スポーツは身体に良くない?NBA選手の「健康」な膝のMRIを撮ってみると…

異常と普通の境目: 画像診断の進歩による弊害、「Overdiagnosis」について考える

以前「SLAP損傷は健康な人にも確認されている。画像診断の発達によって過剰診断という現象が起きているんじゃないか」という話を書いたことがあるのですが、今回はその膝バージョンです。
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特に痛みを抱えていないプロバスケットボール選手の膝のMRIを撮ったら、どんな結果が出ると思います?全ての組織が教科書通りに「正常」、「健康」で、病理的な変化が一切見られない?それとも長期的に蓄積されたダメージが見え始めている?この疑問の答えを提供してくれているのがこの研究たちです。1,2
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一つ目の研究(2005年発表)1 は膝に痛みが全くない20人の健康なNBA選手(= 40 knees; 平均26.15歳、幅21~36歳)のMRIを撮って、膝の状態を見てみましたよ、というもの。ちなみにこの研究の「健康」の定義は、1) pain-free full ROM (可動域制限なし); 2) no effusion(腫脹なし); 3) no ligamentous laxity(靭帯の不安定症なし); 4) no joint line tenderness(関節裂隙圧痛なし)、だったそうで…それなりにしっかりした基準に見えますね。

で、結果がすごいっす。
19/40 (47.5%) 軟骨損傷…うち14/40(35%)が膝蓋軟骨面に、10/40(25%)が大腿骨滑車溝関節面に、4/40(10%)が大腿骨内側顆、1/40(2.5%)が大腿骨外側顆、そして2/40(5%)が外側脛骨高原軟骨面にそれぞれ損傷が認められたそう。
8/40 (20.0%) 半月板損傷…内側が7/40(17.5%)で外側が1/40(2.5%)だったとのこと。箇所はその75%がPosterior hornだったそうな。

二つ目の研究(2008年発表)2 では同じ要領、同じ条件でNBA選手14人(平均26.3歳、幅20~36歳)、28の膝を検証。なんと、28中の25(89.3%)の膝に異常が見られ、両膝とも健康だった選手は一人としていなかったというのだからびっくりです。軟骨損傷は14/28(50%)半月板損傷は可能性が高い画像も含めれば3/28(10.7%)という、ひとつ前の論文にそう引けを取らない数字です。個人的には膝蓋腱障害(11/28, 39.3%)、嚢胞性病変(4/28, 14.3%)も多い気がしますし、一人いたというOsteochonrdal fractureもびっくりですね(↓)。
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…というわけで、ここまで見た限りでは「NBA選手の膝って痛みの有無にかかわらずボロボロじゃん!」と言いたくなるような結果です。では、それより少し若い、大学バスケットボール選手ではどうなんでしょう?シーズン前と終わった直後の膝の状態を比較した興味深い検証(2016年発表)の結果がこちら(↓)3 です。
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対象となったのは12人の大学女子バスケ、12人の大学男子バスケ選手合計24人(年齢幅18-22歳)。この研究では、片方の膝に痛みや腫れなどある場合には「症状の全くない」側の膝を、両側ともに健康である場合には利き足の側の膝の画像を撮ったそうな(= 24 knees)。なぜに利き足だったんだろ?理由は書いてありませんけども。シーズン中に選手3人がドロップアウトしたようなので(理由不明)、シーズン終了直後の計測に参加したのは21人(= 21 knees)のみだったそうです。

で、結果なんですけど、かなり興味深いです。

膝蓋前滑液包炎  シーズン前15/24(62.4%) vs シーズン終了直後16/21(76.2%)
脂肪体浮腫    シーズン前18/24(75.0%) vs シーズン終了直後17/21(81.0%)
膝蓋腱障害    シーズン前20/24(83.3%) vs シーズン終了直後19/21(90.5%)
大腿腱障害    シーズン前18/24(75.0%) vs シーズン終了直後19/21(90.5%)
骨髄浮腫     シーズン前18/24(75.0%) vs シーズン終了直後18/21(85.7%)
関節面軟骨損傷  シーズン前17/24(70.8%) vs シーズン終了直後17/21(81.0%)
半月板損傷    シーズン前12/24(50.0%) vs シーズン終了直後13/21(61.9%)

総じてそれぞれの怪我がシーズン前と終了直後では有病率が少し上がっているのが確認できるんですけど、それにしたってシーズン前の有病率がそもそも高すぎません?シーズン前に検査をした24人のうち24人の全員の膝にどこかしら異常が認められたそうですよ。前の研究との数字の差がかなりあって、こっちの統計の方がかなり多い印象なのでなんでだろう?と勝手に考察してみると…考え得るのが「最近の大学の選手のほうが10年ほど前のNBA選手よりもより身体に負担のかかる練習の仕方をしている?若年層の膝への負担が増えている?それとも単純に、この研究で使われたより最新の3.0-T MRIの性能が以前の研究で使われた0.3- or 1.5-T MRIよりも性能が良く、細かい状態の変化までしっかりと可視化できる?」ってところなんですけど、はて、正解はどれなんでしょうね?もしかしたら複数当てはまっているのかも…。

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最後におまけというかなんというか、バレーボール選手の研究4 に関しても少しだけ書いておきます。こちらはさっきのPappas氏らの研究をワンシーズンでなく「2年間」に引き伸ばしてその膝の状態の変化を追った、みたいな感じの造りで、18人のadolescents(男8人、女10人、平均年齢16.0±0.8歳)と18人の成人(男9人、女9人、平均年齢46.8±5.1歳)国代表レベルのバレーボール選手を対象にMRIでその膝の状態を見る検証を行っています。

2年間という時間で膝の状態に統計的に有意な変化は認められず、性別差も特に確認できなかったそう…なんですが、adolescentsとadultとでははっきりと異なる点数がいくつかありました。関節軟骨面損傷(0% vs 56%, p<0.001)、骨棘形成(39% vs 94%, p=0.001)、外側半月板損傷(0% vs 33%, p=0.019)が成人のほうが圧倒的に有病率が高く、骨棘形成(p<0.001)と半月板損傷(p=0.021, p=0.015)の状態がより悪いのも成人であったとのことなんです(↓)。
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バスケットボールのようなコンタクトスポーツでなくても、ジャンプと着地を要するスポーツであるバレーボールでもこうしてはっきりと「高いレベルで競技をしている選手の膝は、例え本人に自覚症状がなくても『損傷』が進んでいる」という結果が出たことは非常に興味深いと思います。競技を長くしていればいるほど、加齢が進めば進むほど、これらの隠れた損傷は悪化しているというのも間違いなさそうです。健康と怪我って表裏一体だなぁ、と改めて思ったのと、前回も書いたかと思うんですけど、画像診断の技術が日々進歩しているからといって、目に見えるようになったもののひとつひとつにいちいち反応しなくてもいいんじゃないかと、いや、どれを見てどれを無視するか判断しなければいけない手間が増えたこと考えれば、正しい診断を下すことは以前よりも難しくなってきているのかも知れませんね。画像診断では「正常から逸脱した状態」は容易に確認できても、その「clinical relevance(主訴との臨床的関連性) 」までは推し測れませんから。難しい時代になったものです。見えるようになってしまったものを見なかったことにするのは、クチでいうよりもはるかに困難で、エネルギーを消費することだと思うんですよ。

1. Kaplan LD, Schurhoff MR, Selesnick H, Thorpe M, Uribe JW. Magnetic resonance imaging of the knee in asymptomatic professional basketball players. Arthroscopy. 2005;21(5):557-561.
2. Walczak BE, McCulloch PC, Kang RW, Zelazny A, Tedeschi F, Cole BJ. Abnormal findings on knee magnetic resonance imaging in asymptomatic NBA players. J Knee Surg. 2008;21(1):27-33.
3. Pappas GP, Vogelsong MA, Staroswiecki E, Gold GE, Safran MR. Magnetic resonance imaging of asymptomatic knees in collegiate basketball players: the effect of one season of play. Clin J Sport Med. 2016;26(6):483-489.
4. Boeth H, MacMahon A, Eckstein F, Diederichs G, Schlausch A, Wirth W, Duda GN. MRI findings of knee abnormalities in adolescent and adult volleyball players. J Exp Orthop. 2017;4(1):6. doi: 10.1186/s40634-017-0080-x.

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  by supersy | 2018-04-13 23:59 | Athletic Training | Comments(0)

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