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引き続き、口呼吸の話: 睡眠時無呼吸症候群に対する、口呼吸介入の可能性。

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若年性閉塞性睡眠時無呼吸(Obstructive Sleep Apnea, OSA)の患者にアデノイド口蓋扁桃摘出(↑)をしても予後は意外と良くないんだそうです。一時的にアウトカムが改善しても、長期的には悪化して、戻ってしまったりとか。1 そうなってると、何か見落としちゃってるんじゃないかなぁ、根本の原因は何だろなぁってなりますよね。
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で、この論文(↑)2の著者らが考えたのが「口呼吸が原因では?」という可能性。口呼吸は口腔顔面形成・成長異常(Abnormal Orofacial Growth)を引き起こす3-6→口腔顔面形成・成長異常は睡眠時の呼吸異常(Sleep-Disordered Breathing, SDB)につながる、7,8 というそれぞれの関係性は報告されているのだから、これらを繋げて考えれば全ての原因になっているかもしれない口呼吸の治療も考慮すべきなのでは、という理論展開のはまぁ、考えてみれば至極当然ですよねぇ(豆知識ですけど、起床時の呼吸の92%、睡眠時の呼吸の96%は鼻呼吸を介して行われているべき9 なんですって。へーへーへー)。

そんなわけで、この研究で後ろ向きに検証されたのは
1. アデノイド口蓋扁桃摘出手術前、そもそもOSA患者に口呼吸患者はどのぐらいの割合いるのか?
2. 手術をすることによって、この異常行動癖はどう変化するのか?
3. (手術が成功しなかった場合、エクササイズによる呼吸・口腔介入は有効なのか?)
…ということみたいです。それでは早速結果です。
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OSA改善のため、アデノイド口蓋扁桃摘出手術(T&A)を受けた64人の子供のうち全員が著しく睡眠時異常呼吸関連の症状が改善したのですが(Table 1)、うち、35人の口呼吸は改善されず。手術前と術後6ヵ月で比較するとほぼ全員が口呼吸(63/64, 98.4%)だったところから半数くらいには減った(35/64, 54.7%)んですねぇ。
しかしよくよくこの2グループ(口呼吸グループ、n = 35 vs 鼻呼吸グループ、n = 29)の違いを見てみると、口呼吸がなくならなかった35人の患者は、術後口から鼻呼吸に改善された29人と比較して総症状、AHI(Apnea-Hypopnea Index, 睡眠一時間あたり何回呼吸異常が見られたかを数値化したもの。ちなみに無呼吸は最低でも10秒間呼吸が止まった状態と定義される)、換気空気量制限に酸素飽和度も全て著しく悪かった(Table 2)という劇的な結果になっています。
*こういうの見てると、もしかしたら手術で口呼吸から鼻呼吸に自然に戻れた子は、あくまで閉塞性睡眠時無呼吸症候群が先行して、ほかに手段がなくて口呼吸に切り替わった(だから物理的な閉塞がなくなったら何もせずとも鼻呼吸に戻れた)のかな、と思いますけど、手術をしても口呼吸が治らなかった子は、もしかしたら口呼吸という異常行動ありきで、そこから閉塞が起こったのかなぁという妄想も膨らみますよね。だから手術で「症状」のひとつである閉塞を除去しても結局根本が治ってないから他の症状が残るんじゃないかなぁ、なんて…。

んで。
改善幅の低かった口呼吸患者(n = 35)はさらにこのあと、いかに口呼吸が悪い影響を及ぼすか、介入するべきことかという教育を受け、実際にこれから6ヵ月間続けるようにとエクササイズの処方を受けたそうです(渡された資料はこちらこちら)。専門セラピストへの紹介状も渡し、改善に取り組むよう指導されたとのこと。
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ただ、当然というかなんというか、取り組んでね、といった全員が実際に取り組んでくれるわけじゃありません。術後から12ヵ月のFollow-upに来てくれた口呼吸患者18人のうち、9人が実際にエクササイズ・トレーニングを実施、残り9人はそれを実践してくれなかったらしいのですが、この2つの患者サブグループの経過の違いは一目瞭然でした(Table 4)。AHI(p = 0.015)、換気空気量制限(p = 0.003)に酸素飽和度(p = 0.037)も全てエクササイズ介入したほうが著しく改善されており、逆にエクササイズをしなかった患者群は術後6ヵ月の数値と比べてどの値も全く改善されていない、という結果になったわけです。
*もちろんこの2つのサブグループの違いは呼吸介入に継続的に取り組んだかどうか以上のものがある可能性はあります。家庭の社会経済的地位(socioeconomic status)、教育的背景、Comorbidityにコンプライアンス…。ですのでこのグループ間の差がそのまんまエクササイズをしたかしなかったかどうかの差だっ!とは断言しづらいですけれど、それにしたってふむーと考えさせられる結果ですよね。

結論: アデノイドや扁桃腺の肥大があり、睡眠時無呼吸症候群を発症した患者は睡眠時に鼻呼吸を使わない(nasal disuse)傾向にある。こういった口呼吸傾向が強い患者の中には、手術で気道を閉塞しているものを物理的に取り除いても通常の呼吸パターン(鼻呼吸)に戻るとは限らず、その場合は鼻呼吸に重きを置いたエクササイズ介入が有効かも知れない

Follow-up期間がそれなりに長い+被験者がコドモ、というのもあってか、実験期間中被験者がどんどん減ってしまったのが残念ですが、この結果はなかなか面白い可能性を示唆しています。手術だけでは口呼吸徴候の強い患者は十分に改善しない。逆に言うと、摘出手術を受ける前にこういう呼吸介入をやっていたらどうなっていたのか…?それが根本治療となり換気空気量や肥大が改善され、無呼吸症候群がそれだけで消失可能性もあったのか…(手術が必要ないケースもあったのか…)?そうであれば、手術の決断をする前の保存治療の第一歩として、全ての患者が一定期間取り組むべきものなのか?事前に何らかの計測をすることで誰が手術にrespondするか、誰がしにくいか見極めるスクリーニングのようなことはできるのか?というところも気になりますね。

そんなわけで過去の記事の内容と、今回の内容と、私がさらに追加で見つけた論文の情報を合わせると、口呼吸は脳の不活性を起こすし、Forward Head Postureになり、呼吸能力低下して有酸素運動機能も落ちるし、口腔顔面形成にも異常をきたし、3-6 噛み合わせが悪くなって10咀嚼効率が落ち、11 ドライマウス12や虫歯になりやすくなる13,14という説もありますし、鼻のフィルターを介さない呼吸でアレルゲンに敏感になった結果喘息になりやすくなったり、15 気道が狭まり睡眠時無呼吸症候群になったり、7,8 睡眠の質が下がることで慢性的疲労感が生まれたり、イライラしたり、1 学習障害になる16 というエビデンスまであるしでまぁ踏んだり蹴ったりです。百害あって一利なしとはまさにこのこと。口呼吸こわい…。

そんなわけで今日はちゃんと口を閉じて寝ようと思います。おやすみなさい…。

1. Huang YS, Guilleminault C, Lee LA, Lin CH, Hwang FM. Treatment outcomes of adenotonsillectomy for children with obstructive sleep apnea: a prospective longitudinal study. Sleep. 2014;37:71–76.
2. Lee SY, Guilleminault C, Chiu HY, Sullivan SS. Mouth breathing, "nasal disuse," and pediatric sleep-disordered breathing. Sleep Breath. 2015;19(4):1257-1264. doi: 10.1007/s11325-015-1154-6.
3. Linder-Aronson S. Dimensions of face and palate in nose breathers and habitual mouth breathers. Odontol Revy. 1969;14:187–200.
4. Linder-Aronson S. Adenoids - their effect on mode of breathing and nasal airflow and their relationship to characteristics of the facial skeleton and the denition: A biometric, rhino-manometric and cephalometro-radiographic study on children with and without adenoids. Acta Otolaryngol Suppl. 1970;265:1–132.
5. Mcnamara JA. Influence of respiratory pattern on craniofacial growth. Angle Orthod. 1981;51:269–300.
6. Lime M. Orthognathic and orthodontic consequences of mouth breathing. Acta Otorhinolaryngol Belg. 1993;47:145–155.
7. Ricketss RM. Respiratory obstructions and their relation to tongue posture. Cleft Palate Bull. 1958;8:3–6.
8. Huang YS, Guilleminault C. Pediatric obstructive sleep apnea and the critical role of orofacial growth: evidences. Front Neurol. 2013;3:1–7.
9. Fitzpatrick MF, McLean H, Urton AM, Tan A, O'Donnell D, Driver HS. Effect of nasal or oral breathing route on upper airway resistance during sleep. Eur Respir J. 2003;22(5):827-832.
10. Grippaudo C, Paolantonio EG, Antonini G, Saulle R, La Torre G, Deli R. Association between oral habits, mouth breathing and malocclusion. Acta Otorhinolaryngol Ital. 2016;36(5):386-394. doi: 10.14639/0392-100X-770.
11. Nagaiwa M, Gunjigake K, Yamaguchi K. The effect of mouth breathing on chewing efficiency. Angle Orthod. 2016;86(2):227-234. doi: 10.2319/020115-80.1.
12. Musseau D. Mouth breathing and some of its consequences. Int J Orthod Milwaukee. 2016;27(2):51-54.
13. Mummolo S, Nota A, Caruso S, Quinzi V, Marchetti E, Marzo G. Salivary markers and microbial flora in mouth breathing late adolescents. Biomed Res Int. 2018;2018:8687608. doi: 10.1155/2018/8687608.
14. Choi JE, Waddell JN, Lyons KM, Kieser JA. Intraoral pH and temperature during sleep with and without mouth breathing. J Oral Rehabil. 2016;43(5):356-363. doi: 10.1111/joor.12372.
15. Izuhara Y, Matsumoto H, Nagasaki T, et al. Mouth breathing, another risk factor for asthma: the Nagahama Study. Allergy. 2016;71(7):1031-1036. doi: 10.1111/all.12885.
16. Um YH, Hong SC, Jeong JH. Sleep problems as predictors in attention-deficit hyperactivity disorder: causal mechanisms, consequences and treatment. Clin Psychopharmacol Neurosci. 2017;15(1):9-18. doi: 10.9758/cpn.2017.15.1.9.

  by supersy | 2018-11-08 19:30 | PRI

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