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和式に戻れ!―Nature is calling? 現代のおトイレ事情を考察する。

そういえば今更なんですが。
このブログ、最初に立ち上げたのは私がUndergradの学生だった頃。勉強用ノートくらいの感覚で始め、「一般に公開しないで自分のためだけに細々とやっていこう」なんて浅く考えていたんですが(誰もこんなの読まないだろうと思ったし)、あれからもう、8年くらいですかね。長期更新できなくなる時期はあってもなんだかんだでずっと続けてきていて、訪問者もお陰様で今ではかなりの数に。皆さんモノズキですね お付き合いありがとうございます。

何でこんなことを書くかと言うと、ブログを通じて素敵な出会いも数多くあったし、
初対面の人に「ブログ読んでます!」と言われることも多いです。
ここ最近で、メッセージや対面で「新しいことを知る良い機会になっている」「プリントアウトしてまとめている」「周りの人も皆読んでいて共通の話題になる」「こんなことを考えるきっかけをもらった」「辛い時に読んで、自分を励ましている」なんて言ってもらえることが多くありました。好きなことを好きなときに書く、というワガママなスタイルはこれからも変わらないかと思いますが、それを皆様が自由に色々と活用してもらえているならば幸いの極みです。どこかで発表されるならば事前にお知らせ頂けると嬉しいのですが、個人で使われる範囲なら煮たり焼いたりお好きに使って下さいね。

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さて、本題に移ります。
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ある勉強をしていたらこんな本に行き着きまして。今日はこの本の話をちょっとしようかなと思います。そんなに汚い話でもないのですが、お食事中の方はご注意下さいね。

Colon Cancer, Bladder Incontinence, Colitis, Crohn’s Disease, Diverticulosis, Hiatus Hernia, Prostate Disorders…皆さんはこういった病気の症例が先進国では発展途上国と比べて数十倍に登ることをご存知でしたか?
今ではもはや知らない人はいない、Appendicitis (虫垂炎)を例に挙げて考えてみましょう。驚くべきことに、19世紀半ばまでこの病気はほとんどその存在を知られることがありませんでした。そもそも『虫垂炎』という病名も、1886年にハーバード教授のDr. Fitzによって付けられるまで存在しなかったくらいです。現在でも発展途上国での報告件数は極僅か…にも関わらず、アメリカでは毎年250,000件の虫垂炎が起こり、これが原因で年間一億日間のhospital stayが起こっていると言います。この突発的な発展途上国のみに限る数字の上昇の理由を、私たちはどのように考えればいいのでしょう?
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現代社会の食生活の変化のせいだ、と提言する研究者は多いようです。中でも、イギリスの医師・Dr. Burkittの「High fiber diet(食物繊維を多く含む食事)を取らなくなったのが原因だ」という説は非常に有名になり、これが元で先進国で食物繊維を多く含むサプリメントなどがこぞって売られるようになりました。しかし、よく考えても見て下さい。発展途上国の食生活は国によって様々。マサイ族のようにほぼ肉しか食べない人種もいれば、インドのHindusのように草食の種族もいるし、魚が主食のところも、虫を食べるところも。実際、「高食物繊維の食事が胃・小腸・大腸の病気を防ぐ」というステイトメントは、研究によってイマイチ証明できていないどころか、特定のサプリメントを摂取すると反ってポリープが出来る可能性が上がる、という結果まで出ていたりします。このようにエビデンスの欠如から、この説は徐々に世間から消えつつあります。
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「先進国の生活は清潔すぎて適切な免疫力がついていないのだ」と論ずる人もいますが、これもイマイチ説得力に欠けます。つまり、発展途上国の衛生レベルが低く『汚い』環境で生活している。そのために体内で抗体が多く作られ、免疫力が強い。先進国では逆の現象が起こる、というものですが…偏見が入っているようにも思えますし、仮にそうだとしても、雑菌やばい菌が多く外界から入ってくるというならば、必然的に病気も多くなると考えたほうが自然なのでは?この本の著者のIsbit氏は「多くの学者は外見の衛生に囚われ過ぎだ」と批判しています。そして、「大事なのはInternal cleanliness (体内の衛生環境)なのだ」と断言しています。

では、本当の原因は何なのか?
ここで、あまり知られていないDr. Burkittの2つ目の説を紹介しましょう。
1979年に出版された彼の国際的ベストセラー本、『Don't Forget Fibre in Your Diet』の中で、彼は実はこうも述べているのです。「(大腸がんの劇的に少い)アフリカではしゃがむタイプのトイレを使用しているのに大して、(大腸がんが15倍多い)西洋では座るタイプのトイレが一般的」「もしかしたらこの違いも食物繊維同等に大腸がん発症に影響を与える要素なのかも知れない

そうなんです。
鍵は、トイレの造りにあるというのです。
この主張はこの本の著者であるIsbit氏のものと完全にidenticalで、
彼の一番の世間へのメッセージは、「洋式トイレを捨てろ!和式トイレに戻ろう!
…と、一見突拍子もなく見えるものなのです。

突然そんなことを言われてもほとんどの人が納得出来ませんよね。
ちょっと説明しますね。

和式トイレのメリットを理解するには、少し消化器官のしくみを知る必要があります。
まずは、下の大腸の絵をよく見て下さい。
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先ず理解すべきは食べ物の流れ方。小腸を通過した食べ物はIleocecal Valve (以下IC valve)を通じて大腸に送られ、その先頭部分であるCecumへやってきます。そこにぴょろりと尺取り虫のように繋がっているのがAppendix (虫垂: 我々人間にとってこの部位の消化的機能はほとんど無く、免疫のための組織と考えられるのが一般的。虫垂に食べ物が入ると袋小路の為に流れが滞ってしまい、炎症を起こし虫垂炎になる、という流れが非常にcommon)。Cecumから食べ物はAscending Colon, Transverse Colon, Descending Colonを通じて時計回りに身体を巡り、Sigmoid Colonを通過してRectum (直腸)へたどり着き、肛門から排出されます。ここまではいいですよね。
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では、「しゃがむ」とこれらの消化器官、そして体内を移動している食べ物たちにはどんな変化が起こるのか?これも消化の順番で考えてみましょう。
別に排泄を試みなくってもいいのです。とりあえず「しゃがむ」という行為をするだけです。
(体感してみたかったら、実際に皆さんもちょっとしゃがんでみてくださいね)

1. 右太腿が右腹部を圧迫。
 圧迫によってIC Valveは完全に閉められ、更にCecumがこの圧迫によって潰れる
 形になるため、自然とAscending Colonを通って食べ物が上に押し上げられる。

 右腿の圧迫がなければこの「重力に逆らう」食べ物の上方移動はかなり労力の要る仕事。
 しゃがんでいるお陰でeffortlessに行われる、という大きなメリットがあります。

 *しゃがまないで「力んで」排泄しようとするとどうなるか?
 力むという行為はValsalva Maneuver(↓)と呼ばれ、排泄時や出産時、また、重いものを
 持ち上げるときなどに私達が使う、いや、乱用しすぎる傾向にあるテクニックです。
 人間以外の動物は使わないと言われるこの方法、腹圧を一気に上げ
 下腹部からモノを押し出したり(i.e. 出産や排泄物)、腰椎部の安定性を創りだすのに
 一役買っています。…しかし、こうして「力んで」腹圧が通常の3倍以上に膨れ上がると、
 閉まっていたはずのIC Valveがこじ開けられ、食べ物(…というかこの段階ではもはや便)が
 小腸に逆流する(→小腸炎・癌)、もしくは虫垂に便が押し入れられる(→虫垂炎)等の
 弊害が考えられます。大腸の壁にも同様の圧がかかるので、大腸ヘルニアを起こしたり、
 Hemorrhoids(痔)の原因になることも。
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2. 左太腿がSigmoid Colonを持ち上げねじれを解き、圧迫。
 もう一度大腸の図を良く見て下さい。Sigmoid ColonからRectumになる部分、
 よく見ると一度沈み込んでから上がり、少し捻れながらまた下降してRectumになるのに
 お気づきですか?ここの構造、だいぶぐにょぐにょと曲がっていてそのままでは便が
 スムーズに通って行くには少し無理があるんです。少しばかり外界の助けが要ります。
 ここで「しゃがむ」ことで、左腿がSigmoidの部分を持ち上げてくれるので、
 「一度下がってからまた少し上昇、そして下降」というアップダウンを移動する手間が
 省けます。更に、直腸とつながる軽い「ねじれ」部分も解けて広がることで、
 便がより移動しやすい環境を作ることになります。
この状態で更に左腿がSigmoid Colonを
 圧迫するからこそ、便が直腸→肛門へと自然に移動し、
 「力み」を必要としないスムーズな排泄が可能になるのです。

 *ここを座ったまま「力んで」強行突破すると?
 そもそも便の通り道が十分確保し切れていないので、大腸がねじれて細くなる箇所、
 もしくは下がったり上がったりを繰り返す辺りで流れが滞り便づまりを起こし、
 便が必要以上に腸に留まることになります。…ん、それの何が悪いのかって?
 ご存知でしたか?蚊が一度針を生き物に刺したらそれを抜かない限り
 血を吸うのを止められないように、便が大腸に留まる限り、大腸はその便から
 水分を抜き取ろうとするのです。水分を吸い取られた便は、
 大腸にいるのが長ければ長いほど、どんどん硬くなりセメント状になり、
 大腸の壁にこびりつき始めます
。こうすると便秘炎症(i.e. Colitis, Crohn's Disease)
 起こしたり、更には病変した組織が癌細胞を生み出したりするかも…(i.e. Colon cancer)
 という想像は容易に尽きますよね。
 更に、「力む」という行為はまた、横隔膜をabuseすることでもあります。
 Valsalvaは『気道を閉じた上で息を吐く』わけですから、横隔膜を力強く収縮させることで
 腹部を押し下げ、腹圧を高めていることになります。両腿が色々なものを
 「押し上げ」るのが理想なのに、横隔膜は「押し下げ」でしまっている。
 それが物理学的に不自然で無駄のある原理であることに加えて、
 横隔膜はそれほどのストレスに日常的に耐えられるほど、強くできていないのです。
 慢性的な「力み」が原因で横隔膜がそのものが部分断裂を起こしたり、
 横隔膜の一部が脆くなり胸部へHerniaを起こす(i.e. Hiatus Hernia)という症例も
 確認されています。

3. 「しゃがむ」姿勢がPuborectalis muscleという筋肉をリラックスさせる。
 Puborectalis(恥骨直腸筋)は文字通り恥骨から直腸へと伸びている筋肉で、
 直腸をループ状に引っ掛け、紐でキュっと閉めるような機能を果たしています。
 不意の便漏れを防ぐためのブレーキの役目を果たす筋肉と言っても良いでしょう。
 このブレーキは、座っている姿勢では「ON」になり、しゃがむことで「OFF」になります。
 しゃがむ姿勢で筋肉が緩み、直腸が肛門へと繋がる経路が開く(↓下図参照)ことで
 便がよりスムーズに出るようになるわけです。
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4. 両太腿による「押し上げ」がPudendal nerve(陰部神経)を守る。
 *間違ったメカニズムである「押し下げ」による神経への影響
 「力む」たびに生まれる一時的、しかし猛烈な腹圧。これはPelvic floorにも伝わり、
 Pelvic organsも徐々に影響を受けてきます。中でもその底部に位置するPudendal nerve
 も、このchronic strainにより徐々に伸ばされ、損傷を起こして脳との伝達を断たれる
 ことになります(神経はご存知のようにelasticではありません、12%引き伸ばされれば
 損傷を起こします)。問題は、この神経がbladder, prostate, uterusらを
 支配しているということ。この神経が損傷を起こすということは、これらの臓器が脳との
 コミュニケーションを失うということと同意義です。
 Bladderがコントロールを失えばBladder incontinence(尿失禁)に、
 Prostate/Uterusがコントロールを失えばホルモンバランスが狂いEndometriosis等の
 Gynecological disorderやProstate disorder(i.e. enlargement, cancer etc)に
 つながってきます。

 *その効果は心臓にも?Valsalvaのさらなる弊害
 Valsalva maneuverをすると胸部から腹部にかけて圧力が生まれるのですから、
 この圧力は血流にも影響を及ぼします。静脈にこれらの圧力がかかると、
 それらは一気に圧迫され、血液が押されて心臓へと勢い良く押し寄せます。
 このIncreased vemous return to the heartが心臓をoverwhelmし、
 syncope(失神)やheart attack(心臓発作)を起こすことはよくあるそうです。
 イスラエル人の医師Dr. Sikirovが発表した"cardio-vascular evens at defecation:
 are they unavoidable?"という論文の中には、"Probably every ER physician has
 encountered tragic cases of sudden death in the lavatory"という記述があるくらい、
 医師の間ではよく知られた現象だそうです。これも近代トイレの弊害だったとは!

つまり、まとめると、
「しゃがむ(squatting)」という行動をすることで、IC Valveが締り、捻れが解け、便の通り道が最大限に確保される。さらに両腿が腹部に押し付けられ、圧迫を生むことで、Valsalvaをせずとも便が自然に押し出され、身体に最小限のストレスをかけながら排泄ができる。

逆に、座った状態での洋式トイレでは、上記のような理想的な通り道が確立されないまま、Valsalvaによる胸・腹圧の異常な上昇を使って排泄を行わざるを得ない。結果、小腸、大腸を始めとし、横隔膜から生殖器官・心臓までに多大な負担がかかり、病気や病変の原因になりやすい
…ということになります。
日常的ValsalvaはまさにErgonomic nightmareと表現できるでしょう。

患者の使用するトイレを洋式から和式に変えただけで、これらの病気の症状が大幅に改善されたり、完治したりというケースも多いらしく、この著書でも色々と紹介されています。

実際、ヨガなどでは、「This is the most natural and healthy way to perform our bodily functions」と教えられることも多いようです。その証拠に、アジアやアフリカ諸国では洗濯、食事、新聞を読んだり将棋をしたりという日常の行動の多くをこのポジションで行います。
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ん?そんなことを言われてもうちのトイレは洋式だよ!簡単に変えられないよ!って?
私はこの本の著者の回し者でもなんでもないのですが、
面白いので彼が開発した商品もついでにご紹介しておきます。
その名も、Nature's Platform。これは、洋式トイレをたちまち和式トイレに変えてしまう、取付式の足場。しかも、必要があれば折りたたみ、収納も可能というスグレモノ。5°の前傾がついているので、ふくらはぎが硬い人もかかとを浮かさずにfully squatできるという設計がなされています。
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これは私は購入していませんが(苦笑)、非常にシンプルなコンセプトながら、ちょっと自分の日常生活を考えさせられる本でしたね。この著者は医学の専門家ではないのですが、たどたどしいながらもかなりの数のEvidenceを引用しながらこの本を書いているようで、本を読んで頂ければもう少しmake senseするかも知れません。$10を払う価値は十二分にあると思います。ま、本を買わなくても全く同じ物が彼のウェブサイトで読めるんですけども。

  by supersy | 2013-07-07 22:00 | Athletic Training

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