"There's no such thing as an ITB Tightness"

学部生のころ、先生や教科書を疑うという思考が皆目無かったもので、『ITB (Iliotibial Band = 腸脛靱帯) Tightness』はこういう障害を引き起こす、とか、『ITB Tightness』の有無はこうやってテストするんだ、と習ったときには「へぇーそうなんだ!」と素直に夢中でノートを取っていました。

しかし大学院に行って献体解剖の授業を取った時に衝撃を受けたんです。大腿部を開く日に、TFL/大殿筋からGerdy's tubに向かって大腿部外側に沿って走るスジのような帯状の組織(= ITB)が見えるんだと信じて疑っていなかったのですが、私の目に実際に飛び込んできたのは大腿部の前・外側・後部を丸ごと包み込むような様々な走行の繊維からなる大きな強度の強い膜状(membrane)の組織…つまり、Fascia Lataでした(↓)。ナニコレ、大腿四頭筋やハムストリングにも伸びてるじゃん!全然独立した組織じゃないじゃん!大腿外側に沿った単独の帯なんてないじゃん!「大腿膜」に完全に飲み込まれてるんじゃん!とショックを受けて、思わず先生に、「If this is the so-called IT Band...then there's no such thing as an IT Band? (これがIT Bandだとしたら…IT Bandってものは…存在しないってことですか?)」と言ったら「I agree with you (僕もそう思うよ)」とあっけらかんと返されて、えええ!とまた驚いたりしたんでした。

*Fascia Lata、日本語に訳すと大腿筋膜とか大腿広筋膜とか呼ばれるそうなんですが、私はFascia = 筋膜という訳は正しくないと思っているのでそうは記述せずにおきます。本文中はこのまま英語表記で失礼いたしやす。
b0112009_03154100.png
(後から分かったことなんですが、ITBは確立した解剖学的構造ではなくて、Fascia Lataの外側の一部の少し厚みを増した部位に過ぎない1、とか、ITBの重要性とか膝に対する影響力は過大評価されすぎだ2、という説は今までにも発表されているそうです。私も全く同じ見解ということになりますね)
b0112009_02533540.jpg
あれからもう10年近い年月が経ってますが、私はやっぱりITBという教科書に書かれるような帯状・腱状の組織(↑)は存在しないと思うし、ITB Tightnessというコンディションも存在しないと思っています。もうちょっと分かりやすく言うと、ITBという独立した帯状の組織が自らの意志を持って自身を短縮させ、 "tighten up"することはないと思っています。ITBは筋肉ではないのだから収縮能力(contractility)がないし、自身を自ら"tight"にすることはそもそも不可能だと思うのです。そんなにactive(自動的)な組織じゃないでしょう。むしろ周りに引っ張られてフラフラ動く、passive(多動的)なコですよ。上や下の組織と癒着を起こしちゃうことはあるでしょうけど。

では、世の中でITB Tightnessと呼ばれるものは一体なんなのか?私はこういった症例のほとんどはITBが付着する筋肉の一つであるTFLのOveractivity (OA)に起因すると思ってます(もっと厳密にいうとそのTFLのOAでさえ他に原因があると思いますが、それを書き出すときりがないのでここでは省きます)。

TFLは筋肉なので、neural driveが増えてtonicityが上がれば理論上自身を「短縮・緊張状態」に持っていくことが可能です。TFLのOAが原因で二次的にそれに付着するITB(というかFascia Lataの外側一部)にもtensionがかかる(= 組織に緊張が生まれる)ってことです。まぁTFLの名前がTensor Fascia Latae (Fascia Lataをtense upするもの)なんですから(そしてITBはFascia Lataの一部と考えられることも可能なのだから)、そんなに驚くような新事実でもないかもしれません。つまり、私が言いたいのは「ITB Tightnessという幻影を追っかけてOber Test使って診断を下してみたり、ITBを直接的・局所的にフォームロールやグラストンやなんか使ってぐりぐり治療してみたりしても、原因はもっと近位にあるのだから、根本の解決には何にもならないだろう」ってことです。

そういうからにはよっぽど確立されたエビデンスに基づいているんでしょうね、と言われるかもしれませんが、これは私個人の臨床感なので確固たる科学的根拠はないです。でも面白い論文はあるのでこちらは紹介しておきます。
b0112009_09221718.png
18体の献体(年齢幅45-97歳、平均年齢78歳。単純に考えてその倍の36本の足…と思いきや、人工股関節全置換術や股関節・大腿部の損傷の既往歴がある2本の足は除外したそうなので、使われたのは全部で34本の足)を使って、1) ITB; 2) Gluteus Medius/Minimus(中・小殿筋); もしくは3) Hip Joint Capsule(股関節包)をそれぞれ切断する・しないでOber Testの結果がどう変わるかを検証したLaboratory Studyです。3

ちなみに組織の切断を行ったのは一人の20年以上の経験を持つ解剖学者さんで、テストを行った(↓写真の奥)のは献体の状態に対してblindedなPTさんだったそう。しかし結果を読む人(↓写真手前のInclinometerを持ってる人)はblindedじゃなかったみたいなんですよね。それでも同じ人が一貫してデータ収集をしたというのは評価できるけど、欲を言えばこの人もblindedしているとベストだったかしら。あとここまでで気になるのは、献体の年齢層が高いってことですかね。まぁ研究の性質上、こればっかりはしょうがない気もしますけど。
b0112009_13141978.png
計測したoutcomeはテスト時の大腿の角度。大腿外側部にInclinometerを置いて角度を測るこのやり方は先行研究4 によってreliableである(ICC = 0.90, 0.91)と報告されており、0°が水平、マイナスが外転、プラスの値が内転を示すそうな。結果を表にまとめなおして出しちゃうと…
b0112009_02104936.png
つまり、こういうことっすよね。
- ITBは切断してもしなくてもOber Testの結果、大腿の内旋角度に大きな変化はない
- しかし、中・小殿筋、そして股関節包を切断すると、Ober Testの際の大腿内旋角度がそれぞれ(6~10°、7~14°程)一気に上昇する
- 中・小殿筋よりも股関節包切断のほうが内旋上昇率は少しばかり高いようである(1~4°程)

つまるところ、Ober Testって全然ITBの状態を見てねーじゃん!という、このテストそのもののValidityに疑問を投げかけるような結果ですよね。寧ろ大腿の内旋度は中・小殿筋の状態、そして股関節包の状態により大きな影響を受けるんじゃん!と。この研究ではTFLや大殿筋の状態については検証されていませんが、私は個人的にこれらの組織がOber Testの結果に大きな影響を及ぼす可能性も大いにあると思っています。つまり、我々が今までITB Tightnessが原因で引き起こされると思っていた疾患や障害は、実際はITBよりもっと近位の筋肉・関節包の状態によって引き起こされていた可能性が高いわけです。これは、ここまでに発表されている複数の研究の主張(「ITBの問題の本当の原因は近位の股関節筋肉群だろう」という)とも一致します。5-7

でもね、これを見てDr. Oberを「なんてテスト作ってくれとんのじゃ!」と非難するのもおかしな話なんですよ。彼の書いた1936年発表の最もオリジナルのOber Testに関する論文(入手困難で苦労しました)8 も今回初めてじっくり読んでみたんですけど、彼の主張は「Ober Test(という名前すらそもそも彼は付けていないんだけど*)が陽性の人は腰痛・仙腸関節痛がある」、「これはITBとFascia Lataの緊張によるfascial pullで、骨盤・腰椎・仙腸関節に多大なleverage action(てこ作用)がかかって同側の骨盤の前傾、lumbar lordosisを生むからである」「Ober Testが片側で陽性だった場合にはFunctional Scoliosisができる」「(片側、両側に関わらず)Ober Test陽性は特定の筋肉の過活動、SLR制限、Ely's Sign陽性、各関節可動域の制限などの弊害に繋がる」と、単にOber Test陽性=ITB Tightnessに留まらない、「ITBとFascia Lataは腰痛・仙腸関節痛その形状に密接な繋がりがあるんじゃね?」ってもっとスケールの広い話をしていたんですよね(そもそもDr. Oberの専門は腰痛ですし)。そして、この論文ではもっと興味深いことに、Ober Test陽性の腰痛・仙腸関節痛患者に対してITBとFascia Lataの一部の切断手術を行ったら、腰椎・仙腸関節の痛み、可動域制限、過度なlumbar lordosisとscoliosisの消失が見られ、姿勢が改善、首の痛みまで無くなったと報告しています。

*ちなみに彼はこのテストをThe Abduction Sign/Testと呼んでいました。8 このテストがOber Testとして知られるようになったのはKendall氏らの影響が大きいですかね。Kendall氏らはOber Testの修正版であるModified Ober Test(内転する足の膝を屈曲位ではなく伸展位で行う)を発表しましたが9、しかしそれにしたってKendall氏らも「これはITB Tightnessかどうかを見極めるテストである」とは一度も言っていないんですよね。実は「TFL Tightness」のためのテストであると明記されています。

こうして色々と論文を振り返ってみると、Ober TestはITB Tightnessを診るものだ、というnarrow-mindedな思考は、私たち一般人が提言者の意図を汲み取りきらなかったことによって起こった「誤解」なのではないかとしか思えません。Homans' Signの悲劇みたいな感じですかね。

もういいでしょう。Holistic ApproachやRegional Interdependenceというモデルが一般に叫ばれるようになって10年以上経ちます。Ober Testが陽性だからITBをFoam Rollしなさい、という指示をATが出す時代は終わって然るべきだし、まだ終わってないとしたら我々の不勉強が過ぎます。私も教育者として「教えるべきこと(=資格試験に出題されること)」と「教えたいこと」のギャップによる葛藤は常にありますが、将来のATにこんなアプローチで満足してほしくない(Ober Test陽性→ITBぐりぐりごりごり)とは強く思います。なので授業では、少し気の毒かなぁとは思うんですが、教科書通りにOber Testを紹介したあとに、今回Willett氏らの論文の内容も話し合い、「我々がこのテストで見ているのはなんなんだろうね?」と疑問を投げかけて、ついでに5呼吸でOber Testを陽性から陰性にできる治療アプローチを見せたりして、身体の部位を超えた"treat a patient as a whole"という思考ができるよう学生の価値観を揺らしています。教科書を疑え、センセーを疑え(もちろん私自身も含めてです)、答えは自分自身で見つけろー!というのが私が一番学生に教えたいことです。望んでいてもいなくても、私が今教えていることの半分は5年もすれば「ウソ」になってしまうのだから。

1. Kaplan EB. The iliotibial tract; clinical and morphological significance. J Bone Joint Surg Am. 1958;40-A(4):817-832.
2. Fairclough J, Hayashi K, Toumi H, Lyons K, Bydder G, Phillips N, Best TM, Benjamin M. The functional anatomy of the iliotibial band during flexion and extension of the knee: implications for understanding iliotibial band syndrome. J Anat. 2006;208(3):309-316.
3. Willett GM, Keim SA, Shostrom VK, Lomneth CS. An anatomic investigation of the ober test. Am J Sports Med. 2016;44(3):696-701. doi: 10.1177/0363546515621762.
4. Reese NB, Bandy WD. Use of an inclinometer to measure flexibility of the iliotibial band using the Ober test and the modified Ober test: differences in magnitude and reliability of measurements. J Orthop Sports Phys Ther. 2003 Jun;33(6):326-30.
5. Fairclough J, Hayashi K, Toumi H, Lyons K, Bydder G, Phillips N, Best TM, Benjamin M. Is iliotibial band syndrome really a friction syndrome? J Sci Med Sport. 2007;10(2):74-76; discussion 77-78.
6. Falvey EC, Clark RA, Franklyn-Miller A, Bryant AL, Briggs C, McCrory PR. Iliotibial band syndrome: an examination of the evidence behind a number of treatment options. Scand J Med Sci Sports. 2010;20(4):580-587. doi: 10.1111/j.1600-0838.2009.00968.x.
7. Fredericson M, White JJ, Macmahon JM, Andriacchi TP. Quantitative analysis of the relative effectiveness of 3 iliotibial band stretches. Arch Phys Med Rehabil. 2002;83(5):589-592.
8. Ober FR. The role of the iliotibial band and fascia lata as a factor in the causation of low-back disabilities and sciatica. J Bone Joint Surg Am. 1936;18(1):105-110.
9. Kendall HO, Kendall FP, Boynton DA. Posture and Pain. Baltimore, MD: Williams & Wilkins; 1952.

[PR]

  by supersy | 2018-03-21 18:30 | Athletic Training

<< Nothing will ev... ImPACT脳振盪テストが大学... >>

SEM SKIN - DESIGN by SEM EXE

AX