Exercise IS Medicine for Concussion - "脳振盪には運動こそ最良の薬である"

脳震盪には、運動せよ!? (2014-09-18)

脳震盪受傷にすぐ競技中止をしなければいけない理由。(2016-09-02)
「脳震盪受傷後に休息しても意味はない」論を考える。(2016-09-11)
SCAT5と最新脳震盪コンセンサス・ステイトメント: その1。(2017-05-11)
SCAT5と最新脳震盪コンセンサス・ステイトメント: その2。(2017-05-12)

初めて「脳振盪治療に運動はアリなんではないか?」というエビデンスに関する記事をまとめたのが4年前(↑一番上)。脳振盪はこのブログでも最も頻繁に取り上げるトピックのひとつかもしれませんが、中でも「脳振盪は休息一辺倒では回復しきらないケースも多い」「自発的な回復が見込めない、脳振盪患者の30%が発症するというPostconcussion Syndrome (PCS)の徴候が見られた場合には逆に低強度の有酸素運動をするのが良い」という内容はこのブログでも、日本アスレティックトレーニング学会誌や著書・「米国アスレティックトレーニング教育の今 」でも繰り返し言及してきた題材です(↑)。
b0112009_22484556.png
んで。
この分野の権威であるDr. Leddyが発表した最新のNarrative Review1 を目にしたので読んでみます!Rationaleとか背景の部分に関しては今までもう散々書いてきているので、今回は私が個人的に書き留めておきたいと思ったところに絞ってまとめますです。

冒頭で面白いと思うのは「(脳振盪にも"Exercise is medicine"と充分に言えるだけのエビデンスが揃ってきたことを指摘して、)しかし実際の薬同様、これらの有酸素運動は個人に合った『処方された容量(dosage)』を守る必要がある」と強調しているところですかね。なるほど、だから"Medicine(薬)"だって言ってるのか!

●有酸素運動と脳振盪
早期の動物実験では、脳振盪を起こしてから最低2週間は休息を取ってからでないと運動の効果は表れないとか、強制的に運動させられたネズミは自主的に運動したネズミに比べて効果が出にくいとか様々な結果が論じられましたが、普段から身体を鍛えている「アスリート」ネズミや「アスリート」人間においては運動の効果が特に大きく出やすいことがここまで分かっているそう。これは知らなかった!普段からトレーニングを積んでいると、脳振盪受傷時にも運動にrespondしやすくなるんですね!

●脳振盪後の運動負荷評価法
The Buffalo Concussion Treadmill Test(BCTT)は"systemicでreliableな評価法である"と文中で述べられています…が、この論文では「(下肢の整形外科的障害や脳振盪後遺症などによるバランス能力の欠如などで)トレッドミルが適切でない患者のために、The Buffalo Concussion Bike Test (BCBT)を作りました」と新たな評価法を提案してもいます。うおおおお、びっくり!でもそうか、言われてみれば要るよね!

このBCBT、一分間に60回転から初めて、2分毎に(患者の体重に基づいて)負荷を上げていき、RPEが17以上になるか症状が悪化するまで続ける、という基本的にはBCTTと同じ流れのようです。これは既にBCTTと同じ精度で閾値が出せることは研究済み(↓)だそうですから、互換性があると言ってよさそうですね。場合によって使い分け可能と(まぁ、もっと研究されてもいい分野ではありますが)。
b0112009_23555548.png
●運動処方
このセクションは特に目新しい情報はないんですが…。面白かった一文は「一般的にアスリートは閾値心拍数の回復が早く、1-2週間毎に10拍くらいのペースで改善していくが、非アスリートは1-2週毎に5-10拍くらいのペースでの回復をすることが多い」というところでしょうか。もちろん個人差はあり、このペースはあくまで目安でしかないんですけれども。
加えて、今年発表になったRCT2 で脳振盪急性期(受傷平均4日以内)の中高生(平均15歳, n = 57…つまり脳振盪とその回復に最もvulnerableな患者層と言ってもいいでしょう)にこのプロトコルを使用しても翌日の症状が悪化したり回復が遅れたりすることはなかったそうなので、「トレッドミルからで転んだり落ちるような整形外科的・前庭系に問題がなく、心臓病のリスクが低ければこの運動処方法は安全である」と断言するDr. Leddyの口調も、以前より確信を帯びているように感じます(完全にファン目線ですが)。

●脳振盪の生理学的影響と運動の効果
ここで興味を惹いたのは「Brainstem(脳幹)」という言葉が文中で使われている頻度です。脳幹は皆さんもご存知の通り命を司る(i.e. 呼吸、心拍、食事、睡眠 etc)、脳の中でも最も原始的で重要な部分ですが(他のところが大事じゃないと言っているわけではないんですが、損傷すると致命傷になる確率が最も高いという意味で)、同時に自律神経機能を司るという機能も兼ね備えています。どうやら脳振盪受傷時に回旋力(rotational force)でもって脳幹に微細な損傷が起きているケースがあるんじゃないかと、言い換えればそういう患者がPCSになっているんじゃないかという説が今有力になってきているそうなんです。DTI画像検証でも確認されているんだとか。
んで。自律神経ってのはCerebral Blood Flow (CBF, 脳への血流)などもコントロールしているわけで。さらに面白いのが「脳振盪患者は動脈血炭酸ガス分圧(arterial CO2 tension, PaCO2)に鈍感になっており、運動中にhypoventilate(低換気状態)に陥りやすい」「こうなると動脈血炭酸ガス分圧はますます上昇し、それに比例してCBFも上昇する。結果、脳への血流が異常に増え、頭痛や眩暈などの症状に繋がり、Exercise Toleranceが低下する、と言われてしまうわけだ」という説明で、「閾下運動はこのPaCO2 Sensitivityを上げ(= 敏感にする)、『通常』値に戻す効果があり、結果、運動中の呼吸、CBF、Exercise Tolerance、自律神経機能を通常化する、つまり脳振盪から回復させる効果がある」んだそうです。ふわー、なるほどね、そういう角度での説明ですか!PaCO2 Sensitivityね!勉強になるわー。

●PCSのDDx
脳振盪後に症状が続くのはPCSかも知れないし、他に原因があるかもしれない、その鑑別診断(DDx)は行われるべきである、という文章にはドキリ。今までこういう見方をしたことがなかったし、他の論文でも読んだ記憶がなかったけど、確かに言われてみれば…。Dr. Leddyらは「BCTT/BCBTで症状が悪化することなく最大疲労までたどり着ける患者はPCSではない」「Posttraumatic disordersや頸椎、前庭、視覚障害など何か他に問題がある場合が考えられ、それらの可能性を他の検査を用いて絞っていける」と述べ、本来「評価テスト」であるはずのBCTT/BCBTが「鑑別診断テスト」としても一役買うと論じています。

まとめると、慎重に処方された運動はやはり脳震盪からの回復を早める、ということですね。この薬物でない比較的簡単・手軽に手に入る「薬」は、脳振盪治療と安全な早期回復、PCS予防に新たな次元を足すだろう、とDr. Leddyは述べています。長いこと研究とメッセージを追っているのでもはや尊敬の念が膨れ上がりすぎて、Dr. Leddyの言うことはなんでも信じたくなってしまっているのが私の注意すべき点ですが(苦笑)、これからも彼の功績をしっかりと追い、彼の言葉を批判的に楽しみ、吟味し続けていきたいと思います。とりあえず、このNarrative Reviewは彼の一つのマイルストーンなのではないかと思っています。ありがとうDr. Leddy!

追記: ところでこの論文はフリーフルテキストですよ。興味のある方はこちら(PDF)からどうぞ。

1. Leddy JJ, Haider MN, Ellis M, Willer BS. Exercise is medicine for concussion. Curr Sports Med Rep. 2018;17(8):262-270. doi: 10.1249/JSR.0000000000000505.
2. Leddy JJ, Hinds AL, Miecznikowski J, et al. Safety and prognostic utility of provocative exercise testing in acutely concussed adolescents: a randomized trial. Clin. J. Sport Med. 2018; 28:13Y20. doi: 10.1097/JSM.0000000000000431.

[PR]

  by supersy | 2018-08-14 23:59 | Athletic Training

<< PRIに関する最新研究論文のま... 大阪EBP講習定期開催のお知ら... >>

SEM SKIN - DESIGN by SEM EXE

AX