AT学生と、SNSの使い方。

これから医療教育界で大きなトレンドになるだろう(もうなっている?)と言われているトピックのひとつに、Health Informaticsがあります。InformaticsとはInformation Engineering (情報エンジニアリング)のことで、私もこの16年間で患者の医療記録の入力、保存、(医療者間での)共有の仕方が著しく変わるのを目の当たりにしてきました。様々な医療情報が電子データ化され、オンラインシステムで管理されるようになっていく中で問題・課題として絶対に話されるべきは、患者情報の保護(=医療情報流出の予防)。そして、Health Informaticsと切っても切り離せない関係にあるのが、本来医療情報とは関りがないはずのツイッターやフェイスブック、インスタグラムなどのSocial Media (SNS)です。
b0112009_22490479.jpg
日本でも日々こういったSNSで様々な人や議題が「炎上」していたりしますが、ひとたび「投稿」すれば数分のうちに取り返しがつかないくらい拡散("go viral")してしまうのがSNSの恐るべき特徴。その情報の波に乗ってしまうのは未成年の飲酒やコンビニアイス売り場で遊ぶ客の写真だけではありません。実は日米問わず、患者の写真を顔入り、所属入り、場合によっては名前入りで投稿してしまう医療従事者・学生というのは沢山いて、大学教育という観点からも「SNSとの付き合い方をどう教えるべきなのか?」ということが問題になっているのです。

アメリカにはthe Health Insurance Portability and Accountability Act of 1996 (HIPAA)という法律があり、まぁザックリいうと患者さんの同意書類なしに医療従事者が医療情報を第三者に開示することは違法と定められています(警察による介入や伝染病のアウトブレイク時など、限定的な例外はあるのですけれど)。高校や大学であれば、HIPAAに加えてthe Family Educational Rights and Privacy Act (FERPA)という生徒の教育情報(ワクチン接種歴などの医療情報も含む)保護法という法律も適応されるため、教育機関に勤務するアスレティックトレーニング(AT)と、そこで学ぶAT学生は患者の医療情報の管理について特に徹底していなければならないのです。

一方でHIPAAを一部改正する形で2009年に制定されたのがHealth Information Technology for Economic and Clinical Health (HITECH)という、医療情報の電子化を許す法律。これを期に驚くほどにまぁ一気にElectronic Health Recordが主流になって、2018年の今では手で書類にちまちま記入している医院やクリニックのほうが珍しいほどなのではないでしょうか。…ということは、そうなんです。現役医療従事者、教育者と学生は「電子化された医療記録の持ち運び、持ち出しのしやすさ」と「電子化しようとも変わらずにある守秘義務」とのバランスを、つまり、HITECHとHIPPA/FERPAのバランスをしっかり保たなければならない、という新たなチャレンジが生まれたわけなんです。
b0112009_22415039.png
で、この論文1 の冒頭では、こういうこともしっかりATプログラムで教えなければいけないと、教えなくても分かるだろうと思ってはいけないと説かれており、まぁ現状把握をしましょうか、というのが主な検証内容になっています。652人の現役AT学生(平均21.96±8.47歳、男191人、女456人に不明・未回答5人…やっぱり女性が約70%と圧倒的に多いですねー)がアンケートに回答し、その89.8%が現在学士レベルで勉強中だったんだそうです。うち、92.2%がHIPAAに関するトレーニングを受けた経験があったそうなんですが…HIPAA/FERPAのトレーニングは全てのCAATE認定プログラムで義務付けられているはずですから、これが100%でないことに私は少し疑問を感じています。好意的に考えるとすれば、もしかしたらプログラムに入ったばかりで「まだ」トレーニングが行われる前にこのアンケートが実施されたということかな?

んで。びっくりするのが、学生一人当たり、平均でSNSのアカウント(active accounts = 日常的に使っているアカウント)を6.81±2.75も持っていたということ。へ、平均約7つって…多くないですか?特に多かったのはFacebook(93.4%)、Snapchat(85.3%)、Instagram(80.4%)、Twitter(68.4%)、Pinterest(55.1%)、Skype(51.2%)、YouTube(51.2%)、LinkedIn(31.7%)あたり。ああ、まぁSkypeもひとつに数えるのか…。それにしても7つとは…。私はActiveなのは3つくらいですよ…。

細かい回答内容も見ていくと興味深いです。ほとんどの回答者(93.4%)が「自分と患者の顔がフルに写っている写真はSNS上にはない」と答えたものの、1.6%(n = 10)が「SNSで他人がHIPPA違反を犯しているのを発見し、報告をした」、0.2%(n = 1)は「自分がHIPAA違反を犯してしまい、報告された」が回答しているというのは衝撃です。自己報告ですから、実際の違反頻度はもっと高い可能性もあります。加えて、13.8%(n = 87)の学生が「所属プログラム内の人間(学生仲間やスタッフも含む)がSNS上で倫理上の問題のある行動をしている」と思っているんだそうで。

ATプログラムがSNSポリシーを定めていると答えたのはたった24.2%で、ポリシーがあるかどうかも分からないと答えた学生の方が多かった(32.2%)という結果になっています。

この論文の考察にはE-professionalismという言葉が紹介されていて(= "the attitudes and behaviors that reflect through digital media")、もう少しこれに特化したトレーニングなり教育が必要だと論じられています。患者の顔付きの写真投稿は比較的明確にアウトだと分かる常識人がほとんとでしょうけれど、例えば簡単にアクセスできるようになった患者の医療記録そのものの取り扱いもトラブルが後が断たないそうで…。実際にNFL選手の怪我に関連して、ESPNのレポーターが特定選手の医療レコードを無許可で写真に撮り(これがまずアウト↓)、投稿されたあとで、見たくなったんでしょうね、同病院勤務の医療従事者2名がその医療記録に不当にアクセスしたという理由で解雇されたというケースも過去にありました。そうなんです。リークに直接関わったわけではないんですが、興味本位で自分に関係ない患者の医療情報を「見た」ことが問題になったんです。
b0112009_01430106.png
ちなみに例えば電子機器が盗まれたりパスワードが流出したりなどして第三者が医療記録にアクセスできるようになってしまった場合も、元の持ち主の管理責任が問われるので、電子記録の保護もしっかりと確立しておく必要と義務があります。例えば、車上荒らしで某NFLチームのATの車からノートパソコンが盗まれてしまった、という過去のケースでは、そのパソコンはパスワードがかかっていた(password-protected)にも関わらず、コード置換されていなかった(unencrypted)という理由でATのHIPAA違反としてみなされうるとされた出来事もありました。悪意のある、意図的な違反でなくても巻き込まれてしまう可能性が十分にあるということです。

HIPAA/FERPAのみならず、医療従事者としてのSocial Media Presenceというものについて、各プログラムがしっかり教える必要があるようですね。これをしてはいけない、あれをしてはいけない、というポリシー作成が必要なだけでなく、プログラム内で違反があった場合、どう報告し、対処するのかというメカニズムを作っておくことも同様に重要だと思います。うちのプログラムでは学生とSNSポリシーの確認は毎年一度行っていますし、誓約書にサインもさせてますけど、だからといって私たちが積極的に彼らのアカウントを監視しているわけではないですから、実行・施行というところもまた難しいですね…。正直そういうところ(SNSアカウント監視)に時間とエネルギーを使いたくない…。怠惰だと思われるかもしれないけど…。うーん難しいところ…。

私の基準はアメリカでも厳しいほうなのかもしれませんが、個人的には学生と教授、学生とPreceptor、学生と患者、医療従事者と患者がSNSで繋がること自体がそもそもアウトだと捉えています(LinkedInは例外かもしれませんが)。在学中に繋がるメリットが分かりません。卒業まで待てよ、と。SNSに写真を載せる場合、学生・医療従事者と選手(athlete)との写真は許容されても、(治療や施術中である・ないに関わらず)患者(patient)との写真は不適切じゃないかとも思います(ちなみにathleteがpatientに変わる瞬間はその人にchief complaint、主訴があるかないかだと定義します)。それが例え「この患者さんが完治して競技復帰します!」という投稿だとしても、その患者さんが何らかの怪我でその医院・クリニックに通っていたという医療情報の流出にはなるわけですから。自分の投稿はもちろん、他人の投稿に対してイイネ!やRT/シェアすることも同様ではないかと。個人的な見解ですけど。

もちろんこれが患者さん側からの発信だったらいいんですよ。「この医院・クリニックにお世話になって競技復帰までこぎつけました!ありがとう!」的な投稿だったら。あくまで医療従事者側からの発信がアウトだと考えているというわけです。患者の許可をもらって投稿しています、というなら、その「許可」は口約束でなく書類に残した方がいいです。訴えられて「そんなこと言った覚えはない」と言われたら負けてライセンス剥奪されますから。

うちのATセンターで意識して禁止しているのが、施設内のスタッフ・学生・患者さんのセルフィ―(自撮り)です。患者さん自身が「膝の怪我しちゃって治療中なう134.png」とセルフィ―をアップするのは上の流れからいったらオッケーじゃないかと考える人も多いかもしれませんが、うっかり背景に他の患者さんが写ってしまう危険性は常にあります。いちいち撮る写真全てを確認するのも我々の通常業務の妨げになりますし、医療施設であるATセンターでの写真・動画撮影は一貫して禁止、というほうが分かりやすくていいのです(Facetimeをする患者さんもいるのですが、これも同じ理由で遠慮していただきたいです)。

…とはいえ、矛盾するようですが、私はプログラムの実習教育コーディネーターとして学生の実習現場に頻繁に足を運び、学生のアクション写真を撮ることに実はプライドをかけています。私自身がATとして活動していた際の写真がほとんど手元になくてちょっと悲しかったという個人的体験から、学生の写真は目いっぱい撮ってあげたいなー、記録に残しておきたいなーと思っているからです。実際にそういう写真をSNSにアップすると、「That's my girl (私の娘最高)!」「Way to go (がんばってるね)!」「We are so proud of you (誇らしいわー)!」と数々の熱いコメントが付いたりと、親元や地元を離れて努力している学生と家族・友人をつなげることができているような気がしており、自己満足なのかもしれませんが、密かに成果を感じています。こういうのが、長い目で見て業界そのもののプロモーションに繋がるんじゃないかという、ちょっといやらしい狙いもあります。しかしプログラムのフェイスブック・アカウントにそれらを投稿する際は個人が特定可能な患者の顔、背番号や身体的特徴(髪型や腕のタトゥーなど)はモザイクをかけるよう、特に特に気を付けています。SNSを建設的な理由で使うことと、患者の医療情報を守ることの両立は絶対に可能なはずで、その線をきちんと引くとはどういうことなのかを各プログラムがしっかり教える必要があるというのは、その通りだなーと思いますね。私自身も学び続けなければいけないトピックかも。

1. Winkelmann ZK, Neil ER, Eberman LE. Athletic training students' knowledge of ethical and legal practice with technology and social media. Athl Train Educ J. 2018;13(1):3-11.

[PR]

  by supersy | 2018-05-07 02:40 | Athletic Training | Comments(0)

<< AT学生と、セクハラ。 アメリカでATを勉強した学生は... >>

SEM SKIN - DESIGN by SEM EXE

AX