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東京EBP講習を終えて、と、立命館大学訪問。

16日に日本に帰国しましたが、17、20、21日と東京は立川でもはや恒例になっているEBP講習を行ってきました。遠方から(南は熊本、北は岩手や仙台)来てくださった方々も多くいて、本当に感謝しかありません…。夜行バスで来ました!や、飛行機で帰ります!という逞しいお声を頂くたびに、ありがとうございやす!へへー!と頭が下がる思いです。
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今回のEBP治療介入編講習では、従来からの「基礎編」に加えて「臨床応用編・AMI」「臨床応用編・腱障害のリハビリ」という2つの新たな講習を追加しました。個人的にはこれら両講習の準備はとても楽しかったですし、腱障害リハビリ編では参加者さんにもバリバリスクワットをやってもらって後日複数名から「筋肉痛になりました」と報告を受けるほどの実りある(笑)ものになりました。

次回はEBPスポーツ傷害評価編講習を発展させ、「基礎編」に加え、「臨床応用編・前十字靭帯断裂」や「臨床応用編・肩痛鑑別」なども提供できたらいいなーと思っています。これらの2トピックは完全に私の個人的な趣味なんですが、現場で活用できる方は決して少なくないと思うので…。実現には半年か一年かかるかもしれませんが、地道に進めていきたいと思います!



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それから、19日は立命館大学びわこ・くさつキャンパスにお邪魔してきました。ジョージさんに、「うちの学生に、良いAT Studentになるには、みたいな話してよー」と意外とゆるーいご依頼を頂いて、「What I look for in an Athletic Training Student」というタイトルで、講義と呼ぶにはあまりに雑談に近い一時間半ほどのワイワイ談義会をしてきたのです。英語での講義でしたが、英語でバンバン質問を返してくる学生に逞しさを感じました。ATの大先輩、東さんや秀樹さん、ジョージさんにジデンも座っての豪華なひとときでした。キャンパスツアーもしていただいてほくほく!お世話になった皆さん、ありがとうございましたー。
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そんなわけで帰国してからここまで個人講習をどどどどどっとやってきましたが、これで一区切りです!残るはPRI講習x2。個人講習ではない緊張感を楽しみながら、明日から2日間の横浜のマイオキン、それから27・28日の帝京大学でのポスチュラルを思いっきり教えきってこようと思います。それが終われば仕事納めじゃー!気持ちよく年を越すぞー!

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  by supersy | 2017-12-22 14:45 | Athletic Training

Modified Neer Impingement Testの診断力やいかに。

秋学期が終了しました!やった!今学期も最後までドタバタでした。日本に帰ってまいりました。
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さて、Subacromial Impingement Syndrome (SIS)についてぼけっと考えていたらこんな最新論文1 を見つけたのでまとめておきます。まさに今月発表のものだそうです。

SISは数ある肩の障害でも最も頻繁(肩の障害全般の44-65%)に起こると言われており、2 個人的な意見としてはPrimaryよりもSecondaryのほうが圧倒的にアスリートには多く、長期なリハビリを要する可能性が高いため、早期発見・早期介入がカギになるんじゃないかと思ってます。んで。よく使われる診断テストの中にNeer Impingement Test(下の動画参照)というのがあるんですが…非常に有名なテストである一方で、現場での診断力はというと、なかなか完璧とはいかないんですよね。


既存の論文からのDiagnostic valuesを見てみると(別途まとめるのが面倒くさかったので、私の授業のパワーポイントから失礼します)、Neer Impingement Testはどちらかというと確定力より除外力のほうが高そう?でもなんならもう一つの有名なHawkins-Kennedy Testのほうがまだ使えそう?うーん、どちらにしてもこれだけでSISの診断を確立できるようなものではなさそうです。
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では、このNeer Impingement Testの正確性をより高くするために、こんな風にModifyしてはどうか?と提案しているのが今回の論文なのです。疑問が多く出てきますのでネチネチ指摘していきたいと思います。

1. (Original) Neer Impingement Test
この論文によればNeer Testは「座位の状態の患者の腕を取り、片手で肩甲骨を支持しながらもう片手で受動的に腕を前方に挙上("elevate the effected arm from the ventral direction")。60-120°の外転時に痛みが出れば陽性」とあるのですが、これはちょっと分かりにくい表現ですし(肩を前方に挙上していったら屈曲の動きになると思うんですが、外転と表現されているあたりで混乱してしまいます)、私が知っているNeer Testとは少し異なるのです。Neer氏のオリジナルの描写を読む限りでは、「肩を腕ごと内旋してからの最大屈曲」をさせオーバープレッシャー、痛みが出るかどうか見るもののはずなんです。この論文で紹介されているNeer Testには引用が全くされておらず(これはちょっとまずいでしょう)、筆者らが解釈しているNeer Testが本来のNeer Testからズレがある可能性があります。これは後に大きなバイアスを生む可能性を含んでいます。
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2. Modified Neer Test
Step 1: Figure 1(↑)にあるように、肘を90°に屈曲させ、掌が下を向く状態を取る。ここで痛みがあることを確認する。

写真ではさながらHawkins-Kennedy Testの開始時のような恰好になっていますが、面白いことに「肘が90°、掌は下」という指定があるだけで、肩の状態が全く描写されていないんです。写真では肩が…ええと…90°の屈曲というよりは90°のScaptionをしているように見えるんですけど…実際のところどうなんでしょう?どうしてこの肝心な部分の説明が一切ないのか疑問です。この描写を読んでテストをやってみろと言われても、筆者たちと全く同じテストを再現できる自信が私にはありません

Step 2: Figure 2(↑)のように、肩を少し外転させてから90°外旋、そこからさらに腕を挙上する。これで痛みが軽減したり無くなれば陽性。痛みが増えたり、この状態が撮れなければ陰性。

…ん?外転してから外旋、そしてまた挙上?Arm elevation(腕の挙上)と言う言葉は曖昧なので、shoulder(肩関節の) flexion(屈曲)とかshoulder(肩関節の) abduction(外転)などとはっきり明記されるべきだと個人的には思います。"slightly abducted"だの(slightlyってどのくらいよ?)、"elevate the affected arm again"だの(これもどのくらい?)も、程度がわからない、解釈に苦しむ表現です。…というか、ここまでNeer Testの原型を留めていないなら、なぜModified Neer Testと呼ぶ必要があったのでしょう?全く違う名前でもよかったのでは?

続けます。被験者となったのは15-65歳の肩の痛みを訴えて来院してきた82人の患者(平均年齢不明、男50人、女32人、うち3人は両肩の痛みを訴えていたため、全部で85の肩を検証)で、一人の医師が一貫して患者を診察(Neer TestとModified Neer Testを使用)。その後にX-rayとMRAを行って最終診断を下した、とあるのですが、ここのところも不明瞭な点がいくつかあります。
「最終診断は以下の診断基準を使って下された」と書かれているところで、「SISの主な診断基準は腕の挙上に伴う痛み、インピンジメントサイン(説明がないのでこれが具体的に何を指すのかは不明)、painful arc、上腕骨大粗面の圧痛、肩峰下滑液包リドカイン注射、レントゲン(この二つはprocedureであって発見ではありません、何を意味するのかさっぱり分かりません。レントゲンは全員撮ったんでしょ?)、タイプIIかIIIの肩峰突起 + 硬化と、上腕骨大粗面と肩峰突起骨棘結成など」 と記述されており、これら全てがpresentならSISという判断をするのか、ひとつだけでもいいのか(だとしたら腕を挙げての痛みでSISというのは遅しく浅はかな診断である気もしますが)、何度読んでも測りかねます。「など」、と最後に含みを持たせているところも気になります。これらがどれだけ確実なSIS診断をもたらすのかという具体的な説明はなく、「本当にこの基準を使ってSIS患者を正しくidentifyできるの?」というのは疑問の残るところです。

一方で「Frozen shoulderの主な診断基準は痛みと能動的、受動的両方のROMの全体的な(特に内外旋)低下、レントゲンでは異常が見られず、且つMRIで関節包のthickeningが確認できること」とあります。最初の「痛み」っては少し広すぎかと思いますが、SISの診断基準よりは格段に理解しやすいです…相変わらず根拠は書かれていませんが。もっと言うとFrozen shoulderって正式な医学用語ではないと思うので、適切かつ具体的な診断名をちゃんと表記すべきでは?とも思うのですが…(個人的には「Frozen shoulderってつまるところ、Adhesive capsulitisでしょ?」と思って読んでいたのですが、考察のところで「Frozen shoulder = capsular adhesionという概念はエビデンスによって否定されており、capsular adhesionと言う言葉は使うべきではないという意見もある」と書かれており…これは知らなかった!目からうろこです。どういう「エビデンス」なのか、あとで読んでみなくてはです)。
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結果はどどーんと張っちゃいます。こんな感じです。論文のデータを元に2x2テーブルを作って、そこからLikelihood ratioと、ついでに95%CIも計算してみました(本文中で求められていたのが感度、特異度と+/- Predictive valuesのpoint valueのみだったので)。SIS有の患者数がNeer Testが41人、Modified Neer Testでは40人と、全く同じ被験者グループを検証したはずなのに人数が違っているのは非常に奇妙です。どこか数字にミスがあるのではと思います…。このままの数字を解釈すると、Modified版のほうが除外力を兼ね備えたまま確定力が格段に向上しているような結果に見えます。興味深い記述としては、「Frozen shoulderと診断された14人、15の肩のうち、Neer Testは全員陽性(つまり偽陽性)で、Modified Neer Testは全員陰性(真陰性)だった」、つまり、SISと混同されがちなFrozen shoulderも、Modified Neer Testを使えば正しく鑑別できちゃったぞってことでしょうか。

結論では「Modified Neer TestはSISとFrozen shoulderの鑑別ができる、信頼性と正確性の高い素晴らしいテストである」とまとめられていますが、信頼性は一回も報告されていないのでここも???という感じです。計測できたとしたらintra-rater reliabilityだと思うんですけど(計測者が一名しかいないので)、測ったという記述もなければ、その数字の報告もありません。測っていないものをあるかのように報告している論文は初めてなので、ここ、誰も指摘しなかったのかな?と個人的にハラハラしてしまいます。

うーん、テスト自体は面白いし、外旋を使って痛みがなくなるか見ることで、他の肩の障害と区別をつけられるのではないかっていう発想はいいんですけどねぇ。やっぱり文章の正確性、研究のデザインやエビデンスの引用に穴がありすぎかな。こんなテストもあるんだなーってくらいに頭に留めておいて、続報がでたらまたチェックしてみたいと思います。今、現段階で現場で使うって感じでもないかな。


さて、帰国早々ですが、明日は一日立川で講習です!時差ボケを元気で吹っ飛ばして楽しんできたいと思います。


1. Guosheng Y, Chongxi R, Guoqing C, Junling X, Hailong J. The diagnostic value of a modified Neer test in identifying subacromial impingement syndrome. Eur J Orthop Surg Traumatol. 2017;27(8):1063-1067. doi: 10.1007/s00590-017-1979-8.
2. Bhattacharyya R1Edwards K, Wallace AW. Does arthroscopic sub-acromial decompression really work for sub-acromial impingement syndrome: a cohort study. BMC Musculoskelet Disord. 2014;15:324. doi: 10.1186/1471-2474-15-324.
3. Neer CS. Impingement lesions. Clin Orthop Relat Res. 1983;173:70-77.

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  by supersy | 2017-12-16 21:30 | Athletic Training

PRI Advanced Integration 4日目とそれに関連する文献色々。

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AIの一日目に、相棒のケニーと一緒にPRI Director's Dedication Awardsという非常に名誉ある賞を頂きました。これはPRIに大きな貢献をした人に与えられるもので、年に1-3人の受賞者が発表される(該当者がいない年もある)のですが、過去の受賞者を見てみると、Susan Henning, Joe Belding (2012); Kyndall Boyle, James Anderson, Michael Cantrell (2014); Jason Masek, Michal Niedzielski (2015); Jennifer Poulin, Lori Thomsen (2017)とまぁ、PRI Home of Fame(殿堂入り)といってもいいくらいの面子が並んでいて、恐縮しかありません。ありがたいことです。

仲間内で(賞を上げあって)何やってるんだ、と失笑されるかもしれませんが、私は未だにPRIを他人様のものだと強く思っていて、自分が内部の人間であるという認識は全くありません。PRI講習会に私自身が参加することは、Ronの頭の中を少し覗ける貴重な時間を分けてもらえることであり(そしてそれはあくまで私の知的探求心に基づく120%趣味の行為であり)、自分がPRI講師として活動させてもらう機会に恵まれているのもたまたまそういう話が出たときに私がいたからで(むしろ「これでがっつりPRIを勉強し続ける理由ができた!ラッキー!」と思い、利用させてもらうくらいの心づもりでいました)、別に私に代わる人材などこれからいくらでも出てくるでしょう。何ならPRIから「アンタはもういいから、これからは他の人にやってもらうわ」と言われるようなことがあれば「そうですか!今までありがとうございました」と講師の草鞋を脱いでイチ受講者に戻る準備はいつでもできています。

しかし、今回この賞を頂いて…それからこの日の夜にはRonがPRI講師を全員食事に招待し、感謝会を開いてくれたのですが、これもまた心温まる会合で、本当にもうすっかり名実ともに家族になったと言ってもいいのかなぁという気分になりました。PRI講習、日本で開催できたらきっと面白いだろうなぁ、と考え、その実現まで膨大な時間とエネルギーを費やしてきたのは、あくまで「私がそうしたかったから」なのですが、それをRonばかりか、PRIコミュニティーが認め、感謝をしてくれているという実感は素直に嬉しいものでした。「いつでもやめろと言われたらやめよう」ではなく、「いつまでも家族の一員として恥じない仕事をしよう、そしてそのプロセスを楽しもう」と考えを改めました。これからも一層帯を締めて頑張っていこうと思います。

しかし何より最も言及されるべきはケニーの存在、彼の努力と尽力っぷりです。私もPRIに対してそれなりの貢献はしてきたのかもしれませんが、彼のそれとは比べ物になりません。PRIに間違いなく最も精通している日本人、且つ、私の14年(+?)来の友人であり、共にATとして成長をしてきた仲間…。彼のことは兄弟というのも、親友というのもなんだかいまいちしっくりこないのです。親友と呼ぶにはあまりに私が彼に対して抱く尊敬の念が大きすぎるのかもしれません。渡米してから16年、これでも私は私なりに必死にここまで休むことなく勉強してきたつもりなのですが、彼は「さゆりさんたぶんこれ好きっすよ」「さゆりさんこの本おススメっすよ」といつでも私の2-3歩先を歩んでいて(そして彼がそういうものはたいがい私は大好きになり)、私にinspirationと道しるべを与え続けてくれた存在だからです。私にとってはまぁ、ちょっとした仏ですよ。神的存在。

だから、今回これだけの名誉な賞を、他でもないケニーと一緒に受け取れたということがもしかしたら私は一番光栄に感じているかもしれません。若いころ、気の合う仲間と「いつか何かでっかいことしようぜ!」と盛り上がることは誰にでもあることなのかもしれませんが、そういう仲間と実際に10年後くらいに「でっかいこと」ができる機会なんて、滅多にないでしょう?

相変わらずマイペースな私ですが、つながるご縁に感謝してこれからも頑張っていこうと思います。



さて。AIは終わって昨晩Corpusに帰ってきましたが、もうひとつだけそれに関係する内容で読む機会があった興味深い論文1 があるので、忘れないうちにまとめておきます。
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これは講習内で出た論文ってわけではないのですが、歩行と呼吸のphase-lockingについてケニーと盛り上がっていた時にケニーが見つけてきて「面白そうやん!」となったので(これがあるので気がある友人と一緒にいると勉強が終わらない止まらない)。

1) 歩行・走行時の矢状面での体幹屈曲によって起こる「ふいご(bellows)」効果
2) 慣性の法則によって生まれる「内臓ピストン(visceral piston)」効果
3) 多くの体軸筋(axial muscles)が呼吸とロコモーションの二役を担っていること(トカゲやトリ、イヌなどは、走っている最中はこれらの筋肉は呼吸筋としての活動を停止し、走行に貢献するんだそう。役割がスイッチで文字通り切り替わるんですね)
…などの要素から、呼吸とロコモーションは機械的、神経的相互作用してphase-lockし合い、Locomotor-respiratory coupling (LRC)を生み出す、そしてだからこそ四足歩行、ギャロップ歩行する哺乳類は1:1の割合でstride:breathを行うのだ…というのは、この前回の記事でも書きましたね。
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しかし人間は二足歩行なので、少しばかり力の作用の仕方が違ってきますよね。例えばfoot-strikeの際にズシンと地面からの力を受け、内臓の下降(downward displacement of the abdominal viscera)と胸郭の圧迫(compression of the thorax)、それから立脚初期から中期にかけてのアームスイングもそこに上から圧迫を足すんでしょうけども、全体的に四足歩行の動物と比べると、bellows効果やvisceral piston効果など、機械的・筋神経的相互作用は少ないような気がします。つまるところ、人間のロコモーション時にそれほどphase-lockingは見られないのでは?という説を唱えている人たちがいるのです。この説を「支持する」研究として、「トレッドミルで走行中、step-driven flow(歩行そのものによってもたらされる、体内の空気の流れ)はtidal volumeの1-2%程度にしかならない。これは、trivialと言えるくらいの量で、どうやらロコモーションは呼吸に影響をほとんど及ぼさないようである」というもの2 が紹介されていました。ふーむ。しかしこのclaimに対して今回の論文の著者らは「トレッドミルでジョギング中、腕を脇に休めるようにし、アームスイングをさせなかったことはこの結果に大いに影響を与えた可能性がある」と論じ、この「結論」に異議を唱えています。だから、今回の論文ではしっかり腕の振りも付けて走ってもらって、呼吸とロコモーションの関係性をもう一度見つめなおしてみよう!というわけです。

で。この研究では14人の被験者(平均36±2歳、男5人、女9人; うち、7人が一週間に最低20マイルは走るというレクリエーショナル・ランナー、7人は運動はしているがランニングはしていない人達)を対象に(人数は少なく、ランナーvs 非ランナーとグループ分けをされているわけでもないし、少し行き当たりばったりなsubject selectionという感じ。もう少し明確な比較目的などあればよかったかと思う)、「30分間走り続けられる各自お好みのペース」を選んでもらい、5分間のウォームアップののち、5分間ジョギング。その間の呼吸を計測。
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結果なんですが。被験者の全員に高い頻度(high frequency)で起こるstep-driven oscillations in flowがあることが判明。foot-strikeの直後に吸気衝動が、その直後の身体が最も加速する際に呼気衝動が起こるんだそうで、それぞれ動く空気量は-12.7±4.5%と10.7±3.2% (of total ventilation, = 2.5-3.0% tidal volume per step during 2:1 step her breath rhythm)と、前述の研究2 よりかなり高い結果になっています。例えば軽く息を吐いた時にズシン、とfoot-strikeが起こって吸気衝動が生まれれば、空気の流れが逆流し、吐いていた息が吸い込まれるくらい勢いがあって強いものなんだとか。

Stride:breathの比率は個人差が大きく、しかも走りながらペースを変化させる人も少なくなかったようですが、どんなロコモーション・呼吸パターンを見せた人たちでも、やはり「好きなタイミングで呼吸をさせた」場合のほうがstep-driven oscillation in flowに逆らわず、利用するように(=エネルギーの無駄を最小化して、最も効率良く)走行・呼吸をすることが多かったのだそうです。その際、LPCとしては2:1が最も多く、このテンポが一番効果的であるのではないか、というのが今回の研究の考察です。

被験者群にバラつきがあり、sample sizeも小さいので気を付けて解釈されるべき研究だとは思いますが、理想的なエネルギー消費、ついてはより長い距離を呼吸筋を披露させずに走る方法として、2:1の走行:呼吸のリズムが最適かもしれない、という結論は非常に興味が沸きますね。続報があったらまた読んでみたいです。面白かった!

1. Daley MA, Bramble DM, Carrier DR. Impact loading and locomotor-respiratory coordination significantly influence breathing dynamics in running humans. PLoS One. 2013;8(8):e70752. doi: 10.1371/journal.pone.0070752.
2. Banzett RB, Mead J, Reid MB, Topulos GP. Locomotion in men has no appreciable mechanical effect on breathing. J Appl Physiol (1985). 1992;72(5):1922-1926.

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  by supersy | 2017-12-11 23:30 | PRI

PRI Advanced Integration 1-3日目とそれに関連する文献色々。

年に一度のPRIの祭典!Advanced Integration(通称: AI)に出席するためにまたネブラスカに来ています。AIは四日間、8時から5時まで(+夜の5-6時半くらいのゲストレクチャー)というもはや変人レベルの勉強会なんですけど、誇張なく、世界各国から(大半はアメリカ人なのですが、英国、韓国、日本、イスラエル、アイルランド、シンガポールなど他の様々な国からも)97人の猛者が参加しております。たーのーしーいー。
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今回はAIで話題に上がった論文のレビューをまとめておきます。どれも面白かった。
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まずはこちらの論文1。2011年発表の日本人研究チームのもの。
Adolescent Idiopathic Scoliosis(思春期特発性側弯症)の原因とは何なのか?どうして思春期で発症するのか、そしてどうして左の脊柱側弯症よりも圧倒的に右が多いのか?まだまだ謎の多いこの疾患ですが、もう少し踏み込んで、「病理的変化のない『一般的』と言われる脊柱でも、『思春期特発性側弯症』を思わせるような特徴はどれだけ認められるのか?成長と共にそれらの『特徴』は変化していくのか?」…に焦点を当てたのがこの論文です。
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検証方法は至ってシンプル。被験者の立位脊柱レントゲンを撮り、Cobb angle(上図参照)を計算して検証する、というもので、加えてCobb angle計測のintra- & inter-rater reliabilityも3人の整形外科医の間で検証されました。対象となったのは大きく分けて2種類の被験者群。既に脊柱側弯症と診断されている患者(44名)と、「通常」な脊柱を持つ人たち(1200名)です。この研究の目的は大きく2つ。脊柱側弯症患者は、右と左「どちらの方向」に湾曲が起こっているのか?健康な被験者は、「どちらの方向」に、脊柱側弯症とは言わないにしても「どの程度」の湾曲が見られるものなのか(又は全く湾曲なくまっすぐなのか)?ということを紐解こうとしているわけです。ふむふーむ。もう少し詳しい各被験者群の描写は以下の通り。

脊柱側弯症患者
Cobb angleが15-75度(= scoliosis)の非先天的且つ症状がない脊柱側弯症患者44人(年齢幅5-19歳, 平均12.7歳、男2人、女42人)。 *個人的には性別の偏りが気になります


「正常」な脊柱
幼少期(4-9歳)と思春期・青年期(10-19歳)、成人期(20-29歳)の被験者をそれぞれ400人(男女比は完璧に50:50、合計1200人)。
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結果です。
Intra- & Inter-rater Reliabilityは、同じX-rayを見ていても思ったより高くないんだなというのが正直な印象です。< 0.40 Poor; 0.40-0.59 Fair; 0.60-0.74 Good; 0.75-1.00 Excellentという基準を考慮すると、それでもGoodからExcellentのrangeには入るんですけど (↑Table 1 & 2参照)。

脊柱側弯症患者のなんと全員(44/44, 100%)は右側にその側弯症が認められたそうな。
「正常」な被験者では右の脊柱側弯症を正の数字(> +1)として、左の脊柱側弯症を負の数字(< -1)で表した場合、

  幼少期 男 +0.6±3.7° 女 +0.1±3.9°左 125人、側弯症無し 125人、右 155人
  思春期 男 +1.8±2.2° 女 +1.5±3.3°左 70人、側弯症無し 114人、右 216人
  成人期 男 +2.3±3.2° 女 +2.3±3.1°左 46人、側弯症無し 102人、右 252人

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というわけで、幼少期と比較すると思春期と成人期の右脊柱側弯症への傾向は著しく高い(p < 0.01, p < 0.001)ことが見えてきました。思春期と成人期は統計的に有意な違いは見られなかったそうな。男女差も特になかったそう。

つまるところ、何らかの理由で成長過程で我々の脊柱は右に向かって曲がっていくという傾向が確かにあるわけです。これらの1200人の被験者は「脊柱側弯症」という診断を下されておらず、見た目にも明らかな胸椎、胸郭の変形がない、自覚症状もない(脊柱とは全く関係のない身体の問題で病院に来院した)人たちだったわけですから、もしかしたらこれは我々が生活の中で繰り返す動きの癖やパターンに大いに関りがあるのかも知れません(これは私個人とPRIの意見で、本文では触れられていません)。加えて、今回報告された「思春期以降は健康な被験者にも右の脊柱側弯が認められる」という事実がAISのdevelopmental patternと酷似していることを考えれば、右の脊柱側弯症はそれなりに「normal variant」とも言えるのではないか?(特に症状を伴わない場合)病気や疾患という扱いをしてしまっていいのか?疑問が沸いてきます。くどいですが、これも私個人とPRIの見解です。ここらへんについてもっと知りたい方は前回紹介したPRIコンセプトと脊柱側弯症についての教科書の一章2をぜひご自分でお読みになってください。


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この論文も面白いです。3
2015年発表のブラジル研究チームによるPatellofemoral Pain(PFP)患者に関する研究。PFPの危険因子には膝が内側に崩れるようなDylanic Valgusや、逆に片足立位時に股関節外転金の出力不足によって起こるVarusなど、いわゆる動的エラーと呼ばれる要素が上げられたりします。これらの要素をSingle-Leg Triple Hopというかなりインパクトの強い動作中に、PFPありの患者とない健康な被験者でどう動きに違いが出るか見てみましょうぜ、というのが検証内容。
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20人の女性PFP患者(平均23.1±3.3歳)と同じく20人のAge-matchedな健康な女性被験者(23.5±2.1歳)を対象(ちなみに90%のStatistical Powerを得るための「各グループ最低17人」の条件は十分に満たしています)に、10分間トレッドミルで歩いてウォームアップしてもらったのち、Single-Leg Triple Hop Testを実施。一度目のジャンプの着地から、2度目のジャンプの踏切りの間のTransitional PeriodのBiomechanical Analysisを行ったわけです(写真↑)。テストはPFP患者は痛みがある方の足で、被験者は利き足で行った…という表記がありますが、具体的に右が何人、左が何人という数字は記述がありませんでした。個人的にはそこが気になりますし、私は右足でこのテストを行った人数が圧倒的に多かったのではと予測します。数字がない以上、予測の域を出ることはできませんが。

結果です。
Peak Joint Angle Data (Table 2)より。
胴体: PFP患者はより胴を前方(p = 0.038)同側側(p = 001)に傾ける傾向があるが、同側回旋は非PFP患者に比べて起こらない(p = 0.003)。
骨盤: PFP患者は逆側のPelvic Drop(p = 0.001)が著しく大きく起こる一方で、同側回旋は起こりにくい(p = 0.001)。最大骨盤前傾度合いにグループ間の大きな差は見られない(p = 0.299)。
股関節: より大きな股関節内転(p = 0.02)と内旋(p = 0.002)が見られるが、屈曲は著しく少ない(p = 0.029)。
膝: 屈曲が少ない(p = 0.001)が、内転は大差なし(p = 0.614)。
足首: よりEversionが大きい(p = 0.019)が、Dorsiflexionは著しく少ない(p = 0.003)。
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ふーむ、矢状面での屈曲が少なく、水平面での内旋が早く過剰に起こってしまうことから、伸展・外旋による爆発力が生まれにくい。加えて全額面では支脚方向に身体が極端に寄ってしまう、ということなのか。Table3も4も含め、総合的に見るとPFP患者はこういう位置(↑)に自分の身体を置きやすいことが見えてきます(Aが健康な被験者、BがPFP患者)。立位側に胴体を傾け、逆側骨盤を落とし、立位側股関節は内転内旋…。写真で見比べてみても、PFP患者のほうがより身体を右半球に埋め込んでいる感じ、つまり、健康な被験者がやっていることをより大げさにしてしまっているのがPFP患者なんですね。これは研究筆者も同意見のようで、"While both groups that participated in this study exhibited a similar movement pattern, the pattern was more pronounced in those with PFP" (p.804)という表現が文中に確認できます。PFP患者と非PFP患者、同じ動的パターンを見せる傾向があっても、そのパターンをより色濃くしてしまうとpathologyに繋がるんだ、という発見が面白い研究でした。

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では、最後にこの論文です。4
この論文は美しい!詩のように流れるような文章で、それでいて充実した内容の情報が的確にまとめられていて。冒頭は特に芸術的です。"There is arguably no other muscle in the human body that is so central literally and figuratively to our physical, biochemical and emotional health as the diaphragm. From its most obvious role in respiration, to its less obvious roles in postural stability, spinal decompression, fluid dynamics, visceral health and emotional regulation, the diaphragm has a repertoire of function that is broad by any muscle's standards" (p.342). これは日本語に訳そうと思うことが失礼にあたるくらい完璧に書かれた文章です。アンダーライン引いて何度も読み返したい…。

「横隔膜の担う呼吸という役割は(特に休息時において)主要である一方で、この機能は実は発生学の観点からは「『二次的(exaptation, side-effect)』と言わざるを得ない」、詳しくは、我々がまだ海中生物だった頃に空気を吸い込んでしまうことを防ぐメカニズムとして(つまり今の「空気を吸う」のとは真逆の目的で)できた組織なのではないか、または他の生物と比べて異様に発達した脳を持つ胎児を産道から押し出すことだったのではないか…など、実にわくわくする説を展開しています。横隔膜は部位としてはTransverse Abdominis (TA)の肋間に触れる部分が剥がれてできたといっても過言ではないんだそうで。さらに、発生学的に考えると、TA, IO, EOなどの深層腹筋群とAnterior, Middle and Posterior Scaleneは同じ胚の部位からできているというstatementもめっちゃ面白かったです…。こうして考えるとScalenes(斜角筋)が呼吸に深い関りがあると言われるのも実に道理にかなっているのだと本文では説明されています。

横隔膜がphrenic nerve (C3-5)によって(動的・感覚的)神経支配されているのは周知の事実だと思うのですが、なんと下部の肋間神経(6-7)からも神経支配を受けているらしいです。だから、横隔膜に対する治療アプローチはがっつり肋骨の機能・形状に影響をもたらすのだ、と。それだけではありません。Phrenic nerveはAnterior Scaleneと「関りのある」fasica周りを通過することから、Whiplashなどによる損傷や慢性的過活動(i.e. FHP)など、Anterior Scaleneに変化が起こるとそれがPhrenic nerve機能不全を招いたりすることもあるんだそうな。だから、呼吸に問題のある患者に対して姿勢介入が有効だったりする、その理屈もここらへんから来ているのではないか、なんだと。他にも横隔膜は嚥下と消化にも深いつながりがあり(横隔膜下部はPhrenic nerveではなくてVagus nerveの神経支配を受けているので)、逆流性食道炎などの治療にも横隔膜が注目されていること(食べ物がスムーズに胃に辿りつくにはcruraの部分の横隔膜が適度にリラックスしている必要があり、且つその間も横隔膜は呼吸を止めるわけにはいかない、ということを考えれば、この「神経支配の住み分け」は至極当然なのかもしれません。これと同じことが嘔吐などの場合にも当てはまります)も言及されています。横隔膜の姿勢筋としての機能、IAP制御などについても表記がありますが(横隔膜はspindle cellの数が少ないのでtensionやプレッシャーのコントロールを一人ではとても仕切れない、abdominal wallやpelvic floorとの連携が必要不可欠である、など)、このへんの論文は自分でも読みつくしているし、真新しい情報はなかったので省略でいいかな。前にも書きましたしね。横隔膜の活動がgait(歩行)のフェーズや飲食のリズムと深い関係があることについても(なので歩行のフェーズに合わせた呼吸介入もそのリズムを取り戻すのに有効であるかもしれないことなど)少し記述がありましたし(ちなみに四足歩行の哺乳類の殆どは一歩歩くごとに一呼吸をするという1:1であるのに対して、ヒトは2:1~4:1程違いがあるそう。四足歩行の動物は移動の際に前後にvisceral piston、つまり内臓が前に押し出されることで横隔膜のドーム形状がリストアされ、次の呼吸がしやすくなるという独特のチカラの掛かり方が起こることを考えれば、1:1という割合は動物学的にもスジが通っています。四足歩行動物でもグレイハウンドのような長距離を走ることを得意とする動物は2:1の割合で呼吸をする種もいるんだそうで、それらの種はどうしてそんな進化を遂げるようになったのかも妄想をめぐらすと楽しいです。あ、話が逸れた。ヒトの呼吸は割合としては2:1が一番エネルギー消費の無駄が少ないのだとか)、感情のコントロールと横隔膜の機能の箇所では「例えば子供が痛みを感じるとハッと息を飲み込み(それらは横隔膜の収縮によってもらたされたものである)、その後に子供は大声で泣き始めるだろう(これは横隔膜のリラックスと、abdominal wallの収縮によって起こる現象だ)」と説明し、「ところが大人はどうだ、同じような痛みを感じて空気を飲み込むことはあっても、子供のように思いっきり泣いて吐き出すことは滅多にない。もしかしたらそういう出来事があるたびに横隔膜の緊張は高まっているのかもしれない」という推測も、ユニークで斬新でもうめちゃめちゃ面白いです…っていうか、この論文いちいちひと段落ひと段落が面白いです。横隔膜好きは一度読んだほうがいいです…。

それでは、キリがないし、明日も一日講義のでそろそろ休むことにします!AI後半の報告のため、また更新します。

1. Doi T, Harimaya K, Mitsuyasu H, Matsumoto Y, Masuda K, Kobayakawa K, Iwamoto Y. Right thoracic curvature in the normal spine. J Orthop Surg Res. 2011;6:4. doi: 10.1186/1749-799X-6-4.
2. Henning S, Mangino LC, Massé J. Postural restoration: a tri-planar asymmetrical framework for understanding, assessing, and treating scoliosis and other spinal dysfunctions. In: Bettany-Saltikov J, Schreiber S,eds. Innovations in Spinal Deformities and Postural Disorders. London, UK: InTech; 2017.
3. dos Reis AC, Correa JC, Bley AS, Rabelo ND, Fukuda TY, Lucareli PR. Kinematic and kinetic analysis of the single-leg triple hop test in women with and without patellofemoral pain. J Orthop Sports Phys Ther. 2015;45(10):799-807. doi: 10.2519/jospt.2015.5011.
4. Wallden M. The diaphragm - More than an inspired design. J Bodyw Mov Ther. 2017;21(2):342-349. doi: 10.1016/j.jbmt.2017.03.013.

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  by supersy | 2017-12-09 23:30 | PRI

ACL再建手術からの競技復帰は、「最低9ヶ月」かけろ?

秋学期ももう終盤。年末の帰国時期が迫ってきています、やっほうー。と、いうことは帰国翌日から始まるEBP講習までもあと2週間ほどです。新たな講習もあるので今回は特にわくわくです。

<講習日時>
2017年12月17日(日)
9:30am-12:45pm  エビデンスに基づく治療介入: 基本から応用まで
           *途中休憩15分含む3時間講習
12:45pm-14:00pm 昼食(各自)
14:00pm-16:00pm エビデンスに基づく治療アプローチ: AMIと抑制解除療法 (NEW!)
16:20pm-18:20pm エビデンスに基づく治療アプローチ: 腱障害リハビリ (NEW!)

2017年12月20日(水)
18:20pm-21:35pm エビデンスに基づく予防医学: 基本から応用まで
           *途中休憩15分含む3時間講習

2017年12月21日(木)
18:20pm-21:35pm エビデンスに基づくスポーツ傷害評価: 基本から応用まで
           *途中休憩15分含む3時間講習

まだ申込受付中ですので興味のある方は是非!詳しくは以前のブログ記事からどうぞー。



先週末の話になるのですが、Thanksgiving Breakはオハイオはクリーブランドにお邪魔していました。中山佑介(ゆっけ)さんの「好きな時にいつでも遊びに来てください」というお誘いを真に受け、遊びに行くならこのタイミングしかないー!と飛んでいったのです。すみません、誘われると私はいちいち本気にします。

11月22-25日の三泊四日の小旅行でしたが、11月22日のvs Nets戦と24日のvs Hornets戦の2試合を観戦させてもらったばかりか、Cleveland Cavaliersの練習施設も見学させていただいたりと非常に充実していました。Thanksgivingに休暇の旅行をしたのは10年ぶりくらい…羽を伸ばすとはこういうことかー!という幸せなひとときでした。
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この業界にいるひとつの楽しみに、友人の働くチームの活躍を心の底から応援できる、つまり、応援できるチームが各リーグにたくさんできる、というのがあります。試合中、コートやフィールドを走り回っている選手を見ながら、この選手一人一人が元気でプレーできている裏に何十、何百、何千時間というメディカルスタッフの尽力、努力、苦労があるのだろうなぁと勝手に妄想を膨らませてしんみりしたり感動したりするのがそれはそれはとても楽しいのです。観戦した2試合ともCavaliersは接戦を制し、7連勝と勢いに乗っていました(その連勝記録を今日までに11に伸ばしているようです)。あー楽しかったー。ゆっけさん、ありがとうございます!この写真は昨年Spurs戦にSan Antonioにいらしたときにゆっけさんと撮ったやつです。
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さて、話は変わりまして。ACL(前十字靭帯)断裂はアスリートにとって脅威ですよね。中でも「ACL再建手術を経験した若年スポーツ選手のうち、その30%程が術後2-3年の間に二度目のACL断裂を経験する」1,2 という統計はかなり深刻で、「どう(理想的に)ACL再建手術から回復していくか」という分野はまだまだ掘り下げる余地がありそうです。
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で。Level I sports (jumping, cutting, pivotingのあるスポーツ、上記の表3 参照)に競技復帰するにあたって、ACL再建手術をした患者の術後2年以内の再受傷率はどのくらいなのか?競技復帰のタイミングや競技復帰時の機能にそれはどのように影響されるのか?を検証した論文がこちら。4 タイトルが興味深いですね、とりあえず読んでみましょー。
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対象となったのは106人のACL再建手術を受けた患者。Inclusion criteriaは1) 3ヶ月以内に片方の膝にACL再建手術を受けていること、2) KT-1000で3mm以下の左右差があり(= 手術成功した、という基準に使っているのかなと解釈)、3) 13-60歳で(ちょっと年齢幅が広い…競技復帰など、この結果がapplicableになる患者層を考えれば13-35歳くらいに限定してもよかったのでは)、4) Level IかIIのスポーツを少なくとも一週間に2回の頻度で受傷前に参加している、ということ(Level Iの競技復帰を検証するのに、どうしてLevel IIのみしかしていない患者を含むのかは疑問)。Exclusion criteriaは1) 膝(健側患側のいずれかも)の怪我受傷の既往歴があること(何故これがダメなんだろう?)、2) 患側の膝にグレード3の靭帯損傷やfull-thicknessの軟骨の損傷が認められること、3) ACL断裂に付随する半月板の損傷が有り、且つそれが受傷3ヶ月後にplyometric exerciseをしていると痛みもしくは腫れが出ること。ここらへんは個人的にはもう少し説明をしてほしいというか、何故グレード2はオッケーでグレード3がダメなのか、「再建手術をここ3ヶ月以内に受けた」の患者が対象で、「受傷から3ヶ月経ってもPlyo最中に痛み・腫れが出る」というタイムラインは合わないのではないか、など疑問が残ります(= 再建手術後3ヶ月以内でplyoが元気にできるケースのほうがレアなのでは?など、理に適っていない部分が多いと感じます)。

患者群は受傷後、5週間のpre-operativeリハビリプログラムを全員一貫して終了したのち、手術をするか保存療法で行くかを決めたという記述があるので、そこで手術をしようと判断された患者がこの研究に流れてきたってことなんでしょうね。しかし、どういう患者が「手術が必要」と判断されたのかという記述はありません。手術の際のグラフトはBPTBかHamstringかの二択があったらしいんですが、これも統一されていない→outcomeに影響を及ぼす可能性は大いにアリで、postoperativeのリハビリに関しても、preoperativeと異なり個々の患者に合ったものが作られたらしいんですが、リハビリの多様性もoutcomeに影響を及ぼすのではと思いますね。ぼややっと「postoperativeのリハビリは全部共通の3 phasesがあり、それぞれのphaseではこういう目標がありました」という概要は明記されているのですが、一体何人のPTがリハビリデザインをし、実践したのか、どれだけの多様性が実際存在したのかなど細かい説明はありません。こういうのは大いにこの実験のInternal validityを脅かす要素だと思いますね。

実験期間中、患者はonline surveyを使って毎月参加したactivityや膝の怪我を報告(self-reportなので真実でない可能性、報告を忘れる可能性、recall biasなどが入る可能性あり)。期間中、再受傷した場合はクリニックに戻って再受診をしたそうな。ふむふむ。

で。結果です。106人中、脱落者が6名おり(一人はwithdrawn、残り5人はonline surveyをやらず)、最終分析に含まれたのは100人(男46人、女54人、 平均24.3±7.3歳)。受傷前にLevel Iスポーツに参加していた患者のうち、74人が競技復帰(89.16%)を果たし、まぁ当然というかなんというか、もともとLevel Iスポーツに参加していなかった患者17人はのうち、Level Iスポーツを手術後するようになった患者はおらず(0/17, 0%)。
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100人中、術後2年間以内に膝の怪我を再受傷した患者は24人(24/100、24%)で、詳しい怪我の内訳は上(Table 2 ↑)通り。このうち、Level Iスポーツに復帰した74人中再受傷したのは22人(29.7%)で、うち、45.5%の怪我は競技復帰してから2ヶ月以内に起こったものだったそう。年齢に関して統計的修正を加えて分析すると、「ACL再建手術の後、Level Iスポーツに競技復帰した患者は、より低いレベルのスポーツに競技復帰した患者に比べて、膝の再受傷リスクが4.32倍(95%CI 1.01-18.40, p = 0.048)上がる」という結果が出たそうな。95%CI幅がちょっと広いなー。ぎりぎり統計的に有意ですね。

復帰のタイミングも大きな要素だったよう。全体としては「競技復帰のタイミングが遅いほうが再受傷のリスクも低い」という結果で、競技復帰を一ヶ月遅らせるごとに再受傷率は51%下がっていくという数字は非常に興味深いです。具体的には、手術後5ヶ月以内に競技復帰した4人のうち4人全員が、競技復帰して2ヶ月以外に再受傷(4/4、100%)したのに対して、9ヶ月未満に復帰した患者 vs 9ヶ月以上かけた患者の再受療率は39.5% (15/38)と19.4% (7/36)。9ヶ月以上遅らせてもadditional benefitはない、つまり、9ヶ月という数字がcutoffになりそうだ、とのことです。へぇー。

やはり最低でもACL再建手術からは9ヶ月競技復帰まで見たほうがいい、というのがこの研究の最終結論です。アメリカではACL再建手術からの復帰は「6ヶ月」というのがスタンダードになっており、一昔前には「Accelerated rehab」という、ACL断裂から4-5ヶ月での競技復帰が称賛されたりしたこともありましたね。日本では、というと、以前知り合いに「日本ではACL再建手術からの復帰に必ず10ヶ月かける」と聞いて、「えー、問答無用で10ヶ月って長くない?もっと短くできるでしょ」と思ったことも正直ありました。でもこういう論文を読んだり、Ligamentizationという体内のプロセスを理解するにつれて、いやいややっぱり結局なんだかんだで一年弱かかるよな、と思うようになったんですよね。日本がまだ「最低10ヶ月」というタイムラインを使っているんだとしたら、それはアメリカの「6ヶ月くらい、なんだったらできる限り短く」とする基準よりも遥かにいいものなのかもしれない、と今は考えています。急げばいいってもんじゃないですもんね。患者の身体に徐々に起こる変化をリスペクトできてこそ、セラピストの役目を果たせるってもんなのかもしれません。

1. Paterno MV, Rauh MJ, Schmitt LC, Ford KR, Hewett TE. Incidence of second ACL injuries 2 years after primary ACL reconstruction and return to sport. Am J Sports Med. 2014;42:1567–1573.
2. Webster KE, Feller JA, Leigh WB, Richmond AK. Younger patients are at increased risk for graft rupture and contralateral injury after anterior cruciate ligament reconstruction. Am J Sports Med. 2014;42:641–647.
3. Hefti F, Müller W, Jakob RP, Stäubli HU. Evaluation of knee ligament injuries with the IKDC form. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 1993;1:226–234.
4. Grindem H, Snyder-Mackler L, Moksnes H, Engebretsen L, Risberg MA. Simple decision rules can reduce reinjury risk by 84% after ACL reconstruction: the Delaware-Oslo ACL cohort study. Br J Sports Med. 2016;50(13):804-808. doi: 10.1136/bjsports-2016-096031.

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  by supersy | 2017-12-03 23:30 | Athletic Training

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