人気ブログランキング | 話題のタグを見る

側弯症と呼吸機能

ここ最近、PRI本部が主催しているWeekly Webinarに参加しています。日本時間の毎週水曜日、8:00amから開始で長さは約一時間ほど。ロンが週に一回のペースでお話するのを、日本からリアルタイムで、しかも無料で聞ける機会なんてそうないと思いますので、興味のある方はぜひ!

ここまで第一回、第二回が開催されていますが、来週は一度お休みで、再来週から再開になります。今までの分、見逃していてもこのサイトから見られますよ(第二回の今日の分の動画は明日にはアップロードされていると思われます)。ライブでの参加には事前登録が必要ですのでご注意を、興味のある方はこちらからどうぞー。


で。今日のWebinarで紹介されていた論文1を読んでみたのでまとめます。
側弯症と呼吸機能_b0112009_09290386.png
脊柱側弯症は「脊柱の側方の湾曲」と定義されますが、実際は3平面全てで起こる変形ですよね。
Functional (機能性)Structural (構築性)の2種類に大別でき、機能性の原因は脊柱外―つまり不良姿勢や脚長差の代償などが原因と言われている一方で、構築性は脊柱そのものの損傷もしくは先天的異常によるものと分類されています。2-4 構築性のサブカテゴリ―の中にIdipathic (特発性)があり、その名の通り原因不明。成長と共に発症・進行するのが特徴で、構築性全体の大部分、75-85%を占めると言われます。

んで。

この論文の冒頭部分では、ここまでの先行研究で側弯症が肺機能に様々な影響を与えることは分かっていますよね、と。具体的には1) Cobb Angle>90°は心肺不全(Ccardiorespiratory failure)のリスクを高める; 2) Cobb Angle 50-60°で計測可能な肺機能異常が認められる; 3) この「肺機能異常」というのは肺(拡張)能力の制限であることがほとんど (→総肺活量、TLCとか、ですね。Chest Wall Complianceが低下する、という言い方もよくされますね); 4) いつ側弯症が始まったのかとDisabilityの程度には相関性がある5、など。
Infantile Scoliosisだと肺胞の増殖が十分に起きない vs Juvenile/Adolescent Scoliosisでは肺胞の(数は正常だが)大きさが十分でないという違い5なんかもあるみたいですね。言われてみればそうか。
側弯症と呼吸機能_b0112009_10554172.jpeg
Case courtesy of Assoc Prof Frank Gaillard, Radiopaedia.org, rID: 49374

あと、どこで側弯が起きているか、どの程度の回旋を伴っているかも重要要素であるとのこと。前者はCephaladであればあるほど深刻だし、回旋が大きく起きていると胸骨が側方移動をして肺を平らに歪ませてしまうのだそうだ6。このようなHypoinflationや無気肺状態が長く続けば肺の萎縮につながり、肺容量はさらに低下していくであろうと著者らは指摘しています。

気道閉塞の可能性にも少し触れられていて興味深かったですね。好発はしないけれど、と。胸郭の回旋→気管支の回旋、転位、圧迫が起こり、息が上手く吐けなくなるよね、という指摘はなんともまぁロンの話とも通じるものですし(だからWebinar中にこの記事が話題に出てるんですけど)。下気道閉塞は症状の進行とともに出てくる可能性があるけど、これは基本的には気道内の分泌物が上手く排出されないことによって起こる慢性炎症によるものだから、Bronchodilators (拡張薬)の使用で改善できるはずだ、という話も面白かった。ロンがよくアメリカで喘息が過診断されすぎている、殆どの患者がきちんと呼気を作ることができれば改善するはず、というのもこのへんですよね。胸郭が回旋されるということは当然横隔膜も回旋されているというわけで。Leverageを失った横隔膜は力を発揮できなく6なり、出力が低下する - これはMechanicalなものであり、Myopathy起因とは異なるのではないか、とのこと。

んでんで。

重度側弯症の患者の呼吸パターンは休息時、運動時、睡眠時の全てにおいて変わる、という指摘がこの論文のキモでしょうか。TV(Tidal Volume, 一回換気量)減少により、呼吸数が上昇。横隔膜が作る圧が上昇していることから、吸気努力は通常の2倍近くにまで上がることもあり、まだ呼気の際には腹壁による呼気貢献も上昇しなけれればいけないとのこと。

Webinar中に「胸郭はアコーディオンなんだ」とRonが言ったのと非常に呼応したなと思ったのがChest Wall Movementの箇所。以下抜粋ですが、

"Radiological studies have shown that the movements of the diaphragm are greater on the side of the convex spinal curve (p.31).” (…という表現を使いながら文献引用を伴わないのは、私の中ではNGではあるのですが)

つまり、側弯症の凸側の横隔膜のほうが移動域が高い、と。特発性脊柱側弯症の90%以上が右への湾曲を示していますから、つまり右の横隔膜のほうが移動域が大きいということになりますね。同様に、凸側の肺胞換気量 (alveolar ventilation)が多く、VentilationとPerfusionのミスマッチが起こるので、特発性側弯症患者は休息時、軽度の炭酸正常状態 (normocapnia)でありながらも低酸素症になるという報告があるそうで。軽度の側弯症でも運動時に呼吸困難となり、エクササイズ・キャパシティーは落ちるんだそう。ボルトさん、競技転向してサッカーで花開かなかった原因のひとつはこれかも、と読みながらぼーっと妄想してみたり…。そんで睡眠時には中枢型低呼吸または無呼吸状態になりやすいみたいでですね…。これだと、例えば運動による身体にかかったストレスからとかケガからの回復に必要な休息が十分にとれなさそうですよね。側弯症抱えたアスリートは大変だ。
側弯症と呼吸機能_b0112009_13430516.png
側弯症があってもなくても、なんですけどやっぱりできるかぎりアコーディオンを左右両方にくねくね広げられるような、前額面、水平面、矢状面の3平面でできるかぎり胸郭の自由度を高め、維持できるようなエクササイズを続けていくことは大事ですね。

第3回のWebinarも楽しみです!


1. Tsiligiannis T, Grivas T. Pulmonary function in children with idiopathic scoliosis. Scoliosis. 2012;7(1):7. doi:10.1186/1748-7161-7-7.
2. Starkey C, Brown SD. Examination of orthopedic and athletic injuries. 4th ed. Philadelphia, PA: F.A. Davis Co; 2015.
3. Magee DJ. Orthopedic physical assessment. 6th ed. St. Louis, MS: Elsevier Saunders; 2014.
4. Prentice WE. Principles of athletic training: a guide to evidence-based clinical practice. 16th ed. New York, NY: McGraw Hill Education; 2017.
5. Praud Jaen-Paul, CE. Chest wall function and dysfunction. In Kendig’s disorders of the respiratory tract in children. 7th ed. Edited by: Chernick V, Boat TF, Wilmott RW, Bush A. Philadelphia, PA: Saunders Elsevier; 2006:733-746.
6. Campbell RM, Smith MD, Mayes TC, et al. The effect of opening wedge thoracostomy on thoracic insufficiency syndrome associated with fused ribs and congenital scoliosis. J Bone Joint Surg Am. 2004;86-A(8):1659-1674.
7. Boyer J, Amin N, Taddonio R, Dozor AJ: Evidence of airway obstruction in children with idiopathic scoliosis. Chest. 1996;109(6):1532-1535.

  by supersy | 2020-05-13 14:30 | Athletic Training

<< 大腿四頭筋腱(Quadrice... オンライン授業を初めて履修する... >>

SEM SKIN - DESIGN by SEM EXE

AX