「お尻をきゅっと締めるように」というキューイングでは大殿筋の相対的活性は促せない?: 抑制介入の重要性

今日はちゃきっと論文ひとつ1 だけ読んでまとめまーす。
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股関節進展筋として一番に働くのは大殿筋であるべきだ、とは多くのDisciplineで唱えられている説であり、大殿筋が主な原動力となってもたらされる股関節進展は"Gluteus Maximus-Dominant Hip Extension"と表現されます。1 何らかの理由で大殿筋の出力が低下した場合、補助筋であるはずのハムストリングが股関節伸展により大きな貢献をしなければいけなくなり(故にこちらは"Hamstring-Dominant Hip Extension"と呼ばれますが)、結果ハムストリングにかかる慢性的な負荷が増え、肉離れに繋がったり、(ハムストリングは大殿筋よりも長いLeverageがあり、股関節窩に対しての大腿骨骨頭の位置を繊細にコントロールする能力に欠けるため)Anterior femoroacetabulat impingementに繋がったりするのではと言われたりもするわけです。2-4
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んで。Hamstring-Dominantになってしまった人をGluteus Maximus-Dominantに戻す、つまり、Muscle firing patternを修整する目的での治療介入のために、例えば大殿筋に重きを置くようなSupine Bridging Exercise(↑)なんかを処方するセラピストも多いかも知れませんね。このエクササイズをする際、McGill氏は1) "Squeeze your glutes (お尻をきゅっと絞めて)"というVerbal Cueで大殿筋の出力上昇を促し、; 2) 患者の下腿を自分の身体でブロックするように膝立ちしながら"Extend your knees (膝を伸ばすイメージで)"というVerbal Cueで大腿四頭筋の活性を促し(=つまりはハムストリングを相互抑制の筋神経反射メカニズムを利用して活性低下させ); 3) 両手を患者の膝の外側に添えながら、"Push into my hands (私の手に向かって押すように膝を開いて)"というVerbal + Tactile Cueで股関節の外旋・外転を促すことで更なる大殿筋の活性を測る…という指導法(↓)を推奨しています。5 氏曰く、これをすればハムストリングの活性が下がる一方で大殿筋の活性が最大限に促され、Hamstring-Dominantの人もGlueus Maximus-Dominantになれちゃうぜ!というわけなんです。なるほど、理には適っているように感じます。クライアントさん、患者さん相手にこういう指導をされてきた方も多いのでは?
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で。実際にこの説を検証してみたぜってのが今回の研究。1
30人の健康な女性被験者を対象に、EMGを右大殿筋と右ハムストリングに付けて、Supine Bridging Exerciseを行ってその筋活性を計測。ちなみに30人という数字は80%パワー分析のもとに導き出された数字だそうで、ここまではふむふむ、なかなかいい感じですかね。何故右側だけの計測なのかは不明ですけれども。まずは計測初日にキューイング無しでエクササイズをやってもらい、Baselineとなる活性値を記録。それから普通に生活してもらって一週間後に再集合、ランダムにキューイング無し(Group 1: n = 15, 平均24.7±4.2歳)と有り(Group 2: n = 15, 平均23.3±1.7歳)のグループにわけ、それぞれ再計測したそうです。再計測時に「測定器系の問題があり、正確なデータ収集が行えなかったため」各グループから1名脱落者が出ています(=最終統計に含まれたのはn = 14のみ、合計28人、つまり、統計学的に充分なパワーがあったかが怪しくなっている)。測定に問題があったとすると、無事にデータ収集ができた28人分のデータもどれだけ信憑性、信頼性があるのか?と天邪鬼な私は少し疑問に思ってしまいますね。
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ともあれ。結果です。
くどいですが、初日は両グループともキューイングなし、一週間後はキューイングの有無に差があるわけですよね。初日は両筋肉活性ともグループ間の差が見られなかったの(大殿筋, p = 0.835; ハムストリング, p = 0.575)に対して、一週間後の再計測時には例の「お尻をきゅっと」「膝を伸ばして」「手を押して」というキューイングがあり(Group 2)だと、大殿筋はもちろん(p = 0.001; Cohen's d = 1.5, 95% CI 0.9-2.2)、ハムストリングの活性も(p = 0.004; Cohen's d = 0.8, 95% CI 0.1-1.5)キューイング無しのGroup 1と比べて跳ね上がっているのがよくわかります。

つまり、この研究の結論はこうです。McGill氏の推奨する5 前述のVerbal + Tactile Cueingは大殿筋の出力は確かに上げるが、ハムストリングの抑制が起こるどころか、ハムストリングの活性もそれに伴うように上昇する。つまり、Hamstring-Dominantの患者をGluteus Maximus-Dominantに変えるには不十分である、ということが言えるのです。

私の好きな盟友・James Anderson氏の言葉に、「Anyone can activate a muscle, but it takes a specialist to inhibit a muscle (筋活性は誰でもできる。しかし、筋抑制はスペシャリストでなければできない)」というものがあります。今回の研究結果がまさにこれなんですよね。筋活性のバランス、つまりMuscle firing patternが崩れたときに、出力が低下している筋肉(今回の場合は大殿筋)になんとかスイッチをいれようとぐいぐいこういったキューイングで努力するのは、本来抑制したい筋肉(今回はハムストリング)にもぐいぐいスイッチを入れる結果になってしまい、ある意味逆効果なんじゃないかと。

私は多くの場合、介入の第一手は活性ではなく抑制だと思っています。つまり、今回のようにHamstring-Dominantの患者がいる場合、まず手を付けるべきは大殿筋の活性ではなく、ハムストリングの抑制であるべきだと思うのです。抑制的筋神経介入の選択肢は複数存在するでしょうね、例えばMETとか、PRTとか、PRRTとか、PRIとか。これらのテクニックを一回挟んでからSupine Bridgeを行えば、筋活性のバランスもだいぶ変わってくるのではないでしょうか?これはあくまで個人の考えですけれども。

ちなみに今回のこの論文、出会えたのはうちの学生のお陰です。3年生の授業で「リハビリ系のRCT論文を見つけ、CATせよ!」という比較的自由度の高い課題を出しているのですが、この宿題を通じて、1) 自分の興味のある論文を見つける能力があるか; 2) その論文を読み込み、批判的に解釈・吟味する能力があるか; に加えて、3) うっかりめっちゃ面白い論文を見つけてくれて、私をいかに興奮させてくれるか、というところを評価しています(笑)。そう、ご察しの通り、学生がこの論文を課題に取り上げてくれたんですよ。ありがたいありがたい。教えることを学ぶことは表裏一体、いや、本質的には同じことなのかもしれませんね。


1. Hollman JH, Berling TA, Crum EO, Miller KM, Simmons BT, Youdas JW. Do verbal and tactile cueing selectively alter gluteus maximus and hamstring recruitment during a supine bridging exercise in active females? a randomized controlled trial. J Sport Rehabil. 2018;27(2):138-143. doi: 10.1123/jsr.2016-0130.
2. Sahrmann SA. Diagnosis and Treatment of Movement Impairment Syndromes. St. Louis, MO: Mosby, Inc.;2002.
3. Lewis CL, Sahrmann SA, Moran DW. Anterior hip joint force increases with hip extension, decreased gluteal force, or decreased iliopsoas force. J Biomech. 2007;40(16):3725–3731. doi:10.1016/j.jbiomech.2007.06.024.
4. Lewis CL, Sahrmann SA. Muscle activation and movement patterns during prone hip extension exercise in women. J Athl Train. 2009;44(3):238–248. doi:10.4085/1062-6050-44.3.238.
5. McGill S. Ultimate Back Fitness and Performance. 5th ed. Waterloo, Canada: Backfitpro Inc.; 2014.

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  by supersy | 2018-04-23 22:30 | Athletic Training

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