2018年 02月 26日 ( 1 )

 

「患者を見守りたい」はセラピストのエゴ?リハビリの中での「監督」有無の重要性。

セラピストとして、患者がリハビリをする際に貴方はそれをsupervise(監視・監督)する必要があると思いますか?それとも貴方無しで患者さんが一人でリハビリを行っても、同様の効果があると思いますか?

貴方が患者の場合はどうですか?貴方は一人でも指示された通りのリハビリをきちんと遂行し、期待された成果を出す自信はありますか?セラピストからしっかり説明やフィードバックを受けながらリハビリを行いたいですか、それとも週に数回リハビリ施設に通うより、自宅で自分で行えるならそちらほうが簡単でしょうか?

今日学生とこんな話になり、こんな論文見つけたでよー、と学生が紹介をしてくれたのでそこから芋づる式にずるずるっと色んな論文を引っ張り出して読んでいました。興味深かったので各内容を軽くまとめておきますね。
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この論文では、1 Total Hip Replacement (人工股関節全置換術) 手術を受けた患者さん98人(中央値64歳、年齢幅21-88歳、男41人、女57人)を対象に1) 4週間監視下で行うフォーマルなリハビリ(週に一回)と家での監視がないリハビリ(週の残り6日)の併用(= 一般的なリハビリスタイル); か2) 4週間監視は一切なく、家のみで行うリハビリを行った場合の比較を行っています。研究が研究なので患者がgroup allocationに対してblindになることは不可能でしたが、アウトカムの測定を行ったPhysiotherapist (便宜上以下PTと表記します)は患者のグループアサインメントに対してblindedでした(= single-blinded)。ランダムに患者をグループ分けしたところ、そしてblindingを行ったところは評価できますが、パワー分析の結果各グループに65人の被験者が必要と判明したにもかかわらず、監視有り組が56人、無し組が42人に留まったのはイタイですかね。
一応言及しておくと、手術後各患者は病院での同様の治療・リハビリ(詳細は論文に記載あり)を受けており、一定の基準を満たした(こちらも論文に詳細記載あり)平均5日後に退院。先のリハビリプロトコルを開始しています。この一貫性も評価できますDropoutは各グループ4名とかなり少なく(Dropout rate,は監視有り組で7.1%、監視無し組で9.5%)、ITT分析が行われた点も素晴らしいですね。

ちなみに介入をもう少し具体的に説明すると、1) 監視有り組は監視無しの自宅でのエクササイズ(8-10種類のエクササイズを一日に3回行う、詳細は論文参照)に加えて、一週間に一回施設に通って監視有りのリハビリ(9つのステーションのある、サーキットタイプのトレーニング)を行った一方、2) 監視無し組は自宅でのエクササイズのみを(同じ内容: 8-10種類のエクササイズを一日に3回行う)行い、質問があればいつでもPTに電話で質問できる、という環境だったそうな(実際連絡をしたのは42人中5人と少数だったそうですけど)。監視有りといっても実際の監視要素はかなり限定的だったんだなという印象です。これはグループ間の「違い」を生み出すのに十分だったと言えるのかな…?という疑問を持ちながら結果を吟味したいところです。

アウトカムはBaseline, 5, 12, 26週に計測。具体的に測ったのは…
 ●Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index (WOMAC): 0-100点形式、点数が高いほど機能が低い。MCID = 8.0。
 ●Short-Form 36-item (SF-36): 0-100点形式、点数が高いほどHRQOLも高い。
 ●Timed Up and Go Test (TUG Test): 椅子に座った状態から、起き上がって3m歩き、くるりと回って戻ってきて椅子に座るまでの時間を測る(↓ビデオ参照)。今回の患者に対するMCID = 0.8-1.4秒。
 ●UCLA Activity Index: 1-10のスケール形式、1は”no physical activity”で10は”regular participation in impact sports.”…これはスポーツをしないお年寄り向きではないのでは?
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Baselineでは患者のdemographicsや上記のoutcome measuresではグループ間の違いは認められなかったそうですが、TUG Test に関してはBaselineでなかなかの開きがあった模様(監視有り 10.3 ± 5.0 秒 vs 監視無し14.0 ± 9.0秒)。p値が報告されていなので統計的に有意な差だったのかどうかはわかりませんが。この研究、個人的にはp値の報告が論文を通して不十分に感じます。とりあえず出しておいて、こちらに判断させてくれーい。

結果は一目瞭然だと思うのでまずはこちらを。
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95% CIのオーバーラップがえぐいですね。これは統計的に十分な被験者数がいなかったこともあるでしょうが、point valueも似通っていることから、「THRのリハビリは監視があってもなくても等しく十分な効果を得られる」ということが言えそうです。これを鵜呑みにして「なるほど!では術後のリハビリに掛けていた人力は他のところに回して、もっとアウトカムを向上できることに力をいれよう!」と結論付けるのは簡単ですが(そしてそれが真実の可能性も十分ありますが)、この結果に対して、何かほかの説明の仕方があるかな?と考える癖もつけないといけません。この研究のPEDro scaleは8/10と悪くないとは思いますし、それなりに丁寧な研究ではありますが、決定的な穴としては 1) 余りに「監視」要素が限定的過ぎた?週に2-3回はPTとのセッションを設けてもよかったのでは?2) サーキットトレーニングの効果がそもそもなかったのでは?次回は全く同じメニューで監視有りと無しを純粋に比較すべきでは?3) Home Exercise Programがあまりに効果がありすぎて、監視有り・無しの要素を完全に隠してしまった可能性は?という点が挙げられます。あとは、国民性の違い…例えば、オーストラリア人は総じてHome Exerciseを真面目にやるけれど、ほかの国の人は…とか、その逆の可能性だってあります。ついでに、THR患者は我々が普段仕事をする機会の多い高校、大学、プロのアスリートとは年齢層も手術のタイプも大きく違うので、スポーツの現場で同じ結果が当てはまるかはわかりませんね。それを踏まえて…
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よりスポーツ選手を対象に働く機会の多い我々にrelevantな研究というとこちら2 でしょうか。2011発表の研究と少し古くなってしまうんですが、ACL再建手術を受けた普段から運動をしている患者のリハビリをPT-guided (Supervised) vs Home-based (Unsupervised)で行った場合の比較を行っています。これもオーストラリアですね、先ほどと同じsingle-blinded, randomized controlled trial (RCT)の形を取っています。面白い。

この研究では、手術前にrandom allocationを行い、患者を監視有り (n = 20, 平均28歳、男16人、女4人) vs 無し組 (n = 20, 平均27歳、男14人、女6人)に分けた後、BPTB手術でACLを再建してます(手術前にグループ分けを行った点、ハムストリングやAllograftの患者が混ざってなかった点は非常に評価できます。それから統計的には各グループ16名必要と出たそうですから、最低数は超えてきていますね)。手術後の治療や抜糸、退院からリハビリ開始のタイミングは全てスタンダード化した手順で行い、術後3,6,9,12か月の経過を追いました。この際、監視無し組は「詳細が記載された」プリントを受け取り、それに乗っ取って「それぞれのステージでの目標(i.e. 膝をまっすぐに伸ばせるようになる、膝を90°曲げられるようになる、など)を達成した場合のみ次のステージに進む」よう指示されたそう。一週間に何回エクササイズしなければいけないとか、具体的にどんなエクササイズをしたのかは不明で、「この本のこのページのプロトコルに則りました」という記述はあるものの、その本が古いものなので私が見ることはできずうーむ、再現性を考える上で、これは大きなマイナスポイントですかね。監視有り組は同一のPTによって全員監視されたそうで、ここは非常に評価できます。内容は監視無し組と全く同じで、しかし最初の6週間は一週間に一回、術後6週間~6か月は2週間に一回、そして術後6か月~9か月は一か月に一回の頻度で監視下でのリハビリが行われたそうな。個人的には、やっぱり「監視」の頻度が低いなぁと。ATなら週に5日は確実に監視・監督の機会がありますからね。週に5日監視下でリハビリvs監視全く無しの比較を見たいものです。そちらのほうが我々にはよりapplicableかと。

…まぁともかく。これ(週1回程度の監視・監督)が整形外来では最も現実的なのは事実でしょう。とにかく読み進めます。

計測されたアウトカムは
 ●Lysholm Score
 ●Tegner Activity Scale
 ●Single Hop or Distance, Times Hop, Vertical Jump
 ●Biodexで計測したQuadricepsとHamstringの筋力
…で、ここから一気に結論に飛んでしまうと、これらのほとんど全てのOutcome Measureで、グループ間に統計的に有意な差は認められませんでした。両グループとも等しく著しく改善していったとのこと。唯一統計的に有意だった「差」を挙げると…
 ●術後3か月後のLysholm Scoreは監視無しグループが有りグループよりも著しく高かった(85 vs 76, p = 0.001)
 ●術後3か月後の膝進展筋力は監視無しグループが有りグループよりも著しく高かった(71.1 ± 14 vs 56.4 ± 18.4, p = 0.01)
 ●膝屈曲30°時のIsometric屈曲筋群の両足出力差(Symmetry Index)は監視有りグループは手術前から術後12か月後までの期間に確実な回復(from 69.2 ± 18.2 to 86.3 ± 7.3, p = 0.005)を見せていたが、監視無しグループは統計的に有意な改善が見られなかった(from 78 ± 18 to 82.6 ± 7.9, p = 0.2)。手術前の監視無しグループの数値が異常に良かっただけの気もするが…。
 ●Isokinetic膝伸展筋群の両足出力差(Symmetry index)は監視有りグループは術後3か月から12か月にかけて著しく改善した(from 56.3 ± 21.6 to 82.7 ± 15.1, p = 0.04)が、監視無しグループのそれは統計的に有意ではなかった(from 62.2 ± 20.9 to 79.5 ± 24.1, p = 0.15)。

そんなわけで、研究の結論としてはこちらも「ACL再建手術後のリハビリにおいて、PTの監視が有るか無いかはそのリハビリのアウトカムに影響を与えない」ということなんだそうです。「スポーツをしている人ならリハビリの大切さは知っているだろう。それを理解して、モチベーションがある人は(監視があってもなくても)リハビリをやるし、ない人はやらない、ということなのかも知れない」という考察にはなるほどと思いました。

時代をさかのぼってみてみると、もう3つ同類のACL再建手術関連の研究が見つかりました。Beard & Doddが行った1998年の研究3 (監視有り無し共に13名ずつの小さな研究デザイン。被験者の大部分である80%超が男性ではありますが)と、2005年発表のGrant氏らの研究4、それから同研究グループが発表した2010年の研究5です。

せっかくなんでこれらも読んでみたんですが、総じて結論は「監視の有り無しはアウトカムに影響を及ぼさない」でしたね。興味深かったのが、Grant氏らの2005年4 と2010年5 の研究。これらの研究は実は繋がっていて、2005年発表のほうのsingle-blinded RCT研究(n = 145, 平均29.3歳、男85人、女60人)4 では術後3か月までの経過を追って「ROMは屈曲・伸展共に監視無し組のほうが良く、関節の安定性や筋出力などではグループ間に大差は見られなかった」と結論付けているんですが、2010年のほうの研究5 では同じ被験者群をより長期的(2-4年後、最終的に被験者は145→88人にまで減りましたが…)にフォローアップして「術後平均38か月後においてACL-QOLは監視無し組のほうが高かった(80.0 ± 16.2 vs 69.9 ± 22.20, p = 0.02)が、手術前のbaselineを考慮してそこからの差(45.8 vs 40, p = 0.26)として比較すると統計的に有意な差は認められなかった。その他のROM、筋出力と関節の安定性も大きな差は認められなかった」としています。つまり、二つの研究合わせて「短・長期的共に自宅で行うエクササイズと、セラピストの監視下の元行うリハビリでは差が認められなかった」という結論が出たわけですね。

他の怪我、例えば足首の捻挫などでも同様の比較研究があるのかなーと思ったのですが、該当するものは見つかりませんでした。Cardiac rehab系の論文は結構あったり、それから捻挫系の論文ではHome-basedのリハビリの効果を検証しているものはあったんですけど、Supervised rehabとの直接比較はしていないんですよね。肩の怪我とかでもいいので、面白い論文をご存知の方は教えてくださーい。

そんなわけで、意外な結果でした。セラピストのエゴとしては、「私たちが監視・監督していたほうがより質が高いリハビリが提供でき、アウトカムもより優れたものになるもんね!」と思いたいところですが、決してそうではないかもしれない、ということですもんね。もちろん、前述のとおり、この結果がそのままATの提供するリハビリにも当てはまるかどうかは怪しいです。我々はPTよりもはるかに高い頻度で患者を見る機会がありますし、我々がよくserveするpopulationは高校生や大学生など若い世代が多く、年齢的には最もリハビリに対するコンプライアンスが低い可能性がある(これは勝手な偏見です)かもしれないからです。

でももしこの結果が等しくどのセラピストにも当てはまる場合(PT, AT, OT, etc..)、我々の業務上の「時間の使い方」が大いに変わってくる可能性がありますね。リハビリはしっかり一回目に指示を出しておいて、あとは定期的にフォローアップするなり、患者が質問や疑問、不安などある際に自主的に連絡をしてくる形を取る、というので充分なのかもしれません。そうなると、診断やもしかしたら予防なんかに我々はもっともっと精力的に時間を費やせるようになるのかもしれませんね。それはそれで考えるとワクワクします。

1. Coulter C, Perriman DM, Neeman TM, Smith PN, Scarvell JM. Supervised or unsupervised rehabilitation after total hip replacement provides similar improvements for patients: a randomized controlled trial. Arch Phys Med Rehabil. 2017;98(11):2253-2264. doi: 10.1016/j.apmr.2017.03.032.
2. Hohmann E, Tetsworth K, Bryant A. Physiotherapy-guided versus home-based, unsupervised rehabilitation in isolated anterior cruciate injuries following surgical reconstruction. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2011;19(7):1158-1167. doi: 10.1007/s00167-010-1386-8.
3. Beard DJ, Dodd CA. Home or supervised rehabilitation following anterior cruciate ligament reconstruction: a randomized controlled trial. J Orthop Sports Phys Ther. 1998;27(2):134-143.
4. Grant JA, Mohtadi NG, Maitland ME, Zernicke RF. Comparison of home versus physical therapy-supervised rehabilitation programs after anterior cruciate ligament reconstruction: a randomized clinical trial. Am J Sports Med. 2005;33(9):1288-1297.
5. Grant JA, Mohtadi NG. Two- to 4-year follow-up to a comparison of home versus physical therapy-supervised rehabilitation programs after anterior cruciate ligament reconstruction. Am J Sports Med. 2010;38(7):1389-1394. doi: 10.1177/0363546509359763.

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  by supersy | 2018-02-26 19:30 | Athletic Training | Comments(0)

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