小脳に関する論文まとめ3: 小脳回路とその機能不全によって起こる運動障害の種類。

b0112009_11241092.png
4. Choi, 20161
この論文では小脳回路(cerebellar circuit or circuitry↓)とその機能が阻害されたときに起こる運動障害について主に話されています。つまり小脳には電気信号が行きっぱなしではなく、行って帰ってきてそのループを閉じるような、ongoing communicationシステム(お互いがお互いの状況をチェックし合うようなシステム)があるということですね。フィードとフィードバックと、そのフィードバックを受けてのリアクション・反応が作れる神経構成をしているというわけです。
b0112009_11551506.png
脳血管疾患や脳卒中が起こると副次的に運動障害が起こることがある。この脳部位がやられると運動障害が起こる、という局所的な定義が明確にあるわけではないが、大脳基底核(basal ganglion、大脳皮質と視床、脳幹を結びつけている神経核の集まり、↓写真)とその回路周りが損傷を起こすと特にその発生頻度は高くなる。しかし、小脳回路も忘れてはいけない運動機能を支配・調整している重要な脳の部位であり、ここで起こる脳卒中も同様に運動機能障害を引き起こす。実際に小脳損傷で起こる運動機能障害には、
- 運動失調症(ataxia)や共同運動失調症(asynergia)などのcoordinationの損失
- 物事との距離を見誤る測定障害(dysmetria)
- 意図振戦(intention tremor)、作動振顫(action tremor)、ホームズ振戦(Holme's tremor)、口蓋振戦(palatal tremor)、羽ばたき振戦(asterixis)、ジストニア(dystonia)
…などがある。ごく稀に常同症(stereotypy, 反復的・儀式的な行動、姿勢、発声など)も見られる。
*脳卒中に起因する運動障害は決して頻繁に見られるものではない(脳卒中全体の1~3.7%)が、中でも小脳内での脳卒中によって起こるそれは特に症例が少ない(0.1~0.3%)。
b0112009_12340287.png
●運動回路
先ほど脳の運動機能の代表的な平行経路(parallel pathways)に大脳基底核回路小脳回路があると言及したが、大脳基底核回路は主に学習され自動化された行動と、意図的な動作を可能にするためにバックグラウンドで機能しているべき姿勢制御や支持を担当している一方、小脳回路は協調性のある動作(coordination)、運動中のエラー修正を担当している。故に、小脳回路の損傷はcoordinationの損失、筋収縮のタイミングエラーに繋がるわけである。

小脳の神経ネットワークは複雑だが、重要な回路はふたつ存在する。cortico-cerebellar-cortical circuit (皮質-小脳-皮質回路: ↓図のが求心性のcortico-ponto-cerebellar tract; 図のが遠心性のdentato-rubro-thalamo-corcical tract)とmodulatory dentato-rubro-olivary circuit(歯状赤核オリーブ回路Guillain-Mollaret triangle又はGMT/ギラン・モラレの三角とも呼ばれる: ↓図のが求心性、が遠心性)である。このギラン・モラレの三角は小脳と脳幹をフィードバックループで繋ぐ、脊髄の運動機能をコントロールしている。
b0112009_22420582.png
運動障害の多くはこの回路のどこか一点に損傷が生じた、というより回路の伝達性・機能的接続性に問題がある場合に起こる。運動障害の症状が出てくるのは脳卒中後早くて当日、遅いものは数年かかることがあるが、これは障害のタイプによる。一般的に…
 急性(acute): 小脳性振戦(cerebellar tremor), 羽ばたき振戦(asterixis)
 遅延性(delayed): ホームズ振戦(Holme's tremor; 数週間から数か月), 口蓋振戦(palatal tremor; 2-49ヵ月)、ジストニア(dystonia; 1-5日)
…などの分類ができるが、それぞれの障害にも広い発症幅があり、個人差も大きい。脳の損傷が起こってから症状が出始めるまでは、損傷が起きた年齢が早ければ早いほど遅いという傾向があり、これは脳代謝と脳の可塑性によるものかもしれない。特に遅延性のあるものに関しては、画像研究などで下オリーブ核がじわじわと肥大・退化などが可塑的変化と共に起こることなどが分かっているが、真の病理生理学的原理はまだ解明され切れていない。

●障害の臨床的特徴
頻繁に起こる運動異常
- 小脳流出振戦/Cerebellar outflow tremor
小脳振戦で多いものが動作時振戦(action tremor)で、安静時振戦(rest tremor)は稀。中でも多いのが意図振戦(intention tremor)で、症状が出る部位は腕か足、周波数は<5Hzのものがほとんどである。振戦の多くが片側性(unilateral)で、体節的もしくは多焦点(segmental or multifocal)で局所的でも全身性でもなく(rather than focal or generalized)、GMTに問題があることが多い。

- ホームズ振戦/Holme's tremor
脳卒中や脳幹の障害で発症すると言われる稀な振戦。GMT機能の阻害によって起こる。動作時と安静時の複合症振戦で、片側上肢に現れる。反対側には測定障害(dysmetria)や拮抗運動反復不全(dysdiadochokinesia)が出るのが一般的で、姿勢振戦も付随することが多い。周波数は通常4.5Hzかそれ以下だが、イレギュラーなこともある。

- 口蓋振戦/Palatal tremor
軟口蓋そのものや咽頭・喉頭・顔面や胴体の筋肉がゆっくり(1-3Hz)とリズミカルに動くことによって起こる。Essential(原因不明; 1/4の患者はこれ)とSymptomatic(脳幹や小脳、引いてはGMTへの損傷によって起こる)の2種類に大別することができ、前述のように受傷後1週間から49ヵ月以内に発症するという幅を持つ。

- 羽ばたき振戦/Asterixis
自分の意志とは無関係な運動を起こす不随意運動の一種で、筋収縮を保てないが故に伸ばした腕を羽ばたくように返す(flap)動作を生むのが特徴(↓動画有り)。通常両側で起こり、GMTの機能不全に起因するようである。


- ジストニア/Dystonia
反復性の身体を捩じるようなパターン化された筋収縮により、通常の動作が阻害される運動障害。小脳の脳卒中で起こる場合、症状が出るまで通常1ヵ月から15年かかる。

その他の運動異常
- 常同症/Stereotypy
反復性の目的のない動作が一定の時間内で繰り返される動作異常。精神分裂症や知的障害、自閉症の患者によく見られるが、脳卒中が原因で起こることもある。

- 下肢静止不能症候群・むずむず脚症候群/Restless legs syndrome
下肢に不快感を覚えたりむずむず痒い感覚を覚えるなどする症候群で、小脳の脳卒中では起こらないが、その他の様々な脳部位(大脳基底核、放射冠、脳橋、視床、内包、大脳皮質)での脳卒中に於いて起こる。

こうした運動障害の生理学的背景やよく見られる症状などを把握しておくことは的確な診断と処置のために欠かすことはできない。

1. Choi SM. Movement disorders following cerebrovascular lesions in cerebellar circuits. J Mov Disord. 2016;9(2):80-88. doi: 10.14802/jmd.16004.

この論文とは直接関係がないんですけど、ここらへんの動画は以前リハビリの授業で脳の可塑性を教えるために使っていました。Focal Dystonia患者さんの話です。興味がある方はどうぞ。脳は変えられる。例え機能不全があっても。




[PR]

  by supersy | 2018-08-24 23:59 | Athletic Training

<< 小脳に関する論文まとめ・おまけ... 小脳に関する論文まとめ2: 小... >>

SEM SKIN - DESIGN by SEM EXE

AX