ストロボ眼鏡を用いた視覚介入で着地メカニクスは変わるのか。

Injury-Induced Neuroplastic Changes: 膝の怪我が脳に与える影響?(2016年1月31日)

以前、整形外科外傷に伴うNeuroplastic change(脳の可塑的変化)と、そのリハビリとしてストロボ眼鏡の可能性があるんじゃないかなんて記事をまとめたんですが、今回はその続編というか、続きとなるCohort Study (↓)1 が発表になったので読んでみます!Leading Authorは前回2 と同じGrooms氏ですね。
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まぁ前置きは前回の記事にも書いたので省くとして、今回の研究の趣旨は「ACL再建手術を受けた患者さんを対象に、Stroboscopic glassesを装着してもらい、stroboscopic visual-feedback disruption (SVFD)を作ることで視覚的フィードバックに頼れない状況を作り出したら、Drop Landingのメカニックスに変化は生まれるか?」ということ。

15人のACL再建手術を受けた患者と、年齢、性別、身長体重に利き手・足、現在のactivity levelと教育レベルがマッチした15人の健康な被験者(多項目!被験者の人数は少なく感じるけど一応統計パワー的に各グループ14人いればいい、という最低値はクリアしているし、ここまで詳細なdemographicsをマッチさせたのはすごいです。でもここまでやるなら、何故効き目は考慮しなかったのか?)を集め(それぞれ男7人、女8人、平均は21.41±2.6歳 vs 23.15±3.48歳)、1) Full vision; 2) low SVFD (不透明100ms vs 透明100ms); 3) high SVFD (不透明250ms vs 透明100ms)の状態で各条件下3回ずつ、「高さ30cmのボックスから飛び降りて、地面に着いた直後に垂直跳び。自己最高の高さの90%の位置にあるターゲットに触れる」…という、つまりかなり強度の高い着地・ジャンプをさせ、その間の下肢のメカニックスを分析したというわけです。わーおもしろそう…。かなり丁寧にデザインされている研究だなぁという印象です。正直言ってこういうバイオメカニックスの分析は詳しくないというか、全く専門ではないんですが、先行研究によれば今回の研究で用いられたバイオメカニックス測定法は信頼性が高く、様々な実験のスタンダートとして使われているプロトコルなんだとか。そういわれると、詳しくない分野は信じるしかないっ。すごいに違いないっ。ちなみにこの実験で使われたストロボ眼鏡はNikeのSPARQ Vapor Strobeブランドだったそうだそうな。これ今買おうとしたらいくらかな、$700-800くらいかな?

計測したアウトカムは
- sagittal-plane knee excursion (着地の瞬間から最大で膝がどれほど屈曲するか)
- frontal-plane knee excursion (着地の瞬間から最大で膝がどれほど内転するか)
- peak knee flexion moment (normalized)
- peak knee abduction moment (normalized)
- peak vertical ground reaxtion force (normalized)
の5項目。で、結果を書いてしまうと…

1. ACL再建患者・健康な被験者に関わらず、SVFDがあると着地メカニズムに変化が生じる。具体的には、膝の内転角度が1.98±1.53°下がり(p = 0.001, Cohen = 0.70, moderate)、peak vertical ground reaction forceが38.72±26.63%body mass上がり(p < 0.001, Cohen = 1.45, large)、peak knee-abduction momentが0.04±0.04Nm/kg上がる(p < 0.001, Cohen = 2.20, large)。着地時に内転を上手く使って力を溜め、それを効率良く利用してジャンプする力に変えられているということでしょうか…。

2. ACL再建患者と健康な被験者を比較すると、ACL再建患者のほうがSVFDをしているときに膝の屈曲角度が平均3.12±3.76°増えた(p = 0.001, Cohen = 0.96, large)、というのが唯一の違いであった。つまり、ACL再建患者はストロボ眼鏡を装着している時の方が、着地の際に膝をco-contractionによって固めて衝撃を(非効率に)真正面から受け止めようとせずに(stiffening strategy)、膝を上手く使って衝撃を吸収できていたということに。
*3.12°程の変化なんて大したことないと思われるかもしれませんが、これはインシーズンのACL予防Neuromuscular Training(3.1°)、plyometrtic-jump training program(3.0°)、landing feedback intervention (3.5°)らによってもたらされる膝の屈曲度の変化とほぼ同じ。低く見積もっても数時間、長く見積もれば数週間分のトレーニング成果が眼鏡をかけただけで得られるという結果になっているというのは、うーむ、興味深いです。

ここからは個人による個人のための見解を書き残しということで、今回の結果をPRI Visionのセオリーになぞらえながら解釈してみたいと思います。ACL再建患者がその回復のプロセスで、痛みの継続的認知や患側の筋力低下、筋神経制御の低下などで今までのパターンがより色濃くなっていたと仮定して、ACL再建患者がより右の主(ともしかしたら副)視野からのフィードバックに頼って自我を成立させていた可能性は大いにあります。しかし今回のこの実験では、ストロボ眼鏡の影響で右視野からの情報が十分に得られなくなり、結果、患者は自分を見失い、「自分はどこにいるのか」「何をしているのか」という自我を新たな感覚情報を元に見つけなおさなければいけなくなったわけです。

この際、1) 事故的に左副視野を発見して従来の感覚依存(= パターン)から出る→骨盤が後傾し、それに伴って股関節屈曲・膝関節屈曲; 2) もしくは視野以外の情報、例えばグラウンディングの感覚によって地面からの知覚刺激で自我の再発見を図ろうと、(両)踵を使っての着地になるようメカニックスが変化し、結果的、(両)股関節・膝関節屈曲が増えた…つまり、今までよりも相対的に左の踵から入ってくる知覚量が増えるので、パターンから出やすくなる、みたいな変化が起こっているんじゃないですかね。だから、パターンにはまっている場合のトレードマークであるlumbar extensionが消えている(= 膝の屈曲が出ている)んじゃないかと。

なので、膝の屈曲角度が増えたという結果は本当に面白いです。多くの患者がストロボ眼鏡の着用でメカニズムは複数あり得るにしても事故的に屈曲を発見し、自分自身をunlockできたことになります。しかしここで本当に興味深いのが、ストロボ眼鏡自体は患者をlateralizeするまでには至らなかった(= frontal planeの変化は見られなかった)ということ。unlockして胸郭前部から空気が抜けても、右の肺と左の肺に空気が自在に出たり入ったりするような状態(= 右にも左にもlateralizeできる選択肢が十分にある状態、つまりPRI neutral)に行くまでには足らなかったということじゃないかと。もちょっとPRI的に分かりやすくいうと、これらの患者さんはAdduction Drop Testは落ちるようになったけど、Hruska Adduction Liftは2-3をふらふらしてるあたりですかね。4-5までいけてない。やっぱり、眼鏡だけじゃいけないんだなぁ。

感覚としては、ストロボ眼鏡って、PRIがパターンにどっぷりハマっている患者の左歯にTongue Depressorかますのと似てるのかもしれませんね。Take the right bite out. 本人の支えになっているものを敢えて取っちゃいましょう、と。今回の検証結果はとても面白いと思うんですけど、ストロボ眼鏡は左の歯にかますTongue Depressorよりは少しギャンブル性が高いんじゃないかって気はしています。なぜかというと、ひとつはお値段がTongue Depressorと比べ物にならないくらい高いこと。二つ目は、左を与えずに右を(完全ではないにせよ)奪ってしまうと、患者がより一生懸命右を探してしまうという、狙いとは真逆のことが起こってしまう可能性があるということ。「右が見えない!」「じゃあ左も見てみよう(→で、結果左見つける)」ならいいんですけど、絶対に「右が見えない!」「もっともっと右をよく見なくっちゃ!(→より右しか見なくなる)」ってなっちゃう患者さんが絶対にいると思うんです。決して少数ではないはずです。患者が持てる知覚全部使って右の限られた視野の中からできる限りの情報を掬い取り、それでなんとか立ったり歩いたり着地しようものなら、本来の患者のパターンはなくなるどころか結果的により強くなって帰ってきてしまうかもしれません。余計治療しにくくになってしまう。

事故狙いのセラピーってのもね、どうかなとは思いますね。$700-800使ってとなると、特に。もう少し治療介入ってのは意図的じゃないと。

PRIのアプローチを使って患者を診る際には、どの感覚刺激を使えば一番成功率が高そうか考えながら介入を決めるので、今のところこのストロボ眼鏡が治療のNo.1ツールになることはないかな、と思ってしまうんですが、sensory lost(感覚的迷子)な状態を作るには面白い道具じゃないかなとは思っています。うーー、やっぱり個人で所有してちょっと遊んでみないと勝手が分からないかなー?ちょっと買ってみちゃうにはなかなかなお値段だからさすがに躊躇するなー、どうしようかなー、むーーーー。

1. Grooms DR, Chaudhari A, Page SJ, Nichols-Larsen DS, Onate JA. Visual-motor control of drop landing after anterior cruciate ligament reconstruction [published online ahead of print on May 11, 2018]. J Athl Train. 2018. doi: 10.4085/1062-6050-178-16.
2. Grooms D, Appelbaum G, Onate J. Neuroplasticity following anterior cruciate ligament injury: a framework for visual-motor training approaches in rehabilitation. J Orthop Sports Phys Ther. 2015;45(5):381-393. doi: 10.2519/jospt.2015.5549.

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  by supersy | 2018-05-15 13:29 | Athletic Training

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