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スパインボードはもう撤廃すべき?脊髄・脊柱損傷疑い救急対応の最新知見レビュー。

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今回は先月発表になったこんな論文1 を読んでみます。しかしこの著者の方、興味深い資格歴ですね。LATだけどATCは持ってない?本職はNPの方なのかな?

American Academy of Orthopedic SurgeonsによってEMT向けに初めて教科書が出版されたのが1971年。その教科書には脊柱損傷(spinal injury)が疑われる際にはRigid Cervical CollarとLong Spine Boardを使って患者を固定しましょう、と推奨されていたのですが(↓)、当時はEBPの考えも浸透していない時代。患者の訴えや症状は関係なく、メカニズムが頸椎損傷を起こす可能性があるものだったら(交通事故や落下事故など)とにかくCervical CollarとLong Spine BoardによってSpinal Immobilization (SI, 脊柱固定)することが試みられていたようです。「患者の主訴がなんであれ」というのは興味深いですね。ふーむ。疑わしきはどんどん罰す!みたいなメンタリティーだったんでしょうか。
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で。結局のところSpine BoardによるSIが有効というはっきりしたエビデンスはない、というのがこの論文の論点です。それどころか、1980年代から「Spine Boardを使った脊柱固定はむしろ有害なのでは?」という声が出てきてるんだそうです。「悪効果」といわれるのは4つの理由があって、それらは…:
1. Increased pain - 結構硬い板ですからねぇ…。1時間Spine Boardに固定されていた患者は24時間後にも身体の痛みを訴えている、とか、腰痛が無かった人も出るようになっちゃうとか、色々過去にも報告されているようです。
2. Respiratory compromise - 胸部のストラップが(特に年配の患者に対して)呼吸機能の制限を生むんだそうな。
3. Tissue breakdown - 30分間固定しているだけでも、局所的な部位の圧迫によって仙骨や頸椎周りの組織がhypoxia(低酸素)状態になるとのこと。
4. Ineffective immobilization - 固定の際に必要以上に脊柱が動いてしまったり、プロ(paramedics)によって「固定」されたはずの患者の88%がストラップによる固定が甘かったり、ストラップが取れてたり…こちらも過去の研究によって色々と報告されているそうで。

こういったことが原因で2013年にNational Association of EMS Physiciansが発表したPosition PaperではLong Spine Boardの使用はもっと限定的であるべき - 具体的には1) blunt traumaや意識レベルの低下が見られる場合; 2) 脊柱の痛み・圧痛あり; 3) 感覚異常や筋力低下など、神経症状が見られる; 4) 脊柱の明らかな変形あり; 5) 泥酔状態でのhigh-energyメカニズムやコミュニケーション能力の欠如、牽引性の受傷メカニズムがある場合のみに使用されるべきだ、と推奨されるようになり、American College of Emergency Physiciansも同様のステートメントを発表しています。そして、もうひとつ特筆すべきはこういう限定的使用時でさえもLong Spine Boardは「extrication only (脱出目的のみ)」で使われるべきである、と論じられていること。つまり言い換えれば、フィールド・コートから救急車などの最低限の移動(=「脱出」)の際に超・限定的に使われるべきで、「脱出」を終えたらできる限り迅速にLong Spine Boardの使用は中止しましょ、ということみたいです。

んで。
Long-Spine Boardの代わりにSpinal-Motion Restriction(SMR)に着目した脊柱の動作制御のほうが重要であるというのがここ最近の複数の団体の共通の見解ですかね。SMRはSIとよく混同されるのですが、SMRは必ずしもLong Spine Boardを使うとは限らず、Anatomic positionを保ちながら、脊柱の動きが制限できればどんな固定方法を使ってもオッケーみたいな緩い定義なんだそうです。ここらへんについては前にも少しだけ書きましたよね。SMRのために具体的に何を使うかってのはハッキリと決まっていたり提唱されたりはしておらず、結局Local EMS次第なんだそう。この論文にはSelective Spinal Immobilizationという、メカニズムではなく患者の訴えを元に固定のニーズを決める方法も紹介されており、「落下した」→「Long Spine Boardによる脊柱固定」という短絡的な考えではなく、きちんとしっかり患者を評価した上でどんな固定法がベストか決めようという、当たり前のようで流動的な方法がいいのではないかと説明されています。そうすることで不必要なLong Spine Boardの使用が37%も減らせたのだとか。

では、ここいらでまとめるとして、ATとして今知っておくべきことは何か?
この論文には、"use of the [Long Spine Board] during transport should be discouraged based on the evidence."と明言されています。脱出限定のLong Spine Boardの使用は場合によってはオッケーだけれども、どうせだったらScoop式のストレッチャー(↓)のほうがよっぽど使い勝手がいいし、EMTは通常この道具を携帯していますよね、とも書かれておりますね。ふむふむ。
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EMT界は既にLong Spine Board文化から離れつつあるというのは改めて我々ATも認識すべきなのかも知れませんね。積極的にLocal EMTと連絡を取り、救急時に何を使ってどういう場合に頸椎をどう固定するのがベストなのか、シーズン前・Academic Year開始前に一度顔を合わせて確認や練習をしておくことが今まで以上に必要不可欠になってくるかと。救急のプロと、スポーツ医学のプロが事前に話し合って合意点を掴んでおけばいざというときに対応がスムーズですからね。

頸椎損傷の疑いがある場合は、毎回こうする!という絶対的な決まりがあると気分は楽ですよね。患者の命がかかっているかもしれない場面で、自分たちで考えて判断しろと言われたら途端に不安になる。今回のパラダイム・シフトがATの実践にジワジワと浸透していくためには、そんな自分の弱さや不安をきちんと認めるところからだなぁと。そんなことを考えながらこの論文を読んでいました。いやいやしかし、Best Practiceは「毎回必ずこれが正解」なんて単純にpre-determinedされてるわけじゃないですもんね。もっとこれからの研究で判明されるべきエビデンスはあるにしても、我々もきちんと現場で考える技術と知識を身に着けることが第一です。これからも真摯に学び続けていかなければと背筋が伸びる思いです!

1. Feld FX. Removal of the long spine board from clinical practice: a historical perspective [published online September 17, 2018]. J Athl Train. 2018;53(8). doi: 10.4085/1062-6050-462-17

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  by supersy | 2018-10-12 23:59 | Athletic Training

帝京大学スポーツ医科学センター開所とTASKパフォーマンス開設。

立ち上げた個人ウェブサイト、昨日の朝8時から会員受付が始まりましたが、募集開始6分で定員の30名に達したようでもう当事者の私も開いた口が塞がらない思いです。こんなにエビデンス好き、論文好きがヨノナカに隠れていたとは…!同志…!

先着30名様には本日入会案内のメールをお送りして、うち10名程の手続きがスムーズに完了しました(案内は@crm.wix.comのドメインからのメールになります、心当たりのある方でメールが見当たらなければジャンクメールボックスもご確認ください)。当初の予定では10月22日までは会員30名で、そこから徐々に人数制限解除していこうと思っていたんですけど、これだけ興味があると言って下さる方がいるならもっと頑張ろう!と慣れない事務仕事をもりもり張り切ってやっております。今月はちょっとイベントが詰まっており忙しく、どれくらいかかるかわからないのですが、全員をなるべく早くご案内できるよう最善を尽くします。

さて、ほんでもって再告知です!

12月16日(日)にEBP講習スポーツ傷害評価編を行います!今回は基礎レベルの「スポーツ傷害評価編」と(3時間、3.0 EBP CEUs)、臨床応用レベルの「評価・ACL損傷編」「評価・手首の傷み編」(各2時間、それぞれ2.0 EBP CEUs)をまとめて一日で開催します。全3講習に出席すればBOC EBP CEUを一気に7.0も獲得可能です。新講習(両臨床応用レベル講習)が盛りだくさんですし、本年のEBP講習開催はこれが最後になりますのでこの機会をぜひお見逃しなく。日程と構成は以下の通りです。お申し込みはこちらから。

<講習日時>
2018年12月16日(日)
9:30am-12:45pm  エビデンスに基づくスポーツ傷害評価: 基本から応用まで
           *途中休憩15分含む3時間講習
12:45pm-14:00pm 昼食(各自)
14:00pm-16:00pm エビデンスに基づくスポーツ傷害評価 ACL損傷の評価法 *NEW!!
16:15pm-18:15pm エビデンスに基づくスポーツ傷害評価: 手首の傷み評価法 *NEW!!

ちなみに、基礎レベルの講習は「エビデンス(科学的根拠)に基づく…」とかよく耳にするけれど、どういうことか実はよくわからない、今更ヒトにも聞きにくい、という完全初心者さんウェルカムな講習で、むしろエビデンスに対して不信感とか苦手意識のある方にこそ来ていただきたいと思っています。エビデンスに基づく実践って思ったほど難しくないや、結構楽しいかも!と思って帰っていただければそんな幸せなことはありません。

午後に行う講習ふたつはどちらも新作の「臨床応用レベル」の講習で、今まで教えてきた「基礎レベル」の講習から一歩踏み込み、感度や特異度というコンセプトを踏まえた上で実際に臨床の現場で皆さんがぶつかっていそうな症例にとびかかり食らいついていきます。「エビデンスに基づくスポーツ傷害評価: 基本から応用まで」講習の事前履修を強くお勧めしますが、必須ではありません。感度や特異度、陽性/陰性尤度比の何たるかがわかっている方であれば問題なく楽しめる内容になっております。

ACL損傷編では「ACL損傷に使えるSelective Tissue Testにはどんなものがある?」「それぞれの有効性は?」「そういや結局Lelli Testとやらって使えるの?」など紐解いた後で、「では、実際に現場でこんな状況では、あんな状況どうすれば?」というところまで実技を交えて議論、手首の傷み編では臨床で見落とされがちな1) 舟状骨骨折; 2) 有鈎骨鈎骨折; 3) TFCC障害の3つに焦点を絞り、それぞれを「どう評価するのが最善か?」をエビデンスを探し、読み解きながらこちらも実践を交えて検証します。

全講習、参加者の資格は問いません。元々ATC資格保持者さんのためにと思って企画した講習でしたが、今までPT、OT、柔道整復・あんま・鍼灸師さん、医師の方や大学教員・研究者さんなど幅広くご参加頂いています(ありがたやー)。学生さんも大歓迎です!リピーターさんも、リフレッシュにまたという方も結構いらっしゃいます。

〒190-0022 東京都立川市錦町3-3-20
   JR中央線立川駅南口より、徒歩13分
   JR南武線西国立駅より、徒歩7分
   多摩モノレール立川南駅より、立川南通りを直進、徒歩12分

<定員> 各講習50名

参加は一番興味のあるコースひとつだけでも、お好きな組み合わせで2つでも、3つ全てでも。お申し込みはGuardians Athletic Training & Therapyのウェブサイト上のこちらから(お手数ですが、複数講習参加する場合はリンク先から各イベントひとつずつお申し込みください)。複数受講される方には一昨年から導入した『セット割引』システムが適応、そして『学生割引』も健在です。

<受講料> 
一般 3時間講習(基礎編) 9,000円; 2時間講習(臨床応用編) 各6,000円
   2講習同時申込で10% off
    (例: 基礎+臨床応用で1,500円引き、臨床応用講習2つで1,200円引き)
   3講習以上同時申込で15% off
    (例: 基礎1つ+臨床応用2つで3,150円引き)
学生 3時間講習(基礎編) 8,100円 (10% off - 900円引き);
   2時間講習(臨床応用編) 各5,400円 (10% off - 600円引き)
   2講習同時申込で20% off
    (例: 基礎+臨床応用で3,000円引き、臨床応用講習2つで2,400円引き)
   3講習以上同時申込で25% off
    (例: 基礎1つ+臨床応用2つで5,250円引き)
     *現役大学・専門学校生(国内外不問)さん対象。申込後に学生証の提示が必要です、

新作の講習2つは私が個人的にもうだいぶ長いこと、ずーっとやりたいなーと思っていた内容ですのでどきどきワクワク楽しいものになるんじゃないかと思っています。より多くの皆様にお会いできるのを楽しみにしております!セミナーの内容に関して質問があればここのコメントなどで講師の私に直接ご連絡ください。申し込みなど運営関係の問い合わせは主催の高橋(tdtakahashi@guardiansatt.com)までお願いします!



それから、私が9月から勤務している帝京大学スポーツ医科学センターですが、この度、公式ウェブサイトが設立しました!いやーこれ私が言うのもなんですが、カッコいいんですよ!そして見やすい!やっぱりプロの方が作ったウェブサイトは個人のフリーのものとは違いますね…。
様々なメディア(↓)でも取り上げていただいていますが、新しく開設したこの帝京大学スポーツ医科学センターではTASKパフォーマンスという究極の「ジェネラリスト集団」を集結!アスレティックトレーナーとフィジカルコーチの連携を利用した、トータルヘルスケア・パフォーマンス向上目的の帝京外のアスリート受け入れを始めます(来年度から本格的に始動していく予定です)!いやだって正直なところ、これだけのハコですから帝京大学アスリートのみで独り占めするのは違うよねと。もっともっと多くの方々に活用していただきたいよねって話になったわけです。

怪我から復帰するスポーツ選手のリハビリは「メディカル・リハビリテーション」と「アスレティック・リハビリテーション」の2つのフェーズに分けておこなわれることは珍しくないのかもしれません。しかし「リハビリ」は「リハビリ」であり、それは「患者が患者の望む機能を再獲得するまでの包括的なプロセス」のことを指す言葉のはずです。個人的にはフェーズという区別は本来あるべきではないのでは、リハビリにメディカルもアスレティックもないんじゃないかと思うんです(「メディカルリハ」期でもスポーツ特有のニーズは考慮されてしかるべきだし、「アスリハ」期だからといってアスリートの日常生活部分の重要性が少なくなるわけではないじゃありませんか。その境界線は限りなくゼロに近いはずです)。患者がアスリートであっても非アスリートであっても、その人が望む機能を完全に復元できればそのリハビリを提供できたセラピストは素晴らしい!ってことだし、できなければその人はリハビリができないセラピストってわけだし…そういうシンプルなことなんじゃないかと。

ですから、我々はシンプルに行きます。もうただただ率直に、目の前のアスリートの最善を追求していきます。その人がフィールドで、コートで何秒で走るか何点取るか何センチ飛ぶかのみでなく、どう食べ、どう寝て、どう歩いているか…何を見て笑い、悲しみ、どう人として生きているかまでも考慮した「トータルヘルスケア」を提供したいのです。

確かに、複雑な若年脳卒中などのケースで神経系リハビリの専門家など、スペシャリストがその力を遺憾なく発揮する分野もあるでしょう(そこを否定しているわけではありません。専門家の知恵や力を借りなければいけない場面は多々出てきます)。しかし、(そこまで複雑な症例ではない)一般的なスポーツ外傷を抱えたアスリート患者のリハビリをフェーズ分けするデメリットに、「スペシャリストからスペシャリストの受け渡しで失われる時間、情報、治療哲学の一貫性の欠如」などが挙げられます。だからこそ、「きちんと訓練を積んだ同一機関に勤務するジェネラリストらが、一貫して一人のスポーツ選手患者のオペ後から競技復帰、さらに最大限のパフォーマンスを引き出すところまでを担っていく」メリットは大きいはずです。

TASKパフォーマンスでは、私もコアスタッフの一員として臨床の現場でバリバリ動こうと思っています。私が精通するコンセプトなんかを主軸にしながら、今まで日本にあまりなかったアプローチも積極的に使っていければと思っています。幸い仲間にはとってもとっても恵まれていますから!切磋琢磨してお互い学び合い、教え合いながら楽しく仕事できるに違いないとわくわくしております。もちろん、必要だとあればすぐに専門家に連携を頼みますよ。専門分野を生かし、尊敬し、力を合わせ合う。そのためのセンターですから。
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んで。

以前も告知しましたが、そんな帝京大学スポーツ医科学センターが一般公開になる数少ない機会が今週末、日曜日です!開所式を兼ねた内覧会、様々な友人に「行くよー」と言ってもらえていますが、スポーツ医学、栄養学、パフォーマンスサイエンスやトレーニングの専門家さん、スポーツ指導者に選手の方、この分野に興味のある学生さんなどの幅広い分野の方に訪問していただけたらいいなと思っています。私のセミナー時間も正式に決定しましたー。以下の通り、11:00amと13:15pmからですので是非お気軽に遊びに来てください。内覧会自体は10:00-15:00までやっています!前回も書いた通り、申込不要、参加完全無料の好きに来て好きに帰っていいスタイルですのでー。
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体験イベントも終日やってます!色々ありますのでチェックチェック!見学だけでもいいですし、身体を動かしたい方はこんなのもどうぞー。
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全体のスケジュールはこんな感じです(クリックで拡大)。
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多くの皆様にお会いできるのを楽しみにしています!

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  by supersy | 2018-10-09 23:59 | Athletic Training

画像診断による椎間板異常所見は、本当に「異常」なのか?Overdiagnosis(過剰診断)問題をもう一度考える。

異常と普通の境目: 画像診断の進歩による弊害、「Overdiagnosis」について考える(2017年11月14日)
スポーツは身体に良くない?NBA選手の「健康」な膝のMRIを撮ってみると…(2018年4月13日)

ここまで、過剰診断に関する記事を複数回書いてきました。一回目がSLAP損傷、二回目が膝の軟骨損傷・半月板損傷についてでしたが、今回は椎間板ヘルニアについてです。腰痛がある患者さんにMRIやCTでDisc bulge(椎間板膨隆)やDisc protrusion/extrusion(椎間板突出/脱出)があると「これが原因だったか!」と判断され、手術などの治療アプローチに繋がることが多いですが、果たしてこれは賢い判断と言えるのでしょうか?
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そんなわけで、ここまで腰痛がある被験者群と健康で腰痛のない被験者群を比較するような画像診断研究はいくつも出ているのだから、それを総合的に分析し直してみましょうや、というのがこの記事(↑)。1 15~50歳の被験者に絞って2014年4月までに発表された論文14件(総被験者数3097人)をレビュー、メタ解析しています。

健康な被験者(実験参加時点で腰痛がないだけでなく、過去の腰痛の既往歴も一切ない)の合計が1193/3097(38.5%)、腰痛ありの被験者(現在進行形も、既往歴も含む)が1904/3097(61.5%)だったそう。数としては十分ですね。個人的には各研究の被験者プロファイル情報をもうちょっと見てみたいですけど。年齢性別活動レベルなどなど。Competitive sportsをやってたpopulationはどれだけいたのかなぁ。
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で、早速ですが、結果です!上のテーブルを見れば一目瞭然なんですが、私が個人的にびっくりしたものをまとめます。
●健康な被験者での「病理的変化」の多さよ!中でも
- 線維輪亀裂(annular fissure): 11.3 (9.0-14.2%)
- 脊柱管狭窄症(central spinal canal stenosis): 14.0 (10.4-18.6)%
- 椎間板変性(disc degeneration): 34.4 (31.5-37.5)%
- 椎間板突出(disc protrusion): 19.1 (16.5-22.3)%
- 椎体異常(Modic change、腫脹や骨髄変性、骨折を全てのタイプを含む): 12.1 (9.6-15.2)%
これらは10人に一人から、多いもので3人に一人は見られるというのだからびっくり!!!
●健康な被験者と腰痛既往歴ありの被験者でハッキリとprevalenceに差があったもの(p<0.05)は赤でアンダーラインを引きましたが、言い換えれば線を引かなかったものは「既往歴に関わらず、痛みのない一般の人にも同じだけの頻度で見られる変化=normal varianceと言ってもいい?」ということになるのかなと。
●でも線を引いたものの中でも椎間板変性(disc degeneration)はそもそも健康な人でも3人に一人、椎間板突出(disc protrusion)は5人に一人いるのだから結局因果関係である「最終診断」には結びつかないわけで。ここらへんのClinical relevanceはどう判断するのがベストなのか?

むぅぅ、と色々考えたくなってしまうレビューでした。ついでにもうひとつ、こっち(↓)も面白いのでまとめます。2
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こちらは健康な(= 腰痛の既往歴ゼロの)被験者のMRI/CTを撮って結果を検証している2014年4月までに発表された33件の論文をレビューしたもの。20代、30代、40代、50代、60代、70代、80代の年齢層別に分けて分析しているところが面白いです。総患者数は3110人!こちらもなかなか数としては多いですね。性別や活動レベルは不明。
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結果、それなりに予測していたつもりなんですがそれでもjaw-droppingです。
ええっと、椎間板突出(disc protrusion)と線維輪亀裂(annular fissure)は20代から80代と加齢していってもそれほど増え幅は大きくないのかね(それぞれ29-43%の+14%; 19-29%の+10%)、ってことは言えるかもしれませんが、やはり加齢に伴ってどの椎間板・椎体・椎弓異常もグングン増えていくのね(多いもので+80%)ということ、特に70代越えてくると本当に大変ねーということが分かります。
それにしたって若い年齢層でも有病率のなんと高いことよ!40代でDiscに問題ない人のほうが少数派になるんじゃないですか。20代も30代も充分数字は大きいです。だから改めてですが、これらは健康な被験者を検証した結果だということを踏まえて、椎間板変性、膨隆や突出はincidental (偶発的なもの)であるケースが非常に多く、仮に患者が痛みを訴えていたとしても画像診断による異常所見が臨床的な原因として特定できるかというとそうではない、ということは改めて強調されるべきです。実際にこれらMRI画像診断の結果を元に手術をしたけど、アウトカム向上にはつながらなかった、という重要で恐ろしいと我々が感じるべき報告は複数存在します。3,4

これは想像でしかないですけど、アスリートに絞って見たらもっと多そうですよね。大学、プロにわけて種目別にとった1,000人超規模のデータも見てみたいです…。
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なので、アレですねぇ。どうしたら見ている画像と患者が訴えている症状の「因果関係」があぶりだせるか、という明確な答えが無い今は「
Diagnostic imaging studies should be performed
only in selected, higher-risk patients who have severe
or progressive neurologic deficits or are suspected of
having a serious or specific underlying condition. A thorough
history and physical examination are necessary to guide
imaging decision
(p.31).
5 という言葉に尽きるのかもしれません。ざっくり訳すと、「MRIやCTなどの画像診断は、重度や進行性の神経性症状のある患者や、その他深刻な病理的変化が疑われるハイリスクの患者のみに行われるべきである。画像診断が必要かどうかは問診や身体所見を慎重にしながら見極められるべきだ」ってことでしょうか。


いやまぁほんとに、前々から言ってることですけど、見えなくてもいいものって世の中にいっぱいあるってことなのかもしれません。見なくていいものを見てしまうことで患者が精神的に受ける影響はきっととっても大きい。私だってもし、人生で一度も腰痛を経験したことがなくても「線維輪完全に敗れて髄核出てますね」と言われたらエッってなります。腰が痛いような気がしてくるかもしれません。病は気から。難しいところです。そんなわけでやっぱり、これらの統計は我々は頭の片隅にしっかり入れておくべきものかと思います。読んでよかったー。

1. Brinjikji W, Diehn FE, Jarvik JG, et al. MRI findings of disc degeneration are more prevalent in adults with low back pain than in asymptomatic controls: a systematic review and meta-analysis. Am J Neuroradiol. 2015;36(12):2394-2399. doi: 10.3174/ajnr.A4498.
2. Brinjikji W, Luetmer PH, Comstock B, et al. Systematic literature review of imaging features of spinal degeneration in asymptomatic populations. Am J Neuroradiol. 2015;36(4):811-816. doi: 10.3174/ajnr.A4173.
3. Carlisle E, Luna M, Tsou PM, Wang JC. Percent spinal canal compromise on MRI utilized for predicting the need for surgical treatment in single-level lumbar intervertebral disc herniation. Spine J. 2005;5(6):608-614.
4. Lurie JD,Moses RA, Tosteson AN, et al. Magnetic resonance imaging predictors of surgical outcome in patients with lumbar intervertebral disc herniation. Spine (Phila Pa 1976). 2013;38(14):1216–1225.
5. Wáng YXJ, Wu AM, Ruiz Santiago F, Nogueira-Barbosa MH. Informed appropriate imaging for low back pain management: A narrative review. J Orthop Translat. 2018;15:21-34. doi: 10.1016/j.jot.2018.07.009.

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  by supersy | 2018-10-05 21:30 | Athletic Training

重大なお知らせ。

かねてより発表すると申しておりました、「重大なお知らせ」です!

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この度、個人のウェブサイトを立ち上げました。最初はこのウェブサイトをあくまでもウェブ上の履歴書というかポートフォリオというか、これからの講習予定を分かりやすく表示したり、講習等の依頼を受ける窓口として使おうと思って作り始めたのですが、途中でふと「これを媒体に、エビデンス・レビューを講義の形にして収録・配信したりもできるかな?」と思い始めてしまったんです。まぁニンゲンとはなんと実に欲深い生き物であることよ、ということなのかもしれません。で、やってみたらできそうだったんで、行ってみるか!と。そんなわけで、このウェブサイトを介して動画配信始めます!

このブログはもう13年以上続けているものなので、これはこれでこのペースでまったり更新し続けていこうと思うのですが、それとは別にこちらの新しいウェブサイトでは講義形式の動画配信を定期的にやっていければと思っています。色々試したんですけどシンプルにパワーポイントに声を載せる感じで行こうかなと。まぁそれでも、なんといいますか、少し悩んでこれは一般公開するようなものではないと結論づけるに至ったので、月額500円という有料会員の形態を取りたいと思います。月額500円という設定には自分なりの理由があるんですが、そこらへんはこちら(↓)で。
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どんなペースでどんな動画をアップするつもりなのか、などその他の詳しいことはこのMembers Only(会員限定コンテンツ)説明ページに記載していますが、一週間後の10月8日(月)、日本時間の朝8時より入会の受付を開始します。ウェブサイトにもある通り、10月22日までは会員は先着30名に限定し、徐々に人数制限を解いていこうと思っています(これは出し惜しみとかではなく、単純に私の処理能力の限界の問題です、申し訳ありません)。入会希望申請の事前予約は受け付けておりません。10月8日(月)8時より受付した分から文字通り先着で行きますので、ご理解くださいませ。

入会申請はいたって簡単。ウェブサイトのContactから、申請者のお名前、Eメールアドレス(gmailからのメールを受信できるよう、設定を今一度お確かめください)、Subjectに「入会希望」と記入して、メッセージに何でもいいので入力して、submitボタンを押すだけ。「Thank you for submitting your message」という文字が表示されたら申請完了です。

派手じゃなくても人目を惹かなくても地道に着実に良いものを積み重ねる、をモットーにここまで仕事してきたつもりです。これからも様々な場でそれができたらと思いますし、この動画配信も芯のひとつ通った活動の一環として楽しみながら長く続けていきたいと思っています。分かりやすくシンプルにと心がけて作ったウェブサイトではありますが、皆さんがわかりにくいと感じたり、うまく説明しきれていない部分もあるかもしれません。ご不明な点や質問などありましたら気軽にここや各SNSでご連絡ください。

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  by supersy | 2018-10-01 06:00 | Athletic Training

内反捻挫をどう評価すべきか?国際足関節協会発表のConsensus Statementを読み解く。

ちょこちょこ出しの告知でごめんなさい。

1. 10月14日に、私が勤める帝京大学のスポーツ医科学センターという新施設のオープニングイベントがあります!
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この建物、案内の通り5階建なんですけど、5階の建物の高さじゃないんですよ…いやもう12階あるでしょと。各フロア、とんでもない施設が完備されていて、いやもうほんとに、豪華な建物なんてアメリカでそれなりに見慣れているつもりだったんですけど、ここはまた少し別格、別世界です。国内最大級と胸を張って言って良いと自負しています。

アスリートのヘルスケアを全ての面からサポートしよう!というモットーに基づいて作られたこの施設。通常は許可を得ないと入構不可なのですが、10月14日の開所に当たり、スポーツ医学、栄養学、パフォーマンスサイエンスやトレーニングの専門家さん、スポーツ指導者に選手の方、この分野に興味のある学生さんなどに訪問していただけるよう10時から15時まで一般開放しています!各施設のデモや解説、プチセミナーも色々開催されますので、是非皆さま奮ってご参加ください(私もセミナーをふたつ担当します)。

参加無料、訪問事前申し込みは不要です。10時から15時までの間であればお好きな時間にふらりと来てふらりと帰ることができます。帝京大学八王子キャンパスのアクセス情報はこちらから。車でのご来場は大学内の駐車場がございませんので、近隣の有料パーキングか、公共の交通機関を使っていただくのが便利です。

2. くどいですが10月1日に個人プロジェクトに関して重大なお知らせがあります!
ふふふ、あと数日…。お楽しみに。





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6月に出てたやつですけど、バタバタしてて読めなかったので今のうちにさっくり読んでレビューです。足関節内反捻挫の臨床的診断に関する国際足関節協会(International Ankle Consortium)によるConsensus Statement1

このガイドラインによると、足関節の急性捻挫を診断する際、考慮すべき5つの要素は:
1. Mechanism of injury: 受傷メカニズム
2. History of previous lateral ankle sprain: 内反捻挫の既往歴
3. Weightbearing status: 荷重ステータスのチェック
4. Clinical assessment of bones: 骨組織の評価
5. Clinical assessment of ligaments: 靭帯の評価

具体的には、
1. MOI: 「矢状面上で足がどこにあっても」「突然の急激な内反(inversion)」「足部と足首が内旋(internal rotation)」が足にかかったのであれば内反捻挫は疑われるべき。ハイ・アンクル・スプレインのMOIは完璧に確立されているわけではないが、一般に極度の背屈と足部の外旋(external rotation)、距骨の外反と共に起こると言われており、これらのメカニズムが報告された場合、ハイ・アンクル・スプレインの可能性は考慮されるべきである。
2. Hx: 過去の既往歴は再受傷のリスクを示唆するものであるし、同時に機械的(mechanical)・感覚運動(sensorimotor)障害の存在も示唆している可能性がある。
3. Weightbearing status: Ottawa Ankle Rules(OAR)を実施する際の一般として必ずチェックされるべき項目である。
4. Clinical assessment of bones: 足部・足関節の受傷で骨折が起きている可能性は15%以下、OARが陰性の場合、その可能性は1%以下へ低下する。しかし、OARは除外には有効でも確定力はそれほどないということは念頭に入れておくべきことである。
5. Clinical assessment of ligaments: 内反捻挫で最も頻繁に損傷される前距腓靭帯(ATF)には受傷後4-6日の間にAnterior Drawer Test(前方引き出しテスト)が行われるのが有効で、感度が96、特異度が84、陰性尤度比が0.04あるので陰性の場合はATFの損傷は疑われない。
**とConsensus Statementでは断言されていますがどうなんでしょう?根拠に引用している論文は1件だけ、1996年に発表された160人の患者を対象に行われた研究です。2 私の記憶が正しければ、Anterior Drawer Testの診断的価値を検証した研究は少なくとももうひとつあり、これも1999年と古い時期に発表されたもので、こちらでは12人の被験者を対象に行われ、感度は78、特異度は75、陽性尤度比は3.1に陰性尤度比は0.29と報告されています。3 先の研究のそれよりも高くありません。
まぁつまるところ、ここまではっきりとこのテストが有効であるとConsensus Statementに明記されるには科学的根拠は不十分では、と私は考えます。しかし、「専門家パネル」も当然このことは周知しているでしょうから、なぜこれだけ強い口調での記載をするのがベストだと判断されたのか?というところに何より疑問を覚えますね。まぁ、他に別に有効なテストがあるわけでもない、というのは悲しい事実ですが…。何も言わないよりは、今はとりあえずこれしかないというテストを押すのがベストと考えたのか?
踵腓靭帯(CF)は前距腓靭帯同様、触診とストレステストでその損傷を確認できる。
**名前こそ出していませんが、文中の描写はTalar Tilt Inversion Testについて言及しています…が、具体的な診断的価値は示されていません。前述の研究3で、Talar Tilt Inversion Testの診断的価値は感度67、特異度75、陽性尤度比2.7、陰性尤度比0.44と示されていますが…実際は、どうなんでしょうね?これもまだまだ検証が足りないかなと。
遠位脛腓靭帯(Ankle syndesmosis ligament)の損傷について、最も感度の高いテストは靭帯の圧痛で(感度92)、Squeeze Testの特異度が最も高い(88)。両テストが陽性であれば遠位脛腓靭帯の損傷の可能性は高い。
**これもここまでと同様、充分な根拠もなく95%CIも出さずに断定形で言い切るのは乱暴だなぁという印象です。私がエビデンスを掘り下げて調べたのは4年半前ですが、この記事のときに引用した論文らのほうがあれこれ様々な可能性を議論しているのでは?Clinical Prediction Rule等についてアップデートはなかったのかな?

捻挫の診断が確立した後で機械的(mechanical)・感覚運動(sensorimotor)障害を評価する際に重要な考慮すべき10の事項は:
1. Pain: 疼痛
2. Swelling: 腫脹
3. Range of motion: 可動域
4. Arthrokinematics: 関節運動
5. Muscle strength: 筋力
6. Static postural balance: 静的姿勢バランス
7. Dynamic postural balance: 動的姿勢バランス
8. Gait: 歩行
9. Physical activity level: 身体活動レベル
10. Patient-reported outcome measures: 患者の主観に基づくアウトカム尺度

…であるとしており、特に後者をclusterにしてInternational Ankle Consortium Rehabilitation-Oriented ASsessmenT、通称ROASTと名付けています。うーん、どうでしょこのネーミングセンス(笑)?
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詳細はこのテーブル(↑)に実によく要約されていますが、文章でも少しまとめておきます。

1. Pain: b0112009_22150288.png痛みを推し量るには様々な手段があるが、The numeric rating scale for painは妥当性も信頼性も確立されている…が、痛みの程度(intensity)しか測れないという欠点もある。The Foot and Ankle Disability Index(FADI)は機能制限も含めた怪我の影響を計るツールとして優れているかもしれない。
2. Swelling: 腫脹の存在で体性感覚インプットの変化やarthrogenic muscle inhibitionなどのCNSへの影響が生じることがある。現段階ではFigure-8の方法で腫脹の大きさを計るのが推奨される(写真右上)。
3. ROM: 特に足関節捻挫の後、背屈制限が出ることが多い。特にStar Excursion Balance TestのAnterior Reachに示されるように、捻挫から回復後のダイナミックバランス能力の不確定さは背屈が一因とも言われている。Weight-bearing Lunge Test(↓)は妥当で信頼でき、臨床的実用性の高い測定法である。
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4. Arthrokinematics: 距腿関節の関節運動の変化、特にPosterior Talar Glide Testで推し量れる下腿に対する距骨の動作異常やAnterior fibular positional faultの存在の可能性について言及されている…が、Anterior fibular positional faultについて具体的な評価法・介入方についての記述はない。
5. Muscular Strength: 手に持つタイプのDynamometer(↓、hand-held dynamometer)は実用性も高く費用対効果も良い。足関節の筋力はもちろん、股関節筋力低下はChronic Ankle Instability (CAI)の患者にも見られる徴候であることから、これも確認しておくべきである。
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6. Static postural balance: Balance Error Scoring SystemとFoot Lift Testが推奨される。
7. Dynamic postural balance: Star Excursion Balance Testが推奨される。
8. Gait: これは特にどう分析せよとの詳細記述や、何に着目して分析すべきという推奨項目はなし。ただ、CAI患者の多くは歩行「異常」が見られる、とだけ書かれている。
9. Physical activity level: Tegner activity-level scaleを用い、受傷前の身体活動レベルを明確にすることで回復への目標設定や、リハビリの具体的な内容の絞り込みが可能である。
10. Patient-reported outcome measures: 前述したFADI/Foot and Ankle Ability Measureの使用が推奨される。
**これでも、私の見解ではアスリート向きではないと思うのですがどうでしょう?もしくは、アスリートの治療介入で使われるにしても「入口」部分でしか有効ではないのでは?アスリートの足首に求められる能力は階段を上り下りしたり、15分間歩行を続けられるかどうか、という機能レベルをはるかに超えています。個人的にはSports Ankle Rating Systemとか、もう少しアスリートに特化したものについても言及されていてもいいのではと思うのですが?

そんなわけで、個人的には短く簡潔に読みやすくまとめられた良質のヨミモノだとは思うし、ROASTも現時点で最も妥当なテストのClusterだとは思うのですが、故にはしょられ過ぎている部分や充分に論じられていない部分も多いと感じます。私が個人的にBest Practiceと思う結論とほぼ同じではあるのですが、通っている道が違うというか。個人的には靭帯損傷評価テストの絶対的な正確性はまだ不十分と感じていますし、アスリートにとって最善のPatient-reported outcome measureが何なのかはこれから活発に議論されていくといいなという感じですかね。

ちなみにhand-held dynamometer、コストはそう高くないということでしたけど、私は個人的に使ったことがありません。以前勤めていた大学にも置いてなかったです。調べてみたら$250~400くらいするとのこと…。決して安くはないですね。

しかし、足関節靭帯の評価テストの診断的価値、ほんっっっっとに誰も研究してくれないなー!頼むよー!もう結構長いこと待ってるんだけどなー!誰かやってー!!

1. Delahunt E, Bleakley CM, Bossard DS, et al. Clinical assessment of acute lateral ankle sprain injuries (ROAST): 2019 consensus statement and recommendations of the International Ankle Consortium [published online June 9, 2018]. Br J Sports Med. 2018:pii;bjsports-2017-098885. doi: 10.1136/bjsports-2017-098885.
2. van Dijk CN, Lim LS, Bossuyt PM, et al. Physical examination is sufficient for the diagnosis of sprained ankles. J Bone Joint Surg Br. 1996;78:958–962.
3. Hertel J, Denegar CR, Monroe MM, Stokes WL. Talocrural and subtalar joint instability after lateral ankle sprain. Med Sci Sports Exerc. 1999;31(11):1501-1508.

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  by supersy | 2018-09-29 23:00 | Athletic Training

急性期の脳振盪患者への有酸素運動介入は本当に、本当に、本当に安全なのか?最新エビデンスレビュー。

忙しいけど充実してる!充実してるけど忙しい!…を、絵に描いたような2週間でした。えーと、書かなければいけないことがいっぱいです。

とりあえず今回はふたつだけ。
1. 11月18日にImproveKYOTO主催で京都でセミナーやります!
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Specialセミナーの第一弾はケニーだったんですごいのからバトン受け取った感じなんですけど、せっかくなので私がやりたい内容をがっつりやろうと思います。とにかく肩、肩、肩!!!周りな一日にしようかと。ヒトクチに肩と言っても午前は文字通り肩(=上腕肩甲関節)ですが、午後はあたりを肩甲骨の胸郭に対する動作評価や介入までずんどこ掘り下げます。座学もたっぷり、でも実技もわいわいあるので参加する方はお楽しみに!全部で用意しているスライドは100枚超、参考文献は90近くありますー。

申し込みはこちらから。

そして、
2. 10月1日に重大なお知らせがあります!ブログはもちろん、Facebook、Twitterでもどかーんと発信しますのでお楽しみに。私が最近あれこれ時間と情熱をかけてきた個人プロジェクトの展開に関する大きなアナウンスメントになるはずです。むふふ…。



さて、本題です。


時代の移り変わりと共に、脳振盪は症状があるうちから運動しては絶対にダメ!から、症状がなかなか治らないなら運動してもいいのかもね、と提言が移り変わるのをリアルタイムで追って記事にしてきましたが…。現在リサーチが盛んで私自身も興味があるのが、「(PCSではない)急性期の脳振盪患者も運動させていいのか?」というところです。「効果があるのか(=回復を早めるのか?)」というのももちろんですが、「そもそも安全なのか?」というところをまずは検証しなければなりません。

ここのところの研究は非常に困難であると予測します。PCS患者に運動させよう、というコンセプトだけでもまだ受け入れることのできない専門家が多いのに、それを急性期に始めようだなんて…しかも我々が積極的に研究対象としたい大学生、高校生、そして中学生といった若い患者層で検証したいだなんて、IRBが黙っていないでしょう。なぜならば、一般に脳振盪からの回復は成人よりもAdolescents/Childrenのほうが遅いと言われていて、治療はより慎重になるべきだと説かれているからです。1

そんなわけで、Adolescents/Childrenの脳振盪患者を対象にした有酸素運動療法介入に関する論文は今どれくらいあるかな?とざっとさらってみたら11つほど出てきました。やっぱり多くはないですね。ひとつひとつを軽くまとめていきたいと思います。
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Study #1: 若年PCS患者のRetrospective Review2
やっぱり最初はここらへんからですよね。2016年発表の論文でCordingley氏ら2は「20歳以下のSport-Related Concussionを受傷した患者で、トレッドミルテストを受けた106人(平均15.1歳)」を後ろ向きにレビュー。106人に行われた141回のテストのうち138回(138/141 = 97.9%)は症状を悪化させない、well-toleratedなものであったこと、借りに症状が一時的に悪化してもすぐに解消するので重篤な悪影響は認められなかったことを上げ、このトレッドミルを使った有酸素運動は、診断テストとしても、予後テストとしてもマネジメントの一環としても安全で、臨床的に意味あるものなのでは?と説いています。
個人的には介入ではなくテストとして行ったという表記や、既に起こったこととして後ろ向きにレビューしてる辺りがうまいなと思いますね(苦笑)。おかげで次の研究へと繋がっていくわけですけど…。

Study #2: 若年PCS患者のパイロット研究3,4
パイロット研究なので規模は大きくないですが、Gagnon氏ら3は4週間以上症状が続いているAdolescentsの脳振盪患者10人(男7人、女3人、平均14.4±1.3歳)を対象に、平均45日間の有酸素運動介入を実地。結果、PCSの症状と疲労感の軽減、バランス能力の向上と気分の著しい向上が確認されたと報告しています。
同様に、Imhoff氏ら4も4週間以上症状が続く脳振盪患者15名(平均15.0±1.7歳)に、最大20分の有酸素運動、最大10分のCoordination運動、バランスエクササイズを週3回の頻度で行い、平均49±17日で症状、認知能力、Coordinationとバランスの全てが著しく回復し全員が全快(full recovery)までたどり着けた、と示しています。
どちらの研究も2016年発表。これら2つの研究共通の結論として、若い世代の患者層にもこの介入法は安全かつ現実的で、実用性が高いと示していますが、コントロール組がいないことと被験者の少なさは当然気になるところです。

Study #3: 若年PCS患者のProspective Cohort5
次の研究はもう少し規模が大きく、前向きのものが。2017年に行われたProspective Cohort研究5では脳振盪受傷から3-4週間経過したAdolescents/Children277人を対象に先ほどのプログラムに類似した有酸素運動、Coordination運動にVisualizationなどの複合Active Rehabilitationプログラムを行いました。結果、著しい症状と認知能力、睡眠に気分の改善・向上が認められたそう。277人はなかなかのサイズですね!あとはコントロールさえいれば…。

Study #4: 若年PCS患者のRCT6
んで、2018年に出てくるのがいよいよRCTですよ!研究は段階を踏まなきゃ進まないってのがよくわかりますね。先人の研究があってこそ後発の研究者の道が開けるんだというのが実に明確に見えて面白いです。
Chan氏ら6は一か月以上脳振盪の症状が続いている19人のAdolescentsをランダムにコントロール組とActive Rehabilitation組(有酸素運動、Coordination運動、Visualization & Imagery, etc)に分け、それぞれの状態の変化を追いました。リハビリと直接関係のないAdverse eventsなどは数件あったものの、リハビリの直接的な結果として起こった症状の悪化は(全30セッションあたり9件あったそう…少なくはない?)全て24時間以内には解消し、結果としてリハビリ組のほうが著しい症状の改善が見られたことから、このプログラムは「safe, tolerable, and potential effective」と結論づけています。

ここまでで、複数の研究によって「若年PCS患者に有酸素運動を積極的にやらせることはより有効な回復につながる」という共通テーマが浮き上がってきます。次に気になってくるのは時間軸です。我々は、脳振盪患者がPCS患者になるまで待ってからじゃないと運動を開始できないのか?それとも、もっと前に初めても安全且つ有効なんでしょうか?

Study #5: 若年脳振盪患者のRetrospective Review7
これは既にどっかでまとめた気もするんですが…。JAMAの2016年発表のmulti-centered 後ろ向きレビュー研究で、2413人の脳振盪患者(平均11.77±3.35歳)を追いかけた結果、受傷後28日時点まで症状が残り、PCSと診断されたのが733人(733/2413、30.4%)いたんだそうで。3割という数字は高く感じますね。
面白いのはここからです。受傷後7日以内に運動を再開した早期介入患者は、運動をしなかった患者に比べてPCS発症のリスクが低い(24.6% vs 43.5%)という統計もなかなかにショッキングですが、さらに早期運動再開組で、7日後にもまだ症状が残っていた患者803人(=ともすれば、運動介入にrespondしなかったとも言われそうな患者)と運動を全くしなかった患者584人を比較した際、PCS発症リスクはやはり軽い有酸素運動(46.4% vs 52.9%)、中強度の運動(38.6% vs 52.9%)、フルコンタクトの運動(36.1% vs 52.9%)をしている患者群のほうが低い」というのにもびっくりです。7日運動した程度で症状が完全喪失しなくても十分利益はある。あきらめんな!ってことですかね。
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Study #5: 若年層脳振盪患者のRCT8
ここらへんの研究からいよいよ「最新」って言ってもいいんじゃないでしょうか。Micay氏ら8は2018年発表のRCTで、受傷後5日経過した脳振盪患者をランダムに通常ケア組(Berlin 2016 Guidelineに従って段階的復帰, n = 7, 平均15.6±1.0歳) vs エクササイズ組(徐々に心拍数・時間が上がっていく有酸素運動, n = 8, 15.8±1.2歳)にわけ、受傷後6日からそれぞれのプロトコルを開始、その回復を検証。Medical clearanceまでの期間こそ両グループで差が無かったものの(エクササイズ組 36.1±18.5日 vs 通常ケア組 29.6±15.8日、p = 0.87)、同期間の症状の改善幅はエクササイズ組のほうが大きかった(↓)、という興味深い結果を報告しています。
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エクササイズは2日やって1日休み、の割合で行われ、全部で8セッション(11日)のみだったというところも簡単でいいな、と思わせてくれるし、この研究では有酸素運動をすることによって症状が悪化した患者はゼロだったそうです。当然というかなんというか、この研究の結論は"Findings support the emerging paradigm shift in concussion management towards active rehabilitation rather than rest (この研究の結果は脳振盪からの回復には休息よりもアクティブなリハビリテーションのほうが優れているというパラダイムシフトを支持するものである)."と結ばれています。うーむ、かっこええ、チカラ強いstatementです。
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Study #6: 若年脳振盪患者の運動介入開始のタイミングに関するRetrospective Review9,10
Lennon氏ら9は脳振盪に対してPhysical Therapy(PT)介入をした120人(平均14.77歳)の患者の医療記録を後ろ向きにレビュー。患者を0-20日以内にPTを開始した早期介入組、21-41日以内にPTを開始した中期介入組、そして42日以上経ってからPT開始した晩期介入組にわけ、その回復を分析。結果、この3組の回復(症状の変化、予期せぬ来院回数、PTセッションの回数や長さなど)には大差がなかったことから、「少なくとも早期介入開始は安全である(が、効果があるとは言えない)」と示しています。

Lawrence氏らの研究10もデザイン自体はLennonn氏ら9のそれと酷似しているのですが、253人の早期脳振盪患者(平均17.0歳)の回復を後ろ向きにレビュー、解析したところ、より早く有酸素運動を始めた患者がより早く競技や学業・仕事へ復帰できた―一日遅れるあたり、確実に回復に悪影響が生まれる、と言う結果がでています。
脳振盪後、1日後(翌日)に有酸素運動を始めた場合が最も予後が良く、それが3日後、5日後、7日後、14日後と遅れるとそれぞれ早期競技復帰の可能性がそれぞれ36.5%(24-57%)、59.5%(42-72%)、73.2%(55-84%)、88.9%(78-97%)減少し、早期学業・仕事復帰は45.9% (34-56%)、70.5% (56-80%)、83.1%(70-90%)、94.7%(89-97%)減少するんだそうです。一日後に開始するのが一番いいってすごい結果だなーアグレッシブ。そしてちなみに過去の脳振盪受傷歴とLOCは早期競技復帰、早期学業・仕事復帰にそれぞれHx: HR 0.84 (0.71-0.99, p = 0.041)とLOC: HR 0.30 (0.13-0.66, p = 0.003)、Hx: HR 0.84 (0.71-0.99, p = 0.038)、LOC: HR 0.86 (0.77-0.97, p = 0.015)の割合で悪影響を及ぼすんだとか。ほうほう。

まぁでもね、これ10とJAMAの研究7は気を付けて解釈したほうがいいと思います。どちらもRetrospective Reviewですから、「比較的症状の軽かった患者が受傷後早くに運動開始できた」かもしれないという単純且つ重大なサンプルバイアスがある可能性が十二分にあります。

しかし、急性期脳振盪患者に対する有酸素運動「効果性」はともかく、「安全性」はそこそこ確立されてきたと言ってもいいのかもしれません。次に検証されるべきはいよいよ介入の「効果」です。この分野の論文は前述のように今まさに出てきているところで、まだまだ十分にあるとは言えません。
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Study #7: 急性期脳振盪患者の運動介入の安全性、RCT11
2018年発表の我らがLeddy氏ら11の研究では、受傷後平均4日経過している脳振盪患者をランダムにBCTT組(n = 27, 平均15.19±1.45歳)とコントロール組(n = 27, 平均15.63±1.36歳)に分け、その回復を検証。回復(症状消失)までにかかった時間はBCCT組とコントロール組に大差はなく(27.5±36.6 vs 23.5±39.4日, p = 0.7060)、症状は両グループとも等しく(p = 0.2984)著しく(p < 0.0001)回復していったと報告しています。

ここで特筆しておきたいのが、筆者たちが「BCTTの翌日も症状は著しく増加しない(p = 0.1960)」、そして「初回来院時に心拍閾値が低い患者はより回復に時間がある、という相関性がある(p = 0.0032)」という点も指摘しているところです。前者は改めてBCTT・有酸素運動の安全性を、そして後者はこういった患者にはその他…例えば前庭/視覚系スクリーニングテストや、有酸素運動以外の前庭/視覚系介入の必要性を示唆しているように感じます(これは私の偏見を含む解釈かもしれません)。

Study #8: 急性期若年患者のQuasi-Experiment12
最後、これもLeddy氏ら12の研究ですけども、ほんの一週間前に発表になったばかりです。エクササイズ組(n = 24, 15.13±1.4歳、受傷後4.75±2.5日経過)と休息組(n = 30, 15.33±1.4歳、受傷後4.50±2.1日経過)に分けて14日間介入した場合、エクササイズ組が平均8.29±3.9日で回復したのに比べ、休息組は23.93±41.7日かかった(p = 0.048)という、かなり大きな差が確認されています。回復に30日越えという大幅に時間がかかった患者は、エクササイズ組は0人だったのに対して、休息組は13.3% (4/30)と、こちらもハッキリとした差が。

そんなわけで。文字通り研究は日進月歩だなぁというのが実感できるここ2年間の研究レビューでしたね。次に見たいのはやはり大きな被験者群のする急性期若年脳振盪患者のBCTT/BCBTの高価性の検証 via RCTですね!まぁ実際に論文として発表されるまであと2年くらいかかるかもしれませんけども。安全性に関しては比較的確固たる確証があると現時点で言ってもいい気がするんですけど、効果性がやはりまちまちなので。もしかしたら将来的にはBCTT/BCBTで充分な改善が見込める脳振盪患者かどうか、を見極めるClinical Prediction Ruleなんかも出てきそうですね…。

1. Davis GA, Anderson V, Babl FE, et al. What is the difference in concussion management in children as compared with adults? A systematic review. Br J Sports Med. 2017;51(12):949-957. doi: 10.1136/bjsports-2016-097415.
2. Cordingley D, Girardin R, Reimer K, et al. Graded aerobic treadmill testing in pediatric sports-related concussion: safety, clinical use, and patient outcomes. J Neurosurg Pediatr. 2016;25(6):693-702.
3. Gagnon I, Grilli L, Friedman D, Iverson GL. A pilot study of active rehabilitation for adolescents who are slow to recover from sport-related concussion. Scand J Med Sci Sports. 2016;26(3):299-306. doi: 10.1111/sms.12441.
4. Imhoff S, Fait P, Carrier-Toutant F, Boulard G. Efficiency of an active rehabilitation intervention in a slow-to-recover paediatric population following mild traumatic brain injury: a pilot study. J Sports Med (Hindawi Publ Corp). 2016;2016:5127374. doi: 10.1155/2016/5127374.
5. Dobney DM, Grilli L, Kocilowicz H, et al. Evaluation of an active rehabilitation program for concussion management in children and adolescents. Brain Inj. 2017;31(13-14):1753-1759. doi: 10.1080/02699052.2017.1346294.
6. Chan C, Iverson GL, Purtzki J, et al. Safety of active rehabilitation for persistent symptoms after pediatric sport-related concussion: a randomized controlled trial. Arch Phys Med Rehabil. 2018;99(2):242-249. doi: 10.1016/j.apmr.2017.09.108.
7. Grool AM, Aglipay M, Momoli F, et al. Association between early participation in physical activity following acute concussion and persistent postconcussive symptoms in children and adolescents. JAMA. 2016;316(23):2504-2514. doi: 10.1001/jama.2016.17396.
8. Micay R, Richards D, Hutchison MG. Feasibility of a postacute structured aerobic exercise intervention following sport concussion in symptomatic adolescents: a randomised controlled study. BMJ Open Sport Exerc Med. 2018;4(1):e000404. doi: 10.1136/bmjsem-2018-000404.
9. Lennon A, Hugentobler JA, Sroka MC, et al. An exploration of the impact of initial timing of physical therapy on safety and outcomes after concussion in adolescents. J Neurol Phys Ther. 2018;42(3):123-131. doi: 10.1097/NPT.0000000000000227.
10. Lawrence DW, Richards D, Comper P, Hutchison MG. Earlier time to aerobic exercise is associated with faster recovery following acute sport concussion. PLoS One.2018;13(4):e0196062. doi: 10.1371/journal.pone.0196062.
11. Leddy JJ, Hinds AL, Miecznikowski J, et al. Safety and prognostic utility of provocative exercise testing in acutely concussed adolescents: a randomized trial. Clin J Sport Med. 2018;28(1):13-20. doi: 10.1097/JSM.0000000000000431.
12. Leddy JJ, Haider MN, Hinds AL, Darling S, Willer BS. A preliminary study of the effect of early aerobic exercise treatment for sport-related concussion in males [published online ahead of print September 19, 2018]. Clin J Sport Med. doi: 10.1097/JSM.0000000000000663.

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  by supersy | 2018-09-24 23:30 | Athletic Training

Sports Medicine Licensure Clarity Act of 2017の可決はどんな意味を持つのか?アメリカのATを取り巻く法律のお話。

アメリカ上院(Senate)で昨日、S.808 Sports Medicine Licensure Clarity Act of 2017という議案(billl)が可決されました。
この議案の背景にはアメリカ特有の問題が隠れています。

アメリカでアスレティックトレーナー(AT)という呼称を背負って活動するためには、テキサス州とカリフォルニア州を除く48州では以下のステップを踏む必要があります。1) CAATE認定プログラムを修了し、BOC試験を受けて合格して"Certified Athletic Trainer"になる(=ATC資格を取得する。これは厳密には国家資格とは違うのですが、所謂 "全米"レベルのAT認定になります); 2) その上で、各州の規則に基づき、ライセンス(License)、認定(Certification)、もしくは登録(Registration)を取得し、「州レベルで合法的に活動するAT」としての条件を満たす。このStep 1と2は独立しており、「全米レベルの試験に合格すれば自動的に州レベルのライセンスももらえる」なんて甘いことはありません(そうだったらどんなに楽か!)。ATとして活動を希望する個人が責任をもって個別に手続きを踏み、全米レベル(Step 1)と、州レベル(Step 2)でのそれぞれの活動条件を満たす必要があるわけです。

*ちなみに、アメリカ50州のうち、ライセンス制度を採用している州がほとんど(44/50州)で、4州(オレゴン、コロラド、ウェストバージニア、ハワイ)が登録制、1州(サウスカロライナ)が認定制度を取っています(↓)。カリフォルニア州には現在ATを規制する法律が存在せず、どんな教育を受けた人でもどんな資格を持った人でも(逆に言うとどんな教育を受けていなくても資格を持っていなくても)自らを「アスレティックトレーナー」と合法的に名乗って良い無法地帯になっています。
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Athletic Training State Regulatory Boardsウェブページを元に作成(2018年9月現在)

ちなみにちなみに。ほとんどの州では全米認定(前述のStep 1)さえあれば州レベルでの活動条件を満たす(Step 2)のは難しいことではありません。私はフロリダ州とテキサス州で活動経験がありますが、基本的にこれらの州のライセンス取得のプロセスは似通っており、1) 全米認定ATである証拠記録提出(大学の卒業証書なども含む場合あり); 2) CPR/AED認定の証拠記録提出; 3) 州独自の法律などを理解している確認のため、数時間分のオンライン講習を受講・修了する(別途受講料有り)…などをして、登録手数料(これも州によりますが大体$200くらいではないかと)を支払えば終了、晴れてLicensed Athletic Trainerになれます(=LAT取得)。先に述べたように決して難しいことではないのですが、役所の書類手続きには2週間から一か月以上かかることもあり、州をまたいで転職・引っ越しするとこの手間(と費用)がなかなかバカにならないのが現状です。

ちなみにちなみにちなみに。先ほど『テキサス州とカリフォルニア州を除く48州では』と書きましたが、カリフォルニア州にはAT規制の法律が全く存在しない…では、テキサス州では?と疑問に思う方もいるかもしれません。テキサスは、言ってしまえばカリフォルニアと真逆で「意識高すぎて全米レベルでいち早くATという仕事の必要性を感じ、職業として確立した」州。全米認定制度ができる前にテキサス州ライセンス試験というものがあったため、2018年現在でも「州レベルのライセンス試験に合格し、LATさえ取得していれば、ATC未取得でもATとして活動することを認める」という決まりがあるのです。州レベルのライセンスが全米レベルの認定よりも事実上チカラがある、とでも言いましょうか。

これには非常に大きな問題が付随しています。2018年現在アメリカで全米AT認定試験の受験資格を得ようと思ったら、CAATE認定教育プログラムの修了が絶対条件。高い教育水準を満たしたプログラムに選ばれて入り(もちろん競争率は低くありません)、それを卒業するということは並々ならぬ努力を要します。一方で、テキサス州ライセンス教育プログラムはそれを管理・管轄する教育団体が存在しないので、教育水準は驚くほど低く、「この程度の学習しかしていなくてATライセンス取れちゃうの?」と驚くくらいCAATE認定のそれと大きくギャップがあります。CAATEの教育水準は改定の度に高くなってきていますから、当然ギャップもそれに比例して広がる一方です。テキサスで活動するATC/LAT取得者と、LATのみ取得者のプロ意識、知識、技術の違いは…ここで表現するのは難しいです。実際に臨床の現場で実感する場面が多々、ありました、とだけ書いておきます。


さて、話がものすごく逸れました。本題に戻ります。


今回の議案Sports Medicine Licensure Clarity Act of 2017は、ざっくり言うと「自分の住む州でライセンス取得をきちんと済ませているATは、州をまたいだ遠征などで他州で活動する際にも法的に守られていることにしましょうよ」という内容です。

そうなんです、例えば私がテキサス在住・勤務でLAT, ATCの資格を有し、合法的に活動を行って、その活動の全てがLiability Insurance(損害賠償保険)によって守られているとして、お隣のルイジアナ州の大学との試合のために遠征して活動する場合、そのLiability Insuranceはルイジアナでの活動は適応外…つまり万が一ルイジアナ州で私が下した診断や施した治療が元で訴えらえるようなことがあれば、保険が効かないよ、というのが実態でした。「州外の活動は訴えられたら終わり」…事実上、アメリカで働くNCAA Division Iの全アスレティックトレーナーと、プロチームで働くアスレティックトレーナーは個人としてプロとして大きなリスクを抱えながら仕事をこなしていたわけです。とはいえ、遠征前にそれら全ての州のライセンス取得を義務付けるのも現実味に欠けます。だからこその、この議案なんです。

この議案では、「自州(primary state)と他州(secondary state)のライセンス規制が似通っているならば、州外の活動は全て法律上は自州で起こったものとみなす」としており、これが認められれば、アスレティックトレーナーが州外でもライセンス剥奪や多額の訴訟負債を恐れることなく、選手のケアに集中して仕事にのびのびと臨めるような環境作りへの大きな一歩になります。革新的、革命的といっても過言ではないと思います。

一つ気になるのが「ライセンス」「ライセンス」と議案内で繰り返されているところですかね…。例えばライセンス制度を採用している44州に関しては「法的交換性」というのが生まれるのかなと推測するんですが(テキサスは前述した理由でここで引っ掛かる可能性がゼロではありません。でも、43州間ではまず問題ないでしょう)、登録制の4州、認定制の1州で現在活動しているATはライセンス制度の州に遠征帯同する場合、法的に守られるんでしょうか…?その逆は…?カリフォルニア州「に」遠征帯同する場合は実質どんな人でも合法的に活動できてしまうわけですが、これが可決されればカリフォルニア州「の」ATはどの州でも合法的に活動することがより難しくなるのでは?どなたかご存知の方います?

これらが抑止力となって該当する6州のライセンス化が進むのがベストシナリオなのかなという気もするんですが…。某州など時代を逆行して規制を取っ払おうとしてるとも聞きますし、どうなるやら。とにかく大注目です!この議案は上院可決され、現在衆議院にちょっとした用語の修正のために戻されていて、それが済めばいよいよ大統領のサインを待つだけになります。続報を待ちたいと思います。

アメリカから日本に帰ってきてアメリカへのアクティブな興味が急激に薄れている自覚があるというか、ATの周りに複雑に絡む世論やプロ間の意見の動きにものすごい勢いで鈍くなっているので、こういうのもちゃんと知っておかなきゃなぁという戒めも込めての今回のブログ記事でした。政治情勢なんかも常に把握しておかにゃいかんなぁ。ちゃんとしよ。

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  by supersy | 2018-09-08 11:30 | Athletic Training

来週末の大阪EBP講習と、12月16日の東京(新!)EBP講習について。

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再告知になりますが、10日後の9月16日を皮切りに、大阪でEBP定期講習を開催します!約3ヵ月に1講習のペースで大阪市立青少年センター(KOKOPLAZA、新大阪駅から徒歩5分)にて毎回異なるテーマでの定期開催(全4回、7講習)をする予定です。

第一回: 9月16日(日)
13:00ー16:30 ①EBP基礎編: スポーツ傷害評価編
16:45ー17:45 阿部と語ろう *質疑応答形式のワイワイお喋りタイム
受講費:10000円(学生9000円)
フェイスブックのイベントリンクはこちらから
お申し込みはこちらから

<継続受講割システム>
継続して受講される方には、受講2回目以降で継続受講割が適応になります。受講すればするほどお得!

第二回: 2019年1~2月開催予定
②EBP臨床応用編: 評価 - ACL損傷評価法
③EBP臨床応用編: 評価 - 手首の痛み評価法

第三回: 2019年4〜5月開催予定
④EBP基礎編: 治療介入編
⑤EBP臨床応用編: 治療介入 - 腱障害とリハビリ

第四回: 2019年8〜9月開催予定
⑥EBP基礎編: 予防医学編
⑦EBP臨床応用編: 治療介入 - AMIと抑制解除療法

楽しくエビデンスを使いこなせるようになろう!がテーマのこの講習。本来クローズドの講習であるところ、主催者さんのご厚意でオープンにして頂きました。資格関係なく誰でも参加可能です。初級者もエビデンス苦手な人も、もちろん学生さんも大歓迎!定員は50名で、満席になり次第締め切られます。

よく東京以外の他の地域でもEBP講習はしないのかと聞かれますが(機会と要望があれば私もしたいのですが)、今のところこの大阪講習以外に予定はありません。いつも東京開催ばかりで行きにくいという方はこの機会を是非ご活用ください。この大阪講習はいつも主催をしてくださる高橋さんを介していない都合でBOC-EBP CEU (継続教育単位)は一切つきませんATC有資格者の方、ご注意下さい。



さて、そして続きまして12月16日(日)に行う東京EBP講習のお知らせです。こちらの講習はいつも通り高橋さんの主催で行いますので、BOC-EBP CEUsが付きます!(ややこしくてすみません、BOCの決まりがあるのです)。申込みウェブサイトは近日中にご用意できますのでまずは日程だけ、興味のある方はメモメモしてみてください。

今回は基礎レベルの「スポーツ傷害評価編」と(3時間、3.0 EBP CEUs)、臨床応用レベルの「評価・ACL損傷編」「評価・手首の傷み編」(各2時間、それぞれ2.0 EBP CEUs)をまとめて一日で開催します。全3講習に出席すればBOC EBP CEUを一気に7.0も獲得可能です。新講習(両臨床応用レベル講習)が盛りだくさんですし、本年のEBP講習開催はこれが最後になりますのでこの機会をぜひお見逃しなく。日程と構成は以下の通りです。

<講習日時>
2018年12月16日(日)
9:30am-12:45pm  エビデンスに基づくスポーツ傷害評価: 基本から応用まで
           *途中休憩15分含む3時間講習
12:45pm-14:00pm 昼食(各自)
14:00pm-16:00pm エビデンスに基づくスポーツ傷害評価 ACL損傷の評価法 *NEW!!
16:15pm-18:15pm エビデンスに基づくスポーツ傷害評価: 手首の傷み評価法 *NEW!!

ちなみに、基礎レベルの講習は「エビデンス(科学的根拠)に基づく…」とかよく耳にするけれど、どういうことか実はよくわからない、今更ヒトにも聞きにくい、という完全初心者さんウェルカムな講習で、むしろエビデンスに対して不信感とか苦手意識のある方にこそ来ていただきたいと思っています。エビデンスに基づく実践って思ったほど難しくないや、結構楽しいかも!と思って帰っていただければそんな幸せなことはありません。

午後に行う講習ふたつはどちらも新作の「臨床応用レベル」の講習で、今まで教えてきた「基礎レベル」の講習から一歩踏み込み、感度や特異度というコンセプトを踏まえた上で実際に臨床の現場で皆さんがぶつかっていそうな症例にとびかかり食らいついていきます。「エビデンスに基づくスポーツ傷害評価: 基本から応用まで」講習の事前履修を強くお勧めしますが、必須ではありません。感度や特異度、陽性/陰性尤度比の何たるかがわかっている方であれば問題なく楽しめる内容になっております。

ACL損傷編では「ACL損傷に使えるSelective Tissue Testにはどんなものがある?」「それぞれの有効性は?」「そういや結局Lelli Testとやらって使えるの?」など紐解いた後で、「では、実際に現場でこんな状況では、あんな状況どうすれば?」というところまで実技を交えて議論、手首の傷み編では臨床で見落とされがちな1) 舟状骨骨折; 2) 有鈎骨鈎骨折; 3) TFCC障害の3つに焦点を絞り、それぞれを「どう評価するのが最善か?」をエビデンスを探し、読み解きながらこちらも実践を交えて検証します。

全講習、参加者の資格は問いません。元々ATC資格保持者さんのためにと思って企画した講習でしたが、今までPT、OT、柔道整復・あんま・鍼灸師さん、医師の方や大学教員・研究者さんなど幅広くご参加頂いています(ありがたやー)。学生さんも大歓迎です!リピーターさんも、リフレッシュにまたという方も結構いらっしゃいます。

<会場>
〒190-0022 東京都立川市錦町3-3-20
   JR中央線立川駅南口より、徒歩13分
   JR南武線西国立駅より、徒歩7分
   多摩モノレール立川南駅より、立川南通りを直進、徒歩12分

<定員> 各講習50名

参加は一番興味のあるコースひとつだけでも、お好きな組み合わせで1つや2つでも、3つ全てでももちろん可能です。複数参加される方には一昨年から導入した『セット割引』システムが適応、そして『学生割引』も健在です。

<受講料> 
一般 3時間講習(基礎編) 9,000円; 2時間講習(臨床応用編) 各6,000円
   2講習同時申込で10% off
    (例: 基礎+臨床応用で1,500円引き、臨床応用講習2つで1,200円引き)
   3講習以上同時申込で15% off
    (例: 基礎1つ+臨床応用2つで3,150円引き)
学生 3時間講習(基礎編) 8,100円 (10% off - 900円引き);
   2時間講習(臨床応用編) 各5,400円 (10% off - 600円引き)
   2講習同時申込で20% off
    (例: 基礎+臨床応用で3,000円引き、臨床応用講習2つで2,400円引き)
   3講習以上同時申込で25% off
    (例: 基礎1つ+臨床応用2つで5,250円引き)
     *現役大学・専門学校生(国内外不問)さん対象。申込後に学生証の提示が必要です、

今回、新作の講習2つは私が個人的にもうだいぶ長いこと、ずーっとやりたいなーと思っていた内容ですので自分でいうのも何ですがなかなかワクワク楽しいものになるんじゃないかと思っています。より多くの皆様にお会いできるのを楽しみにしております!セミナーの内容に関して質問があればここのコメントか私に直接ご連絡ください。申し込みウェブサイトが完成したらまたSNS等でお知らせしますー。

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  by supersy | 2018-09-06 23:00 | Athletic Training

小脳に関する論文まとめ・おまけ: 小脳と感情。

生きていると感情って合理的じゃないなぁ、という場面にも多々出くわしますが、そもそも感情とは我々の生存率を高めるものなんでしょうか、それとも低めるものなんでしょうか?例えば生きていく上で何が怪しい、嫌な予感がする、近づかないでおこう、という感情に耳を傾けて生存率が高まることもあれば、単純な欲求に駆られてリスクの高い行動を取り、結果死ぬこともあるんじゃないかと思うんです。もし前者が「真実」ならば生き残ってきた我々は合理主義の感情に流されず、論理だてて物事を考えるヒトたち、ということになるし、後者が当てはまれば感情的なニンゲンばかりが生き残った社会になる。まぁ、どちらもそれはそれでしんどそうな世の中ですが…。

さて、小脳がいかに正常な運動機能に重要な役割を果たしているかはもう200年以上も前から論じられてきましたが、今回お話したいもうひとつの小脳が持つと言われている機能に「感情」があります。様々な論文をまとめながら要点をさらっていきたいと思います。
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解剖学的に小脳は片葉小節葉(flocculonodular lobe)、虫部(vermis)と外側小脳半球(lateral cerebellar hemispheres)に分けることができ、片葉小節葉はバランスと平衡感覚に、外側小脳半球はモータープランニングとその実行にチカラを発揮すると言われているが、中でも小脳虫部はcoordinationと感情のつながりが研究によって示唆されており、Limbic Cerebellumという異名も持つ。1 小脳の特定部位に損傷が見られる場合、感情的引きこもり(emotional withdrawal)や感情コントロールの不具合、またそれに伴う行動異常が見られることが報告されているのである。1

●恐怖
恐怖(fear)とは生物にとって強烈な意味と力を持つ感情である。恐怖とそれに結びついた刺激を記憶することで生存率を高めてきたからだ。1 生物は恐怖という感情が沸き上がったとき、自律神経システム(i.e. 血圧や心拍の変化、瞳孔の拡張)と内分泌システム(i.e. 発汗)、そして行動(i.e. 震え、驚愕反射など)を用い、その全身を使って反応を示す。小脳はどうやらそのfear-conditioning(恐怖条件付け、これが怖いと以前は恐怖対象に感じなかったものを恐怖を覚えるべき対象であると再認識すること)に関わっているようなのである。特定の刺激(i.e. 音を聞かせる)を与えた後に電気刺激で痛みを与える、というfear-conditioningを繰り返した際、健常者は音を聞いただけで心拍の変化が見られたり、驚愕反射を見せたりしたが、小脳を損傷した患者はこれら変化が見られなかった。2,3

●情動処理(emotional processing)
より感情的な記憶を思い起こそうとすると小脳虫部の活性が起こることも報告されており、4 脳が感情をどう処理するかも小脳無くしては語れないようである。fMRIを使った研究等では被験者自身が痛みを感じると小脳虫前部が、痛みを思い出させるような刺激を見たり、他人が痛みを受けてる場面を目にすると(=痛みに共感を覚える)と小脳虫後部が一定のパターンで活性することが分かってきた。5-7 様々な感情を引き起こす刺激を与え、それに伴う脳活性を検証した実験では、「嫌悪感」を感じたときには小脳虫部と半球が、「幸福感」を感じたときには半球後部が活性したという結果も出ており、8,9 小脳の感情の特異性(the concept of regional localization of emotional processing within the cerebellum; emotion specificity; 特定部位が特定の感情に対して反応する)が存在する可能性も示唆している。

●他人の表情から感情を読み取る
ヒトは他人の表情からその意図を汲み取るものであり、これは小脳に損傷がある患者が思うようにできなくなることでもある。実際、ヒトが他人の表情を読んでいる時は小脳、皮質下領域、大脳辺縁領域、側頭頭頂野、前前頭野に視覚領域と様々な脳の部位の活性を必要とする。ちなみにこれには感情の特異性はなく、「他人の感情を読む」ことに関しては喜んでいる、怒っているなどに特異した脳の部位は存在しないようだ、という説もあれば、いやこの部位が感知する感情は喜びだ、恐怖だ、怒りだ云々と専門家の中でも意見が分かれるところである。1

●感情に関わる疾患患者など
精神分裂症の患者は小脳半球のサイズは健常者と変わらないが小脳虫部は委縮している、という報告や(これは確立されたものではないが)、これを逆手にとって精神病患者の小脳虫部を電極で刺激することで治療が行えないかを検証した研究なども存在する。10-12 同様に、鬱を患う患者にも小脳の委縮が見られたり、小脳の退化を伴う脊髄小脳失調症や多系統萎縮症の患者は精神経疾患を発症する可能性が2倍になるなど13 小脳と精神疾患の繋がりを説く研究は少なくない。
*小脳以上と自閉症についての記載も多くの論文に含まれていたが、これは以前触れたので割愛。

●意識的、無意識的な感情処理
小脳の情動処理を意識的(conscious processing; explicit)と無意識的(unconscious processing; implicit)に分ける見方もあり、意識的な処理にはfear-conditioningや相手の感情から表情を意図的に読む行為、自分が感じている感情の認知があり、無意識的な処理には自律神経反応の調整、自動的な感情学習や無意識に起こる表情の読み取りなどがある(Table 1参照)。無意識の処理は小脳虫部が、意識的な、higher-orderの処理は小脳半球で行われているのでは、という報告もあるそうだ。14
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Clausi et al., 201714より、Table 1

感情処理はBottom-upでもTop-downでも両方起こる、という文章が印象的。Clausi et al14は“sequence detection model”という説を推奨しており、小脳は運動、認知、感情に関わらず、繰り返し起こるイベントに対して法則性を見出し、解釈を内から作り出し、それに基づいて「次に何が起こるか」を予測する(*…もっと言うと、その「予測」が正解だったかどうかを見極め、次回の「予測」を修整するところまで関わっているんじゃないかと個人的には思いますが)ことが仕事なのではないか、と述べており、常に変化しつつある環境に行動・認知・感情の観点からチューニングを行ってくれているのではと締めくくっている。

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Cerebellumというジャーナルに掲載された合意声明(↑)15 では、まだこれからも様々な実験が行われなければいけないとしながらも、

- 小脳は様々な感情の処理に関わるが、特にネガティブな感情処理に関わりがあること(これは相手が怒っている場合、それを察知して守りに入る準備をしなければいけないなど、生存に直接影響を与えたと推測される)
- 最近の研究では小脳に損傷があっても恐怖から正しい結果を推測し、恐怖を避ける選択ができることが判明している一方で、自身の中にあるネガティブな感情を推し量る能力が低下していることが分かってきた。つまり、情動処理能力(emotional processing)は言われていたよりできるのかもしれないが、感情知覚能力(emotional perception)は大きな影響を受けているのでは、という説がある
- 言語で真意を伝える際、Emotional prosody(感情的韻律、発話のリズム、強弱、抑揚やピッチの変化)は非常に重要な役割を持つが、小脳に損傷を負った患者の発生はゆっくりになり、モノトーン、途切れ途切れや、ぼそぼそと聞き取りづらかったりなど、韻律に問題が出ることが多いと言う。話し相手の発するProsodyの読み取りには右小脳の後部の活性が必要とされるので、小脳障害はProsody production(韻律作成)のみでなく、Prosody recognition(韻律認知)にも問題が出るようである
- 小脳虫部は感情記憶(emotional memories)の全てのフェーズ…記憶獲得(acquisition)、整理(consolidation)、保管と取り出し(storage/retrieval)、消去(extinction)…に一役買っている
- 社会的環境の中で他人をどう理解し、どう関わっていくか、という能力「social cognition(社会認知)」…詳しくはMentalizing(他者の心理を行動から想像や理解する能力)やMirroring(相手の言動や仕草などを鏡のように真似、親近感や好感を抱かせる)にも小脳が関わっており、道徳心(morality)やそれに関わる決断を下す際にも活性するなど、小脳の機能は実に多岐にわたる

…など、これまた興味深いことが色々と書いてありました。小脳と感情の世界は、奥が深いっす…。

1. Snow WM, Stoesz BM, Anderson JE. The cerebellum in emotional processing: evidence from human and non-human animals. AIMS Neuroscience. 2014;1(1):96-119. doi: 10.3934/Neuroscience.2014.1.96.
2. Maschke M, Schugens M, Kindsvater K, et al. Fear conditioned changes of heart rate in patients with medial cerebellar lesions. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2002;72(1):116-118.
3. Maschke M, Drepper J, Kindsvater K, Kolb FP, Diener HC, Timmann D. Fear conditioned potentiation of the acoustic blink reflex in patients with cerebellar lesions. J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2000;68(3):358-364.
4. Damasio AR, Grabowski TJ, Bechara A, et al. Subcortical and cortical brain activity during the feeling of self-generated emotions. Nat Neurosci. 2000;3(10):1049-1056.
5. Ploghaus A, Tracey I, Clare S, Gati JS, Rawlins JN, Matthews PM. Learning about pain: The neural substrate of the prediction error for aversive events. Proc Natl Acad Sci USA. 2000;97(16):9281-9286.
6. Ploghaus A, Tracey I, Gati JS, et al. Dissociating pain from its anticipation in the human brain. Science. 1999;284(5422):1979-1981.
7. Singer T, Seymour B, O'Doherty J, Kaube H, Dolan RJ, Frith CD. Empathy for pain involves the affective but not sensory components of pain. Science. 2004;303(5661):1157-1162.
8. Baumann O, Mattingley JB. Functional topography of primary emotion processing in the human cerebellum. Neuroimage. 2012;61(4):805-811.
9. Schienle A, Scharmuller W. (2013) Cerebellar activity and connectivity during the experience of disgust and happiness. Neuroscience. 2013;246:375-381.
10. Aylward EH, Reiss A, Barta PE, et al. Magnetic resonance imaging measurement of posterior fossa structures in schizophrenia. Am J Psychiatry. 1994;151(10):1448-1452.
11. Heath RG. Modulation of emotion with a brain pacemaker. Treatment for intractable psychiatric illness. J Nerv Ment Dis. 1977;165(5):300-317.
12. Demirtas-Tatlidede A, Freitas C, Cromer JR, et al. Safety and proof of principle study of cerebellar vermal theta burst stimulation in refractory schizophrenia. Schizophr Res. 2010;124(1-3):91-100.
13. Leroi I, O'Hearn E, Marsh L, Lyketsos CG, et al. Psychopathology in patients with degenerative cerebellar diseases: A comparison to huntington's disease. Am J Psychiatry. 2002;159(8):1306-1314.
14. Clausi S, Iacobacci C, Lupo M, Olivito G, Molinari M, Leggio M. The role of the cerebellum in unconscious and conscious processing of emotions: a review. Applied Sci. 2017;7(5):1-16.
15. Adamaszek M, D'Agata F, Ferrucci R, et al. Consensus paper: cerebellum and emotion. Cerebellum. 2017;16(2):552-576. doi: 10.1007/s12311-016-0815-8.

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  by supersy | 2018-08-27 22:00 | Athletic Training

小脳に関する論文まとめ3: 小脳回路とその機能不全によって起こる運動障害の種類。

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4. Choi, 20161
この論文では小脳回路(cerebellar circuit or circuitry↓)とその機能が阻害されたときに起こる運動障害について主に話されています。つまり小脳には電気信号が行きっぱなしではなく、行って帰ってきてそのループを閉じるような、ongoing communicationシステム(お互いがお互いの状況をチェックし合うようなシステム)があるということですね。フィードとフィードバックと、そのフィードバックを受けてのリアクション・反応が作れる神経構成をしているというわけです。
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脳血管疾患や脳卒中が起こると副次的に運動障害が起こることがある。この脳部位がやられると運動障害が起こる、という局所的な定義が明確にあるわけではないが、大脳基底核(basal ganglion、大脳皮質と視床、脳幹を結びつけている神経核の集まり、↓写真)とその回路周りが損傷を起こすと特にその発生頻度は高くなる。しかし、小脳回路も忘れてはいけない運動機能を支配・調整している重要な脳の部位であり、ここで起こる脳卒中も同様に運動機能障害を引き起こす。実際に小脳損傷で起こる運動機能障害には、
- 運動失調症(ataxia)や共同運動失調症(asynergia)などのcoordinationの損失
- 物事との距離を見誤る測定障害(dysmetria)
- 意図振戦(intention tremor)、作動振顫(action tremor)、ホームズ振戦(Holme's tremor)、口蓋振戦(palatal tremor)、羽ばたき振戦(asterixis)、ジストニア(dystonia)
…などがある。ごく稀に常同症(stereotypy, 反復的・儀式的な行動、姿勢、発声など)も見られる。
*脳卒中に起因する運動障害は決して頻繁に見られるものではない(脳卒中全体の1~3.7%)が、中でも小脳内での脳卒中によって起こるそれは特に症例が少ない(0.1~0.3%)。
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●運動回路
先ほど脳の運動機能の代表的な平行経路(parallel pathways)に大脳基底核回路小脳回路があると言及したが、大脳基底核回路は主に学習され自動化された行動と、意図的な動作を可能にするためにバックグラウンドで機能しているべき姿勢制御や支持を担当している一方、小脳回路は協調性のある動作(coordination)、運動中のエラー修正を担当している。故に、小脳回路の損傷はcoordinationの損失、筋収縮のタイミングエラーに繋がるわけである。

小脳の神経ネットワークは複雑だが、重要な回路はふたつ存在する。cortico-cerebellar-cortical circuit (皮質-小脳-皮質回路: ↓図のが求心性のcortico-ponto-cerebellar tract; 図のが遠心性のdentato-rubro-thalamo-corcical tract)とmodulatory dentato-rubro-olivary circuit(歯状赤核オリーブ回路Guillain-Mollaret triangle又はGMT/ギラン・モラレの三角とも呼ばれる: ↓図のが求心性、が遠心性)である。このギラン・モラレの三角は小脳と脳幹をフィードバックループで繋ぐ、脊髄の運動機能をコントロールしている。
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運動障害の多くはこの回路のどこか一点に損傷が生じた、というより回路の伝達性・機能的接続性に問題がある場合に起こる。運動障害の症状が出てくるのは脳卒中後早くて当日、遅いものは数年かかることがあるが、これは障害のタイプによる。一般的に…
 急性(acute): 小脳性振戦(cerebellar tremor), 羽ばたき振戦(asterixis)
 遅延性(delayed): ホームズ振戦(Holme's tremor; 数週間から数か月), 口蓋振戦(palatal tremor; 2-49ヵ月)、ジストニア(dystonia; 1-5日)
…などの分類ができるが、それぞれの障害にも広い発症幅があり、個人差も大きい。脳の損傷が起こってから症状が出始めるまでは、損傷が起きた年齢が早ければ早いほど遅いという傾向があり、これは脳代謝と脳の可塑性によるものかもしれない。特に遅延性のあるものに関しては、画像研究などで下オリーブ核がじわじわと肥大・退化などが可塑的変化と共に起こることなどが分かっているが、真の病理生理学的原理はまだ解明され切れていない。

●障害の臨床的特徴
頻繁に起こる運動異常
- 小脳流出振戦/Cerebellar outflow tremor
小脳振戦で多いものが動作時振戦(action tremor)で、安静時振戦(rest tremor)は稀。中でも多いのが意図振戦(intention tremor)で、症状が出る部位は腕か足、周波数は<5Hzのものがほとんどである。振戦の多くが片側性(unilateral)で、体節的もしくは多焦点(segmental or multifocal)で局所的でも全身性でもなく(rather than focal or generalized)、GMTに問題があることが多い。

- ホームズ振戦/Holme's tremor
脳卒中や脳幹の障害で発症すると言われる稀な振戦。GMT機能の阻害によって起こる。動作時と安静時の複合症振戦で、片側上肢に現れる。反対側には測定障害(dysmetria)や拮抗運動反復不全(dysdiadochokinesia)が出るのが一般的で、姿勢振戦も付随することが多い。周波数は通常4.5Hzかそれ以下だが、イレギュラーなこともある。

- 口蓋振戦/Palatal tremor
軟口蓋そのものや咽頭・喉頭・顔面や胴体の筋肉がゆっくり(1-3Hz)とリズミカルに動くことによって起こる。Essential(原因不明; 1/4の患者はこれ)とSymptomatic(脳幹や小脳、引いてはGMTへの損傷によって起こる)の2種類に大別することができ、前述のように受傷後1週間から49ヵ月以内に発症するという幅を持つ。

- 羽ばたき振戦/Asterixis
自分の意志とは無関係な運動を起こす不随意運動の一種で、筋収縮を保てないが故に伸ばした腕を羽ばたくように返す(flap)動作を生むのが特徴(↓動画有り)。通常両側で起こり、GMTの機能不全に起因するようである。


- ジストニア/Dystonia
反復性の身体を捩じるようなパターン化された筋収縮により、通常の動作が阻害される運動障害。小脳の脳卒中で起こる場合、症状が出るまで通常1ヵ月から15年かかる。

その他の運動異常
- 常同症/Stereotypy
反復性の目的のない動作が一定の時間内で繰り返される動作異常。精神分裂症や知的障害、自閉症の患者によく見られるが、脳卒中が原因で起こることもある。

- 下肢静止不能症候群・むずむず脚症候群/Restless legs syndrome
下肢に不快感を覚えたりむずむず痒い感覚を覚えるなどする症候群で、小脳の脳卒中では起こらないが、その他の様々な脳部位(大脳基底核、放射冠、脳橋、視床、内包、大脳皮質)での脳卒中に於いて起こる。

こうした運動障害の生理学的背景やよく見られる症状などを把握しておくことは的確な診断と処置のために欠かすことはできない。

1. Choi SM. Movement disorders following cerebrovascular lesions in cerebellar circuits. J Mov Disord. 2016;9(2):80-88. doi: 10.14802/jmd.16004.

この論文とは直接関係がないんですけど、ここらへんの動画は以前リハビリの授業で脳の可塑性を教えるために使っていました。Focal Dystonia患者さんの話です。興味がある方はどうぞ。脳は変えられる。例え機能不全があっても。




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  by supersy | 2018-08-24 23:59 | Athletic Training

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