NATA最新Position Statement、「関節脱臼時の適切な初期対応」を読み解く。

わわっ、最新NATA Position Statement1 が出ました!「関節脱臼の初期対応」…これは初めて書かれるトピックです。読まないわけにはいかないでしょ!ということで、早速超個人的まとめです。興味がある方は全文キチンとご自分で読まれることをお勧めします。
b0112009_20270917.png
まず、冒頭に大前提として「各ATは各々が住む州の法律に則り、また、監督役である医師や、雇用主である組織の打ち出したプロトコルを理解し、特定の脱臼を整復する自らの教育的背景や経験をわきまえた行動を取ること」と強調して述べつつ、「脱臼した関節を修復するかどうか決める際、考慮する点はいくつかある」と説明し、それらには、
- 脱臼をしてからどれほどの時間が経っているか(時間が経てば経つほど整復は難しくなる)
- 整復そのものの難易度(i.e. 肩 vs 股関節)
- 患者の年齢と総合的健康状態
- 付随する骨折の有無
…などが挙げられています。中でも重要なのは神経血管合併症があるか、そしてこれが反復性脱臼(recurrent dislocations)であるかどうかという二つの点であり、当然ながら整復しようとして新たな外傷を生じさせてしまうのは好ましくない、全ての状況でonsite(現場)の整復が行われるべきではない、と明言されている点は肝に銘じておきたいですね。まずは状況を冷静に判断せよと。やらない勇気もあるぞと。
*ちなみに今回のタイトルにappendicularとあるように、このPosition Statementで言及されている「脱臼」は非脊柱のものに限ります。

このPosition Statementには全部で27項目の推奨事項が含まれています。今回も各項目の推奨度がStrength of Recommendation(SOR) A, B, Cに分類されているので、いつも通り、A = what we must do、B = what we should do、C = what we can doと勝手に解釈して独断と偏見で私が重要だと思う個所のみ要約しながらまとめていきたいと思います。

●Legal Considerations (法律的側面)
- 州の法律、職場の規則をATと監督役の医師が一緒になってまずはしっかり復習すべし。もし州の法令や職場の規則がATの脱臼整復する能力を制限するようなものでなかった場合、医師が責任者となり、ATがどんな状況であれば脱臼整復を試みるべきか、どんなテクニックが用いられるべきか、細かくプロトコルを書き出すべきである(推奨度・C)。

●Technique and Skill Considerations (テクニックと技術的側面)
- 整復を試みる前に、患者と必要があれば保護者(i.e. 患者が未成年)の同意を得ること。医師は前もって適切な整復法についてATを教育し、指導、練習させるべきである(推奨度・C)。

●General Patient Management Considerations (患者のマネジメントに関する側面)
- 整復を行う前に患者の既往歴(i.e. 過去の脱臼・亜脱臼歴、手術歴)、現在の症状(i.e. 痺れ、頸部痛、意識レベル)などまずはきちんと評価を下し、神経系、血管系の合併症の有無も確認すること。骨折の疑いがある場合と、患者の骨端軟骨板(成長線、epiphyseal plates)がまだ閉鎖してない場合は整復は行うべきではない("should not be undertaken..")。一度整復を試みてそれが上手くいかなかった場合は、複数回トライするよりも固定してreferすべし(推奨度・C)。
- 整復が成功し完了した場合、神経血管の再評価を行い、その評価結果をきちんと記録すること。整復後は患部を固定し、痛みとスパズムに対する治療と更なる評価・治療のためにreferするべきである(推奨度・C)。

●Joint-Specific Recommendations (関節別推奨事項)
- 肩甲上腕関節: 前方脱臼の診断が明らかな場合は初回・反復性に関わらず整復を試みて良い(当然医師との事前の意志疎通があってのこと)。しかし、骨折疑いや後方脱臼の場合は整復は行われるべきではないし、前方でも整復が失敗した場合も然り(推奨度・C)。
- 股関節: これも「整復可能」で、できれば医師と2名で行うのが理想的だが、必ずしも2人でやらなけれなばいけないというわけでもない。骨折と神経血管合併症のリスクが高いので慎重に評価すること(推奨度・C)。
- 膝(脛骨大腿)関節: こちらも「整復可能」だが、神経血管合併症に注意。複数の靭帯を同時に損傷している患者を診る場合、「膝が脱臼して自然整復した怪我」として同様に扱うこと。Immediate referralが好ましい(推奨度・C)。
- 膝蓋大腿関節: 「整復可能」(推奨度・C)。
- 腕尺関節と近位橈尺関節: 肘の脱臼整復はするべきではない。これは典型的肘脱臼であれば骨折、神経血管合併症を伴うからである。もし救急隊員の到着が何らかの理由で大幅に遅れる場合、医師の指導のもとATによる整復が行われてもいい場合もあるが、当然骨折・神経血管合併症を示唆する症状が無い場合に限る(推奨度・C)。
- MCP関節: 「整復可能」だが、骨折及び軟部組織の干渉(interpose)リスクは高いため慎重に行うべし(推奨度・C)。
- IP関節(手): 「整復可能」。骨折や軟部組織の干渉がある場合にはまずはレントゲンなど画像診断をする必要あり(推奨度・C)。
- MTP関節: 「整復可能」だが、骨折及び軟部組織の干渉リスクは高いため慎重に行うべし(推奨度・C)。
- IP関節(足): 「整復可能」(推奨度・C)。
*少し話がズレますが、以前に膝の脱臼についてはまとめたこともあります

●Special Population Consideration (特異的考慮点)
- シニア・アスリートは骨折のリスクが高まっているため、整復は行われるべきではない。患者が子供の場合、膝蓋大腿関節脱臼のみは整復を行ってもいいが、それ以外の部位は骨端軟骨板の影響も考えると整復はすべきではないし、これは糖尿病患者と癲癇発作によって脱臼が起こった場合も同様である(推奨度・C)。

その他考慮すべき点
お気づきでしょうか、今回のPosition Statementはその全てが推奨度・Cという特殊なものでしたね。それでも私はこのPosition Statementは歴史を変えうる、非常に画期的で革新的なドキュメントだと感じています。なんて言ったって、条件が整った環境下であるとはいえ、"AT can reduce a dislocation.."って明記されたんですからね!"ATs are qualified to effectively manage many musculoskeletal injuries, including joint dislocations (p.4)"とも明言されています。わくわくします。これを待っていたかのように米国AT教育でも脱臼整復がもっともっと積極的に教えらえるようになるんですから、ああ、職域がどんどん広がっていくのを最前線で見せてもらっている気分です。今回のPosition Statementを書くことに尽力してくださった大先輩方に改めて尊敬の意を示したいと思います。

これだけのリスクやアグレッシブさを伴っても脱臼の現地整復を推奨したかった背景にはimmediate reductionに伴う多くのメリットがあります。筋スパズム、腫脹が本格的に形成される前に整復が行われたほうが単純に簡単だし、軟部組織の損傷も最小限に抑えられるかもしれないし、痛みも軽減されるし、血流も復元され、軟骨部や皮膚の二次的細胞死亡も防げるかもしれません。当然リスクもあるわけですが、スポーツ現場に最も近いところにいるATという医療従事者が脱臼の整復ができないままそれに甘んじるなんて、妥当性もへったくれもないじゃないですか。

個人的に気になるのは、「interior GH dislocationは?(言及すらなかった)」ということと、「癲癇の発作によって起こる筋肉の収縮で、脱臼が起こることがあるなんて!」という驚きです(知らなかった!)。それから、このドキュメントに米国AT業界がどう反応するのかということ。医師界もね。願わくばこのPosition Statementを通じて一人でも多くのATと医師が連携を深め、それを患者への還元に繋げられますように…。

1. Rozzi SL, Anderson JM, Doberstein ST, Godek JJ, Hartsock LA, McFarland EG. National athletic trainers' association position statement: immediate management of appendicular joint dislocations[published online on January 4, 2019]. J Athl Train. 2019;53(12). doi: 10.4085/1062-6050-97-12.

  by supersy | 2019-01-07 23:15 | Athletic Training

<< 『Lever Sign Tes... アスレティックトレーナーは選手... >>

SEM SKIN - DESIGN by SEM EXE

AX