続・Stener Lesionに関する知識のアップデートまとめ。

昨日紹介した"Is There a Stener Lasion?"(一つ目の文献)1が引用していたHeyman et alの論文(↓)2なんですが、興味があったのでお取り寄せをして今日つらつらと読んでいたら、全然内容が紹介されていたものと違うので驚きました。「この論文ではこう言っていました」と書かれていた内容と、実際の論文の内容が合わない。これ、結構よくあるんですよね。これだから文献は常にオリジナルを読まにゃいかん…。二次引用はマジでしちゃいかんです…。
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せっかくなので昨日の記事の訂正も含めて、こちらの論文2もまとめておきます。これはかなり噛み応え読み応えありました!
この論文は2部構成になっていて、一部目では献体(14 fresh specimen hands)を、二分目では23人のUCL損傷を負った患者を被験者にしてそれぞれUCLの状態を診るためのValgus Stress Testの有効性を検証しています。

献体を使った部分では、人工的に人体の損傷を作り、Valgus Stress Testを伸展位(0°)と屈曲位(30°)で行って関節の開き具合を調べてみたとのこと。結果は…
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**このTableは論文のTableと本文の内容を元に書き起こしたものですが、論文では本文とTableの数値にズレがあり、恐らく本文のほうに誤植があると推測されます。この論文もこー、なんでこう多いんだろう、typo...。

という風に、Proper UCL (以下pUCL)のみが断裂している状態だと、伸展位ではそこそこまだ安定性が見られる(Accessory UCL、以下aUCLがまだ残っており、伸展時にtautになるから。↓以下の図参照3)にも関わらず、屈曲位の場合は不安定で関節がぱっかり開く(pUCLがPrimary Stabilizerとなるべき角度だから)、という「伸展位と屈曲位で関節の安定性に著しく大きな差が生まれる環境(平均16.0°、p < 0.01)」であるということが分かります。

一方、損傷の度が過ぎてpUCLのみならずaUCLにも損傷が及んでしまうと、伸展位でも屈曲位でも安定性が失われ、どちらのポジションでテストを行っても等しく関節がぱっかぱっか空いてしまうという結果になっています(平均8.7°、p > 0.10)。
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**一応明記しておくと、…というかまぁ、上の解剖図を見れば一目瞭然なんですが、それぞれの靭帯は親指が伸展位にあるか屈曲位にあるかでその状態が変わってきます。機能としてはpUCL resists valgus load with thumb in flexion; aUCL resists valgus load with thumb in extensionですね。ケガをする際にはまず先にPrimary StabilizerであるpUCLが損傷し、それでも止まらない力がかかった場合はaUCLも損傷する(= complete UCL rupture)が多いです。足首の捻挫でいうATFL→CFL→PTFLの順番に似ています。

…で、次に23人の急性UCL損傷を負った患者(性別・年齢不明、受傷から平均7日経過、range 0-14日)を被験者としたほうの検証では、患者をClinical Evaluation (触診とValgsus Stress Testを伸展位、屈曲位でそれぞれ行う)を通じて診察したのち、Operative Explorationを行い、身体所見と手術によって明らかになったケガの状態にどれほどの関係性が見られるかを判断。ここで一応注意しておくべきはStress Testの直前に1% Lidocaine (局所麻酔剤)を患部に注入していたということですかねー。本当に急性の怪我で、患者に痛みがあってguardingが激しい場合、今回の研究と同じ結果が得られるかは分かりません。それから、受傷から平均一週間経っているという時間軸も重要かな。目の前でUCL損傷を受傷した患者にこれらの結果が当てはまるかはわからない。

…ともあれ。
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23人中Stener lesionが確認された患者は16人だったそうなんですが、Prevalenceは69.6%となかなかに高いですね。で、被験者をStener lesionだった人とそうでない人に分けると、それぞれのテストの関節の開き具合はこんな感じ(↑)。なるほど、やはりこちらでも伸展位と屈曲位での差に違いが見られますね。Stener lesionになる患者はpUCLとaUCLの両方が断裂しており(伸展でも屈曲でもぱっかぱか)、そうでない患者はaUCLがintactである可能性が高い(= 伸展時に安定性が残っている可能性が高い)と仮説を立てると、この結果もなかなかに頷けます。p値も出しておいてよって感じですけども。
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記事にあったTable 2(↑)と本文を元に、Stener lesion有る・無しの診断基準になりそうな項目とその診断力を抜き出し・計算してみました(↓)。サンプル数が少ないので95%CI幅は広いですが、除外には1) 伸展位でのValgus Stress Testで35°よりも大きく関節が開く; 2) 伸展位と屈曲位のValgus Stress Testの開きの差が10°以上ある; というふたつの基準が、そして確定には3) Palpable Massがあることが使えるかなという印象です。
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最後にちゃちゃっともう一つだけ。
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昨日の記事で「Valgus Stress Testをする際にSupinationをしてはいけない。Neutralでやること」という内容をまとめましたが、これについてもうひとつこんな研究が出ていたのを見つけました。5 12体のFresh frozen specimenを用い、UCL Intact、pUCL断裂、UCL完全断裂(pUCL + aUCL)の状態で、それぞれNeutral, MAX Pronation, MAX SupinationでValgus Stress Testをしてみたところ、結果は以下の通り。
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とにかく一貫して言えるのが、Supinationしていると関節がパカパカ開きやすい。そしてPronationしていると関節に安定性が出るため、開きにくくなる、と。これは関節包や靭帯の弛緩・伸長が原因というよりも、PronationするとVolar Plateが背側・内側へ移動してきて、MCP関節に対して安定性を与えてしまうかららしいです。なるほど…。

そんなわけで、Supinationの状態でValgus Stress Testをすると、例えUCLがIntact (LI)でも高い角度が出てしまうことがある(= false positiveと取り違える可能性が上がる)。UCLによる関節の不安定性を見極めたい場合は、回旋によるバイアスをなくすためにSupinationはもちろん、Pronationもせず、Neutral Rotationで行うべきだ、という結論でした。うっほー、勉強になる!

そんなわけで、昨日と今日の研究結果を受けての私なりのStener lesion診断に対しての結論です。

触診Palpable massがあればStener lesionありと判断(確定)
Valgus Stress Test→テストを行う際にはSupinationとPronationの中間位(Neutral Rotation)で、特にSupinationをしないよう最善の注意を払って行う(= Displacementのリスクを最小限に抑え、且つFalse Positiveにつながるような不安定性を生まないように配慮するため)。患側と健側を比較して、患側が15°以上関節の開きが大きい場合は部分断裂(pUCL)以上の損傷がある可能性が濃く、且つ、患側の関節の開きが伸展位で35°に満たないもしくは伸展位と屈曲位での開きに10°以上の差がある場合はまだaUCLが断裂せずに残っている可能性が高く、故にStener lesionはない(除外)可能性が非常に高くなる(= あくまで部分断裂止まりか?Referの必要はなく、保存治療で回復の見込み高し)。逆に35°以上の開きがあり、伸展と屈曲位での開きにそれほど差が見られない場合はUCL完全断裂とそれに伴うStener lesionの可能性が否定しきれないので専門医にReferをするべきである(確固たる確定ができるわけではないが、これだけ条件が揃えばReferしても決して無駄ではないだろう)。
▶ 患者の痛みが激しく、十分な診察ができない場合はなるべくControlled, gentle matterでValgus Stress Testを試みる…が、それでも無理な場合は触診のみをして、一日ほど様子を見て再診察すべし。それでも症状に改善が見られない、もしくは上記のsignが確認できればRefer。

…というのが現実的なところですかね。
いやー、めっちゃ勉強になりました。楽しかった!また読みに帰ってきます。

1. Papandrea RF, Fowler T. Injury at the thumb UCL: is there a stener lesion? J Hand Surg Am. 2008;33(10):1882-1884. doi: 10.1016/j.jhsa.2008.09.025.
2. Heyman P, Gelberman RH, Duncan K, Hipp JA. Injuries of the ulnar collateral ligament of the thumb metacarpophalangeal joint. Biomechanical and prospective clinical studies on the usefulness of valgus stress testing. Clin Orthop Relat Res. 1993;(292):165-171.
3. Avery DM, Inkellis ER, Carlson MG. Thumb collateral ligament injuries in the athlete. Curr Rev Musculoskelet Med. 2017;10(1):28-37. doi: 10.1007/s12178-017-9381-z.
4. Mayer SW, Ruch DS, Leversedge FJ. The influence of thumb metacarpophalangeal joint rotation on the evaluation of ulnar collateral ligament injuries: a biomechanical study in a cadaver model. J Hand Surg Am. 2014;39(3):474-479. doi: 10.1016/j.jhsa.2013.11.044.

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  by supersy | 2018-02-12 22:00 | Athletic Training | Comments(0)

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