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めまいと前庭についてのお勉強。

昨日、「めまい、バランス障害に対する理学療法」という講習に参加してきました。講師はまっちゃんこと松村将司先生!杏林大学にお勤めの同い年のPTさんで、教育でも臨床でも第一線で活躍されてる尊敬すべき方です。そんなに毎日忙しいのに週末は日本全国を飛び回り更に忙しくセミナー等講演をしてらっしゃるのですが、東京開催で今年日程が合うのは今回しかなさそう!とぎりぎりで申し込んで私も参加することができました。


眩暈というと2012年(↑)にブログ記事を一回だけまとめたことがあるのですが、私の知識はそこらへんで止まっていました。今回きちんとお勉強してみて、学んだこと印象に残ったこと、講習が終わってから自分で調べ足したことなどを断片的にメモ的に書き残しておきたいと思います。
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●BPPVのサブタイプ
まず、お恥ずかしいことに良性発作性頭位めまい症(BPPV)にサブタイプ(↑)がある1ことを知りませんでした。耳石がどの区画にあり(後半規管、外側半規管、前半規管↓)、どこに付着・または浮遊しているかによって症状が異なり対処も変わるので、ここの分類を知っておくこと(中でも半規管結石症とクプラ結石症を理解しておくこと)は非常に大事なように感じます。上の発症率のグラフは疫学論文にあったもの(Figure 11)と講習資料に使われていた日本語訳を組み合させてもらってます。あっちなみにまっちゃんの講習資料はとても丁寧に作りこまれており、英語資料にはない表現(i.e. ライトクプラなど)もあって、英語論文と見比べるだけでもなかなか勉強になります。
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●専門性へかかるバイアス
講習冒頭で、眩暈にも様々な種類があり、中でも末梢性(耳性)には良性発作性頭位めまい症(BPPV)、前庭神経炎、メニエール病、突発性難聴などが考えられる…という説明がありました。実際の発症数のトップ3は1) BPPV; 2) メニエール病; 3) 前庭神経炎らしいのですが、臨床感覚として「メニエール病」って言われている患者多くない?という話が印象的でした。…というのも、メニエール病の特徴に「精神的・肉体的疲労やストレス、睡眠不足と関りがある」という個所があるんですが、「疲れてます?ストレス感じてます?睡眠取れてます?」って感じて「No」って答える眩暈患者はたぶんあんまりいないよねって話で…。

なるほど。確かに論文2,3を見てみても、BPPV患者は高い不安感・パニックを抱えた状態で医療機関を受診しており(これはそうだよね、しんどいよね、わかるよーという感じ)、それは適切な治療介入で改善こそするものの、症状がほとんど消失しても健常な人と同じレベルまでは下がらないことが見て取れます。これは当事者ではない目線からするとともすれば不思議(なんで症状消失したのにまだ気分が落ち込んでるのさ?という)。だからこそ、言葉の響き以上に深刻に受け取られるべき問題です。症状が消え(= being clinically healed/recovered)ても、不安は残るんですね。

患者が抱える不安度は患者の最終学歴(Levels of Education)と反比例するのでは(被験者の数が少なすぎて統計的に有意な差が出たわけではないのですが)という考察3もなかなか興味深かった(↓)です。これは教養がある人のほうが「今はひどい症状が出ていても指示通り治療が進めばきっと良くなるはずだ」という医者の言うことを信頼し、素直に信じやすいのか、はたまた学歴が無い人のほうがその日その日の労働と稼ぎに頼っているため、「今日働けない」ということに大きな不安を感じやすいのか?理由はわかりませんが、Education = 学位を取ると考えず、Education = 患者の知識に厚みと深みを持たせること、と考えると、患者が病状把握、治療の効果を実感しやすいよう、また、再発のリスクがどれほどあり、次に起こった場合はどんな対処法が有効なのかをしっかり専門家が各患者にコミュニケーションする必要があることを示唆しています。
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Gunes & Yuzbasioglu, 20193、Table3より

おっと少し話が逸れました。つまるところメニエール病の診断を、本来の確実診断基準の一部である「20分以上の眩暈エピソードが2回以上」などの条件をきちんと満たしているかどうか確認せず下してしまっている案件はきっと少なくないのだろうと…。端的に言ってしまえば誤診が多い、Diagnostic Biasがある可能性も否定できないよねって話も出ました。

これに関して、ひとつのシステマティックレビュー4を読んでみました。42件の論文(総患者数21,637人、女性患者59.0%; 95%CI 58.3-59.7%、患者平均年齢55.8±8.39歳)のまとめなんですが、診断している専門家の専門性によって最終的診断で付く名前に偏りは生まれるのかって面白い観点からまとめられているものです。

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Parker et al., 20194、Table 2より

もちろん、各専門家には(正しい判断をして)その専門性に特化した患者が集まりやすいという患者層バイアスの影響はあると思うんですけどね。それを踏まえても誰が診断したかで最終診断名がかなり違うってのが分かります。中でも救急医(Emergency)による診断のBPPVの少なさ、Cardiacの多さはその思考プロセスを見事に反映している気がしてなりません(別に悪いと言っているわけではありません。命に関わる重篤な問題から除外しようというのが救急医の思考回路でしょうから)。
もうひとつ、この論文が言及している点で面白いのが、時代と共に見る診断数の移り変わり!時代と共にそれぞれの疾患の理解も進み、診断ツールも発展を続けているからか、診断数そのものの変化もここ10年だけ見てもかなりの変動があるのかわかります(↓)。具体的にはBPPVやVestibular Migraineの診断が近年ぐんと増え、Meniere's Diseaseの診断は逆に減っているようです。
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Parker et al., 20094、Figure 2より

●骨ミネラル濃度
しかし再発率が高いことも含め、なんでBPPVという現象は特定の人に起きてしまうんだろうなぁというのはやっぱり疑問として残ります。論文11件(総患者数1982人)をレビューした今年発表の最新メタ解析論文5によれば、骨粗鬆症または骨減少症の患者はBPPVになるリスクが3.27倍にも高まる(OR 3.27, 95%CI 2.66-4.03)んだそう。具体的には骨粗鬆症だと3.48倍(OR 3.48, 1.86-6.51)、骨減少症だと1.75倍(OR 1.75, 1.01-3.04)とのことで、やっぱり骨ミネラル濃度の低下はBPPVの発症と関連性がありそうです。加齢とともに発症数が増えるというのもここらへんがきっと関係していることでしょう。ふむー。

ともあれ。
今回のまっちゃんの講習、明確なメッセージがあり、非常に有意義でした。BPPVの疑いを深めていく中で、排除すべき要素にどんなものがあるのか、そしてその一つである頸椎の不安定症などはどう的確除外していけるのかなどとても効率よく学べました。友人だからという贔屓目を無しにしても、彼の講習はおススメです!このあと、6月は大阪や7月は沖縄、鹿児島、9月は宮崎に10月は福島、熊本などあちこち飛び回って講習されるようなので、興味のある方は彼のFacebookなどから予定をチェックチェックですよ!

アスレティックトレーナー(AT)仲間に向けて書くと、ATに眩暈や前庭の知識などあまりなくてもいいだろうと感じている方も少なくないかもしれません。そんなの我々の専門外だろうと。しかし近年のスポーツ整形外傷関連の報告を見ていても、例えば「(Passiveな安静ではなく)脳振盪の(Activeな)治療やリハビリ」という概念が広がる中で前庭リハビリテーション (Vestibular Rehabilitation) の果たす役割はこれからも大きくなる一方だろう6,7と予測ができますし、これをATが知らないというのは恐らく年を追って大きな問題になってきます。
更に、我々が現場でよく見る足関節慢性不安定症(CAI)8前十字靭帯の断裂9受傷後、患者のバランス能力が低下することはよく知られていますが、これらの患者はより視覚情報にのみ頼ってバランスを取るようになる(= Visual Dominance)…つまり、感覚システム統合に不具合が生じることも認められています。元々バランスはVisual (視覚)、Somatosensory (体性感覚)、Vestibular (前庭)の3つの感覚システムがその状況に合うようお互い協力・微調整し合いながら保たれるべきもので(i.e. 暗い場面では体性感覚と前庭の活動が上がることで、足元が柔らかく不安定な場所では視力と前庭の活動が向上することでバランスが保たれる)、10,11 特定の誰かが支配的になることは好ましくありません。前庭という感覚システムのポテンシャルを最大限に引き出すためにも、前庭の解剖、そしてリハビリの知識は全てのATが触れておいて損はないと思いますね。最低でもBPPV関連ならDix-Hallpike TestとEpley's Maneuverくらいは知っておかないとね(これは2012年の前述の記事にまとめたので割愛)。YouTubeにも様々な有益な動画など転がっていますし、特別複雑・難しいテクニックだというわけでもありません。不慣れだと言う方は是非これを機に勉強してみてはいかがでしょう?

あっ、おまけに。忘れないように書いておくと、Epley'sをやる際の、「首のターンは素早く行うと耳石が正しい方向へ転がりやすい」というアドバイスは貴重だったなぁ。正しい角度に顔を向かせても、ゆっくりだと逆方向に転げてしまうということがあるようです。Violentでない程度に、患者の許容できる範囲で、しかし素早く次のターゲット角度を向かせることが有効な治療への秘訣なのかなと思いました。

1. Higashi-Shingai K, Imai T, Kitahara T, et al. Diagnosis of the subtype and affected ear of benign paroxysmal positional vertigo using a questionnaire. Acta Otolaryngol. 2011;131(12):1264-1269. doi: 10.3109/00016489.2011.611535.
2. Kahraman SS, Arli C, Copoglu US, Kokacya MH, Colak S. The evaluation of anxiety and panic agarophobia scores in patients with benign paroxysmal positional vertigo on initial presentation and at the follow-up visit. Acta Otolaryngol. 2017;137(5):485-489. doi: 10.1080/00016489.2016.1247986.
3. Gunes A, Yuzbasioglu Y. Effects of treatment on anxiety levels among patients with benign paroxysmal positional vertigo. Eur Arch Otorhinolaryngol. 2019;276(3):711-718. doi: 10.1007/s00405-019-05297-9.
4. Parker IG, Hartel G, Paratz J, Choy NL, Rahmann A. A systematic review of the reported proportions of diagnoses for dizziness and vertigo. Otol Neurotol. 2019;40(1):6-15. doi: 10.1097/MAO.0000000000002044.
5. He LL, Li XY, Hou MM, Li XQ. Association between bone mineral density and benign paroxysmal positional vertigo: a meta-analysis. Eur Arch Otorhinolaryngol. 2019;276(6):1561-1571. doi: 10.1007/s00405-019-05345-4.
6. Murray DA, Meldrum D, Lennon O. Can vestibular rehabilitation exercises help patients with concussion? A systematic review of efficacy, prescription and progression patterns. Br J Sports Med. 2017;51(5):442-451. doi: 10.1136/bjsports-2016-096081.
7. Park K, Ksiazek T, Olson B. Effectiveness of vestibular rehabilitation therapy for treatment of concussed adolescents with persistent symptoms of dizziness and imbalance. J Sport Rehabil. 2018;27(5):485-490. doi: 10.1123/jsr.2016-0222.
8. Song K, Burcal CJ, Hertel J, Wikstrom EA. Increased visual use in chronic ankle instability: a meta-analysis. Med Sci Sports Exerc. 2016;48(10):2046-2056. doi: 10.1249/MSS.0000000000000992.
9. Grooms D, Appelbaum G, Onate J. Neuroplasticity following anterior cruciate ligament injury: a framework for visual-motor training approaches in rehabilitation. J Orthop Sports Phys Ther. 2015;45(5):381-393. doi: 10.2519/jospt.2015.5549.
10. Peterka RJ. Sensorimotor integration in human postural control. J Neurophysiol. 2002;88(3):1097-1118.
11. Peterka RJ. Sensory integration for human balance control. Handb Clin Neurol. 2018;159:27-42. doi: 10.1016/B978-0-444-63916-5.00002-1.

  by supersy | 2019-06-10 20:00 | Athletic Training

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