サマータイム導入に伴う弊害は何なのか。交通事故と睡眠に関するエビデンスを振り返る。

今回は短くサックリと。

今日本ではサマータイムがよくニュースの話題に登っています。アメリカではDaylight Saving Time(DST)と呼ばれるこのシステムは、当然アメリカのほとんどの州でも導入されているわけですが…私は16年間アメリカに住んでいて、正直言って結局一度も慣れたと感じることがありませんでした。たった1時間時計が早く・遅くなるだけ、と思われるかも知れませんが、毎年毎年どうしても疲労感・倦怠感が体に残り、体内時間が大きく乱れてしまって、それを取り戻すのにかなり時間がかかってしまった年もありました。今回検討されている「2時間のサマータイム導入」の影響はどんなものになるのだろうと今からヒヤヒヤしているのは私だけではないはずです。
b0112009_15324485.png
By TimeZonesBoy - Own work, CC BY-SA 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=17593495
ちなみに予備知識的に。こちらの図(↑)は地球上でサマータイム制度を導入している国(青: 北半球オレンジ: 南半球)を表したものです。導入している国は全世界の1/3にすぎない、というのは改めて指摘されると意外な気もしますね。グローバルな視点から見ると、サマータイム導入国は現時点では少数派、マイノリティーなわけです。

さて、サマータイムにはもちろんProposed Benefits(提案されている長所)もあるのでしょうけれど、長所があるということはその陰で犠牲にされている短所もあるということは否定しきれません。ここでは、1) 交通事故のリスクと2) 身体的変調をきたすリスクについてデータを振り返りながらまとめたいと思います。


1) 交通事故のリスク
道路整備事情や車の技術の進歩、運転者の技術・知識・社会的背景の移り変わりなども影響を及ぼす可能性があるので、このテーマについては2000年以降に収集されたデータを元に書かれた論文のみ読んでまとめてみることにしました。条件を満たした論文が3つ見つかりまして。

●論文#1: 北半球・USA、アリゾナとインディアナ以外*の全州(2002-2011)1
*アリゾナとインディアナ州の一部ではDSTが導入されていないため
結果: サマータイム開始後6日以内に一般的に感じられる「倦怠感」は31%(p < 0.05)上昇し、交通死亡事故(fatal vehicle crashes)は6.5%(p = 0.007)増える。サマータイムが終わって通常時間に戻る際は交通事故リスクは変化せず、スコッと元通りに下がらないというところも興味深い。

●論文#2: 北半球・アイルランド(2003-2012)2
結果: サマータイム開始からの2週間以内で交通事故件数に大きな変化はないものの、(より暗くなっている)朝の時間帯に起きた交通死亡者数(casualties)は33.5%、(交通事故に巻き込まれて亡くなった)歩行者死亡者数(pedestrian casualties)は105.3%(= 倍以上)に上昇。サマータイムが終了してから1週間と2週間以内の交通事故件数はそれぞれ26.9%と17.3%減少するが、(より暗くなっている)夕方の時間帯の歩行者死亡数は1週間で68%、2週間で32.5%とそれぞれ上昇していた。

●論文#3: 南半球・ニュージーランド(2005-2016)3
結果:サマータイム開始初日(日曜)に交通事故件数が16%増、翌日(月曜)にも12%増。そこからさらにじわじわと5日間かけて事故件数は上がっていき、週の終わりである金曜日は開始直後の月曜日よりも事故数が19%上昇する。

ちなみにこれら3つ全ての研究は国家規模の大規模なデータを使った研究で、10年間かそれ以上の統計をまとめたものです。市区町村レベルの小さなものでないことは明確に指摘しておきます。

2) 身体的変調をきたすリスク
これらの交通事故件数上昇の背後には、日照時間の変化(例: 「朝」の時間がより暗くなり、視界が悪くなる)と、睡眠時間の変化によって起こるのではないかと言われており、1-3中でも睡眠に関しては、「サマータイムが始まる(= 一時間失う)とヒトは平均して普段より睡眠時間が40分減るが、サマータイムが終わっても(= 一時間得る)ヒトは一時間長く眠るというわけではない」4という報告は目からウロコでした。…いや、確かに実体験でも確かにそうなんですけども。サマータイムが始まるからって一時間寝るのを早めようとは思わないし(いやまぁ寝なきゃとは思うんですけど眠くならなくて)、サマータイムが終わるときはむしろ「一時間夜更かししても同じだけの睡眠が得られる」と思ってしまって論文ひとつ余計に読んだりとか…。

サマータイム開始時の「睡眠不足」は成人だけでなく思春期の高校生でも同様のようです。高校生ではサマータイム開始後の一週間で、一日当たり32分の「睡眠不足」が起こっており、これによって集中力が散漫になる→学業にも影響が出るのでは?という報告がなされています(アスレティックトレーナー的に考えると、この状態で放課後、部活の練習をするとなれば怪我のリスクも上昇するかもしれません)。5 これらの「睡眠不足」は、個人差は2日~2週間と幅広くあるものの、平均一週間ほどかけて徐々に解消されていくんだそうです。6 その間に失う仕事(学業も含む)の生産性、注意力欠如で起こる仕事のミスや交通事故の頻度上昇、ホルモンのバランスが乱れることによって起こる健康被害…。これらの全てはまだ推測や仮説の域を出ておらず、具体的にデータとして我々の前に姿を現していませんが…。2時間ものサマータイムを超短期オリンピックという目的のみのために導入するとしたら、それに伴う人材、経済、健康的弊害は何なのか充分に、慎重に検討し、それらの弊害の対策も考えたうえでの決断であってほしいと思います。

1. Smith AC. Spring forward at your own risk: daylight saving time and fatal vehicle crashes. Am Econ J Appl Econ. 2016;8(2):65-91. doi: 10.1257/app.20140100.
2. Sarma KM, Carey RN. The potential impact of the implementation of the Brighter Evenings Bill on road safety in the Republic of Ireland. A report for the Road Safety Authority of Ireland. 2015.
3. Robb D, Barnes T. Accident rates and the impact of daylight saving time transitions. Accid Anal Prev. 2018;111:193-201. doi: 10.1016/j.aap.2017.11.029.
4. Barnes CM, Wagner DT. Changing to daylight saving time cuts into sleep and increases workplace injuries. J Appl Psychol. 2009;94(5):1305-1317. doi: 10.1037/a0015320.
5. Medina D, Ebben M, Milrad S, Atkinson B, Krieger AC. Adverse effects of daylight saving time on adolescents' sleep and vigilance. J Clin Sleep Med. 2015;11(8):879–884.
6. Harrison Y. The impact of daylight saving time on sleep and related behaviours. Sleep Med Rev. 2013;17(4):285-292. doi: 10.1016/j.smrv.2012.10.001.

[PR]

  by supersy | 2018-08-08 22:30 | Athletic Training

<< 日本におけるカフェイン過剰摂取... 臨床家として、貴方は言葉をどう... >>

SEM SKIN - DESIGN by SEM EXE

AX