臨床家として、貴方は言葉をどう紡ぐか。

ずっと読みたかったこの論文1 を友人の助けを借りてフルテキスト入手できました!ありがとうしょうくん!さて、今回の論文はClinical Viewpoint - つまりイチ専門家の意見でしかありません。しかし、様々な臨床家が共感し学ぶことのできる内容だと思いますので読んでまとめてみるでごんす。
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言葉は人を救いもするし傷つけもする。この凄まじいパワーを秘めたツールを、我々はMusculoskeletal Rehabilitationの場で正しく使えているのでしょうか?

リハビリに来る患者さんが『元気いっぱい』ということは、皆さんもご周知の通り稀で、「リハビリに来なければいけない期間」は、それぞれの患者さんの長い人生の中でも『谷』の状態であることは珍しくないのではと思います。言い換えれば患者さんの心が特にvulnerable(吹きさらしになっている状態)やsensitive(周りのものや人に過敏な状態)になっている時期だと思うんですよね。そんな中で我々「リハビリの専門家」が紡ぐ言葉は、患者の中に生まれては消える様々な思考を潰しもすれば広げもする。ここは我々臨床家は改めて自覚すべきことなのではないかと思います。
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この論文の著者は「患者が今精神的にどこにいるか」は「患者が今病理解剖学的にどこにいるか」よりも傷みと機能をより正確に反映する、2-4 というここまでのエビデンスを引用し、「後者にばかり焦点を当て続けることは前者を悪化させることにもつながりかねない」「心理的要素はもっと認識され、理解され、その考慮は治療の過程で反映されるべきである」と議論を展開しています。患者を脅すような言葉遣いや、不明瞭な情報の提供の仕方は避けられるべきであり、自分たちの言葉がどう解釈される可能性があるか我々はもう少し自覚を持って警戒すべきであるというところは私も心から賛成です。「不明瞭な表現は相手の心情に合った色に塗り替えられてしまう」という表現は、特になるほど!と感じました。解釈に遊びが生まれてしまう、とでも言うんですかね。我々が患者に「最悪の場合は手術ということになってしまう可能性(may, possibly, perhaps)は否定できない(<1%)。でも殆ど(99%)の場合はリハビリをすれば大丈夫だよ」と言ったとして(そしてカッコ内の%は発信者の意図だとして)、この情報が患者の耳から脳に伝達される過程で"may, possibly, perhaps"が抜け落ちて「手術をしなければいけない(100%)」に書き換えられてしまうことはよくあることです。私も実際に臨床の現場で幾度も経験したことがあります。

患者自身の「もう治らないんだ」「良くならないんだ」という思い込み(= low recovery expectations)は乏しいアウトカムのstrong predictorであると言われています。3 このマインドセットでは冗談ではなく本当に治るものも治らなくなってくる可能性があるのです。

この論文では1) 「degenerative discs」という言葉が、いかに医療従事者間では「mildかつstraightforward(軽度な病変を反映しており、比較的聞いたままの分かりやすい言葉である)」と捕えられる一方で、患者には「catastrophic(壊滅的)」な響きを持ったものに聞こえ、不必要な不安を掻き立ててしまうか; 2) 「Have you noticed any problems with your bladder or bowels?(消化器官系や泌尿の問題はありませんか?)」という何気ないルーティーン的問診をする際、我々臨床家は「いつか消化器官や泌尿器官系に問題が起こるのではと恐れている患者にその問題がもたらすかも知れない更なる不安感」という影響にまで考えを巡らせているのか?など具体的な臨床のシーンを例に、我々の言葉が臨床上harmful(有害)になってしまうかも知れない可能性を指摘。加えて頭部や脊柱損傷などの場面も例に挙げ、こういった症例で臨床家は「この怪我がどんな組織の損傷を伴っているのか、どのように残りの人生の中で『患者が二度とできなくなってしまうこと』が定義されていってしまうか」ではなく、「これから治療をしていくことでいかにこれからの人生への有意義な土台作りができるか」に焦点を置いた"therapeutic emplotment(治療的筋書き構成)"を意識的に行うべきであると論じています。

では、患者の人生を再構築していく治療過程で、具体的に我々は「degenerative discs」のような状態をどう建設的に言い換えればいいのでしょうか?

よく英語では「wear and tear」という表現が使われますが、実はこれも例えば機械(マシーン)などが長期的に酷使され、部品が擦り切れたり壊れたりするなどのイメージを伴う言葉で、患者が「technical fix(部品の交換や劣化した部分の除去など=手術)」がなければ良くならない、という間違った印象を抱いてしまうかもしれません。著者は代わりに「normal age changes (年齢を重ねるにつれ、自然に起こる変化)」のような表現を使ってはどうか?と提案しており、他にも色々とWords to Avoid (避けるべき表現)とAlternatives (代わりに推奨する表現)をテーブル(↓)にしてシェアしてくれています。なるほどねぇ。全部が全部賛成はできないけど、眺めていて面白いなぁと思うものは多いです。
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ここからは私の個人的な経験談ですが。以前大学女子バスケチームで働いていたときに、他選手にのしかかられる形でとある選手が練習中に膝を傷めました。すぐにチームドクターに連絡してMRIを撮ったのですが、結果はGrade 2(中度)の内側側副靭帯(MCL)損傷。つまり「部分断裂」という診断でした。正直、Grade 1(軽度、マクロ断裂を伴わない靭帯繊維の伸張)くらいかと思っていたので、思ったより悪かったか、ぐぬぬと眉をしかめたのを覚えています。

この選手は当時卒業を控えていた最上級生(4年生)で、彼女にとっては最後のシーズン。このシーズンを通して爆発的な得点力を発揮していたものの、気持ちにムラがあり、それがプレーにも反映されることからプレータイムは安定していませんでした。感情的になることも多い子で、コーチとの関係はお世辞にもうまくいっておらず、焦ったりしんどかったり色々あるのは私も知っていました。

しかし、私にとって有利になりそうな要素は当時2つありました。ひとつは、この選手は私には絶大の信頼を寄せてくれていて、コンプライアンスに心配はなかったこと。そして、彼女の膝はGrade 2のわりに状態は悪くなく(受傷当日に歩行可)、私は彼女が気持ちさえ落とさなければ迅速な競技復帰が可能であると踏んでいました。そこで、少しの賭けに出たのです。

私はこの結果を選手に直接口頭で伝える際、「MRIの結果が出たよ、Grade 2 MCL Sprain(捻挫)だって」と言いました(敢えて難しめの医学用語をそのまま伝えたわけです)。その上で、今の症状からはこういう回復の流れが期待できると思う、こういうタイムラインを考えている、そのためにこんな治療やリハビリが提案できるんだけど、どう?と「回復過程」に重きを置いて、絵やグラフを描きながら丁寧に説明しました。どう受け止めるだろうと彼女の表情は特に気を付けて見ていましたが、ほとんど表情を崩すことなく、神妙な面持ちで、でも前向きに私の話を受け止めてくれたのを覚えています。

その後、彼女はリハビリに毎日関心するほど精を出し(それをコーチにも知っておいて欲しかったので、毎日この子がどんなに頑張っているかということも事細かに伝えていました…これによってコーチもこの選手を見る目が少し変わったのではと個人的には思っています)、目に見えて一日一日ぐんぐんと回復していき、結果受傷後一週間で試合に完全復帰をするなど、かなりスムーズに進行したケースだったのを覚えています。足をかばうこともなく、鋭いペネトレーションはそのままで、プレータイムは以前より増えたほどでした。

無事に膝の痛みが再発することもなくシーズンを終えてから彼女に改めて、「あの膝の怪我ね、私Grade 2 Sprainだと言ったけど、どういうことだか分っていた?」と聞くと、「捻挫でしょ?」との返答。「捻挫ってどういう怪我のことを指すと思う?」と聞くと、「靭帯が伸びた感じ?」という返ってきたので、「それは非常に正解に近いよ。でもヒトクチに捻挫と言ってもこれは靭帯や関節包の損傷の総称だから、Gradeは1から3まであってね。1はまさに靭帯が伸びた感じで、2は部分断裂で3は完全断裂のことを指すんだよ」。これは私がMRIレポートを受け取った直後に彼女に『したかったけれども敢えて省いた』説明でした。「MRIレポートでは靭帯の約4割が断裂していたというよ」

彼女は口をあんぐり開けて聞き返しました。「部分断裂?断裂?」

「そう。でも『部分』断裂って言葉を使ったら貴方の耳には部分『断裂』しか入ってこないだろうなと思ったし、私がその後何を言おうと貴方の思考がストップしてしまう気がしたんだよ。内側側副靭帯の『断裂』はしっかりとした治癒が起こる部位だし、例えば前十字靭帯が断裂するのとはわけが違う。それに私は当時の状況から迅速な競技復帰は十二分に可能だという確信があった。『部分断裂』という伝え方をして不必要なものを壊したくなかったから、貴方には『Grade 2 Sprain』って伝え方をしたんだよ。嘘ではなかったけど(私は貴方に決して嘘をつかないことは約束するよ)、真実を事細かに伝えなかったのは申し訳なかったとずっと思っていたんだ」

すると彼女は目を丸くしたままこんなことを言いました。「いやSy、部分断裂と言わないでくれてありがとう。Sprainっていう表現で良かった、それが最善だった。部分『断裂』なんて言われたらもうそれだけで「終わりだ(I am done)!!!!」と思っていたと思う」

「私は仮にも貴方を数年分知っていて、どう伝えたらどういう反応が返ってくるか予測ができたからね(笑)。部分断裂といってもかなり絶望的な意味を伴う部分断裂もあれば、今回のようにかなりしっかりした望みのある部分断裂もあるというのが体験してみて分かったでしょう。でも後ろめたい気持ちがなかったわけではないし、そういってもらえると救われるよ。私と自分の膝の感覚を信じてリハビリを毎日頑張ってくれてありがとう。自分の成功を引き寄せるためにはよくわからぬ言葉尻に振り回されず、諦めずにどんな状況でもその日その日できることをしっかり毎日やること、だよ。それをしっかりやったから最後のシーズン気持ちよく終えられたんだ。他でもない自分の努力の結果だよ。よく頑張ったね」

患者と対話するとき、多くの臨床家は「いかに難しい医学用語を簡単な一般語にして正確に患者に伝えるか」という点ばかり気にしているのかもしれませんが、それは「Grade 2 Sprainを『靭帯の部分断裂』という言葉に直すのが常に正解」、と一概に設定してしまっているということでもあります。私は個人的に、特定の状況や環境において「敢えて患者の限られた知識を利用し、嘘をつくことなく、しかし危ない言葉の使用を回避しながらやるべきことに集中できる環境を作る」という技術も臨床家には必要なものだと思っています。この件がその典型的な例だったかなと。

一応明記しておくと、私は、敢えて何かをぼかすことは許容されるべきですが、患者に嘘をつくことだけは絶対にNGだと思っています。これは患者⇔臨床家の関係を壊すことにもつながりますし。患者にとって適切な表現を探し、工夫することと患者を騙すことは正反対ですので、「嘘をつけ!」「ごまかせ!」「事実を捻じ曲げろ!」と言っているわけではないというところだけは、勘違いなさらぬようお願いいたします…。

1. Stewart M, Loftus S. Sticks and stones: the impact of language in musculoskeletal rehabilitation. J Orthop Sports Phys Ther. 2018;48(7):519–522. doi:10.2519/jospt.2018.0610.
2. Chester R, Jerosch-Herold C, Lewis J, Shepstone L. Psychological factors are associated with the outcome of physiotherapy for people with shoulder
pain: a multicentre longitudinal cohort study. Br J Sports Med. 2018;52:269-275. doi:10.1136/bjsports-2016-096084.
3. Ivarsson A, Johnson U, Podlog L. Psychological predictors of injury occurrence: a prospective investigation of professional Swedish soccer players. J Sport Rehabil. 2013;22:19-26. doi:10.1123/jsr.22.1.19.
4. Linton SJ. Understanding Pain for Better Clinical Practice: A Psychological Perspective. Edinburgh, UK: Elsevier; 2005.



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  by supersy | 2018-08-06 23:00 | Athletic Training | Comments(0)

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