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エンジン、切れていますか?

ものすごーくご無沙汰しています。
私は元気です。

だいぶ時間が空いてしまいましたが、
前回の更新(11月末)から色々なことがありました。
簡単にまとめると、
 1. 秋学期末に差し掛かっても就労ビザ内容変更の手続きが進まず、日本帰国が危ぶまれる。
   *2ヶ月で終わると言われていたのに、3ヶ月かかってもうんともすんとも
   進んでいないことが帰国直前に発覚。
 2. 自腹でお金を積み、プレミアムプロセスと呼ばれる優先申請をして強行帰国。
   *帰るったら帰るもんね!
 3. 日本に一ヶ月ほどがっつり帰国。おいしいたのしい。
 4. 案の定それでもビザがごたごた、結局再渡米予定を当初より遅らせて、
   こちらの春学期開始前日にギリギリアメリカに帰ってくることができました。とさ。

いやー…もうアメリカにはもう13年近くもいるんですけど、
やっぱりこの「ガイコクジン」扱いは不便なことが多いですね。まいったまいった。

あと、今回の帰国中に正式に籍を入れてきて、苗字が平石から阿部になりました。
これからは阿部さゆりとお呼び下さいうふふ。
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●エンジン、切れていますか?

さて、それでは本題です。
ここ数年PRIやDNS、PRRTの勉強をするうちに、
いかに患者さんのNeuro systemをオフにするか、というところに徐々に興味が出てきました。
意味が分からないって?つまるところこういうことです。
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●onとoff、使いこなせてこそ意味がある。

例えば、NASCARのカーレーシングとかってすごいですよね。
強靭なエンジンとギリギリまで無駄を省いた軽やかな車体。
物理学、空気抵抗学を応用し、スピードをとことんまで追求した正にアートワークの境地。
普通の車では有り得ない速さでサーキット内を皆飛ぶようにびゅんびゅん走っていく。
ここで、普通の車→一般人(非アスリート)の身体、それからレーシングカーを一般人には出来ないものすごいパフォーマンスができてしまう超人的なアスリートの身体、とします。
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目にも留まらぬ速さで華麗なパフォーマンスを見せるレーシングカー。しかし、レースの真っ最中にレーシングカーがコースを逸れ、『ピット』という場所にpull inすることに皆さん気が付くはずです。レースの最中なのに何を暢気なことしてるんだ?と思ったことありませんか?私は初めて見たときに思いました。

車が止まるや否や、平均約20人とも言われるピットクルーが走り出してきて、タイヤを交換したり、燃料を足しなおしたり、消耗した他の部品も素早く取り替える。そうなんです。いくら究極の美を追求した科学の最先端のマスターピースと言えど、あまりにレース中車体にかかる負担が激しい。こうして少しのタイムロスを覚悟してでも部品交換をしないと、効果的に1レースを走り切ることすらできないのです。
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●車とニンゲン、出来ること、出来ないこと。

同じことが、アスリートにも言えます。彼らが見せるパフォーマンスは素晴らしい。
我々がトロトロ20mphで走っている横を150mphのスピードで駆け抜けていく。そりゃー我々の眼を奪うわけです。しかし、その分消耗も激しい。アスリートは一回の練習、試合で多大な精神力・体力を消耗している。しかも、レースカーと決定的に違うのは、部品の交換は出来ないことです。彼らは、自分の身体と一生付き合っていくしか選択肢が無い。タイヤが擦り切れそう?じゃあ交換しちゃいましょう、というわけにはいかないのです。
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では、何が大事なのか?
不必要な時にエンジンを切って、身体を休ませることです。
人間の体にできて車に出来ないことは、『自然治癒』。我々の身体は、血が流れています。栄養が巡っています。身体を『戦闘モード』から『休憩モード』に切り替え、全てでないとはいえ、その時間を消耗した精神と肉体を回復に充てることができるのです。

なるほど、メリハリをつけて休む時は休む。
分かりやすいじゃありませんか。
…しかし、実際はこれがなかなか難しい。
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●エンジンを切れないトップアスリート。

これは私の主観的な意見ですが、優れたアスリートになればなるほど、「エンジンをかける」のがものすごく上手いのに比べて「エンジンを切る」「休養モードに切り替える」ことが下手なことが多いように思えます。ATさんの誰もが経験したことあるような例だと、例えば選手をストレッチするときに、彼・彼女の足の緊張が取れず、ぐいぐい押し返してくる。「力抜いてねー」と言っても、「抜いてるつもりなんだけど…ぐぬぬ」と返ってくる。スイッチを入れる達人であるが故に、スイッチの切り方が分からないのです。結果、必要でない時に切っておくべきエンジンが常にonなので、彼ら自身も気づかないうちに心や身体を消耗してしまっている。皆さんも寝ようと思うのに何だか妙に頭が冴えてしまって「寝なきゃ」「ああもう本当に寝なきゃ、明日きついのに…」とますます焦ってしまったような経験はありませんか?あれは、正に「切れるべきエンジンがかかりっぱなし」な状態だと私は思うのです。面白いものですよね、「休もう」「リラックス、リラックス」と自分に言い聞かせようとすればするほど緊張してしまったりするし。
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●SNS vs PNS

ここで私が繰り返し言う、エンジンのon/offとは、
Autonomic Nervous System (自律神経系)と深く関わりがあります。
ANSの機能は大きく二つに、Sympathetic/Parasymphathetic Nervous System(交感・副交感神経)に分けられます。皆さんも生物や解剖学で習いましたよね。ヒトは、自分の身に危険が迫った時など、緊張状態にある時はSymphathetic Nervous System (SNS)の活動が活発になり、瞳孔が開いたり、心拍数・呼吸数が増加、反対に消化器官の活動は抑制される。誰だって熊に追いかけられているときに胃の中の食べ物を消化しようとは思いませんよね。逆に、リラックスしている状態ではParasymphatetic Nervous SystemがSNSをoverrideすることにより瞳孔は小さくなり、心拍数・呼吸数共に低下、消化器官が活発に運動を始めます。身体が「お休み」モード、「余裕があるのでメンテナンスにチカラを費やしましょう」モードになるわけです。

●PNSを上手く使おう
そんなわけで、ここ数年、患者さんを診るときにその人のNervous Systemがどちらに傾いているのか、SNS-drivenになっていやしないか、何となく気にして観察するようになってきました。SNSが強い患者さんは顔が強張っていたり、眼に妙なチカラが入っていたり、全身の筋肉のトーンも上がっていたり、やはり何か違和感を感じることが多く、何気なく「夜、ちゃんと眠れてる?」なんて質問をしてみると、「それが最近全然ダメなんだよね」なんて返ってきたりします。

例えば。
アスリートでこそありませんが、私が今診ている患者さんのひとりにとあるおじさまがいます。
このおじさま、元々は趣味のテニスと筋トレ(かなりアクティブな方です)をしていて膝の痛みが出、
先学期私のところへ治療へ来ていたのですが、今学期はその膝の痛みがすっかり無くなった
と思ったら、今度は妙な首から腕にかけての痺れが出るようになったというのです。
この方は50代半ばのベテラン職員さんなのですが、お仕事の方ももちろんかなり責任のある管理職の肩書きを持ってらっしゃいますし、お偉いさんです。仕事関係で色々あって、なかなかストレスが絶えない日々を送っているのは私も知っていました。なので、いつもの質問をこっそり混ぜてみたんですよね。「ところで、夜はしっかり眠れていますか?」と。彼の反応は「もうここ数年はすっかりだね。眠りに落ちるは落ちるんだけど、夜中に目が覚めて、その後はどうしても眠れない。最後にぐっすり眠ったのはいつだか覚えてもいないよ」というものでした。あーやっぱり。

軽い診断を終えて、「今回、首や腕の治療もしますけど、ちょっと試しに顎や頭に触ってみてもいいですか?○○さんちょっと歯を食いしばり気味なところあるでしょ。その辺の緊張が顎から首に伝わることってよくあるんですよ」…と真意を半分隠しながらその日は神経系の司令室が多くある顎やら頭やら、徒手療法とキューイングを中心に、腹式呼吸も交えながら30分ほど軽く治療。それじゃあまた二日後に、ということでその日は終了。

それから二日後、二度目の治療に戻ってきた彼が「腕の痺れほとんど無くなったよ。あんまり上半身をウェイトルームで頑張りすぎると少し首が張ってくる感覚はあるけど」というのに「おお!それは良かったです。ところで夜は眠れました?」と聞いてみました。すぐと、彼は目を真ん丸くして「それがすごいんだよ!治療してもらった日も、それから昨日の夜も、ぐっすりだったんだ!こてんと寝て、朝までそのままだよ!あんなに寝られたの本当に何年ぶりだか分からないよ。目が覚めて時計を見て、びっくりしちゃったんだ。奥さんまで言うんだよ、『貴方よく寝ていたわね』って!」
私が笑って、実は、顎や頭を触っていたのはどちらかというと本当はそっちのためだったんです。痺れはそこから二次的に助けになればと思ったんですが。上手くいったようでよかった。と種明かしをすると、「もしやそうなのかな?とは思ったんだけど…」さらに目を丸くするおじさま。
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「アスリートは試合に勝つために戦う。お仕事をしているヒトは、部下の為に上司と戦う。…世の中、色々な戦いがあるでしょう。戦うべきときに、自分なりのスイッチを入れてしっかり戦いきる、って、もちろん大切な能力だと思うんです。それが自分の得意なことなら尚更です。私がどうこう戦えと指示できるものでもありません。専門家なのは貴方の方ですから」

「でもね、ヒトって休んでこそホメオスタシスが保てると思います。戦いが終わったら、しっかりエンジンを切って休まなくては。ライオンだって、狩りをしてなきゃ一日中寝てると言うでしょ?もしかしたら私はそういうお手伝いが出来るかもしれないんです。ちょっとSNSを抑制して、PNSを押し上げてやる。ANSの活動は基本『反射』で出来ています。ニンゲンの身体の反射能力を利用すれば、そんなに難しいことでもなかったりします。ちょっと慣れてくれば私がいなくても、自分の身体にちょっとしたキューを与えるだけで自分でも徐々にコントロールできるようにもなってくるもんです」

「…それで、顎?」

「貴方の場合は、顎かなぁと思って。そのへんはヒトによりますよ。見てると何となく、こう、このヒトは胸郭かなぁとか、顎かなぁとか、始めたいところがあって、それで反応が良くなければ他を試してみる。一番に貴方の顎を触ってすとんと結果が出たのはたまたまです」
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●戦え!アスリート。戦え!サラリーマンに公務員。

お前さんと話してるとますますATってモノが何なのか分からなくなってくるよ、
とおじさまには笑われましたが、
「戦う」エキスパートである優秀なアスリート、サラリーマンや公務員さんが、
activationのスパイラルから抜け出してふっと「休」めるinhibitionの瞬間を作ることこそ、
我々ATが、プロが出来る仕事なのでは、と思ったりもします。
もちろん、この患者さんはこれだけで症状改善したわけではありませんけどね。あしからず。

皆さんは、毎日戦わなくて良い時まで何かと「戦って」いませんか?
ふっと息を吐いて、SNSにお休みしてもらえる時間、作れてますか?
エンジン、切れていますか?自分自身の身体に、たまには尋ねてみてくださいね。

  by supersy | 2015-02-06 15:00 | Athletic Training

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