スパインボードはもう撤廃すべき?脊髄・脊柱損傷疑い救急対応の最新知見レビュー。

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今回は先月発表になったこんな論文1 を読んでみます。しかしこの著者の方、興味深い資格歴ですね。LATだけどATCは持ってない?本職はNPの方なのかな?

American Academy of Orthopedic SurgeonsによってEMT向けに初めて教科書が出版されたのが1971年。その教科書には脊柱損傷(spinal injury)が疑われる際にはRigid Cervical CollarとLong Spine Boardを使って患者を固定しましょう、と推奨されていたのですが(↓)、当時はEBPの考えも浸透していない時代。患者の訴えや症状は関係なく、メカニズムが頸椎損傷を起こす可能性があるものだったら(交通事故や落下事故など)とにかくCervical CollarとLong Spine BoardによってSpinal Immobilization (SI, 脊柱固定)することが試みられていたようです。「患者の主訴がなんであれ」というのは興味深いですね。ふーむ。疑わしきはどんどん罰す!みたいなメンタリティーだったんでしょうか。
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で。結局のところSpine BoardによるSIが有効というはっきりしたエビデンスはない、というのがこの論文の論点です。それどころか、1980年代から「Spine Boardを使った脊柱固定はむしろ有害なのでは?」という声が出てきてるんだそうです。「悪効果」といわれるのは4つの理由があって、それらは…:
1. Increased pain - 結構硬い板ですからねぇ…。1時間Spine Boardに固定されていた患者は24時間後にも身体の痛みを訴えている、とか、腰痛が無かった人も出るようになっちゃうとか、色々過去にも報告されているようです。
2. Respiratory compromise - 胸部のストラップが(特に年配の患者に対して)呼吸機能の制限を生むんだそうな。
3. Tissue breakdown - 30分間固定しているだけでも、局所的な部位の圧迫によって仙骨や頸椎周りの組織がhypoxia(低酸素)状態になるとのこと。
4. Ineffective immobilization - 固定の際に必要以上に脊柱が動いてしまったり、プロ(paramedics)によって「固定」されたはずの患者の88%がストラップによる固定が甘かったり、ストラップが取れてたり…こちらも過去の研究によって色々と報告されているそうで。

こういったことが原因で2013年にNational Association of EMS Physiciansが発表したPosition PaperではLong Spine Boardの使用はもっと限定的であるべき - 具体的には1) blunt traumaや意識レベルの低下が見られる場合; 2) 脊柱の痛み・圧痛あり; 3) 感覚異常や筋力低下など、神経症状が見られる; 4) 脊柱の明らかな変形あり; 5) 泥酔状態でのhigh-energyメカニズムやコミュニケーション能力の欠如、牽引性の受傷メカニズムがある場合のみに使用されるべきだ、と推奨されるようになり、American College of Emergency Physiciansも同様のステートメントを発表しています。そして、もうひとつ特筆すべきはこういう限定的使用時でさえもLong Spine Boardは「extrication only (脱出目的のみ)」で使われるべきである、と論じられていること。つまり言い換えれば、フィールド・コートから救急車などの最低限の移動(=「脱出」)の際に超・限定的に使われるべきで、「脱出」を終えたらできる限り迅速にLong Spine Boardの使用は中止しましょ、ということみたいです。

んで。
Long-Spine Boardの代わりにSpinal-Motion Restriction(SMR)に着目した脊柱の動作制御のほうが重要であるというのがここ最近の複数の団体の共通の見解ですかね。SMRはSIとよく混同されるのですが、SMRは必ずしもLong Spine Boardを使うとは限らず、Anatomic positionを保ちながら、脊柱の動きが制限できればどんな固定方法を使ってもオッケーみたいな緩い定義なんだそうです。ここらへんについては前にも少しだけ書きましたよね。SMRのために具体的に何を使うかってのはハッキリと決まっていたり提唱されたりはしておらず、結局Local EMS次第なんだそう。この論文にはSelective Spinal Immobilizationという、メカニズムではなく患者の訴えを元に固定のニーズを決める方法も紹介されており、「落下した」→「Long Spine Boardによる脊柱固定」という短絡的な考えではなく、きちんとしっかり患者を評価した上でどんな固定法がベストか決めようという、当たり前のようで流動的な方法がいいのではないかと説明されています。そうすることで不必要なLong Spine Boardの使用が37%も減らせたのだとか。

では、ここいらでまとめるとして、ATとして今知っておくべきことは何か?
この論文には、"use of the [Long Spine Board] during transport should be discouraged based on the evidence."と明言されています。脱出限定のLong Spine Boardの使用は場合によってはオッケーだけれども、どうせだったらScoop式のストレッチャー(↓)のほうがよっぽど使い勝手がいいし、EMTは通常この道具を携帯していますよね、とも書かれておりますね。ふむふむ。
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EMT界は既にLong Spine Board文化から離れつつあるというのは改めて我々ATも認識すべきなのかも知れませんね。積極的にLocal EMTと連絡を取り、救急時に何を使ってどういう場合に頸椎をどう固定するのがベストなのか、シーズン前・Academic Year開始前に一度顔を合わせて確認や練習をしておくことが今まで以上に必要不可欠になってくるかと。救急のプロと、スポーツ医学のプロが事前に話し合って合意点を掴んでおけばいざというときに対応がスムーズですからね。

頸椎損傷の疑いがある場合は、毎回こうする!という絶対的な決まりがあると気分は楽ですよね。患者の命がかかっているかもしれない場面で、自分たちで考えて判断しろと言われたら途端に不安になる。今回のパラダイム・シフトがATの実践にジワジワと浸透していくためには、そんな自分の弱さや不安をきちんと認めるところからだなぁと。そんなことを考えながらこの論文を読んでいました。いやいやしかし、Best Practiceは「毎回必ずこれが正解」なんて単純にpre-determinedされてるわけじゃないですもんね。もっとこれからの研究で判明されるべきエビデンスはあるにしても、我々もきちんと現場で考える技術と知識を身に着けることが第一です。これからも真摯に学び続けていかなければと背筋が伸びる思いです!

1. Feld FX. Removal of the long spine board from clinical practice: a historical perspective [published online September 17, 2018]. J Athl Train. 2018;53(8). doi: 10.4085/1062-6050-462-17

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  by supersy | 2018-10-12 23:59 | Athletic Training

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