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後十字靱帯(PCL)断裂の診断について考察する。

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後十字靱帯(PCL)の損傷や断裂って、前十字(ACL)ほど聞きませんよね。
スポーツではね、珍しい怪我なんですよ。

何故かというと、PCLを損傷するためには、特定の条件が揃っていなければいけないんです。
それは、
『膝が約直角(90°)に曲がっている状態で、脛骨(tibia)に前方からの衝撃がかかる
…というもの。
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交通事故なんかではこのシチュエーション、実は結構多くて、
アメリカではよくDashboard Injuryと呼ばれたりします。
例えば車が何かにぶつかって衝撃で止まったところで、身体が前に進み続けて
膝を派手にダッシュボードに打ってしまう、という感じですね。
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では、スポーツだとどういう感じで起きるんでしょう?
前方から力がかかると過伸展してしまうことが多いので、FBのタックルなんかでは意外とイラストのようにはいかないもんなんですよね(↓左)。一番多いのは膝を曲げた状態での着地(↓右)。
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この怪我について習った学生の頃は、
「こんな特殊な力がかからないと起こらない怪我、診断は簡単だわ」と思ってました。
しかしねー、そんなに甘いもんではないのだと、数年前に大失敗して学びましたとも。
(詳しくは以前の記事、「Isolated PCL Tearをどう扱う?前編後編」参照)
後十字靱帯損傷診断の、何が難しいって、「ほとんど症状が無いことが多い」のです。
痛みが無い。腫れもない。機能も十分にある。あるのといえば、違和感ぐらい。
見逃してしまうことって、多いのです…。
統計上、PCLの損傷は膝の怪我全体の1-44%と非常に幅があり、1-3
この理由には「とにかく気づきにくい」というこの怪我のnatureが考えられます。
実際に、毎年NFL combineに参加する大学生Football選手の2-3%が
asymptomatic/underdiagnosed PCL ruptureを抱えているというのだから、4
正確なprevalenceは一体どれくらいになるのやら。

●PCL損傷の落とし穴
受傷直後の症状は非常に目立ち・気づきにくい。
でも、それがじわじわと慢性の膝関節痛や不安定感につながったり、腫れが出たり引いたりする患者さんもいます。Instabilityが原因で半月板損傷や関節面軟骨のdegenerationに繋がるケースも。機能障害にも同じことが言えます。生活に支障が出たり、アスリートにおいては以前のactivity levelに戻れなかったりと、深刻な弊害は色々とあるのです。

●的確な診断を!
過去の失敗から、アスレティックトレーナーとして私が心がけるようになったのは、
どんなに大したことない怪我に見えても、「膝から落ちた」MOIの選手にはPCLをまず疑うこと。
そして、疑った場合には、早く、的確にrule outを行うこと。
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はて。
疑うのは文字通り「心がけ」、意識の問題ですが、
実際にrule outするとなると知識とテクニックが必要です。
それでは、PCL断裂診断における、私たちが知っておかなければいけない事とは何か?
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最新のSystematic Review(↑)5を元に、色々とまとめてみたいと思います。

各種スペシャルテストの統計まとめは、こんな感じ(↓)。
●Posterior Drawer Test

注:この動画、音声に間違いが。"proximal hamstring muscles"ってとこ、"distal"だと思うんだけど…。
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Posterior Drawer Testは最も頻繁に研究されているテストでありながら、
sensitivityにバラつきがあるのと、specificityがたったひとつの研究でのみしか
reportされていないのが気になります。Rule inとoutの両方に使えそうには
見えるのですが、何とも『判断し難い』というのがKopkow氏らの結論でした。

●Posterior Sag Sign
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こちらも研究数には限りがありますが、
reviewの中では「最もsensitiveなテスト」と結論付けられています。
私はGodfrey90-90°よりもHipを45°にしてやる方(↓)が好きだけどなぁ。
足が完全にリラックスするので。ちなみにこいつはものすごい陽性ですね。
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●Quadriceps Active Test
陽性動画はこちら(↓)。
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こちらは、「最もspecificなテスト」なんだそうで。

●その他
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ここまで見てもらっても分かるとおり、とにかくKopkow氏ら曰く、「high-qualityの研究の絶対数が欠けている」という印象。そもそも著者らは、元々今回Meta-analysisがやりたかったのに研究の数・規模共に不十分で出来なかったという背景もあります。最終的にReviewされた11の研究のうち、Blinding等の研究の構成が甘く、バイアスの可能性が高いものがほとんどでしたし。上の表に含まれるSpecial Testはやり方が複雑なものも少なくないし、Diagnostic valueの観点から言っても、特筆すべき最初の三つに優るものはないかな、というのが私の個人的な意見です。

●Reference Standard?
Gold Standardは前十字靱帯断裂等同様、もちろんarthroscopyなのですが、PCL断裂に限って言えば、MRIの画像診断のみでもscopeと比べてexcellent correlationがreportされており、MRIも"valid reference"と考えてよい、という意見が現在は一般的かと思います。6-8
(ちなみに下の画像は通常の後十字靱帯(左)と、断裂した後十字靱帯(右)の比較)
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そんなわけで、このSystematic Reviewから私たちが学べることを
私の個人的で主観的な意見を含めてまとめると、
1. Posterior Sag Sign is the most sensitive test.
2. Quadriceps Active Test is the most specific test.
3. Posterior Drawer Test is not fully validated, but it's easy and simple - DO IT ANYWAYS.
4. MRI is considered as a valid reference standard.
5. 上記3つのテスト以上にシンプルで価値がありそうなテストは今のところ無し。
 とりあえずこの3つをやっておけば十分そう。

ちなみに現場で活躍されてる方はご存知かと思いますが、Anterior/Posterior drawer testを
患者にperformする際には必ずPosterior drawer testを先にやらなきゃダメですよ!
そうでないと、仮にPCL断裂していた場合…
 - 45-90°のポジションでは患者の脛骨がsagし、落ちた状態に。
 - これに気づかずにAnterior drawerを先にしてしまうと、
  引き下がった状態から前方に引き出す格好になり、false positiveの感覚を産んでしまう
  (→『excessive translation??』)。
 - なので、必ず一度先にPosterior drawerを行って、end-feelを確認した上で、
  posterior sagをrule outしてからAnterior drawerを行いましょう。
これ、毎年授業でうるさく言っているのにすぐ忘れちゃう生徒が必ずいるんです。
大事なので、皆さんは頭の片隅に入れておいて下さいね!

1. Miyasaka KC, Daniel DM. The incidence of knee ligament injuries in the general population. Am J Knee Surg 1991;4: 3–8.
2. Fanelli GC. Posterior cruciate ligament injuries in trauma patients. Arthroscopy. 1993;9:291-294.
3. Harner CD, Hoher J. Evaluation and treatment of posterior cruciate ligament injuries. Am J Sports Med. 1998;26:471-482.
4. Parolie JM, Bergfeld JA. Long-term result of nonoperative treatment of isolated posterior cruciate ligament injuries in athletes. Am J Sports Med. 1986;14:35-38.
5. Kopkow C, et al. Physical examination tests for the diagnosis of posterior cruciate ligament rupture: a systematic review. J Orthop Sports Phys Ther. 2013;43(11):804-813.
6. Khanda GE, et al. Assessment of menisci and ligamentous injuries of the knee on magnetic resonance imaging: correlation with arthroscopy. J Pak Med Assoc. 2008;58:537-540.
7. Lokannavar HS, et al. Arthroscopic and low-field MRI (0.25T) evaluation of meniscus and ligament of painful knee. J Clin Imaging Sci. 2012;2:24.
8. Vaz CE, et al. Accuracy of magnetic resonance in identifying traumatic intraarticular knee lesions. Clinics (São Paulo). 2005;60:445-450.

  by supersy | 2014-02-28 19:00 | Athletic Training

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