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PRI Advanced Integration 1-3日目とそれに関連する文献色々。

年に一度のPRIの祭典!Advanced Integration(通称: AI)に出席するためにまたネブラスカに来ています。AIは四日間、8時から5時まで(+夜の5-6時半くらいのゲストレクチャー)というもはや変人レベルの勉強会なんですけど、誇張なく、世界各国から(大半はアメリカ人なのですが、英国、韓国、日本、イスラエル、アイルランド、シンガポールなど他の様々な国からも)97人の猛者が参加しております。たーのーしーいー。
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今回はAIで話題に上がった論文のレビューをまとめておきます。どれも面白かった。
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まずはこちらの論文1。2011年発表の日本人研究チームのもの。
Adolescent Idiopathic Scoliosis(思春期特発性側弯症)の原因とは何なのか?どうして思春期で発症するのか、そしてどうして左の脊柱側弯症よりも圧倒的に右が多いのか?まだまだ謎の多いこの疾患ですが、もう少し踏み込んで、「病理的変化のない『一般的』と言われる脊柱でも、『思春期特発性側弯症』を思わせるような特徴はどれだけ認められるのか?成長と共にそれらの『特徴』は変化していくのか?」…に焦点を当てたのがこの論文です。
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検証方法は至ってシンプル。被験者の立位脊柱レントゲンを撮り、Cobb angle(上図参照)を計算して検証する、というもので、加えてCobb angle計測のintra- & inter-rater reliabilityも3人の整形外科医の間で検証されました。対象となったのは大きく分けて2種類の被験者群。既に脊柱側弯症と診断されている患者(44名)と、「通常」な脊柱を持つ人たち(1200名)です。この研究の目的は大きく2つ。脊柱側弯症患者は、右と左「どちらの方向」に湾曲が起こっているのか?健康な被験者は、「どちらの方向」に、脊柱側弯症とは言わないにしても「どの程度」の湾曲が見られるものなのか(又は全く湾曲なくまっすぐなのか)?ということを紐解こうとしているわけです。ふむふーむ。もう少し詳しい各被験者群の描写は以下の通り。

脊柱側弯症患者
Cobb angleが15-75度(= scoliosis)の非先天的且つ症状がない脊柱側弯症患者44人(年齢幅5-19歳, 平均12.7歳、男2人、女42人)。 *個人的には性別の偏りが気になります


「正常」な脊柱
幼少期(4-9歳)と思春期・青年期(10-19歳)、成人期(20-29歳)の被験者をそれぞれ400人(男女比は完璧に50:50、合計1200人)。
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結果です。
Intra- & Inter-rater Reliabilityは、同じX-rayを見ていても思ったより高くないんだなというのが正直な印象です。< 0.40 Poor; 0.40-0.59 Fair; 0.60-0.74 Good; 0.75-1.00 Excellentという基準を考慮すると、それでもGoodからExcellentのrangeには入るんですけど (↑Table 1 & 2参照)。

脊柱側弯症患者のなんと全員(44/44, 100%)は右側にその側弯症が認められたそうな。
「正常」な被験者では右の脊柱側弯症を正の数字(> +1)として、左の脊柱側弯症を負の数字(< -1)で表した場合、

  幼少期 男 +0.6±3.7° 女 +0.1±3.9°左 125人、側弯症無し 125人、右 155人
  思春期 男 +1.8±2.2° 女 +1.5±3.3°左 70人、側弯症無し 114人、右 216人
  成人期 男 +2.3±3.2° 女 +2.3±3.1°左 46人、側弯症無し 102人、右 252人

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というわけで、幼少期と比較すると思春期と成人期の右脊柱側弯症への傾向は著しく高い(p < 0.01, p < 0.001)ことが見えてきました。思春期と成人期は統計的に有意な違いは見られなかったそうな。男女差も特になかったそう。

つまるところ、何らかの理由で成長過程で我々の脊柱は右に向かって曲がっていくという傾向が確かにあるわけです。これらの1200人の被験者は「脊柱側弯症」という診断を下されておらず、見た目にも明らかな胸椎、胸郭の変形がない、自覚症状もない(脊柱とは全く関係のない身体の問題で病院に来院した)人たちだったわけですから、もしかしたらこれは我々が生活の中で繰り返す動きの癖やパターンに大いに関りがあるのかも知れません(これは私個人とPRIの意見で、本文では触れられていません)。加えて、今回報告された「思春期以降は健康な被験者にも右の脊柱側弯が認められる」という事実がAISのdevelopmental patternと酷似していることを考えれば、右の脊柱側弯症はそれなりに「normal variant」とも言えるのではないか?(特に症状を伴わない場合)病気や疾患という扱いをしてしまっていいのか?疑問が沸いてきます。くどいですが、これも私個人とPRIの見解です。ここらへんについてもっと知りたい方は前回紹介したPRIコンセプトと脊柱側弯症についての教科書の一章2をぜひご自分でお読みになってください。


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この論文も面白いです。3
2015年発表のブラジル研究チームによるPatellofemoral Pain(PFP)患者に関する研究。PFPの危険因子には膝が内側に崩れるようなDylanic Valgusや、逆に片足立位時に股関節外転金の出力不足によって起こるVarusなど、いわゆる動的エラーと呼ばれる要素が上げられたりします。これらの要素をSingle-Leg Triple Hopというかなりインパクトの強い動作中に、PFPありの患者とない健康な被験者でどう動きに違いが出るか見てみましょうぜ、というのが検証内容。
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20人の女性PFP患者(平均23.1±3.3歳)と同じく20人のAge-matchedな健康な女性被験者(23.5±2.1歳)を対象(ちなみに90%のStatistical Powerを得るための「各グループ最低17人」の条件は十分に満たしています)に、10分間トレッドミルで歩いてウォームアップしてもらったのち、Single-Leg Triple Hop Testを実施。一度目のジャンプの着地から、2度目のジャンプの踏切りの間のTransitional PeriodのBiomechanical Analysisを行ったわけです(写真↑)。テストはPFP患者は痛みがある方の足で、被験者は利き足で行った…という表記がありますが、具体的に右が何人、左が何人という数字は記述がありませんでした。個人的にはそこが気になりますし、私は右足でこのテストを行った人数が圧倒的に多かったのではと予測します。数字がない以上、予測の域を出ることはできませんが。

結果です。
Peak Joint Angle Data (Table 2)より。
胴体: PFP患者はより胴を前方(p = 0.038)同側側(p = 001)に傾ける傾向があるが、同側回旋は非PFP患者に比べて起こらない(p = 0.003)。
骨盤: PFP患者は逆側のPelvic Drop(p = 0.001)が著しく大きく起こる一方で、同側回旋は起こりにくい(p = 0.001)。最大骨盤前傾度合いにグループ間の大きな差は見られない(p = 0.299)。
股関節: より大きな股関節内転(p = 0.02)と内旋(p = 0.002)が見られるが、屈曲は著しく少ない(p = 0.029)。
膝: 屈曲が少ない(p = 0.001)が、内転は大差なし(p = 0.614)。
足首: よりEversionが大きい(p = 0.019)が、Dorsiflexionは著しく少ない(p = 0.003)。
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ふーむ、矢状面での屈曲が少なく、水平面での内旋が早く過剰に起こってしまうことから、伸展・外旋による爆発力が生まれにくい。加えて全額面では支脚方向に身体が極端に寄ってしまう、ということなのか。Table3も4も含め、総合的に見るとPFP患者はこういう位置(↑)に自分の身体を置きやすいことが見えてきます(Aが健康な被験者、BがPFP患者)。立位側に胴体を傾け、逆側骨盤を落とし、立位側股関節は内転内旋…。写真で見比べてみても、PFP患者のほうがより身体を右半球に埋め込んでいる感じ、つまり、健康な被験者がやっていることをより大げさにしてしまっているのがPFP患者なんですね。これは研究筆者も同意見のようで、"While both groups that participated in this study exhibited a similar movement pattern, the pattern was more pronounced in those with PFP" (p.804)という表現が文中に確認できます。PFP患者と非PFP患者、同じ動的パターンを見せる傾向があっても、そのパターンをより色濃くしてしまうとpathologyに繋がるんだ、という発見が面白い研究でした。

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では、最後にこの論文です。4
この論文は美しい!詩のように流れるような文章で、それでいて充実した内容の情報が的確にまとめられていて。冒頭は特に芸術的です。"There is arguably no other muscle in the human body that is so central literally and figuratively to our physical, biochemical and emotional health as the diaphragm. From its most obvious role in respiration, to its less obvious roles in postural stability, spinal decompression, fluid dynamics, visceral health and emotional regulation, the diaphragm has a repertoire of function that is broad by any muscle's standards" (p.342). これは日本語に訳そうと思うことが失礼にあたるくらい完璧に書かれた文章です。アンダーライン引いて何度も読み返したい…。

「横隔膜の担う呼吸という役割は(特に休息時において)主要である一方で、この機能は実は発生学の観点からは「『二次的(exaptation, side-effect)』と言わざるを得ない」、詳しくは、我々がまだ海中生物だった頃に空気を吸い込んでしまうことを防ぐメカニズムとして(つまり今の「空気を吸う」のとは真逆の目的で)できた組織なのではないか、または他の生物と比べて異様に発達した脳を持つ胎児を産道から押し出すことだったのではないか…など、実にわくわくする説を展開しています。横隔膜は部位としてはTransverse Abdominis (TA)の肋間に触れる部分が剥がれてできたといっても過言ではないんだそうで。さらに、発生学的に考えると、TA, IO, EOなどの深層腹筋群とAnterior, Middle and Posterior Scaleneは同じ胚の部位からできているというstatementもめっちゃ面白かったです…。こうして考えるとScalenes(斜角筋)が呼吸に深い関りがあると言われるのも実に道理にかなっているのだと本文では説明されています。

横隔膜がphrenic nerve (C3-5)によって(動的・感覚的)神経支配されているのは周知の事実だと思うのですが、なんと下部の肋間神経(6-7)からも神経支配を受けているらしいです。だから、横隔膜に対する治療アプローチはがっつり肋骨の機能・形状に影響をもたらすのだ、と。それだけではありません。Phrenic nerveはAnterior Scaleneと「関りのある」fasica周りを通過することから、Whiplashなどによる損傷や慢性的過活動(i.e. FHP)など、Anterior Scaleneに変化が起こるとそれがPhrenic nerve機能不全を招いたりすることもあるんだそうな。だから、呼吸に問題のある患者に対して姿勢介入が有効だったりする、その理屈もここらへんから来ているのではないか、なんだと。他にも横隔膜は嚥下と消化にも深いつながりがあり(横隔膜下部はPhrenic nerveではなくてVagus nerveの神経支配を受けているので)、逆流性食道炎などの治療にも横隔膜が注目されていること(食べ物がスムーズに胃に辿りつくにはcruraの部分の横隔膜が適度にリラックスしている必要があり、且つその間も横隔膜は呼吸を止めるわけにはいかない、ということを考えれば、この「神経支配の住み分け」は至極当然なのかもしれません。これと同じことが嘔吐などの場合にも当てはまります)も言及されています。横隔膜の姿勢筋としての機能、IAP制御などについても表記がありますが(横隔膜はspindle cellの数が少ないのでtensionやプレッシャーのコントロールを一人ではとても仕切れない、abdominal wallやpelvic floorとの連携が必要不可欠である、など)、このへんの論文は自分でも読みつくしているし、真新しい情報はなかったので省略でいいかな。前にも書きましたしね。横隔膜の活動がgait(歩行)のフェーズや飲食のリズムと深い関係があることについても(なので歩行のフェーズに合わせた呼吸介入もそのリズムを取り戻すのに有効であるかもしれないことなど)少し記述がありましたし(ちなみに四足歩行の哺乳類の殆どは一歩歩くごとに一呼吸をするという1:1であるのに対して、ヒトは2:1~4:1程違いがあるそう。四足歩行の動物は移動の際に前後にvisceral piston、つまり内臓が前に押し出されることで横隔膜のドーム形状がリストアされ、次の呼吸がしやすくなるという独特のチカラの掛かり方が起こることを考えれば、1:1という割合は動物学的にもスジが通っています。四足歩行動物でもグレイハウンドのような長距離を走ることを得意とする動物は2:1の割合で呼吸をする種もいるんだそうで、それらの種はどうしてそんな進化を遂げるようになったのかも妄想をめぐらすと楽しいです。あ、話が逸れた。ヒトの呼吸は割合としては2:1が一番エネルギー消費の無駄が少ないのだとか)、感情のコントロールと横隔膜の機能の箇所では「例えば子供が痛みを感じるとハッと息を飲み込み(それらは横隔膜の収縮によってもらたされたものである)、その後に子供は大声で泣き始めるだろう(これは横隔膜のリラックスと、abdominal wallの収縮によって起こる現象だ)」と説明し、「ところが大人はどうだ、同じような痛みを感じて空気を飲み込むことはあっても、子供のように思いっきり泣いて吐き出すことは滅多にない。もしかしたらそういう出来事があるたびに横隔膜の緊張は高まっているのかもしれない」という推測も、ユニークで斬新でもうめちゃめちゃ面白いです…っていうか、この論文いちいちひと段落ひと段落が面白いです。横隔膜好きは一度読んだほうがいいです…。

それでは、キリがないし、明日も一日講義のでそろそろ休むことにします!AI後半の報告のため、また更新します。

1. Doi T, Harimaya K, Mitsuyasu H, Matsumoto Y, Masuda K, Kobayakawa K, Iwamoto Y. Right thoracic curvature in the normal spine. J Orthop Surg Res. 2011;6:4. doi: 10.1186/1749-799X-6-4.
2. Henning S, Mangino LC, Massé J. Postural restoration: a tri-planar asymmetrical framework for understanding, assessing, and treating scoliosis and other spinal dysfunctions. In: Bettany-Saltikov J, Schreiber S,eds. Innovations in Spinal Deformities and Postural Disorders. London, UK: InTech; 2017.
3. dos Reis AC, Correa JC, Bley AS, Rabelo ND, Fukuda TY, Lucareli PR. Kinematic and kinetic analysis of the single-leg triple hop test in women with and without patellofemoral pain. J Orthop Sports Phys Ther. 2015;45(10):799-807. doi: 10.2519/jospt.2015.5011.
4. Wallden M. The diaphragm - More than an inspired design. J Bodyw Mov Ther. 2017;21(2):342-349. doi: 10.1016/j.jbmt.2017.03.013.

  by supersy | 2017-12-09 23:30 | PRI

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