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Exhausted? Talk Yourself Out of It: 病は気から、疲労も気から?「もうだめだ」のその先へ。

私事なんですが、いよいよテキサスのアパートを引き払ってネブラスカへやってきました。16年間続いたアメリカ生活もいよいよ最後の4日間です。

さて。少し古い(2014年発表)1記事なんですが、最近SNSで見かける機会があって興味を持ったので読んでみました。
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この論文、冒頭がめっちゃ面白いです。Exhaustion(疲労限界、枯渇)という状態が「有酸素運動を続ける身体・生理学的能力が限界にきて、筋肉疲労が訪れた状態」である『生理学的現象』説と、いやいや、Exhaustionというものは「有酸素運動をもうやめよう」と思う運動者本人の意志によってこそ起こるものだ、という『Psychobiological(心理生物学的)モデル』に基づく説と、二種類存在するんだそうです。後者は、そのタスクを遂行するために必要な努力が自分が捧げられる努力量を上回ったとき、もしくはもう努力が最大の限界量に達していると本人が感じていて、タスクの続行が不可能であると判断したときに訪れるのがExhaustionであるという見解らしいです。な、なるほど…。今までは確かに前者のみの認識でしたが…これは頷いてしまう…。
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もし後者の定義も一理あるとしたら、競技者が「限界が近いかも」と感じ始めたときに心理学的な介入でもって「いやいやまだまだ」と思いこませることが可能である→疲労限界状態から脱することも可能なのかもしれません。そういった介入法のひとつである「Self-talk(セルフトーク、自己会話)」を使うことで、高強度のサイクリング運動中の1) 有酸素運動そのもののパフォーマンス(Time-to-Exhaustion Test、TTEテスト); 2) 自覚疲労度(Rated Perceived Exertion、RPE)と表情の変化(Facial Expression of Effort、顔をしかめるなど、辛いという感情表現に関わるもの)にどう変化が生まれるか検証した、というのが今回の実験内容になっています。

んで。

被験者になったのは健康で、(義務ではなく)趣味の一環として定期的に運動をしている("recreationally trained")24人(男15人、女9人、平均24.6±7.5歳)。各テスト法の解説等はここでは割愛しますが(興味のある方は該当論文を各自でご確認ください)、測定機器のカリブレーション法と頻度や、テスト中の試験者の立ち位置、サイクリング中の扇風機の配置ルールなどかなり細かい描写があり、丁寧にデザインされた研究であることが伺えます。つまるところ、流れはこういうことだったみたいです。

Visit #1: 全被験者のPPO、VO2maxのベースライン測定
  ↓
  最低でも72時間空けて
  ↓
Visit #2: 全被験者をTTEテスト(介入なし)、テスト終了後Randomizationをしてグループ分け。コントロール組(男7人、女5人)とSelf-talk組(男8人、女4人)のいずれかに。
  ↓
  最低でも2週間空けて
  ↓
Visit #3: 全被験者再TTEテスト。コントロール組はVisit #2と全く同じ手順で、Self-talk組は事前に各自で決めてあった「4つのSelf-talk Statements」をテスト中に実践。テスト後、Self-talkをする/しないの指示通りにしっかり従ったかを質問形式で確認する(これはあくまで自己申告なので100%真実とは限りませんが、とりあえず本人の努力という見えない部分を計測しようとした努力は認められます)。

この4つのSelf-talk Statementsを選ぶ手順も論文には詳しく書いてあるのですが、ここんとこも面白いです。要約すると、Visit #2のTTEテストが終わってから、Self-talk組に入った被験者は「Visit #2のTTEテスト中に(指示されなくとも自然と)自分で使っていたモチベーションを上げるための最大5つのSelf-talkのフレーズ」と、「過去の文献から抜粋した(有効であると報告されている)既存の12のフレーズ*」を見比べて、「序盤~中盤に使いたいフレーズ2つ(i.e. "feeling good")」と「終盤に使いたいフレーズ2つ(i.e. "push through this")」の合計4つに絞りこみ、Visit #3 TTEテストまでの2週間の間で、各自運動する機会があればこれら4つのフレーズを使う練習をしていたそうなんです。で、満を持してのVisit #3 TTEテストであったと。
*これ、どんなものたちなのか非常に興味があって引用されていた文献にまでさかのぼって調べてみたのですが、具体的にどんなものだったのかはわからずじまいでした。残念…。例には"drive forward"や"you're doing well"などが挙げられています

結果を要約します。

- ベースライン時点でPPO、VO2maxの値のグループ間の差はなし。つまり、実験開始時の両グループの被験者共に最大パワー出力、有酸素運動能力は似たり寄ったりであった、と。
- Visit #3で用いたSelf-talkの使用量は、コントロール組とSelf-talk組で明らかな差があった(p=0.001)。つまり、「介入」の有無が確かに存在したと言える。
- Exhaustionに達した際のRPE、Facial Expression of Effort、心拍数、血液中乳酸濃度はグループ間の差なし(=身体的能力に差が出たわけではない)。
- しかし、「疲れた、もう限界だ」と感じるまでの時間(Time to Exhaustion)には著しい差が存在した。予想通り、というかなんというか、コントロール組のTTEテストパフォーマンスはVisit #2 vs #3で大差がなかった(487±157秒 vs 475±169秒, p>0.05)ものの、Self-talk組はSelf-talkを使用した際に、より長い時間サイクリングを続けることができた(Visit #2: 637±210秒 vs Visit #3: 751±295秒, p<0.05)
- しかしpre-testのパフォーマンスにグループ間で大きな差があったのもまた事実なので、それをcovariateとしてANCOVAを使って分析しなおしてもみたが、やはりSelf-talkの効果はハッキリと認められた(p=0.046)。
- Self-talkをすると毎分ペダル回転数は上がり、労力が上がった際のRPEもより低いまま保たれた。タイトル通り、自らを「いやいや、疲れてなんかいないぜ」と説得する(= talk yourself out of exhaustion)ことが可能、ということが分かったわけである。
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この結果はモロに冒頭の「疲労困憊とは運動者本人の意志によって起こるものだ」という『Psychobiological(心理生物学的)モデル』の考え方を支持する形になりました。でも、私もトレッドミルや外をてけてけ走ったりするので、ここらへんのSelf-talk効果は身をもって体感しています。疲れたなーと思っても次の瞬間にココロがいいところにスポっとハマってしまえば延々と走れてしまう日もあるし、逆に調子よく走っていたつもりでも「ああだめだ」とふと思ってしまうと途端に足が動かなくなったりするので。

精神は肉体を凌駕する、とはよく言ったものです。解剖学とか生理学とかの考えに縛られるとこういった「精神」の影響は忘れてしまいがちになりますが、やはり高いパフォーマンスを生み出すうえで、ココロを整えることがいかに重要かってことですよね…。スポーツ心理学大事…。まぁもちろん、健康な身体だから健康な精神が生まれるという考え方もあるとは思いますけど。ちきんおあえっぐ。

どういうタイミングでどういった内容のSelf-talkが最も効果的なのかという最善の追求の検証など、この研究の応用性は多岐にわたるんじゃないかと思いますねー。やー面白かった!意外とね、この研究の肝って、Self-talk組の被験者たちが、しっかりと自分の意志で好みのフレーズを選び、それを練習・使用したってとこにあるんじゃないかと思うんですよ。私もありますもん、私にだけ効果があるだろうと思えるフレーズたち。後続研究を読むのを楽しみにしています!

1. Blanchfield AW, Hardy J, De Morree HM, Staiano W, Marcora SM. Talking yourself out of exhaustion: the effects of self-talk on endurance performance. Med Sci Sports Exerc. 2014;46(5):998-1007. doi: 10.1249/MSS.0000000000000184.

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  by supersy | 2018-05-30 21:30 | Athletic Training | Comments(0)

ストロボ眼鏡を用いた視覚介入で着地メカニクスは変わるのか。

Injury-Induced Neuroplastic Changes: 膝の怪我が脳に与える影響?(2016年1月31日)

以前、整形外科外傷に伴うNeuroplastic change(脳の可塑的変化)と、そのリハビリとしてストロボ眼鏡の可能性があるんじゃないかなんて記事をまとめたんですが、今回はその続編というか、続きとなるCohort Study (↓)1 が発表になったので読んでみます!Leading Authorは前回2 と同じGrooms氏ですね。
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まぁ前置きは前回の記事にも書いたので省くとして、今回の研究の趣旨は「ACL再建手術を受けた患者さんを対象に、Stroboscopic glassesを装着してもらい、stroboscopic visual-feedback disruption (SVFD)を作ることで視覚的フィードバックに頼れない状況を作り出したら、Drop Landingのメカニックスに変化は生まれるか?」ということ。

15人のACL再建手術を受けた患者と、年齢、性別、身長体重に利き手・足、現在のactivity levelと教育レベルがマッチした15人の健康な被験者(多項目!被験者の人数は少なく感じるけど一応統計パワー的に各グループ14人いればいい、という最低値はクリアしているし、ここまで詳細なdemographicsをマッチさせたのはすごいです。でもここまでやるなら、何故効き目は考慮しなかったのか?)を集め(それぞれ男7人、女8人、平均は21.41±2.6歳 vs 23.15±3.48歳)、1) Full vision; 2) low SVFD (不透明100ms vs 透明100ms); 3) high SVFD (不透明250ms vs 透明100ms)の状態で各条件下3回ずつ、「高さ30cmのボックスから飛び降りて、地面に着いた直後に垂直跳び。自己最高の高さの90%の位置にあるターゲットに触れる」…という、つまりかなり強度の高い着地・ジャンプをさせ、その間の下肢のメカニックスを分析したというわけです。わーおもしろそう…。かなり丁寧にデザインされている研究だなぁという印象です。正直言ってこういうバイオメカニックスの分析は詳しくないというか、全く専門ではないんですが、先行研究によれば今回の研究で用いられたバイオメカニックス測定法は信頼性が高く、様々な実験のスタンダートとして使われているプロトコルなんだとか。そういわれると、詳しくない分野は信じるしかないっ。すごいに違いないっ。ちなみにこの実験で使われたストロボ眼鏡はNikeのSPARQ Vapor Strobeブランドだったそうだそうな。これ今買おうとしたらいくらかな、$700-800くらいかな?

計測したアウトカムは
- sagittal-plane knee excursion (着地の瞬間から最大で膝がどれほど屈曲するか)
- frontal-plane knee excursion (着地の瞬間から最大で膝がどれほど内転するか)
- peak knee flexion moment (normalized)
- peak knee abduction moment (normalized)
- peak vertical ground reaxtion force (normalized)
の5項目。で、結果を書いてしまうと…

1. ACL再建患者・健康な被験者に関わらず、SVFDがあると着地メカニズムに変化が生じる。具体的には、膝の内転角度が1.98±1.53°下がり(p = 0.001, Cohen = 0.70, moderate)、peak vertical ground reaction forceが38.72±26.63%body mass上がり(p < 0.001, Cohen = 1.45, large)、peak knee-abduction momentが0.04±0.04Nm/kg上がる(p < 0.001, Cohen = 2.20, large)。着地時に内転を上手く使って力を溜め、それを効率良く利用してジャンプする力に変えられているということでしょうか…。

2. ACL再建患者と健康な被験者を比較すると、ACL再建患者のほうがSVFDをしているときに膝の屈曲角度が平均3.12±3.76°増えた(p = 0.001, Cohen = 0.96, large)、というのが唯一の違いであった。つまり、ACL再建患者はストロボ眼鏡を装着している時の方が、着地の際に膝をco-contractionによって固めて衝撃を(非効率に)真正面から受け止めようとせずに(stiffening strategy)、膝を上手く使って衝撃を吸収できていたということに。
*3.12°程の変化なんて大したことないと思われるかもしれませんが、これはインシーズンのACL予防Neuromuscular Training(3.1°)、plyometrtic-jump training program(3.0°)、landing feedback intervention (3.5°)らによってもたらされる膝の屈曲度の変化とほぼ同じ。低く見積もっても数時間、長く見積もれば数週間分のトレーニング成果が眼鏡をかけただけで得られるという結果になっているというのは、うーむ、興味深いです。

ここからは個人による個人のための見解を書き残しということで、今回の結果をPRI Visionのセオリーになぞらえながら解釈してみたいと思います。ACL再建患者がその回復のプロセスで、痛みの継続的認知や患側の筋力低下、筋神経制御の低下などで今までのパターンがより色濃くなっていたと仮定して、ACL再建患者がより右の主(ともしかしたら副)視野からのフィードバックに頼って自我を成立させていた可能性は大いにあります。しかし今回のこの実験では、ストロボ眼鏡の影響で右視野からの情報が十分に得られなくなり、結果、患者は自分を見失い、「自分はどこにいるのか」「何をしているのか」という自我を新たな感覚情報を元に見つけなおさなければいけなくなったわけです。

この際、1) 事故的に左副視野を発見して従来の感覚依存(= パターン)から出る→骨盤が後傾し、それに伴って股関節屈曲・膝関節屈曲; 2) もしくは視野以外の情報、例えばグラウンディングの感覚によって地面からの知覚刺激で自我の再発見を図ろうと、(両)踵を使っての着地になるようメカニックスが変化し、結果的、(両)股関節・膝関節屈曲が増えた…つまり、今までよりも相対的に左の踵から入ってくる知覚量が増えるので、パターンから出やすくなる、みたいな変化が起こっているんじゃないですかね。だから、パターンにはまっている場合のトレードマークであるlumbar extensionが消えている(= 膝の屈曲が出ている)んじゃないかと。

なので、膝の屈曲角度が増えたという結果は本当に面白いです。多くの患者がストロボ眼鏡の着用でメカニズムは複数あり得るにしても事故的に屈曲を発見し、自分自身をunlockできたことになります。しかしここで本当に興味深いのが、ストロボ眼鏡自体は患者をlateralizeするまでには至らなかった(= frontal planeの変化は見られなかった)ということ。unlockして胸郭前部から空気が抜けても、右の肺と左の肺に空気が自在に出たり入ったりするような状態(= 右にも左にもlateralizeできる選択肢が十分にある状態、つまりPRI neutral)に行くまでには足らなかったということじゃないかと。もちょっとPRI的に分かりやすくいうと、これらの患者さんはAdduction Drop Testは落ちるようになったけど、Hruska Adduction Liftは2-3をふらふらしてるあたりですかね。4-5までいけてない。やっぱり、眼鏡だけじゃいけないんだなぁ。

感覚としては、ストロボ眼鏡って、PRIがパターンにどっぷりハマっている患者の左歯にTongue Depressorかますのと似てるのかもしれませんね。Take the right bite out. 本人の支えになっているものを敢えて取っちゃいましょう、と。今回の検証結果はとても面白いと思うんですけど、ストロボ眼鏡は左の歯にかますTongue Depressorよりは少しギャンブル性が高いんじゃないかって気はしています。なぜかというと、ひとつはお値段がTongue Depressorと比べ物にならないくらい高いこと。二つ目は、左を与えずに右を(完全ではないにせよ)奪ってしまうと、患者がより一生懸命右を探してしまうという、狙いとは真逆のことが起こってしまう可能性があるということ。「右が見えない!」「じゃあ左も見てみよう(→で、結果左見つける)」ならいいんですけど、絶対に「右が見えない!」「もっともっと右をよく見なくっちゃ!(→より右しか見なくなる)」ってなっちゃう患者さんが絶対にいると思うんです。決して少数ではないはずです。患者が持てる知覚全部使って右の限られた視野の中からできる限りの情報を掬い取り、それでなんとか立ったり歩いたり着地しようものなら、本来の患者のパターンはなくなるどころか結果的により強くなって帰ってきてしまうかもしれません。余計治療しにくくになってしまう。

事故狙いのセラピーってのもね、どうかなとは思いますね。$700-800使ってとなると、特に。もう少し治療介入ってのは意図的じゃないと。

PRIのアプローチを使って患者を診る際には、どの感覚刺激を使えば一番成功率が高そうか考えながら介入を決めるので、今のところこのストロボ眼鏡が治療のNo.1ツールになることはないかな、と思ってしまうんですが、sensory lost(感覚的迷子)な状態を作るには面白い道具じゃないかなとは思っています。うーー、やっぱり個人で所有してちょっと遊んでみないと勝手が分からないかなー?ちょっと買ってみちゃうにはなかなかなお値段だからさすがに躊躇するなー、どうしようかなー、むーーーー。

1. Grooms DR, Chaudhari A, Page SJ, Nichols-Larsen DS, Onate JA. Visual-motor control of drop landing after anterior cruciate ligament reconstruction [published online ahead of print on May 11, 2018]. J Athl Train. 2018. doi: 10.4085/1062-6050-178-16.
2. Grooms D, Appelbaum G, Onate J. Neuroplasticity following anterior cruciate ligament injury: a framework for visual-motor training approaches in rehabilitation. J Orthop Sports Phys Ther. 2015;45(5):381-393. doi: 10.2519/jospt.2015.5549.

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  by supersy | 2018-05-15 13:29 | Athletic Training | Comments(0)

AT学生と、セクハラ。

最初は告知です。

この夏もEBP講習を開催します!今回は基礎レベルの「治療介入編」と(3時間、3.0 EBP CEUs)、臨床応用レベルの「治療アプローチ・AMI編」「治療アプローチ・腱障害編」(各2時間、それぞれ2.0 EBP CEUs)をまとめて一日で開催します。全3講習に出席すればBOC EBP CEUを一気に7.0も獲得可能です。この講習は今まで昨年12月に一回開催したのみなんですが、ATC資格保持のためのCEU Reporting Cycleは皆さん昨年末でリセットされてますので、前回参加した方も再受講すればまた新たなEBP CEUとして申請可能ですよ。日程と構成は以下の通りです。

<講習日時>
2018年7月14日(土)
9:30am-12:45pm  エビデンスに基づく治療介入: 基本から応用まで
           *途中休憩15分含む3時間講習
12:45pm-14:00pm 昼食(各自)
14:00pm-16:00pm エビデンスに基づく治療アプローチ: AMIと抑制解除療法
16:15pm-18:15pm エビデンスに基づく治療アプローチ: 腱障害リハビリ

ちなみに、基礎レベルの講習は「エビデンス(科学的根拠)に基づく…」とかよく耳にするけれど、どういうことか実はよくわからない、今更ヒトにも聞きにくい、という完全初心者さんウェルカムな講習で、むしろエビデンスに対して不信感とか苦手意識のある方にこそ来ていただきたいと思っています。エビデンスに基づく実践って思ったほど難しくないや、結構楽しいかも!と思って帰っていただければそんな幸せなことはありません。

午後に行う講習ふたつはどちらも「臨床応用レベル」の講習で、今まで教えてきた「基礎レベル」の講習から一歩踏み込み、p値や効果量というコンセプトを踏まえた上で実際に臨床の現場で皆さんがぶつかっていそうな症例にとびかかり食らいついていきます。「エビデンスに基づく治療介入: 基本から応用まで」講習の事前履修を強くお勧めしますが、必須ではありません。p値や効果量の何たるかがわかっている方であれば問題なく楽しめる内容になっております。

AMI編では「Arthrogenic Muscle Inihibition (関節因性筋抑制)って何?」「どんな悪影響がある?」など紐解いた後で、「では、実際に現場ではどうすれば?」というところまで、腱障害編では「腱障害とはなんぞや?」「エキセントリック・エクササイズってそんなに効くの?」という話をしてから、「では、実際に現場で腱障害の患者がいたら、どうすれば?」というところまでをエビデンスを探し、読み解きながら検証します。「エビデンスを探す」部分では、私の愛用するPubMedのちょいとした小技もご紹介できればと思っています。

全講習、参加者の資格は問いません。元々ATC資格保持者さんのためにと思って企画した講習でしたが、今までPT、OT、柔道整復・あんま・鍼灸師さん、医師の方や大学教員・研究者さんなど幅広くご参加頂いています(ありがたやー)。学生さんも大歓迎です!リピーターさんも、リフレッシュにまたという方も結構いらっしゃいます。

<会場>
〒190-0022 東京都立川市錦町3-3-20
   JR中央線立川駅南口より、徒歩13分
   JR南武線西国立駅より、徒歩7分
   多摩モノレール立川南駅より、立川南通りを直進、徒歩12分

<定員> 各講習45名

今回も主催は高橋さんにお願いしています。お申し込みはGuardians Athletic Training & Therapyのウェブサイト上のこちらから。参加は一番興味のあるコースひとつだけでも、お好きな組み合わせで1つや2つでも、3つ全てでももちろん可能です(お手数ですが、複数講習参加する場合は、リンク先から各イベントひとつずつお申し込みください)。複数参加される方には一昨年から導入した『セット割引』システムが適応、そして『学生割引』も健在です。

<受講料> 
一般 3時間講習(基礎編) 9,000円; 2時間講習(臨床応用編) 各6,000円
   2講習同時申込で10% off
    (例: 基礎+臨床応用で1,500円引き、臨床応用講習2つで1,200円引き)
   3講習以上同時申込で15% off
    (例: 基礎1つ+臨床応用2つで3,150円引き)
学生 3時間講習(基礎編) 8,100円 (10% off - 900円引き);
   2時間講習(臨床応用編) 各5,400円 (10% off - 600円引き)
   2講習同時申込で20% off
    (例: 基礎+臨床応用で3,000円引き、臨床応用講習2つで2,400円引き)
   3講習以上同時申込で25% off
    (例: 基礎1つ+臨床応用2つで5,250円引き)
     *現役大学・専門学校生(国内外不問)さん対象。申込後に学生証の提示が必要です、

より多くの皆様にお会いできるのを楽しみにしております!セミナーの内容に関して質問があればここのコメントか私に直接ご連絡ください。会場、参加費など運営に関しての質問は高橋まで(tdtakahashi@guardiansatt.com)お願いいたします。



さて、さらっと論文ひとつだけまとめます。

最近世界的にセクハラが話題になっていますが、アスレティックトレーニング(AT)界隈も例外ではありません。もちろんATやAT学生が加害者側に回ってしまう可能性もありますが、2018年現在、現役ATの6割と現役AT学生の7割が女性である1 ことを考えれば、まだまだ男性社会である大学スポーツ・プロスポーツの現場等で実習経験を積む中で、セクハラ被害の場面に出くわすことも少なくないのではと思います。実際に、女性ATの64%が学生時代もしくはプロになってからセクハラに遭ったという報告2 もあるそうです。64%って…高い…。
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…というわけで今回の論文3です。ちなみにセクハラの定義を初めてこの論文でちゃんと呼んだのですけれど、
According to the Office of Civil Rights, sexual harassment prohibited by Title IX can include touching of a sexual nature; making sexual comments, jokes, or gestures; writing graffiti or displaying or distributing sexually explicit drawings, pictures, or written materials; calling students sexually charged names; spreading sexual rumors; rating students on sexual activity or performance; or circulating, showing, or creating e-mails or Web sites of a sexual nature.4
…ということなんだそうです。Sexually charged nameで呼ぶとアウト(でかパイちゃん、とか?)、や、容姿に点数を付けたり、抱きたい女ランキング、なんかをつけるのもアウトってことですね。こうして文字になっていると、おおおなるほど!と新鮮な気がします。

んで。きちんと学生と教育者を対象としたセクハラとジェンダー・センシティビティについてのトレーニングを実施すると、医学部内でのセクハラ、性差別が減る5…というエビデンスがある一方で、医学部と異なり、セクハラに関するトレーニングは必須ではないのが現代のATプログラム教育。今、実際にどのくらいの割合の大学で、どんな媒体でトレーニングが行われているのかという調査は行われたことがないそうです。とりあえず現状を調べてみるべか!というのが本論文の内容。

885人の現役AT学生(男272人、女613人、平均21.33±2.95歳)にアンケート調査を行った結果、セクハラトレーニングを受けたことがあるという学生は全体のたった41.0%だったそうな。割合としては、男子学生のほうが女子学生よりもトレーニングを受けている割合が多かった(46.9% vs 38.5%, p = 0.026)とのこと。それから、トレーニングを受けた学生のほうが圧倒的にセクハラに関するリソースの在処を知っている(91.5% vs 63.6%, p < 0.001)、とも。トレーニングを受けたことがあると答えた学生の半数以上は大学初年度時に受けた(新入生オリエンテーションなど)のだそうで、大学外では「夏の間にしたバイトで」「インターン先で」などの回答が多かったそうな。

これ、まとめると、「女性AT学生は男性AT学生に比べてセクハラ・トレーニングを受けていない場合が多く、トレーニングを受けたことのない学生は、受けたことのある学生よりも6倍、どこにセクハラに関するリソースがあるか分かっていない=実際にセクハラを受けても、どう対処していいかわからない可能性が高い」ということでしょうか。最後は少し飛躍かもしれませんけど。被害者になる可能性が高そうな女性AT学生がトレーニングを十分に受けていないというのは問題であると思います。…とはいえ、我々ATのSpecialtyはセクハラではありませんから、しっかりしたトレーニングを積ませようとなったら、大学内の他の部署に依頼をしたり、外部の専門家を呼ぶなどして積極的に外のチカラを借りる必要がありそうですね。これらのトレーニング対象には学生だけでなく、AT教授やPreceptorも含まれるべきだとも思います。



話が変わるようで続くのですが、実は私先学期、大学内で行われたトランスジェンダーのワークショップ(教授・スタッフ対象で無料)に行ってきました。これがなかなかどうしてかなり目からウロコの内容でして。一番驚いたのは、「Genderは男か女かの二択ではない。Genderにも細かく複数の種類が存在し、それらはスペクトラムとして考えられるべきだ」という考え方です。有名なのがSam Killermann氏が考案した"The Genderbread Person"というこの絵(↓ フリーリソース)。興味のある方は是非リンク先に飛んでじっくり読んでみてください。
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簡単にまとめると、
 - ジェンダーとは、男女「どちらかひとつ」ではなく、多くの場合は一個人の中に男女「どちらも」含まれているものである
 - Gender Identityとは、自分自身の「男性らしさ」「女性らしさ」がどれほどあると認識しているか
 - Gender Expressionは服装や仕草、言葉遣いからどれほど「男性らしさ」「女性らしさ」を表現する傾向にあるか
 - Biological Sexは身体的特徴や声の高低、ホルモンや遺伝子的観点からどれほど「男性らしい」「女性らしい」かを示したもの…で、
 - 性的に惹かれる対象は「男性・男性らしさ」「女性・女性らしさ」なのか
 - 心が惹かれる対象は「男性・男性らしさ」「女性・女性らしさ」なのか
…という風に、なんて言うんでしょうね、各項目に対して自分のプロファイリングができるようになっているんです。これ、自分について考えてみると非常に面白くないですか?例えばBiological Sex...私は身体特徴は100%女性ですけども、身長も高いし肩幅も広いし、顔も中性的とよく言われます(実際に髪を短くしていた大学生まではよく男の子と間違えられていました)。Gender Identifyでいうと特に自分を男らしいとも女らしいとも思わないし、服装や髪形などの自分のプレゼンテーション(Gender Expression)はどちらかというとさっぱり男性よりのことのほうが多いです。目盛で表すとこんな感じですかね。
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皆さんも「自分は男だからどの項目も男性目盛が目いっぱいで、女性目盛はゼロのはずだ!」「私は女だから恋愛対象も性的対象も男性でなければいけないはず」と自分の言い聞かせるように思いこむのではなく、ひとつひとつの項目について改めて見つめ直してみてはいかがでしょうか?いやー今思い返してもあのワークショップは面白かったです。開眼体験っていうんでしょうか。日本でもああいうことをもっと勉強できる機会があるなら是非参加したいです。ちなみに講師の方はどこからどう見ても普通の中年のおじさまだったのですが、元・女性のトランスジェンダーの男性だったというのもびっくりです…。日本にだって、そういう方がまだまだ発言権を得ていないだけで、たくさんいらっしゃると思うです…。

最近、アメリカでも性別の欄に「女性」「男性」のほかに、「トランスジェンダー」や、「どちらもでもない」、「Prefer not to answer (不回答、が一番近い日本語ですかね?)」という選択肢が増えてきました。本来二択でないものに対して二択で迫るからおかしなことになるのです。もう少しin-betweenに対して寛容な社会でも、いいんではないかと思いますね。

1. Winkelmann ZK, Neil ER, Eberman LE. Athletic training students' knowledge of ethical and legal practice with technology and social media. Athl Train Educ J. 2018;13(1):3-11.
2. Shingles RR, Smith Y. Perceptions of sexual harassment in athletic training. Athl Train Educ J. 2008;3(3):102–107.
3. Mansell J, Moffit DM, Russ AC, Thorpe JN. Sexual harassment training and reporting in athletic training students. Athl Train Educ J. 2017;12(1):3–9.
4. Hill C, Kearl H. AAUW Report: crossing the line: sexual harassment at school. http://www.aauw.org/files/2013/02/Crossing-the-Line-Sexual-Harassment-at-School.pdf. Published November 2011. Accessed September 2014.
5. Jacobs CD, Bergen MR, Korn D. Impact of a program to diminish gender insensitivity and sexual harassment at a medical school. Acad Med. 2000;75(5):464–469.

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  by supersy | 2018-05-10 21:00 | Athletic Training | Comments(0)

AT学生と、SNSの使い方。

これから医療教育界で大きなトレンドになるだろう(もうなっている?)と言われているトピックのひとつに、Health Informaticsがあります。InformaticsとはInformation Engineering (情報エンジニアリング)のことで、私もこの16年間で患者の医療記録の入力、保存、(医療者間での)共有の仕方が著しく変わるのを目の当たりにしてきました。様々な医療情報が電子データ化され、オンラインシステムで管理されるようになっていく中で問題・課題として絶対に話されるべきは、患者情報の保護(=医療情報流出の予防)。そして、Health Informaticsと切っても切り離せない関係にあるのが、本来医療情報とは関りがないはずのツイッターやフェイスブック、インスタグラムなどのSocial Media (SNS)です。
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日本でも日々こういったSNSで様々な人や議題が「炎上」していたりしますが、ひとたび「投稿」すれば数分のうちに取り返しがつかないくらい拡散("go viral")してしまうのがSNSの恐るべき特徴。その情報の波に乗ってしまうのは未成年の飲酒やコンビニアイス売り場で遊ぶ客の写真だけではありません。実は日米問わず、患者の写真を顔入り、所属入り、場合によっては名前入りで投稿してしまう医療従事者・学生というのは沢山いて、大学教育という観点からも「SNSとの付き合い方をどう教えるべきなのか?」ということが問題になっているのです。

アメリカにはthe Health Insurance Portability and Accountability Act of 1996 (HIPAA)という法律があり、まぁザックリいうと患者さんの同意書類なしに医療従事者が医療情報を第三者に開示することは違法と定められています(警察による介入や伝染病のアウトブレイク時など、限定的な例外はあるのですけれど)。高校や大学であれば、HIPAAに加えてthe Family Educational Rights and Privacy Act (FERPA)という生徒の教育情報(ワクチン接種歴などの医療情報も含む)保護法という法律も適応されるため、教育機関に勤務するアスレティックトレーニング(AT)と、そこで学ぶAT学生は患者の医療情報の管理について特に徹底していなければならないのです。

一方でHIPAAを一部改正する形で2009年に制定されたのがHealth Information Technology for Economic and Clinical Health (HITECH)という、医療情報の電子化を許す法律。これを期に驚くほどにまぁ一気にElectronic Health Recordが主流になって、2018年の今では手で書類にちまちま記入している医院やクリニックのほうが珍しいほどなのではないでしょうか。…ということは、そうなんです。現役医療従事者、教育者と学生は「電子化された医療記録の持ち運び、持ち出しのしやすさ」と「電子化しようとも変わらずにある守秘義務」とのバランスを、つまり、HITECHとHIPPA/FERPAのバランスをしっかり保たなければならない、という新たなチャレンジが生まれたわけなんです。
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で、この論文1 の冒頭では、こういうこともしっかりATプログラムで教えなければいけないと、教えなくても分かるだろうと思ってはいけないと説かれており、まぁ現状把握をしましょうか、というのが主な検証内容になっています。652人の現役AT学生(平均21.96±8.47歳、男191人、女456人に不明・未回答5人…やっぱり女性が約70%と圧倒的に多いですねー)がアンケートに回答し、その89.8%が現在学士レベルで勉強中だったんだそうです。うち、92.2%がHIPAAに関するトレーニングを受けた経験があったそうなんですが…HIPAA/FERPAのトレーニングは全てのCAATE認定プログラムで義務付けられているはずですから、これが100%でないことに私は少し疑問を感じています。好意的に考えるとすれば、もしかしたらプログラムに入ったばかりで「まだ」トレーニングが行われる前にこのアンケートが実施されたということかな?

んで。びっくりするのが、学生一人当たり、平均でSNSのアカウント(active accounts = 日常的に使っているアカウント)を6.81±2.75も持っていたということ。へ、平均約7つって…多くないですか?特に多かったのはFacebook(93.4%)、Snapchat(85.3%)、Instagram(80.4%)、Twitter(68.4%)、Pinterest(55.1%)、Skype(51.2%)、YouTube(51.2%)、LinkedIn(31.7%)あたり。ああ、まぁSkypeもひとつに数えるのか…。それにしても7つとは…。私はActiveなのは3つくらいですよ…。

細かい回答内容も見ていくと興味深いです。ほとんどの回答者(93.4%)が「自分と患者の顔がフルに写っている写真はSNS上にはない」と答えたものの、1.6%(n = 10)が「SNSで他人がHIPPA違反を犯しているのを発見し、報告をした」、0.2%(n = 1)は「自分がHIPAA違反を犯してしまい、報告された」が回答しているというのは衝撃です。自己報告ですから、実際の違反頻度はもっと高い可能性もあります。加えて、13.8%(n = 87)の学生が「所属プログラム内の人間(学生仲間やスタッフも含む)がSNS上で倫理上の問題のある行動をしている」と思っているんだそうで。

ATプログラムがSNSポリシーを定めていると答えたのはたった24.2%で、ポリシーがあるかどうかも分からないと答えた学生の方が多かった(32.2%)という結果になっています。

この論文の考察にはE-professionalismという言葉が紹介されていて(= "the attitudes and behaviors that reflect through digital media")、もう少しこれに特化したトレーニングなり教育が必要だと論じられています。患者の顔付きの写真投稿は比較的明確にアウトだと分かる常識人がほとんとでしょうけれど、例えば簡単にアクセスできるようになった患者の医療記録そのものの取り扱いもトラブルが後が断たないそうで…。実際にNFL選手の怪我に関連して、ESPNのレポーターが特定選手の医療レコードを無許可で写真に撮り(これがまずアウト↓)、投稿されたあとで、見たくなったんでしょうね、同病院勤務の医療従事者2名がその医療記録に不当にアクセスしたという理由で解雇されたというケースも過去にありました。そうなんです。リークに直接関わったわけではないんですが、興味本位で自分に関係ない患者の医療情報を「見た」ことが問題になったんです。
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ちなみに例えば電子機器が盗まれたりパスワードが流出したりなどして第三者が医療記録にアクセスできるようになってしまった場合も、元の持ち主の管理責任が問われるので、電子記録の保護もしっかりと確立しておく必要と義務があります。例えば、車上荒らしで某NFLチームのATの車からノートパソコンが盗まれてしまった、という過去のケースでは、そのパソコンはパスワードがかかっていた(password-protected)にも関わらず、コード置換されていなかった(unencrypted)という理由でATのHIPAA違反としてみなされうるとされた出来事もありました。悪意のある、意図的な違反でなくても巻き込まれてしまう可能性が十分にあるということです。

HIPAA/FERPAのみならず、医療従事者としてのSocial Media Presenceというものについて、各プログラムがしっかり教える必要があるようですね。これをしてはいけない、あれをしてはいけない、というポリシー作成が必要なだけでなく、プログラム内で違反があった場合、どう報告し、対処するのかというメカニズムを作っておくことも同様に重要だと思います。うちのプログラムでは学生とSNSポリシーの確認は毎年一度行っていますし、誓約書にサインもさせてますけど、だからといって私たちが積極的に彼らのアカウントを監視しているわけではないですから、実行・施行というところもまた難しいですね…。正直そういうところ(SNSアカウント監視)に時間とエネルギーを使いたくない…。怠惰だと思われるかもしれないけど…。うーん難しいところ…。

私の基準はアメリカでも厳しいほうなのかもしれませんが、個人的には学生と教授、学生とPreceptor、学生と患者、医療従事者と患者がSNSで繋がること自体がそもそもアウトだと捉えています(LinkedInは例外かもしれませんが)。在学中に繋がるメリットが分かりません。卒業まで待てよ、と。SNSに写真を載せる場合、学生・医療従事者と選手(athlete)との写真は許容されても、(治療や施術中である・ないに関わらず)患者(patient)との写真は不適切じゃないかとも思います(ちなみにathleteがpatientに変わる瞬間はその人にchief complaint、主訴があるかないかだと定義します)。それが例え「この患者さんが完治して競技復帰します!」という投稿だとしても、その患者さんが何らかの怪我でその医院・クリニックに通っていたという医療情報の流出にはなるわけですから。自分の投稿はもちろん、他人の投稿に対してイイネ!やRT/シェアすることも同様ではないかと。個人的な見解ですけど。

もちろんこれが患者さん側からの発信だったらいいんですよ。「この医院・クリニックにお世話になって競技復帰までこぎつけました!ありがとう!」的な投稿だったら。あくまで医療従事者側からの発信がアウトだと考えているというわけです。患者の許可をもらって投稿しています、というなら、その「許可」は口約束でなく書類に残した方がいいです。訴えられて「そんなこと言った覚えはない」と言われたら負けてライセンス剥奪されますから。

うちのATセンターで意識して禁止しているのが、施設内のスタッフ・学生・患者さんのセルフィ―(自撮り)です。患者さん自身が「膝の怪我しちゃって治療中なう134.png」とセルフィ―をアップするのは上の流れからいったらオッケーじゃないかと考える人も多いかもしれませんが、うっかり背景に他の患者さんが写ってしまう危険性は常にあります。いちいち撮る写真全てを確認するのも我々の通常業務の妨げになりますし、医療施設であるATセンターでの写真・動画撮影は一貫して禁止、というほうが分かりやすくていいのです(Facetimeをする患者さんもいるのですが、これも同じ理由で遠慮していただきたいです)。

…とはいえ、矛盾するようですが、私はプログラムの実習教育コーディネーターとして学生の実習現場に頻繁に足を運び、学生のアクション写真を撮ることに実はプライドをかけています。私自身がATとして活動していた際の写真がほとんど手元になくてちょっと悲しかったという個人的体験から、学生の写真は目いっぱい撮ってあげたいなー、記録に残しておきたいなーと思っているからです。実際にそういう写真をSNSにアップすると、「That's my girl (私の娘最高)!」「Way to go (がんばってるね)!」「We are so proud of you (誇らしいわー)!」と数々の熱いコメントが付いたりと、親元や地元を離れて努力している学生と家族・友人をつなげることができているような気がしており、自己満足なのかもしれませんが、密かに成果を感じています。こういうのが、長い目で見て業界そのもののプロモーションに繋がるんじゃないかという、ちょっといやらしい狙いもあります。しかしプログラムのフェイスブック・アカウントにそれらを投稿する際は個人が特定可能な患者の顔、背番号や身体的特徴(髪型や腕のタトゥーなど)はモザイクをかけるよう、特に特に気を付けています。SNSを建設的な理由で使うことと、患者の医療情報を守ることの両立は絶対に可能なはずで、その線をきちんと引くとはどういうことなのかを各プログラムがしっかり教える必要があるというのは、その通りだなーと思いますね。私自身も学び続けなければいけないトピックかも。

1. Winkelmann ZK, Neil ER, Eberman LE. Athletic training students' knowledge of ethical and legal practice with technology and social media. Athl Train Educ J. 2018;13(1):3-11.

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  by supersy | 2018-05-07 02:40 | Athletic Training | Comments(0)

アメリカでATを勉強した学生は、日本でもATとして通用するのか?米国AT教育の汎用性。

面白そうな論文を見つけたので読んでみます。
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Is current US athletic training education portable?という非常に興味深いテーマの論文。この場合のPortabilityは文字通り持ち運びができるかどうかという意味ではなく、他所に持って行っても十分通用するのか、つまり汎用性があるのか、という意味ですね。英語としては非常に美しい表現で惚れ惚れします。あ、ちなみに論文はOpen Accessですのでフルテキストはどなたでも閲覧可能ですー。

さて、BOC(米国アスレティックトレーナー資格)はカナダ、アイルランドの2国とMutual Recognition Agreement (MRA)と呼ばれる提携を結んでおり、この3国のうちいずれかの国で資格を持っていれば、他の国で大学等に入り直さなくても自動的にCertification Exam(資格試験)の受験資格が得られるということになっています…が、残念ながら2018年現在、ここに日本の名前は含まれていません。日本人はアメリカでATを学ぶ最も数の多いガイコクジンでありながら、その資格を日本に「持ち帰る」ことができていないのが現状、ということになります。もちろん私自身も例外ではありません。私が日本に帰っても日本スポーツ協会の公認アスレティックトレーナーの受験資格は現時点では得ることはできません。専門学校に最低でも2年通い、認定プログラムの教育を受け直さない限り(そしてもちろん資格試験に合格しない限り)、私は日本でアスレティックトレーナー(JASA/JSPO-AT)にはなれないのです。

んで。

米国で教育を受けた日本人ATと、日本で教育を受けた日本人ATの「仕事の中身(Practice)」は実際どれだけ違うのか、お互いの仕事をどう「感じて(Perception)」いるのか?というのを実際に日本人ATを対象に調査してみました、というのが今回の内容です。面白そうでしょ。実際に回答したのはJASA/JSPO-ATさん183人とBOC認定-ATさん34人の合計217人だったそうです。JASA/JSPO-ATさんが84.3%(183/217人)と大多数を占めていますね!
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回答者の性別、年代はこんな感じ。JASA/JSPO-ATの回答者のプロファイルは性別・年齢共にJASA/JSPO-AT有資格者のそれとほぼ一致します。一方、BOC認定-ATはJATOの会員に絞っての調査だったんですが(これがまぁそもそもサンプルとしては少し偏りがあるんではと思いますが)、JATOは会員の年齢を把握していないということなんです。JASA/JSPO-ATに比べて年齢層がだいぶ高い気がするのですが、これが「偏って」いるのかどうか、妥当なサンプルなのかの判断はしかねますね。総じて回答したBOC認定-ATのほうが年齢が高いとなると、現代のCAATE教育やBOCの推奨する継続教育の真意を理解できているのか?という疑問は私の頭の中に浮かびますけれども。

最終学歴も面白いです。JASA/JSPO-ATさんの41.5%が"その他"(専門学校卒と推測できます)を選んだそうなんですが、BOC認定-ATでこの回答("その他")を選んだ人数はゼロ。逆にBOC認定-ATの半数(50.0%)は修士を取得しているそうです。学歴にはだいぶ差があるんですね。

現在の仕事にも差があります。1) BOC認定-ATの約1/3(37.5%)は大学で、1/5(20.8%)がプロやオリンピックレベルで勤務している一方で、2) JASA/JSPO-ATは高校(27.2%), 実業団(22.5%), 大学(20.1%)というセッティングが勤務先トップ3。加えて 3) "Head Athletic Trainer"という肩書はBOC認定-ATの41.2%が有しているのに対して、JASA/JSPO-ATは24.0%と開きがあるのも驚きでした。ふむー。

で。実際の調査は特定の仕事項目に対して「これはどれだけ必要不可欠・重要か、どの程度の頻度で実際に行っているか」を回答者が程度付けして答えていく、みたいな内容だったんですが、結果としては「日本で教育を受けたATも、アメリカで教育を受けたATも仕事に対する実践・認識は殆ど同じ(Spearman's Correlation = 0.92~0.93でほぼ完璧に一致)」だったそうです。唯一統計学的に有意な差があったのは72項目中たった2点のみ。1) "Execute communication responsibilities to the patient and other professionals to ensure quality health care"という項目に関してはBOC認定-ATのほうがJASA/JSPO-ATよりもコミュニケーションがより必要不可欠(critical)だと感じており(76.5% vs 68.3%, p = 0.044); 2) "Use standard techniques to prevent or minimize risk of injury using taping, bracing, immobilization/splinting and/or protective equipment"という項目でも同様に、BOC認定-ATのほうがJASA/JSPO-ATよりもこれを重要(important)だと感じている(100% vs 86.3%, p = 0.034)という結果になったそうです。

日本で教育を受けても、米国で教育を受けても、ATという仕事に対しての認識や実践に大差はない。この結果は正直言って意外なものではありました(日米問わず、Emergency Careが最も重要であるという共通認識がある、という事実は素直に嬉しいと感じました)。ただ、回答者のほとんどが現在日本在住で、日本で仕事をしているというのであれば、この回答の全てが「今の日本のニーズと制度」に大きく偏っている可能性は大いにありますけれど…(在住情報は今回の論文では言及されていませんでした)。

これは面白いです。この研究は次のステップに是非進んで欲しいと思います。「日本で教育を受けたATも、米国で教育を受けたATも、アスレティックトレーニングという仕事について共通認識、共通実践ができている」ならば、「米国教育を受けたATも日本で教育を受けたATと少なくとも同等のレベルで実践できている(sufficiently effective)ことを次に確認すべきである」と私は思うのです。これが何かしらの形で報告、確認できれば、じゃあ次に「…ということは米国のAT教育は汎用性が高いということですよね」「では、米国で教育を受けたATも、日本スポーツ協会の公認アスレティックトレーナーの受験資格をもらえても良くないですか?」というargumentを放り込むことができるんじゃないでしょうか?

いやー、面白い論文でした。こういうの、私はこれからもっと読んでいかなければいけない分野かもしれません。もう少し掘り下げてみるかなー。

1. Izumi H, Tsuruike M. Portability of United States athletic training education in an international setting. Athl Train Educ J. 2018;13(1):33–41.
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  by supersy | 2018-04-28 22:30 | Athletic Training | Comments(0)

一度の脳振盪で本当にパーキンソン病のリスクは上昇するのか?

1回の脳震盪でパーキンソン病発症のリスク増大 米調査(CNN.co.jp)
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こんなヘッドラインをYahooニュースで見かけたので、元になっている論文1 を読んでみました。つい一週間程前に発表になったものらしーです。
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…で、これなんですけどね…。私がこの論文で引っ掛かってしまうのは最初の一文です。"Mild traumatic brain injury (mTBI), or concusson, affects an estimated 42 million people worldwide each year (p.2)"とあるのですが、私の理解が正しければ一般にはmTBI=Concussionとは考えられていないはずです。mTBIの一種に脳振盪は含まれるけども、イコールではないはず。第5回国際脳振盪カンファレンスの合同声明2 も今確認してみましたが、やっぱり"Often the term mild traumatic brain injury (mTBI) is used interchangeably with concussion; however, this term is similarly vague and not based on validated criteria in this context (p.839)."と明記されていますね。…うーん、冒頭の一文が、しかも大事な用語の定義が国際的で最も権威が認められている合同声明と噛み合わないって結構アウトなんじゃないですかね。NeurologyみたいなImpact factorもそこそこ高く、伝統があるジャーナルで、この不一致が指摘されずに残った(?)というのはだいぶ疑問です。なんでだろう…。ここが気になると読み進みにくい。

まぁいいや。頑張って飲み込みましょう。

今までに"Moderate to severe TBIとパーキンソン病との関連性は比較的はっきりとしたエビデンスで認められているけど、mTBIとのそれはまだまだエビデンスが限られている"とのことで、全米規模の退役軍人さん対象の医療データベースを使ってTBIとパーキンソン病の関連性、特にmTBIのものを改めてさらい直そう!というのがこの論文の主旨です。かなりのマスデータだったようで、まずは「18歳以上、TBI受傷既往歴ありで、ベースライン期間内(前2年、後1年)パーキンソン病や痴ほう症の症状が見られなかった」TBI患者が182,634人、「18歳以上、TBI、パーキンソン病、痴ほう症の症状がベースライン期間内に見られなかった」非TBI患者が975,277人をごっそーと集めてきて、その中で年齢がマッチするペアを162,935組引っ張り出し、TBI患者162,935人(平均47.9±17.4歳)、非TBI患者162,935人(平均47.9±17.4歳)をそれぞれ最終的に「被験者」とした(↓)ようです。で、平均4.6年ほど追いかけて、パーキンソン病を発症したかどうかを調べましたよ、という。
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んで。一応定義としてmTBIとModerate-severe TBIが区別されています。これはICD-9に則り、
1) mTBI(軽度TBI)は0-30分以内の意識消失、0-24時間以内の意識レベル低下、もしくは0-24時間以内の外傷性健忘症のいずれかを伴うTBI
2) moderate-severe TBI(中・重度TBI)は30分越の意識消失、24時間越の意識レベル低下、もしくは24時間越の外傷性健忘症のいずれかを伴うTBI
…ということなんだそうです。やっぱり、つくづくmTBI=Concussionじゃありませんよね…?

…で。結果です。まず単純に両グループの比較なんですが、一目瞭然なのでこちらのテーブルを。
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TBI患者は非TBI患者に比べて、1) 男性が多い (p<0.001); 2) 白人やヒスパニック系人種が多い (p<0.001); 3) 糖尿病や高血圧、心臓病などの併存疾患を持っている可能性が高い (p<0.001); 4) 不安障害やPTSD、アルコール依存症、喫煙などの精神疾患の併存疾患を持っている可能性が高い (p<0.001); 5) より若年で死亡しやすい (70.7±15.0歳 vs 72.1±15.1歳, p<0.001)…という特徴が上がっています。うぬぅ…死亡率が高いというのはなかなか。どうやらTBIそのものを受傷するのにも性別や人種的特徴があるようですね。そのグループにリスクテイカーが多いのか?戦線で危険な位置に配属されやすいのか?それとも遺伝的にこういう人たちがTBIを起こしやすい?因果関係はわかりませんけども。
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…で、こちらが4.6年間のフォローアップ期間内にパーキンソン病を発症した患者の両グループの比較データです。まずは、実験期間内にパーキンソン病を発症した患者の1462人中949人(64.9%)がTBI患者だった、という数字を踏まえてこれを見てみると…TBI患者のほうが、1) より若年でパーキンソン病を発症している (69.79±12.30歳vs 71.78±12.14歳、p=0.003)…しかし、個人的に2年の差を「臨床的に有意な差」と取るかどうかはまた議論が分かれそうなところかなと思いますが…; 2) 黒人やヒスパニック系人種が多い (p=0.005); 3) 糖尿病や高血圧、心臓病などの併存疾患を持っている可能性が高い (p≦0.029); 4) 不安障害やPTSD、アルコール依存症、喫煙などの精神疾患の併存疾患を持っている可能性が高い (p≦0.046)…ということが言えます。うーん?パーキンソン病の有無、そこまで関係ありますかね?っていうか、そもそもの被験者の平均年齢が48歳くらいで、4.6年間の動向を追いかけて、平均パーキンソン病発症年齢が70歳くらいって、計算があまりに合わないというか、元々年齢の高った患者さんに引っ張られてこの結果になったのかな、っていう…。例えば50歳以下の比較的若い退役軍人さんに絞って結果調べたら、どうなるんでしょう?

唯一特筆すべきは人種の差かなと思います。TBI患者は圧倒的に白人・ヒスパニック系が多かったのに、TBI+パーキンソン病の患者では黒人・ヒスパニック系が多い。白人はパーキンソン病を発症しにくく、逆に黒人はリスクが高い?ということなのかな??

TBI患者は非TBI患者と比較して、パーキンソン病を発症するリスクが高く(0.58% vs 0.31%; HR = 1,71, 95%CI 1.53-1.92)、このリスク上昇はmTBI患者に限定しても同様であった(0.47% vs 0.31%; HR 1.56, 95%CI 1.35-1.80)というのがこの研究の最も重要な発見ですかね。うーむ…。

そんなわけで元のCNNの記事に戻るんですけど…。タイトルはともかく、記事そのものは良心的ですね。mTBIがこの論文でどう定義されたかについても言及していますし、誇張表現は少ない。でもやっぱり、「一回の脳震盪でパーキンソン病発症のリスクが…」と断言してしまうのは少しストレッチが過ぎますかね。一回の脳震盪でどれほどリスクが上昇するかについてはこの研究からは何も結論は導き出せないと思います。一回でも意識傷害・健忘症のいずれかを伴う軽度のTBIを受傷した場合、その後4.6年以内にパーキンソン病を発症するリスクが56% (95%CI 35~80%)上昇する、ということは、それなりに統計学の決定性を持って言えるかなとは思いますけどね。脳振盪の大半は意識障害、健忘症を伴わないわけですから、今回の論文の結果がまるまる当てはまるわけじゃないんです。

でもどちらにしても、って言ってしまうと申し訳ないんですけど、あくまで対象となった被験者は「平均47.88歳の退役軍人さん」なんですよね。軍人さんは肉体的にも精神的にも一般の人と経験しているものが違いすぎる(私の限られた経験では、もれなく皆さんPTSD発症、体中の痛みや精神疾患でものすごく強い薬を日常的に飲んでいたりしています…)、という印象なので、私としてはこれをもう少し若い世代のNFL選手とか、NBA選手とか、大学スポーツ選手とか、そういうもっと我々にとって身近な対象で是非行ってほしいなぁと思います。


1. Gardner RC, Byers AL, Barnes DE, Li Y, Boscardin J, Yaffe K. Mild TBI and risk of Parkinson disease: a chronic effects of neurotrauma consortium study. Neurology. 2018. pii: 10.1212/WNL.0000000000005522. doi: 10.1212/WNL.0000000000005522.
2. McCrory P, Meeuwisse W, Dvořák J, et al. Consensus statement on concussion in sport-the 5th international conference on concussion in sport held in Berlin, October 2016. Br J Sports Med. 2017;51(11):838-847. doi: 10.1136/bjsports-2017-097699.

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  by supersy | 2018-04-25 22:20 | Athletic Training | Comments(0)

「お尻をきゅっと締めるように」というキューイングでは大殿筋の相対的活性は促せない?: 抑制介入の重要性

今日はちゃきっと論文ひとつ1 だけ読んでまとめまーす。
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股関節進展筋として一番に働くのは大殿筋であるべきだ、とは多くのDisciplineで唱えられている説であり、大殿筋が主な原動力となってもたらされる股関節進展は"Gluteus Maximus-Dominant Hip Extension"と表現されます。1 何らかの理由で大殿筋の出力が低下した場合、補助筋であるはずのハムストリングが股関節伸展により大きな貢献をしなければいけなくなり(故にこちらは"Hamstring-Dominant Hip Extension"と呼ばれますが)、結果ハムストリングにかかる慢性的な負荷が増え、肉離れに繋がったり、(ハムストリングは大殿筋よりも長いLeverageがあり、股関節窩に対しての大腿骨骨頭の位置を繊細にコントロールする能力に欠けるため)Anterior femoroacetabulat impingementに繋がったりするのではと言われたりもするわけです。2-4
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んで。Hamstring-Dominantになってしまった人をGluteus Maximus-Dominantに戻す、つまり、Muscle firing patternを修整する目的での治療介入のために、例えば大殿筋に重きを置くようなSupine Bridging Exercise(↑)なんかを処方するセラピストも多いかも知れませんね。このエクササイズをする際、McGill氏は1) "Squeeze your glutes (お尻をきゅっと絞めて)"というVerbal Cueで大殿筋の出力上昇を促し、; 2) 患者の下腿を自分の身体でブロックするように膝立ちしながら"Extend your knees (膝を伸ばすイメージで)"というVerbal Cueで大腿四頭筋の活性を促し(=つまりはハムストリングを相互抑制の筋神経反射メカニズムを利用して活性低下させ); 3) 両手を患者の膝の外側に添えながら、"Push into my hands (私の手に向かって押すように膝を開いて)"というVerbal + Tactile Cueで股関節の外旋・外転を促すことで更なる大殿筋の活性を測る…という指導法(↓)を推奨しています。5 氏曰く、これをすればハムストリングの活性が下がる一方で大殿筋の活性が最大限に促され、Hamstring-Dominantの人もGlueus Maximus-Dominantになれちゃうぜ!というわけなんです。なるほど、理には適っているように感じます。クライアントさん、患者さん相手にこういう指導をされてきた方も多いのでは?
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で。実際にこの説を検証してみたぜってのが今回の研究。1
30人の健康な女性被験者を対象に、EMGを右大殿筋と右ハムストリングに付けて、Supine Bridging Exerciseを行ってその筋活性を計測。ちなみに30人という数字は80%パワー分析のもとに導き出された数字だそうで、ここまではふむふむ、なかなかいい感じですかね。何故右側だけの計測なのかは不明ですけれども。まずは計測初日にキューイング無しでエクササイズをやってもらい、Baselineとなる活性値を記録。それから普通に生活してもらって一週間後に再集合、ランダムにキューイング無し(Group 1: n = 15, 平均24.7±4.2歳)と有り(Group 2: n = 15, 平均23.3±1.7歳)のグループにわけ、それぞれ再計測したそうです。再計測時に「測定器系の問題があり、正確なデータ収集が行えなかったため」各グループから1名脱落者が出ています(=最終統計に含まれたのはn = 14のみ、合計28人、つまり、統計学的に充分なパワーがあったかが怪しくなっている)。測定に問題があったとすると、無事にデータ収集ができた28人分のデータもどれだけ信憑性、信頼性があるのか?と天邪鬼な私は少し疑問に思ってしまいますね。
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ともあれ。結果です。
くどいですが、初日は両グループともキューイングなし、一週間後はキューイングの有無に差があるわけですよね。初日は両筋肉活性ともグループ間の差が見られなかったの(大殿筋, p = 0.835; ハムストリング, p = 0.575)に対して、一週間後の再計測時には例の「お尻をきゅっと」「膝を伸ばして」「手を押して」というキューイングがあり(Group 2)だと、大殿筋はもちろん(p = 0.001; Cohen's d = 1.5, 95% CI 0.9-2.2)、ハムストリングの活性も(p = 0.004; Cohen's d = 0.8, 95% CI 0.1-1.5)キューイング無しのGroup 1と比べて跳ね上がっているのがよくわかります。

つまり、この研究の結論はこうです。McGill氏の推奨する5 前述のVerbal + Tactile Cueingは大殿筋の出力は確かに上げるが、ハムストリングの抑制が起こるどころか、ハムストリングの活性もそれに伴うように上昇する。つまり、Hamstring-Dominantの患者をGluteus Maximus-Dominantに変えるには不十分である、ということが言えるのです。

私の好きな盟友・James Anderson氏の言葉に、「Anyone can activate a muscle, but it takes a specialist to inhibit a muscle (筋活性は誰でもできる。しかし、筋抑制はスペシャリストでなければできない)」というものがあります。今回の研究結果がまさにこれなんですよね。筋活性のバランス、つまりMuscle firing patternが崩れたときに、出力が低下している筋肉(今回の場合は大殿筋)になんとかスイッチをいれようとぐいぐいこういったキューイングで努力するのは、本来抑制したい筋肉(今回はハムストリング)にもぐいぐいスイッチを入れる結果になってしまい、ある意味逆効果なんじゃないかと。

私は多くの場合、介入の第一手は活性ではなく抑制だと思っています。つまり、今回のようにHamstring-Dominantの患者がいる場合、まず手を付けるべきは大殿筋の活性ではなく、ハムストリングの抑制であるべきだと思うのです。抑制的筋神経介入の選択肢は複数存在するでしょうね、例えばMETとか、PRTとか、PRRTとか、PRIとか。これらのテクニックを一回挟んでからSupine Bridgeを行えば、筋活性のバランスもだいぶ変わってくるのではないでしょうか?これはあくまで個人の考えですけれども。

ちなみに今回のこの論文、出会えたのはうちの学生のお陰です。3年生の授業で「リハビリ系のRCT論文を見つけ、CATせよ!」という比較的自由度の高い課題を出しているのですが、この宿題を通じて、1) 自分の興味のある論文を見つける能力があるか; 2) その論文を読み込み、批判的に解釈・吟味する能力があるか; に加えて、3) うっかりめっちゃ面白い論文を見つけてくれて、私をいかに興奮させてくれるか、というところを評価しています(笑)。そう、ご察しの通り、学生がこの論文を課題に取り上げてくれたんですよ。ありがたいありがたい。教えることを学ぶことは表裏一体、いや、本質的には同じことなのかもしれませんね。


1. Hollman JH, Berling TA, Crum EO, Miller KM, Simmons BT, Youdas JW. Do verbal and tactile cueing selectively alter gluteus maximus and hamstring recruitment during a supine bridging exercise in active females? a randomized controlled trial. J Sport Rehabil. 2018;27(2):138-143. doi: 10.1123/jsr.2016-0130.
2. Sahrmann SA. Diagnosis and Treatment of Movement Impairment Syndromes. St. Louis, MO: Mosby, Inc.;2002.
3. Lewis CL, Sahrmann SA, Moran DW. Anterior hip joint force increases with hip extension, decreased gluteal force, or decreased iliopsoas force. J Biomech. 2007;40(16):3725–3731. doi:10.1016/j.jbiomech.2007.06.024.
4. Lewis CL, Sahrmann SA. Muscle activation and movement patterns during prone hip extension exercise in women. J Athl Train. 2009;44(3):238–248. doi:10.4085/1062-6050-44.3.238.
5. McGill S. Ultimate Back Fitness and Performance. 5th ed. Waterloo, Canada: Backfitpro Inc.; 2014.

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  by supersy | 2018-04-23 22:30 | Athletic Training | Comments(0)

スポーツは身体に良くない?NBA選手の「健康」な膝のMRIを撮ってみると…

異常と普通の境目: 画像診断の進歩による弊害、「Overdiagnosis」について考える

以前「SLAP損傷は健康な人にも確認されている。画像診断の発達によって過剰診断という現象が起きているんじゃないか」という話を書いたことがあるのですが、今回はその膝バージョンです。
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特に痛みを抱えていないプロバスケットボール選手の膝のMRIを撮ったら、どんな結果が出ると思います?全ての組織が教科書通りに「正常」、「健康」で、病理的な変化が一切見られない?それとも長期的に蓄積されたダメージが見え始めている?この疑問の答えを提供してくれているのがこの研究たちです。1,2
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一つ目の研究(2005年発表)1 は膝に痛みが全くない20人の健康なNBA選手(= 40 knees; 平均26.15歳、幅21~36歳)のMRIを撮って、膝の状態を見てみましたよ、というもの。ちなみにこの研究の「健康」の定義は、1) pain-free full ROM (可動域制限なし); 2) no effusion(腫脹なし); 3) no ligamentous laxity(靭帯の不安定症なし); 4) no joint line tenderness(関節裂隙圧痛なし)、だったそうで…それなりにしっかりした基準に見えますね。

で、結果がすごいっす。
19/40 (47.5%) 軟骨損傷…うち14/40(35%)が膝蓋軟骨面に、10/40(25%)が大腿骨滑車溝関節面に、4/40(10%)が大腿骨内側顆、1/40(2.5%)が大腿骨外側顆、そして2/40(5%)が外側脛骨高原軟骨面にそれぞれ損傷が認められたそう。
8/40 (20.0%) 半月板損傷…内側が7/40(17.5%)で外側が1/40(2.5%)だったとのこと。箇所はその75%がPosterior hornだったそうな。

二つ目の研究(2008年発表)2 では同じ要領、同じ条件でNBA選手14人(平均26.3歳、幅20~36歳)、28の膝を検証。なんと、28中の25(89.3%)の膝に異常が見られ、両膝とも健康だった選手は一人としていなかったというのだからびっくりです。軟骨損傷は14/28(50%)半月板損傷は可能性が高い画像も含めれば3/28(10.7%)という、ひとつ前の論文にそう引けを取らない数字です。個人的には膝蓋腱障害(11/28, 39.3%)、嚢胞性病変(4/28, 14.3%)も多い気がしますし、一人いたというOsteochonrdal fractureもびっくりですね(↓)。
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…というわけで、ここまで見た限りでは「NBA選手の膝って痛みの有無にかかわらずボロボロじゃん!」と言いたくなるような結果です。では、それより少し若い、大学バスケットボール選手ではどうなんでしょう?シーズン前と終わった直後の膝の状態を比較した興味深い検証(2016年発表)の結果がこちら(↓)3 です。
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対象となったのは12人の大学女子バスケ、12人の大学男子バスケ選手合計24人(年齢幅18-22歳)。この研究では、片方の膝に痛みや腫れなどある場合には「症状の全くない」側の膝を、両側ともに健康である場合には利き足の側の膝の画像を撮ったそうな(= 24 knees)。なぜに利き足だったんだろ?理由は書いてありませんけども。シーズン中に選手3人がドロップアウトしたようなので(理由不明)、シーズン終了直後の計測に参加したのは21人(= 21 knees)のみだったそうです。

で、結果なんですけど、かなり興味深いです。

膝蓋前滑液包炎  シーズン前15/24(62.4%) vs シーズン終了直後16/21(76.2%)
脂肪体浮腫    シーズン前18/24(75.0%) vs シーズン終了直後17/21(81.0%)
膝蓋腱障害    シーズン前20/24(83.3%) vs シーズン終了直後19/21(90.5%)
大腿腱障害    シーズン前18/24(75.0%) vs シーズン終了直後19/21(90.5%)
骨髄浮腫     シーズン前18/24(75.0%) vs シーズン終了直後18/21(85.7%)
関節面軟骨損傷  シーズン前17/24(70.8%) vs シーズン終了直後17/21(81.0%)
半月板損傷    シーズン前12/24(50.0%) vs シーズン終了直後13/21(61.9%)

総じてそれぞれの怪我がシーズン前と終了直後では有病率が少し上がっているのが確認できるんですけど、それにしたってシーズン前の有病率がそもそも高すぎません?シーズン前に検査をした24人のうち24人の全員の膝にどこかしら異常が認められたそうですよ。前の研究との数字の差がかなりあって、こっちの統計の方がかなり多い印象なのでなんでだろう?と勝手に考察してみると…考え得るのが「最近の大学の選手のほうが10年ほど前のNBA選手よりもより身体に負担のかかる練習の仕方をしている?若年層の膝への負担が増えている?それとも単純に、この研究で使われたより最新の3.0-T MRIの性能が以前の研究で使われた0.3- or 1.5-T MRIよりも性能が良く、細かい状態の変化までしっかりと可視化できる?」ってところなんですけど、はて、正解はどれなんでしょうね?もしかしたら複数当てはまっているのかも…。

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最後におまけというかなんというか、バレーボール選手の研究4 に関しても少しだけ書いておきます。こちらはさっきのPappas氏らの研究をワンシーズンでなく「2年間」に引き伸ばしてその膝の状態の変化を追った、みたいな感じの造りで、18人のadolescents(男8人、女10人、平均年齢16.0±0.8歳)と18人の成人(男9人、女9人、平均年齢46.8±5.1歳)国代表レベルのバレーボール選手を対象にMRIでその膝の状態を見る検証を行っています。

2年間という時間で膝の状態に統計的に有意な変化は認められず、性別差も特に確認できなかったそう…なんですが、adolescentsとadultとでははっきりと異なる点数がいくつかありました。関節軟骨面損傷(0% vs 56%, p<0.001)、骨棘形成(39% vs 94%, p=0.001)、外側半月板損傷(0% vs 33%, p=0.019)が成人のほうが圧倒的に有病率が高く、骨棘形成(p<0.001)と半月板損傷(p=0.021, p=0.015)の状態がより悪いのも成人であったとのことなんです(↓)。
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バスケットボールのようなコンタクトスポーツでなくても、ジャンプと着地を要するスポーツであるバレーボールでもこうしてはっきりと「高いレベルで競技をしている選手の膝は、例え本人に自覚症状がなくても『損傷』が進んでいる」という結果が出たことは非常に興味深いと思います。競技を長くしていればいるほど、加齢が進めば進むほど、これらの隠れた損傷は悪化しているというのも間違いなさそうです。健康と怪我って表裏一体だなぁ、と改めて思ったのと、前回も書いたかと思うんですけど、画像診断の技術が日々進歩しているからといって、目に見えるようになったもののひとつひとつにいちいち反応しなくてもいいんじゃないかと、いや、どれを見てどれを無視するか判断しなければいけない手間が増えたこと考えれば、正しい診断を下すことは以前よりも難しくなってきているのかも知れませんね。画像診断では「正常から逸脱した状態」は容易に確認できても、その「clinical relevance(主訴との臨床的関連性) 」までは推し測れませんから。難しい時代になったものです。見えるようになってしまったものを見なかったことにするのは、クチでいうよりもはるかに困難で、エネルギーを消費することだと思うんですよ。

1. Kaplan LD, Schurhoff MR, Selesnick H, Thorpe M, Uribe JW. Magnetic resonance imaging of the knee in asymptomatic professional basketball players. Arthroscopy. 2005;21(5):557-561.
2. Walczak BE, McCulloch PC, Kang RW, Zelazny A, Tedeschi F, Cole BJ. Abnormal findings on knee magnetic resonance imaging in asymptomatic NBA players. J Knee Surg. 2008;21(1):27-33.
3. Pappas GP, Vogelsong MA, Staroswiecki E, Gold GE, Safran MR. Magnetic resonance imaging of asymptomatic knees in collegiate basketball players: the effect of one season of play. Clin J Sport Med. 2016;26(6):483-489.
4. Boeth H, MacMahon A, Eckstein F, Diederichs G, Schlausch A, Wirth W, Duda GN. MRI findings of knee abnormalities in adolescent and adult volleyball players. J Exp Orthop. 2017;4(1):6. doi: 10.1186/s40634-017-0080-x.

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  by supersy | 2018-04-13 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

「肩の安定性」に必要不可欠な要素: 関節内陰圧

さて、前々回も少し書いたんですけど、肩についての文献を色々読んでいます。その中で、「肩(肩甲上腕関節)という関節は骨構造としてはそもそもが不安定な造りであって、様々な組織がその静的・動的安定性に補足的役割を果たしている」という点に関して、文献を複数見比べていたら、今までに聞いたことのない『要素』がふたつ出てきました。びっくり!なんじゃこら!というわけで、今日はそのうちのひとつについてまとめておきます。

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●陰圧
その正体とは、ずばり「関節内陰圧(negative intraarticular pressure)」なんです。関節包が関節の骨構造をずっぽり包み込み文字通りPlunger(トイレのすっぽん)のような役割を果たすことで、例えば腕が引っ張られたりして肩関節に牽引のチカラがかかった場合、関節包内の閉じられた空間での気圧が下がりnegative pressure(陰圧)が生まれて自然と上腕骨頭を関節窩に向かって引っ張り返してくれるというわけ。ほあー、言われてみればなるほどなんだけど、そんな風に考えたことなかった。よくできてる!
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で、実際に「関節内陰圧」はどの程度「肩関節の安定性」を生み出す要因になっているのか?上の論文(↑)1 では10体の肩複合体の献体(平均73歳、幅31-84歳、右5体、左5体、男性:女性=5:5)を使ってIntact Joint Capsule (無傷の関節包=関節内陰圧が保たれている状態)とVented Joint Capsule (関節包に穴を開け、空気の出入りが可能な状態=関節内陰圧が失われている状態)で前後、上下にどれだけ上腕骨・肩甲骨の間に動き(translation)が生まれるのか、肩の安定性の比較を行っています。冷凍された献体が生体と同じ反応を示すのかとか、献体の年齢はやっぱり総じて高いですねとか、突っ込むところはもちろん色々あるんですけど、お、面白い…!

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ちなみに関節包はジョキジョキ切ったりザックリ切ったりしたわけではなく、本当にぷすっと(直径4.5mmの)小さな穴を開けただけのようで、つまるところもしこれが原因で不安定性が生まれたとしてもそれは関節包が「損傷」したからではなく、あくまで「陰圧が失われた」から、と言える(言いたい)程度の穴だったようです。まぁ仮に不安定性がこの実験で確認できたとしても、それがどれだけ実際「陰圧が失われたから」で、どれほど「関節包そのものの損傷」の影響を受ける可能性が残っているのかはこの実験からは分かりませんけれども。

で。結果なんですけどグラフにして出したほうが分かりやすいかと思うので、論文中のTable I、II、IIIを元に作り直してみました。こちらー(↓)。
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*p < 0.05 **p < 0.005

関節包が無傷("Intact")な場合の関節が前⇔後方のtranslation(左)、上⇔下のtranslation(右)がどのくらい生まれたのかをグレーで、関節に穴が開いた状態("Vented")をブルーで示しています。グラフが長いってことは、それだけそれぞれの方向へ動いたってことで…ブルーのグラフのほうが総じてグレーよりも長いのは一目瞭然かと思います。外転角度が最もclosed-packに近い90°では上下のtranslationの差は無傷と穴あきで0.48mmしか違わなかった(唯一統計的に有意な差ではなかった)のですが、他の差は全て統計的に有意で、中でも外転30°時の前後のtranslationは最も大きく、12.58mm(1.5倍)もあったそうな。1cm以上も過度な動きが生まれるとはびっくりですね。これはかなりの数字じゃないかと思います。

…というわけで、結論としては、「関節包にぷすっと穴をあけると関節から陰圧が失われ、関節の全方向への安定性が失われる」というわけなんです。これを実際の障害に反映させて考えると、(脱臼などに伴う)関節包の損傷が原因で生まれる「肩関節の不安定症」は、関節包そのものの損傷に起因する部分はもちろんあるかもしれないが、副次的にそれによって失われる陰圧が原因ということも十分に考えられるのでは、ということになりますね。おもしろー。ちょっと肩関節の見方が変わりそう。


1. Alexander S, Southgate DF, Bull AM, Wallace AL. The role of negative intraarticular pressure and the long head of biceps tendon on passive stability of the glenohumeral joint. J Shoulder Elbow Surg. 2013;22(1):94-101. doi: 10.1016/j.jse.2012.01.007.

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  by supersy | 2018-04-12 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

NATAの最新Position Statement、SLAP損傷の評価、マネジメント、RTPについて読み解く。

あっっっかーーーーん。
これについて書こう!と思っていたトピックがあったのに、こんな論文が出てしまったのだから仕方ありません。NATAの最新ポジション・ステイトメントがまさに今日、発表になりましたのでこれをまとめます。1 お題は「Evaluation, Management, and Outcomes of RTP Criteria for Overhead Athletes with Superior Labral Anterior-Posterior Injuries」、つまりSLAP損傷を負ったオーバーヘッド選手の評価、マネジメントとRTPの指標です。
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相変わらず美しいまとめです。138もの文献を引用しながら、簡潔に26項目の推薦事項にそれらのエビデンスをまとめています。いつも通り、私が個人的に興味深い、面白い、新しい、重要だと思うものを抜き取っていきます。推奨度の強い順に、A (= what we must do)、B (what we should do)、C (what we can do)もつけておきまーす。

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●診断
1. 投球動作を繰り返す選手で、水平内転制限(15°より大きい関節可動域の欠如)や内旋制限(非投球側の肩と比較して、外旋の増加を伴わない13-15°の内旋欠如がある)などによって確認できる後方関節包の拘縮がある場合は「SLAP損傷のリスクが高まっている」と考えられる(推奨度・B)。

2. 受傷メカニズムとしては肩甲上腕関節の外転と外旋を合わせたオーバーヘッド動作の繰り返しが一般的(推奨度・B)で、痛みは明確な境界なく("vague")、関節上方の「深い」ところに位置し、前方に向かう場合も後方に広がっている場合もあり得る(推奨度・C、イメージ図↑)。Type I SLAP損傷の場合は大概は痛みは伴わない(推奨度・B)。肩のpopping, clicking, catchingがあるだけ(推奨度・A)、もしくは上腕骨結節間溝や上腕二頭筋長頭腱に沿った圧痛があるというだけ(推奨度・B)ではSLAP損傷の診断は下すべきではない。

3 Selective Tissue Tests: Active CompressionもしくはO'Brien TestはSLAP損傷診断には有効ではない(推奨度・A)。Type II-IV SLAP損傷の確定に有効なのはメタ分析論文によってAnterior Slide Test, Yergason TestとCompression Rotation Test(↓下動画)と報告されており、他に複数の研究からPain Provocation Test(↓下動画), Anterior Apprehension Test, Biceps Load II Testもその解釈に気を付ける必要はあるもの、有効なテストとして名前が挙げられている(推奨度・B)。除外に有効なテストはメタ分析論文では確認されておらず(推奨度・A)、複数の研究によって推奨されているのは今のところProvocation Testのみである(推奨度・B)。




3. Cluster Testとしては「Anterior Slide TestとPopping, clicking, catchingの既往歴」、「Compression Rotation, Apprehension, Yergason Tests」、もしくは「Compression Rotation, Apprehension, Biceps Load II Tests」の組み合わせが確定に推奨されているが、これらの推奨は単独研究に基づいたものなので注意が必要である。除外に有効な組み合わせは現時点では存在しない(推奨度・C)。

4. 鑑別診断としてはRotator Cuffの部分・完全断裂、肩鎖関節損傷、上腕骨頭骨折、バンカート損傷などが挙げられる(推奨度・B)。保存療法の予後が芳しくない場合は画像診断を撮ってこれらの鑑別診断の可能性を探る必要があるが、Type I SLAP損傷は健康な肩にもよく見られる「一般的な変化」の一部であり、MRI陽性=SLAP損傷が諸悪の根源とは必ずしも断定できないことから、こういった画像診断の結果は慎重に解釈されるべきである(推奨度・B)。

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**本文のTable 1と2を元に私が必要と思う情報を抜き出してみました(↑)。うーん、Meta-analysisといってもそんなに決定的じゃないんだな(+LRが低い)という印象。恥ずかしながらCompression Rotation TestとPain Provocation Testというテストを知らなかったのでこれを機に調べました。そして動画をあげておきました。めっちゃ簡単!これならすぐに使えそう。でもPain Provocation Testが除外に有効かも、というのはどうかなぁ。私は個人的に同意しかねるかも。それから、個々の確定力はともかく、Clusterの使い道はイマイチですね。そりゃーそこそこ確定力のあるテストを合わせれば特異度は上がるでしょう、でも感度を伴わないなら…という感じです。とにかくSLAPは除外が難しいんですね。**

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**ついでにOh et el5の論文が気になったんでこっちも全文読んでみました。そうすると、あれ?Position Statementでは言及されていない他のコンビネーションも検証されているじゃありませんか。しかも数字は遜色ない。なんでこれはPosition Statementで全く触れられていないんだ?結局のところ、Yergason, Biceps Load II, Speed, Compression Rotation, Anterior Apprehension, O'Brienのうちの多くの組み合わせで3つが陽性なら確定できそう(Sp ≧ 88%)に見えるんですけど…。で、SpeedとCompression RotationとAnterior Apprehensionが全て陰性なら最も除外にいい…かな?どちらにしてもone way or anotherの二択なので、実用性は限られていると思うけど。**


●マネジメント
5. SLAP損傷の診断がついた患者はまず痛みの軽減、肩機能の向上と競技復帰を目標とした3-6か月の保存療法を試すべきである(推奨度・B)。保存療法はNSAID's処方、Corticosteroid注射などを含み、リハビリは内旋可動域、総合内外旋可動域(Total Arc)と水平内転可動域の回復、肩甲骨周辺と肩甲上腕関節周辺の筋力、持久力と筋神経制御に重点を置くべきである(推奨度・C)。

6. 3-6か月の保存療法で改善が見られなかった場合、1) Type II損傷で不安定性があったりオーバーヘッドの運動で慢性的痛みがある場合Bicepsのアンカー部分でのrepairを(推奨度・B)、2) Type IやIIIの場合は壊死組織除去術(debridement)を、上腕二頭筋腱に病変が見られたり、アンカー部分が不安定の場合はtenodesisやtenotomyをすることが適切であるかもしれないが、この手術は基本、18歳未満の野球選手には推奨されないものである(推奨度・C)。関節包後方の拘縮が激しければ肩甲上腕靱帯後方及び関節包後方をリリースするという手段もある(推奨度・C)。術後によく見られるcomplicationとして外旋可動域の制限が挙げらるので、repairの際には外旋制限をしないよう、気を付けてアンカー設置の場所を決めるべきである(推奨度・B)。
これは正直AT向けのNATAのPosition Statementに入れなきゃいけない内容かな?とは思うのですが、いい情報には変わりないので一応。

**詳しい本文の解説にはSLAP患者の半分(49%)は手術を必要としないと書いてありますね。GH joint mobとsleeper/cross-body adductionによるストレッチ、rotator cuffと肩甲骨周りの安定筋を中心としたリハビリが推奨される…らしいです。これは個人的には部分的に、しかし大いに反対です。欠如した内旋、拘縮したと思われる関節包後方を、原因も確認せずに引っ張り伸ばすのは、場合によっては新たな病理を生み出すと私は考えます。**

●RTP
7. SLAP損傷を受傷した患者は、保存療法をしようが手術をしようが、平均2-3年後に約85%の機能が戻ると言われ、平均75%の患者が何らかのスポーツに参加できるまで回復する(推奨度・C)。手術をしない場合の競技復帰率は40~95%だが、これは2つの研究に基づいた数字なので確立されたものではない(推奨度・C)。手術をした場合の2-3年後の満足度は80%程度だが、オーバーヘッド選手の満足度は67%が「素晴らしい(excellent)」と答える程度と総じて低めである(推奨度・C)。競技復帰もオーバーヘッド選手の競技復帰率は非オーバーヘッド選手のそれより低く、アスリート全般の55%が「完全復帰」、31%が「制限付き、もしくは少し競技レベルを落としての復帰」できたのに対して、オーバーヘッド選手の「完全復帰」は45%、「制限付き、レベルを落としての復帰」は34%に留まっており、競技復帰できなかった患者は24%いる(推奨度・C)。

8. 競技完全復帰には可動域が90%回復しているのが望ましいが、受傷後2年ほど経っても15°ほどの可動域欠如があるのは決して珍しくはない(推奨度・C)。筋力は最低でも健側と比較して70%回復するまでスポーツに特化したアクティビティを再開するのは待つべきである(推奨度・C)。競技復帰を目指す患者は、従うべき時間軸があり、おもに術後4か月後から徐々にスポーツに特化したアクティビティを再開し、その後2-3か月かけてフル・アクティビティにプログレスしていくということを理解しておく必要がある(推奨度・C)。

**個人的には診断の部分はとても勉強になりました!もう上肢の評価の授業は教える機会がないけど、教えるんだったらあれも話そう、これも入れたいという新しい内容がいっぱい!エビデンスも推奨度Aのものが結構ありますね。マネジメントは全体的にエビデンスの質が下がり、推奨度はBかCのみ。手術をしないでまず3-6か月保存療法をというのがNATAによって推奨されるというのは結構今後のpracticeを変える提言なんじゃないですかね。期待が持てます。RTPに関してはエビデンスの質が思った以上に低くてびっくりしました。Scapular Dyskinesisやそれに関するリハビリなどはほとんど推奨事項の部分で触れられていないのですが、本文の部分にはぽつぽつと少しだけ。つい昨日まとめたKibler氏の語調との違いが気になりますね…。っていうか、Kibler氏が著者グループにそもそも入っていないこと、Kibler氏がfirst authorの文献が2つしか引用されていないこと(昨日紹介したConsensus Statementもスルー)にはこう…少し違和感というか…派閥?を感じてしまうのは私だけですかね?考えすぎかなー?**

1. Michener LA, Abrams JS, Huxel Bliven KC, et al. National athletic trainers' association position statement: evaluation, management, and outcomes of and return-to-play criteria for overhead athletes with superior labral anterior-posterior injuries. J Athl Train. 2018;53(3):209-229. doi: 10.4085/1062-6050-59-16.
2. Hegedus EJ, Goode AP, Cook CE, et al. Which physical examination tests provide clinicians with the most value when examining the shoulder? Update of a systematic review with meta-analysis of individual tests. Br J Sports Med. 2012;46(14):964–978.
3. Mimori K, Muneta T, Nakagawa T, Shinomiya K. A new pain provocation test for superior labral tears of the shoulder. Am J Sports Med. 1999;27(2):137–142.
4. Parentis MA, Glousman RE, Mohr KS, Yocum LA. An evaluation of the provocative tests for superior labral anterior posterior lesions. Am J Sports Med. 2006;34(2):265–268.
5. Oh JH, Kim JY, Kim WS, Gong HS, Lee JH. The evaluation of various physical examinations for the diagnosis of type II superior labrum anterior and posterior lesion. Am J Sports Med. 2008;36(2):353–359.
6. Nakagawa S, Yoneda M, Hayashida K, Obata M, Fukushima S, Miyazaki Y. Forced shoulder abduction and elbow flexion test: a new simple clinical test to detect superior labral injury in the throwing shoulder. Arthroscopy. 2005;21(11):1290–1295.
7. Guanche CA, Jones DC. Clinical testing for tears of the glenoid labrum. Arthroscopy. 2003;19(5):517–523.
8. Fowler EM, Horsley IG, Rolf CG. Clinical and arthroscopic findings in recreationally active patients. Sports Med Arthrosc Rehabil Ther Technol. 2010;2:2.
9. Cook C, Beaty S, Kissenberth MJ, Siffri P, Pill SG, Hawkins RJ. Diagnostic accuracy of five orthopedic clinical tests for diagnosis of superior labrum anterior posterior (SLAP) lesions. J Shoulder Elbow Surg. 2012;21(1):13–22.
10. Kim SH, Ha KI, Ahn JH, Kim SH, Choi HJ. Biceps load test II: a clinical test for SLAP lesions of the shoulder. Arthroscopy. 2001;17(2):160–164.
11. Michener LA, Doukas WC, Murphy KP, Walsworth MK. Diagnostic accuracy of history and physical examination of superior labrum anterior-posterior lesions. J Athl Train. 2011;46(4):343–348.

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  by supersy | 2018-04-09 20:30 | Athletic Training | Comments(0)

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