生死を分けるカギは?Commotio Cordis(心臓震盪)関係の統計あれこれ。

今学期はまたしょうこりもなく一般医療(General Medical)の授業を担当しています。最初はあんなに苦手意識があったのに、3年も教えていると自分の中にそれなりに知識が定着してきているのを感じます。神経疾患、感染症、呼吸器疾患に精神疾患など、まだまだお医者さんから見たら笑われるレベルなんでしょうけど、少しずつでも分かってくると、自分が前から持っていたあの知識やこの知識と「あ!ここがつながるのか!」というところがあり、楽しいです。

さて、最近は循環器疾患の章のパワーポイントをアップデートする作業をしており、ふと思い立って心臓震盪(Commotio Cordis)についての論文を探していてこんなもの1 を見つけました。2013年と、決して新しいものではないんですが、面白かったのでまとめておきます。
b0112009_10521484.png
振り返ってみると、今までに過去2回ほど心臓震盪についてブログに書いたことがあるようです。

心臓震盪と心挫傷。(2007年7月29日)
大学(学士)を卒業したて位のころの記事がまだ残っていました。すごい、10年前だ…文章が若々しい…。

SEATA Conference Report 3 - Sudden Cardiac Arrest (2008年3月8日)
これは大学院一年目に学会発表に行ったときのやつです。Courson氏のプレゼン、衝撃すぎて今でも覚えてる…。

今回の論文では、過去(2012年7月まで)に米国で起こり、記録に残っている216件の心臓震盪についての詳細をレビュー。面白いんで、むほっと思ったものを箇条書きにして書き出したいと思います。

患者のプロファイル
- 患者の平均年齢は15±9歳と低めだが、年齢幅は0.2-51歳と広い
- 患者のほとんど(205/216, 94.9%)は男性
- 半数以上が白人(166/216, 76.9%)で、アフリカン・アメリカンは少数(24/216, 11.1%)
- 野球のボール、ホッケーパックなどの投射物による胸部への衝撃が原因となったものが過半数(134/216, 62.0%)

生存率
- 全体では、生存者は60/216 (27.7%)だが、時代の経過と共に生存率は著しく上昇している(p<0.001)
b0112009_11310256.png
- 年代別に見てみると、≦1975では0%、1976-1981は10.52%、1982-1987は8.33%、1988-1993は15%、1994-1999は15.22%、2000-2005は27.59%、2006-2012は58.49%と、最新のものでは生存率が死亡率を上回る結果に(↑)

生死を分けるカギとなる要素?
- 生存者と死亡者を比較すると、1) AEDをその場で使われた人の生存率は11/16(68.75%)なのに対し、使われなかった場合の生存率は49/200(24.50%)と、著しく低い(p<0.001)
- 2) 3分以内に心肺蘇生を開始した場合の生存率は48/121(39.67%)だが、3分より長くかかった場合は2/42(4.76%)と著しく低い(p<0.001)
- 3) 白人の生存率は(54/166, 32.5%)、アフリカン・アメリカンの生存率よりも(1/24, 4.2%)著しく高い(p = 0.023, …しかしこれはサンプル数の違いも影響を与えているか?アフリカン・アメリカンの患者のほうがAED現場使用率が著しく低かったと文中に書かれている)
- 4) 組織されたcompetitive sports(高校、大学の部活など)に参加していた場合の生存率のほうが(45/115, 39.1%)、レクリエーショナルスポーツや日常生活時(9/52, 17.3%; 6/49, 12.2%)よりも著しく高い(p<0.001)
- 大差がなかったもの(=生死を分ける要素ではない?)としては、1) スポーツの種類(野球、アメフト、ホッケー、空手、ラクロスなど, p = 0.81), 2) 胸部のパッドの有無(有14/42, 33.3%; 無30/71, 42.2%; p = 0.61), 3) 投射物の種類(野球のボール、バット、ホッケーパック、ラクロスボールなど, p = 0.66), 4) 投射物の中身(空気2/4, 50.0%; 硬いもの38/130, 29.2%; p = 0.58)

AEDが現場で使われない場合の死亡リスクはOR = 4.6(1.42-14.9, p = 0.01)、組織されたスポーツでの死亡リスクはその他(レクリエーション、日常生活)と比較してOR = 0.33(0.16-0.67, p = 0.002)だそうです。うむ、統計学的には決定的ですね。やはり3分以内のAEDの使用と、それをする環境が整っていること(= organized sportsで、スポーツ医療の知識のある人物がいること)がカギになってくるようです。時代と共に生存率が上がっているというのは心強い傾向ですよね。生存率の背景にあるのは、やはり前述した「AEDがより素早く使われる」環境がより整うようになってきているからでしょう。2017年現在のCommotio Cordis生存率は恐らく60%は越えていると推測してもいいんでしょうか…実際の数字を見てみたいものです。胸部プロテクターが今のところ効果無し、というのは以前少しだけ書きましたが、この点も今回の論文のfindingと一致しますね。以前読んだSystematic Reviewでは2、この結論で「Safety BallはCommotio Cordis予防効果があるが、Chest Padのそれは統計的に有意ではない」とまとめられていました。胸部プロテクターとヒトクチに言っても様々なブランドものがあるでしょうから、現場で使えるレベルのエビデンスの検証には商品別の実験が必要になってくるでしょうねぇ。

思ったほどCommotio Cordisの分野の研究は進んでないんですかねー?ここ3年以内の文献はあんまりなくて驚きました。これも含めて、授業でしっかり話そうっと。

1. Maron BJ, Haas TS, Ahluwalia A, Garberich RF, Estes NA, Link MS. Increasing survival rate from commotio cordis. Heart Rhythm. 2013;10(2):219-223. doi: 10.1016/j.hrthm.2012.10.034.
2. Classie JA, Distel LM, Borchers JR. Safety baseballs and chest protectors: a systematic review on the prevention of commotio cordis. Phys Sportsmed. 2010;38(1):83-90. doi: 10.3810/psm.2010.04.1765.

[PR]

  by supersy | 2017-09-30 09:00 | Athletic Training

<< 12月17・20・21日のEB... Lelli Test、改め『L... >>

SEM SKIN - DESIGN by SEM EXE

AX