NATAの最新Position Statement、SLAP損傷の評価、マネジメント、RTPについて読み解く。

あっっっかーーーーん。
これについて書こう!と思っていたトピックがあったのに、こんな論文が出てしまったのだから仕方ありません。NATAの最新ポジション・ステイトメントがまさに今日、発表になりましたのでこれをまとめます。1 お題は「Evaluation, Management, and Outcomes of RTP Criteria for Overhead Athletes with Superior Labral Anterior-Posterior Injuries」、つまりSLAP損傷を負ったオーバーヘッド選手の評価、マネジメントとRTPの指標です。
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相変わらず美しいまとめです。138もの文献を引用しながら、簡潔に26項目の推薦事項にそれらのエビデンスをまとめています。いつも通り、私が個人的に興味深い、面白い、新しい、重要だと思うものを抜き取っていきます。推奨度の強い順に、A (= what we must do)、B (what we should do)、C (what we can do)もつけておきまーす。

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●診断
1. 投球動作を繰り返す選手で、水平内転制限(15°より大きい関節可動域の欠如)や内旋制限(非投球側の肩と比較して、外旋の増加を伴わない13-15°の内旋欠如がある)などによって確認できる後方関節包の拘縮がある場合は「SLAP損傷のリスクが高まっている」と考えられる(推奨度・B)。

2. 受傷メカニズムとしては肩甲上腕関節の外転と外旋を合わせたオーバーヘッド動作の繰り返しが一般的(推奨度・B)で、痛みは明確な境界なく("vague")、関節上方の「深い」ところに位置し、前方に向かう場合も後方に広がっている場合もあり得る(推奨度・C、イメージ図↑)。Type I SLAP損傷の場合は大概は痛みは伴わない(推奨度・B)。肩のpopping, clicking, catchingがあるだけ(推奨度・A)、もしくは上腕骨結節間溝や上腕二頭筋長頭腱に沿った圧痛があるというだけ(推奨度・B)ではSLAP損傷の診断は下すべきではない。

3 Selective Tissue Tests: Active CompressionもしくはO'Brien TestはSLAP損傷診断には有効ではない(推奨度・A)。Type II-IV SLAP損傷の確定に有効なのはメタ分析論文によってAnterior Slide Test, Yergason TestとCompression Rotation Test(↓下動画)と報告されており、他に複数の研究からPain Provocation Test(↓下動画), Anterior Apprehension Test, Biceps Load II Testもその解釈に気を付ける必要はあるもの、有効なテストとして名前が挙げられている(推奨度・B)。除外に有効なテストはメタ分析論文では確認されておらず(推奨度・A)、複数の研究によって推奨されているのは今のところProvocation Testのみである(推奨度・B)。




3. Cluster Testとしては「Anterior Slide TestとPopping, clicking, catchingの既往歴」、「Compression Rotation, Apprehension, Yergason Tests」、もしくは「Compression Rotation, Apprehension, Biceps Load II Tests」の組み合わせが確定に推奨されているが、これらの推奨は単独研究に基づいたものなので注意が必要である。除外に有効な組み合わせは現時点では存在しない(推奨度・C)。

4. 鑑別診断としてはRotator Cuffの部分・完全断裂、肩鎖関節損傷、上腕骨頭骨折、バンカート損傷などが挙げられる(推奨度・B)。保存療法の予後が芳しくない場合は画像診断を撮ってこれらの鑑別診断の可能性を探る必要があるが、Type I SLAP損傷は健康な肩にもよく見られる「一般的な変化」の一部であり、MRI陽性=SLAP損傷が諸悪の根源とは必ずしも断定できないことから、こういった画像診断の結果は慎重に解釈されるべきである(推奨度・B)。

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**本文のTable 1と2を元に私が必要と思う情報を抜き出してみました(↑)。うーん、Meta-analysisといってもそんなに決定的じゃないんだな(+LRが低い)という印象。恥ずかしながらCompression Rotation TestとPain Provocation Testというテストを知らなかったのでこれを機に調べました。そして動画をあげておきました。めっちゃ簡単!これならすぐに使えそう。でもPain Provocation Testが除外に有効かも、というのはどうかなぁ。私は個人的に同意しかねるかも。それから、個々の確定力はともかく、Clusterの使い道はイマイチですね。そりゃーそこそこ確定力のあるテストを合わせれば特異度は上がるでしょう、でも感度を伴わないなら…という感じです。とにかくSLAPは除外が難しいんですね。**

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**ついでにOh et el5の論文が気になったんでこっちも全文読んでみました。そうすると、あれ?Position Statementでは言及されていない他のコンビネーションも検証されているじゃありませんか。しかも数字は遜色ない。なんでこれはPosition Statementで全く触れられていないんだ?結局のところ、Yergason, Biceps Load II, Speed, Compression Rotation, Anterior Apprehension, O'Brienのうちの多くの組み合わせで3つが陽性なら確定できそう(Sp ≧ 88%)に見えるんですけど…。で、SpeedとCompression RotationとAnterior Apprehensionが全て陰性なら最も除外にいい…かな?どちらにしてもone way or anotherの二択なので、実用性は限られていると思うけど。**


●マネジメント
5. SLAP損傷の診断がついた患者はまず痛みの軽減、肩機能の向上と競技復帰を目標とした3-6か月の保存療法を試すべきである(推奨度・B)。保存療法はNSAID's処方、Corticosteroid注射などを含み、リハビリは内旋可動域、総合内外旋可動域(Total Arc)と水平内転可動域の回復、肩甲骨周辺と肩甲上腕関節周辺の筋力、持久力と筋神経制御に重点を置くべきである(推奨度・C)。

6. 3-6か月の保存療法で改善が見られなかった場合、1) Type II損傷で不安定性があったりオーバーヘッドの運動で慢性的痛みがある場合Bicepsのアンカー部分でのrepairを(推奨度・B)、2) Type IやIIIの場合は壊死組織除去術(debridement)を、上腕二頭筋腱に病変が見られたり、アンカー部分が不安定の場合はtenodesisやtenotomyをすることが適切であるかもしれないが、この手術は基本、18歳未満の野球選手には推奨されないものである(推奨度・C)。関節包後方の拘縮が激しければ肩甲上腕靱帯後方及び関節包後方をリリースするという手段もある(推奨度・C)。術後によく見られるcomplicationとして外旋可動域の制限が挙げらるので、repairの際には外旋制限をしないよう、気を付けてアンカー設置の場所を決めるべきである(推奨度・B)。
これは正直AT向けのNATAのPosition Statementに入れなきゃいけない内容かな?とは思うのですが、いい情報には変わりないので一応。

**詳しい本文の解説にはSLAP患者の半分(49%)は手術を必要としないと書いてありますね。GH joint mobとsleeper/cross-body adductionによるストレッチ、rotator cuffと肩甲骨周りの安定筋を中心としたリハビリが推奨される…らしいです。これは個人的には部分的に、しかし大いに反対です。欠如した内旋、拘縮したと思われる関節包後方を、原因も確認せずに引っ張り伸ばすのは、場合によっては新たな病理を生み出すと私は考えます。**

●RTP
7. SLAP損傷を受傷した患者は、保存療法をしようが手術をしようが、平均2-3年後に約85%の機能が戻ると言われ、平均75%の患者が何らかのスポーツに参加できるまで回復する(推奨度・C)。手術をしない場合の競技復帰率は40~95%だが、これは2つの研究に基づいた数字なので確立されたものではない(推奨度・C)。手術をした場合の2-3年後の満足度は80%程度だが、オーバーヘッド選手の満足度は67%が「素晴らしい(excellent)」と答える程度と総じて低めである(推奨度・C)。競技復帰もオーバーヘッド選手の競技復帰率は非オーバーヘッド選手のそれより低く、アスリート全般の55%が「完全復帰」、31%が「制限付き、もしくは少し競技レベルを落としての復帰」できたのに対して、オーバーヘッド選手の「完全復帰」は45%、「制限付き、レベルを落としての復帰」は34%に留まっており、競技復帰できなかった患者は24%いる(推奨度・C)。

8. 競技完全復帰には可動域が90%回復しているのが望ましいが、受傷後2年ほど経っても15°ほどの可動域欠如があるのは決して珍しくはない(推奨度・C)。筋力は最低でも健側と比較して70%回復するまでスポーツに特化したアクティビティを再開するのは待つべきである(推奨度・C)。競技復帰を目指す患者は、従うべき時間軸があり、おもに術後4か月後から徐々にスポーツに特化したアクティビティを再開し、その後2-3か月かけてフル・アクティビティにプログレスしていくということを理解しておく必要がある(推奨度・C)。

**個人的には診断の部分はとても勉強になりました!もう上肢の評価の授業は教える機会がないけど、教えるんだったらあれも話そう、これも入れたいという新しい内容がいっぱい!エビデンスも推奨度Aのものが結構ありますね。マネジメントは全体的にエビデンスの質が下がり、推奨度はBかCのみ。手術をしないでまず3-6か月保存療法をというのがNATAによって推奨されるというのは結構今後のpracticeを変える提言なんじゃないですかね。期待が持てます。RTPに関してはエビデンスの質が思った以上に低くてびっくりしました。Scapular Dyskinesisやそれに関するリハビリなどはほとんど推奨事項の部分で触れられていないのですが、本文の部分にはぽつぽつと少しだけ。つい昨日まとめたKibler氏の語調との違いが気になりますね…。っていうか、Kibler氏が著者グループにそもそも入っていないこと、Kibler氏がfirst authorの文献が2つしか引用されていないこと(昨日紹介したConsensus Statementもスルー)にはこう…少し違和感というか…派閥?を感じてしまうのは私だけですかね?考えすぎかなー?**

1. Michener LA, Abrams JS, Huxel Bliven KC, et al. National athletic trainers' association position statement: evaluation, management, and outcomes of and return-to-play criteria for overhead athletes with superior labral anterior-posterior injuries. J Athl Train. 2018;53(3):209-229. doi: 10.4085/1062-6050-59-16.
2. Hegedus EJ, Goode AP, Cook CE, et al. Which physical examination tests provide clinicians with the most value when examining the shoulder? Update of a systematic review with meta-analysis of individual tests. Br J Sports Med. 2012;46(14):964–978.
3. Mimori K, Muneta T, Nakagawa T, Shinomiya K. A new pain provocation test for superior labral tears of the shoulder. Am J Sports Med. 1999;27(2):137–142.
4. Parentis MA, Glousman RE, Mohr KS, Yocum LA. An evaluation of the provocative tests for superior labral anterior posterior lesions. Am J Sports Med. 2006;34(2):265–268.
5. Oh JH, Kim JY, Kim WS, Gong HS, Lee JH. The evaluation of various physical examinations for the diagnosis of type II superior labrum anterior and posterior lesion. Am J Sports Med. 2008;36(2):353–359.
6. Nakagawa S, Yoneda M, Hayashida K, Obata M, Fukushima S, Miyazaki Y. Forced shoulder abduction and elbow flexion test: a new simple clinical test to detect superior labral injury in the throwing shoulder. Arthroscopy. 2005;21(11):1290–1295.
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10. Kim SH, Ha KI, Ahn JH, Kim SH, Choi HJ. Biceps load test II: a clinical test for SLAP lesions of the shoulder. Arthroscopy. 2001;17(2):160–164.
11. Michener LA, Doukas WC, Murphy KP, Walsworth MK. Diagnostic accuracy of history and physical examination of superior labrum anterior-posterior lesions. J Athl Train. 2011;46(4):343–348.

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  by supersy | 2018-04-09 20:30 | Athletic Training | Comments(0)

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