2013年発表のScapular Dyskinesisに関するConsensus Statementを読み解く。

諸事情あって肩関連の文献をさらっています。色々見てたんですけど、なんと!こんな面白い論文1 を見逃していました。4年半も前に出てたとは(ちなみにこの論文はfree full-textなので興味のある方はぜひ)!いやーでも、これ、カキモノとしては結構不親切で読みにくいですね。こういうの読むとNATA Position Statementがいかに読みやすさ重視でまとめられているか分かるわー…。
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さて。私が面白いと思う内容を独断と偏見に基づき積極的にまとめていきたいと思います。今回はぶつ切りのbullet points形式になってしまうかもですがお許しを。

●冒頭
Scapular Dyskinesis: The alteration of normal scapular kinematicsの意味で、Dys (alteration of)とKinesis (motion)を合わせた、シンプルに言えば「肩甲骨が正常に動いていない状態」を指します。しかし同時にScapular Dyskinesisは「怪我(injury)でも筋骨格診断名(musculoskeletal diagnosis)でもない」という一文はもっと強調されるべきかもしれません。つまり、自覚症状を伴わない、痛みや明らかな機能制限のないScapular Dyskinesisも当然存在するということになります。

*ちなみに2016年発表のシステマティックレビュー2 ではScapular Dyskinesisの有病率が非オーバーヘッド選手(i.e. サッカーやバスケットボールなど)とオーバーヘッド選手(i.e. 野球やソフトボールなど)でそれぞれ33.3%と54.5%と、20%以上の差があることが報告されています。自覚症状がない有病者も多いことから、Scapular Dyskinesisは「normal variance (通常の変化の範囲内)」で怪我とは関係ないと断定している研究者も3 いるんですけど、最新のメタ分析論文4 では仮に自覚症状がなくても、Scapular Dyskinesisがある選手は9-24か月以内に怪我をする確率が(ない選手と比較して)43%上昇すると報告されていますね(Scapular Dyskinesisあり: 56/160, 35.0% vs なし: 65/259, 25.1%; RR 1.43, 95% CI 1.05-1.93)。私は意見としてはこちら派で、異常運動をしているものを今症状がないからいいでしょ、と放っておくというのはあまりに短絡的じゃないかと思ってます。症状が出ていないならばむしろラッキー。今のうちに介入を初めて怪我の予防をしないと!と。

一時期"Scapular Dyskinesia"という言葉が同意語として使われたこともありましたが、このConsensus Statementによれば「Dyskinesiaは神経起因性の自動運動異常を示す言葉であり、Scapular Dyskinesisは(神経障害でない)鎖骨骨折や肩鎖関節捻挫が原因で起こることもある、ということを考慮すればより包括的な用語であるScapular Dyskinesisの方が適切である」ということなんだそうです。初めてここんとこの説明ちゃんと聞いた!だから最近見なかったのか!なるほど。

●Scapular Dyskinesisの原因
骨性の原因:Thoracic kyphosis, clavicle fracture (non-union, malunion)
関節性の原因: High grade AC instability, AC arthrosis, GH internal derangement
神経性の原因: Cervical radiculopathy, long thoracic nerve palsy, spinal accessory nerve palsy
軟部組織の原因: Muscular inflexibility or tightness (中でもpectoralis minor or biceps short headの柔軟性の欠如は烏口突起を前下方に引っ張るので肩甲骨の前傾・前方突出の原因になる), posterior shoulder inflexibility, intrinsic muscle problems, serratus anterior strength/activation deficiency (肩甲骨の後傾、上方回旋), altered upper/lower trap force couple (low trapの発火が遅れ、肩甲骨上方回旋、後傾が十分に起こらない)
…などが考えられ、こうして動きとポジションが変化してしまった肩甲骨は、そこから副次的に1) 肩峰下空間の制限、2) 軟部組織のインピンジ (衝突、挟まること)とそれに伴う腱細胞のapoptotic changes、3) Rotator cuffの出力低下、4) 前肩甲上腕靱帯の伸張、などの変化を引き起こすのだとまとめられています。
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●評価方法
Lateral Scapular Slide Test, Scapular Assistance Test, Scapular Retraction/Reposition Testなど色々ありますが、現段階で推薦するテストは「前回のConsensusと同様Scapular Dyskinesis Test」なんだそうです("The current recommendation for clinical assessment based on a prior consensus meeting is the use of dynamic scapular dyskinesis tests (p.878).")。で、以前はこのテスト、肩甲骨の動きによってType IとかIIとかIIIとかに患者を分類したもんですが、こういった分類法はReliabilityを下げるという過去の研究が受け、現在では「異常がある(陽性)かない(陰性)か」シンプルな二択システムが一般的になっています。こちらの二択形式の方がReliabilityも高く、今回のConsensus Statementでお薦めされているのもやはりこちらです。

Scapular Dyskinesis Test時に特に心がけて見るべきこととしては1) medial borderもしくはinferior borderがどれほど浮き出てくるか(↑)、2) スムーズに肩甲骨が動いているか(腕を上げる際に早期挙上やshrugging動作が起こっていないか、腕を下げる際に急な下方回旋が起こっていないかなど)どうかを観察しましょうと。試しに下の動画の患者さんを見て、「右かな?左かな?」「正常かな?異常かな?」と判断してみてください。


●他の怪我とのつながり
Impingement SyndromeとScapular Dyskinesisのつながりは多く報告されている…が、ただ、Impingement患者=Scapular Dyskinesis患者、というわけでは必ずしもないみたい。Impingement患者のScapular Dyskinesisの異常動作の方向はまちまち、程度もバラバラ。例えばImpingement患者は上方回旋が欠如気味、という報告もあれば、いやいやうちの研究ではむしろ過度な上方回旋が見られたけど、という具合。Rotator Cuff Tearの患者さんは肩甲骨が上方回旋気味という共通傾向はあるみたい。他にも、Superior Labral TearsAC Separations, Multidirectional GH Instabilityの繋がりも報告されている (ACに関してはScapualar Dyskinesis → AC Separationという順序で起こるというよりはその逆の話が中心にされていますね)、と。

*まぁそもそもImpingement Syndromeっていう概念も広義だからね、診断じゃないからね、というハナシも少しされています。あくまで「症候群」であり、理由や原因は色々考えられるから、と。Acromialhumeral distanceが小さくなる→Impingementが起こる、というわけでは必ずしもない、という表記は少しびっくり。なるほど、肩関節複合体はそんな単純じゃない、バイオメカニックスはもっと複雑であるということなんでしょうか。Secondary Impingement (= functional impingement)のほうがPrimary (= structural imingement)起因のものより頻度としては多いということかな?一応セオリーでは腕の挙上角度が70°くらいになるとRotator cuffの腱がimpingeできる位置まで来る ("The rotator cuff is 'available' for impingement under the acromion below approximately 70 of arm elevation (p.878)." )、そして90°に達するとacromialhumeral distanceは最小になる…ということになっているんだそうですが、意外や意外、画像研究による確認はまだ行われていないんだろうな。へー。だから、多分感覚としては「Impingement Syndrome」は「MTSS」とか「PFPS」とかと一緒で、直接治療につながるような診断ではない、というのは確かにもっと叫ばれるべきなのかもしれません。「Impingement Syndromeはreferred pain、癒着性関節包炎ではないという多少のexclusionの指標にはなるけど、まだまだ考えられる可能性は多々ある」ので、inclusionというか、確定力のある言葉ではないということなんですね。Internal Impingementの危険因子としては献体を使って「上方回旋が減少・過度な内旋(=前方突出)」が起きており、その状態で組織の挟まりが起こるというところは実証されているんだそうなんですが、表現からしてまだまだここ止まりなのかな。

…で、ここが少し矛盾するかなーと思うのですが、Impingement SyndromeとScapular Dyskinesisの患者は

- 小胸筋と上腕二頭筋短頭が筋緊張を起こしていると烏口突起を牽引する → 過度な挙上と前傾
- 僧帽筋上部と下部のforce coupleが乱れる(僧帽筋下部の発火が遅れる) → 過度な挙上、後傾の遅れと不十分な上方回旋
- 前鋸筋の不活性は後傾と上方回旋を失わせる → 不十分な後傾と上方回旋、内側縁の突出

…などの変化が起こり、結果的には下角や内側縁の突出、翼状肩甲骨、つっかえたようなスムーズでない動きとして目に見える…と書かれているのですが、Impingement ≠ Scapular Dyskinesisではないし、報告されてる動的パターンはまちまちなんですよね?さっきまで「多様性がある」「一貫性がない」みたいな書き方をしていたのにどうしてここで断言してしまえるのか?ちょっと疑問です。ここらへんはKibler氏の個人的な意見の色が強いのではと私は解釈しています(一般的な傾向として間違っているとは思いませんが、断言できるほどの一貫性のエビデンスがあるとは思えないのです)。

●治療法
筋活動が起因している可能性が高いことを考慮すれば、(物理療法や徒手療法よりは)運動療法が使われることが一般的であるのも頷けるが、場合によっては手術が適切な場合もある。まずはScapular Dyskinesisの原因になっているものを特定し、そこからアプローチせよと。なるほど、鎖骨骨折の治癒不良が原因だったら確かに手術などがまず必要な場合は十分考えられますもんね。

リハビリの順番としては

1. Low-load/Low-activationの、非オーバーヘッドのScapular Retractorを活性させるような立位運動
2. 伏臥位 (prone)もしくは側臥位 (side-lying)の僧帽筋下部、前鋸筋に重きを置いた運動
3. 徐々に遠位に負荷を増やし、Kinetic Chainの統合を図る
4. (高負荷の)ウェイトトレーニングへ

というのがいいんではないか、と提案していますが、実際にこういったProgressionを使ってRCTを複数回行ってこのプログラム、プログレッションが最善であると実証されたわけではないようです。「僧帽筋上部、小胸筋、広背筋の過活動が時にこのプログレッションの妨げになり得る」とも言及されており、しかしこれらの筋抑制の手段については一切触れられていないのが不自然に感じます。抑制目的の治療アプローチって、今は結構世に出回っていると思うんですけどね…。

そんなわけで、興味深い議論も数多くあり、しかしふわふわとした「まだまだ断定できない」部分も多々あるようなConsensus Statementでした。これからも第3回、4回と成長していくのでしょうけれど、これからどんな新しい説が確立されていくのか非常に楽しみです。個人的には、Kibler氏は「GHの話をするならもっと近位の肩甲骨の話をせぇよ」というところまでは言っているのに一度も「でももっと近位には胸郭や胸椎があるよな、そこんとこはどうなんだろ」という話を一度もしたことがない(少なくとも私が彼の論文を今まで読んだ限りでは。どこかでしていたらごめんなさい)というのがつくづく意外です。いつかここまで辿り着くのでしょうか、それとも彼はあくまで「肩」の専門家に留まるのでしょうか。

次は肩の文献を読んでいて見つけた、全く知らなかった「肩の安定性を出す要因」をふたつ紹介しまーす。

1. Kibler WB, Ludewig PM, McClure PW, Michener LA, Bak K, Sciascia AD. Clinical implications of scapular dyskinesis in shoulder injury: the 2013 consensus statement from the 'Scapular Summit.' Br J Sports Med. 2013;47(14):877-885. doi: 10.1136/bjsports-2013-092425.
2. Burn MB, McCulloch PC, Lintner DM, Liberman SR, Harris JD. Prevalence of scapular dyskinesis in overhead and nonoverhead athletes: a systematic review. Orthop J Sports Med. 2016;4(2):2325967115627608. doi: 10.1177/2325967115627608.
3. Ozunlu N, Tekeli H, Baltaci G. Lateral scapular slide test and scapular mobility in volleyball players. J Athl Train. 2011;46(4):438-444.
4. Hickey D, Solvig V, Cavalheri V, Harrold M, Mckenna L. Scapular dyskinesis increases the risk of future shoulder pain by 43% in asymptomatic athletes: a systematic review and meta-analysis. Br J Sports Med. 2018;52(2):102-110. doi: 10.1136/bjsports-2017-097559.

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  by supersy | 2018-04-08 22:00 | Athletic Training

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