本帰国にあたって思うことその3。教育に携わるものとして成し遂げたかったこと。

8年間の米大学での教育者生活を振り返ってみて、つくづく自分には向いてなかったなぁと思います。私は献身的ではないし、他人にserveすることに人生の喜びを見出すタイプではないからです。やっぱり自分で自分の興味の赴くままに勉強しているときに勝る喜びはないです。自分勝手な先生でごめんなさい。色々と至らず、学生に申し訳ない思いをさせることも多かったかも知れません。

でも、ひとつだけこの大学で8年間勤務して、私が影響力となって変えることができたこと、誇りに思うことがひとつだけあります。それは「人生とは一生学び続けることである」ということを態度で示せたことです。
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私がこの大学に来た8年前は、スタッフも教員も数が今よりも少なく、空気が滞っていた感じがしました。それぞれが日々の仕事をこなすのに精いっぱいで(そしてそれは当時の環境を考慮したら仕方がなかったのだとも感じています)、スタッフや教員たちが自ら全米を飛び回って新しい技術や知識を手に入れようとしたり、論文を読んでその内容を共有し合ったりという文化や習慣がなかったのです。10年前のままのコンセプトの治療アプローチを繰り返すスタッフたちに私も驚きましたし(あまり喜ばしい驚きでなかったことは言うまでもありません)、休みを見つけてはいそいそと講習に出かけていく私に「よくやるわね」と呆れた顔をする同僚もいました。

そしてそういった空気は学生にも伝染るものです。私がここで教え始めたころの学生の学習態度はお世辞にも積極的とは言えず、実技中心のクラスでは最低限のことだけをパパパッと終わらせ、「もう帰ってもいいですか?」と言う学生が多くいたりもしました。真面目に取り組む少数の学生が周りに「何頑張っちゃってるの」と笑われ、バカにされている風景を目にしたのも一度や二度ではありません。

ワタクシゴトではありますが、私は中学校や大学でバカにされる側に立ったことがあります(不思議と、高校では一度も経験しませんでした。同じような思考の人間が同じ場所に集まりやすくなる「高校受験」という日本の学校システムに私はもっと感謝すべきなのかも知れません)。先生の話を黙って聞いていたり、期限内に宿題を出したり、テスト前にやるべき勉強をしていたりしただけなんですけど、「良い子ぶって」「ガリ勉」「Overachiever」「You are making us look bad」と言われ、なかなかに不愉快な思いをしました。別に貴方たちが頑張らないのは勝手だけれど、私は楽しいと思って好きでやっているの、自分でやらないと決めたなら一人でやらなきゃいいのよ、どうして他の誰かを一緒に引きずり落とさないと気が済まないの?と疑問に思ったりしたものです。

現代は、真面目な人がバカを見る社会だと言われます。正直者は損をするそうです。でも私は真摯に毎日努力を重ねる学生が褒められ、称えられ、応援されるような文化をここに作りたかった。学ぶ楽しみがイマイチまだ分かっていない子たちには「あれっ、勉強って楽しいんだ!」と気が付いてほしかったし、それに既に気が付いている子たちには「楽しいって声に出して言ってもいいんだ!」と安心してもらえたらいいなと思ったんです。

学びの場は、どんな子たちにも平等に安全であるべきです。楽しいことを楽しいと声に出して言っても誰にも攻撃されないし、ちょっと背伸びして挑戦し、結果失敗してしまっても誰にも責められない…そんな学びの土台となるSafe Learning Environment(安全な学習環境)を提供することが教育者としての最低限の責任じゃないかと思ったのです。

なので私は学生をとことん褒めました。普段あまり頑張らない子が頑張ったらその変わろうとする瞬発力を、毎日頑張り続ける子はその持続力を褒めました。人前で、こっそり私のオフィスで、とりあえず目を引いたことがあれば「なんと素晴らしくよくやっていることか!」「お前ら偉すぎるな!」と躊躇せず褒めました。そしたらあらあらびっくり。意外なことが起こり始めたんです。「Sy、あの子、こんなところをよく頑張っているよ!」と、私が気が付かなかった「良さ」をこっそり教えてくれたり、下級生が上級生を「ありがとう!こうしていつも教えてくれて、とても感謝している」と、上級生が下級生を「私が忘れかけてたことを質問してくれてありがとう!復習するいいきっかけになった」と、お互いがお互いを褒めるようになってきたんです。褒められることが「once in a blue moon (ごく稀にしか起こらないような希少な現象)」ではなく、「努力したら確実に起こる日常的な現象」に変わり、褒められる機会を奪い合わずともシェアしあえるということに学生らも自分たちで気づき始めたのかも知れませんね。うちの大学に来る学生は(お恥ずかしいのですけれど)決して頭が良いわけではないので、あまり勉強で褒められるという経験をせずに大学まで来た子も多かったのかも。褒めらえることでの楽しさを、学習して「分かるようになる」楽しさに結びつけてくれた子も多く、目の色を変えて勉強に励みだす子もこの大学で数多く見てきました。
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「うちの子全然読書をしないんです、どうしたらいいでしょう?」
「貴方は子供の前で楽しく読書をしていますか?」
「いいえ、していませんけど、どうしてですか?」
…という笑い話(?)がありますけど、学生さんに、そしてスタッフさんに学び続けてほしかったら、一番有効なのは「自分が楽しく学んでる姿を見せること」だと思ってきました。たまに学生やスタッフさんに「もう充分に知っているのに、どうしてそんなに勉強するの?」と聞かれることもありましたが、「君は教わるなら10年前の『正しい知識』を食いつぶしながら生きながらえている教授からがいいかい、それとも嬉々として常に『今の正解』を追い求めている教授からがいいかい」と返すとみんな「むぅ…」となってましたね。

ワクワクする論文を見つけたら独りオフィスで小躍りしたり、新しいPosition Statementが発表されたら「みなさーーん!でーまーしーたーよー!」と全員に共有したり、授業中に突然「あ、脱線するんだけど昨日読んだ論文の話してもいい?」と言い出したり、学生・スタッフさん対象の定期勉強会を開いて、学校内外からゲストを招いて「ガッコウでは習えないこと」を共有する機会を設けたり…。我ながら型破りの教授だったかも知れませんが、「人生分からないことだらけ」「When you finish learning, you are finished」「living is learning, learning is living」を地でいってた妙な自信だけはあります。

8年経って、ここを改めて見渡した時に、生き生きと勉学に励む学生の姿や、「今度はこんな勉強会に参加してみようと思っている」と話してくれるスタッフの顔を見て、いやー頼もしい、ここでやるべき仕事は一通り終わったかなという気がしています。滞っていた空気はすっかり流れるようになり、色々な情報が風に乗って流れ込んでくるようになりました。いいですね。気持ちがいいです。

新しい文化を作り、それを根付かせるにはかなりの時間がかかりました。私は辞める時には基本的にはきれいさっぱり跡形もなく、「いたっけ?」と言われるくらいに残り香の「の」の字も残らぬよう、消えるようにいなくなりたいと目論んでいるのですけど、唯一願わくば、この文化だけは私がいなくなっても続いていってほしいと思います。

…とはいえ、いなくなる立場で「これだけは続いてほしい」なんて今の職場に願うのは傲慢ですかね。せめて次の職場でも私はこうあり続けたい、一緒に働く人たちと積極的に学ぶ姿勢を絶やさず楽しくワイワイやっていきたい、とは思っています。

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  by supersy | 2018-04-19 20:30 | Just Thoughts | Comments(4)

Commented by やっさん at 2018-04-20 16:02 x
午後練習前にすごい元気出ましたー!今日も自分と学生の101%狙って頑張ってきまーす!
Commented by さゆり at 2018-04-20 21:58 x
あら、やっさんさん、そういっていただけると嬉しいです。素敵な一日を!
Commented by Tz at 2018-04-20 23:47 x
はじめまして。鍼灸師です。いつもブログで勉強させて頂いてます。
この文章に感銘を受け、思わずコメントしたくなりました。
献身的ではないとは言ってはいるものの、体に対する真摯な姿勢はおよそ献身的に振る舞う人よりも結果的に、人々のためになっているのではないでしょうか。
人のためと言う人はよくいますが、気持ちだけ、あるいは言葉だけのことがよくあります。
(意識的には)人のためではなくとも、(結果的に)人のために勉強する生き様を尊敬します。
これからも応援させて頂くとともに、ブログを参考に勉強させて下さい。
失礼しました。
Commented by さゆり at 2018-04-21 05:46 x
Tzさん、暖かいコメントありがとうございます。そうなんです、私は私のために楽しく生きていきたいと思いますが、その結果誰かの役にそれなりに立ったりしたらいいなぁとは思っていて、よく学生には「ここにいる間は私は君たちにとってfree resourceなんだから利用しない手はないよ」と言っています。応援ありがとうございます。私にできるペースで頑張っていこうと思いますー。

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