2018年 03月 11日 ( 1 )

 

ImPACT脳振盪テストが大学生アスリートにとって「有効でない」可能性?

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脳振盪の影響は頭痛や眩暈などの患者が自覚しやすい症状のみならず、思考や認知能力にまで及んでいるんだぞ、と世に知らしめたという点で、ImPACTテストが業界に残した功績は非常に大きいと思います。…と同時に、このテストが抱える問題点も公平かつ冷静に議論されるべきだと思います。例えば、このテスト結果を正式に分析・解析できる能力があるのは神経心理学者(neuropsychologist)のみであるというところ。そんな資格を持った医療従事者に、そうそう我々もアクセス持ってませんし、テスト毎にreferするのにはお金も手間もかかりますからね。ATはadministerできるけどinterpretできないっていうんじゃ、やっぱりそれは相当不親切で不便です。
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加えて、「これはそもそも大学生アスリートにとって妥当なテストなのかね?」という疑問の声ももうかなり前から出ているんです。例えば、やる気が欠如していてちゃんとインストラクションを読まずによくわからないまま適当にテストを受けてしまう被験者 (= result in "invalid profile")や、問題の真意を理解しながらわざと悪い点を取るような被験者(= "sandbagging"という行為なんだそう)がいるんじゃないかと。そうなっちゃうとこのテストの点数はもはやその人の神経認知能力の指針と言えなくなってしまうんじゃないか(= "妥当ではない")と。私の経験上、はい、確かに、こういう子たちは常に一定数いるんじゃないかと思ってましたね。

それを検証した研究もあるんですよ、例えばこの論文(↑)。1 大学アメフト選手159人(平均20.3±1.41歳)にImPACTテストを行ったところ、テストスコア全体の27.9%が「無効」レベルだったそうなんですよ。4人に1人以上ですね。ちなみに具体的には、4.1%が"invalid"のみ、17.5%が"sandbagging"、で6.3%が"invalid'と"sandbagging"の両方だったんだそうな。

ほんでほんで、この研究で面白いのが「どういう人物が『無効』なパフォーマンスをしやすいのか?」という分析も様々な要素からしているんですが、年齢や教育、脳振盪既往歴の回数などは関係なく、唯一統計的に有意であると認められたのが「特別教育(special education)を受けたかどうか」だったんですって(8.0%, n = 6 vs 2.1%, n = 4; p = 0.02)。それから、どうすればこういった「無効」なパフォーマンスを減らせるか、という観点からは「最近脳振盪に関する教育を受けても改善が見られない (p = 0.84)」とした上で、「『無効』だったらやりなおし(再テスト)させるぞ、と指導した場合のみ改善が見られた」というのも…おお…びっくり…でもなんかわかる!本文には、「点数が悪いのが脳振盪によるものなのか、努力の欠如なのか区別がつき難いと、そのテストの点数の解釈が非常にややこしくなり、選手のリスクが上がってしまうのが現状だ」とずっさりばっさり書いてあります。自分自身の健康と安全のために、ちゃんと受けてもらいたいものなんですが…。

(ちなみに『無効』云々とは関係ないんですが、ADHDがある選手はやはりスコアが低めになるようである、という報告もあり、ADHDがある患者さんに対する"norm"は一般の選手とはまた別に設定されるべきではないかという声も上がっています。2 大学アメフト選手を対象にした先の研究1でもLearning Disabilityがある選手は全体の7.4%いましたから、ここらへんは今後考慮されるべきなのかもしれませんね)

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こちらは最新の論文で、2月27日と2週間ほど前に発表になったものです。3
この論文では、アメリカ大学アスリート769人がImPACTを受験してるんですが、実験の流れがユニークで面白いです。下のフローチャートを見れば一目瞭然かもしれませんが、一度目のImPACTテストできちんとしたスコアが取れた受験者は「Valid (= 有効)」(n = 648, 84.3%)、全く持ってダメな被験者は(ImPACTのnormative dataによって自動的にフラッグされた)「Invalid (= 無効)」(n = 9, 1.2%)、そしてスコアが16th percentileだった被験者は「Valid but Invalid (= 有り得なくはないが、真面目にやっているにしては低すぎる、限りなく疑わしい点数)、VBI」(n = 112, 14.6%)と分類され、VBIのスコアを取った選手はその後最多で二回、スコアがValidになるまでテストを受けなおしさせられたそうな。
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ここで特筆すべきが、初回受験時には112人、14.6%の被験者がVBIになったにもかかわらず、再試験、再々試験をしたらそのうちのほとんど(98/112, 87.5%)がちゃんとValidなスコアを取れた、ということですかね。そんな短期間に神経認知能力が上がるとは思えないので、やはり努力や意識の問題ということなのかもしれません。ちなみに、VBIの被験者とValidな被験者の特徴の違いとして唯一認められたのが大学でのプレー年数で、比較してみると1.5±1.69年 (VBI) vs 1.1±1.27年 (Valid)でだったそうで(↑Table 2)。んー?大学で長くやればやるほど、つまりImPACTテストを毎年繰り返せば繰り返すほど、「またこれかよ」みたいになってテキトーにやる可能性が高まるってことなんですかね。ちなみにp値が報告されてないので分からないんですけど、VBI組はValid組に比べてADHDの割合が高かった(17/112, 15.2% vs 47/648, 7.3%)、そしてADHDと診断されていても薬による治療を受けている被験者と、薬を摂取していない被験者ではVBIを出す割合に差が見られた(4/29, 13.8% vs 12/34, 35.3%)とあり、ADHD…特にきちんと治療を受けていないADHD患者のImPACTテストスコアは患者本来の神経認知能力をフルに反映しきれていない、低いものになる可能性がやはり高いのかなと考えさせられます。適切に治療をされていないADHD患者はImPACTテスト中に集中できない、指示を理解しづらいなど具体的な症状を感じることが多いわけでしょうから。

ImPACTテストが自動的に付ける「有効」「無効」のラベリングだけでなく、「有効とされたものの実際は無効」であるテスト結果が12.7%くらいある可能性がある…というのはこれまたなかなか興味深く、怖い結果ですね。うちの大学でも毎年全アスリートがImPACTテストを受けていますが…。数字の示す本当の意味が分からない状態で、それを計測したり解釈したりすることは、臨床的に意味が無いだけでなく、間違った決断・判断に繋がってしまうのでは、と私は危惧します。診断や競技復帰を決める際にも、これらはあくまで参考にすべきデータのひとつとして参考にし、もっと客観的なテストも組み合わせながら総合的な決断を下すことこそがこれからATに求められる能力になってくるんでしょうね…。言うは易しですけど…。

1. Szabo AJ, Alosco ML, Fedor A, Gunstad J. Invalid performance and the ImPACT in national collegiate athletic association division I football players. J Athl Train. 2013;48(6):851-855. doi: 10.4085/1062-6050-48.6.20.
2. Gardner RM, Yengo-Kahn A, Bonfield CM, Solomon GS. Comparison of baseline and post-concussion ImPACT test scores in young athletes with stimulant-treated and untreated ADHD. Phys Sportsmed. 2017;45(1):1-10. doi: 10.1080/00913847.2017.1248221.
3. Walton SR, Broshek DK, Freeman J, Cullum CM, Resch JE. Valid but invalid: suboptimal imPACT© baseline performance in university athletes [published online ahead of print February 27, 2018]. Med Sci Sports Exerc. 2018. doi: 10.1249/MSS.0000000000001592.

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  by supersy | 2018-03-11 23:50 | Athletic Training

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