ゴミはゴミ箱へ、舌は“スポット”へ:舌のポジションが下肢の筋肉の出力に及ぼす影響

もう4年以上も前に「口を休めている時の歯と舌のポジション」について記事を書いたことがありましたね。

顎の話をしよう:Having A Dentist in the Sports Medicine Team (2013年5月23日)
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今日のトピックはあっかんべー、ではなくて、舌についてです。舌は、咀嚼、嚥下、呼吸、そして「喋る」能力にも深く関わる奥の深い器官で、その機能の全てがCNSによって司られている(CN V-咀嚼、VII&IX-味覚、X-嚥下・発声、XII-舌の動き, etc)ことからも器官としての重要性が伺えます。

…で、一方で運動時に筋肉がどれだけ出力を上げられるかも、CNSが最終的な決定力を持っているわけですよね。舌のトレーニングによってCNS活性に変化が起こる、という過去の報告1 をふまえて考えると、舌の状態に影響を受けたCNSが、筋活動にも連鎖的に影響を及ぼす可能性は十分にあるわけで。これを研究として検証してみよう!というのが今回紹介する記事2 の概要です。
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b0112009_07570573.jpg健康な男性被験者(平均年齢26.6±4.5歳)18人が対象で(Pilot studyなので被験者は少なめですね)、条件はレクリエーショナル・アスリートであることと、循環系疾患、神経系疾患、整形外科外傷がなく、試験前24時間以内にアルコールやカフェインを、実験前4時間以内に食べ物・飲み物を一切摂取していないこと。加えて、概日リズム(生物体に本来備わっている一日の周期リズム)の影響を受けないよう、どの被験者も一日のうち同じ時間に実験を行うようにしたんだそう。丁寧に色々調整してる印象ですね。

デザインとしては、舌のポジションを少しずつ変えながら、Biodexを使って膝の伸展・屈曲の最大torqueを図る…と言う感じなのですが、サッカーボールを蹴る足を「利き足」として、利き足のみをテストしたそう。舌の異なる3種類のポジション(A: Middle Position-舌を前歯に押し付ける、通称MID; B: 口蓋上部のPalatine Spotと呼ばれる“スポット”に軽く触れる、通称UP; C: 下顎歯列弓の後ろに触れる、通称LOW)の影響を検証するために、各被験者それぞれ3日間のテスト日(疲労等を防ぐために中2日)を設け、ランダムな順番(人によってはUP→LOW→MIDとか、MID→LOW→UPとか)でテストを行ったそうです。

どの被験者も、スタンダード化されたウォームアップ(10分間のバイク、5分間のアクティブ・ストレッチ)を同様にこなし、最大torque計測中に唾などを飲み込んでしまうと舌のポジションが微妙に変わってしまうため、実験中の飲み込みは禁止。細かいところまで徹底されていますねー、よくできてる。

…で。結果がマジヤバイです。百聞は一見に如かずなので、とりあえずTable 1をご覧ください。

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もう、完全に一貫してUP(B)ポジション(赤枠)がことごとく勝利してるんですよ!MAX peak torqueもMAX workも加速も減速も、全ての計測において、舌が“スポット”に当たっているときが3つの異なるポジションのうちもれなく最も優秀だったわけです(*はp<0.05, ♰はp<0.01)。計測値の信頼度も非常に高く、ICC = 0.952-0.987とこれも文句ありません。

この研究の結論は、「舌のポジションは下肢の出力に多いなる影響を及ぼす」、もっと正確に言うと、「舌を“スポット”に当てておくと、下肢の出力が上がる」ということです。被験者の数こそ少なかれ、これだけ信頼性の高い数値が出たなら、被験者の数を増やしても再現性は高いのではと個人的には推測します。もっと大きいサンプルでもやってほしいし、上肢の出力も検証してほしい…!めっちゃ興味ある…!

こうなってくると、Palatine Spot(日本語では通称“スポット”で通じるみたいです)って何者なんだ、って話なんですけど、これは論文には“The palatine spot is a place in the mouth ceiling in correspondence of the palatine bone between the inter-dental papilla of the upper front teeth and the first fold of the palate (p.318)”と説明されていて、つまるところ、口蓋皺襞前方部の比較的平らな部分を指します(↓下図参照)。ええっと、やってみたい方は実際に舌を動かしてみてほしいんですけど、上前歯のすぐ後ろの歯茎部分にザラザラした突起がありますよね?そのすぐ後ろは逆に凹んでいて、ツルツルとなだらかな表面になっているはずです。そこのことなんです!一般的には、「ヒトが口と顎を休めているときは、舌はここに収まっているべきである」と言われる場所です。
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この「舌の収納場所」は興味深いことにTrigeminal nerve (CN V、三叉神経)のbranch (神経枝)があり、多くのexteroceptors (外受容器)集まっていると言われています。ここに舌を置くと、ゼルダの伝説の謎解きのように、カチッと何かのスイッチが入るんですかね。なんかこうして絵を見ていると(↓)、“スポット”に舌をあてることで、三叉神経がまるで電気回路のようにclosed loopを作りますもんね。確かに、自分がここにいるという知覚を確立するには十分なのかもしれない…。口蓋や歯科の知識はまだまだ乏しいので、これ以上の話は私には今日の時点ではできませんが、どちらにしても興味深い発見であることは確かです。どなたか、Palatine Spotについてもっとよく知るために良い論文などご存知でしたら教えてくださいー。
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1. Kothari M, Svensson P, Jensen J, et al. Training-induced cortical plasticity compared between three tongue-training paradigms. Neuroscience. 2013;246:1–12.
2. di Vico R, Ardigò LP, Salernitano G, Chamari K, Padulo J. The acute effect of the tongue position in the mouth on knee isokinetic test performance: a highly surprising pilot study. Muscles Ligaments Tendons J. 2014;3(4):318-323.

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  by supersy | 2017-11-15 18:30 | Athletic Training

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