ちょこちょこ出しの告知でごめんなさい。
1. 10月14日に、私が勤める帝京大学のスポーツ医科学センターという新施設のオープニングイベントがあります!
この建物、案内の通り5階建なんですけど、5階の建物の高さじゃないんですよ…いやもう12階あるでしょと。各フロア、とんでもない施設が完備されていて、いやもうほんとに、豪華な建物なんてアメリカでそれなりに見慣れているつもりだったんですけど、ここはまた少し別格、別世界です。国内最大級と胸を張って言って良いと自負しています。
アスリートのヘルスケアを全ての面からサポートしよう!というモットーに基づいて作られたこの施設。通常は許可を得ないと入構不可なのですが、10月14日の開所に当たり、スポーツ医学、栄養学、パフォーマンスサイエンスやトレーニングの専門家さん、スポーツ指導者に選手の方、この分野に興味のある学生さんなどに訪問していただけるよう
10時から15時まで一般開放しています!各施設のデモや解説、プチセミナーも色々開催されますので、是非皆さま奮ってご参加ください(私もセミナーをふたつ担当します)。
参加無料、訪問事前申し込みは不要です。10時から15時までの間であればお好きな時間にふらりと来てふらりと帰ることができます。帝京大学八王子キャンパスのアクセス情報は
こちらから。車でのご来場は大学内の駐車場がございませんので、近隣の有料パーキングか、公共の交通機関を使っていただくのが便利です。
2. くどいですが10月1日に個人プロジェクトに関して重大なお知らせがあります!
ふふふ、あと数日…。お楽しみに。
6月に出てたやつですけど、バタバタしてて読めなかったので今のうちにさっくり読んでレビューです。足関節内反捻挫の臨床的診断に関する国際足関節協会(International Ankle Consortium)によるConsensus Statement
1。
このガイドラインによると、足関節の急性捻挫を診断する際、考慮すべき5つの要素は:
1. Mechanism of injury: 受傷メカニズム
2. History of previous lateral ankle sprain: 内反捻挫の既往歴
3. Weightbearing status: 荷重ステータスのチェック
4. Clinical assessment of bones: 骨組織の評価
5. Clinical assessment of ligaments: 靭帯の評価
具体的には、
1. MOI: 「矢状面上で足がどこにあっても」「突然の急激な内反(inversion)」「足部と足首が内旋(internal rotation)」が足にかかったのであれば内反捻挫は疑われるべき。ハイ・アンクル・スプレインのMOIは完璧に確立されているわけではないが、一般に極度の背屈と足部の外旋(external rotation)、距骨の外反と共に起こると言われており、これらのメカニズムが報告された場合、ハイ・アンクル・スプレインの可能性は考慮されるべきである。
2. Hx: 過去の既往歴は再受傷のリスクを示唆するものであるし、同時に機械的(mechanical)・感覚運動(sensorimotor)障害の存在も示唆している可能性がある。
3. Weightbearing status: Ottawa Ankle Rules(OAR)を実施する際の一般として必ずチェックされるべき項目である。
4. Clinical assessment of bones: 足部・足関節の受傷で骨折が起きている可能性は15%以下、OARが陰性の場合、その可能性は1%以下へ低下する。しかし、OARは除外には有効でも確定力はそれほどないということは念頭に入れておくべきことである。
5. Clinical assessment of ligaments: 内反捻挫で最も頻繁に損傷される前距腓靭帯(ATF)には受傷後4-6日の間にAnterior Drawer Test(前方引き出しテスト)が行われるのが有効で、感度が96、特異度が84、陰性尤度比が0.04あるので陰性の場合はATFの損傷は疑われない。
**とConsensus Statementでは断言されていますがどうなんでしょう?根拠に引用している論文は1件だけ、1996年に発表された160人の患者を対象に行われた研究です。2 私の記憶が正しければ、Anterior Drawer Testの診断的価値を検証した研究は少なくとももうひとつあり、これも1999年と古い時期に発表されたもので、こちらでは12人の被験者を対象に行われ、感度は78、特異度は75、陽性尤度比は3.1に陰性尤度比は0.29と報告されています。3 先の研究のそれよりも高くありません。
まぁつまるところ、ここまではっきりとこのテストが有効であるとConsensus Statementに明記されるには科学的根拠は不十分では、と私は考えます。しかし、「専門家パネル」も当然このことは周知しているでしょうから、なぜこれだけ強い口調での記載をするのがベストだと判断されたのか?というところに何より疑問を覚えますね。まぁ、他に別に有効なテストがあるわけでもない、というのは悲しい事実ですが…。何も言わないよりは、今はとりあえずこれしかないというテストを押すのがベストと考えたのか?
踵腓靭帯(CF)は前距腓靭帯同様、触診とストレステストでその損傷を確認できる。
**名前こそ出していませんが、文中の描写はTalar Tilt Inversion Testについて言及しています…が、具体的な診断的価値は示されていません。前述の研究3で、Talar Tilt Inversion Testの診断的価値は感度67、特異度75、陽性尤度比2.7、陰性尤度比0.44と示されていますが…実際は、どうなんでしょうね?これもまだまだ検証が足りないかなと。
遠位脛腓靭帯(Ankle syndesmosis ligament)の損傷について、最も感度の高いテストは靭帯の圧痛で(感度92)、Squeeze Testの特異度が最も高い(88)。両テストが陽性であれば遠位脛腓靭帯の損傷の可能性は高い。
**これもここまでと同様、充分な根拠もなく95%CIも出さずに断定形で言い切るのは乱暴だなぁという印象です。私がエビデンスを掘り下げて調べたのは4年半前ですが、この記事のときに引用した論文らのほうがあれこれ様々な可能性を議論しているのでは?Clinical Prediction Rule等についてアップデートはなかったのかな?
捻挫の診断が確立した後で機械的(mechanical)・感覚運動(sensorimotor)障害を評価する際に重要な考慮すべき10の事項は:
4. Arthrokinematics: 関節運動
6. Static postural balance: 静的姿勢バランス
7. Dynamic postural balance: 動的姿勢バランス
9. Physical activity level: 身体活動レベル
10. Patient-reported outcome measures: 患者の主観に基づくアウトカム尺度
…であるとしており、特に後者をclusterにしてInternational Ankle Consortium Rehabilitation-Oriented ASsessmenT、通称ROASTと名付けています。うーん、どうでしょこのネーミングセンス(笑)?
詳細はこのテーブル(↑)に実によく要約されていますが、文章でも少しまとめておきます。
1. Pain: 痛みを推し量るには様々な手段があるが、The numeric rating scale for painは妥当性も信頼性も確立されている…が、痛みの程度(intensity)しか測れないという欠点もある。The Foot and Ankle Disability Index(FADI)は機能制限も含めた怪我の影響を計るツールとして優れているかもしれない。
2. Swelling: 腫脹の存在で体性感覚インプットの変化やarthrogenic muscle inhibitionなどのCNSへの影響が生じることがある。現段階ではFigure-8の方法で腫脹の大きさを計るのが推奨される(写真右上)。
3. ROM: 特に足関節捻挫の後、背屈制限が出ることが多い。特にStar Excursion Balance TestのAnterior Reachに示されるように、捻挫から回復後のダイナミックバランス能力の不確定さは背屈が一因とも言われている。Weight-bearing Lunge Test(↓)は妥当で信頼でき、臨床的実用性の高い測定法である。
4. Arthrokinematics: 距腿関節の関節運動の変化、特にPosterior Talar Glide Testで推し量れる下腿に対する距骨の動作異常やAnterior fibular positional faultの存在の可能性について言及されている…が、Anterior fibular positional faultについて具体的な評価法・介入方についての記述はない。
5. Muscular Strength: 手に持つタイプのDynamometer(↓、hand-held dynamometer)は実用性も高く費用対効果も良い。足関節の筋力はもちろん、股関節筋力低下はChronic Ankle Instability (CAI)の患者にも見られる徴候であることから、これも確認しておくべきである。
6. Static postural balance: Balance Error Scoring SystemとFoot Lift Testが推奨される。
7. Dynamic postural balance: Star Excursion Balance Testが推奨される。
8. Gait: これは特にどう分析せよとの詳細記述や、何に着目して分析すべきという推奨項目はなし。ただ、CAI患者の多くは歩行「異常」が見られる、とだけ書かれている。
9. Physical activity level: Tegner activity-level scaleを用い、受傷前の身体活動レベルを明確にすることで回復への目標設定や、リハビリの具体的な内容の絞り込みが可能である。
10. Patient-reported outcome measures: 前述したFADI/Foot and Ankle Ability Measureの使用が推奨される。
**これでも、私の見解ではアスリート向きではないと思うのですがどうでしょう?もしくは、アスリートの治療介入で使われるにしても「入口」部分でしか有効ではないのでは?アスリートの足首に求められる能力は階段を上り下りしたり、15分間歩行を続けられるかどうか、という機能レベルをはるかに超えています。個人的にはSports Ankle Rating Systemとか、もう少しアスリートに特化したものについても言及されていてもいいのではと思うのですが?
そんなわけで、個人的には短く簡潔に読みやすくまとめられた良質のヨミモノだとは思うし、ROASTも現時点で最も妥当なテストのClusterだとは思うのですが、故にはしょられ過ぎている部分や充分に論じられていない部分も多いと感じます。私が個人的にBest Practiceと思う結論とほぼ同じではあるのですが、通っている道が違うというか。個人的には靭帯損傷評価テストの絶対的な正確性はまだ不十分と感じていますし、アスリートにとって最善のPatient-reported outcome measureが何なのかはこれから活発に議論されていくといいなという感じですかね。
ちなみにhand-held dynamometer、コストはそう高くないということでしたけど、私は個人的に使ったことがありません。以前勤めていた大学にも置いてなかったです。調べてみたら$250~400くらいするとのこと…。決して安くはないですね。
しかし、足関節靭帯の評価テストの診断的価値、ほんっっっっとに誰も研究してくれないなー!頼むよー!もう結構長いこと待ってるんだけどなー!誰かやってー!!
1. Delahunt E, Bleakley CM, Bossard DS, et al. Clinical assessment of acute lateral ankle sprain injuries (ROAST): 2019 consensus statement and recommendations of the International Ankle Consortium [published online June 9, 2018]. Br J Sports Med. 2018:pii;bjsports-2017-098885. doi: 10.1136/bjsports-2017-098885.
2. van Dijk CN, Lim LS, Bossuyt PM, et al. Physical examination is sufficient for the diagnosis of sprained ankles. J Bone Joint Surg Br. 1996;78:958–962.
3. Hertel J, Denegar CR, Monroe MM, Stokes WL. Talocrural and subtalar joint instability after lateral ankle sprain. Med Sci Sports Exerc. 1999;31(11):1501-1508.