日本におけるカフェイン過剰摂取の現状と、アスリートへのアドバイス。

これから日本で仕事していく上で日本のアスリートがしている(かもしれない)ことも学ばにゃ、ということでこんな今月(2018年8月)発表の最新論文1 を読んでみました。
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アメリカでは若者のカフェイン過剰摂取による死亡事件はハッキリ言ってもはや珍しいものではないのですが、日本でも2015年に初の死亡事故が報告されて以来、この問題は拡大し続けているんだそうです。この論文では、2011-2016年の間にカフェインの過剰摂取で救急病院に搬送された患者101人(中央年齢25歳、年齢幅14-54歳、男53人、女48人)について詳細を追調査し、その患者に多く見られる特徴をまとめています。

まず目につくのは救急受診患者数の変移ですかねー。2011年度、2012年度はそれぞれ10人、5人だったのに対して2013年度は24人、2014年度は25人、2015年度は37人に膨れ上がっていることから、時代の移り変わりとともにカフェインを含むサプリメントやドリンクが一般に流通するようになり、人々が手に取りやすくなったことを示唆しています(↓)。
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*文中のデータを元に作成
次に摂取方法ですが、101人のうち、96.0%にあたる97人がタブレット状の、10人(9.5%)が液体状のカフェインを摂取。うち5人は両方の形状を同時摂取していたそうです(ん?ひとり計算合わなくない??)。
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具体的な内訳としては、タブレットを摂取した97人の患者のうち75人(75/97 = 77.3%)はエスタロンモカ®というエスエス製薬製品の錠剤(一錠あたりカフェイン100mg)を摂取していた一方で、液体状のカフェインを摂取した10人のうち6人(6/10 = 60.0%)はモンスター・エナジー®飲料(355ml缶あたり142mg)を、2人(2/10 = 20.0%)はレッドブル®(250ml缶あたり80mg)を飲んでいたそうな。エスタロンモカ®という製品は初めて聞きました。眠気覚ましなどによく使われる第3類医薬品(OTC薬)なんだそうです。

これは病院スタッフが患者来院時に集めた情報に基づく推定でしかないのですが、101人のうち93人の患者は搬送時点で3.5時間(幅: 0.8-24.0時間)以内に7.2gのカフェイン(幅: 1.2-82.6g)を摂取していたことが判明。17人の患者においての血中カフェイン濃度も病院で計測されていたようなのですが、その中央値は106.0 µg/mL(幅: 2.0-530.0 µg/mL)だったというのだから驚き。一般にカフェイン血中濃度の致死量は80-100 µg/mLと言われていますから、2これらの患者が全員死亡していてもなんら不思議はなかったわけです(最大値の530 µm/mLはヤバいです)。
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続いて患者のバイタル・データや血液検査結果のまとめなんですが、Table 1(↑)を見ただけではあまり目につくようなものはないかも知れません。96人中55人(57.3%)がTachypneaであったとか98人中58人(59.2%)がTachycardiaであったとか文中には書いてあるんですが、言い換えれば約半数の人はそうではなかったということなので、診断の指標や状態の予測にはつながりにくいように思います。Table 2(↑)は逆に、というかなんというか、具体的に患者のカフェイン摂取量や血中カフェイン濃度と強い関連性のあるパラメータを示しています。例えばカフェイン摂取量と呼吸率(Respiratory Rate, RR)は「正の相関性」がありますので、カフェインを摂取すればするほど呼吸数も比例して増えていくという意味ですし、一方でカフェイン摂取量と意識レベル(Glasgow Coma Scale, GCS)は「負の相関性」がありますから、カフェイン摂取量が多ければ多いほど意識レベルは下がる傾向にある、という関連性が示されているわけです。脱線するかもしれませんが、ここで文中にさらりと書かれている「カフェイン摂取量と血中カフェイン濃度にはcorrelationは認められなかった(Spearman's rank correlation coefficient: -0.201, p = 0.454)」というのが私は非常に興味深いと思いました。カフェインを体内から除去する能力に個人差が大きいということかな?それとも摂取からの時間経過がそれほど考慮されていないので、ハーフライフが短いカフェインは比較的効率よく排除される分、摂取量そのものとはそれほど関連性はないということかな(「一時間以内のカフェイン摂取量と血中カフェイン濃度」なら関連性あり)?

一人一人の患者に提供された具体的な治療については省きますが、最終的なアウトカムとして101人中7人(6.9%)が心肺停止状態になり、集中治療を要したとのこと。大多数の患者(85/101 = 84.2%)の患者が平均3日の入院を余儀なくされ、最終的に97人の患者(97/101 = 96.0%)が全治して退院できたものの、3人(3/101 = 3.0%)が死亡したそうです(1人は頭痛が取れないままの退院となったので「全治」にも「死亡」にも含まれていません)。ふーむ。

この論文の結論ではカフェイン・サプリメントのオンライン販売や自動販売機でのエナジードリンクの販売拡大などでこういった製品が若年層にも簡単に手に入りやすくなっていること、形状としてはサプリメントのほうが液体(エナジードリンク)より安価で濃度の高いカフェイン摂取が可能なことなどを指摘。これからの救急患者のスクリーニングに血中カフェイン濃度のテストを入れるべきではないかと提案、そしてカフェイン・サプリメントの販売時にそのリスクを十分に消費者に伝える努力をすべきであると述べています。ここらへんは至極理に適っていると思います。



スポーツ薬学の授業を教えていた時にも、カフェインは身近な話題でしたので特に時間を使って話した覚えがあります。その一環として毎年学生に、「身近にあるカフェインを含む食べ物や飲み物をふたつ選び、そのカフェイン含有量と、それをどれほど摂取すればNCAAの規則違反になるか計算せよ」という課題を出していたのですが、昨年度の授業でのその課題結果をまとめたものがこちら(↓)です。
*一応明記しておくと、NCAAでは尿中カフェイン濃度が15 µg/mLを越えると「違反」になります。これは約500mgのカフェインを摂取すると越える数値で、具体的には2-3時間以内にコーヒーを5~8杯飲むことに相当する数値です(含みがあるのはコーヒーも種類によってカフェイン含有量が異なるからです)。
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いわゆる「プロテイン・パウダー製品」にもかなりのカフェインが含まれていること、最も高い含有量を誇るエナジードリンクである「タイムリリース」という製品(中央上)には小瓶でなんと違反範囲スレスレの422mgものカフェインが入っていたことに学生ともども驚いたものです。アメリカと日本の製品はレギュレーションも異なるでしょうから日本ではこれほどカフェイン含有量はアグレッシブではないのかもしれませんが、やはり注意するに越したことはないと思います(日本の大学スポーツではどれほどのカフェイン摂取が「違反」扱いになるんでしょう?)。
授業ではこの流れでアスリートがカフェインを摂取して練習に臨む危険性についても話し合い、例えばこういった記事(↑)を読みながら「心肺機能への負担は?」「どんなリスクがどれほど高まる?」から、「では我々はATとしてどういったカフェイン摂取に関する教育をアスリートに施すべきか?」までディスカッションします。

私が授業で強調するようにしているのは、「アスリートだからってカフェイン摂取を一切断つ必要はないし、エナジードリンクを絶対に飲むな!って言っても素直に従うアスリートは少ないと思うんだよね。隠れてこっそり飲むようになるだけで」「だから(NCAA既定内の摂取に抑えるのは倫理的に前提として)、健康で現実的なカフェインとの付き合い方を一緒に模索していくのが一番建設的だと思うのよ」「あとは選手が『カフェインを摂らなきゃやっていけない』と考えているとしたら、そのメンタリティーの背景をきっちり探ることだよね。睡眠が十分に取れない→昼間眠くなる→エナジードリンクをがぶがぶ飲む→夜眠れないというサイクルに陥ってるかもしれないし…。となれば、どう高い質の睡眠を確保するかを話し合うことこそが真の治療につながるわけで」…というところで、そのためにはこの論文(↓)3 で提言されている「テーブル3: 若者へのエナジードリンク摂取に関する推奨事項」に触れ、授業を〆るようにしています。
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私なりに和訳してみると:

 1. エナジードリンクの摂取は一日に一缶(250ml)を超えないようにする
 2. スポーツ・部活の練習前や最中には摂取しない
 3. 心血管系の疾患がある場合、エナジードリンクの摂取についてまず医師に相談する
 4. アルコールやその他の薬とは併用しない
 5. 保護者もエナジードリンクの副作用・悪影響についての知識を持っておく
 6. エナジードリンクの過剰摂取や乱用について継続的に提言を続ける

これらの項目は非常にシンプルで、easy-to-follow(実践的)かなと思うんです。Too simpleかも知れませんが、AT学生に知ってほしいオトシドコロとしてはアリかなということで。

私自身もコーヒーは好きだし、よく飲みます。時に飲む紅茶も美味しいですし、カフェイン=悪なんかでは全くないかと思っています。その一方、日本の講習会や勉強会で一日に何本もエナジードリンクをごくごく飲んでいる受講者さんを目の当たりにして、「仮にも身体との付き合い方を教えるべき立場の方が!?!?」と度肝を抜かれることも今まで1、2回ではありませんでした。プロとして、アスリートの安全を確保するような教育を提供できるのはもちろん、自分でもそれらの習慣を実践できているようにありたいものですよね。この機会に、自分とカフェインとの付き合い方を一度見つめ直してみるのもいいかも知れません。

1. Kamijo Y, Takai M, Fujita Y, Usui K. A Retrospective study on the epidemiological and clinical features of emergency patients with large or massive consumption of caffeinated supplements or energy drinks in japan. Intern Med. 2018;57(15):2141-2146. doi: 10.2169/internalmedicine.0333-17.
2. Cappelletti S, Piacentino D, Fineschi V, Frati P, Cipolloni L, Aromatario M. Caffeine-related deaths: manner of deaths and categories at risk. Nutrients. 2018;10(5). pii: E611. doi: 10.3390/nu10050611.
3. Sanchis-Gomar F, Pareja-Galeano H, Cervellin G, Lippi G, Earnest CP. Energy drink overconsumption in adolescents: implications for arrhythmias and other cardiovascular events. Can J Cardiol. 2015;31(5):572-575. doi: 10.1016/j.cjca.2014.12.019.

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  by supersy | 2018-08-11 16:30 | Athletic Training | Comments(0)

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