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PRIに関する最新研究論文のまとめ。その2。

なぜ風船を使ってエクササイズをするのか?(2016-02-18)
PRIに関する最新研究論文のまとめ。(2018-03-02)

以前PRI関連の文献を4つ(全部インド研究者によるマイナー・ジャーナルのもの)をまとめましたが(2018年3月2日付↑)、今回新たにまた別のジャーナルでPRI関連の研究が発表された1と耳にしたのでレビューしておきます。何故かこれもインドの研究者によるもので、PRI本部も「なぜインドがアツいんだ??」と困惑しているようです(以前にも書きましたが、これらの研究者さんがPRI講習を受講したという記録が一切見つからないのです。どこでどう知ったのか…)。
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なんか…前回からの偏見かもしれませんがまず見た目が怪しいですね、第3著者の名前に「Prof.」って入ってますけど、普通そんなの入れませんもん。Global Journal for Research Analysisというジャーナル、見たことも聞いたことが無かったのでこれもついでに調べてみました。Impact Factor(IF)が5.156って該当ウェブサイトには書いてあるんですけど…(これが真実であればトップ6.5%に入る超優良ジャーナルということになりますが。記事左上にはIF 4.547と異なる数字が書いてあり、どれが最新なのか…)、うーん、とてもホントウとは思えません。インターネットでその評判を調べてみたら、最近増えてきているPredatory Journal(お金さえ払えば論文掲載させてくれる、学術的価値はほぼ無いとされる「エセ学術誌」)の類だと言われているようで、なんというか…納得です。正直、前回紹介したジャーナル4つ全てもPredatoryだと思います。

…で、肝心の記事なんですが、2ページしかありません。マトモな研究が2ページにまとめられるはずもないのでこれまた嫌な予感しかありません。

イントロ部分からして突っ込みどころがいっぱいです。「腰痛(LBP)はこういう風に定義されています」や「腰痛は発症率が異様に高い、世界的に深刻な問題なんです、そしてインドも例外ではありません…」という導入を書こうとしている狙いは分かりますし、その内容は間違っていないと思うのですが、例えば「WHOによって成人の84%は生涯のうち一度は腰痛を経験していると報告されている」という誰もが目にしたことのあるあの文句を引用なしで書いていたりとか、「インドでも腰痛発症率は23.09%と報告されている」という個所は(ここは唯一引用があり、それは評価しなければなりませんが)その数字が世界的なものと比べて圧倒的に低かったりとか(84% vs 23%? その程度ならインドはうまいこと腰痛をmanageできてるってことになりませんか?)…もし私の学生がこういうイントロを書いてきたら、「not a bad intention, need to cite more sources(意図は悪くないけど、文献引用が足りないから説得力に欠ける)」と批評されること間違いなしです。

腰痛におけるハムストリングと腹壁の活性の重要性についての論理的背景はこれ(↓)しか書かれていません。
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一文一文が無駄に長く、一般的に「論文を書く際に使うべき好まれる英語」ではありません。繰り返しも多く、分かりづらい構成です。最初の文に限っては文章が終わっておらず(ピリオドがない…)、ふわふわと浮いた状態になっています。私が書き換えるなら、

The Postural Restoration Institute has proposed the holistic approach to patients with LBP: Their principles emphasize the importance of 1) the restoration of the proper diaphragmatic mechanics and 2) hamstring and abdominal muscles activation as a mean of regulating polyarticular chains of muscles and thus altering Ober's test results. Recent case reports1-3 and a RCT4 support this point of view and have reported that exercises with such emphasis can decrease immediately pain and increase passive hip abduction ROM.

1. Robey JH, Boyle K. The role of prism glass and postural restoration in managing a collegiate baseball player with bilateral sacroiliac joint dysfunction: a case report. Int J Sports Phys Ther. 2013;8(5):716-728.
2. Tenney HR, Boyle KL, Debord A. Influence of hamstring and abdominal muscle activation on a positive ober's test in people with lumbopelvic pain. Physiother Can. 2013;65(1):4-11. doi: 10.3138/ptc.2011-33.
3. Fernandes J, Chougule A. Effects of hemibridge with ball and balloon exercise on forced expiatory volume and pain in patients with chronic low back pain: an experimental study. Int J Med Res Health. 2017;6(8):47-52.
4. Kage V, Naidu SK. Effect of iliotibial band stretching versus hamstrings and abdominal muscle activation on a positive ober’s test in subjects with lumbopelvic pain: a randomized clinical trial. IJTRR. 2015;4(4):111-116. doi:10.5455/ijtrr.00000075.

…という感じでしょうか。それにしたって一文目にまだ引用が必要だと思うけど。
まぁ文章の構成とか引用とか理論の立て方とか指摘しているとキリがないので、この研究のキモの話に移ります。

腰痛持ちでOber's Test陽性の30人の被験者(性別、年齢不明)をランダムにグループAかBに分類し、グループAはヒートパックとITバンドのストレッチ(側臥位で、1分間ホールドx3回)を、グループBはヒートパックとPRIエクササイズ(90-90 Hip Lift with Balloonと90-90 Hemibridge with Balloon)を、合計6セッション行って前後のテスト結果を比較したそうです。一週間に何セッションやったかは明記されていませんので、例えば一週間あたり3セッションで2週間かけてこれらのInterventionを行ったのか、はたまた一日に6セッション詰め込んで一気にデータコレクションを終わらせたのか(まぁこれはないとは思いますが、記述がない以上否定はできないので)は不明です。計測されたアウトカムはVAS、Oswestry Disability Index (ODI)、スマホを使ったInclinometer (Ober's Test時の股関節内転角度)とPelvic Inclinometer(骨盤の前傾度、しかしどのようなポジションで何をlandmarkに計測されたのか記述無し)だったそうで。
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結果はこちら(↑)です。ベースラインで腰痛が60mm程度ならば、VASのMCIDは19mmで、2 ODIのMCIDは12.8-12.9のはず3,4 ですから、「両グループとも等しく、統計学的にも臨床的にも有意な痛み(VAS 30-34mm)と機能(ODI 18-19)の向上が認められた」「両グループとも等しく股関節の内転度(約4°)は向上したが、骨盤の前傾度はグループBのみ改善(0.087°)が見られた…とはいえ、臨床的意味があるような角度とは考えにくい」と私ならば結論づけたくなるのですが…著者は「ストレッチも効果的だったが、PRIエクササイズのほうがより統計学的に大きな効果が見られた」「臨床的に、ストレッチの効果は短期で消失したのに比べ、PRIエクササイズは痛み・股関節可動域・骨盤傾度・機能においてよりその効果がより長持ちした」「つまり、総合的にOber's Test陽性の腰痛患者にはITバンドのストレッチよりPRIエクササイズのほうが有効」と結論づけています。個人的には、以下の理由で同意しかねます
- 「統計学的に」というならどういった統計的分析に基づいて「PRIエクササイズのほうが優れている」と断定できたのか?各グループ内のpre-とpost-interventionの比較こそあれ、グループ間の改善幅を直接比較したような統計的分析は一切見られないが?
- 文中にはセッション1を始める前とセッション6の終わりに(合計2回)アウトカムを計測、とあるが、それ以外のタイミングでもアウトカムを計測したならそのタイムラインはどのようなものだったのか?それらのデータを開示せずに「長持ちしました」というのはあまりに乱暴では?

むしろ、私はこの結果を見て、「意外とITバンドのストレッチも効果的じゃん」「いや、つーかヒートパックがストレッチ・PRIエクササイズの効果を凌駕するほどめちゃめちゃ有能なのでは?」という感想を抱くのですけれど…。

他にも、突っ込みどころとして、
- Inclusion/Exclusion Criteriaに基づき被験者を選んだ…と書いてありますが、その基準に関しての記述が一切ない
- スペーシングエラーが異様に多い
- 大文字・小文字の表記に一貫性がない
- 論文の最後に全部で5つの文献が列挙されているが、実際に文中で使われているのは1~3のみ。1と2は[1] 、[2]という風にカッコ表記なのに対して3はそのまま3と書かれているなど、こちらも一貫性がない
- スマートフォンをInclinometerとして使う妥当性の正当化が十分にされていない
- PRIエクササイズは90-90 Hip Liftと90-90 Hemibridgeをしたとあるが、これはどの被験者も両方を行ったのか?多分先行研究に則ってOber's 片側陽性患者がHemibridge、両側陽性患者がHip Liftをやったのだろうが、そうであればきちんと明記するべき
…などの「欠陥」が挙げられます。

うーん、改めて、これが私の学生(学部生)の提出する論文ならば、「よく頑張ったね、方向性と努力は悪くないから『AA』、でも論理的構成と統計的分析はまだまだだから『C+』だよ」と優しく成績をつけるんですけれど。仮にもジャーナルに掲載されている論文なのですから、その質は厳しく『F』レベルだと私は判断します。特に臨床家さんが読む価値も、考慮する価値もないでしょう。最近蔓延しつつあるPredatory Journalには気を付けなければいけない、Abstract(抄録)だけ読んでその論文を分かった気になってはいけないなと、改めて考えさせられます…。

1. Basu S, Kakade PP, Palekar TJ, Chitgopkar V. Influence of abdominal and hamstring muscle activation exercises over iliotibial band stretching on a positive ober's test in subjects with low back pain. Glob J Res Anal. 2017;6(15):704-705.
2. Katz NP, Paillard FC, Ekman E. Determining the clinical importance of treatment benefits for interventions for painful orthopedic conditions. J Orthop Surg Res. 2015;10:24. doi: 10.1186/s13018-014-0144-x.
3. Copay AG, Glassman SD, Subach BR, Berven S, Schuler TC, Carreon LY. Minimum clinically important difference in lumbar spine surgery patients: a choice of methods using the oswestry disability index, medical outcomes study questionnaire short form 36, and pain scales. Spine J. 2008;8(6):968-974. doi: 10.1016/j.spinee.2007.11.006.
4. Johnsen LG, Hellum C, Nygaard OP, et al. Comparison of the SF6D, the EQ5D, and the oswestry disability index in patients with chronic low back pain and degenerative disc disease. BMC Musculoskelet Disord. 2013;14:148. doi: 10.1186/1471-2474-14-148.

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  by supersy | 2018-08-15 19:30 | PRI | Comments(0)

Exercise IS Medicine for Concussion - "脳振盪には運動こそ最良の薬である"

脳震盪には、運動せよ!? (2014-09-18)

脳震盪受傷にすぐ競技中止をしなければいけない理由。(2016-09-02)
「脳震盪受傷後に休息しても意味はない」論を考える。(2016-09-11)
SCAT5と最新脳震盪コンセンサス・ステイトメント: その1。(2017-05-11)
SCAT5と最新脳震盪コンセンサス・ステイトメント: その2。(2017-05-12)

初めて「脳振盪治療に運動はアリなんではないか?」というエビデンスに関する記事をまとめたのが4年前(↑一番上)。脳振盪はこのブログでも最も頻繁に取り上げるトピックのひとつかもしれませんが、中でも「脳振盪は休息一辺倒では回復しきらないケースも多い」「自発的な回復が見込めない、脳振盪患者の30%が発症するというPostconcussion Syndrome (PCS)の徴候が見られた場合には逆に低強度の有酸素運動をするのが良い」という内容はこのブログでも、日本アスレティックトレーニング学会誌や著書・「米国アスレティックトレーニング教育の今 」でも繰り返し言及してきた題材です(↑)。
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んで。
この分野の権威であるDr. Leddyが発表した最新のNarrative Review1 を目にしたので読んでみます!Rationaleとか背景の部分に関しては今までもう散々書いてきているので、今回は私が個人的に書き留めておきたいと思ったところに絞ってまとめますです。

冒頭で面白いと思うのは「(脳振盪にも"Exercise is medicine"と充分に言えるだけのエビデンスが揃ってきたことを指摘して、)しかし実際の薬同様、これらの有酸素運動は個人に合った『処方された容量(dosage)』を守る必要がある」と強調しているところですかね。なるほど、だから"Medicine(薬)"だって言ってるのか!

●有酸素運動と脳振盪
早期の動物実験では、脳振盪を起こしてから最低2週間は休息を取ってからでないと運動の効果は表れないとか、強制的に運動させられたネズミは自主的に運動したネズミに比べて効果が出にくいとか様々な結果が論じられましたが、普段から身体を鍛えている「アスリート」ネズミや「アスリート」人間においては運動の効果が特に大きく出やすいことがここまで分かっているそう。これは知らなかった!普段からトレーニングを積んでいると、脳振盪受傷時にも運動にrespondしやすくなるんですね!

●脳振盪後の運動負荷評価法
The Buffalo Concussion Treadmill Test(BCTT)は"systemicでreliableな評価法である"と文中で述べられています…が、この論文では「(下肢の整形外科的障害や脳振盪後遺症などによるバランス能力の欠如などで)トレッドミルが適切でない患者のために、The Buffalo Concussion Bike Test (BCBT)を作りました」と新たな評価法を提案してもいます。うおおおお、びっくり!でもそうか、言われてみれば要るよね!

このBCBT、一分間に60回転から初めて、2分毎に(患者の体重に基づいて)負荷を上げていき、RPEが17以上になるか症状が悪化するまで続ける、という基本的にはBCTTと同じ流れのようです。これは既にBCTTと同じ精度で閾値が出せることは研究済み(↓)だそうですから、互換性があると言ってよさそうですね。場合によって使い分け可能と(まぁ、もっと研究されてもいい分野ではありますが)。
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●運動処方
このセクションは特に目新しい情報はないんですが…。面白かった一文は「一般的にアスリートは閾値心拍数の回復が早く、1-2週間毎に10拍くらいのペースで改善していくが、非アスリートは1-2週毎に5-10拍くらいのペースでの回復をすることが多い」というところでしょうか。もちろん個人差はあり、このペースはあくまで目安でしかないんですけれども。
加えて、今年発表になったRCT2 で脳振盪急性期(受傷平均4日以内)の中高生(平均15歳, n = 57…つまり脳振盪とその回復に最もvulnerableな患者層と言ってもいいでしょう)にこのプロトコルを使用しても翌日の症状が悪化したり回復が遅れたりすることはなかったそうなので、「トレッドミルからで転んだり落ちるような整形外科的・前庭系に問題がなく、心臓病のリスクが低ければこの運動処方法は安全である」と断言するDr. Leddyの口調も、以前より確信を帯びているように感じます(完全にファン目線ですが)。

●脳振盪の生理学的影響と運動の効果
ここで興味を惹いたのは「Brainstem(脳幹)」という言葉が文中で使われている頻度です。脳幹は皆さんもご存知の通り命を司る(i.e. 呼吸、心拍、食事、睡眠 etc)、脳の中でも最も原始的で重要な部分ですが(他のところが大事じゃないと言っているわけではないんですが、損傷すると致命傷になる確率が最も高いという意味で)、同時に自律神経機能を司るという機能も兼ね備えています。どうやら脳振盪受傷時に回旋力(rotational force)でもって脳幹に微細な損傷が起きているケースがあるんじゃないかと、言い換えればそういう患者がPCSになっているんじゃないかという説が今有力になってきているそうなんです。DTI画像検証でも確認されているんだとか。
んで。自律神経ってのはCerebral Blood Flow (CBF, 脳への血流)などもコントロールしているわけで。さらに面白いのが「脳振盪患者は動脈血炭酸ガス分圧(arterial CO2 tension, PaCO2)に鈍感になっており、運動中にhypoventilate(低換気状態)に陥りやすい」「こうなると動脈血炭酸ガス分圧はますます上昇し、それに比例してCBFも上昇する。結果、脳への血流が異常に増え、頭痛や眩暈などの症状に繋がり、Exercise Toleranceが低下する、と言われてしまうわけだ」という説明で、「閾下運動はこのPaCO2 Sensitivityを上げ(= 敏感にする)、『通常』値に戻す効果があり、結果、運動中の呼吸、CBF、Exercise Tolerance、自律神経機能を通常化する、つまり脳振盪から回復させる効果がある」んだそうです。ふわー、なるほどね、そういう角度での説明ですか!PaCO2 Sensitivityね!勉強になるわー。

●PCSのDDx
脳振盪後に症状が続くのはPCSかも知れないし、他に原因があるかもしれない、その鑑別診断(DDx)は行われるべきである、という文章にはドキリ。今までこういう見方をしたことがなかったし、他の論文でも読んだ記憶がなかったけど、確かに言われてみれば…。Dr. Leddyらは「BCTT/BCBTで症状が悪化することなく最大疲労までたどり着ける患者はPCSではない」「Posttraumatic disordersや頸椎、前庭、視覚障害など何か他に問題がある場合が考えられ、それらの可能性を他の検査を用いて絞っていける」と述べ、本来「評価テスト」であるはずのBCTT/BCBTが「鑑別診断テスト」としても一役買うと論じています。

まとめると、慎重に処方された運動はやはり脳震盪からの回復を早める、ということですね。この薬物でない比較的簡単・手軽に手に入る「薬」は、脳振盪治療と安全な早期回復、PCS予防に新たな次元を足すだろう、とDr. Leddyは述べています。長いこと研究とメッセージを追っているのでもはや尊敬の念が膨れ上がりすぎて、Dr. Leddyの言うことはなんでも信じたくなってしまっているのが私の注意すべき点ですが(苦笑)、これからも彼の功績をしっかりと追い、彼の言葉を批判的に楽しみ、吟味し続けていきたいと思います。とりあえず、このNarrative Reviewは彼の一つのマイルストーンなのではないかと思っています。ありがとうDr. Leddy!

追記: ところでこの論文はフリーフルテキストですよ。興味のある方はこちら(PDF)からどうぞ。

1. Leddy JJ, Haider MN, Ellis M, Willer BS. Exercise is medicine for concussion. Curr Sports Med Rep. 2018;17(8):262-270. doi: 10.1249/JSR.0000000000000505.
2. Leddy JJ, Hinds AL, Miecznikowski J, et al. Safety and prognostic utility of provocative exercise testing in acutely concussed adolescents: a randomized trial. Clin. J. Sport Med. 2018; 28:13Y20. doi: 10.1097/JSM.0000000000000431.

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  by supersy | 2018-08-14 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

大阪EBP講習定期開催のお知らせ & 月経周期とそれに伴う呼吸の変化。

まずは告知です。

ありがたいことにご依頼を頂いて、来月の9月から大阪でEBP定期講習を行うことになりました。約3ヵ月に1講習のペースで大阪市立青少年センター(KOKOPLAZA、新大阪駅から徒歩5分)にて毎回異なるテーマでの定期開催(全4回、7講習)をする予定です。今のところの構想はこんな感じ。

第一回: 9月16日(日)
13:00ー16:30 ①EBP基礎編: スポーツ傷害評価編
16:45ー17:45 阿部と語ろう *質疑応答形式のワイワイお喋りタイム
受講費:10000円(学生9000円)
フェイスブックのイベントリンクはこちらから
お申し込みはこちらから

<継続受講割システム>
2回目以降も継続して受講される方には、2回目以降で継続受講割が適応になります。受講すればするほどお得!

第二回: 2019年1~2月開催予定
②EBP臨床応用編: 評価 - ACL損傷評価法
③EBP臨床応用編: 評価 - 手首の痛み評価法

第三回: 2019年4〜5月開催予定
④EBP基礎編: 治療介入編
⑤EBP臨床応用編: 治療介入 - 腱障害とリハビリ

第四回: 2019年8〜9月開催予定
⑥EBP基礎編: 予防医学編
⑦EBP臨床応用編: 治療介入 - AMIと抑制解除療法

楽しくエビデンスを使いこなせるようになろう!がテーマのこの講習。本来クローズドの講習であるところ、主催者さんのご厚意でオープンにして頂きました。資格関係なく誰でも参加可能です。初級者もエビデンス苦手な人も、もちろん学生さんも大歓迎!定員は50名で、満席になり次第締め切られます。今回は要望を受けての特別開催で、いつも主催をしてくださる高橋さんを介していない都合でBOC-CEUは一切つきません。ATC有資格者の方、ご注意下さい。



さて。Pelvic Floor/Pelvic Diaphragm (骨盤底・骨盤隔膜)と呼吸の関係なんかについてぽつぽつと文献を読んだりしていたわけですが、はたと面白い論文に出会いました。
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1999年発表の古い論文…というか編集後記に近い文章1 なんですが、「女性は黄体期*に過呼吸に陥る傾向がある」2 「閉経前の女性がObstructive Sleep Apnea(閉塞性睡眠時無呼吸症)になることは極めて稀である(…が、閉経後に発症が急増化する)」3 などのここまで報告されているエビデンスを列挙し、「Pelvic organ prolapse(骨盤臓器脱)が起こっている患者は下腹部周りの組織のコラーゲン代謝と繊維の構造に異常が起こるだけでなく、関節の不安定症など全身にも及ぶ影響を受けていることも分かっている。4 これを考慮すれば、肺組織のコラーゲン繊維も異常をきたしており、故に肺の力学的機能とガス交換能力が低下→低酸素状態になる、という流れもうなずけるし、同様のことが生理周期と共に起こっていても何ら不思議ではない」と自論を述べています。すごいなぁ、のびのびとした自由な発想!(←皮肉ではなく心から褒めています!こういうのが論文に載る時代だったのいうのは、豊かな思考に許容があったということ。今できないのが惜しい!)
*黄体期: 月経周期で排卵から次の生理までの約2週間の期間

んで。
疑問がふつふつと出てきたので私も色々調べてみました。

ニンゲンには動脈内の酸素レベルが下がると呼吸数を上げること(過呼吸をする=hyperventilate)でそれを補おうとするという代償反射(reflex hypoxic drive)があるのですけど、この反射反応は月経周期の黄体期に特に顕著に見られる5,6 と1980年代に10人前後の被験者を用いた実験で確認されており、さらに2013年発表の4000人規模の研究7 でも「月経がはじまる直前(黄体期中期~卵胞期中期くらい)にかけて呼吸障害(喘鳴、息切れや咳など)が引き起こされる頻度が最も高くなる」と報告されています。

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ではこの時期(黄体期)、運動時の呼吸にはどのような影響が出るのか?これも古い(↑1981年発表)研究8 で被験者の数も少ないですが(6人の月経がある女性アスリート、6人の月経がある非アスリート・コントロールと6人の無月経の女性アスリートの比較…合計18名)、結果にかなり興味深いものが多くあります。箇条書きでまとめると…

- 月経がある被験者はアスリート、非アスリート問わず黄体期に休息時の呼吸数(p = 0.0001)と歯の食いしばり圧(mouth occlusion pressures, p = 0.02)が著しく高なり、ハイパーカプニア・低酸素状態に陥りやすい
- しかし全体的な症状は非アスリートのほうがアスリートによりも如実に出る。黄体期中、非アスリートはアスリート比べてより重度の低酸素状態になる(p < 0.001)という結果が出たことに加え、最大強度での運動中、非アスリートのみ運動継続可能時間とVO2maxが黄体期中に著しく低下した(p < 0.05)。
- 無月経のアスリートは一か月のサイクルを通じて特に変化は見られなかった

…そんなわけで要約すると、月経がある女性において、アスリートも非アスリートも黄体期には休息時も運動時にも呼吸の効率が落ちる・呼吸の需要が高まると言える。しかし、アスリートにおけるその影響は生理学的レベルでは認められるものの「パフォーマンスに影響が及ぶ」レベルには達していない

うっわー…面白くないですかコレ…。比較的最近の研究(↓2012年発表)9 でも健康な女性被験者10人において1) 休息時の呼吸頻度・呼吸深度共に黄体期のほうが著しく高かったこと、2) 60分ほどの運動の際に黄体期の間は皮膚血管拡張が起こりにくくなっており、体温調節にも影響が出るかもしれないことなどが指摘されています(…ということは黄体期の女性は熱中症になりやすいのか?なんて完全に脱線した疑問も湧きますけれども…)。
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こういった月経周期に伴う呼吸の変化は喘息患者により如実に出るという報告10,11 もあり、黄体期に特に吸気能力が低下するため、喘息患者トレーニングを調整する必要があるのでは、と提案する研究者らもいます。11

ACL断裂と月経周期の関連性はあるのか?(2015-09-17)
ACL断裂と月経周期の関連性はあるのか?完結編。(2015-09-19)
脳振盪は生理周期にまで影響を及ぼす。(2017-09-21)

月経に関してはあれこれ記事を今までも書いてきましたが(↑)、やっぱり深いトピックですなー…。まとめると、「黄体期に女性は低酸素状態に陥りやすく、その代償として過呼吸状態になっていることが多い。それはパフォーマンスにハッキリと影響を与えるほどではないかもしれないが、喘息など呼吸器系の問題がある患者さんの場合、トレーニングメニューなどを再考慮する必要はあるかもしれない」ということかと。

こういった変化が起こる理由として「ホルモン」が様々な文献で挙げられていますが、1980年代の文献がそれをコラーゲン繊維の変質と絡めて「原因か?」と述べていた一方で、私はCNS(中枢神経)の影響も否定できないと感じています。生理直前、多くの女性がPMS(イライラなど)を経験するというでしょう?感情が揺さぶられているということは、神経学的に脳に影響が出ているということですよね。そして脳は呼吸を司どっているコントロール・センターでもある。生理学的なコラーゲン繊維云々ももちろん要因のひとつとして挙げられるとは思うんですが、自律神経などの影響も考慮・これからもっと検証されるべきじゃないかと思います。

いやー面白かったです。古い文献が多かったですが、良質な呼吸関連の文献は80-90年代が一番アツかったと個人的には思っています。ここらへんの分野、また読みたい!

1. Cherniack NS. The pelvic-pulmonary connection. Respiration. 1999;66(5):396.
2. Eterović D, Strinić T, Dujić Z, Boban, M: Blood gases and sex hormones in women with and without genital descensus. Respiration. 1999;66:400–406.
3. Popovic RM, White DP: Upper airway muscle activity in normal women – influence of hormonal status. J Appl Physiol. 1998;84:1055–1062.
4. Rechberger T, Donica H, Baranowski W, Jakowicki J: Female urinary stress incontinence in terms of connective tissue biochemistry. Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 1993;49:187–191.
5. Takano N. Reflex hypoxic drive to respiration during the menstrual cycle. Respir Physiol. 1984;56(2):229-235.
6. Takano N. Changes of ventilation and ventilatory response to hypoxia during the menstrual cycle. Pflugers Arch. 1984;402(3):312-316.
7. Macsali F, Svanes C, Sothern RB, et al. Menstrual cycle and respiratory symptoms in a general Nordic-Baltic population. Am J Respir Crit Care Med. 2013;187(4):366-373. doi: 10.1164/rccm.201206-1112OC.
8. Schoene RB, Robertson HT, Pierson DJ, Peterson AP. Respiratory drives and exercise in menstrual cycles of athletic and nonathletic women. J Appl Physiol Respir Environ Exerc Physiol. 1981;50(6):1300-1305.
9. Hayashi K, Kawashima T, Suzuki Y. Effect of menstrual cycle phase on the ventilatory response to rising body temperature during exercise. J Appl Physiol. 2012;113(2):237-245. doi: 10.1152/japplphysiol.01199.2011.
10. Farha S, Asosingh K, Laskowski D, et al. Effects of the menstrual cycle on lung function variables in women with asthma. Am J Respir Crit Care Med. 2009;180(4):304-310. doi: 10.1164/rccm.200904-0497OC.
11. Stanford KI, Mickleborough TD, Ray S, Lindley MR, Koceja DM, Stager JM. Influence of menstrual cycle phase on pulmonary function in asthmatic athletes. Eur J Appl Physiol. 2006;96(6):703-710.

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  by supersy | 2018-08-13 06:30 | Athletic Training | Comments(0)

日本におけるカフェイン過剰摂取の現状と、アスリートへのアドバイス。

これから日本で仕事していく上で日本のアスリートがしている(かもしれない)ことも学ばにゃ、ということでこんな今月(2018年8月)発表の最新論文1 を読んでみました。
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アメリカでは若者のカフェイン過剰摂取による死亡事件はハッキリ言ってもはや珍しいものではないのですが、日本でも2015年に初の死亡事故が報告されて以来、この問題は拡大し続けているんだそうです。この論文では、2011-2016年の間にカフェインの過剰摂取で救急病院に搬送された患者101人(中央年齢25歳、年齢幅14-54歳、男53人、女48人)について詳細を追調査し、その患者に多く見られる特徴をまとめています。

まず目につくのは救急受診患者数の変移ですかねー。2011年度、2012年度はそれぞれ10人、5人だったのに対して2013年度は24人、2014年度は25人、2015年度は37人に膨れ上がっていることから、時代の移り変わりとともにカフェインを含むサプリメントやドリンクが一般に流通するようになり、人々が手に取りやすくなったことを示唆しています(↓)。
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*文中のデータを元に作成
次に摂取方法ですが、101人のうち、96.0%にあたる97人がタブレット状の、10人(9.5%)が液体状のカフェインを摂取。うち5人は両方の形状を同時摂取していたそうです(ん?ひとり計算合わなくない??)。
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具体的な内訳としては、タブレットを摂取した97人の患者のうち75人(75/97 = 77.3%)はエスタロンモカ®というエスエス製薬製品の錠剤(一錠あたりカフェイン100mg)を摂取していた一方で、液体状のカフェインを摂取した10人のうち6人(6/10 = 60.0%)はモンスター・エナジー®飲料(355ml缶あたり142mg)を、2人(2/10 = 20.0%)はレッドブル®(250ml缶あたり80mg)を飲んでいたそうな。エスタロンモカ®という製品は初めて聞きました。眠気覚ましなどによく使われる第3類医薬品(OTC薬)なんだそうです。

これは病院スタッフが患者来院時に集めた情報に基づく推定でしかないのですが、101人のうち93人の患者は搬送時点で3.5時間(幅: 0.8-24.0時間)以内に7.2gのカフェイン(幅: 1.2-82.6g)を摂取していたことが判明。17人の患者においての血中カフェイン濃度も病院で計測されていたようなのですが、その中央値は106.0 µg/mL(幅: 2.0-530.0 µg/mL)だったというのだから驚き。一般にカフェイン血中濃度の致死量は80-100 µg/mLと言われていますから、2これらの患者が全員死亡していてもなんら不思議はなかったわけです(最大値の530 µm/mLはヤバいです)。
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続いて患者のバイタル・データや血液検査結果のまとめなんですが、Table 1(↑)を見ただけではあまり目につくようなものはないかも知れません。96人中55人(57.3%)がTachypneaであったとか98人中58人(59.2%)がTachycardiaであったとか文中には書いてあるんですが、言い換えれば約半数の人はそうではなかったということなので、診断の指標や状態の予測にはつながりにくいように思います。Table 2(↑)は逆に、というかなんというか、具体的に患者のカフェイン摂取量や血中カフェイン濃度と強い関連性のあるパラメータを示しています。例えばカフェイン摂取量と呼吸率(Respiratory Rate, RR)は「正の相関性」がありますので、カフェインを摂取すればするほど呼吸数も比例して増えていくという意味ですし、一方でカフェイン摂取量と意識レベル(Glasgow Coma Scale, GCS)は「負の相関性」がありますから、カフェイン摂取量が多ければ多いほど意識レベルは下がる傾向にある、という関連性が示されているわけです。脱線するかもしれませんが、ここで文中にさらりと書かれている「カフェイン摂取量と血中カフェイン濃度にはcorrelationは認められなかった(Spearman's rank correlation coefficient: -0.201, p = 0.454)」というのが私は非常に興味深いと思いました。カフェインを体内から除去する能力に個人差が大きいということかな?それとも摂取からの時間経過がそれほど考慮されていないので、ハーフライフが短いカフェインは比較的効率よく排除される分、摂取量そのものとはそれほど関連性はないということかな(「一時間以内のカフェイン摂取量と血中カフェイン濃度」なら関連性あり)?

一人一人の患者に提供された具体的な治療については省きますが、最終的なアウトカムとして101人中7人(6.9%)が心肺停止状態になり、集中治療を要したとのこと。大多数の患者(85/101 = 84.2%)の患者が平均3日の入院を余儀なくされ、最終的に97人の患者(97/101 = 96.0%)が全治して退院できたものの、3人(3/101 = 3.0%)が死亡したそうです(1人は頭痛が取れないままの退院となったので「全治」にも「死亡」にも含まれていません)。ふーむ。

この論文の結論ではカフェイン・サプリメントのオンライン販売や自動販売機でのエナジードリンクの販売拡大などでこういった製品が若年層にも簡単に手に入りやすくなっていること、形状としてはサプリメントのほうが液体(エナジードリンク)より安価で濃度の高いカフェイン摂取が可能なことなどを指摘。これからの救急患者のスクリーニングに血中カフェイン濃度のテストを入れるべきではないかと提案、そしてカフェイン・サプリメントの販売時にそのリスクを十分に消費者に伝える努力をすべきであると述べています。ここらへんは至極理に適っていると思います。



スポーツ薬学の授業を教えていた時にも、カフェインは身近な話題でしたので特に時間を使って話した覚えがあります。その一環として毎年学生に、「身近にあるカフェインを含む食べ物や飲み物をふたつ選び、そのカフェイン含有量と、それをどれほど摂取すればNCAAの規則違反になるか計算せよ」という課題を出していたのですが、昨年度の授業でのその課題結果をまとめたものがこちら(↓)です。
*一応明記しておくと、NCAAでは尿中カフェイン濃度が15 µg/mLを越えると「違反」になります。これは約500mgのカフェインを摂取すると越える数値で、具体的には2-3時間以内にコーヒーを5~8杯飲むことに相当する数値です(含みがあるのはコーヒーも種類によってカフェイン含有量が異なるからです)。
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いわゆる「プロテイン・パウダー製品」にもかなりのカフェインが含まれていること、最も高い含有量を誇るエナジードリンクである「タイムリリース」という製品(中央上)には小瓶でなんと違反範囲スレスレの422mgものカフェインが入っていたことに学生ともども驚いたものです。アメリカと日本の製品はレギュレーションも異なるでしょうから日本ではこれほどカフェイン含有量はアグレッシブではないのかもしれませんが、やはり注意するに越したことはないと思います(日本の大学スポーツではどれほどのカフェイン摂取が「違反」扱いになるんでしょう?)。
授業ではこの流れでアスリートがカフェインを摂取して練習に臨む危険性についても話し合い、例えばこういった記事(↑)を読みながら「心肺機能への負担は?」「どんなリスクがどれほど高まる?」から、「では我々はATとしてどういったカフェイン摂取に関する教育をアスリートに施すべきか?」までディスカッションします。

私が授業で強調するようにしているのは、「アスリートだからってカフェイン摂取を一切断つ必要はないし、エナジードリンクを絶対に飲むな!って言っても素直に従うアスリートは少ないと思うんだよね。隠れてこっそり飲むようになるだけで」「だから(NCAA既定内の摂取に抑えるのは倫理的に前提として)、健康で現実的なカフェインとの付き合い方を一緒に模索していくのが一番建設的だと思うのよ」「あとは選手が『カフェインを摂らなきゃやっていけない』と考えているとしたら、そのメンタリティーの背景をきっちり探ることだよね。睡眠が十分に取れない→昼間眠くなる→エナジードリンクをがぶがぶ飲む→夜眠れないというサイクルに陥ってるかもしれないし…。となれば、どう高い質の睡眠を確保するかを話し合うことこそが真の治療につながるわけで」…というところで、そのためにはこの論文(↓)3 で提言されている「テーブル3: 若者へのエナジードリンク摂取に関する推奨事項」に触れ、授業を〆るようにしています。
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私なりに和訳してみると:

 1. エナジードリンクの摂取は一日に一缶(250ml)を超えないようにする
 2. スポーツ・部活の練習前や最中には摂取しない
 3. 心血管系の疾患がある場合、エナジードリンクの摂取についてまず医師に相談する
 4. アルコールやその他の薬とは併用しない
 5. 保護者もエナジードリンクの副作用・悪影響についての知識を持っておく
 6. エナジードリンクの過剰摂取や乱用について継続的に提言を続ける

これらの項目は非常にシンプルで、easy-to-follow(実践的)かなと思うんです。Too simpleかも知れませんが、AT学生に知ってほしいオトシドコロとしてはアリかなということで。

私自身もコーヒーは好きだし、よく飲みます。時に飲む紅茶も美味しいですし、カフェイン=悪なんかでは全くないかと思っています。その一方、日本の講習会や勉強会で一日に何本もエナジードリンクをごくごく飲んでいる受講者さんを目の当たりにして、「仮にも身体との付き合い方を教えるべき立場の方が!?!?」と度肝を抜かれることも今まで1、2回ではありませんでした。プロとして、アスリートの安全を確保するような教育を提供できるのはもちろん、自分でもそれらの習慣を実践できているようにありたいものですよね。この機会に、自分とカフェインとの付き合い方を一度見つめ直してみるのもいいかも知れません。

1. Kamijo Y, Takai M, Fujita Y, Usui K. A Retrospective study on the epidemiological and clinical features of emergency patients with large or massive consumption of caffeinated supplements or energy drinks in japan. Intern Med. 2018;57(15):2141-2146. doi: 10.2169/internalmedicine.0333-17.
2. Cappelletti S, Piacentino D, Fineschi V, Frati P, Cipolloni L, Aromatario M. Caffeine-related deaths: manner of deaths and categories at risk. Nutrients. 2018;10(5). pii: E611. doi: 10.3390/nu10050611.
3. Sanchis-Gomar F, Pareja-Galeano H, Cervellin G, Lippi G, Earnest CP. Energy drink overconsumption in adolescents: implications for arrhythmias and other cardiovascular events. Can J Cardiol. 2015;31(5):572-575. doi: 10.1016/j.cjca.2014.12.019.

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  by supersy | 2018-08-11 16:30 | Athletic Training | Comments(0)

サマータイム導入に伴う弊害は何なのか。交通事故と睡眠に関するエビデンスを振り返る。

今回は短くサックリと。

今日本ではサマータイムがよくニュースの話題に登っています。アメリカではDaylight Saving Time(DST)と呼ばれるこのシステムは、当然アメリカのほとんどの州でも導入されているわけですが…私は16年間アメリカに住んでいて、正直言って結局一度も慣れたと感じることがありませんでした。たった1時間時計が早く・遅くなるだけ、と思われるかも知れませんが、毎年毎年どうしても疲労感・倦怠感が体に残り、体内時間が大きく乱れてしまって、それを取り戻すのにかなり時間がかかってしまった年もありました。今回検討されている「2時間のサマータイム導入」の影響はどんなものになるのだろうと今からヒヤヒヤしているのは私だけではないはずです。
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By TimeZonesBoy - Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=17593495
ちなみに予備知識的に。こちらの図(↑)は地球上でサマータイム制度を導入している国(青: 北半球オレンジ: 南半球)を表したものです。導入している国は全世界の1/3にすぎない、というのは改めて指摘されると意外な気もしますね。グローバルな視点から見ると、サマータイム導入国は現時点では少数派、マイノリティーなわけです。

さて、サマータイムにはもちろんProposed Benefits(提案されている長所)もあるのでしょうけれど、長所があるということはその陰で犠牲にされている短所もあるということは否定しきれません。ここでは、1) 交通事故のリスクと2) 身体的変調をきたすリスクについてデータを振り返りながらまとめたいと思います。


1) 交通事故のリスク
道路整備事情や車の技術の進歩、運転者の技術・知識・社会的背景の移り変わりなども影響を及ぼす可能性があるので、このテーマについては2000年以降に収集されたデータを元に書かれた論文のみ読んでまとめてみることにしました。条件を満たした論文が3つ見つかりまして。

●論文#1: 北半球・USA、アリゾナとインディアナ以外*の全州(2002-2011)1
*アリゾナとインディアナ州の一部ではDSTが導入されていないため
結果: サマータイム開始後6日以内に一般的に感じられる「倦怠感」は31%(p < 0.05)上昇し、交通死亡事故(fatal vehicle crashes)は6.5%(p = 0.007)増える。サマータイムが終わって通常時間に戻る際は交通事故リスクは変化せず、スコッと元通りに下がらないというところも興味深い。

●論文#2: 北半球・アイルランド(2003-2012)2
結果: サマータイム開始からの2週間以内で交通事故件数に大きな変化はないものの、(より暗くなっている)朝の時間帯に起きた交通死亡者数(casualties)は33.5%、(交通事故に巻き込まれて亡くなった)歩行者死亡者数(pedestrian casualties)は105.3%(= 倍以上)に上昇。サマータイムが終了してから1週間と2週間以内の交通事故件数はそれぞれ26.9%と17.3%減少するが、(より暗くなっている)夕方の時間帯の歩行者死亡数は1週間で68%、2週間で32.5%とそれぞれ上昇していた。

●論文#3: 南半球・ニュージーランド(2005-2016)3
結果:サマータイム開始初日(日曜)に交通事故件数が16%増、翌日(月曜)にも12%増。そこからさらにじわじわと5日間かけて事故件数は上がっていき、週の終わりである金曜日は開始直後の月曜日よりも事故数が19%上昇する。

ちなみにこれら3つ全ての研究は国家規模の大規模なデータを使った研究で、10年間かそれ以上の統計をまとめたものです。市区町村レベルの小さなものでないことは明確に指摘しておきます。

2) 身体的変調をきたすリスク
これらの交通事故件数上昇の背後には、日照時間の変化(例: 「朝」の時間がより暗くなり、視界が悪くなる)と、睡眠時間の変化によって起こるのではないかと言われており、1-3中でも睡眠に関しては、「サマータイムが始まる(= 一時間失う)とヒトは平均して普段より睡眠時間が40分減るが、サマータイムが終わっても(= 一時間得る)ヒトは一時間長く眠るというわけではない」4という報告は目からウロコでした。…いや、確かに実体験でも確かにそうなんですけども。サマータイムが始まるからって一時間寝るのを早めようとは思わないし(いやまぁ寝なきゃとは思うんですけど眠くならなくて)、サマータイムが終わるときはむしろ「一時間夜更かししても同じだけの睡眠が得られる」と思ってしまって論文ひとつ余計に読んだりとか…。

サマータイム開始時の「睡眠不足」は成人だけでなく思春期の高校生でも同様のようです。高校生ではサマータイム開始後の一週間で、一日当たり32分の「睡眠不足」が起こっており、これによって集中力が散漫になる→学業にも影響が出るのでは?という報告がなされています(アスレティックトレーナー的に考えると、この状態で放課後、部活の練習をするとなれば怪我のリスクも上昇するかもしれません)。5 これらの「睡眠不足」は、個人差は2日~2週間と幅広くあるものの、平均一週間ほどかけて徐々に解消されていくんだそうです。6 その間に失う仕事(学業も含む)の生産性、注意力欠如で起こる仕事のミスや交通事故の頻度上昇、ホルモンのバランスが乱れることによって起こる健康被害…。これらの全てはまだ推測や仮説の域を出ておらず、具体的にデータとして我々の前に姿を現していませんが…。2時間ものサマータイムを超短期オリンピックという目的のみのために導入するとしたら、それに伴う人材、経済、健康的弊害は何なのか充分に、慎重に検討し、それらの弊害の対策も考えたうえでの決断であってほしいと思います。

1. Smith AC. Spring forward at your own risk: daylight saving time and fatal vehicle crashes. Am Econ J Appl Econ. 2016;8(2):65-91. doi: 10.1257/app.20140100.
2. Sarma KM, Carey RN. The potential impact of the implementation of the Brighter Evenings Bill on road safety in the Republic of Ireland. A report for the Road Safety Authority of Ireland. 2015.
3. Robb D, Barnes T. Accident rates and the impact of daylight saving time transitions. Accid Anal Prev. 2018;111:193-201. doi: 10.1016/j.aap.2017.11.029.
4. Barnes CM, Wagner DT. Changing to daylight saving time cuts into sleep and increases workplace injuries. J Appl Psychol. 2009;94(5):1305-1317. doi: 10.1037/a0015320.
5. Medina D, Ebben M, Milrad S, Atkinson B, Krieger AC. Adverse effects of daylight saving time on adolescents' sleep and vigilance. J Clin Sleep Med. 2015;11(8):879–884.
6. Harrison Y. The impact of daylight saving time on sleep and related behaviours. Sleep Med Rev. 2013;17(4):285-292. doi: 10.1016/j.smrv.2012.10.001.

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  by supersy | 2018-08-08 22:30 | Athletic Training | Comments(0)

臨床家として、貴方は言葉をどう紡ぐか。

ずっと読みたかったこの論文1 を友人の助けを借りてフルテキスト入手できました!ありがとうしょうくん!さて、今回の論文はClinical Viewpoint - つまりイチ専門家の意見でしかありません。しかし、様々な臨床家が共感し学ぶことのできる内容だと思いますので読んでまとめてみるでごんす。
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言葉は人を救いもするし傷つけもする。この凄まじいパワーを秘めたツールを、我々はMusculoskeletal Rehabilitationの場で正しく使えているのでしょうか?

リハビリに来る患者さんが『元気いっぱい』ということは、皆さんもご周知の通り稀で、「リハビリに来なければいけない期間」は、それぞれの患者さんの長い人生の中でも『谷』の状態であることは珍しくないのではと思います。言い換えれば患者さんの心が特にvulnerable(吹きさらしになっている状態)やsensitive(周りのものや人に過敏な状態)になっている時期だと思うんですよね。そんな中で我々「リハビリの専門家」が紡ぐ言葉は、患者の中に生まれては消える様々な思考を潰しもすれば広げもする。ここは我々臨床家は改めて自覚すべきことなのではないかと思います。
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この論文の著者は「患者が今精神的にどこにいるか」は「患者が今病理解剖学的にどこにいるか」よりも傷みと機能をより正確に反映する、2-4 というここまでのエビデンスを引用し、「後者にばかり焦点を当て続けることは前者を悪化させることにもつながりかねない」「心理的要素はもっと認識され、理解され、その考慮は治療の過程で反映されるべきである」と議論を展開しています。患者を脅すような言葉遣いや、不明瞭な情報の提供の仕方は避けられるべきであり、自分たちの言葉がどう解釈される可能性があるか我々はもう少し自覚を持って警戒すべきであるというところは私も心から賛成です。「不明瞭な表現は相手の心情に合った色に塗り替えられてしまう」という表現は、特になるほど!と感じました。解釈に遊びが生まれてしまう、とでも言うんですかね。我々が患者に「最悪の場合は手術ということになってしまう可能性(may, possibly, perhaps)は否定できない(<1%)。でも殆ど(99%)の場合はリハビリをすれば大丈夫だよ」と言ったとして(そしてカッコ内の%は発信者の意図だとして)、この情報が患者の耳から脳に伝達される過程で"may, possibly, perhaps"が抜け落ちて「手術をしなければいけない(100%)」に書き換えられてしまうことはよくあることです。私も実際に臨床の現場で幾度も経験したことがあります。

患者自身の「もう治らないんだ」「良くならないんだ」という思い込み(= low recovery expectations)は乏しいアウトカムのstrong predictorであると言われています。3 このマインドセットでは冗談ではなく本当に治るものも治らなくなってくる可能性があるのです。

この論文では1) 「degenerative discs」という言葉が、いかに医療従事者間では「mildかつstraightforward(軽度な病変を反映しており、比較的聞いたままの分かりやすい言葉である)」と捕えられる一方で、患者には「catastrophic(壊滅的)」な響きを持ったものに聞こえ、不必要な不安を掻き立ててしまうか; 2) 「Have you noticed any problems with your bladder or bowels?(消化器官系や泌尿の問題はありませんか?)」という何気ないルーティーン的問診をする際、我々臨床家は「いつか消化器官や泌尿器官系に問題が起こるのではと恐れている患者にその問題がもたらすかも知れない更なる不安感」という影響にまで考えを巡らせているのか?など具体的な臨床のシーンを例に、我々の言葉が臨床上harmful(有害)になってしまうかも知れない可能性を指摘。加えて頭部や脊柱損傷などの場面も例に挙げ、こういった症例で臨床家は「この怪我がどんな組織の損傷を伴っているのか、どのように残りの人生の中で『患者が二度とできなくなってしまうこと』が定義されていってしまうか」ではなく、「これから治療をしていくことでいかにこれからの人生への有意義な土台作りができるか」に焦点を置いた"therapeutic emplotment(治療的筋書き構成)"を意識的に行うべきであると論じています。

では、患者の人生を再構築していく治療過程で、具体的に我々は「degenerative discs」のような状態をどう建設的に言い換えればいいのでしょうか?

よく英語では「wear and tear」という表現が使われますが、実はこれも例えば機械(マシーン)などが長期的に酷使され、部品が擦り切れたり壊れたりするなどのイメージを伴う言葉で、患者が「technical fix(部品の交換や劣化した部分の除去など=手術)」がなければ良くならない、という間違った印象を抱いてしまうかもしれません。著者は代わりに「normal age changes (年齢を重ねるにつれ、自然に起こる変化)」のような表現を使ってはどうか?と提案しており、他にも色々とWords to Avoid (避けるべき表現)とAlternatives (代わりに推奨する表現)をテーブル(↓)にしてシェアしてくれています。なるほどねぇ。全部が全部賛成はできないけど、眺めていて面白いなぁと思うものは多いです。
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ここからは私の個人的な経験談ですが。以前大学女子バスケチームで働いていたときに、他選手にのしかかられる形でとある選手が練習中に膝を傷めました。すぐにチームドクターに連絡してMRIを撮ったのですが、結果はGrade 2(中度)の内側側副靭帯(MCL)損傷。つまり「部分断裂」という診断でした。正直、Grade 1(軽度、マクロ断裂を伴わない靭帯繊維の伸張)くらいかと思っていたので、思ったより悪かったか、ぐぬぬと眉をしかめたのを覚えています。

この選手は当時卒業を控えていた最上級生(4年生)で、彼女にとっては最後のシーズン。このシーズンを通して爆発的な得点力を発揮していたものの、気持ちにムラがあり、それがプレーにも反映されることからプレータイムは安定していませんでした。感情的になることも多い子で、コーチとの関係はお世辞にもうまくいっておらず、焦ったりしんどかったり色々あるのは私も知っていました。

しかし、私にとって有利になりそうな要素は当時2つありました。ひとつは、この選手は私には絶大の信頼を寄せてくれていて、コンプライアンスに心配はなかったこと。そして、彼女の膝はGrade 2のわりに状態は悪くなく(受傷当日に歩行可)、私は彼女が気持ちさえ落とさなければ迅速な競技復帰が可能であると踏んでいました。そこで、少しの賭けに出たのです。

私はこの結果を選手に直接口頭で伝える際、「MRIの結果が出たよ、Grade 2 MCL Sprain(捻挫)だって」と言いました(敢えて難しめの医学用語をそのまま伝えたわけです)。その上で、今の症状からはこういう回復の流れが期待できると思う、こういうタイムラインを考えている、そのためにこんな治療やリハビリが提案できるんだけど、どう?と「回復過程」に重きを置いて、絵やグラフを描きながら丁寧に説明しました。どう受け止めるだろうと彼女の表情は特に気を付けて見ていましたが、ほとんど表情を崩すことなく、神妙な面持ちで、でも前向きに私の話を受け止めてくれたのを覚えています。

その後、彼女はリハビリに毎日関心するほど精を出し(それをコーチにも知っておいて欲しかったので、毎日この子がどんなに頑張っているかということも事細かに伝えていました…これによってコーチもこの選手を見る目が少し変わったのではと個人的には思っています)、目に見えて一日一日ぐんぐんと回復していき、結果受傷後一週間で試合に完全復帰をするなど、かなりスムーズに進行したケースだったのを覚えています。足をかばうこともなく、鋭いペネトレーションはそのままで、プレータイムは以前より増えたほどでした。

無事に膝の痛みが再発することもなくシーズンを終えてから彼女に改めて、「あの膝の怪我ね、私Grade 2 Sprainだと言ったけど、どういうことだか分っていた?」と聞くと、「捻挫でしょ?」との返答。「捻挫ってどういう怪我のことを指すと思う?」と聞くと、「靭帯が伸びた感じ?」という返ってきたので、「それは非常に正解に近いよ。でもヒトクチに捻挫と言ってもこれは靭帯や関節包の損傷の総称だから、Gradeは1から3まであってね。1はまさに靭帯が伸びた感じで、2は部分断裂で3は完全断裂のことを指すんだよ」。これは私がMRIレポートを受け取った直後に彼女に『したかったけれども敢えて省いた』説明でした。「MRIレポートでは靭帯の約4割が断裂していたというよ」

彼女は口をあんぐり開けて聞き返しました。「部分断裂?断裂?」

「そう。でも『部分』断裂って言葉を使ったら貴方の耳には部分『断裂』しか入ってこないだろうなと思ったし、私がその後何を言おうと貴方の思考がストップしてしまう気がしたんだよ。内側側副靭帯の『断裂』はしっかりとした治癒が起こる部位だし、例えば前十字靭帯が断裂するのとはわけが違う。それに私は当時の状況から迅速な競技復帰は十二分に可能だという確信があった。『部分断裂』という伝え方をして不必要なものを壊したくなかったから、貴方には『Grade 2 Sprain』って伝え方をしたんだよ。嘘ではなかったけど(私は貴方に決して嘘をつかないことは約束するよ)、真実を事細かに伝えなかったのは申し訳なかったとずっと思っていたんだ」

すると彼女は目を丸くしたままこんなことを言いました。「いやSy、部分断裂と言わないでくれてありがとう。Sprainっていう表現で良かった、それが最善だった。部分『断裂』なんて言われたらもうそれだけで「終わりだ(I am done)!!!!」と思っていたと思う」

「私は仮にも貴方を数年分知っていて、どう伝えたらどういう反応が返ってくるか予測ができたからね(笑)。部分断裂といってもかなり絶望的な意味を伴う部分断裂もあれば、今回のようにかなりしっかりした望みのある部分断裂もあるというのが体験してみて分かったでしょう。でも後ろめたい気持ちがなかったわけではないし、そういってもらえると救われるよ。私と自分の膝の感覚を信じてリハビリを毎日頑張ってくれてありがとう。自分の成功を引き寄せるためにはよくわからぬ言葉尻に振り回されず、諦めずにどんな状況でもその日その日できることをしっかり毎日やること、だよ。それをしっかりやったから最後のシーズン気持ちよく終えられたんだ。他でもない自分の努力の結果だよ。よく頑張ったね」

患者と対話するとき、多くの臨床家は「いかに難しい医学用語を簡単な一般語にして正確に患者に伝えるか」という点ばかり気にしているのかもしれませんが、それは「Grade 2 Sprainを『靭帯の部分断裂』という言葉に直すのが常に正解」、と一概に設定してしまっているということでもあります。私は個人的に、特定の状況や環境において「敢えて患者の限られた知識を利用し、嘘をつくことなく、しかし危ない言葉の使用を回避しながらやるべきことに集中できる環境を作る」という技術も臨床家には必要なものだと思っています。この件がその典型的な例だったかなと。

一応明記しておくと、私は、敢えて何かをぼかすことは許容されるべきですが、患者に嘘をつくことだけは絶対にNGだと思っています。これは患者⇔臨床家の関係を壊すことにもつながりますし。患者にとって適切な表現を探し、工夫することと患者を騙すことは正反対ですので、「嘘をつけ!」「ごまかせ!」「事実を捻じ曲げろ!」と言っているわけではないというところだけは、勘違いなさらぬようお願いいたします…。

1. Stewart M, Loftus S. Sticks and stones: the impact of language in musculoskeletal rehabilitation. J Orthop Sports Phys Ther. 2018;48(7):519–522. doi:10.2519/jospt.2018.0610.
2. Chester R, Jerosch-Herold C, Lewis J, Shepstone L. Psychological factors are associated with the outcome of physiotherapy for people with shoulder
pain: a multicentre longitudinal cohort study. Br J Sports Med. 2018;52:269-275. doi:10.1136/bjsports-2016-096084.
3. Ivarsson A, Johnson U, Podlog L. Psychological predictors of injury occurrence: a prospective investigation of professional Swedish soccer players. J Sport Rehabil. 2013;22:19-26. doi:10.1123/jsr.22.1.19.
4. Linton SJ. Understanding Pain for Better Clinical Practice: A Psychological Perspective. Edinburgh, UK: Elsevier; 2005.



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  by supersy | 2018-08-06 23:00 | Athletic Training | Comments(0)

ATなら知っておきたいSpondylolysis/listhesis (脊椎分離症・すべり症)の的確な診断法。

わーもう8月になっちゃいましたね。ロンが帰ってからちょっとゆっくりできるかなと目論んでいたんですけど、結局なんだかんだで忙しいです。7月はEBP講習やクローズドの毎年恒例・おおすか整形&船橋整形さんの合同講習に呼んでいただいたりと、個人の仕事をあれこれしておりました。もちろんPRI講師としても広島ポスチュラルや東京ぺルビスなどちょこちょこやってます。今週末は京都に行って、その翌々週は大阪だー。
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EBP講習(↑)はいつも通りというかいつにも増して、新幹線はもちろん深夜バスや飛行機などで日本全国津々浦々から様々な方に来ていただいて本当にありがたいです…。学割導入してから学生さんの受講者も増えてきて、こんなに嬉しいことはないです!参加してくださった皆さん、筋肉痛はなかったですかー。

おおすか・船橋整形合同講習は肩に足首にと盛りだくさんでお送りしました!詰めすぎた説もありますが。
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どこかで見たようなエクササイズも…(著作権許可は頂いてます)。

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約50名の参加者さんと楽しい一日でした!講習会の後も色々それはそれは楽しかったんですけど、あんまり言うとまずいのでやめておきますふふふ…。

んで。
EBP講習なんですが、講習中にもお伝えした通り、年内にもうふたつの新しい講習(臨床応用レベル・評価編)を作成・開催する予定です(↓下の写真の「New!」の部分です)。日程など、詳細が決まり次第ここでお知らせします。かなり現場での実用性のあるわくわくどきどきな内容になる予定ですので、アナウンス楽しみにしていてくださいー。
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さて、ちょっと事情があってSpondylolysis/Spondylolisthesis(脊椎分離症/すべり症、通称Spondy)関係の診断知識をアップデートしてました。この怪我は以前にも書いた通り、「若いスポーツ選手に多い」「治療が厄介(疲労骨折なのでスムーズに回復しないこと多し)」「症状が無い(= asymptomatic)ケースも多く、見逃しやすい」など診断・その後のアプローチが非常に難しい傷害ですよね。

さて、その診断方法というと私の頭の中にあったのは前回更新した分だったのですが、これ書いたのってかなり前…と、思って見てみたら5年前の2013年でした。ですので今回は2015年、2016年、2017年に発表されたシステマティック・レビューを中心に情報をまとめてみようと思います。

●Alqarni et al., 20151
1950年から2014年までに発表された文献を対象に、4件の論文をレビュー
*PRISMAガイドラインに沿った手法で行われたレビューですが、Retrospective case control/case-based studyも含まれていたというのは特筆すべきかも知れません。患者の年齢・性別制限は無し。レントゲン、CT、MRI、SPECTとBone Scintigraphyは全てReference Testとしてアリと設定したらしいですが、本文中に「外側からのレントゲン、MRIは脊椎管狭窄症を伴うSpondyの診断に"most effective tool"であり、MRIが禁忌の場合はCTも有効であるが、「[どの画像診断法も]その他の腰椎疾患があれば偽陽性が出てしまうことは頻繁にある」と明記してあるのにそれは少々乱暴では?という気もしますね。私の記憶が正しければSpondyの診断ゴールドスタンダードはSPECT Bone Scanだったはずだけど?
**それからこのレビューではQUADASのスコアを14点満点ではなく26点満点で記載しています。特定のアイテムの点数比重を高くしているみたい。このやり方は初めて目にしました!びっくり!でも言われてみれば確かに全てのアイテムが同じだけweighedであるというのは違和感でしたから納得できるようなできないような。このスコアシステムで研究の質が本当に推し量れるというverificationはされてるのかな、確認してみたい。

結果は私の私による私のためのテーブルに作り替えてみたものがあるのでそちらを張ります。
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Alquarni et al., 2015のTable 1と2を元に作成
これを見てみると、私が読んだことある研究ばかりだったこともあり、それほど驚くような数値や新発見はありませんかね。やはり結果としては
 - One-Legged/Single Leg Hyperextension TestはSpondyの診断に有効ではない
 - 現段階で最も有効なのは腰椎棘突起の触診によるすべり(= Step Deformity)の確認である
…ということが言えそうです。バランス的に次に惜しいのはDouble Leg Raiseですかねぇー…。他にも局所的に、確定だけに使えそうなものは幾つかあるんですけど(i.e. 観察による「すべり」の確認、Femoral Nerve Stretchや感覚異常など)、全体的な実用性としてはバランスが悪いかな。

●Grødahl et al., 20162
それでは次に翌年発表されたレビューです。この論文の冒頭では、Spondyの患者の性別比が男女で2:1であるとか、スポーツ選手独特の既往歴も考慮すべきであるとか論じられており、テストはもちろん、既往歴的発見もどう絡めて診断に繋げていけるか?というところを検証しています。切り口としては好きです。

Cochraneのプロトコルに則り、2015年11月までに発表された8件の論文をレビュー
*仕様したデータベースの数が多かったからか、はたまた多彩なキーワードを用いたからか、先のレビューよりも多い数の研究が含まれています。これらの研究の質はQUADAS-2を使って推し量られており、単純に「Low Risk」か「At Risk」の二択でまとめられています。先のレビューと違って95%CIが求められていないのが残念かな。

まず、先のレビューでもまとめられた棘突起の触診(Step Deformity)ですが、
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2015年発表のAhn et alの研究が足されていますね(↑)。やはり変わらず「確定・除外共に効果あり」というところでしょうか。Selective Tissue Testはというと…(↓)
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有効なものは特になし。除外も確定も全然かなー。2013年発表のSundell et alの研究では随分色んなテストが検証されているんですね。知らないものもあるけど、どれも別に使えないっていうなら全て詳細に把握しておく必要はないかな。
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Grødahl et al., 2016のTable 1, 3, 4, 5, 6を元に作成(一部欠落していたLRなどは私が計算して記入)
既往歴のデータはこちら。うーん、「この既往歴さえある/なければ確定/除外できる!」という完璧なものは当然というかまぁやっぱりないので、これらを組み合わせて将来的にClinical Prediction Ruleを作れるかな?って可能性があるという感じでしょうか。でも95%CIの記載もないし、どれが決定的とは言いづらいというのが現状。

結論にははっきりと「Spondylolysis(脊椎分離症)診断にはどの既往歴項目も身体検査も決定的ではない - が、年齢要素や突然の発症、スポーツの参加の有無などはこれからさらに研究する価値はある」「Step Deformity触診は、Spondylolisthesis(脊椎すべり症)診断に有効な唯一の感度・特異度共に高いテストである。One-legged Hyperextension Testの診断的価値は低く、使われるべきではない("is NOT recommended")。既往歴項目はこれと言って特筆すべきものはない」と書かれており、最後は「Spondyの診断はひとつのテストを使ってどうこうではなく、有効なものをいくつか組み合わせたCluster診断がこれから確立される必要がある」とまとめられています。これは私が5年前のブログでも書いたことですよね。

●Petersen et al., 20173
んでんで。ごたくはいいからもういい加減腰椎の傷みを手際よく分類できるClinical Prediction Rules(この論文ではClinical Diagnostic Rules = CDR)作っちゃおうぜ!というのが最後のこの、2017年発表のレビュー。この論文はSpondyのみでなく椎間板ヘルニアとか仙腸関節痛とか骨折とか様々なものを含みますので、Spondylolisthesis部分だけ切り取ってまとめます(Spondylolysisについては検証されていないようです、残念!)。

PRISMAガイドラインに則り、2015年5月までに発表された64件の論文をレビュー(うち、8件がSpondy関連のもの)
*同じ8件なのに、2016年のレビューと文献ラインナップが少し異なる(↓)のが興味深いですね。ただ個人的にFritz et al., 20054とAbbott et al., 20055論文がSpondy関連の文献に分類されているのは納得いきません。これらの論文は両方フルテキストを読んでみましたが、内容としては棘突起を前後に動かすPPIVMsなとど呼ばれるテストを使って腰椎の不安定性を診るできるかっつーことを検証している論文でした。これらの研究で焦点が当てられているのは分離症やすべり症の有無ではなく、あくまでLumbar Segmental Instability…ということを考慮すれば、ここに含まれていること自体が不適切なのではと思ってしまいます。うーむ。

まぁいいや。結論に飛びます。このレビューで推奨されているSpondylolisthesis診断に有効であろうCDRは「観察もしくは触診によるStep Deformityの確認("Intervertebral slip by inspection or palpation")」と「徒手を用いての腰椎の不安定性の確認("Segmental hypermobility by use of manual passive physiological intervertebral motion test、"具体的には腰椎棘突起にHypothenar Eminence、つまり小指球を当てて前後に押し、不安定性があるかをテストする)」のコンビネーションだそうです(ついでに年長者が患者の場合はPassive Lumbar Extension Testを足してもいい、と書かれていますが、これは私が頭に想像する若いスポーツ選手からは逸脱するので言及しないでおきます)。しかもこれは「充分なエビデンスに基づいたCDRである("The strength of our recommendation for the CDR is STRONG")」と明言されており、著者らの自信のほどが伺えます。
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Petersen et al., 2017のTable 2を元に作成

個人的にこのレビューのまとめには少し賛成しない箇所もありますが、このCDRそのもの、特にSpondyのそれに関しては全体として現存のエビデンスに基づいた非常にフェアなものであると感じています。触診、観察、簡単なマニュアル・テストだけであれば手軽で特殊な道具もいりませんし、棘突起を押すだけな比較的シンプルなテストにそれほど練習や特訓も要らないでしょう。実用性も高いと言えるかと。そのどちらか、あるいは両方が確認できればSpondylolysis/dylolisthesisの除外の必要あり→画像診断のために医師にreferral、でいいんじゃないですかね。

私の偏見をたっぷり含むまとめです。ATなら知っておくべきと私が思うSpondyの診断的アプローチとは:

- 腰痛を訴える若い(10代)スポーツ選手がいた場合、Spondyは真っ先に除外すべき項目として考慮する
- 患者が男性であったり、突然の発症が既往歴にある場合、その可能性は除外できない
- One-legged Hyperextension Testは臨床的診断価値はないので使う意味は殆どない
- Step Deformityが触診・観察によって確認できたら、and/or 徒手で腰椎の不安定性が確認できたらSpondyの確率が高いためReferralを行う
- 医師の判断により、X線やMRI、CT、Bone Scanなどの画像診断で最終診断を下す

こんなとこでどうでしょうか。難しい障害ではありますが、骨折を見逃すようではありたくないものですよねぇ。

1. Alqarni AM, Schneiders AG, Cook CE, Hendrick PA. Clinical tests to diagnose lumbar spondylolysis and spondylolisthesis: A systematic review. Phys Ther Sport. 2015;16(3):268-275. doi: 10.1016/j.ptsp.2014.12.005.
2. Grødahl LH, Fawcett L, Nazareth M, Smith R, Spencer S, Heneghan N, Rushton A. Diagnostic utility of patient history and physical examination data to detect spondylolysis and spondylolisthesis in athletes with low back pain: A systematic review. Man Ther. 2016;24:7-17. doi: 10.1016/j.math.2016.03.011.
3. Petersen T, Laslett M, Juhl C. Clinical classification in low back pain: best-evidence diagnostic rules based on systematic reviews. BMC Musculoskelet Disord. 2017;18(1):188. doi: 10.1186/s12891-017-1549-6.
4. Fritz JM, Piva SR, Childs JD. Accuracy of the clinical examination to predict radiographic instability of the lumbar spine. Eur Spine J. 2005;14(8):743-50.
5. Abbott JH, McCane B, Herbison P, Moginie G, Chapple C, Hogarty T. Lumbar segmental instability: a criterion-related validity study of manual therapy assessment. BMC Musculoskelet Disord. 2005;6:56.

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  by supersy | 2018-08-02 21:30 | Athletic Training | Comments(0)

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