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アメリカでATを勉強した学生は、日本でもATとして通用するのか?米国AT教育の汎用性。

面白そうな論文を見つけたので読んでみます。
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Is current US athletic training education portable?という非常に興味深いテーマの論文。この場合のPortabilityは文字通り持ち運びができるかどうかという意味ではなく、他所に持って行っても十分通用するのか、つまり汎用性があるのか、という意味ですね。英語としては非常に美しい表現で惚れ惚れします。あ、ちなみに論文はOpen Accessですのでフルテキストはどなたでも閲覧可能ですー。

さて、BOC(米国アスレティックトレーナー資格)はカナダ、アイルランドの2国とMutual Recognition Agreement (MRA)と呼ばれる提携を結んでおり、この3国のうちいずれかの国で資格を持っていれば、他の国で大学等に入り直さなくても自動的にCertification Exam(資格試験)の受験資格が得られるということになっています…が、残念ながら2018年現在、ここに日本の名前は含まれていません。日本人はアメリカでATを学ぶ最も数の多いガイコクジンでありながら、その資格を日本に「持ち帰る」ことができていないのが現状、ということになります。もちろん私自身も例外ではありません。私が日本に帰っても日本スポーツ協会の公認アスレティックトレーナーの受験資格は現時点では得ることはできません。専門学校に最低でも2年通い、認定プログラムの教育を受け直さない限り(そしてもちろん資格試験に合格しない限り)、私は日本でアスレティックトレーナー(JASA/JSPO-AT)にはなれないのです。

んで。

米国で教育を受けた日本人ATと、日本で教育を受けた日本人ATの「仕事の中身(Practice)」は実際どれだけ違うのか、お互いの仕事をどう「感じて(Perception)」いるのか?というのを実際に日本人ATを対象に調査してみました、というのが今回の内容です。面白そうでしょ。実際に回答したのはJASA/JSPO-ATさん183人とBOC認定-ATさん34人の合計217人だったそうです。JASA/JSPO-ATさんが84.3%(183/217人)と大多数を占めていますね!
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回答者の性別、年代はこんな感じ。JASA/JSPO-ATの回答者のプロファイルは性別・年齢共にJASA/JSPO-AT有資格者のそれとほぼ一致します。一方、BOC認定-ATはJATOの会員に絞っての調査だったんですが(これがまぁそもそもサンプルとしては少し偏りがあるんではと思いますが)、JATOは会員の年齢を把握していないということなんです。JASA/JSPO-ATに比べて年齢層がだいぶ高い気がするのですが、これが「偏って」いるのかどうか、妥当なサンプルなのかの判断はしかねますね。総じて回答したBOC認定-ATのほうが年齢が高いとなると、現代のCAATE教育やBOCの推奨する継続教育の真意を理解できているのか?という疑問は私の頭の中に浮かびますけれども。

最終学歴も面白いです。JASA/JSPO-ATさんの41.5%が"その他"(専門学校卒と推測できます)を選んだそうなんですが、BOC認定-ATでこの回答("その他")を選んだ人数はゼロ。逆にBOC認定-ATの半数(50.0%)は修士を取得しているそうです。学歴にはだいぶ差があるんですね。

現在の仕事にも差があります。1) BOC認定-ATの約1/3(37.5%)は大学で、1/5(20.8%)がプロやオリンピックレベルで勤務している一方で、2) JASA/JSPO-ATは高校(27.2%), 実業団(22.5%), 大学(20.1%)というセッティングが勤務先トップ3。加えて 3) "Head Athletic Trainer"という肩書はBOC認定-ATの41.2%が有しているのに対して、JASA/JSPO-ATは24.0%と開きがあるのも驚きでした。ふむー。

で。実際の調査は特定の仕事項目に対して「これはどれだけ必要不可欠・重要か、どの程度の頻度で実際に行っているか」を回答者が程度付けして答えていく、みたいな内容だったんですが、結果としては「日本で教育を受けたATも、アメリカで教育を受けたATも仕事に対する実践・認識は殆ど同じ(Spearman's Correlation = 0.92~0.93でほぼ完璧に一致)」だったそうです。唯一統計学的に有意な差があったのは72項目中たった2点のみ。1) "Execute communication responsibilities to the patient and other professionals to ensure quality health care"という項目に関してはBOC認定-ATのほうがJASA/JSPO-ATよりもコミュニケーションがより必要不可欠(critical)だと感じており(76.5% vs 68.3%, p = 0.044); 2) "Use standard techniques to prevent or minimize risk of injury using taping, bracing, immobilization/splinting and/or protective equipment"という項目でも同様に、BOC認定-ATのほうがJASA/JSPO-ATよりもこれを重要(important)だと感じている(100% vs 86.3%, p = 0.034)という結果になったそうです。

日本で教育を受けても、米国で教育を受けても、ATという仕事に対しての認識や実践に大差はない。この結果は正直言って意外なものではありました(日米問わず、Emergency Careが最も重要であるという共通認識がある、という事実は素直に嬉しいと感じました)。ただ、回答者のほとんどが現在日本在住で、日本で仕事をしているというのであれば、この回答の全てが「今の日本のニーズと制度」に大きく偏っている可能性は大いにありますけれど…(在住情報は今回の論文では言及されていませんでした)。

これは面白いです。この研究は次のステップに是非進んで欲しいと思います。「日本で教育を受けたATも、米国で教育を受けたATも、アスレティックトレーニングという仕事について共通認識、共通実践ができている」ならば、「米国教育を受けたATも日本で教育を受けたATと少なくとも同等のレベルで実践できている(sufficiently effective)ことを次に確認すべきである」と私は思うのです。これが何かしらの形で報告、確認できれば、じゃあ次に「…ということは米国のAT教育は汎用性が高いということですよね」「では、米国で教育を受けたATも、日本スポーツ協会の公認アスレティックトレーナーの受験資格をもらえても良くないですか?」というargumentを放り込むことができるんじゃないでしょうか?

いやー、面白い論文でした。こういうの、私はこれからもっと読んでいかなければいけない分野かもしれません。もう少し掘り下げてみるかなー。

1. Izumi H, Tsuruike M. Portability of United States athletic training education in an international setting. Athl Train Educ J. 2018;13(1):33–41.
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  by supersy | 2018-04-28 22:30 | Athletic Training | Comments(0)

一度の脳振盪で本当にパーキンソン病のリスクは上昇するのか?

1回の脳震盪でパーキンソン病発症のリスク増大 米調査(CNN.co.jp)
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こんなヘッドラインをYahooニュースで見かけたので、元になっている論文1 を読んでみました。つい一週間程前に発表になったものらしーです。
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…で、これなんですけどね…。私がこの論文で引っ掛かってしまうのは最初の一文です。"Mild traumatic brain injury (mTBI), or concusson, affects an estimated 42 million people worldwide each year (p.2)"とあるのですが、私の理解が正しければ一般にはmTBI=Concussionとは考えられていないはずです。mTBIの一種に脳振盪は含まれるけども、イコールではないはず。第5回国際脳振盪カンファレンスの合同声明2 も今確認してみましたが、やっぱり"Often the term mild traumatic brain injury (mTBI) is used interchangeably with concussion; however, this term is similarly vague and not based on validated criteria in this context (p.839)."と明記されていますね。…うーん、冒頭の一文が、しかも大事な用語の定義が国際的で最も権威が認められている合同声明と噛み合わないって結構アウトなんじゃないですかね。NeurologyみたいなImpact factorもそこそこ高く、伝統があるジャーナルで、この不一致が指摘されずに残った(?)というのはだいぶ疑問です。なんでだろう…。ここが気になると読み進みにくい。

まぁいいや。頑張って飲み込みましょう。

今までに"Moderate to severe TBIとパーキンソン病との関連性は比較的はっきりとしたエビデンスで認められているけど、mTBIとのそれはまだまだエビデンスが限られている"とのことで、全米規模の退役軍人さん対象の医療データベースを使ってTBIとパーキンソン病の関連性、特にmTBIのものを改めてさらい直そう!というのがこの論文の主旨です。かなりのマスデータだったようで、まずは「18歳以上、TBI受傷既往歴ありで、ベースライン期間内(前2年、後1年)パーキンソン病や痴ほう症の症状が見られなかった」TBI患者が182,634人、「18歳以上、TBI、パーキンソン病、痴ほう症の症状がベースライン期間内に見られなかった」非TBI患者が975,277人をごっそーと集めてきて、その中で年齢がマッチするペアを162,935組引っ張り出し、TBI患者162,935人(平均47.9±17.4歳)、非TBI患者162,935人(平均47.9±17.4歳)をそれぞれ最終的に「被験者」とした(↓)ようです。で、平均4.6年ほど追いかけて、パーキンソン病を発症したかどうかを調べましたよ、という。
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んで。一応定義としてmTBIとModerate-severe TBIが区別されています。これはICD-9に則り、
1) mTBI(軽度TBI)は0-30分以内の意識消失、0-24時間以内の意識レベル低下、もしくは0-24時間以内の外傷性健忘症のいずれかを伴うTBI
2) moderate-severe TBI(中・重度TBI)は30分越の意識消失、24時間越の意識レベル低下、もしくは24時間越の外傷性健忘症のいずれかを伴うTBI
…ということなんだそうです。やっぱり、つくづくmTBI=Concussionじゃありませんよね…?

…で。結果です。まず単純に両グループの比較なんですが、一目瞭然なのでこちらのテーブルを。
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TBI患者は非TBI患者に比べて、1) 男性が多い (p<0.001); 2) 白人やヒスパニック系人種が多い (p<0.001); 3) 糖尿病や高血圧、心臓病などの併存疾患を持っている可能性が高い (p<0.001); 4) 不安障害やPTSD、アルコール依存症、喫煙などの精神疾患の併存疾患を持っている可能性が高い (p<0.001); 5) より若年で死亡しやすい (70.7±15.0歳 vs 72.1±15.1歳, p<0.001)…という特徴が上がっています。うぬぅ…死亡率が高いというのはなかなか。どうやらTBIそのものを受傷するのにも性別や人種的特徴があるようですね。そのグループにリスクテイカーが多いのか?戦線で危険な位置に配属されやすいのか?それとも遺伝的にこういう人たちがTBIを起こしやすい?因果関係はわかりませんけども。
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…で、こちらが4.6年間のフォローアップ期間内にパーキンソン病を発症した患者の両グループの比較データです。まずは、実験期間内にパーキンソン病を発症した患者の1462人中949人(64.9%)がTBI患者だった、という数字を踏まえてこれを見てみると…TBI患者のほうが、1) より若年でパーキンソン病を発症している (69.79±12.30歳vs 71.78±12.14歳、p=0.003)…しかし、個人的に2年の差を「臨床的に有意な差」と取るかどうかはまた議論が分かれそうなところかなと思いますが…; 2) 黒人やヒスパニック系人種が多い (p=0.005); 3) 糖尿病や高血圧、心臓病などの併存疾患を持っている可能性が高い (p≦0.029); 4) 不安障害やPTSD、アルコール依存症、喫煙などの精神疾患の併存疾患を持っている可能性が高い (p≦0.046)…ということが言えます。うーん?パーキンソン病の有無、そこまで関係ありますかね?っていうか、そもそもの被験者の平均年齢が48歳くらいで、4.6年間の動向を追いかけて、平均パーキンソン病発症年齢が70歳くらいって、計算があまりに合わないというか、元々年齢の高った患者さんに引っ張られてこの結果になったのかな、っていう…。例えば50歳以下の比較的若い退役軍人さんに絞って結果調べたら、どうなるんでしょう?

唯一特筆すべきは人種の差かなと思います。TBI患者は圧倒的に白人・ヒスパニック系が多かったのに、TBI+パーキンソン病の患者では黒人・ヒスパニック系が多い。白人はパーキンソン病を発症しにくく、逆に黒人はリスクが高い?ということなのかな??

TBI患者は非TBI患者と比較して、パーキンソン病を発症するリスクが高く(0.58% vs 0.31%; HR = 1,71, 95%CI 1.53-1.92)、このリスク上昇はmTBI患者に限定しても同様であった(0.47% vs 0.31%; HR 1.56, 95%CI 1.35-1.80)というのがこの研究の最も重要な発見ですかね。うーむ…。

そんなわけで元のCNNの記事に戻るんですけど…。タイトルはともかく、記事そのものは良心的ですね。mTBIがこの論文でどう定義されたかについても言及していますし、誇張表現は少ない。でもやっぱり、「一回の脳震盪でパーキンソン病発症のリスクが…」と断言してしまうのは少しストレッチが過ぎますかね。一回の脳震盪でどれほどリスクが上昇するかについてはこの研究からは何も結論は導き出せないと思います。一回でも意識傷害・健忘症のいずれかを伴う軽度のTBIを受傷した場合、その後4.6年以内にパーキンソン病を発症するリスクが56% (95%CI 35~80%)上昇する、ということは、それなりに統計学の決定性を持って言えるかなとは思いますけどね。脳振盪の大半は意識障害、健忘症を伴わないわけですから、今回の論文の結果がまるまる当てはまるわけじゃないんです。

でもどちらにしても、って言ってしまうと申し訳ないんですけど、あくまで対象となった被験者は「平均47.88歳の退役軍人さん」なんですよね。軍人さんは肉体的にも精神的にも一般の人と経験しているものが違いすぎる(私の限られた経験では、もれなく皆さんPTSD発症、体中の痛みや精神疾患でものすごく強い薬を日常的に飲んでいたりしています…)、という印象なので、私としてはこれをもう少し若い世代のNFL選手とか、NBA選手とか、大学スポーツ選手とか、そういうもっと我々にとって身近な対象で是非行ってほしいなぁと思います。


1. Gardner RC, Byers AL, Barnes DE, Li Y, Boscardin J, Yaffe K. Mild TBI and risk of Parkinson disease: a chronic effects of neurotrauma consortium study. Neurology. 2018. pii: 10.1212/WNL.0000000000005522. doi: 10.1212/WNL.0000000000005522.
2. McCrory P, Meeuwisse W, Dvořák J, et al. Consensus statement on concussion in sport-the 5th international conference on concussion in sport held in Berlin, October 2016. Br J Sports Med. 2017;51(11):838-847. doi: 10.1136/bjsports-2017-097699.

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  by supersy | 2018-04-25 22:20 | Athletic Training | Comments(0)

「お尻をきゅっと締めるように」というキューイングでは大殿筋の相対的活性は促せない?: 抑制介入の重要性

今日はちゃきっと論文ひとつ1 だけ読んでまとめまーす。
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股関節進展筋として一番に働くのは大殿筋であるべきだ、とは多くのDisciplineで唱えられている説であり、大殿筋が主な原動力となってもたらされる股関節進展は"Gluteus Maximus-Dominant Hip Extension"と表現されます。1 何らかの理由で大殿筋の出力が低下した場合、補助筋であるはずのハムストリングが股関節伸展により大きな貢献をしなければいけなくなり(故にこちらは"Hamstring-Dominant Hip Extension"と呼ばれますが)、結果ハムストリングにかかる慢性的な負荷が増え、肉離れに繋がったり、(ハムストリングは大殿筋よりも長いLeverageがあり、股関節窩に対しての大腿骨骨頭の位置を繊細にコントロールする能力に欠けるため)Anterior femoroacetabulat impingementに繋がったりするのではと言われたりもするわけです。2-4
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んで。Hamstring-Dominantになってしまった人をGluteus Maximus-Dominantに戻す、つまり、Muscle firing patternを修整する目的での治療介入のために、例えば大殿筋に重きを置くようなSupine Bridging Exercise(↑)なんかを処方するセラピストも多いかも知れませんね。このエクササイズをする際、McGill氏は1) "Squeeze your glutes (お尻をきゅっと絞めて)"というVerbal Cueで大殿筋の出力上昇を促し、; 2) 患者の下腿を自分の身体でブロックするように膝立ちしながら"Extend your knees (膝を伸ばすイメージで)"というVerbal Cueで大腿四頭筋の活性を促し(=つまりはハムストリングを相互抑制の筋神経反射メカニズムを利用して活性低下させ); 3) 両手を患者の膝の外側に添えながら、"Push into my hands (私の手に向かって押すように膝を開いて)"というVerbal + Tactile Cueで股関節の外旋・外転を促すことで更なる大殿筋の活性を測る…という指導法(↓)を推奨しています。5 氏曰く、これをすればハムストリングの活性が下がる一方で大殿筋の活性が最大限に促され、Hamstring-Dominantの人もGlueus Maximus-Dominantになれちゃうぜ!というわけなんです。なるほど、理には適っているように感じます。クライアントさん、患者さん相手にこういう指導をされてきた方も多いのでは?
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で。実際にこの説を検証してみたぜってのが今回の研究。1
30人の健康な女性被験者を対象に、EMGを右大殿筋と右ハムストリングに付けて、Supine Bridging Exerciseを行ってその筋活性を計測。ちなみに30人という数字は80%パワー分析のもとに導き出された数字だそうで、ここまではふむふむ、なかなかいい感じですかね。何故右側だけの計測なのかは不明ですけれども。まずは計測初日にキューイング無しでエクササイズをやってもらい、Baselineとなる活性値を記録。それから普通に生活してもらって一週間後に再集合、ランダムにキューイング無し(Group 1: n = 15, 平均24.7±4.2歳)と有り(Group 2: n = 15, 平均23.3±1.7歳)のグループにわけ、それぞれ再計測したそうです。再計測時に「測定器系の問題があり、正確なデータ収集が行えなかったため」各グループから1名脱落者が出ています(=最終統計に含まれたのはn = 14のみ、合計28人、つまり、統計学的に充分なパワーがあったかが怪しくなっている)。測定に問題があったとすると、無事にデータ収集ができた28人分のデータもどれだけ信憑性、信頼性があるのか?と天邪鬼な私は少し疑問に思ってしまいますね。
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ともあれ。結果です。
くどいですが、初日は両グループともキューイングなし、一週間後はキューイングの有無に差があるわけですよね。初日は両筋肉活性ともグループ間の差が見られなかったの(大殿筋, p = 0.835; ハムストリング, p = 0.575)に対して、一週間後の再計測時には例の「お尻をきゅっと」「膝を伸ばして」「手を押して」というキューイングがあり(Group 2)だと、大殿筋はもちろん(p = 0.001; Cohen's d = 1.5, 95% CI 0.9-2.2)、ハムストリングの活性も(p = 0.004; Cohen's d = 0.8, 95% CI 0.1-1.5)キューイング無しのGroup 1と比べて跳ね上がっているのがよくわかります。

つまり、この研究の結論はこうです。McGill氏の推奨する5 前述のVerbal + Tactile Cueingは大殿筋の出力は確かに上げるが、ハムストリングの抑制が起こるどころか、ハムストリングの活性もそれに伴うように上昇する。つまり、Hamstring-Dominantの患者をGluteus Maximus-Dominantに変えるには不十分である、ということが言えるのです。

私の好きな盟友・James Anderson氏の言葉に、「Anyone can activate a muscle, but it takes a specialist to inhibit a muscle (筋活性は誰でもできる。しかし、筋抑制はスペシャリストでなければできない)」というものがあります。今回の研究結果がまさにこれなんですよね。筋活性のバランス、つまりMuscle firing patternが崩れたときに、出力が低下している筋肉(今回の場合は大殿筋)になんとかスイッチをいれようとぐいぐいこういったキューイングで努力するのは、本来抑制したい筋肉(今回はハムストリング)にもぐいぐいスイッチを入れる結果になってしまい、ある意味逆効果なんじゃないかと。

私は多くの場合、介入の第一手は活性ではなく抑制だと思っています。つまり、今回のようにHamstring-Dominantの患者がいる場合、まず手を付けるべきは大殿筋の活性ではなく、ハムストリングの抑制であるべきだと思うのです。抑制的筋神経介入の選択肢は複数存在するでしょうね、例えばMETとか、PRTとか、PRRTとか、PRIとか。これらのテクニックを一回挟んでからSupine Bridgeを行えば、筋活性のバランスもだいぶ変わってくるのではないでしょうか?これはあくまで個人の考えですけれども。

ちなみに今回のこの論文、出会えたのはうちの学生のお陰です。3年生の授業で「リハビリ系のRCT論文を見つけ、CATせよ!」という比較的自由度の高い課題を出しているのですが、この宿題を通じて、1) 自分の興味のある論文を見つける能力があるか; 2) その論文を読み込み、批判的に解釈・吟味する能力があるか; に加えて、3) うっかりめっちゃ面白い論文を見つけてくれて、私をいかに興奮させてくれるか、というところを評価しています(笑)。そう、ご察しの通り、学生がこの論文を課題に取り上げてくれたんですよ。ありがたいありがたい。教えることを学ぶことは表裏一体、いや、本質的には同じことなのかもしれませんね。


1. Hollman JH, Berling TA, Crum EO, Miller KM, Simmons BT, Youdas JW. Do verbal and tactile cueing selectively alter gluteus maximus and hamstring recruitment during a supine bridging exercise in active females? a randomized controlled trial. J Sport Rehabil. 2018;27(2):138-143. doi: 10.1123/jsr.2016-0130.
2. Sahrmann SA. Diagnosis and Treatment of Movement Impairment Syndromes. St. Louis, MO: Mosby, Inc.;2002.
3. Lewis CL, Sahrmann SA, Moran DW. Anterior hip joint force increases with hip extension, decreased gluteal force, or decreased iliopsoas force. J Biomech. 2007;40(16):3725–3731. doi:10.1016/j.jbiomech.2007.06.024.
4. Lewis CL, Sahrmann SA. Muscle activation and movement patterns during prone hip extension exercise in women. J Athl Train. 2009;44(3):238–248. doi:10.4085/1062-6050-44.3.238.
5. McGill S. Ultimate Back Fitness and Performance. 5th ed. Waterloo, Canada: Backfitpro Inc.; 2014.

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  by supersy | 2018-04-23 22:30 | Athletic Training | Comments(0)

本帰国にあたって思うことその3。教育に携わるものとして成し遂げたかったこと。

8年間の米大学での教育者生活を振り返ってみて、つくづく自分には向いてなかったなぁと思います。私は献身的ではないし、他人にserveすることに人生の喜びを見出すタイプではないからです。やっぱり自分で自分の興味の赴くままに勉強しているときに勝る喜びはないです。自分勝手な先生でごめんなさい。色々と至らず、学生に申し訳ない思いをさせることも多かったかも知れません。

でも、ひとつだけこの大学で8年間勤務して、私が影響力となって変えることができたこと、誇りに思うことがひとつだけあります。それは「人生とは一生学び続けることである」ということを態度で示せたことです。
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私がこの大学に来た8年前は、スタッフも教員も数が今よりも少なく、空気が滞っていた感じがしました。それぞれが日々の仕事をこなすのに精いっぱいで(そしてそれは当時の環境を考慮したら仕方がなかったのだとも感じています)、スタッフや教員たちが自ら全米を飛び回って新しい技術や知識を手に入れようとしたり、論文を読んでその内容を共有し合ったりという文化や習慣がなかったのです。10年前のままのコンセプトの治療アプローチを繰り返すスタッフたちに私も驚きましたし(あまり喜ばしい驚きでなかったことは言うまでもありません)、休みを見つけてはいそいそと講習に出かけていく私に「よくやるわね」と呆れた顔をする同僚もいました。

そしてそういった空気は学生にも伝染るものです。私がここで教え始めたころの学生の学習態度はお世辞にも積極的とは言えず、実技中心のクラスでは最低限のことだけをパパパッと終わらせ、「もう帰ってもいいですか?」と言う学生が多くいたりもしました。真面目に取り組む少数の学生が周りに「何頑張っちゃってるの」と笑われ、バカにされている風景を目にしたのも一度や二度ではありません。

ワタクシゴトではありますが、私は中学校や大学でバカにされる側に立ったことがあります(不思議と、高校では一度も経験しませんでした。同じような思考の人間が同じ場所に集まりやすくなる「高校受験」という日本の学校システムに私はもっと感謝すべきなのかも知れません)。先生の話を黙って聞いていたり、期限内に宿題を出したり、テスト前にやるべき勉強をしていたりしただけなんですけど、「良い子ぶって」「ガリ勉」「Overachiever」「You are making us look bad」と言われ、なかなかに不愉快な思いをしました。別に貴方たちが頑張らないのは勝手だけれど、私は楽しいと思って好きでやっているの、自分でやらないと決めたなら一人でやらなきゃいいのよ、どうして他の誰かを一緒に引きずり落とさないと気が済まないの?と疑問に思ったりしたものです。

現代は、真面目な人がバカを見る社会だと言われます。正直者は損をするそうです。でも私は真摯に毎日努力を重ねる学生が褒められ、称えられ、応援されるような文化をここに作りたかった。学ぶ楽しみがイマイチまだ分かっていない子たちには「あれっ、勉強って楽しいんだ!」と気が付いてほしかったし、それに既に気が付いている子たちには「楽しいって声に出して言ってもいいんだ!」と安心してもらえたらいいなと思ったんです。

学びの場は、どんな子たちにも平等に安全であるべきです。楽しいことを楽しいと声に出して言っても誰にも攻撃されないし、ちょっと背伸びして挑戦し、結果失敗してしまっても誰にも責められない…そんな学びの土台となるSafe Learning Environment(安全な学習環境)を提供することが教育者としての最低限の責任じゃないかと思ったのです。

なので私は学生をとことん褒めました。普段あまり頑張らない子が頑張ったらその変わろうとする瞬発力を、毎日頑張り続ける子はその持続力を褒めました。人前で、こっそり私のオフィスで、とりあえず目を引いたことがあれば「なんと素晴らしくよくやっていることか!」「お前ら偉すぎるな!」と躊躇せず褒めました。そしたらあらあらびっくり。意外なことが起こり始めたんです。「Sy、あの子、こんなところをよく頑張っているよ!」と、私が気が付かなかった「良さ」をこっそり教えてくれたり、下級生が上級生を「ありがとう!こうしていつも教えてくれて、とても感謝している」と、上級生が下級生を「私が忘れかけてたことを質問してくれてありがとう!復習するいいきっかけになった」と、お互いがお互いを褒めるようになってきたんです。褒められることが「once in a blue moon (ごく稀にしか起こらないような希少な現象)」ではなく、「努力したら確実に起こる日常的な現象」に変わり、褒められる機会を奪い合わずともシェアしあえるということに学生らも自分たちで気づき始めたのかも知れませんね。うちの大学に来る学生は(お恥ずかしいのですけれど)決して頭が良いわけではないので、あまり勉強で褒められるという経験をせずに大学まで来た子も多かったのかも。褒めらえることでの楽しさを、学習して「分かるようになる」楽しさに結びつけてくれた子も多く、目の色を変えて勉強に励みだす子もこの大学で数多く見てきました。
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「うちの子全然読書をしないんです、どうしたらいいでしょう?」
「貴方は子供の前で楽しく読書をしていますか?」
「いいえ、していませんけど、どうしてですか?」
…という笑い話(?)がありますけど、学生さんに、そしてスタッフさんに学び続けてほしかったら、一番有効なのは「自分が楽しく学んでる姿を見せること」だと思ってきました。たまに学生やスタッフさんに「もう充分に知っているのに、どうしてそんなに勉強するの?」と聞かれることもありましたが、「君は教わるなら10年前の『正しい知識』を食いつぶしながら生きながらえている教授からがいいかい、それとも嬉々として常に『今の正解』を追い求めている教授からがいいかい」と返すとみんな「むぅ…」となってましたね。

ワクワクする論文を見つけたら独りオフィスで小躍りしたり、新しいPosition Statementが発表されたら「みなさーーん!でーまーしーたーよー!」と全員に共有したり、授業中に突然「あ、脱線するんだけど昨日読んだ論文の話してもいい?」と言い出したり、学生・スタッフさん対象の定期勉強会を開いて、学校内外からゲストを招いて「ガッコウでは習えないこと」を共有する機会を設けたり…。我ながら型破りの教授だったかも知れませんが、「人生分からないことだらけ」「When you finish learning, you are finished」「living is learning, learning is living」を地でいってた妙な自信だけはあります。

8年経って、ここを改めて見渡した時に、生き生きと勉学に励む学生の姿や、「今度はこんな勉強会に参加してみようと思っている」と話してくれるスタッフの顔を見て、いやー頼もしい、ここでやるべき仕事は一通り終わったかなという気がしています。滞っていた空気はすっかり流れるようになり、色々な情報が風に乗って流れ込んでくるようになりました。いいですね。気持ちがいいです。

新しい文化を作り、それを根付かせるにはかなりの時間がかかりました。私は辞める時には基本的にはきれいさっぱり跡形もなく、「いたっけ?」と言われるくらいに残り香の「の」の字も残らぬよう、消えるようにいなくなりたいと目論んでいるのですけど、唯一願わくば、この文化だけは私がいなくなっても続いていってほしいと思います。

…とはいえ、いなくなる立場で「これだけは続いてほしい」なんて今の職場に願うのは傲慢ですかね。せめて次の職場でも私はこうあり続けたい、一緒に働く人たちと積極的に学ぶ姿勢を絶やさず楽しくワイワイやっていきたい、とは思っています。

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  by supersy | 2018-04-19 20:30 | Just Thoughts | Comments(4)

スポーツは身体に良くない?NBA選手の「健康」な膝のMRIを撮ってみると…

異常と普通の境目: 画像診断の進歩による弊害、「Overdiagnosis」について考える

以前「SLAP損傷は健康な人にも確認されている。画像診断の発達によって過剰診断という現象が起きているんじゃないか」という話を書いたことがあるのですが、今回はその膝バージョンです。
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特に痛みを抱えていないプロバスケットボール選手の膝のMRIを撮ったら、どんな結果が出ると思います?全ての組織が教科書通りに「正常」、「健康」で、病理的な変化が一切見られない?それとも長期的に蓄積されたダメージが見え始めている?この疑問の答えを提供してくれているのがこの研究たちです。1,2
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一つ目の研究(2005年発表)1 は膝に痛みが全くない20人の健康なNBA選手(= 40 knees; 平均26.15歳、幅21~36歳)のMRIを撮って、膝の状態を見てみましたよ、というもの。ちなみにこの研究の「健康」の定義は、1) pain-free full ROM (可動域制限なし); 2) no effusion(腫脹なし); 3) no ligamentous laxity(靭帯の不安定症なし); 4) no joint line tenderness(関節裂隙圧痛なし)、だったそうで…それなりにしっかりした基準に見えますね。

で、結果がすごいっす。
19/40 (47.5%) 軟骨損傷…うち14/40(35%)が膝蓋軟骨面に、10/40(25%)が大腿骨滑車溝関節面に、4/40(10%)が大腿骨内側顆、1/40(2.5%)が大腿骨外側顆、そして2/40(5%)が外側脛骨高原軟骨面にそれぞれ損傷が認められたそう。
8/40 (20.0%) 半月板損傷…内側が7/40(17.5%)で外側が1/40(2.5%)だったとのこと。箇所はその75%がPosterior hornだったそうな。

二つ目の研究(2008年発表)2 では同じ要領、同じ条件でNBA選手14人(平均26.3歳、幅20~36歳)、28の膝を検証。なんと、28中の25(89.3%)の膝に異常が見られ、両膝とも健康だった選手は一人としていなかったというのだからびっくりです。軟骨損傷は14/28(50%)半月板損傷は可能性が高い画像も含めれば3/28(10.7%)という、ひとつ前の論文にそう引けを取らない数字です。個人的には膝蓋腱障害(11/28, 39.3%)、嚢胞性病変(4/28, 14.3%)も多い気がしますし、一人いたというOsteochonrdal fractureもびっくりですね(↓)。
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…というわけで、ここまで見た限りでは「NBA選手の膝って痛みの有無にかかわらずボロボロじゃん!」と言いたくなるような結果です。では、それより少し若い、大学バスケットボール選手ではどうなんでしょう?シーズン前と終わった直後の膝の状態を比較した興味深い検証(2016年発表)の結果がこちら(↓)3 です。
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対象となったのは12人の大学女子バスケ、12人の大学男子バスケ選手合計24人(年齢幅18-22歳)。この研究では、片方の膝に痛みや腫れなどある場合には「症状の全くない」側の膝を、両側ともに健康である場合には利き足の側の膝の画像を撮ったそうな(= 24 knees)。なぜに利き足だったんだろ?理由は書いてありませんけども。シーズン中に選手3人がドロップアウトしたようなので(理由不明)、シーズン終了直後の計測に参加したのは21人(= 21 knees)のみだったそうです。

で、結果なんですけど、かなり興味深いです。

膝蓋前滑液包炎  シーズン前15/24(62.4%) vs シーズン終了直後16/21(76.2%)
脂肪体浮腫    シーズン前18/24(75.0%) vs シーズン終了直後17/21(81.0%)
膝蓋腱障害    シーズン前20/24(83.3%) vs シーズン終了直後19/21(90.5%)
大腿腱障害    シーズン前18/24(75.0%) vs シーズン終了直後19/21(90.5%)
骨髄浮腫     シーズン前18/24(75.0%) vs シーズン終了直後18/21(85.7%)
関節面軟骨損傷  シーズン前17/24(70.8%) vs シーズン終了直後17/21(81.0%)
半月板損傷    シーズン前12/24(50.0%) vs シーズン終了直後13/21(61.9%)

総じてそれぞれの怪我がシーズン前と終了直後では有病率が少し上がっているのが確認できるんですけど、それにしたってシーズン前の有病率がそもそも高すぎません?シーズン前に検査をした24人のうち24人の全員の膝にどこかしら異常が認められたそうですよ。前の研究との数字の差がかなりあって、こっちの統計の方がかなり多い印象なのでなんでだろう?と勝手に考察してみると…考え得るのが「最近の大学の選手のほうが10年ほど前のNBA選手よりもより身体に負担のかかる練習の仕方をしている?若年層の膝への負担が増えている?それとも単純に、この研究で使われたより最新の3.0-T MRIの性能が以前の研究で使われた0.3- or 1.5-T MRIよりも性能が良く、細かい状態の変化までしっかりと可視化できる?」ってところなんですけど、はて、正解はどれなんでしょうね?もしかしたら複数当てはまっているのかも…。

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最後におまけというかなんというか、バレーボール選手の研究4 に関しても少しだけ書いておきます。こちらはさっきのPappas氏らの研究をワンシーズンでなく「2年間」に引き伸ばしてその膝の状態の変化を追った、みたいな感じの造りで、18人のadolescents(男8人、女10人、平均年齢16.0±0.8歳)と18人の成人(男9人、女9人、平均年齢46.8±5.1歳)国代表レベルのバレーボール選手を対象にMRIでその膝の状態を見る検証を行っています。

2年間という時間で膝の状態に統計的に有意な変化は認められず、性別差も特に確認できなかったそう…なんですが、adolescentsとadultとでははっきりと異なる点数がいくつかありました。関節軟骨面損傷(0% vs 56%, p<0.001)、骨棘形成(39% vs 94%, p=0.001)、外側半月板損傷(0% vs 33%, p=0.019)が成人のほうが圧倒的に有病率が高く、骨棘形成(p<0.001)と半月板損傷(p=0.021, p=0.015)の状態がより悪いのも成人であったとのことなんです(↓)。
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バスケットボールのようなコンタクトスポーツでなくても、ジャンプと着地を要するスポーツであるバレーボールでもこうしてはっきりと「高いレベルで競技をしている選手の膝は、例え本人に自覚症状がなくても『損傷』が進んでいる」という結果が出たことは非常に興味深いと思います。競技を長くしていればいるほど、加齢が進めば進むほど、これらの隠れた損傷は悪化しているというのも間違いなさそうです。健康と怪我って表裏一体だなぁ、と改めて思ったのと、前回も書いたかと思うんですけど、画像診断の技術が日々進歩しているからといって、目に見えるようになったもののひとつひとつにいちいち反応しなくてもいいんじゃないかと、いや、どれを見てどれを無視するか判断しなければいけない手間が増えたこと考えれば、正しい診断を下すことは以前よりも難しくなってきているのかも知れませんね。画像診断では「正常から逸脱した状態」は容易に確認できても、その「clinical relevance(主訴との臨床的関連性) 」までは推し測れませんから。難しい時代になったものです。見えるようになってしまったものを見なかったことにするのは、クチでいうよりもはるかに困難で、エネルギーを消費することだと思うんですよ。

1. Kaplan LD, Schurhoff MR, Selesnick H, Thorpe M, Uribe JW. Magnetic resonance imaging of the knee in asymptomatic professional basketball players. Arthroscopy. 2005;21(5):557-561.
2. Walczak BE, McCulloch PC, Kang RW, Zelazny A, Tedeschi F, Cole BJ. Abnormal findings on knee magnetic resonance imaging in asymptomatic NBA players. J Knee Surg. 2008;21(1):27-33.
3. Pappas GP, Vogelsong MA, Staroswiecki E, Gold GE, Safran MR. Magnetic resonance imaging of asymptomatic knees in collegiate basketball players: the effect of one season of play. Clin J Sport Med. 2016;26(6):483-489.
4. Boeth H, MacMahon A, Eckstein F, Diederichs G, Schlausch A, Wirth W, Duda GN. MRI findings of knee abnormalities in adolescent and adult volleyball players. J Exp Orthop. 2017;4(1):6. doi: 10.1186/s40634-017-0080-x.

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  by supersy | 2018-04-13 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

「肩の安定性」に必要不可欠な要素: 関節内陰圧

さて、前々回も少し書いたんですけど、肩についての文献を色々読んでいます。その中で、「肩(肩甲上腕関節)という関節は骨構造としてはそもそもが不安定な造りであって、様々な組織がその静的・動的安定性に補足的役割を果たしている」という点に関して、文献を複数見比べていたら、今までに聞いたことのない『要素』がふたつ出てきました。びっくり!なんじゃこら!というわけで、今日はそのうちのひとつについてまとめておきます。

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●陰圧
その正体とは、ずばり「関節内陰圧(negative intraarticular pressure)」なんです。関節包が関節の骨構造をずっぽり包み込み文字通りPlunger(トイレのすっぽん)のような役割を果たすことで、例えば腕が引っ張られたりして肩関節に牽引のチカラがかかった場合、関節包内の閉じられた空間での気圧が下がりnegative pressure(陰圧)が生まれて自然と上腕骨頭を関節窩に向かって引っ張り返してくれるというわけ。ほあー、言われてみればなるほどなんだけど、そんな風に考えたことなかった。よくできてる!
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で、実際に「関節内陰圧」はどの程度「肩関節の安定性」を生み出す要因になっているのか?上の論文(↑)1 では10体の肩複合体の献体(平均73歳、幅31-84歳、右5体、左5体、男性:女性=5:5)を使ってIntact Joint Capsule (無傷の関節包=関節内陰圧が保たれている状態)とVented Joint Capsule (関節包に穴を開け、空気の出入りが可能な状態=関節内陰圧が失われている状態)で前後、上下にどれだけ上腕骨・肩甲骨の間に動き(translation)が生まれるのか、肩の安定性の比較を行っています。冷凍された献体が生体と同じ反応を示すのかとか、献体の年齢はやっぱり総じて高いですねとか、突っ込むところはもちろん色々あるんですけど、お、面白い…!

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ちなみに関節包はジョキジョキ切ったりザックリ切ったりしたわけではなく、本当にぷすっと(直径4.5mmの)小さな穴を開けただけのようで、つまるところもしこれが原因で不安定性が生まれたとしてもそれは関節包が「損傷」したからではなく、あくまで「陰圧が失われた」から、と言える(言いたい)程度の穴だったようです。まぁ仮に不安定性がこの実験で確認できたとしても、それがどれだけ実際「陰圧が失われたから」で、どれほど「関節包そのものの損傷」の影響を受ける可能性が残っているのかはこの実験からは分かりませんけれども。

で。結果なんですけどグラフにして出したほうが分かりやすいかと思うので、論文中のTable I、II、IIIを元に作り直してみました。こちらー(↓)。
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*p < 0.05 **p < 0.005

関節包が無傷("Intact")な場合の関節が前⇔後方のtranslation(左)、上⇔下のtranslation(右)がどのくらい生まれたのかをグレーで、関節に穴が開いた状態("Vented")をブルーで示しています。グラフが長いってことは、それだけそれぞれの方向へ動いたってことで…ブルーのグラフのほうが総じてグレーよりも長いのは一目瞭然かと思います。外転角度が最もclosed-packに近い90°では上下のtranslationの差は無傷と穴あきで0.48mmしか違わなかった(唯一統計的に有意な差ではなかった)のですが、他の差は全て統計的に有意で、中でも外転30°時の前後のtranslationは最も大きく、12.58mm(1.5倍)もあったそうな。1cm以上も過度な動きが生まれるとはびっくりですね。これはかなりの数字じゃないかと思います。

…というわけで、結論としては、「関節包にぷすっと穴をあけると関節から陰圧が失われ、関節の全方向への安定性が失われる」というわけなんです。これを実際の障害に反映させて考えると、(脱臼などに伴う)関節包の損傷が原因で生まれる「肩関節の不安定症」は、関節包そのものの損傷に起因する部分はもちろんあるかもしれないが、副次的にそれによって失われる陰圧が原因ということも十分に考えられるのでは、ということになりますね。おもしろー。ちょっと肩関節の見方が変わりそう。


1. Alexander S, Southgate DF, Bull AM, Wallace AL. The role of negative intraarticular pressure and the long head of biceps tendon on passive stability of the glenohumeral joint. J Shoulder Elbow Surg. 2013;22(1):94-101. doi: 10.1016/j.jse.2012.01.007.

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  by supersy | 2018-04-12 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

NATAの最新Position Statement、SLAP損傷の評価、マネジメント、RTPについて読み解く。

あっっっかーーーーん。
これについて書こう!と思っていたトピックがあったのに、こんな論文が出てしまったのだから仕方ありません。NATAの最新ポジション・ステイトメントがまさに今日、発表になりましたのでこれをまとめます。1 お題は「Evaluation, Management, and Outcomes of RTP Criteria for Overhead Athletes with Superior Labral Anterior-Posterior Injuries」、つまりSLAP損傷を負ったオーバーヘッド選手の評価、マネジメントとRTPの指標です。
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相変わらず美しいまとめです。138もの文献を引用しながら、簡潔に26項目の推薦事項にそれらのエビデンスをまとめています。いつも通り、私が個人的に興味深い、面白い、新しい、重要だと思うものを抜き取っていきます。推奨度の強い順に、A (= what we must do)、B (what we should do)、C (what we can do)もつけておきまーす。

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●診断
1. 投球動作を繰り返す選手で、水平内転制限(15°より大きい関節可動域の欠如)や内旋制限(非投球側の肩と比較して、外旋の増加を伴わない13-15°の内旋欠如がある)などによって確認できる後方関節包の拘縮がある場合は「SLAP損傷のリスクが高まっている」と考えられる(推奨度・B)。

2. 受傷メカニズムとしては肩甲上腕関節の外転と外旋を合わせたオーバーヘッド動作の繰り返しが一般的(推奨度・B)で、痛みは明確な境界なく("vague")、関節上方の「深い」ところに位置し、前方に向かう場合も後方に広がっている場合もあり得る(推奨度・C、イメージ図↑)。Type I SLAP損傷の場合は大概は痛みは伴わない(推奨度・B)。肩のpopping, clicking, catchingがあるだけ(推奨度・A)、もしくは上腕骨結節間溝や上腕二頭筋長頭腱に沿った圧痛があるというだけ(推奨度・B)ではSLAP損傷の診断は下すべきではない。

3 Selective Tissue Tests: Active CompressionもしくはO'Brien TestはSLAP損傷診断には有効ではない(推奨度・A)。Type II-IV SLAP損傷の確定に有効なのはメタ分析論文によってAnterior Slide Test, Yergason TestとCompression Rotation Test(↓下動画)と報告されており、他に複数の研究からPain Provocation Test(↓下動画), Anterior Apprehension Test, Biceps Load II Testもその解釈に気を付ける必要はあるもの、有効なテストとして名前が挙げられている(推奨度・B)。除外に有効なテストはメタ分析論文では確認されておらず(推奨度・A)、複数の研究によって推奨されているのは今のところProvocation Testのみである(推奨度・B)。




3. Cluster Testとしては「Anterior Slide TestとPopping, clicking, catchingの既往歴」、「Compression Rotation, Apprehension, Yergason Tests」、もしくは「Compression Rotation, Apprehension, Biceps Load II Tests」の組み合わせが確定に推奨されているが、これらの推奨は単独研究に基づいたものなので注意が必要である。除外に有効な組み合わせは現時点では存在しない(推奨度・C)。

4. 鑑別診断としてはRotator Cuffの部分・完全断裂、肩鎖関節損傷、上腕骨頭骨折、バンカート損傷などが挙げられる(推奨度・B)。保存療法の予後が芳しくない場合は画像診断を撮ってこれらの鑑別診断の可能性を探る必要があるが、Type I SLAP損傷は健康な肩にもよく見られる「一般的な変化」の一部であり、MRI陽性=SLAP損傷が諸悪の根源とは必ずしも断定できないことから、こういった画像診断の結果は慎重に解釈されるべきである(推奨度・B)。

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**本文のTable 1と2を元に私が必要と思う情報を抜き出してみました(↑)。うーん、Meta-analysisといってもそんなに決定的じゃないんだな(+LRが低い)という印象。恥ずかしながらCompression Rotation TestとPain Provocation Testというテストを知らなかったのでこれを機に調べました。そして動画をあげておきました。めっちゃ簡単!これならすぐに使えそう。でもPain Provocation Testが除外に有効かも、というのはどうかなぁ。私は個人的に同意しかねるかも。それから、個々の確定力はともかく、Clusterの使い道はイマイチですね。そりゃーそこそこ確定力のあるテストを合わせれば特異度は上がるでしょう、でも感度を伴わないなら…という感じです。とにかくSLAPは除外が難しいんですね。**

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**ついでにOh et el5の論文が気になったんでこっちも全文読んでみました。そうすると、あれ?Position Statementでは言及されていない他のコンビネーションも検証されているじゃありませんか。しかも数字は遜色ない。なんでこれはPosition Statementで全く触れられていないんだ?結局のところ、Yergason, Biceps Load II, Speed, Compression Rotation, Anterior Apprehension, O'Brienのうちの多くの組み合わせで3つが陽性なら確定できそう(Sp ≧ 88%)に見えるんですけど…。で、SpeedとCompression RotationとAnterior Apprehensionが全て陰性なら最も除外にいい…かな?どちらにしてもone way or anotherの二択なので、実用性は限られていると思うけど。**


●マネジメント
5. SLAP損傷の診断がついた患者はまず痛みの軽減、肩機能の向上と競技復帰を目標とした3-6か月の保存療法を試すべきである(推奨度・B)。保存療法はNSAID's処方、Corticosteroid注射などを含み、リハビリは内旋可動域、総合内外旋可動域(Total Arc)と水平内転可動域の回復、肩甲骨周辺と肩甲上腕関節周辺の筋力、持久力と筋神経制御に重点を置くべきである(推奨度・C)。

6. 3-6か月の保存療法で改善が見られなかった場合、1) Type II損傷で不安定性があったりオーバーヘッドの運動で慢性的痛みがある場合Bicepsのアンカー部分でのrepairを(推奨度・B)、2) Type IやIIIの場合は壊死組織除去術(debridement)を、上腕二頭筋腱に病変が見られたり、アンカー部分が不安定の場合はtenodesisやtenotomyをすることが適切であるかもしれないが、この手術は基本、18歳未満の野球選手には推奨されないものである(推奨度・C)。関節包後方の拘縮が激しければ肩甲上腕靱帯後方及び関節包後方をリリースするという手段もある(推奨度・C)。術後によく見られるcomplicationとして外旋可動域の制限が挙げらるので、repairの際には外旋制限をしないよう、気を付けてアンカー設置の場所を決めるべきである(推奨度・B)。
これは正直AT向けのNATAのPosition Statementに入れなきゃいけない内容かな?とは思うのですが、いい情報には変わりないので一応。

**詳しい本文の解説にはSLAP患者の半分(49%)は手術を必要としないと書いてありますね。GH joint mobとsleeper/cross-body adductionによるストレッチ、rotator cuffと肩甲骨周りの安定筋を中心としたリハビリが推奨される…らしいです。これは個人的には部分的に、しかし大いに反対です。欠如した内旋、拘縮したと思われる関節包後方を、原因も確認せずに引っ張り伸ばすのは、場合によっては新たな病理を生み出すと私は考えます。**

●RTP
7. SLAP損傷を受傷した患者は、保存療法をしようが手術をしようが、平均2-3年後に約85%の機能が戻ると言われ、平均75%の患者が何らかのスポーツに参加できるまで回復する(推奨度・C)。手術をしない場合の競技復帰率は40~95%だが、これは2つの研究に基づいた数字なので確立されたものではない(推奨度・C)。手術をした場合の2-3年後の満足度は80%程度だが、オーバーヘッド選手の満足度は67%が「素晴らしい(excellent)」と答える程度と総じて低めである(推奨度・C)。競技復帰もオーバーヘッド選手の競技復帰率は非オーバーヘッド選手のそれより低く、アスリート全般の55%が「完全復帰」、31%が「制限付き、もしくは少し競技レベルを落としての復帰」できたのに対して、オーバーヘッド選手の「完全復帰」は45%、「制限付き、レベルを落としての復帰」は34%に留まっており、競技復帰できなかった患者は24%いる(推奨度・C)。

8. 競技完全復帰には可動域が90%回復しているのが望ましいが、受傷後2年ほど経っても15°ほどの可動域欠如があるのは決して珍しくはない(推奨度・C)。筋力は最低でも健側と比較して70%回復するまでスポーツに特化したアクティビティを再開するのは待つべきである(推奨度・C)。競技復帰を目指す患者は、従うべき時間軸があり、おもに術後4か月後から徐々にスポーツに特化したアクティビティを再開し、その後2-3か月かけてフル・アクティビティにプログレスしていくということを理解しておく必要がある(推奨度・C)。

**個人的には診断の部分はとても勉強になりました!もう上肢の評価の授業は教える機会がないけど、教えるんだったらあれも話そう、これも入れたいという新しい内容がいっぱい!エビデンスも推奨度Aのものが結構ありますね。マネジメントは全体的にエビデンスの質が下がり、推奨度はBかCのみ。手術をしないでまず3-6か月保存療法をというのがNATAによって推奨されるというのは結構今後のpracticeを変える提言なんじゃないですかね。期待が持てます。RTPに関してはエビデンスの質が思った以上に低くてびっくりしました。Scapular Dyskinesisやそれに関するリハビリなどはほとんど推奨事項の部分で触れられていないのですが、本文の部分にはぽつぽつと少しだけ。つい昨日まとめたKibler氏の語調との違いが気になりますね…。っていうか、Kibler氏が著者グループにそもそも入っていないこと、Kibler氏がfirst authorの文献が2つしか引用されていないこと(昨日紹介したConsensus Statementもスルー)にはこう…少し違和感というか…派閥?を感じてしまうのは私だけですかね?考えすぎかなー?**

1. Michener LA, Abrams JS, Huxel Bliven KC, et al. National athletic trainers' association position statement: evaluation, management, and outcomes of and return-to-play criteria for overhead athletes with superior labral anterior-posterior injuries. J Athl Train. 2018;53(3):209-229. doi: 10.4085/1062-6050-59-16.
2. Hegedus EJ, Goode AP, Cook CE, et al. Which physical examination tests provide clinicians with the most value when examining the shoulder? Update of a systematic review with meta-analysis of individual tests. Br J Sports Med. 2012;46(14):964–978.
3. Mimori K, Muneta T, Nakagawa T, Shinomiya K. A new pain provocation test for superior labral tears of the shoulder. Am J Sports Med. 1999;27(2):137–142.
4. Parentis MA, Glousman RE, Mohr KS, Yocum LA. An evaluation of the provocative tests for superior labral anterior posterior lesions. Am J Sports Med. 2006;34(2):265–268.
5. Oh JH, Kim JY, Kim WS, Gong HS, Lee JH. The evaluation of various physical examinations for the diagnosis of type II superior labrum anterior and posterior lesion. Am J Sports Med. 2008;36(2):353–359.
6. Nakagawa S, Yoneda M, Hayashida K, Obata M, Fukushima S, Miyazaki Y. Forced shoulder abduction and elbow flexion test: a new simple clinical test to detect superior labral injury in the throwing shoulder. Arthroscopy. 2005;21(11):1290–1295.
7. Guanche CA, Jones DC. Clinical testing for tears of the glenoid labrum. Arthroscopy. 2003;19(5):517–523.
8. Fowler EM, Horsley IG, Rolf CG. Clinical and arthroscopic findings in recreationally active patients. Sports Med Arthrosc Rehabil Ther Technol. 2010;2:2.
9. Cook C, Beaty S, Kissenberth MJ, Siffri P, Pill SG, Hawkins RJ. Diagnostic accuracy of five orthopedic clinical tests for diagnosis of superior labrum anterior posterior (SLAP) lesions. J Shoulder Elbow Surg. 2012;21(1):13–22.
10. Kim SH, Ha KI, Ahn JH, Kim SH, Choi HJ. Biceps load test II: a clinical test for SLAP lesions of the shoulder. Arthroscopy. 2001;17(2):160–164.
11. Michener LA, Doukas WC, Murphy KP, Walsworth MK. Diagnostic accuracy of history and physical examination of superior labrum anterior-posterior lesions. J Athl Train. 2011;46(4):343–348.

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  by supersy | 2018-04-09 20:30 | Athletic Training | Comments(0)

2013年発表のScapular Dyskinesisに関するConsensus Statementを読み解く。

諸事情あって肩関連の文献をさらっています。色々見てたんですけど、なんと!こんな面白い論文1 を見逃していました。4年半も前に出てたとは(ちなみにこの論文はfree full-textなので興味のある方はぜひ)!いやーでも、これ、カキモノとしては結構不親切で読みにくいですね。こういうの読むとNATA Position Statementがいかに読みやすさ重視でまとめられているか分かるわー…。
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さて。私が面白いと思う内容を独断と偏見に基づき積極的にまとめていきたいと思います。今回はぶつ切りのbullet points形式になってしまうかもですがお許しを。

●冒頭
Scapular Dyskinesis: The alteration of normal scapular kinematicsの意味で、Dys (alteration of)とKinesis (motion)を合わせた、シンプルに言えば「肩甲骨が正常に動いていない状態」を指します。しかし同時にScapular Dyskinesisは「怪我(injury)でも筋骨格診断名(musculoskeletal diagnosis)でもない」という一文はもっと強調されるべきかもしれません。つまり、自覚症状を伴わない、痛みや明らかな機能制限のないScapular Dyskinesisも当然存在するということになります。

*ちなみに2016年発表のシステマティックレビュー2 ではScapular Dyskinesisの有病率が非オーバーヘッド選手(i.e. サッカーやバスケットボールなど)とオーバーヘッド選手(i.e. 野球やソフトボールなど)でそれぞれ33.3%と54.5%と、20%以上の差があることが報告されています。自覚症状がない有病者も多いことから、Scapular Dyskinesisは「normal variance (通常の変化の範囲内)」で怪我とは関係ないと断定している研究者も3 いるんですけど、最新のメタ分析論文4 では仮に自覚症状がなくても、Scapular Dyskinesisがある選手は9-24か月以内に怪我をする確率が(ない選手と比較して)43%上昇すると報告されていますね(Scapular Dyskinesisあり: 56/160, 35.0% vs なし: 65/259, 25.1%; RR 1.43, 95% CI 1.05-1.93)。私は意見としてはこちら派で、異常運動をしているものを今症状がないからいいでしょ、と放っておくというのはあまりに短絡的じゃないかと思ってます。症状が出ていないならばむしろラッキー。今のうちに介入を初めて怪我の予防をしないと!と。

一時期"Scapular Dyskinesia"という言葉が同意語として使われたこともありましたが、このConsensus Statementによれば「Dyskinesiaは神経起因性の自動運動異常を示す言葉であり、Scapular Dyskinesisは(神経障害でない)鎖骨骨折や肩鎖関節捻挫が原因で起こることもある、ということを考慮すればより包括的な用語であるScapular Dyskinesisの方が適切である」ということなんだそうです。初めてここんとこの説明ちゃんと聞いた!だから最近見なかったのか!なるほど。

●Scapular Dyskinesisの原因
骨性の原因:Thoracic kyphosis, clavicle fracture (non-union, malunion)
関節性の原因: High grade AC instability, AC arthrosis, GH internal derangement
神経性の原因: Cervical radiculopathy, long thoracic nerve palsy, spinal accessory nerve palsy
軟部組織の原因: Muscular inflexibility or tightness (中でもpectoralis minor or biceps short headの柔軟性の欠如は烏口突起を前下方に引っ張るので肩甲骨の前傾・前方突出の原因になる), posterior shoulder inflexibility, intrinsic muscle problems, serratus anterior strength/activation deficiency (肩甲骨の後傾、上方回旋), altered upper/lower trap force couple (low trapの発火が遅れ、肩甲骨上方回旋、後傾が十分に起こらない)
…などが考えられ、こうして動きとポジションが変化してしまった肩甲骨は、そこから副次的に1) 肩峰下空間の制限、2) 軟部組織のインピンジ (衝突、挟まること)とそれに伴う腱細胞のapoptotic changes、3) Rotator cuffの出力低下、4) 前肩甲上腕靱帯の伸張、などの変化を引き起こすのだとまとめられています。
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●評価方法
Lateral Scapular Slide Test, Scapular Assistance Test, Scapular Retraction/Reposition Testなど色々ありますが、現段階で推薦するテストは「前回のConsensusと同様Scapular Dyskinesis Test」なんだそうです("The current recommendation for clinical assessment based on a prior consensus meeting is the use of dynamic scapular dyskinesis tests (p.878).")。で、以前はこのテスト、肩甲骨の動きによってType IとかIIとかIIIとかに患者を分類したもんですが、こういった分類法はReliabilityを下げるという過去の研究が受け、現在では「異常がある(陽性)かない(陰性)か」シンプルな二択システムが一般的になっています。こちらの二択形式の方がReliabilityも高く、今回のConsensus Statementでお薦めされているのもやはりこちらです。

Scapular Dyskinesis Test時に特に心がけて見るべきこととしては1) medial borderもしくはinferior borderがどれほど浮き出てくるか(↑)、2) スムーズに肩甲骨が動いているか(腕を上げる際に早期挙上やshrugging動作が起こっていないか、腕を下げる際に急な下方回旋が起こっていないかなど)どうかを観察しましょうと。試しに下の動画の患者さんを見て、「右かな?左かな?」「正常かな?異常かな?」と判断してみてください。


●他の怪我とのつながり
Impingement SyndromeとScapular Dyskinesisのつながりは多く報告されている…が、ただ、Impingement患者=Scapular Dyskinesis患者、というわけでは必ずしもないみたい。Impingement患者のScapular Dyskinesisの異常動作の方向はまちまち、程度もバラバラ。例えばImpingement患者は上方回旋が欠如気味、という報告もあれば、いやいやうちの研究ではむしろ過度な上方回旋が見られたけど、という具合。Rotator Cuff Tearの患者さんは肩甲骨が上方回旋気味という共通傾向はあるみたい。他にも、Superior Labral TearsAC Separations, Multidirectional GH Instabilityの繋がりも報告されている (ACに関してはScapualar Dyskinesis → AC Separationという順序で起こるというよりはその逆の話が中心にされていますね)、と。

*まぁそもそもImpingement Syndromeっていう概念も広義だからね、診断じゃないからね、というハナシも少しされています。あくまで「症候群」であり、理由や原因は色々考えられるから、と。Acromialhumeral distanceが小さくなる→Impingementが起こる、というわけでは必ずしもない、という表記は少しびっくり。なるほど、肩関節複合体はそんな単純じゃない、バイオメカニックスはもっと複雑であるということなんでしょうか。Secondary Impingement (= functional impingement)のほうがPrimary (= structural imingement)起因のものより頻度としては多いということかな?一応セオリーでは腕の挙上角度が70°くらいになるとRotator cuffの腱がimpingeできる位置まで来る ("The rotator cuff is 'available' for impingement under the acromion below approximately 70 of arm elevation (p.878)." )、そして90°に達するとacromialhumeral distanceは最小になる…ということになっているんだそうですが、意外や意外、画像研究による確認はまだ行われていないんだろうな。へー。だから、多分感覚としては「Impingement Syndrome」は「MTSS」とか「PFPS」とかと一緒で、直接治療につながるような診断ではない、というのは確かにもっと叫ばれるべきなのかもしれません。「Impingement Syndromeはreferred pain、癒着性関節包炎ではないという多少のexclusionの指標にはなるけど、まだまだ考えられる可能性は多々ある」ので、inclusionというか、確定力のある言葉ではないということなんですね。Internal Impingementの危険因子としては献体を使って「上方回旋が減少・過度な内旋(=前方突出)」が起きており、その状態で組織の挟まりが起こるというところは実証されているんだそうなんですが、表現からしてまだまだここ止まりなのかな。

…で、ここが少し矛盾するかなーと思うのですが、Impingement SyndromeとScapular Dyskinesisの患者は

- 小胸筋と上腕二頭筋短頭が筋緊張を起こしていると烏口突起を牽引する → 過度な挙上と前傾
- 僧帽筋上部と下部のforce coupleが乱れる(僧帽筋下部の発火が遅れる) → 過度な挙上、後傾の遅れと不十分な上方回旋
- 前鋸筋の不活性は後傾と上方回旋を失わせる → 不十分な後傾と上方回旋、内側縁の突出

…などの変化が起こり、結果的には下角や内側縁の突出、翼状肩甲骨、つっかえたようなスムーズでない動きとして目に見える…と書かれているのですが、Impingement ≠ Scapular Dyskinesisではないし、報告されてる動的パターンはまちまちなんですよね?さっきまで「多様性がある」「一貫性がない」みたいな書き方をしていたのにどうしてここで断言してしまえるのか?ちょっと疑問です。ここらへんはKibler氏の個人的な意見の色が強いのではと私は解釈しています(一般的な傾向として間違っているとは思いませんが、断言できるほどの一貫性のエビデンスがあるとは思えないのです)。

●治療法
筋活動が起因している可能性が高いことを考慮すれば、(物理療法や徒手療法よりは)運動療法が使われることが一般的であるのも頷けるが、場合によっては手術が適切な場合もある。まずはScapular Dyskinesisの原因になっているものを特定し、そこからアプローチせよと。なるほど、鎖骨骨折の治癒不良が原因だったら確かに手術などがまず必要な場合は十分考えられますもんね。

リハビリの順番としては

1. Low-load/Low-activationの、非オーバーヘッドのScapular Retractorを活性させるような立位運動
2. 伏臥位 (prone)もしくは側臥位 (side-lying)の僧帽筋下部、前鋸筋に重きを置いた運動
3. 徐々に遠位に負荷を増やし、Kinetic Chainの統合を図る
4. (高負荷の)ウェイトトレーニングへ

というのがいいんではないか、と提案していますが、実際にこういったProgressionを使ってRCTを複数回行ってこのプログラム、プログレッションが最善であると実証されたわけではないようです。「僧帽筋上部、小胸筋、広背筋の過活動が時にこのプログレッションの妨げになり得る」とも言及されており、しかしこれらの筋抑制の手段については一切触れられていないのが不自然に感じます。抑制目的の治療アプローチって、今は結構世に出回っていると思うんですけどね…。

そんなわけで、興味深い議論も数多くあり、しかしふわふわとした「まだまだ断定できない」部分も多々あるようなConsensus Statementでした。これからも第3回、4回と成長していくのでしょうけれど、これからどんな新しい説が確立されていくのか非常に楽しみです。個人的には、Kibler氏は「GHの話をするならもっと近位の肩甲骨の話をせぇよ」というところまでは言っているのに一度も「でももっと近位には胸郭や胸椎があるよな、そこんとこはどうなんだろ」という話を一度もしたことがない(少なくとも私が彼の論文を今まで読んだ限りでは。どこかでしていたらごめんなさい)というのがつくづく意外です。いつかここまで辿り着くのでしょうか、それとも彼はあくまで「肩」の専門家に留まるのでしょうか。

次は肩の文献を読んでいて見つけた、全く知らなかった「肩の安定性を出す要因」をふたつ紹介しまーす。

1. Kibler WB, Ludewig PM, McClure PW, Michener LA, Bak K, Sciascia AD. Clinical implications of scapular dyskinesis in shoulder injury: the 2013 consensus statement from the 'Scapular Summit.' Br J Sports Med. 2013;47(14):877-885. doi: 10.1136/bjsports-2013-092425.
2. Burn MB, McCulloch PC, Lintner DM, Liberman SR, Harris JD. Prevalence of scapular dyskinesis in overhead and nonoverhead athletes: a systematic review. Orthop J Sports Med. 2016;4(2):2325967115627608. doi: 10.1177/2325967115627608.
3. Ozunlu N, Tekeli H, Baltaci G. Lateral scapular slide test and scapular mobility in volleyball players. J Athl Train. 2011;46(4):438-444.
4. Hickey D, Solvig V, Cavalheri V, Harrold M, Mckenna L. Scapular dyskinesis increases the risk of future shoulder pain by 43% in asymptomatic athletes: a systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med. 2018;52(2):102-110. doi: 10.1136/bjsports-2017-097559.

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  by supersy | 2018-04-08 22:00 | Athletic Training | Comments(0)

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