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High Ankle Sprainの診断を考察する。

春学期が始まりました!
これがこの大学での最後の学期になるので特別な思いです。
教える授業も下肢の怪我評価の授業、私の大好きなやつ!
新たなエビデンスを取り入れようと文献をあれこれ読んでいる毎日です。

中でも足首捻挫の評価はこの学期前半の大きなトピックになります。
NATAのPosition Statementも出たから尚更しっかり学んでもらわないと!
足首の捻挫に関してはこのブログでも何度も書いていますが、
(足首のテーピングvsサポーター足首の捻挫vs骨折足首捻挫の治療、etc)
今回はHigh Ankle Sprainの診断について少しまとめたいと思います。
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足首の捻挫には幾つか種類があり、中でもSyndesmotic Ankle Sprainは最も重度な捻挫と考えられています。痛みがひどい、歩けない、回復が他と比べても遅い…。NATAのPosition Statementでも"Syndesmotic Ankle Sprainは特にconservativeにアプローチするように"と書いてあるくらいですからね。

怪我の頻度として最も多いのがInversion Ankle Sprain(>90%-内反捻挫)、
次にEversion Ankle Sprain(~5%-外反捻挫)、そして最も起こりにくいのがHigh Ankle Sprain1 (1-3%)と一般的には言われていますが、研究によっては全体の24%という数字も出ていたりして、2
「本当の受傷率は私たちが思うよりもかなり高いのではないか」と唱える研究者もいます。3

もしこれが本当だとしたら、私たちに"High Ankle Sprainをしっかりと診断する能力"がまだまだしっかりと備わっていない可能性は大いに在ります。High Ankle SprainとEversion Ankle Sprainのメカニズムは時に非常に似通っており、High Ankle SprainをEversionと誤診しているケースも実は多いのかも知れません。前述の通り、High Ankle Sprainは回復になかなか時間のかかる怪我。早期に正しい診断を下し、早いうちから適切な処置を始めること(i.e. 内反・外反の程度の捻挫の場合は早期に体重かけてリハビリを始める vs High Ankle Sprainの場合は早期に固定・免荷)が少しでも迅速で効果的な競技復帰を促進することに繋がるはずです。
それでは、私たちは第一線のクリニシャンとして、何を知っておくべきなのか?
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Sman氏らのSystematic Review4(↑)によれば、
どのスペシャルテストも診断における価値は驚くほど低い、ということ。
SensitivityもSpecificityも総じて50%ほど。これじゃーrule inもoutも出来そうにありません。
「これだけを単独で使えば万能、と言うテストは存在しない」というのがこの研究の結論でした。
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そしてもうひとつ。見ての通り、この表はたったふたつの研究に基づいたもの。
元々Systematic Review開始時のinitial searchでは5000近い研究がヒットしたものの、
それぞれを深く見ていって質の低いものを省いていくと、最終的に残ったのはこの二つのみ。
この二つだって、Beumer et al5はarthroscopyを診断基準にしているのに大して、
もう一方のNussbaum et al6はX-rayと、かなりブレがあります。
うーむ、研究数が圧倒的に足りない、統一性にも欠けている、というのが現状ですね。


単独で診断に有効なパワフルなテストが存在しないなら、どうするか?
Clinical Prediction RuleやCluster of Testsを用いるしかない!
…というのがここ10年ほどの医療診断界の大きなトレンドです。
そんなわけで、この(少しばかりdisappointingな)Systematic Reviewの結果を受けて、Sman氏らはすぐに次の研究に乗り出すことになります。何かClinical Prediction Ruleの手がかりになるようなスペシャルテストの組み合わせや特定の症状は無いのか?87人の患者を対象に研究し、つい数ヶ月前に発表されたのがこちら(↓)。11
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Systematic Reviewで浮き彫りになった課題を克服すべく、この研究ではMRIがReference Standardとして使われています(Arthroscopy同様のsensitivity/specificityがあることが証明済み7-10)。

結論を先に言ってしまうと、結果はこんな感じ(↓)。
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1. Cox regression modelを用いた分析によれば Dorsiflexion with External Rotation (DF + ER) Test が陽性、もしくはsyndesmosis ligamentの触診による圧通がそれぞれ単独で見られる場合、High Ankle Sprainである可能性が4倍に上がるということが判明。
(+) DF + ER test and syndesmosis ligament tenderness were significant individual predictor (4X more likely).
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このとき強調しておきたいのが足首の角度
先のBeumer氏らの研究によれば、External Rotation Testの評価価値は非常に低いものでした。…が、それがどうしてこの研究では高い数値が出たのか?この疑問を解く鍵は、足首の角度にあります。
上の写真を見比べてみて下さい。所謂External Rotation Testと呼ばれるものは、「患者がテーブルに座り、膝を直角に曲げた状態で、足首をリラックスさせた状態からexternal rotationのストレスをかける」というものであるのに対して、Dorsiflexion with External Rotation Testは「足首を最大にDFさせた上でのExternal Rotation」という決定的な違いがあります(あとは、単純にBeumer氏の研究と今回のSman氏の研究では被験者の数が違うのももちろんあるんですけども)。Sman氏は、DFをするとDistal tibfib jointが広がるというArthrokinematics、更に怪我のメカニズムそのものでもあるという多くの研究者の説を上げ、「External Rotation Testをする際にはDorsiflexionの重要性は強調されるべき」としています。

2. 上のチャートを総合的に見ると、
Sensitive:
 ● 片足でのホップができない
 ● 歩行ができない
 ● 怪我のメカニズムがDorsiflexion + External Rotation (写真→)
 ● Syndesmosis ligamentの圧通がある
 ● DF + ER Testが陽性
もしこれらの症状が確認できなければ、rule outすることができる。

つまり、ホップができたり、歩けたり、圧痛がなければHigh Ankle Sprainではないかなー、
と考えられるわけです。

Specific:
 ● とにかく痛い、めちゃくちゃ痛い(Pain out of proportion)
 ● 受傷時に痛みが(足首だけでなく)脛や膝まで走った
 ● Squeeze Testが陽性
もしこれらの症状が確認できればrule inすることができる。
最終診断を下すために、MRIの画像診断が適切かと思われます。

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(ちなみに、Squeeze Testはmid-calfを両手で圧迫し、
足首周りの痛みが出るかを見るというテスト。骨折の判別にも使われますが、high ankle sprainの診断に用いられる場合はmid-calfということだけ強調しておきます)

授業でここまで掘り下げて話せるかは分かりませんが、
External Rotation TestはMaximal DFをするだけでかなり診断価値が上がるかも知れない、ということはしっかり強調したいと思います。こういう小さなコツを知っておくか知らないかでは大違い!学生にはDetail-orientedなクリニシャンになってもらわにゃ。

…しかし、つらつらと考えていたんですけど、
整形外科における診断医学界は、「これ!というスペシャルテストひとつよりも幾つかの鍵となるテストや症状を集めて効果的なcluster and/or clinical prediction rulesを」という風にかなりのスピードで動いているなぁと感じます。だからですね、将来的にはコンピューターによる巨大な怪我診断自動システムができると思うんですよね。このテストが陽性、これは陰性、こういうユニークな症状がある、と項目を埋めていくと、「この怪我の可能性がXX%、次に高いのはこの怪我でXX%」…と、自動的に集められた統計を使って自動予測が出る、みたいな。そうなったら私たちの知識はさほど重要でなくなってしまうのかも知れませんね…あと何十年かかるかわかりませんが。
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ちなみに、完全なるおまけ。
木曜日の試合の写真。この腕のテーピング、かっこいいでしょ。…それだけ!
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1. Hopkinson WJ, St Pierre P, Ryan JB, et al. Syndesmosis sprains of the ankle. Foot Ankle Int. 1990;10:325-330.
2. Hunt KJ, George E, Harris AH, et al. Epidemiology of syndesmosis injuries in intercollegiate football: incidence and risk factors from National Collegiate Athletic Association injury surveillance system data from 2004-2005 to 2008-2009. Clin J Sports Med. 2013;23:278-282.
3. Gerber JP, Williams GN, Scoville CR, et al. Persistent disability associated with ankle sprains: a prospective examination of an athletic population. Foot Ankle Int. 1998;19:653-660.
4. Sman AD, Hiller CE, Refshauge KM. Diagnostic accuracy of clinical tests for diagnosis of ankle syndesmosis injury: a systematic review. Br J Sports Med. 2013;47:620-628.
5. Beumer A, Swierstra BA, Mulder PGH. Clinical diagnosis of syndesmostic ankle instability: evaluation of stress test behind the curtains. Acta Orthop Scand. 2002;73:667-669.
6. Nussbaum ED, Hosea TM, Sieler SD, et al. Prospective evaluation of syndesmotic ankle sprains without diastasis. Am J Sports Med. 2001;29:31-35.
7. Takao M, Ochi M, Oae K, et al. Arthroscopic diagnosis of tibiofibular syndesmosis disruption. Arthroscopy. 2001;17:836-843.
8. Vogl TJ, Hochmuth K, Diebold T, et al. Magnetic resomance imaging in the diagnosis of acute injured distal tibiofibular syndesmosis. Invest Radiol. 1997;32:401-409.
9. Oae K, Takao M, Naito K, et al. Injury of the tibiofibular syndesmosis: value of MR imaging for diagnosis. Radiology. 2003;227:155-161.
10. Han SH, Lee JW, Kim S, et al. Chronic tibiofibular syndesmosis injury: the diagnostic efficiency of magnetic resonance imaging and comparative analysis of operative treatment. Foot Ankle Int. 2007;28:336-342.
11. Sman AD, Hiller CE, Rae K, et al. Diagnostic accuracy of clinical tests for ankle syndesmosis injury. Br J Sports Med. 2013;0:1-7.

  by supersy | 2014-01-27 16:00 | Athletic Training

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