Position Statementの穴?熱中症治療についての新エビデンス。
- 選手が(shoulder padや幾層ものユニフォームなど)過度な服を来ていた場合、
もちろん脱がせたほうがcoolingの効果は上がるのだが、それに時間が取られた故に
coolingが遅れるほうが致命的なので、これは冷水の中でやること。
5-10分毎に患者のバイタルを確認することも忘れずに。
推奨度・B
…という項目がありました。
そうなんですよね、他のスポーツはともかく、アメフトというのはShoulder Pads(写真左)というものごっつい防具に、ポジションによってはRib Protector(写真中央)なんかも胴回りに付けて、その上からジャージを被って、ヘルメット被って、ようやく試合・練習ができるわけです。文字通り、何層にもなる重装備です。逆に言うとこういう重装備をしているからこそEHSになりやすいわけですし(アメフト選手のEHS件数は2003-2011の9年間で30件と、1993-2002の10年間の22件に比べて上昇傾向にあります2)、実際にEHSになってアメフト選手が意識混濁・消失している場合、これらを脱がせるのにも一苦労です。これに手間取っていては、適切な治療の開始が遅れかねません。
18人の男性ボランティア被験者(平均年齢 22±3歳)を使い、検証前に尿検査で脱水していないこと(specific gravity > 1.020)を確認した上で 1) コントロール: Tシャツ、短パンに靴下, もしくは 2) フル装備: コントロールの服装に加え、Shoulder Padsにヘルメット、ゲームパンツにジャージ、そして膝、太腿、尾てい骨にもパッドを装着という出で立ちで、Environmental Chamberという特設の暑い環境を生み出す閉じられた空間で『トレッドミルで3分歩く・2分走る』を深部体温が39.5℃に達するまで交互に継続。その後、首から下まで水温約10℃の冷水に浸かってもらい、体温が38℃に下がるまでの時間を計測。更に、タブから出てもらってその後30分間の深部体温の変化も記録したそうな。
ちなみにこの研究ではCrossoverデザインを採用。全ての被験者が、最低でも3日間の間隔を開けて両方の服装での実験を行い、そのデータを集計・分析しました。
で、面白いことに、結果としては、フル装備のほうが深部体温が早く下がった(下グラフ↓)!んですよね。コントロール・グループが8.49±4.78分かかったのに対して、フル装備グループは6.19±2.02分。これは統計学的に非常に有意で、臨床的にもそこそこ有意(p = 0.03, effect size = 0.48)。2分以上の違いというのはなかなか。CWIのトリートメント修了後の体温の低下はフル装備でもコントロールでも等しく(p = 0.59)30分間低下し続け、服装による差は見られませんでした。
1. フル装備状態でも、しっかりした体温低下効果が確認できた。→治療中の悪影響は無し。
2. フル装備状態で、CWI後にも極度な体温低下が見られるということはなかった。→治療後にも悪影響はない。
3. つーことは、別にアメフトの装備、外さなくてもいいんじゃない?
…ということでした。
フル装備状態のほうが体温低下が早かった原因として、
1. 深部体温が39.5℃に達した段階で、フル装備被験者の皮膚温が、コントロールのそれより高かったと仮定すると、このより大きい水温と皮膚温の差(temp gradient)が、より大きいheat lossにつながったのでは。
2. 幾層もの服があったほうが、reflexive peripheral vasoconstrctionが起こる度合いが低く、血流を制限しにくいのでは。
3. これはきっちりと計測したわけではないが、実験中、コントロール・グループの被験者には「震え」がよく観察された。震えることで筋肉を収縮させ、これが微々たる体温の上昇につながった可能性がある。フル装備の場合、皮膚のexposureが減るので、それに伴い、「震え」はほとんど確認されなかった。
…などの仮説を、この研究の著者らは上げています。ふむふむ。推測の域は出ませんが、なかなか面白い見方です。
もちろん我々はこの研究結果を総合的に考えるべきで、これだけ読むと、「じゃーEHSの治療には外すメリットないじゃん。外さんで良し」と言いたくなるかも知れませんが、他の治療や評価目的でフットボールのギアを外さなければいけないこともあるでしょう。例えば、可能性は低いとはいえ、CWI治療中に患者の心肺機能が停止した場合、患者をタブから出して直ちにCPR/AEDを始めなければいけませんし、その時になってやっと「あっ、Shoulder Padsつけっぱなしだった!今から外そう!」とやっていたのではそれはそれで問題になります。常に最悪の事態を考えなければいけないATとしては、やはり、NATAのPosition Statement通り、「EHSの診断が確立され次第、ユニフォームのままCWI治療開始。タブの中でユニフォームを外し、coolingを続ける」、そして、「患者に急変があり、心肺蘇生やAEDを始めなければいけない場合は患者を直ちにタブから出し、即座に治療可能なようにしておく」というのが今のところ一番理に適っていますかねー。
1. Casa DJ, DeMartini JK, Bergeron MF, Csillan D, Eichner ER, ...Yeargin SW. National Athletic Trainers' Association Position Statement: Exertional Heat Illnesses. J Athl Train. 2015. [Epub ahead of print]
2. Kucera KL, Klossner D, Colgate B, Cantu RC; for American Football Coaches Association, National Collegiate Athletic Association, National Federation of State High School Association, National Athletic Trainers' Association. Annual Survey of Football Injury Research: 1931-2013. Chapel Hill, NC: American Football Coaches Association, National Collegiate Athletic Association, National Federation of State High School Association, National Athletic Trainers' Association;2014:1-31.
3. Miller KC, Swartz EE, Long BC. Cold-water immersion for hyperthermic humans wearing american football uniforms. J Athl Train. 2015;50(8):792-799. doi: http://dx.doi.org/10.4085/1062-6050-50.6.01
by supersy | 2015-11-01 15:00 | Athletic Training