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ノルディック・ハムストリング・エクササイズのセット間レストについて考察する。

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ノルディック・ハムストリング・エクササイズ (NHE)、というエクササイズは有名ですよね。写真のように膝を地面につけ、胴体を地面に直立させた状態から、徐々に前に倒してハムストリングに遠心性のストレスをかける例のアレです。ノルディック・ハムストリング・カール、と呼ばれたりもします。

そんでもって。エクササイズには調整可能な変数というのが非常に多くあります。レップ数とか、セット数とか、重量とか。中でもセットとセットの間にどれくらいの休憩時間を入れるかという「Inter-set Rest Interval (ISRI, セット間レスト)」という概念が今回紹介する論文1の焦点になっています。

一般的なレジスタンス・トレーニングをおこなう際、このISRIは「短い(例: 1分間)より長い(例: 3分間)ほうがATPやPCの貯蓄回復を促せ、より高い筋力改善/筋肥大の効果が促せる」とされていますが、このあたりの研究2が主に求心性エクササイズ (Concentric Exercises)を扱ったものであるのもまた事実です。このセオリーがそっくりそのまま遠心性エクササイズ (Eccentric Exercises)にも当てはまるのか?というのは、別途検証してみないとわかりませんよね。この論文の著者らは、遠心性エクササイズのほうが求心性よりエネルギーコスト効率がよいこと、遠心性筋活動のほうが耐疲労性が高いことを挙げ、「例えばNHEだったら、長いISRIが必ずしも良いとは限らないのでは?」と仮説を立てています。

んで。

研究デザインはRandomized Repeated Measures Crossover。そうなんです。Crossoverしているくらいだから、あくまでも1セッションでのパフォーマンス結果を見ているだけで、長期的なトレーニング効果を追ったものではありません。(『求心性中心』エクササイズを扱った結果として)比較対象となっている研究のトレーニング期間が8週間だったことを考えると、仮に今回の研究で仮設通り「ISRIを長くしても大きな効果はない」という結果が出たとして、筋力強化や筋肥大効果についてはまだ不明、という事実は変わらないように思います。目的にデザインが100%そぐわない…このFlawは結構、致命的なんではないかなー。

まぁそれはそれとして。
被験者はNHEを6回を2セットから成るセッションを一回おこない、76-96時間のWash-Out期間後に2度目のセッションをおこなったとのこと。で、1st vs 2nd セッションで1分または3分のISRIがランダムで使われたというわけですね。右・左それぞれのハムストリングの最大筋力、左右最大筋力のバランス(非対称性)、そしてレップ数を重ねるにつれ、筋力がどの程度低下していくか(= Fatigue)をアウトカムとして計測したそうな。やっぱり、前述したように「トレーニング効果」を推し量ったわけじゃないということはここでも強調しておきたいですね。

ここまででも引っかかることがもう2点。
一つ目は、「6回2セット」という数の妥当性です。NHEは基本的にLow Volumeでも効果があるエクササイズであるとされていますけど、それでも6回2セットって結構初期の数字で、徐々にVolumeが増えていくプロトコル3が一般的じゃないかと思うんですよ。若くて健康な男性アスリートであれば最終的に6-10回を3セットくらいまでは増やしたりする3,4じゃないですか。特に今回はISRIを検証しようという内容なので、できれば2セットの場合も3セットの場合も、結果を出して並べて見てみたかったなぁと個人的には思います。

二つ目は、被験者が厳選なる基準によって選ばれた(highly-selective)者たちであること。選考基準は 1) 若い男性チームスポーツアスリート(サッカーとかなら比較できる先行研究がアホほどあるのでわかるけど、なぜ『チームスポーツ』というふわりとした定義の条件を設けたのか?あと、「若い」の年齢が定義されていないけど具体的に何歳から何歳?)、2) 週に2-3回、監督下でのレジスタンス・トレーニングを、週に3-5回は競技に特化した練習をおこなっている(=つまりそこそこ身体できており、いわゆる"Trained"な状態である)、3) NHE経験者であり、3-i) NHE中のPeak Forceが≧337N、 3-ii) Peak Forceの左右差が<15%、3-iii) 現在最低でも週に一回程度のペースで定期的にNHEを実施中、3-iv) 過去6か月以内に下肢傷害の既往歴がない、と多岐に渡ります。我々がテキトーに選手を見つけて、ほいアナタ当てはまりますね、と気軽に確認できるようなCriteriaじゃありませんね。臨床的応用性は残念ながら高くないかなという印象。
経験者相手にも関わらずきちんと事前にエクササイズ指導を全員におこなった点(=我流でやられてしまうリスクを軽減)、ウォームアッププロトコルが事細かに決まっていた点、パワー分析をおこなって被験者の数を決定した点などは素晴らしいと思います。

で。結果です。
第1セット、第2セット問わず、レップ数を重ねるごとに最大筋力は低下していったそうですが、この結果は利き足にも非利き足にも、そして短い(1分)ISRIでも長い(3分)ISRIでも関係なく確認されたそうです。つまるところNHEとはレップ数を重ねるとハムストリングに疲労が蓄積し、左右や利き足非利き足、セット間のレストの長さに関係なく、筋出力が同じように低下していくものである、ということがわかりました。言い換えると、NHEをおこなう際、セット間のレストが1分であっても3分であっても、セットを通じて同じ質の筋活動の維持(Peak Forceの93%)が期待できる、ゆえに無駄に3分待つより、1分のレストでさくさく進行したほうが効率がよいとも言えます。Injury Preventionの実践に立ちはだかる障壁の筆頭に「時間がない」という理由が挙げられることが多いのだとしたら、この微々たるように見えるレスト時間の違いは、実はとても大きな臨床的意義を持つものなのかもしれません。

ただ、1分がベストなのか?実はもっと短くてもいいんじゃないか?という疑問はまだ残されたままですし、もしかしたら決定的な違いは3セット目に露呈していた可能性もあります。個人的にはそのあたりの検証も是非見てみたいですし、くどいかもしれませんが、筋力、筋肥大、ハムストリング肉離れの傷害予防効果までは本研究で可視化できていません。あくまでもおこなわれていたエクササイズそのものの質が悪くなかったよね、というお話ですので、このあたりは注意して解釈する必要がありますね。

とはいえ、読みやすく、シンプルで楽しい研究でした!これに触発されて先ほど生まれて初めてNHEをやってみましたが、左のハムストリングが悲鳴を上げかけたので早めにやめておきました。6回2セットをやるとなると…ええと、ちょっとレストを長めにもらってもいいですかね?

1. Drury B, Peacock D, Moran J, Cone C, Ramirez-Campillo R. Effects of different inter-set rest intervals during the nordic hamstring exercise in young male athletes [published online January 6]. J Athl Train. 2021. doi: 10.4085/318-20.
2. Schoenfeld BJ, Pope ZK, Benik FM, et al. Longer interset rest periods enhance muscle strength and hypertrophy in resistance-trained men. J Strength Cond Res. 2016;30(7):1805-1812. doi: 10.1519/JSC.0000000000001272.
3. Mjølsnes R, Arnason A, Østhagen T, Raastad T, Bahr R. A 10-week randomized trial comparing eccentric vs. concentric hamstring strength training in well-trained soccer players. Scand J Med Sci Sports. 2004;14(5):311-317. doi: 10.1046/j.1600-0838.2003.367.x.
4. de Oliveira NT, Medeiros TM, Vianna KB, et al. A four-week training program with the nordic hamstring exerciwe during preseason increases eccentric strength of male soccer players. Int J Sports Phys Ther. 2020;15(4):571-578.

  by supersy | 2021-02-02 21:22 | Athletic Training

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