2018年 05月 30日 ( 1 )

 

Exhausted? Talk Yourself Out of It: 病は気から、疲労も気から?「もうだめだ」のその先へ。

私事なんですが、いよいよテキサスのアパートを引き払ってネブラスカへやってきました。16年間続いたアメリカ生活もいよいよ最後の4日間です。

さて。少し古い(2014年発表)1記事なんですが、最近SNSで見かける機会があって興味を持ったので読んでみました。
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この論文、冒頭がめっちゃ面白いです。Exhaustion(疲労限界、枯渇)という状態が「有酸素運動を続ける身体・生理学的能力が限界にきて、筋肉疲労が訪れた状態」である『生理学的現象』説と、いやいや、Exhaustionというものは「有酸素運動をもうやめよう」と思う運動者本人の意志によってこそ起こるものだ、という『Psychobiological(心理生物学的)モデル』に基づく説と、二種類存在するんだそうです。後者は、そのタスクを遂行するために必要な努力が自分が捧げられる努力量を上回ったとき、もしくはもう努力が最大の限界量に達していると本人が感じていて、タスクの続行が不可能であると判断したときに訪れるのがExhaustionであるという見解らしいです。な、なるほど…。今までは確かに前者のみの認識でしたが…これは頷いてしまう…。
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もし後者の定義も一理あるとしたら、競技者が「限界が近いかも」と感じ始めたときに心理学的な介入でもって「いやいやまだまだ」と思いこませることが可能である→疲労限界状態から脱することも可能なのかもしれません。そういった介入法のひとつである「Self-talk(セルフトーク、自己会話)」を使うことで、高強度のサイクリング運動中の1) 有酸素運動そのもののパフォーマンス(Time-to-Exhaustion Test、TTEテスト); 2) 自覚疲労度(Rated Perceived Exertion、RPE)と表情の変化(Facial Expression of Effort、顔をしかめるなど、辛いという感情表現に関わるもの)にどう変化が生まれるか検証した、というのが今回の実験内容になっています。

んで。

被験者になったのは健康で、(義務ではなく)趣味の一環として定期的に運動をしている("recreationally trained")24人(男15人、女9人、平均24.6±7.5歳)。各テスト法の解説等はここでは割愛しますが(興味のある方は該当論文を各自でご確認ください)、測定機器のカリブレーション法と頻度や、テスト中の試験者の立ち位置、サイクリング中の扇風機の配置ルールなどかなり細かい描写があり、丁寧にデザインされた研究であることが伺えます。つまるところ、流れはこういうことだったみたいです。

Visit #1: 全被験者のPPO、VO2maxのベースライン測定
  ↓
  最低でも72時間空けて
  ↓
Visit #2: 全被験者をTTEテスト(介入なし)、テスト終了後Randomizationをしてグループ分け。コントロール組(男7人、女5人)とSelf-talk組(男8人、女4人)のいずれかに。
  ↓
  最低でも2週間空けて
  ↓
Visit #3: 全被験者再TTEテスト。コントロール組はVisit #2と全く同じ手順で、Self-talk組は事前に各自で決めてあった「4つのSelf-talk Statements」をテスト中に実践。テスト後、Self-talkをする/しないの指示通りにしっかり従ったかを質問形式で確認する(これはあくまで自己申告なので100%真実とは限りませんが、とりあえず本人の努力という見えない部分を計測しようとした努力は認められます)。

この4つのSelf-talk Statementsを選ぶ手順も論文には詳しく書いてあるのですが、ここんとこも面白いです。要約すると、Visit #2のTTEテストが終わってから、Self-talk組に入った被験者は「Visit #2のTTEテスト中に(指示されなくとも自然と)自分で使っていたモチベーションを上げるための最大5つのSelf-talkのフレーズ」と、「過去の文献から抜粋した(有効であると報告されている)既存の12のフレーズ*」を見比べて、「序盤~中盤に使いたいフレーズ2つ(i.e. "feeling good")」と「終盤に使いたいフレーズ2つ(i.e. "push through this")」の合計4つに絞りこみ、Visit #3 TTEテストまでの2週間の間で、各自運動する機会があればこれら4つのフレーズを使う練習をしていたそうなんです。で、満を持してのVisit #3 TTEテストであったと。
*これ、どんなものたちなのか非常に興味があって引用されていた文献にまでさかのぼって調べてみたのですが、具体的にどんなものだったのかはわからずじまいでした。残念…。例には"drive forward"や"you're doing well"などが挙げられています

結果を要約します。

- ベースライン時点でPPO、VO2maxの値のグループ間の差はなし。つまり、実験開始時の両グループの被験者共に最大パワー出力、有酸素運動能力は似たり寄ったりであった、と。
- Visit #3で用いたSelf-talkの使用量は、コントロール組とSelf-talk組で明らかな差があった(p=0.001)。つまり、「介入」の有無が確かに存在したと言える。
- Exhaustionに達した際のRPE、Facial Expression of Effort、心拍数、血液中乳酸濃度はグループ間の差なし(=身体的能力に差が出たわけではない)。
- しかし、「疲れた、もう限界だ」と感じるまでの時間(Time to Exhaustion)には著しい差が存在した。予想通り、というかなんというか、コントロール組のTTEテストパフォーマンスはVisit #2 vs #3で大差がなかった(487±157秒 vs 475±169秒, p>0.05)ものの、Self-talk組はSelf-talkを使用した際に、より長い時間サイクリングを続けることができた(Visit #2: 637±210秒 vs Visit #3: 751±295秒, p<0.05)
- しかしpre-testのパフォーマンスにグループ間で大きな差があったのもまた事実なので、それをcovariateとしてANCOVAを使って分析しなおしてもみたが、やはりSelf-talkの効果はハッキリと認められた(p=0.046)。
- Self-talkをすると毎分ペダル回転数は上がり、労力が上がった際のRPEもより低いまま保たれた。タイトル通り、自らを「いやいや、疲れてなんかいないぜ」と説得する(= talk yourself out of exhaustion)ことが可能、ということが分かったわけである。
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この結果はモロに冒頭の「疲労困憊とは運動者本人の意志によって起こるものだ」という『Psychobiological(心理生物学的)モデル』の考え方を支持する形になりました。でも、私もトレッドミルや外をてけてけ走ったりするので、ここらへんのSelf-talk効果は身をもって体感しています。疲れたなーと思っても次の瞬間にココロがいいところにスポっとハマってしまえば延々と走れてしまう日もあるし、逆に調子よく走っていたつもりでも「ああだめだ」とふと思ってしまうと途端に足が動かなくなったりするので。

精神は肉体を凌駕する、とはよく言ったものです。解剖学とか生理学とかの考えに縛られるとこういった「精神」の影響は忘れてしまいがちになりますが、やはり高いパフォーマンスを生み出すうえで、ココロを整えることがいかに重要かってことですよね…。スポーツ心理学大事…。まぁもちろん、健康な身体だから健康な精神が生まれるという考え方もあるとは思いますけど。ちきんおあえっぐ。

どういうタイミングでどういった内容のSelf-talkが最も効果的なのかという最善の追求の検証など、この研究の応用性は多岐にわたるんじゃないかと思いますねー。やー面白かった!意外とね、この研究の肝って、Self-talk組の被験者たちが、しっかりと自分の意志で好みのフレーズを選び、それを練習・使用したってとこにあるんじゃないかと思うんですよ。私もありますもん、私にだけ効果があるだろうと思えるフレーズたち。後続研究を読むのを楽しみにしています!

1. Blanchfield AW, Hardy J, De Morree HM, Staiano W, Marcora SM. Talking yourself out of exhaustion: the effects of self-talk on endurance performance. Med Sci Sports Exerc. 2014;46(5):998-1007. doi: 10.1249/MSS.0000000000000184.

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  by supersy | 2018-05-30 21:30 | Athletic Training

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