人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ACL再建手術後、様々なエクササイズが生み出すACLへの負荷をどう考慮すべきか?

突然ですが、問題です。

Q1: ACL再建手術後、一般的にグラフトにより高い負荷(Load)がかかるのは
a. 非荷重(NWB)エクササイズ
b. 荷重(WB)エクササイズ

Q2: ACL再建手術後、一般的にグラフトにより高い負荷(Load)がかかるのは
a. 10-50°の屈曲時
b. 50-100°の屈曲時

ちなみに同じ質問をTwitterでもしてみたんですけど、結構票が割れた(↓)んですよね…。
ACL再建手術後、様々なエクササイズが生み出すACLへの負荷をどう考慮すべきか?_b0112009_21471313.jpg





ACL再建手術後、様々なエクササイズが生み出すACLへの負荷をどう考慮すべきか?_b0112009_15345914.png
答えは、こちらの論文1に隠れております!
2012年発表のものなので、案外古いのですけれど。なかなか一般的セラピストが知らない情報も詰まってそうでしたので読んでみました!最新じゃなくても、面白い論文なんていっぱいありますよね。多分野の文献ちょこちょこ読んでいるつもりでも、まだまだ読みこぼしがあるなぁと実感…。

さて、ACL再建術後のリハビリテーションはアスレティックトレーナー(AT)ならまず必ず経験することだと思います。健康なACLが耐えうる負荷はおよそ2000N2だそうですが、基本的には再建されたACLグラフトも同等の強度があるとされています(もちろん術式、個体差等によって多少の差はあり)。ただ、術後数か月はグラフトの強度が弱く、より小さな力で組織の破綻が起こる恐れもあるわけで。…ということは、ATはリハビリテーションを進めていく中で、エクササイズを処方するにあたって「どのエクササイズがACLにどれほどの負荷(Load)をかけるか」を熟知した上で、「今の患者のグラフトの治癒を阻害することなく、最も高い効果を生むエクササイズはどれか」という正しい臨床選択ができる必要がある、ということになります。

ACLが脛骨の前方移動の86%を担っているという古い(1980年)研究3による数値は非常に有名かと思います。ということは、言い換えればACLは脛骨が前方に引かれるような場面で負荷がかかるわけですよね。

膝が0-60°の屈曲時に大腿四頭筋が発火すると、脛骨が前方に移動する=ACLに負荷(Load)がかかる一方で、膝の屈曲角度が60°を越えていると、大腿四頭筋は脛骨を後方に引くよう作用する=ACLの負荷は減少(Unload)するんだそうです(これはRollingではなくGlideの話をしている、と私は理解しています↑ 動画を見ると可視化しやすいかも)。一方、ハムストリングの発火は膝がどんな角度であっても脛骨を後方に引くよう作用する=ACLの負荷は減少(Unload)する。こちらは、屈曲度が深いとUnloadの度合いも高いとのこと。つまるところ、さながら綱引きのような要領で、大腿四頭筋とハムストリングは様々な活動中に脛骨を引き合っており、大腿四頭筋がこの戦いに大幅に勝ち、且つ脛骨を前方に引く作用を見せているとき(0-60°の屈曲時)にACLへの負荷が上昇するわけですね。
ACL再建手術後、様々なエクササイズが生み出すACLへの負荷をどう考慮すべきか?_b0112009_21292773.jpg
これを踏まえて、ACL再建手術後のリハビリテーションでの留意点を論文1から抜粋してみます。個人的に面白いと思った箇所が中心です。

▶移植片(グラフト)の違い
ハムストリング腱は膝蓋靭帯と異なり、Bone-to-BoneではなくTendon-to-Boneの固定となるため、固定箇所が十分な強度になるまで術後8-12週間を要する4。一方で、膝蓋靭帯(Bone-to-Bone)は6-8週間で固定箇所の強度が成熟する。5,6 この違いを考慮し、ハムストリング腱の場合、特に最初の4週間はグラフトへの張力をかけることは避けるべき。そんでもって移植元であるハムストリングそのものにも負荷は慎重にね…ってことなんですが、引用されているのが古い動物実験(犬、豚)中心なんですけどね…。ちょっと腑に落ちないなぁ。

グラフトによってエクササイズ選択、進行は変わるべきか?という観点では、AllograftのほうがAutograftに比べ、固定箇所の強度・グラフトの成熟に倍ほど時間がかかるので、リハビリテーションの進行はConservativeなほうが良いのでは7とのこと。まぁただ、これは日本でポピュラーな術式ではないので(アメリカでも今はもうそれほど)、あまり気にしなくてもよいかもですが。

▶NWBエクササイズ - Seated Knee Extension
座位でのニー・エクステンション・エクササイズは、重りを足関節周辺に付けると、同じ重りを下腿中央に付けた時と比べ、ACLにかかる張力は2倍(200N vs 400N)になる。8 また、膝の屈曲角度が浅い状態ではACLへの負荷が高い(10-30°で150-350N)。膝の屈曲角度を50-100°程度でエクササイズを行うのが、ACLへの過負荷を避けるには適切と言える。8
これらの知識の応用はACL欠損患者にも適応できる。ACL欠損=脛骨の移動を最低限に保ちつつ、筋活性を狙っていきたい場合は膝屈曲を深く、重りはより近位にするのがよい9と言える。

▶NWBエクササイズ - Seated Knee Flexion
こちらはハムストリングの活性エクササイズなので、ACLにかかる負荷はなし。ただ、ハムストリング腱を使った患者だけは、患側でのエクササイズに注意(一般的には術後6-8週間で開始する)。

▶WBエクササイズ - SL/DL スクワット
スタンダードな両足でおこなうスクワットがACLにかける負荷はごく僅か。これは仮に膝屈曲角度が浅くても(=大腿四頭筋が脛骨前方滑りに作用しているときでも)、ハムストリングが発火するからである。これは、ウェイトを足してエクササイズ自体の負荷を増加させても変わらない(ウェイトを足す=ハムストリングもより強度の高い発火を求められる=ACLは相変わらずUnloadされたまま、と思われる)。
一方で、踵を浮かせておこなうスクワットは、膝がつま先よりも過度(8-10cm)に前に出て脛骨高原が前に傾くことから、ACLへの負荷が高まり、踵が付いた状態に比べて3倍になる。同様に、シングルレッグのスクワットも膝が前方に突き出されることから、ACLの負荷は増加する(SL 59N vs DL 0N)。
胴体のポジションもACLの負荷を変える要因となる。胴体を地面に垂直に保つより、股関節屈曲角度を増やし、前傾姿勢を取る方がハムストリングの活性を促すため、ACLにかかる負荷は減少する。
ACLにかかる負荷を考慮すると、両足→片脚スクワットの進行が無難。

▶WBエクササイズ - フォワードランジ、サンドランジ
こちらもスクワットと同様、動作中ハムストリングの収縮が十分に促されるため、ACLへの負荷はそれほど上がらない。胴体前傾が負荷をさらに減らすことも、スクワットと変わらない。

▶WBエクササイズ - レッグ・プレス
こちらも、ウェイトの重量が重くても、足の位置を高くしても低くしても、スタンスを広く取っても狭く取っても、ACLにかかる負荷はないとのこと。リハビリテーション早期から取り入れられるエクササイズか。

▶WBエクササイズ - ステーショナリー・バイク
様々な負荷(W)、速度(RPM)での違いはなく、膝の屈曲角度が平均38°程の際にACLの負荷が上がりやすいが、個人差も大きかったとのこと。個人的な見解ではあるが、自転車通勤をしている身からすると、ペダルのどこに足を置くか(つま先荷重のほうが負荷が増えそう)、押すことによって車輪を回すのか(大腿四頭筋発火を促しそう)、踵を引くのか(よりハムストリングへの負荷が増加、つまりACLはUnload)によっても変わってくるのではないかと考察できる。

▶WBアクティビティー - 歩行、ステップアップ、ステップダウンなど
平らな地面での歩行は一般的なWBエクササイズ、そして多くのNWBエクササイズよりも高いACL負荷を生むのだそう。意外に思えるかもしれないが、逆足のつま先が地面を離れる頃に、荷重側の膝屈曲は浅くなり、ACLには最大300Nほどの負荷がかかるとのこと。前方への身体の加速、それに伴う大腿四頭筋の遠心性収縮、そして相対的に少ないハムストリングの収縮が一因か。
階段の上り下りやステップアップ/ダウンはスピードに関わらず平らな地面での歩行よりもACLに負荷をかけない。

▶WBエクササイズ - プライオメトリックス
両側でのドロップジャンプ(60cmのボックスから)は、座位でのニー・エクステンションとほぼ同じ250N程度の負荷を生むそう。故に、こういったエクササイズはリハビリテーション後期におこなわれるべき、と考えられる。
着地などの減速動作に取り組む際は「膝をしっかり屈曲させる」「胴体を前傾させる」ことを許すことでACLへの負荷を減少させる効果が狙える。


さて、ここまで色々書くと、最初の「問題」の答えは分かってしまいますかね。

Q1: ACL再建手術後、一般的にグラフトにより高い負荷(Load)がかかるのは
a. 非荷重(NWB)エクササイズ
b. 荷重(WB)エクササイズ
荷重状態でのエクササイズは多関節・多筋肉への負荷を促す。ハムストリングの高強度の収縮を伴うものが多く、結果、ACLグラフトへかかる負荷は相殺される。座位でのニー・エクステンション(NWBエクササイズ)は大腿四頭筋の選択的発火を促すため、こちらのほうがACLグラフトには高い負荷を生む。
*ただし、膝の屈曲角度が60°を越えたあたりからACLの負荷は顕著に低下する

Q2: ACL再建手術後、一般的にグラフトにより高い負荷(Load)がかかるのは
a. 10-50°の屈曲時
b. 50-100°の屈曲時
前述した、大腿四頭筋の作用に直結している。10-30°ほどの屈曲時に最もACLグラフトにかかる負荷は増え、30-60°に屈曲するにつれ減少、60°を越えると負荷はゼロになる。

つまり、これらの知識を現場レベルに落とし込むと、
1. リハビリテーション早期、再建したばかりのACLにまだ高い負荷をかけたくない場合は膝の屈曲角度がより深い状態(50-100°)でおこなうことが好ましい。
2. しかし、腫脹や痛みも当然関係してくるので、この屈曲角度が困難な場合はなるべく早くにWBエクササイズを早期に取り入れていくことも重要になってくる。ミニスクワットやランジなどを部分荷重でおこなう、または負荷を調節してのレッグプレスなどはオプションとしては現実的か。
…ということが言えるかもしれません。また、
3. リハビリテーション初期にスクワットをおこなう際は、膝がつま先を過度(8-10cm)に越えないよう配慮する/30-40°の胴体の前傾を許容することでハムストリングの収縮を確保することがで、ACLの負荷をコントロールする。
4. 早期に座位でのニー・エクステンション(NWB)をおこなうより他ない場合は、膝の屈曲角度を増やす、または負荷は足関節ではなく下腿中央などのより近位にかけることでACLへの余分な負荷を減らす。
…というのも、知っておくとプラスやもしれません。これらの留意点は、あくまでも「リハビリテーション初期」限定でよいと思うのですけれど。ACLに負荷をかけ始めなきゃいけないタイミングってのはありますからね。過保護にしてりゃいいってもんではないので。

1. Escamilla RF, Macleod TD, Wilk KE, Paulos L, Andrews JR. Anterior cruciate ligament strain and tensile forces for weight-bearing and non-weight-bearing exercises: a guide to exercise selection. J Orthop Sports Phys Ther. 2012;42(3):208-220. doi: 10.2519/jospt.2012.3768.
2. Woo SL, Hollis JM, Adams DJ, Lyon RM, Takai S. Tensile properties of the human femur-anterior cruciate ligament-tibia complex. The effects of specimen age and orientation. Am J Sports Med. 1991;19(3):217-225. doi: 10.1177/036354659101900303.
3. Butler DL, Noyes FR, Grood ES. Ligamentous restraints to anterior-posterior drawer in the human knee. A biomechanical study. J Bone Joint Surg Am. 1980;62(2):259-270.
4. Rodeo SA, Arnoczky SP, Torzilli PA, Hidaka C, Warren RF. Tendon-healing in a bone tunnel. A biomechanical and histological study in the dog. J Bone Joint Surg Am. 1993;75(12):1795-803. doi: 10.2106/00004623-199312000-00009.
5. Clancy WG Jr, Narechania RG, Rosenberg TD, Gmeiner JG, Wisnefske DD, Lange TA. Anterior and posterior cruciate ligament reconstruction in rhesus monkeys. J Bone Joint Surg Am. 1981;63(8):1270-1284.
6. Walton M. Absorbable and metal interference screws: comparison of graft security during healing. Arthroscopy. 1999;15(8):818-826. doi: 10.1053/ar.1999.v15.0150811.
7. Jackson DW, Windler GE, Simon TM. Intraarticular reaction associated with the use of freeze-dried, ethylene oxide-sterilized bone-patella tendon-bone allografts in the reconstruction of the anterior cruciate ligament. Am J Sports Med. 1990;18(1):1-10; discussion 10-1. doi: 10.1177/036354659001800101.
8. Pandy MG, Shelburne KB. Dependence of cruciate-ligament loading on muscle forces and external load. J Biomech. 1997;30(10):1015-1024. doi: 10.1016/s0021-9290(97)00070-5.
9. Wilk KE, Andrews JR. The effects of pad placement and angular velocity on tibial displacement during isokinetic exercise. J Orthop Sports Phys Ther. 1993;17(1):24-30. doi: 10.2519/jospt.1993.17.1.24.

  by supersy | 2020-11-07 21:35 | Athletic Training

<< 第9回日本AT学会学術大会オン... 緊急時の止血: ブラジリアン柔... >>

SEM SKIN - DESIGN by SEM EXE

AX