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画像診断による椎間板異常所見は、本当に「異常」なのか?Overdiagnosis(過剰診断)問題をもう一度考える。

異常と普通の境目: 画像診断の進歩による弊害、「Overdiagnosis」について考える(2017年11月14日)
スポーツは身体に良くない?NBA選手の「健康」な膝のMRIを撮ってみると…(2018年4月13日)

ここまで、過剰診断に関する記事を複数回書いてきました。一回目がSLAP損傷、二回目が膝の軟骨損傷・半月板損傷についてでしたが、今回は椎間板ヘルニアについてです。腰痛がある患者さんにMRIやCTでDisc bulge(椎間板膨隆)やDisc protrusion/extrusion(椎間板突出/脱出)があると「これが原因だったか!」と判断され、手術などの治療アプローチに繋がることが多いですが、果たしてこれは賢い判断と言えるのでしょうか?
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そんなわけで、ここまで腰痛がある被験者群と健康で腰痛のない被験者群を比較するような画像診断研究はいくつも出ているのだから、それを総合的に分析し直してみましょうや、というのがこの記事(↑)。1 15~50歳の被験者に絞って2014年4月までに発表された論文14件(総被験者数3097人)をレビュー、メタ解析しています。

健康な被験者(実験参加時点で腰痛がないだけでなく、過去の腰痛の既往歴も一切ない)の合計が1193/3097(38.5%)、腰痛ありの被験者(現在進行形も、既往歴も含む)が1904/3097(61.5%)だったそう。数としては十分ですね。個人的には各研究の被験者プロファイル情報をもうちょっと見てみたいですけど。年齢性別活動レベルなどなど。Competitive sportsをやってたpopulationはどれだけいたのかなぁ。
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で、早速ですが、結果です!上のテーブルを見れば一目瞭然なんですが、私が個人的にびっくりしたものをまとめます。
●健康な被験者での「病理的変化」の多さよ!中でも
- 線維輪亀裂(annular fissure): 11.3 (9.0-14.2%)
- 脊柱管狭窄症(central spinal canal stenosis): 14.0 (10.4-18.6)%
- 椎間板変性(disc degeneration): 34.4 (31.5-37.5)%
- 椎間板突出(disc protrusion): 19.1 (16.5-22.3)%
- 椎体異常(Modic change、腫脹や骨髄変性、骨折を全てのタイプを含む): 12.1 (9.6-15.2)%
これらは10人に一人から、多いもので3人に一人は見られるというのだからびっくり!!!
●健康な被験者と腰痛既往歴ありの被験者でハッキリとprevalenceに差があったもの(p<0.05)は赤でアンダーラインを引きましたが、言い換えれば線を引かなかったものは「既往歴に関わらず、痛みのない一般の人にも同じだけの頻度で見られる変化=normal varianceと言ってもいい?」ということになるのかなと。
●でも線を引いたものの中でも椎間板変性(disc degeneration)はそもそも健康な人でも3人に一人、椎間板突出(disc protrusion)は5人に一人いるのだから結局因果関係である「最終診断」には結びつかないわけで。ここらへんのClinical relevanceはどう判断するのがベストなのか?

むぅぅ、と色々考えたくなってしまうレビューでした。ついでにもうひとつ、こっち(↓)も面白いのでまとめます。2
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こちらは健康な(= 腰痛の既往歴ゼロの)被験者のMRI/CTを撮って結果を検証している2014年4月までに発表された33件の論文をレビューしたもの。20代、30代、40代、50代、60代、70代、80代の年齢層別に分けて分析しているところが面白いです。総患者数は3110人!こちらもなかなか数としては多いですね。性別や活動レベルは不明。
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結果、それなりに予測していたつもりなんですがそれでもjaw-droppingです。
ええっと、椎間板突出(disc protrusion)と線維輪亀裂(annular fissure)は20代から80代と加齢していってもそれほど増え幅は大きくないのかね(それぞれ29-43%の+14%; 19-29%の+10%)、ってことは言えるかもしれませんが、やはり加齢に伴ってどの椎間板・椎体・椎弓異常もグングン増えていくのね(多いもので+80%)ということ、特に70代越えてくると本当に大変ねーということが分かります。
それにしたって若い年齢層でも有病率のなんと高いことよ!40代でDiscに問題ない人のほうが少数派になるんじゃないですか。20代も30代も充分数字は大きいです。だから改めてですが、これらは健康な被験者を検証した結果だということを踏まえて、椎間板変性、膨隆や突出はincidental (偶発的なもの)であるケースが非常に多く、仮に患者が痛みを訴えていたとしても画像診断による異常所見が臨床的な原因として特定できるかというとそうではない、ということは改めて強調されるべきです。実際にこれらMRI画像診断の結果を元に手術をしたけど、アウトカム向上にはつながらなかった、という重要で恐ろしいと我々が感じるべき報告は複数存在します。3,4

これは想像でしかないですけど、アスリートに絞って見たらもっと多そうですよね。大学、プロにわけて種目別にとった1,000人超規模のデータも見てみたいです…。
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なので、アレですねぇ。どうしたら見ている画像と患者が訴えている症状の「因果関係」があぶりだせるか、という明確な答えが無い今は「
Diagnostic imaging studies should be performed
only in selected, higher-risk patients who have severe
or progressive neurologic deficits or are suspected of
having a serious or specific underlying condition. A thorough
history and physical examination are necessary to guide
imaging decision
(p.31).
5 という言葉に尽きるのかもしれません。ざっくり訳すと、「MRIやCTなどの画像診断は、重度や進行性の神経性症状のある患者や、その他深刻な病理的変化が疑われるハイリスクの患者のみに行われるべきである。画像診断が必要かどうかは問診や身体所見を慎重にしながら見極められるべきだ」ってことでしょうか。


いやまぁほんとに、前々から言ってることですけど、見えなくてもいいものって世の中にいっぱいあるってことなのかもしれません。見なくていいものを見てしまうことで患者が精神的に受ける影響はきっととっても大きい。私だってもし、人生で一度も腰痛を経験したことがなくても「線維輪完全に敗れて髄核出てますね」と言われたらエッってなります。腰が痛いような気がしてくるかもしれません。病は気から。難しいところです。そんなわけでやっぱり、これらの統計は我々は頭の片隅にしっかり入れておくべきものかと思います。読んでよかったー。

1. Brinjikji W, Diehn FE, Jarvik JG, et al. MRI findings of disc degeneration are more prevalent in adults with low back pain than in asymptomatic controls: a systematic review and meta-analysis. Am J Neuroradiol. 2015;36(12):2394-2399. doi: 10.3174/ajnr.A4498.
2. Brinjikji W, Luetmer PH, Comstock B, et al. Systematic literature review of imaging features of spinal degeneration in asymptomatic populations. Am J Neuroradiol. 2015;36(4):811-816. doi: 10.3174/ajnr.A4173.
3. Carlisle E, Luna M, Tsou PM, Wang JC. Percent spinal canal compromise on MRI utilized for predicting the need for surgical treatment in single-level lumbar intervertebral disc herniation. Spine J. 2005;5(6):608-614.
4. Lurie JD,Moses RA, Tosteson AN, et al. Magnetic resonance imaging predictors of surgical outcome in patients with lumbar intervertebral disc herniation. Spine (Phila Pa 1976). 2013;38(14):1216–1225.
5. Wáng YXJ, Wu AM, Ruiz Santiago F, Nogueira-Barbosa MH. Informed appropriate imaging for low back pain management: A narrative review. J Orthop Translat. 2018;15:21-34. doi: 10.1016/j.jot.2018.07.009.

  by supersy | 2018-10-05 21:30 | Athletic Training

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