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ユーススポーツにおける突然死の実態。

4日前に発表になったこの論文。これはMust-read!ってことでまとめてみます。
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高校や大学生アスリートの突然死に関してはそこそこ論文出てるけど、ミドルスクール(≒ 中学校)とか校外ユースリーグ、レクリエーショナル・スポーツとかの統計ってないよね?ということでまとめられたこの論文。オープンアクセスですのでお時間がありましたら是非皆さまご自身でご一読ください。

んで。
ユーススポーツにおける突然死の実態。_b0112009_17593904.png
2007年8月から2015年12月までの6-17歳のアスリートの突然死の実態調査をしました、というのが大まかな内容。この8年5か月の調査期間中に45件の死亡事故があったそうです。年々増加傾向があるのが気になります(↑文中のFigure 2: Frequency and incidence rate of sudden death in youth sports by yearより)。

このボコボコのグラフをえいえいと平らに踏み固めると年間平均は約5件で、被害者のうち80%(36/45)が男子、死亡者の平均年齢は13±2歳。試合中(13/45, 28.9%)よりも練習中に起こる(32/45, 71.1%)ことが多く、死亡事故発生率の高い種目はバスケットボールが一番(16/45, 35.6%)、次に野球とアメフト(それぞれ7/45, 15.6%)、サッカー(6/45, 13.3%)だったそう。Settingとしてはミドルスクールが半数以上(26/45, 57.8%)で、次いでユースリーグ(18/45, 40.0%)、レクリエーショナル・スポーツで起きた死亡事故は1件にとどまったとのことです。

最も気になる死亡理由ですが、やはり心疾患系が最も多く(34/45, 75.6%)、うち31件(91.2%)は非外傷性で、残り3件(8.8%)は心臓振盪だったそうです。他に理由として挙げられたのは外傷性脳損傷(3/45, 6.7%)、身体への強い衝撃(2/45, 4.4%)。他、一件ずつと少数ではありますがアナフィラキシーショック、落雷、溺死、労作性熱射病があり、2件に関しては情報がなく「不明」とのこと(↓文中のFigure 1. Frequency of sudden death in youth sport by sport and cause of deathより)。
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んで。
考察部分ではやはり「近年の死亡事故の増加傾向」が推測されています。若年アスリートの数が単純に増えたから?でもそれならばIncident Rate (受傷率)自体が上がることはないよね?メディアや一般の興味がよりこちらに向くようになったから?昔の情報が既に消えてしまっていて、古い死亡事故ほど見逃されてしまっている可能性もあるかな?などなど様々な可能性が議論されています。原因の特定にはさらなる研究が必要ですが、個人的には若年スポーツの強度上昇、メディアなどで若い子たちがもしかしたら「すごいプレー/激しいプレー」を目にすることが増え、危険なテクニックを基礎力が欠如した状態で試してしまう機会が増えたのでは?とも思っています。

まとめると、ミドルスクール、ユースリーグ、レクリエーショナル・スポーツでの死亡事故は1) 男子に多い、2) 練習中に多い、3) バスケットボールに多い、4) 心疾患が原因のNo.1である、という特徴があり、これは今までに報告されている高校や大学生アスリートに見られる傾向と一致するのだそうです。若いから何が違うっていうわけじゃないんですね。個人的にはユース野球などで起こると言われている心臓振盪がもっと多いのではと思っていたので、高校生・大学生と大差がないというのは意外でした。

この論文の最後にこれらのSettingの医療形態はまだまだ未熟なのではないか、きちんとしたMedical Coverage(医療従事者の配置、監督)はあるのか、という問題提起が投げかけられています。これはもちろん私も同意見ですし、上に報告されている死亡事故傾向を見る限り、少なくともスポーツの安全性を確保するという意味では、例えば高校や大学で勤務していたアスレティックトレーナーが何も特殊なトレーニングを積む必要なくそのままミドルスクールやユースリーグに移行して勤務しても問題なく対応できるはずだ、というのは心強いメッセージになるのではと思います(少なくとも、近年アメリカではミドルスクールでのAT雇用が爆発的に増えており、現在高校・大学に勤務している多くのATがより良い労働環境を求めてミドルスクールでの勤務を選択肢に入れ始めていますから)。

しかし、なんというか、この論文の全てをそのまま鵜呑みにして、「女子はともかく男子スポーツにMedical Coverageを充実させよう」「試合はともかく練習だ」「アメフトは二の次で、まずはバスケットボール!」と結論に飛び過ぎてしまうのも新たな問題を生む可能性があります。今回の報告でともすれば「Low-Risk」と見做された子たちに対して安全の担保をおろそかにしていいということではないと思うんです(そんなメッセージを送ってしまうのも著者らの意図ではないと思います)。

ただ、安全対策をこれから強化していく上で、全世界全てのアスリートに対する安全確保が最初から完璧にはできないというのも事実。順番をつけていくのであれば高いリスクが認められる環境から、というのは当然の思考だと思います。これからもこういった疫学の統計がしっかりと報告、検証され、それを社会に反映させて活かしていけるような仕組みを補強し続けないといけませんよね。いちアスレティックトレーナーとして、私も研究界の最前線を走っている研究者さんが提供してくれるサイエンスをありがたく受け取り、どう実践に繋げていくか試行錯誤するプロセスを怠けずに重ねていけたらと思います。

1. Endres BD, Kerr ZY, Stearns RL, et al. Epidemiology of sudden death in organized youth sports in the united states, 2007-2015 [published online April 23, 2019]. J Athl Train. 2019;54(4). doi: 10.4085/1062-6050-358-18.

  by supersy | 2019-04-27 09:00 | Athletic Training

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