アメリカでATを勉強した学生は、日本でもATとして通用するのか?米国AT教育の汎用性。

面白そうな論文を見つけたので読んでみます。
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Is current US athletic training education portable?という非常に興味深いテーマの論文。この場合のPortabilityは文字通り持ち運びができるかどうかという意味ではなく、他所に持って行っても十分通用するのか、つまり汎用性があるのか、という意味ですね。英語としては非常に美しい表現で惚れ惚れします。あ、ちなみに論文はOpen Accessですのでフルテキストはどなたでも閲覧可能ですー。

さて、BOC(米国アスレティックトレーナー資格)はカナダ、アイルランドの2国とMutual Recognition Agreement (MRA)と呼ばれる提携を結んでおり、この3国のうちいずれかの国で資格を持っていれば、他の国で大学等に入り直さなくても自動的にCertification Exam(資格試験)の受験資格が得られるということになっています…が、残念ながら2018年現在、ここに日本の名前は含まれていません。日本人はアメリカでATを学ぶ最も数の多いガイコクジンでありながら、その資格を日本に「持ち帰る」ことができていないのが現状、ということになります。もちろん私自身も例外ではありません。私が日本に帰っても日本スポーツ協会の公認アスレティックトレーナーの受験資格は現時点では得ることはできません。専門学校に最低でも2年通い、認定プログラムの教育を受け直さない限り(そしてもちろん資格試験に合格しない限り)、私は日本でアスレティックトレーナー(JASA/JSPO-AT)にはなれないのです。

んで。

米国で教育を受けた日本人ATと、日本で教育を受けた日本人ATの「仕事の中身(Practice)」は実際どれだけ違うのか、お互いの仕事をどう「感じて(Perception)」いるのか?というのを実際に日本人ATを対象に調査してみました、というのが今回の内容です。面白そうでしょ。実際に回答したのはJASA/JSPO-ATさん183人とBOC認定-ATさん34人の合計217人だったそうです。JASA/JSPO-ATさんが84.3%(183/217人)と大多数を占めていますね!
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回答者の性別、年代はこんな感じ。JASA/JSPO-ATの回答者のプロファイルは性別・年齢共にJASA/JSPO-AT有資格者のそれとほぼ一致します。一方、BOC認定-ATはJATOの会員に絞っての調査だったんですが(これがまぁそもそもサンプルとしては少し偏りがあるんではと思いますが)、JATOは会員の年齢を把握していないということなんです。JASA/JSPO-ATに比べて年齢層がだいぶ高い気がするのですが、これが「偏って」いるのかどうか、妥当なサンプルなのかの判断はしかねますね。総じて回答したBOC認定-ATのほうが年齢が高いとなると、現代のCAATE教育やBOCの推奨する継続教育の真意を理解できているのか?という疑問は私の頭の中に浮かびますけれども。

最終学歴も面白いです。JASA/JSPO-ATさんの41.5%が"その他"(専門学校卒と推測できます)を選んだそうなんですが、BOC認定-ATでこの回答("その他")を選んだ人数はゼロ。逆にBOC認定-ATの半数(50.0%)は修士を取得しているそうです。学歴にはだいぶ差があるんですね。

現在の仕事にも差があります。1) BOC認定-ATの約1/3(37.5%)は大学で、1/5(20.8%)がプロやオリンピックレベルで勤務している一方で、2) JASA/JSPO-ATは高校(27.2%), 実業団(22.5%), 大学(20.1%)というセッティングが勤務先トップ3。加えて 3) "Head Athletic Trainer"という肩書はBOC認定-ATの41.2%が有しているのに対して、JASA/JSPO-ATは24.0%と開きがあるのも驚きでした。ふむー。

で。実際の調査は特定の仕事項目に対して「これはどれだけ必要不可欠・重要か、どの程度の頻度で実際に行っているか」を回答者が程度付けして答えていく、みたいな内容だったんですが、結果としては「日本で教育を受けたATも、アメリカで教育を受けたATも仕事に対する実践・認識は殆ど同じ(Spearman's Correlation = 0.92~0.93でほぼ完璧に一致)」だったそうです。唯一統計学的に有意な差があったのは72項目中たった2点のみ。1) "Execute communication responsibilities to the patient and other professionals to ensure quality health care"という項目に関してはBOC認定-ATのほうがJASA/JSPO-ATよりもコミュニケーションがより必要不可欠(critical)だと感じており(76.5% vs 68.3%, p = 0.044); 2) "Use standard techniques to prevent or minimize risk of injury using taping, bracing, immobilization/splinting and/or protective equipment"という項目でも同様に、BOC認定-ATのほうがJASA/JSPO-ATよりもこれを重要(important)だと感じている(100% vs 86.3%, p = 0.034)という結果になったそうです。

日本で教育を受けても、米国で教育を受けても、ATという仕事に対しての認識や実践に大差はない。この結果は正直言って意外なものではありました(日米問わず、Emergency Careが最も重要であるという共通認識がある、という事実は素直に嬉しいと感じました)。ただ、回答者のほとんどが現在日本在住で、日本で仕事をしているというのであれば、この回答の全てが「今の日本のニーズと制度」に大きく偏っている可能性は大いにありますけれど…(在住情報は今回の論文では言及されていませんでした)。

これは面白いです。この研究は次のステップに是非進んで欲しいと思います。「日本で教育を受けたATも、米国で教育を受けたATも、アスレティックトレーニングという仕事について共通認識、共通実践ができている」ならば、「米国教育を受けたATも日本で教育を受けたATと少なくとも同等のレベルで実践できている(sufficiently effective)ことを次に確認すべきである」と私は思うのです。これが何かしらの形で報告、確認できれば、じゃあ次に「…ということは米国のAT教育は汎用性が高いということですよね」「では、米国で教育を受けたATも、日本スポーツ協会の公認アスレティックトレーナーの受験資格をもらえても良くないですか?」というargumentを放り込むことができるんじゃないでしょうか?

いやー、面白い論文でした。こういうの、私はこれからもっと読んでいかなければいけない分野かもしれません。もう少し掘り下げてみるかなー。

1. Izumi H, Tsuruike M. Portability of United States athletic training education in an international setting. Athl Train Educ J. 2018;13(1):33–41.
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  by supersy | 2018-04-28 22:30 | Athletic Training

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