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PRIに関する最新研究論文のまとめ。

以前にPRI関連の文献を「なぜ風船を使ってエクササイズをするのか?」というタイトルで紹介したことがありましたが、今回はなんと、インドから新たに4つのPRIエクササイズ介入を検証した論文が発表されたのでまとめておきます。興味深いことに、本部曰く、これらのインドの研究者さんは一度もPRI講習を受講した記録がないんだそうです(笑)。どうやってこの研究者たちはPRIに出会ったんだろう?なんで検証しようと思ったんだろう?ここらへんのほうについつい私自身興味を持ってかれてしまいますね。

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最初はこの論文、2015年発表のもの1 です。仙腸関節痛、股関節痛、腰痛のいずれかを持っており、Ober's Testが片側、もしくは両側が陽性の患者30人を対象に1) Moist Heat Pack (以下MHP)を20分したのち、IT Bandのストレッチを1分3セットの「ストレッチ組(n = 15, 30.87 ± 9歳、男女比不明)」か; 2) MHP20分したのちPRIエクササイズ(片側陽性患者は90/90 hemibridge with balloon、両側陽性患者は90/90 hip lift with balloon)をする「PRIエクササイズ組(n = 15, 26.07 ± 5.8歳、男女比不明)」にランダムに分けられ、6セッション分の治療を繰り返したそう(どれくらいの期間に、どれくらいの頻度でセッションが行われていたかは不明)。んで、セッション前と後の股関節ROM、VAS、Modified Oswestry Low Back Pain Disability Questionnaire(MODQ)を使ってアウトカム計測したそうな。ここで浮かぶ疑問は二つ。股関節ROMはスマートフォンのinclinometerを使って計測したと書いてあるけれど、それがvalidated toolであるというエビデンスは被験者には股関節痛の患者も含まれていたはずだけど、何故にMODQが全員に使われたの

んで。結果です。VASはストレッチ組が7.33 ± 0.8から4.47 ± 1.68へPRIエクササイズ組は7.13 ± 1.3から2.27 ± 1.2へとどちらも著しく改善したもの(それぞれp = 0.0007, p = 0.0001)、改善幅を差として比較すると、PRIエクササイズ組の改善の方が統計的に有意に大きかった(p = 0.0004)そうな。同様に股関節外転角度も(from 21.60 ± 2.85 to 23.30 ± 2.38 vs from 19.80 ± 3.43 to 29.27 ±1.98, p = 0.00001)、MODQも(from 76.13 ± 7.26 to 52.73 ± 17.62 vs from 62 ± 12.32 to 24 ± 8.8, p = 0.0006)「両グループ共に改善したが、PRIエクササイズ組の方がはっきりと良い」という結果が出ています。ただね、ここでひとつ…特に股関節外転、SEMとかSDを考慮すると、あまりにp値が低すぎやしませんか?これ、この数値でたった15人の被験者でこんなに低い値になる!?!?ちょっと統計がおかしい気がするんすけど…。小数点もそろってないし…。怪しすぎる…。

この論文の結果には「どちらも効果あったけれど、PRIエクササイズのほうが効果が長く続いた」とありますが、「長く続いた」ってどういうこと?全く同じ時系列でアウトカム計測をしたんじゃないの?結果と結論が一致していません。「同期間行った場合、ストレッチよりもPRIエクササイズのほうがより痛みの軽減、可動域の向上と機能の改善につながる」だったらまだわかるんですけど。

この論文は、はっきり言って挙げ切れないほどの問題点があります。単純なスペルミススペーシングエラがいくつも目につきますし、文中のテーブルの線や数字もバラバラだし、英語もところどころおかしいし(意味が分からない文章も多々ある)、Table 3の股関節可動域が何故右側だけの表記なのかなんの説明もないし、テーブルに書いてある数字と本文の数字が合わないし、何より決定的なのは引用の文献番号が本文と文献リストとでズレていること。これでpeer reviewed journalとは恐ろしい…。こういった論文を手放しで「わーい。PRIの言っていることをサポートしてくれた論文が出たよ、素晴らしいよー!」と言って紹介してしまうと、私はただただ論文の批判的な読み方も知らない大馬鹿ものであると露呈するだけになります…。だから私は敢えて言います、この論文の出来は世に発表されるにはあまりにお粗末。うちの学生がこれを課題で提出してきたらB-を付けて「やりたいことは面白いんだけどなぁ、もう少しちゃんとやらなあかんで」と突っ返しますよ。

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んで。こちらの論文は2017年発表2 です。見た所さっきの研究グループとは違うみたいですね。所属大学が違うんで。
冒頭に「IT bandは又の名をMaissiat's Bandとも呼ばれていますが…」と書いてあるんですがむしろその名前を初めて聞きました!そんな別名が!…勉強になります。IT Bandは多関節筋連鎖の一部なのに、「IT Bandが『張っている』となると、ストレッチだなんだと局所的な治療をすることが多いですよね」というところから始まり、PRIのエクササイズであるRight Sidelying Respiratory Lest Adductor Pull Back (以下Pull Back)を代わりに介入としてやってみるのはどうか、ということのようです。この理論の流れはもっともです。

被験者になったのは30人の左側IT Bandの張り(=左Ober's test陽性)があった患者さん(平均29.16 ± 3.11歳、男16人、女14人)。何故「左」にこだわったのか、私はPRIかじってるんで分かりますけど、文中では一切説明がありません。ちょっと不親切では…というか、単純に「片側」とすればよかったのでは?ちなみに両側陽性の患者は今回の被験者の対象外だったようです。んで、これらの被験者をランダムに1) MHP(20分一日二回)+ストレッチ(15-20秒を3-5回)+Pull Backエクササイズ(説明は省きます、5回を一日二回)を3週間のPRIエクササイズ組(Group 1, n = 15); と2) MHP(20分を一日二回)+ストレッチ(15-20秒を3-5回)のみを3週間のストレッチ組(Group 2、n = 15)との2グループにわけたそう。これらが毎日自宅で行われたのか(その場合、MHPはどうやって手配したのか)それとも実験期間中は毎日クリニックに通院したのかは不明で、もし自宅で行われた場合、どのようにして患者がしっかり規定数の治療・エクササイズを行ったか確認したのか(compliance rate)も気になります。それから、どうしてストレッチのプロトコルに幅があるんでしょう?「15秒を3回(合計45秒)」を3週間(= 945秒)やった人と「20秒を5回(100秒)」3週間(= 2100秒)にやった人とではdosageがかなり(倍以上)違うのでは?と思いますが…

ともあれ。計測したアウトカムは股関節の内転可動域のみ。結果は以下の通りです。
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つまるところ、「両グループともに著しく改善したけど、比べるとPRIエクササイズ組(Group 1)のほうが改善幅が統計的に有意に大きかった」というところでしょうか。個人的にはMHPとストレッチだけでもかなり可動域の改善という意味では上がっているのがびっくりですけどね。あと、どうしてOber's testをもう一度行ってテスト結果も計測しなかったんでしょう?せっかくだから陰性になるかどうか確かめればよかったのに。この論文の結論では「Pull BackエクササイズはIT Bandの張りに効果があっただけではなく、姿勢の左右非対称性の矯正、呼吸を整える効果がある」とまとめてあるんですが、おいおいちょっと、姿勢の矯正や呼吸への効果はこの論文では一切計っていないでしょう。どうしてそう話を飛躍させてしまうのか。「ただMHPとストレッチやるより、それにPull Backエクササイズを足した方が股関節内転可動域向上効果はより大きい」以上のことは言えないはずです。

うーん、やりたいことは分かりますし、確かにPRI理論を補足してくれている研究ではあるんですが、被験者の数も少ないですし、痛みなどの自覚症状がある患者さんってわけでもありませんし、「で?」という気はしないでもないです。今回読んだ論文の中では実はこれが一番マトモかとは思うんですが、個人的な感想や印象を書くと、やはりこの論文も少し怪しさが残ります。実験手順などで細かいところが省かれすぎてますし、あとは導入部分の文献引用が少なすぎて、多くの文章がふわふわと地面から浮いてしまっている印象です。もう少し丁寧に書かれている論文のほうが私の好みです。
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次はこちらー。2017年の3 です。これは最初の2015年の文献1 と同じ大学から発表されていますが、著者は異なりますね。んーしかしこの論文も冒頭の引用が甘いです。"Studies have found..."って言ってるのにその文章の終わりに複数どころかひとつの文献の引用もないって駄目でしょ。どの論文か予想はつきますけど、それでも著者がちゃんと自分で責任もって入れなきゃダメな個所なはずです。イントロで20は引用できる論文ありますよ。

ともあれ。この研究の対象は29人のtertiary care hospitalに来院した、最低でも12週間non-specific LBPに苦しんでいる慢性腰痛の患者さん(平均27.7 ± 7.5歳、男12人、女18人…つまるところ、通常よりもかなり深刻な腰痛患者と言ってもいいんじゃないでしょうか)。 3セッション参加してPRIエクササイズ(今回は90/90 Supported Hip Shift with Hemibridge with Balloonですね、文中に名前がハッキリ書かれていませんけど)を行い、VASとMODQとForced Expiratory Volume (FEV、1秒間の最大呼気量がFEV-1, 6秒間の最大呼気量がFEV-6)を計測したそうな。エクササイズは3日連続で行ったのか、間に数日空いたりしたのかは不明監督役のセラピストがいたのか、ホームエクササイズとして処方されたのかも不明。ここらへんの説明不足は実験の再現性をゼロにしてしまうので致命的かなー。1st Session時には被験者が46人いたのに3rd Sessionには29まで減ってる(17人もドロップアウト=37.0%!! 理由は「もっと早く効果が出ると思っていたから」と記述ありますが、17人が17人全く同じ理由ってことはありえるのでしょうか?12週間ずっと痛みがある、慢性腰痛の患者さんでしょ、3日の治療で「長すぎる」なんて言う?)のもかなり怪しい。PRIエクササイズそのものがドロップアウトの理由に深く関わっているなら、それらの患者さんを「そもそも存在しなかった」かのように消してしまって統計分析するのはバイアスの源にしかなりませんからね。今回の研究では比較対象になるコントロール群もいませんし。…まぁ、それはちょっと置いておいて、結果は以下の通り。
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p値、やっぱりこれもおかしくないですか?SDがここまで大きくて、p値がこんなに低い値になります?これらの数字を鵜呑みにすれば「PRIエクササイズはたった3セッションで慢性(>12週間)腰痛患者の痛み、6秒間の最大呼気量と機能を著しく向上させる」ってことになりますが、私はこれがどれもMCIDどころかMCDを満たしているとも思えないので、I am not soldって感じです。(最短でも)3日かけて、痛みが4.8から4.4に減ったって、MODQが0.9点上がったって、私が患者なら全くありがたくないです。せめて実感できるくらいの改善幅を見せてくれーい。
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最後です。これ4 も先に紹介した論文1,3と同じ大学の研究チームのものだ…よ、読む前から不安いっぱい!そして引用されているソースの多くが論文じゃない!うう…同じ文章をもっとちゃんとしたソースで書けるはずなのに!

50歳以上の膝のOA患者を対象にしたこの実験では、20人のGrade 2-3患者(後述する理由で年齢や性別などの詳細は不明)が集まったようで、ランダムに1) Short Wave Diathermy(15分)、TENS(最大20分)、3つのストレッチ・エクササイズ(15分を4回)と3つの筋力強化エクササイズ(ハムストリング、大腿四頭筋、ふくらはぎをそれぞれ強化する目的、10回3セット)行うコントロール群と、2) これら全てにPRIエクササイズ(これも90/90 Supported Hip Shift with Hemibridge with Balloonですね)を加えたPRIエクササイズ組に分け、それぞれの治療を10セッション10日間繰り返したそうです。前述した研究と同じで、10日連続だったのか、間に数日空いたりしたのかは全く記述がありませんTENSの「最大」20分という幅もナゾです。

そして、結果なんてすがええっとこの論文はここまでで一番やばいです。「結果はテーブル1-3参照」と書いてあるんですがテーブルが論文のどこにもひとつも見つかりません。こんなに読んでいて泣きたくなる論文は初めてです。

なので、文中から推測する結果を書くと「PRIエクササイズ組はコントロール組と比較して著しく痛みが減少、機能が向上した」ということらしいんですが、しかし、痛みに関しては直後に「これはminimal clinical differenceだった」とも報告いるので、初めてMCIDに言及しているのかなという感じです。これはいい傾向です。つまり、もう少し詳しく書くと「PRIエクササイズ組はコントロール組と比較して痛みはそこそこちょびっと減少、機能がそれなりにがっつり向上した」って感じなんでしょうか。しかしまぁくどいですが私自身の目でデータを確認せずにこの結論をそのまま飲み込むことはできないので、なんとかどうかエディター様様、データを…!テーブルを…!追加してください見てみたいんだー!

そんなわけで…ええと…何を書きたかったのか分からないブログになっていましたが、これらの論文全てでPRIエクササイズの効果が報告されてはいるんですが、全く手放しで喜べない、かなりお粗末な内容である、ということはここに書き記しておきます。同じ目的でももっと他にやりようはあったはず。怖いもの見たくて仕方ない皆様は、是非ご自分で下のリンクから各論文に飛んでみてください。Peer-reviewed journalの世界観変わりますよ、ふふ…。

1. Kage V, Naidu SK. Effect of iliotibial band stretching versus hamstrings and abdominal muscle activation on a positive ober’s test in subjects with lumbopelvic pain: a randomized clinical trial. IJTRR. 2015;4(4):111-116. doi:10.5455/ijtrr.00000075.
2. Shori G, Joshi A. Effect of right sidelying respiratory left adductor pull back exercise in subjects with iliotibial band tightness. Physiotherapy Quarterly. 2017;25(1):13-16. doi:10.1515/physio-2016-0014.
3. Fernandes J, Chougule A. Effects of hemibridge with ball and balloon exercise on forced expiatory volume and pain in patients with chronic low back pain: an experimental study. Int J Med Res Health. 2017;6(8):47-52.
4. Metgud S, Chougule A, Heggannaver A. Effects of hemibridge with ball and balloon exercise as an adjunct to conventional therapy in knee osteoarthritis patients: a randomized controlled trial. Asian J Med Health Res. 2017;2(6):42-50.

  by supersy | 2018-03-02 23:59 | PRI

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