を直接比較したような統計的分析は一切見られないが?
- 文中にはセッション1を始める前とセッション6の終わりに(合計2回)アウトカムを計測、とあるが、それ以外のタイミングでもアウトカムを計測したならそのタイムラインはどのようなものだったのか?それらのデータを開示せずに「長持ちしました」というのはあまりに乱暴では?

むしろ、私はこの結果を見て、「意外とITバンドのストレッチも効果的じゃん」「いや、つーかヒートパックがストレッチ・PRIエクササイズの効果を凌駕するほどめちゃめちゃ有能なのでは?」という感想を抱くのですけれど…。

他にも、突っ込みどころとして、
- Inclusion/Exclusion Criteriaに基づき被験者を選んだ…と書いてありますが、その基準に関しての記述が一切ない
- スペーシングエラーが異様に多い
- 大文字・小文字の表記に一貫性がない
- 論文の最後に全部で5つの文献が列挙されているが、実際に文中で使われているのは1~3のみ。1と2は[1] 、[2]という風にカッコ表記なのに対して3はそのまま3と書かれているなど、こちらも一貫性がない
- スマートフォンをInclinometerとして使う妥当性の正当化が十分にされていない
- PRIエクササイズは90-90 Hip Liftと90-90 Hemibridgeをしたとあるが、これはどの被験者も両方を行ったのか?多分先行研究に則ってOber's 片側陽性患者がHemibridge、両側陽性患者がHip Liftをやったのだろうが、そうであればきちんと明記するべき
…などの「欠陥」が挙げられます。

うーん、改めて、これが私の学生(学部生)の提出する論文ならば、「よく頑張ったね、方向性と努力は悪くないから『AA』、でも論理的構成と統計的分析はまだまだだから『C+』だよ」と優しく成績をつけるんですけれど。仮にもジャーナルに掲載されている論文なのですから、その質は厳しく『F』レベルだと私は判断します。特に臨床家さんが読む価値も、考慮する価値もないでしょう。最近蔓延しつつあるPredatory Journalには気を付けなければいけない、Abstract(抄録)だけ読んでその論文を分かった気になってはいけないなと、改めて考えさせられます…。

1. Basu S, Kakade PP, Palekar TJ, Chitgopkar V. Influence of abdominal and hamstring muscle activation exercises over iliotibial band stretching on a positive ober's test in subjects with low back pain. Glob J Res Anal. 2017;6(15):704-705.
2. Katz NP, Paillard FC, Ekman E. Determining the clinical importance of treatment benefits for interventions for painful orthopedic conditions. J Orthop Surg Res. 2015;10:24. doi: 10.1186/s13018-014-0144-x.
3. Copay AG, Glassman SD, Subach BR, Berven S, Schuler TC, Carreon LY. Minimum clinically important difference in lumbar spine surgery patients: a choice of methods using the oswestry disability index, medical outcomes study questionnaire short form 36, and pain scales. Spine J. 2008;8(6):968-974. doi: 10.1016/j.spinee.2007.11.006.
4. Johnsen LG, Hellum C, Nygaard OP, et al. Comparison of the SF6D, the EQ5D, and the oswestry disability index in patients with chronic low back pain and degenerative disc disease. BMC Musculoskelet Disord. 2013;14:148. doi: 10.1186/1471-2474-14-148.

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  by supersy | 2018-08-15 19:30 | PRI

Exercise IS Medicine for Concussion - "脳振盪には運動こそ最良の薬である"

脳震盪には、運動せよ!? (2014-09-18)

脳震盪受傷にすぐ競技中止をしなければいけない理由。(2016-09-02)
「脳震盪受傷後に休息しても意味はない」論を考える。(2016-09-11)
SCAT5と最新脳震盪コンセンサス・ステイトメント: その1。(2017-05-11)
SCAT5と最新脳震盪コンセンサス・ステイトメント: その2。(2017-05-12)

初めて「脳振盪治療に運動はアリなんではないか?」というエビデンスに関する記事をまとめたのが4年前(↑一番上)。脳振盪はこのブログでも最も頻繁に取り上げるトピックのひとつかもしれませんが、中でも「脳振盪は休息一辺倒では回復しきらないケースも多い」「自発的な回復が見込めない、脳振盪患者の30%が発症するというPostconcussion Syndrome (PCS)の徴候が見られた場合には逆に低強度の有酸素運動をするのが良い」という内容はこのブログでも、日本アスレティックトレーニング学会誌や著書・「米国アスレティックトレーニング教育の今 」でも繰り返し言及してきた題材です(↑)。
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んで。
この分野の権威であるDr. Leddyが発表した最新のNarrative Review1 を目にしたので読んでみます!Rationaleとか背景の部分に関しては今までもう散々書いてきているので、今回は私が個人的に書き留めておきたいと思ったところに絞ってまとめますです。

冒頭で面白いと思うのは「(脳振盪にも"Exercise is medicine"と充分に言えるだけのエビデンスが揃ってきたことを指摘して、)しかし実際の薬同様、これらの有酸素運動は個人に合った『処方された容量(dosage)』を守る必要がある」と強調しているところですかね。なるほど、だから"Medicine(薬)"だって言ってるのか!

●有酸素運動と脳振盪
早期の動物実験では、脳振盪を起こしてから最低2週間は休息を取ってからでないと運動の効果は表れないとか、強制的に運動させられたネズミは自主的に運動したネズミに比べて効果が出にくいとか様々な結果が論じられましたが、普段から身体を鍛えている「アスリート」ネズミや「アスリート」人間においては運動の効果が特に大きく出やすいことがここまで分かっているそう。これは知らなかった!普段からトレーニングを積んでいると、脳振盪受傷時にも運動にrespondしやすくなるんですね!

●脳振盪後の運動負荷評価法
The Buffalo Concussion Treadmill Test(BCTT)は"systemicでreliableな評価法である"と文中で述べられています…が、この論文では「(下肢の整形外科的障害や脳振盪後遺症などによるバランス能力の欠如などで)トレッドミルが適切でない患者のために、The Buffalo Concussion Bike Test (BCBT)を作りました」と新たな評価法を提案してもいます。うおおおお、びっくり!でもそうか、言われてみれば要るよね!

このBCBT、一分間に60回転から初めて、2分毎に(患者の体重に基づいて)負荷を上げていき、RPEが17以上になるか症状が悪化するまで続ける、という基本的にはBCTTと同じ流れのようです。これは既にBCTTと同じ精度で閾値が出せることは研究済み(↓)だそうですから、互換性があると言ってよさそうですね。場合によって使い分け可能と(まぁ、もっと研究されてもいい分野ではありますが)。
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●運動処方
このセクションは特に目新しい情報はないんですが…。面白かった一文は「一般的にアスリートは閾値心拍数の回復が早く、1-2週間毎に10拍くらいのペースで改善していくが、非アスリートは1-2週毎に5-10拍くらいのペースでの回復をすることが多い」というところでしょうか。もちろん個人差はあり、このペースはあくまで目安でしかないんですけれども。
加えて、今年発表になったRCT2 で脳振盪急性期(受傷平均4日以内)の中高生(平均15歳, n = 57…つまり脳振盪とその回復に最もvulnerableな患者層と言ってもいいでしょう)にこのプロトコルを使用しても翌日の症状が悪化したり回復が遅れたりすることはなかったそうなので、「トレッドミルからで転んだり落ちるような整形外科的・前庭系に問題がなく、心臓病のリスクが低ければこの運動処方法は安全である」と断言するDr. Leddyの口調も、以前より確信を帯びているように感じます(完全にファン目線ですが)。

●脳振盪の生理学的影響と運動の効果
ここで興味を惹いたのは「Brainstem(脳幹)」という言葉が文中で使われている頻度です。脳幹は皆さんもご存知の通り命を司る(i.e. 呼吸、心拍、食事、睡眠 etc)、脳の中でも最も原始的で重要な部分ですが(他のところが大事じゃないと言っているわけではないんですが、損傷すると致命傷になる確率が最も高いという意味で)、同時に自律神経機能を司るという機能も兼ね備えています。どうやら脳振盪受傷時に回旋力(rotational force)でもって脳幹に微細な損傷が起きているケースがあるんじゃないかと、言い換えればそういう患者がPCSになっているんじゃないかという説が今有力になってきているそうなんです。DTI画像検証でも確認されているんだとか。
んで。自律神経ってのはCerebral Blood Flow (CBF, 脳への血流)などもコントロールしているわけで。さらに面白いのが「脳振盪患者は動脈血炭酸ガス分圧(arterial CO2 tension, PaCO2)に鈍感になっており、運動中にhypoventilate(低換気状態)に陥りやすい」「こうなると動脈血炭酸ガス分圧はますます上昇し、それに比例してCBFも上昇する。結果、脳への血流が異常に増え、頭痛や眩暈などの症状に繋がり、Exercise Toleranceが低下する、と言われてしまうわけだ」という説明で、「閾下運動はこのPaCO2 Sensitivityを上げ(= 敏感にする)、『通常』値に戻す効果があり、結果、運動中の呼吸、CBF、Exercise Tolerance、自律神経機能を通常化する、つまり脳振盪から回復させる効果がある」んだそうです。ふわー、なるほどね、そういう角度での説明ですか!PaCO2 Sensitivityね!勉強になるわー。

●PCSのDDx
脳振盪後に症状が続くのはPCSかも知れないし、他に原因があるかもしれない、その鑑別診断(DDx)は行われるべきである、という文章にはドキリ。今までこういう見方をしたことがなかったし、他の論文でも読んだ記憶がなかったけど、確かに言われてみれば…。Dr. Leddyらは「BCTT/BCBTで症状が悪化することなく最大疲労までたどり着ける患者はPCSではない」「Posttraumatic disordersや頸椎、前庭、視覚障害など何か他に問題がある場合が考えられ、それらの可能性を他の検査を用いて絞っていける」と述べ、本来「評価テスト」であるはずのBCTT/BCBTが「鑑別診断テスト」としても一役買うと論じています。

まとめると、慎重に処方された運動はやはり脳震盪からの回復を早める、ということですね。この薬物でない比較的簡単・手軽に手に入る「薬」は、脳振盪治療と安全な早期回復、PCS予防に新たな次元を足すだろう、とDr. Leddyは述べています。長いこと研究とメッセージを追っているのでもはや尊敬の念が膨れ上がりすぎて、Dr. Leddyの言うことはなんでも信じたくなってしまっているのが私の注意すべき点ですが(苦笑)、これからも彼の功績をしっかりと追い、彼の言葉を批判的に楽しみ、吟味し続けていきたいと思います。とりあえず、このNarrative Reviewは彼の一つのマイルストーンなのではないかと思っています。ありがとうDr. Leddy!

追記: ところでこの論文はフリーフルテキストですよ。興味のある方はこちら(PDF)からどうぞ。

1. Leddy JJ, Haider MN, Ellis M, Willer BS. Exercise is medicine for concussion. Curr Sports Med Rep. 2018;17(8):262-270. doi: 10.1249/JSR.0000000000000505.
2. Leddy JJ, Hinds AL, Miecznikowski J, et al. Safety and prognostic utility of provocative exercise testing in acutely concussed adolescents: a randomized trial. Clin. J. Sport Med. 2018; 28:13Y20. doi: 10.1097/JSM.0000000000000431.

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  by supersy | 2018-08-14 23:59 | Athletic Training

大阪EBP講習定期開催のお知らせ & 月経周期とそれに伴う呼吸の変化。

まずは告知です。

ありがたいことにご依頼を頂いて、来月の9月から大阪でEBP定期講習を行うことになりました。約3ヵ月に1講習のペースで大阪市立青少年センター(KOKOPLAZA、新大阪駅から徒歩5分)にて毎回異なるテーマでの定期開催(全4回、7講習)をする予定です。今のところの構想はこんな感じ。

第一回: 9月16日(日)
13:00ー16:30 ①EBP基礎編: スポーツ傷害評価編
16:45ー17:45 阿部と語ろう *質疑応答形式のワイワイお喋りタイム
受講費:10000円(学生9000円)
フェイスブックのイベントリンクはこちらから
お申し込みはこちらから

<継続受講割システム>
2回目以降も継続して受講される方には、2回目以降で継続受講割が適応になります。受講すればするほどお得!

第二回: 2019年1~2月開催予定
②EBP臨床応用編: 評価 - ACL損傷評価法
③EBP臨床応用編: 評価 - 手首の痛み評価法

第三回: 2019年4〜5月開催予定
④EBP基礎編: 治療介入編
⑤EBP臨床応用編: 治療介入 - 腱障害とリハビリ

第四回: 2019年8〜9月開催予定
⑥EBP基礎編: 予防医学編
⑦EBP臨床応用編: 治療介入 - AMIと抑制解除療法

楽しくエビデンスを使いこなせるようになろう!がテーマのこの講習。本来クローズドの講習であるところ、主催者さんのご厚意でオープンにして頂きました。資格関係なく誰でも参加可能です。初級者もエビデンス苦手な人も、もちろん学生さんも大歓迎!定員は50名で、満席になり次第締め切られます。今回は要望を受けての特別開催で、いつも主催をしてくださる高橋さんを介していない都合でBOC-CEUは一切つきません。ATC有資格者の方、ご注意下さい。



さて。Pelvic Floor/Pelvic Diaphragm (骨盤底・骨盤隔膜)と呼吸の関係なんかについてぽつぽつと文献を読んだりしていたわけですが、はたと面白い論文に出会いました。
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1999年発表の古い論文…というか編集後記に近い文章1 なんですが、「女性は黄体期*に過呼吸に陥る傾向がある」2 「閉経前の女性がObstructive Sleep Apnea(閉塞性睡眠時無呼吸症)になることは極めて稀である(…が、閉経後に発症が急増化する)」3 などのここまで報告されているエビデンスを列挙し、「Pelvic organ prolapse(骨盤臓器脱)が起こっている患者は下腹部周りの組織のコラーゲン代謝と繊維の構造に異常が起こるだけでなく、関節の不安定症など全身にも及ぶ影響を受けていることも分かっている。4 これを考慮すれば、肺組織のコラーゲン繊維も異常をきたしており、故に肺の力学的機能とガス交換能力が低下→低酸素状態になる、という流れもうなずけるし、同様のことが生理周期と共に起こっていても何ら不思議ではない」と自論を述べています。すごいなぁ、のびのびとした自由な発想!(←皮肉ではなく心から褒めています!こういうのが論文に載る時代だったのいうのは、豊かな思考に許容があったということ。今できないのが惜しい!)
*黄体期: 月経周期で排卵から次の生理までの約2週間の期間

んで。
疑問がふつふつと出てきたので私も色々調べてみました。

ニンゲンには動脈内の酸素レベルが下がると呼吸数を上げること(過呼吸をする=hyperventilate)でそれを補おうとするという代償反射(reflex hypoxic drive)があるのですけど、この反射反応は月経周期の黄体期に特に顕著に見られる5,6 と1980年代に10人前後の被験者を用いた実験で確認されており、さらに2013年発表の4000人規模の研究7 でも「月経がはじまる直前(黄体期中期~卵胞期中期くらい)にかけて呼吸障害(喘鳴、息切れや咳など)が引き起こされる頻度が最も高くなる」と報告されています。

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ではこの時期(黄体期)、運動時の呼吸にはどのような影響が出るのか?これも古い(↑1981年発表)研究8 で被験者の数も少ないですが(6人の月経がある女性アスリート、6人の月経がある非アスリート・コントロールと6人の無月経の女性アスリートの比較…合計18名)、結果にかなり興味深いものが多くあります。箇条書きでまとめると…

- 月経がある被験者はアスリート、非アスリート問わず黄体期に休息時の呼吸数(p = 0.0001)と歯の食いしばり圧(mouth occlusion pressures, p = 0.02)が著しく高なり、ハイパーカプニア・低酸素状態に陥りやすい
- しかし全体的な症状は非アスリートのほうがアスリートによりも如実に出る。黄体期中、非アスリートはアスリート比べてより重度の低酸素状態になる(p < 0.001)という結果が出たことに加え、最大強度での運動中、非アスリートのみ運動継続可能時間とVO2maxが黄体期中に著しく低下した(p < 0.05)。
- 無月経のアスリートは一か月のサイクルを通じて特に変化は見られなかった

…そんなわけで要約すると、月経がある女性において、アスリートも非アスリートも黄体期には休息時も運動時にも呼吸の効率が落ちる・呼吸の需要が高まると言える。しかし、アスリートにおけるその影響は生理学的レベルでは認められるものの「パフォーマンスに影響が及ぶ」レベルには達していない

うっわー…面白くないですかコレ…。比較的最近の研究(↓2012年発表)9 でも健康な女性被験者10人において1) 休息時の呼吸頻度・呼吸深度共に黄体期のほうが著しく高かったこと、2) 60分ほどの運動の際に黄体期の間は皮膚血管拡張が起こりにくくなっており、体温調節にも影響が出るかもしれないことなどが指摘されています(…ということは黄体期の女性は熱中症になりやすいのか?なんて完全に脱線した疑問も湧きますけれども…)。
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こういった月経周期に伴う呼吸の変化は喘息患者により如実に出るという報告10,11 もあり、黄体期に特に吸気能力が低下するため、喘息患者トレーニングを調整する必要があるのでは、と提案する研究者らもいます。11

ACL断裂と月経周期の関連性はあるのか?(2015-09-17)
ACL断裂と月経周期の関連性はあるのか?完結編。(2015-09-19)
脳振盪は生理周期にまで影響を及ぼす。(2017-09-21)

月経に関してはあれこれ記事を今までも書いてきましたが(↑)、やっぱり深いトピックですなー…。まとめると、「黄体期に女性は低酸素状態に陥りやすく、その代償として過呼吸状態になっていることが多い。それはパフォーマンスにハッキリと影響を与えるほどではないかもしれないが、喘息など呼吸器系の問題がある患者さんの場合、トレーニングメニューなどを再考慮する必要はあるかもしれない」ということかと。

こういった変化が起こる理由として「ホルモン」が様々な文献で挙げられていますが、1980年代の文献がそれをコラーゲン繊維の変質と絡めて「原因か?」と述べていた一方で、私はCNS(中枢神経)の影響も否定できないと感じています。生理直前、多くの女性がPMS(イライラなど)を経験するというでしょう?感情が揺さぶられているということは、神経学的に脳に影響が出ているということですよね。そして脳は呼吸を司どっているコントロール・センターでもある。生理学的なコラーゲン繊維云々ももちろん要因のひとつとして挙げられるとは思うんですが、自律神経などの影響も考慮・これからもっと検証されるべきじゃないかと思います。

いやー面白かったです。古い文献が多かったですが、良質な呼吸関連の文献は80-90年代が一番アツかったと個人的には思っています。ここらへんの分野、また読みたい!

1. Cherniack NS. The pelvic-pulmonary connection. Respiration. 1999;66(5):396.
2. Eterović D, Strinić T, Dujić Z, Boban, M: Blood gases and sex hormones in women with and without genital descensus. Respiration. 1999;66:400–406.
3. Popovic RM, White DP: Upper airway muscle activity in normal women – influence of hormonal status. J Appl Physiol. 1998;84:1055–1062.
4. Rechberger T, Donica H, Baranowski W, Jakowicki J: Female urinary stress incontinence in terms of connective tissue biochemistry. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 1993;49:187–191.
5. Takano N. Reflex hypoxic drive to respiration during the menstrual cycle. Respir Physiol. 1984;56(2):229-235.
6. Takano N. Changes of ventilation and ventilatory response to hypoxia during the menstrual cycle. Pflugers Arch. 1984;402(3):312-316.
7. Macsali F, Svanes C, Sothern RB, et al. Menstrual cycle and respiratory symptoms in a general Nordic-Baltic population. Am J Respir Crit Care Med. 2013;187(4):366-373. doi: 10.1164/rccm.201206-1112OC.
8. Schoene RB, Robertson HT, Pierson DJ, Peterson AP. Respiratory drives and exercise in menstrual cycles of athletic and nonathletic women. J Appl Physiol Respir Environ Exerc Physiol. 1981;50(6):1300-1305.
9. Hayashi K, Kawashima T, Suzuki Y. Effect of menstrual cycle phase on the ventilatory response to rising body temperature during exercise. J Appl Physiol. 2012;113(2):237-245. doi: 10.1152/japplphysiol.01199.2011.
10. Farha S, Asosingh K, Laskowski D, et al. Effects of the menstrual cycle on lung function variables in women with asthma. Am J Respir Crit Care Med. 2009;180(4):304-310. doi: 10.1164/rccm.200904-0497OC.
11. Stanford KI, Mickleborough TD, Ray S, Lindley MR, Koceja DM, Stager JM. Influence of menstrual cycle phase on pulmonary function in asthmatic athletes. Eur J Appl Physiol. 2006;96(6):703-710.

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  by supersy | 2018-08-13 06:30 | Athletic Training

日本におけるカフェイン過剰摂取の現状と、アスリートへのアドバイス。

これから日本で仕事していく上で日本のアスリートがしている(かもしれない)ことも学ばにゃ、ということでこんな今月(2018年8月)発表の最新論文1 を読んでみました。
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アメリカでは若者のカフェイン過剰摂取による死亡事件はハッキリ言ってもはや珍しいものではないのですが、日本でも2015年に初の死亡事故が報告されて以来、この問題は拡大し続けているんだそうです。この論文では、2011-2016年の間にカフェインの過剰摂取で救急病院に搬送された患者101人(中央年齢25歳、年齢幅14-54歳、男53人、女48人)について詳細を追調査し、その患者に多く見られる特徴をまとめています。

まず目につくのは救急受診患者数の変移ですかねー。2011年度、2012年度はそれぞれ10人、5人だったのに対して2013年度は24人、2014年度は25人、2015年度は37人に膨れ上がっていることから、時代の移り変わりとともにカフェインを含むサプリメントやドリンクが一般に流通するようになり、人々が手に取りやすくなったことを示唆しています(↓)。
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*文中のデータを元に作成
次に摂取方法ですが、101人のうち、96.0%にあたる97人がタブレット状の、10人(9.5%)が液体状のカフェインを摂取。うち5人は両方の形状を同時摂取していたそうです(ん?ひとり計算合わなくない??)。
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具体的な内訳としては、タブレットを摂取した97人の患者のうち75人(75/97 = 77.3%)はエスタロンモカ®というエスエス製薬製品の錠剤(一錠あたりカフェイン100mg)を摂取していた一方で、液体状のカフェインを摂取した10人のうち6人(6/10 = 60.0%)はモンスター・エナジー®飲料(355ml缶あたり142mg)を、2人(2/10 = 20.0%)はレッドブル®(250ml缶あたり80mg)を飲んでいたそうな。エスタロンモカ®という製品は初めて聞きました。眠気覚ましなどによく使われる第3類医薬品(OTC薬)なんだそうです。

これは病院スタッフが患者来院時に集めた情報に基づく推定でしかないのですが、101人のうち93人の患者は搬送時点で3.5時間(幅: 0.8-24.0時間)以内に7.2gのカフェイン(幅: 1.2-82.6g)を摂取していたことが判明。17人の患者においての血中カフェイン濃度も病院で計測されていたようなのですが、その中央値は106.0 µg/mL(幅: 2.0-530.0 µg/mL)だったというのだから驚き。一般にカフェイン血中濃度の致死量は80-100 µg/mLと言われていますから、2これらの患者が全員死亡していてもなんら不思議はなかったわけです(最大値の530 µm/mLはヤバいです)。
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続いて患者のバイタル・データや血液検査結果のまとめなんですが、Table 1(↑)を見ただけではあまり目につくようなものはないかも知れません。96人中55人(57.3%)がTachypneaであったとか98人中58人(59.2%)がTachycardiaであったとか文中には書いてあるんですが、言い換えれば約半数の人はそうではなかったということなので、診断の指標や状態の予測にはつながりにくいように思います。Table 2(↑)は逆に、というかなんというか、具体的に患者のカフェイン摂取量や血中カフェイン濃度と強い関連性のあるパラメータを示しています。例えばカフェイン摂取量と呼吸率(Respiratory Rate, RR)は「正の相関性」がありますので、カフェインを摂取すればするほど呼吸数も比例して増えていくという意味ですし、一方でカフェイン摂取量と意識レベル(Glasgow Coma Scale, GCS)は「負の相関性」がありますから、カフェイン摂取量が多ければ多いほど意識レベルは下がる傾向にある、という関連性が示されているわけです。脱線するかもしれませんが、ここで文中にさらりと書かれている「カフェイン摂取量と血中カフェイン濃度にはcorrelationは認められなかった(Spearman's rank correlation coefficient: -0.201, p = 0.454)」というのが私は非常に興味深いと思いました。カフェインを体内から除去する能力に個人差が大きいということかな?それとも摂取からの時間経過がそれほど考慮されていないので、ハーフライフが短いカフェインは比較的効率よく排除される分、摂取量そのものとはそれほど関連性はないということかな(「一時間以内のカフェイン摂取量と血中カフェイン濃度」なら関連性あり)?

一人一人の患者に提供された具体的な治療については省きますが、最終的なアウトカムとして101人中7人(6.9%)が心肺停止状態になり、集中治療を要したとのこと。大多数の患者(85/101 = 84.2%)の患者が平均3日の入院を余儀なくされ、最終的に97人の患者(97/101 = 96.0%)が全治して退院できたものの、3人(3/101 = 3.0%)が死亡したそうです(1人は頭痛が取れないままの退院となったので「全治」にも「死亡」にも含まれていません)。ふーむ。

この論文の結論ではカフェイン・サプリメントのオンライン販売や自動販売機でのエナジードリンクの販売拡大などでこういった製品が若年層にも簡単に手に入りやすくなっていること、形状としてはサプリメントのほうが液体(エナジードリンク)より安価で濃度の高いカフェイン摂取が可能なことなどを指摘。これからの救急患者のスクリーニングに血中カフェイン濃度のテストを入れるべきではないかと提案、そしてカフェイン・サプリメントの販売時にそのリスクを十分に消費者に伝える努力をすべきであると述べています。ここらへんは至極理に適っていると思います。



スポーツ薬学の授業を教えていた時にも、カフェインは身近な話題でしたので特に時間を使って話した覚えがあります。その一環として毎年学生に、「身近にあるカフェインを含む食べ物や飲み物をふたつ選び、そのカフェイン含有量と、それをどれほど摂取すればNCAAの規則違反になるか計算せよ」という課題を出していたのですが、昨年度の授業でのその課題結果をまとめたものがこちら(↓)です。
*一応明記しておくと、NCAAでは尿中カフェイン濃度が15 µg/mLを越えると「違反」になります。これは約500mgのカフェインを摂取すると越える数値で、具体的には2-3時間以内にコーヒーを5~8杯飲むことに相当する数値です(含みがあるのはコーヒーも種類によってカフェイン含有量が異なるからです)。
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いわゆる「プロテイン・パウダー製品」にもかなりのカフェインが含まれていること、最も高い含有量を誇るエナジードリンクである「タイムリリース」という製品(中央上)には小瓶でなんと違反範囲スレスレの422mgものカフェインが入っていたことに学生ともども驚いたものです。アメリカと日本の製品はレギュレーションも異なるでしょうから日本ではこれほどカフェイン含有量はアグレッシブではないのかもしれませんが、やはり注意するに越したことはないと思います(日本の大学スポーツではどれほどのカフェイン摂取が「違反」扱いになるんでしょう?)。
授業ではこの流れでアスリートがカフェインを摂取して練習に臨む危険性についても話し合い、例えばこういった記事(↑)を読みながら「心肺機能への負担は?」「どんなリスクがどれほど高まる?」から、「では我々はATとしてどういったカフェイン摂取に関する教育をアスリートに施すべきか?」までディスカッションします。

私が授業で強調するようにしているのは、「アスリートだからってカフェイン摂取を一切断つ必要はないし、エナジードリンクを絶対に飲むな!って言っても素直に従うアスリートは少ないと思うんだよね。隠れてこっそり飲むようになるだけで」「だから(NCAA既定内の摂取に抑えるのは倫理的に前提として)、健康で現実的なカフェインとの付き合い方を一緒に模索していくのが一番建設的だと思うのよ」「あとは選手が『カフェインを摂らなきゃやっていけない』と考えているとしたら、そのメンタリティーの背景をきっちり探ることだよね。睡眠が十分に取れない→昼間眠くなる→エナジードリンクをがぶがぶ飲む→夜眠れないというサイクルに陥ってるかもしれないし…。となれば、どう高い質の睡眠を確保するかを話し合うことこそが真の治療につながるわけで」…というところで、そのためにはこの論文(↓)3 で提言されている「テーブル3: 若者へのエナジードリンク摂取に関する推奨事項」に触れ、授業を〆るようにしています。
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私なりに和訳してみると:

 1. エナジードリンクの摂取は一日に一缶(250ml)を超えないようにする
 2. スポーツ・部活の練習前や最中には摂取しない
 3. 心血管系の疾患がある場合、エナジードリンクの摂取についてまず医師に相談する
 4. アルコールやその他の薬とは併用しない
 5. 保護者もエナジードリンクの副作用・悪影響についての知識を持っておく
 6. エナジードリンクの過剰摂取や乱用について継続的に提言を続ける

これらの項目は非常にシンプルで、easy-to-follow(実践的)かなと思うんです。Too simpleかも知れませんが、AT学生に知ってほしいオトシドコロとしてはアリかなということで。

私自身もコーヒーは好きだし、よく飲みます。時に飲む紅茶も美味しいですし、カフェイン=悪なんかでは全くないかと思っています。その一方、日本の講習会や勉強会で一日に何本もエナジードリンクをごくごく飲んでいる受講者さんを目の当たりにして、「仮にも身体との付き合い方を教えるべき立場の方が!?!?」と度肝を抜かれることも今まで1、2回ではありませんでした。プロとして、アスリートの安全を確保するような教育を提供できるのはもちろん、自分でもそれらの習慣を実践できているようにありたいものですよね。この機会に、自分とカフェインとの付き合い方を一度見つめ直してみるのもいいかも知れません。

1. Kamijo Y, Takai M, Fujita Y, Usui K. A Retrospective study on the epidemiological and clinical features of emergency patients with large or massive consumption of caffeinated supplements or energy drinks in japan. Intern Med. 2018;57(15):2141-2146. doi: 10.2169/internalmedicine.0333-17.
2. Cappelletti S, Piacentino D, Fineschi V, Frati P, Cipolloni L, Aromatario M. Caffeine-related deaths: manner of deaths and categories at risk. Nutrients. 2018;10(5). pii: E611. doi: 10.3390/nu10050611.
3. Sanchis-Gomar F, Pareja-Galeano H, Cervellin G, Lippi G, Earnest CP. Energy drink overconsumption in adolescents: implications for arrhythmias and other cardiovascular events. Can J Cardiol. 2015;31(5):572-575. doi: 10.1016/j.cjca.2014.12.019.

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  by supersy | 2018-08-11 16:30 | Athletic Training

サマータイム導入に伴う弊害は何なのか。交通事故と睡眠に関するエビデンスを振り返る。

今回は短くサックリと。

今日本ではサマータイムがよくニュースの話題に登っています。アメリカではDaylight Saving Time(DST)と呼ばれるこのシステムは、当然アメリカのほとんどの州でも導入されているわけですが…私は16年間アメリカに住んでいて、正直言って結局一度も慣れたと感じることがありませんでした。たった1時間時計が早く・遅くなるだけ、と思われるかも知れませんが、毎年毎年どうしても疲労感・倦怠感が体に残り、体内時間が大きく乱れてしまって、それを取り戻すのにかなり時間がかかってしまった年もありました。今回検討されている「2時間のサマータイム導入」の影響はどんなものになるのだろうと今からヒヤヒヤしているのは私だけではないはずです。
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By TimeZonesBoy - Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=17593495
ちなみに予備知識的に。こちらの図(↑)は地球上でサマータイム制度を導入している国(青: 北半球オレンジ: 南半球)を表したものです。導入している国は全世界の1/3にすぎない、というのは改めて指摘されると意外な気もしますね。グローバルな視点から見ると、サマータイム導入国は現時点では少数派、マイノリティーなわけです。

さて、サマータイムにはもちろんProposed Benefits(提案されている長所)もあるのでしょうけれど、長所があるということはその陰で犠牲にされている短所もあるということは否定しきれません。ここでは、1) 交通事故のリスクと2) 身体的変調をきたすリスクについてデータを振り返りながらまとめたいと思います。


1) 交通事故のリスク
道路整備事情や車の技術の進歩、運転者の技術・知識・社会的背景の移り変わりなども影響を及ぼす可能性があるので、このテーマについては2000年以降に収集されたデータを元に書かれた論文のみ読んでまとめてみることにしました。条件を満たした論文が3つ見つかりまして。

●論文#1: 北半球・USA、アリゾナとインディアナ以外*の全州(2002-2011)1
*アリゾナとインディアナ州の一部ではDSTが導入されていないため
結果: サマータイム開始後6日以内に一般的に感じられる「倦怠感」は31%(p < 0.05)上昇し、交通死亡事故(fatal vehicle crashes)は6.5%(p = 0.007)増える。サマータイムが終わって通常時間に戻る際は交通事故リスクは変化せず、スコッと元通りに下がらないというところも興味深い。

●論文#2: 北半球・アイルランド(2003-2012)2
結果: サマータイム開始からの2週間以内で交通事故件数に大きな変化はないものの、(より暗くなっている)朝の時間帯に起きた交通死亡者数(casualties)は33.5%、(交通事故に巻き込まれて亡くなった)歩行者死亡者数(pedestrian casualties)は105.3%(= 倍以上)に上昇。サマータイムが終了してから1週間と2週間以内の交通事故件数はそれぞれ26.9%と17.3%減少するが、(より暗くなっている)夕方の時間帯の歩行者死亡数は1週間で68%、2週間で32.5%とそれぞれ上昇していた。

●論文#3: 南半球・ニュージーランド(2005-2016)3
結果:サマータイム開始初日(日曜)に交通事故件数が16%増、翌日(月曜)にも12%増。そこからさらにじわじわと5日間かけて事故件数は上がっていき、週の終わりである金曜日は開始直後の月曜日よりも事故数が19%上昇する。

ちなみにこれら3つ全ての研究は国家規模の大規模なデータを使った研究で、10年間かそれ以上の統計をまとめたものです。市区町村レベルの小さなものでないことは明確に指摘しておきます。

2) 身体的変調をきたすリスク
これらの交通事故件数上昇の背後には、日照時間の変化(例: 「朝」の時間がより暗くなり、視界が悪くなる)と、睡眠時間の変化によって起こるのではないかと言われており、1-3中でも睡眠に関しては、「サマータイムが始まる(= 一時間失う)とヒトは平均して普段より睡眠時間が40分減るが、サマータイムが終わっても(= 一時間得る)ヒトは一時間長く眠るというわけではない」4という報告は目からウロコでした。…いや、確かに実体験でも確かにそうなんですけども。サマータイムが始まるからって一時間寝るのを早めようとは思わないし(いやまぁ寝なきゃとは思うんですけど眠くならなくて)、サマータイムが終わるときはむしろ「一時間夜更かししても同じだけの睡眠が得られる」と思ってしまって論文ひとつ余計に読んだりとか…。

サマータイム開始時の「睡眠不足」は成人だけでなく思春期の高校生でも同様のようです。高校生ではサマータイム開始後の一週間で、一日当たり32分の「睡眠不足」が起こっており、これによって集中力が散漫になる→学業にも影響が出るのでは?という報告がなされています(アスレティックトレーナー的に考えると、この状態で放課後、部活の練習をするとなれば怪我のリスクも上昇するかもしれません)。5 これらの「睡眠不足」は、個人差は2日~2週間と幅広くあるものの、平均一週間ほどかけて徐々に解消されていくんだそうです。6 その間に失う仕事(学業も含む)の生産性、注意力欠如で起こる仕事のミスや交通事故の頻度上昇、ホルモンのバランスが乱れることによって起こる健康被害…。これらの全てはまだ推測や仮説の域を出ておらず、具体的にデータとして我々の前に姿を現していませんが…。2時間ものサマータイムを超短期オリンピックという目的のみのために導入するとしたら、それに伴う人材、経済、健康的弊害は何なのか充分に、慎重に検討し、それらの弊害の対策も考えたうえでの決断であってほしいと思います。

1. Smith AC. Spring forward at your own risk: daylight saving time and fatal vehicle crashes. Am Econ J Appl Econ. 2016;8(2):65-91. doi: 10.1257/app.20140100.
2. Sarma KM, Carey RN. The potential impact of the implementation of the Brighter Evenings Bill on road safety in the Republic of Ireland. A report for the Road Safety Authority of Ireland. 2015.
3. Robb D, Barnes T. Accident rates and the impact of daylight saving time transitions. Accid Anal Prev. 2018;111:193-201. doi: 10.1016/j.aap.2017.11.029.
4. Barnes CM, Wagner DT. Changing to daylight saving time cuts into sleep and increases workplace injuries. J Appl Psychol. 2009;94(5):1305-1317. doi: 10.1037/a0015320.
5. Medina D, Ebben M, Milrad S, Atkinson B, Krieger AC. Adverse effects of daylight saving time on adolescents' sleep and vigilance. J Clin Sleep Med. 2015;11(8):879–884.
6. Harrison Y. The impact of daylight saving time on sleep and related behaviours. Sleep Med Rev. 2013;17(4):285-292. doi: 10.1016/j.smrv.2012.10.001.

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  by supersy | 2018-08-08 22:30 | Athletic Training

臨床家として、貴方は言葉をどう紡ぐか。

ずっと読みたかったこの論文1 を友人の助けを借りてフルテキスト入手できました!ありがとうしょうくん!さて、今回の論文はClinical Viewpoint - つまりイチ専門家の意見でしかありません。しかし、様々な臨床家が共感し学ぶことのできる内容だと思いますので読んでまとめてみるでごんす。
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言葉は人を救いもするし傷つけもする。この凄まじいパワーを秘めたツールを、我々はMusculoskeletal Rehabilitationの場で正しく使えているのでしょうか?

リハビリに来る患者さんが『元気いっぱい』ということは、皆さんもご周知の通り稀で、「リハビリに来なければいけない期間」は、それぞれの患者さんの長い人生の中でも『谷』の状態であることは珍しくないのではと思います。言い換えれば患者さんの心が特にvulnerable(吹きさらしになっている状態)やsensitive(周りのものや人に過敏な状態)になっている時期だと思うんですよね。そんな中で我々「リハビリの専門家」が紡ぐ言葉は、患者の中に生まれては消える様々な思考を潰しもすれば広げもする。ここは我々臨床家は改めて自覚すべきことなのではないかと思います。
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この論文の著者は「患者が今精神的にどこにいるか」は「患者が今病理解剖学的にどこにいるか」よりも傷みと機能をより正確に反映する、2-4 というここまでのエビデンスを引用し、「後者にばかり焦点を当て続けることは前者を悪化させることにもつながりかねない」「心理的要素はもっと認識され、理解され、その考慮は治療の過程で反映されるべきである」と議論を展開しています。患者を脅すような言葉遣いや、不明瞭な情報の提供の仕方は避けられるべきであり、自分たちの言葉がどう解釈される可能性があるか我々はもう少し自覚を持って警戒すべきであるというところは私も心から賛成です。「不明瞭な表現は相手の心情に合った色に塗り替えられてしまう」という表現は、特になるほど!と感じました。解釈に遊びが生まれてしまう、とでも言うんですかね。我々が患者に「最悪の場合は手術ということになってしまう可能性(may, possibly, perhaps)は否定できない(<1%)。でも殆ど(99%)の場合はリハビリをすれば大丈夫だよ」と言ったとして(そしてカッコ内の%は発信者の意図だとして)、この情報が患者の耳から脳に伝達される過程で"may, possibly, perhaps"が抜け落ちて「手術をしなければいけない(100%)」に書き換えられてしまうことはよくあることです。私も実際に臨床の現場で幾度も経験したことがあります。

患者自身の「もう治らないんだ」「良くならないんだ」という思い込み(= low recovery expectations)は乏しいアウトカムのstrong predictorであると言われています。3 このマインドセットでは冗談ではなく本当に治るものも治らなくなってくる可能性があるのです。

この論文では1) 「degenerative discs」という言葉が、いかに医療従事者間では「mildかつstraightforward(軽度な病変を反映しており、比較的聞いたままの分かりやすい言葉である)」と捕えられる一方で、患者には「catastrophic(壊滅的)」な響きを持ったものに聞こえ、不必要な不安を掻き立ててしまうか; 2) 「Have you noticed any problems with your bladder or bowels?(消化器官系や泌尿の問題はありませんか?)」という何気ないルーティーン的問診をする際、我々臨床家は「いつか消化器官や泌尿器官系に問題が起こるのではと恐れている患者にその問題がもたらすかも知れない更なる不安感」という影響にまで考えを巡らせているのか?など具体的な臨床のシーンを例に、我々の言葉が臨床上harmful(有害)になってしまうかも知れない可能性を指摘。加えて頭部や脊柱損傷などの場面も例に挙げ、こういった症例で臨床家は「この怪我がどんな組織の損傷を伴っているのか、どのように残りの人生の中で『患者が二度とできなくなってしまうこと』が定義されていってしまうか」ではなく、「これから治療をしていくことでいかにこれからの人生への有意義な土台作りができるか」に焦点を置いた"therapeutic emplotment(治療的筋書き構成)"を意識的に行うべきであると論じています。

では、患者の人生を再構築していく治療過程で、具体的に我々は「degenerative discs」のような状態をどう建設的に言い換えればいいのでしょうか?

よく英語では「wear and tear」という表現が使われますが、実はこれも例えば機械(マシーン)などが長期的に酷使され、部品が擦り切れたり壊れたりするなどのイメージを伴う言葉で、患者が「technical fix(部品の交換や劣化した部分の除去など=手術)」がなければ良くならない、という間違った印象を抱いてしまうかもしれません。著者は代わりに「normal age changes (年齢を重ねるにつれ、自然に起こる変化)」のような表現を使ってはどうか?と提案しており、他にも色々とWords to Avoid (避けるべき表現)とAlternatives (代わりに推奨する表現)をテーブル(↓)にしてシェアしてくれています。なるほどねぇ。全部が全部賛成はできないけど、眺めていて面白いなぁと思うものは多いです。
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ここからは私の個人的な経験談ですが。以前大学女子バスケチームで働いていたときに、他選手にのしかかられる形でとある選手が練習中に膝を傷めました。すぐにチームドクターに連絡してMRIを撮ったのですが、結果はGrade 2(中度)の内側側副靭帯(MCL)損傷。つまり「部分断裂」という診断でした。正直、Grade 1(軽度、マクロ断裂を伴わない靭帯繊維の伸張)くらいかと思っていたので、思ったより悪かったか、ぐぬぬと眉をしかめたのを覚えています。

この選手は当時卒業を控えていた最上級生(4年生)で、彼女にとっては最後のシーズン。このシーズンを通して爆発的な得点力を発揮していたものの、気持ちにムラがあり、それがプレーにも反映されることからプレータイムは安定していませんでした。感情的になることも多い子で、コーチとの関係はお世辞にもうまくいっておらず、焦ったりしんどかったり色々あるのは私も知っていました。

しかし、私にとって有利になりそうな要素は当時2つありました。ひとつは、この選手は私には絶大の信頼を寄せてくれていて、コンプライアンスに心配はなかったこと。そして、彼女の膝はGrade 2のわりに状態は悪くなく(受傷当日に歩行可)、私は彼女が気持ちさえ落とさなければ迅速な競技復帰が可能であると踏んでいました。そこで、少しの賭けに出たのです。

私はこの結果を選手に直接口頭で伝える際、「MRIの結果が出たよ、Grade 2 MCL Sprain(捻挫)だって」と言いました(敢えて難しめの医学用語をそのまま伝えたわけです)。その上で、今の症状からはこういう回復の流れが期待できると思う、こういうタイムラインを考えている、そのためにこんな治療やリハビリが提案できるんだけど、どう?と「回復過程」に重きを置いて、絵やグラフを描きながら丁寧に説明しました。どう受け止めるだろうと彼女の表情は特に気を付けて見ていましたが、ほとんど表情を崩すことなく、神妙な面持ちで、でも前向きに私の話を受け止めてくれたのを覚えています。

その後、彼女はリハビリに毎日関心するほど精を出し(それをコーチにも知っておいて欲しかったので、毎日この子がどんなに頑張っているかということも事細かに伝えていました…これによってコーチもこの選手を見る目が少し変わったのではと個人的には思っています)、目に見えて一日一日ぐんぐんと回復していき、結果受傷後一週間で試合に完全復帰をするなど、かなりスムーズに進行したケースだったのを覚えています。足をかばうこともなく、鋭いペネトレーションはそのままで、プレータイムは以前より増えたほどでした。

無事に膝の痛みが再発することもなくシーズンを終えてから彼女に改めて、「あの膝の怪我ね、私Grade 2 Sprainだと言ったけど、どういうことだか分っていた?」と聞くと、「捻挫でしょ?」との返答。「捻挫ってどういう怪我のことを指すと思う?」と聞くと、「靭帯が伸びた感じ?」という返ってきたので、「それは非常に正解に近いよ。でもヒトクチに捻挫と言ってもこれは靭帯や関節包の損傷の総称だから、Gradeは1から3まであってね。1はまさに靭帯が伸びた感じで、2は部分断裂で3は完全断裂のことを指すんだよ」。これは私がMRIレポートを受け取った直後に彼女に『したかったけれども敢えて省いた』説明でした。「MRIレポートでは靭帯の約4割が断裂していたというよ」

彼女は口をあんぐり開けて聞き返しました。「部分断裂?断裂?」

「そう。でも『部分』断裂って言葉を使ったら貴方の耳には部分『断裂』しか入ってこないだろうなと思ったし、私がその後何を言おうと貴方の思考がストップしてしまう気がしたんだよ。内側側副靭帯の『断裂』はしっかりとした治癒が起こる部位だし、例えば前十字靭帯が断裂するのとはわけが違う。それに私は当時の状況から迅速な競技復帰は十二分に可能だという確信があった。『部分断裂』という伝え方をして不必要なものを壊したくなかったから、貴方には『Grade 2 Sprain』って伝え方をしたんだよ。嘘ではなかったけど(私は貴方に決して嘘をつかないことは約束するよ)、真実を事細かに伝えなかったのは申し訳なかったとずっと思っていたんだ」

すると彼女は目を丸くしたままこんなことを言いました。「いやSy、部分断裂と言わないでくれてありがとう。Sprainっていう表現で良かった、それが最善だった。部分『断裂』なんて言われたらもうそれだけで「終わりだ(I am done)!!!!」と思っていたと思う」

「私は仮にも貴方を数年分知っていて、どう伝えたらどういう反応が返ってくるか予測ができたからね(笑)。部分断裂といってもかなり絶望的な意味を伴う部分断裂もあれば、今回のようにかなりしっかりした望みのある部分断裂もあるというのが体験してみて分かったでしょう。でも後ろめたい気持ちがなかったわけではないし、そういってもらえると救われるよ。私と自分の膝の感覚を信じてリハビリを毎日頑張ってくれてありがとう。自分の成功を引き寄せるためにはよくわからぬ言葉尻に振り回されず、諦めずにどんな状況でもその日その日できることをしっかり毎日やること、だよ。それをしっかりやったから最後のシーズン気持ちよく終えられたんだ。他でもない自分の努力の結果だよ。よく頑張ったね」

患者と対話するとき、多くの臨床家は「いかに難しい医学用語を簡単な一般語にして正確に患者に伝えるか」という点ばかり気にしているのかもしれませんが、それは「Grade 2 Sprainを『靭帯の部分断裂』という言葉に直すのが常に正解」、と一概に設定してしまっているということでもあります。私は個人的に、特定の状況や環境において「敢えて患者の限られた知識を利用し、嘘をつくことなく、しかし危ない言葉の使用を回避しながらやるべきことに集中できる環境を作る」という技術も臨床家には必要なものだと思っています。この件がその典型的な例だったかなと。

一応明記しておくと、私は、敢えて何かをぼかすことは許容されるべきですが、患者に嘘をつくことだけは絶対にNGだと思っています。これは患者⇔臨床家の関係を壊すことにもつながりますし。患者にとって適切な表現を探し、工夫することと患者を騙すことは正反対ですので、「嘘をつけ!」「ごまかせ!」「事実を捻じ曲げろ!」と言っているわけではないというところだけは、勘違いなさらぬようお願いいたします…。

1. Stewart M, Loftus S. Sticks and stones: the impact of language in musculoskeletal rehabilitation. J Orthop Sports Phys Ther. 2018;48(7):519–522. doi:10.2519/jospt.2018.0610.
2. Chester R, Jerosch-Herold C, Lewis J, Shepstone L. Psychological factors are associated with the outcome of physiotherapy for people with shoulder
pain: a multicentre longitudinal cohort study. Br J Sports Med. 2018;52:269-275. doi:10.1136/bjsports-2016-096084.
3. Ivarsson A, Johnson U, Podlog L. Psychological predictors of injury occurrence: a prospective investigation of professional Swedish soccer players. J Sport Rehabil. 2013;22:19-26. doi:10.1123/jsr.22.1.19.
4. Linton SJ. Understanding Pain for Better Clinical Practice: A Psychological Perspective. Edinburgh, UK: Elsevier; 2005.



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  by supersy | 2018-08-06 23:00 | Athletic Training

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