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顎の話をしよう:Having A Dentist in the Sports Medicine Team

昔から歯にはあまり興味がなかったんですよね…。
歯並びは悪いほうじゃないんですけど、小さい頃から虫歯をひっきりなしにしていたので、自分にとって「自信の無い」部位だったのかも。できれば目を瞑りたい、知らないフリしたい、関わらないようにしていきたい、だからあんまり勉強もしない、みたいな(苦笑)
医療従事者としても、歯医者という確立されたカテゴリーがあるんだから、
自分の患者に歯科の問題があれば専門家にreferすればいいんでしょ、くらいに思っていたし。
実際、そうしてきたし。
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でも、きっかけは、なんだったか。
某マウスピース会社の「噛み合わせが良くなるとパフォーマンスも向上」みたいな
謳い文句を聞いて、関連文献を幾つか読んだ頃ぐらいからでしょうか。
少しずつ、歯そのものというよりは「噛み合わせと身体の関係」に少し興味が出てきて、
そのあと、TMJの解剖学を詳しくやって、その複雑さの虜になったりして…。
趣味でたまに勉強するsubjectくらいになっていたのです。

しかし近年、
いくつもの要因が重なり、TMJとそれに付随する歯・口腔・頭蓋骨はもっともっと注目していくべきなのでは、Orthopedic evaluationで触れられるべきものかのかな、と思いはじめています。
我ながら、横隔膜の評価するだけでも十分マニアックだったのに、
ここまでくるともう変人の域かも知れないという自覚はありますが(苦笑)。

とりあえず、最近まとめた文献を読んだりもしたので自己整理も兼ねて、
ベーシックなことだけなるべくシンプルにまとめていきたいと思います。
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●リラックスしているときの、クチ。
あなたが(喋ったり、モノを食べたりしているのではなく)リラックスをしている状態のとき、
以下のことがクチの中で起こっているべき、と一般的に考えられています。
 1. Lips closed (唇はそっと閉じている)
 2. Teeth slightly open (歯の上部と下部は触れておらず、軽く隙間が空いている)
 3. Tongue touching the roof of the mouth (舌は口腔内上部に柔らかく平らに押し付けられている)
え、クチを閉じている時、歯は開いているもんなの?触れてないの?
と思われる方も多いかも知れませんが、そうなんです。開いているべきものなんです。
ヒトが普通に生活していて、喋ったり咀嚼をしたりして歯が触れ合う時間は
一日20分にも満たないと言われています。
(実は私、初めてこれを聞いたとき3がピンとこなかったのですが…これは後に説明します)

●歯が触れ合っていては、ダメ!
…ということは、睡眠中の歯軋りはもちろんん、無意識に昼間でも歯を食いしばっていたり、引いては歯が軽く触れ合っているだけでもいかん!ということになります。
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Nocturnal Clenching/GrindingやDiurnal Clenchingでなく、Daily Light Touching of Upper & Lower Teethでも十分悪影響を及ぼすのだ、としっかりと最初に定説として唱えたのは日本の歯科医師たちです(↑)。1彼らはこれをTeeth Contacting Habit (TCH=歯牙接触癖)と名づけ、非常に軽いcontactでもmasseterやtemporalis、SCMの緊張を高めるには十分、故に、TMJにかかるストレスが上がると説明。更に、「患者のほとんどは無意識でこれをやっており、自覚が無い」ともこの論文で述べています。

以前NHKのためしてガッテン!でもこのTCHは紹介されていて
(たまたま母が録画し送ってくれたDVDの中にあったので偶然にも私も見ることができたのですが)
それによれば、自分がTCH患者かどうか確認するためには必要なのは手鏡ひとつ。
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1. 口腔内、頬の内部に歯の噛み合せに当たる部分に白い線が出来ている。(↑写真右)
2. 舌には不自然にカクカクとした波型の“歯に押し付けられていた跡”がある。(↓写真左&右)
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これらがあれば晴れてあなたも立派な無自覚・TCH持ち!
ちなみに、私もばっちり両方ありました。だから、「リラックス時の三原則」の
「3. 舌が口腔上部に触れている」感覚が私には分からなかったんです。
私の舌は絶えず歯の裏側、前方に押し付けられていたわけで、それが私にとってもはや
「アタリマエ」になってしまっていたわけですから。

●噛み合わせやTCHが原因で起こる弊害
こうした「軽く触れている状態の歯」は、様々な問題を引き起こしかねません。
恐らく最も代表的なのはChronic TMJ Dysfunction (慢性顎関節機能不全症候群)。常に顎・顔・頭が緊張状態にあり、慢性頭痛、理由の無い「イライラ」感を生む原因にもなります。2

SCM等が常にactivateされた状態になると、
1) Forward neck postureが促進され、c-spineのカーブが無くなり平らになる。
2) 呼吸時にも首の筋肉がメインに働き、胸が上下するThoracic/Clavicular breathingが起こる。
 (Thoracic/Clavicular breathing elevates the lower ribs → diaphragm flattens and thus inhibited)
…であるから、横隔膜が上手く使えなくなり呼吸にまで影響が出る3ことになります。
喘息持ちの子供全員にTMJ dysfunction&Neck ROM restriction/painが確認された、
という研究もありますし、呼吸と顎・噛み合わせは大いに関係があるのです。4

歯を食い縛るだけで体重もシフトする、5という研究があることも考えれば、
噛み合わせに問題があれば姿勢も悪くなる、という結果が出るのにも納得がいきます。6
顔の歪みがPelvic Anterior tiltを促進し、更にはPronated footにもつながる、7
なんて発表もあるのだから面白いですね。
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ん、顎が足に影響ってどういうこと、って?
例えば、上のは古い研究ですが、噛み合わせを変えるだけで足の筋肉に緊張が生まれる、
ということがEMGで確認されたというものです。8
右顎に綿を噛ませ、敢えて噛み合わせのバランスを崩すと、
右(ipsilateral)のperoneus longusと左(contralateral)のgastrocnemiusにも緊張が起こるそうです。
左で噛むと、左のperoneus longusと右のgastrocnemius。
(面白いのが、tibialis anteriorには異常なactivityは全く見られなかったということ)
このことから、筆者は「long muscle chainというのが人体には存在する」と結論付けています。
顎をactivateすることで、遠方にあり一見関わりが無さそうに見えるその足の筋肉も、
chainでつながっているから連動するのだ、ということですね。

●なぜ?
なぜ噛み合わせや顎の状態ひとつでここまで弊害が広がってしまうのか?
これを説明できるかも知れない理由のひとつに、"[TCH] could result in persistent activation of the neurological system that could, in turn, produce the central nervous system changes seen in chronic pain patients."9という興味深いtheoryがあります。
咀嚼筋は主にCN V(Trigeminal Nerve)によって支配されていますが、
実際はそれだけではありません。噛む、ということが命を保つのに欠かせない、
重要で原始的なタスクだから、BrainstemもCerebellumもコントロールに関わっている。
加えて、CN VII、IX、X、XIIとも非常に近い関係にあります。
だって、モノを噛むときって、咀嚼筋を使って顎を動かすだけじゃなくて、
舌を使って食べ物を感じ動かし右に左にコントロールしたり、食道が食べ物を飲み込んだり、
全て連動しているでしょ?それに付随して、呼吸のパターンを必要に応じて変化させたり、
咳き込んだり、吐いたり、えづいたり…なんてことも食事中に起こりえる。
(食事中じゃなくても、下顎を動かせば舌も自然と動くことが実感できるはず)
つまるところ、TMが動いたり刺激されたりすることで連動するモノたちも反応を起こすから、水面に落とした小石のように、顔全体から首、肩、胸にかけてまで反応が広がる。CN X(Vagus)なんかは横隔膜までInnervateしているわけだから、文字通り上半身を丸々影響することになります。
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Yin et al10は、この理由から、"TMJはNeurological window and leverとして考えられるべき"というユニークなanalogyを展開しています。分かりやすくいえば、TMJを的確に作用させればそれを起爆剤にその他のシステムもぐっと有効に使えるようになるし、TMJが間違って使われたりノイズが混ざったりしたら、身体の他の部位にも悪影響が出る、みたいなことです。彼ら(彼女ら?)は最後に"If the window gets dirty, it might be appropriate to cleanse the window. But if the window and the object over the window gets dirty, it would be best to clean both of them"と締め、TMJを様々なアプローチを使って治療することのメリットを強調しています。
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そんなわけで最近は、ヒトの顔を見るときに無意識にその歪み(↑)、
引いては全身への影響をついつい考えてしまうようになっています。
もしお会いしたらジッ…と顔を見つめてしまうかも知れませんがお許しを。

●Sports Medicineに応用する
あれこれ考えていく中で、整形外科疾患へのHolistic approachにおける
優秀なPedorthist(これは言わずもがなですが)とDentistの役割の重要性を再確認してます。将来腰を据えて働く時には、こういった視点から人体を診ている歯科医さんと一緒に仕事をしたい…!
…というのも、どうしても治療面で私らには出来ないことがあるからで。
噛み合わせや顔の歪みには、ALF applianceやFlat splint (↓)のような道具が必要不可欠な場合が絶対に出てくると思うからです。それに、彼らから学ぶことはとってもとっても多い気がする!これからスポーツの現場でも、ATとDentistとの関係はもっともっと強くなっていくのではないでしょうか?優秀なチームには優秀な歯科医アリ!みたいな。
なんだかわくわくしますね(私だけ?)。
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さて、今回まとめたことは、分かる方からは「歪みが来ているのはascendingかdescendingが起源か分からないじゃないか」とか「肋骨飛ばして説明すんじゃねー」とか言われそうですが、
まだこの分野は私も勉強を始めたばかりで、今回のは走り書きのようなものなので不完全なのは
お許しを。まだまだ読むべき文献が転がっておりますし、解剖ももうちょっと勉強しなくては。

逆に「こんなの絶対ウソ!」と思っていただけてもいいです、
…というか、そういう方大好きです。Evidence-Basedの根本は"Be open-minded and skeptical"。怪しいと思ったらぜひご自分で納得の行くまで調べてみてください。
そして、是非の判断を自分ですればいい。
押し売りはしませぬ。そうして皆、自分らしさを確立していくのだと思います。
*でも面白いArticle見つけたら是非是非教えてくださいね!

1. Sato F, Kino K, Sugisaki M, et al. Teeth contacting habit as a contributing factor to chronic pain in patients with temporomandibular disorers. J Med Dent Sci. 2006;53:103-109.
2. Glaros AG, Urban D, Locke J. Headache and temporomandibular disorders: evidence for diagnostic and behavioral overlap. Cephalalgia. 2007;27:542-549.
3. Correa ECR, Berzin F. Temporomandibular disorder and dysfunctional breathing. Braz J Oral Sci. 2004;3(10):498-502.
4. Chaves TC, Grossi DB, de Oliveira AS, et al. Correlation between signs of temporomandibular (TMD) and cervical spine (CSD) disorders in asthmatic children. J Clin Pediatr Dent. 2005;29(4):287-92.
5. Yoshino G, Higashi K, Nakamura T. Changes in weight distribution at the feet due to occlusal supporting zone loss during clenching. Cranio. 2003;21(4):271-278.
6. Nicolakis P, Nicolakis M, Piehslinger E, et al. Relationship between craniomandibular disorders and poor posture. Cranio. 2000;18(2):106-112.
7. Rothbart BA. Vertical facial dimensions linked to abnormal foot motion. J Am Podiatr Med Assoc. 2008;98(3):1-8.
8. Valentino B, Melito F. Functional relationships between the muscles of mastification and the muscles of the leg. Surg Radiol Anat. 1991;13:33-37.
9. Glaros AG. Temporomandibular disorders and facial pain: a psychophysiological perspective. Appl Psychophysiol Biofeedback. 2008;33:161-171.
10. Yin CS, Lee YJ, Lee YJ. Neurological influences of the temporomandibular joint. J Bodyw Mov Ther. 2007;11:285-294.

  by supersy | 2013-05-23 15:30 | Athletic Training

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