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世界で一番静かな場所に行ってきました: What You See and Hear When You Become Sensory-Deprived

PRIのImpingement and Instabilityという講習を取りにミネソタに行ってきました。講習も講習で非常に実りが多かったのですが、実は今回の旅は、滞在地からほど近いところに位置するOrfield Laboratories(オーフィールド研究所)に行く!という「おまけ」付きでした。

ん、オーフィールド研究所って何かって?実は「地球上最も静かな場所」というギネス記録を持つ場所なのです。興味のある方はこんな記事(日本語)をどうぞ。
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事前に1時間半のツアーを申し込んでおり、友人の吉本さんとふたりで一緒にお邪魔しました(建物の見た目がチョー怪しい!スタイリッシュな研究所をイメージしていたので、着いてびっくりしました)。あっさっそく公式ギネス記録が飾ってある!こんな見た目なんですね…。

気のいいおじさまが色々と施設を案内してくださったのですけど…衝撃的!の一言でした。相当期待していったのですけど、期待以上に楽しかったです。ここね、元々は音楽スタジオだったらしいんです。プリンスやボブ・ディランがここでレコーディングをしたりもしてたんですって。でも今は文字通りLaboratories(研究所)なんです。 でも、音が専門の研究所って、実際なにやってるのさ?って思うでしょ?

例えば…とある冷蔵庫メーカーが「うちの冷蔵庫を『世界一静かな冷蔵庫』として売り出したいんです」と言っているとします。そうすると、実際にこの会社の製品が他の会社のどの冷蔵庫よりも本当に静かなのかという検証をする必要がありますよね。なので、「世界一静かな場所」と言われる無響室に自社製品を含む様々な冷蔵庫をひとつずつ運び込み、電源を入れて、それぞれの製品が出す音(ノイズ)を録音する。そして、一般の方(Sound Juryという言い方をしていました、「音の陪審員」ですか、なるほど)を研究施設に呼んでそれぞれの冷蔵庫を「聞き比べ」てもらい、静かな順にランク付けをしてもらう…。この検証の結果、見事自社製品が「最も静か」とランク付けされれば、正式に「うちの製品は世界一静かなんです」と宣伝できるというわけです。
(しかし興味深いのは、「電化製品は静かすぎるものもそれはそれで嫌われるんですよ…主婦の方なんか、冷蔵庫にしても食器洗浄機にしても、あまりに無音だときちんと動いているのか不安になるみたいで。少し騒音があるくらいが結局好まれるんですよね。掃除機なんかもっと面白くて、音がうるさければうるさいほど、掃除をしている実感が生まれてお客さんの満足度が上がる」というおじさまの言葉…うーん…ノイズって「何かをしている実感」を生むために必要なものでもあるんですよね)

それから、もうひとつ。ハーレー・ダビッドソンのバイクってあるじゃないですか。あのオートバイをヨーロッパに輸出しようってなったときに、ヨーロッパの路上で許される騒音レベル(アメリカのそれよりも厳しい)までエンジン音を下げる必要があったらしいんですね。しかし、ハーレーのエンジン音、あの重低音の三拍子が好きでファンはあれに乗るわけで、単純にボリュームを下げてしまうとせっかくのトレードマークの「らしい音」が失われてしまうかもしれない。そんなわけで、ライダーが運転中に聞いている音を特殊なマイクを使って録音し(これは「世界一静かな場所」ではなく、路上で行ったそうなんですが)、その音を様々な周波数に分解しながら、ハーレーファンを研究所に集めて「聞き比べ」をしてもらい、一体どの周波数のどの音が「ハーレーらしいエンジン音」という実感を作っているのか研究・分析したそう。それでハーレーをハーレーにさせる周波数を特定し、その他の周波数の音を消すことで「騒音レベル」を下げたと。そうして「合法」かつ「ハーレーらしさ」を失わないエンジン音を作ったんだそうな!へーーー!

実際に「録音した音から特定の周波数の音を抽出するスピーカー」とか、「音源とその反響を映像化するプログラム」なんかもツアーで見せてもらえました。す、すごい…。

それから「反響の部屋」も面白かった。一見なんてことないコンクリ張り+金属板をいくつか天上から吊るしている部屋なんですが、長い周波数の音をだし、それが壁や金属板に跳ね返ることで、音の波がお互いをcancelしたり(=音が消えて静かになる)、amplifyしたり(=音が大きくなる)するので、部屋をてくてく歩いていると異様に静かな場所があったり、騒がしい場所があったりするんです。音は波なんだ!ということを実感できる場所でしたね。

そしてツアーの目玉はなんといっても「無響室」!何重にもなる特殊構造でできたこの部屋(↓)は、発される音の全てを天上と壁が吸収してしまうので、音の反響が一切無いのです。おじさまの喋ってくれる声も、おじさまの口からまっすぐ私の耳に届く声のみは普通に聞こえるのですが、壁に反射して入ってくる他の方角からの音が一切ない。聞こえ方があまりに不自然で、非常に違和感があります。
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色々と説明してもらったあとで、「では今からこの部屋に貴方を残して扉を閉め、20分間無音状態を体感してもらいます。ついでに部屋の明かりも消しますか?」と聞かれたので、少し悩んで「では明かりもお願いします」と答え、部屋の照明も消してもらいました。せっかくなので聴覚だけでなく視覚も奪われた状態で私の身体がどう反応するのか感じてみたかったのです。おじさんは出てゆき、扉が閉められて部屋の中は完全に暗闇になります。何も見えません。



その時の20分間の体験を覚えているうちに言葉に残しておきたいと思います。



まず、真っ暗闇、無響空間のはずのその部屋の中で最初に感じたのは意外にも「眩しさ」でした。

床(であるはずの部分)から白い光が放たれているように感じたのです。暗い部屋でその「地面」は煌々とそれはそれは眩しく光っており、目を開けていられないほどでした。しかし、目をつぶってみてもこの光は瞼の裏に張り付いてでもいるかのように私を睨み続けるのです。「これは自分の思い込みが作っている光なのだ」「消せるはずだ」と何度か意識してみたのですが、この電気を消すことはしばらくできませんでした。

次に気になり始めたのは、自分の身体の中の音でした。そうなんです、無響空間では、周りからの音が全く耳に入ってこないので、自分の体内の音が聞こえ始めるのです。首を右に、左に向けると、頸椎のギシギシ軋む音が聞こえてきて自分がとたんに油の切れたドアヒンジになったように感じました。首をひねると同時に複数の箇所がギシギシ、ミシミシいうので、あっこれがOAで、あっちがC1/C2か?身体の動きって複雑な箇所が同時に動いて実現しているんだなー、と、他人ごとのように考えたりしていました。

その次に浮かんできた感情は「うるさいな」でした。地球で最も静かな空間で「うるさい」と感じたなんて、おかしいかもしれません。でも高い周波数の、例えるなら夏場にどこか遠くでセミの大群が一斉に鳴いているような音と、低い周波数の「ぼー」という音が同時に聞こえてきて、それがうるさいなぁと思ったのです。これも先ほどの光同様、「脳が勝手にない音を作り上げているのだ」と言い聞かせて、静かさに集中しようとしてみたのですが、その努力はセミの鳴き声をより大きくしただけでした。この音は、残りの時間ずーっと続きました。

終盤で感じた視覚体験もまた異様でした。前もっておじさまに「purple haze(紫の霞)のようなものが見えたりするからね」と言われていたのですが、本当に紫のモヤが目の前に現れ、上下左右にユラユラ揺れ始めたのです。まさか?と何度も目を凝らしてみたのですが(…という表現はおかしいかもしれません、意識を集中してこのモヤの正体を見つめようとしたのですが)、これはハッキリと紫色でした。なぜ紫なのか、理由は分かりませんが、私の所縁ある団体の象徴カラーが紫なので、あまりの偶然に少し笑ってしまいそうになりました。何も見えない究極の暗闇では紫が見えるんだよと、後でロンに教えてあげなきゃ、と思ったのを覚えています。
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20分は、長いようであっという間でした。部屋を出てから、周りの何気ないノイズが耳に流れてきて、それと共に止まっていた時間がやっと流れ始めたような妙な感覚を覚えました。いやもう、なんと表現したらいいか、とにかく本当に面白かったです。他ではできない感覚欠如体験です。興味のある方、時間のある方は是非この奇妙な研究所に一度足を延ばしてみることをお勧めします。**ツアーと見学は事前申し込み(支払いも含め、2週間前までに)が必要ですのでご注意ください。私は研究所に事前にメールして予約をし、それから電話でカード番号を口頭で伝える形で支払いを済ませました。
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最後におじさまと一緒に写真を撮りました。研究所の所長、Steven Orfield氏とも直接お話することもできて、ほくほくで今テキサスへの帰路についています。はー楽しかった…。「アメリカでやり残したことトップ6」のうちひとつがチェックできました(ちなみにもうひとつの「NYで博物館・美術館巡り」も3月に完遂できたので順調といってもいいでしょう)。残り4つはまた戻ってきたときに。

  by supersy | 2018-05-22 21:30 | PRI

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