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スポーツ関連脳振盪診断のための身体検査や重症化予防のための早期有酸素運動についての最新エビデンスレビュー。

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●脳振盪診断の一環としてのPhysical Exam

スポーツ関連脳振盪(Sport-Related Concussion, SRC)の診断は難しい、というのは現場に出ている方なら思わず頷いてしまう事実かなと思います。症状は多岐に渡り、その全てが目に見えて明らかなわけではなく、脳振盪に非特異的なものも多い。加えて、主観的な訴えばかりに囚われてしまうとunder-reportなどの壁にぶつかってしまうことも珍しくありません。

では、既往歴チェックと認知評価をした後、ごく短い身体検査(A Brief, Focused Physical Examination)をしてはどうか、というのがこの論文1の焦点です。本文では脳振盪患者の症状の出方、感じ方は人それぞれなので完璧なサブタイプに分類することはできないが、最も顕著な身体所見や症状(predominant physical signs and symptoms)を見つけることが後に患者がPersistent Post-Concussive Symptoms (PPCS)を呈してきた際の効果的な治療方針の決定へと繋がるのではと論じられています。なるほど、私もここらへん曖昧なまま頭でごっちゃにしていましたが、著者らはPost-Concussion Syndrome (PCS)とは脳震盪受傷後、患者の自律神経のバランスが崩れ、脳血流が減少している状態を指すと考えているようで、脳代謝異常を伴わない頸椎や前庭・眼球、気分外傷後障害とは区別されるべきだ、と提言しています(私の不勉強で、これがUniversalな理解なのかあくまでも現時点ではひとつの意見なのかは測りかねます、後者寄りの前者かなという気はしておりますが…)。分類はざっと分けるとこんな感じ。

 1. Autonomic/Physiological PCS: 非特異的身体所見・症状、初期運動耐性欠如
 2. Cervicogenic PTD: 頸椎関連身体所見・症状、末期運動耐性欠如
 3. Vestibulo-ocular PTD: 前庭動眼関連身体所見・症状、末期運動耐性欠如
 4. Mood-related PTD: 感情的・認知的症状、目立った身体所見なし、運動耐性あり
  *PTD: Posttraumatic Disorder

ちなみに、初期/末期運動耐性欠如はこういう訳がベストなのかわかりませんが、英語ではEarly/Late Exercise Intoleranceと表記されており、具体的には前者が年齢から推測される最大心拍数の<70%で運動耐性欠如(= 症状が悪化するなどして運動継続が不可能になる)が出現、後者が>70%で出現、という定義分けらしいです。70%だったらどう判断するんだろうって思っちゃうのは余計なお世話?ちなみにちなみに、著者らはMood-related PTDの場合は精神科医(Psychiatrist)、心理学者(Psychologist)、または神経心理学者(Neuropsychologist)を含むMultidisciplinary Team Approachが必要不可欠だとしています。こういう細かい一文を省かずしっかり書いているところがやっぱり素敵、素晴らしい(完全にファン目線)。

んで。実際に行われるべき身体検査ですが、Buffalo Concussion Physical Examination (BCPE)と言う名前で以下の項目の検査が推奨されています(詳細はリンク先参照)。
・Orthostatic Vital Sign: 仰臥位と立位(1分後)での血圧、心拍数、症状(dizziness/lightheartednessなど)の比較
・Cranial Nerve Exam
・Oculomotor/Ophthalmologic Exam: 眼底鏡検査、パスートにサッケード、VOR、NPC
・Cervical Exam: 亜急性頸椎損傷は脳振盪と至極似た症状を引き起こすこともあるので、スパズム、圧痛に可動域をチェックする
・Vestibular Exam: 継ぎ足スタンス、継ぎ足歩行(Dual-task化しても良し)

Orthostatic Vital Signを事前に取った状態で医師の診察が開始できれば、BCPE完了までには5分程度しかかからないそうです。今までに治療指標としてのDr. Leddyの提唱するBuffalo Concussion Treadmill Test (BCTT)やBuffalo Concussion Bike Test (BCBT)についてはこのブログでも言及してきました(以下のリンク参照)が、同じものを診察のための運動テストとしてもここで足してもいいのでは、とも書いてありました。運動耐性があるかどうかを見る…つまり、上のカテゴリー分けを決定づけるために有意義なSupplemental Testではないか、というわけなんです。BCTT/BCBTは身体的運動を伴いますが、既に先行研究2によって中高生患者を相手に脳振盪受傷後一週間以内に行っても安全であると示されています。


ここんとこで重要そうな文章だなと思ったのが、"Early (<70% of max HR) exercise intolerance at the initial examination is very sensitive for diagnosing physiological concussion, whereas exercise intolerance later (>70%) in the test is suggestive of other cause of the symptoms such as cervical injury and/or vestibulo-ocular subsystem dysfunction."ってところでしょうか。ここがかなり評価の分かれ目になると思っても良さそうです。

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●身体検査の重要項目

ではBCPEに関してもう少し詳しく見ていきましょう。こちらの論文(↑)3がちょうどいいかと思います。急性脳振盪患者と健康なコントロール群に合計82人の中高生アスリート(男59人、女23人、平均15.60歳)を集め、Blindedな医師がBCPEを用いて診察を行ったというこの実験では、「受傷後平均4.4±2日後に行ったInitial EvaluationではBCPEは効果的に脳振盪患者と非・脳振盪患者を区別することができた」そう。中でも効果的だった項目は頸椎圧痛(p = 0.0055)、パスート(p = 0.0001)、NPC (p = 0.0002)、水平サッケード(p = 0.0001)、VOR (p = 0.0002)、継ぎ足歩行(p = 0.0009)。第二回来院時(初回来院時より平均13.6±1日後)の評価では脳振盪患者52人中41人が既に回復を見せていたそうなのですが、この時点でもパスート(p = 0.0001)、NPC (p = 0.0002)、継ぎ足歩行(p = 0.0002)は症状が残っている患者と消失した患者をDifferentiateするのに有効だったそうです。

これ、地味にすごいですよね。Baseline Testingしてなくても(= 各個人の「通常」「正常」を手間をかけて定義しなくても)BCPEだけでも区別が可能っていうことですから。結論にはもちろん「脳診断にこのテストを単独では使わない」「他のテストと併用すべし」と書かれていますが、Additional Toolとしての力はかなりあるのでは、という印象です。

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●心拍数から重症化患者を事前に予期できるか

ちょっとずれますが、こちら(↑)4はBCTTについて。脳振盪受傷後BCTTを行い、測定された心拍数閾値が135 bpm未満だと回復までに>21日かかる…という先行研究2があるらしいのですが、休息時の心拍数にはかなりの幅があるし、絶対的なCut-off値を示すより個々に合ったもののほうがいいだろう、ということで、今回は「BCTT心拍閾値と休息時HRとの差がどれほど少ないと脳振盪からの回復に時間がかかると予期できるか」という相対的なCut-off値探しに焦点が置かれています。

被験者となったのは10日以内に脳振盪を受傷した13-18歳の中高生アスリート130人。うち27人を「Rest」組、51人は「Placebo」組、52人は「有酸素運動」組とし、それぞれ介入を行いました。…で、結果に飛んでしまうとこんな感じ。有酸素運動組は52人中2人しかPPCSを発症した人がいなかった&心拍数の差に相関がみられなかったので分析は行っておらず、Rest組とPlacebo組のみの結果になります(↓)。
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Rest組でPPCS発症した患者(n = 4)の心拍数差(△HR)は35.25±9.5 bpmで、順調な回復を見せた患者(n = 23)の心拍数差は75.57±26.4 bpm(p = 0.01)、Placebo組では43.43±20.5 bpm vs 63.73±20.9 bpm (p = 0.04)。Cut-off値を≦50 bpmとすると、PPCS発症のPredictorとしての感度が72.73% (95%CI 46.41-99.05%)、特異度が77.61% (67.63-87.59%)になるんだそうです。2x2テーブルがなかったので本文のデータを元に作ってみました。
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つまるところの結論: 急性脳振盪患者が休息時のHRと比較して運動時に>50 bpmも上昇させられなかったら(= 症状が悪化するなどしてそれ以上の強度の運動継続が不可能)、その患者は回復までにかなり(>21日以上)かかると予測がつく。初診時に重症化予備軍患者が認められたら、それだけ早い治療介入開始が可能になりますよね。多々負えば有酸素運動とか。それで重症化を避けられたら大したもんじゃないですか。ふむふむ。
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●重症化予防策としての早期有酸素運動介入

この流れで、最後にこの研究5です。待望のRCT!脳振盪から受傷10日以内の中高生アスリートを被験者に、Placebo組(n = 51, 平均15.4±1.7歳, 受傷から平均4.8±2.4日後)と有酸素運動組(n = 52, 平均15.3±1.6歳, 受傷から平均4.9±2.2日後)にランダムに分けてPlacebo組は毎日ストレッチを、有酸素運動組は毎日BCTTプロトコルに則った有酸素運動を繰り返したそうな(両グループ共受傷後2日は介入せず休息をしたそうですが)。ちなみにこの被験者数は事前にパワー分析を行い、各グループ最低50名必要である、とされているのを越えてきています。研究の性質上、リサーチ助手や患者さんは介入内容を把握した状態で検証を行ったのですが、患者が臨床的に回復したかどうかを決めたPhysicianは患者のグループアサインメントにBlindだったそうです。さすがにこのへんは丁寧に作られています。
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結果です。回復までにかかった日数の中央値はPlacebo組が17日(IQR 13-23日)、有酸素運動組が13日(IQR 10-18.5日)と有酸素をしたほうが著しく短く(↑左グラフ、p = 0.009)、症状の減少も有酸素運動組のほうがより速かった…ですが、これは統計的に有意な差は見られなかったとのこと(↑右グラフ、p値未報告)。気になるCompliance Rateですが、ストレッチも有酸素運動も等しく高かった(86.6%, 83.8%, p = 0.16)そうで。まぁSelf-reportなので本当に正確かどうかは分かりかねますが。

結論としては早期有酸素運動は回復を早め、脳振盪後の後遺症を和らげたり予防する効果があるのではないか、ということでした。平均4日の回復の差は、短いようで中高生には社会的、学業的な意味でも大きいのではないだろうか、と論じられていて、それは確かにそうだよな、と思います。私だって4日早くケガや病気から職場復帰できたら嬉しい。ただ、今回特筆すべきはAdverse Effectでしょうか。今まではBCTT/BCBTプロトコルは安全である、症状がひどく悪化したり、回復が長引くことはない、という結果や報告ばかりでしたが、今回の研究では実は一件の「ニアミス(本文まま)」があり、被験者の一人がBCTT中に症状が著しく悪化。研究からWithdrawしたそうな。この方がこのあとどんな経路を辿って回復したのか(またはそもそも回復したのかどうか)は分からず仕舞いですが、今まで安全安全と言われてきた中、初めてこういう報告があったことは心のどこかに留めておきたいと思います。

そんなわけで、Dr. Leddy関連の論文4つのまとめでした!いやしかし、世に出している論文の数、ペースと質が半端じゃないですDr. Leddyさん…。尊敬と畏怖の念しかありません。これからもうきうき論文読ませていただきたいです!後発研究も楽しみにしています。

1. Haider MN, Leddy JJ, Du W, J Macfarlane A, Viera KB, Willer BS. Practical management: brief physical examination for sport-related concussion in the outpatient setting [published online November 7, 2018]. Clin J Sport Med. 2018. doi: 10.1097/JSM.0000000000000687.
2. Leddy JJ, Hinds AL, Miecznikowski J, et al. Safety and prognostic utility of provocative exercise testing in acutely concussed adolescents: a randomized trial. Clin J Sport Med. 2018;28:13Y20. doi: 10.1097/JSM.0000000000000431.
3. Leddy J, Lesh K, Haider MN, et al. Derivation of a focused, brief concussion physical examination for adolescents with sport-related concussion [published online on October 29, 2018]. Clin J Sport Med. doi: 10.1097/JSM.0000000000000686.
4. Haider MN, Leddy JJ, Wilber CG, et al. The predictive capacity of the buffalo concussion treadmill test after sport-related concussion in adolescents [published on April 24, 2019]. Front Neurol. 2019;10:395. doi: 10.3389/fneur.2019.00395.
5. Leddy JJ, Haider MN, Ellis MJ, et al. Early subthreshold aerobic exercise for sport-related concussion: a randomized clinical trial [published on February 4, 2019]. JAMA Pediatr. 2019. doi: 10.1001/jamapediatrics.2018.4397.

  by supersy | 2019-06-21 20:30 | Athletic Training

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