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Spondylolisthesis(脊椎すべり症)と向き合う。

Spondylitis
Spondylosis
Spondylolysis
Spondylolisthesis
これ、全てspondy (= vertebra)に起こりうる異なる症状を指します。
初めて習ったときは冗談かと思ったものです。
これらのSpondy一家(Spondylopathy)はどれも名前が似たり寄ったりで、
スペルも発音も複雑だし、学生の頃はテスト前に泣きそうになって覚えたっけ。

一応簡単にそれぞれを定義しておくと、
Spondylitis = inflammation of the vertebra
Spondylosis = degeneration of the vertebra
Spondylolysis = defect (stress fx) of the vertebra in pars interarticularis
Spondylolisthesis = anterior slippage of the vertebra due to bilateral spondylolysis
という感じでしょうか。
最も深刻であるSpondylolisthesis(スポンディローリスシーシス、と読みます)は、
日本語では脊椎すべり症と呼ばれているそうで。
Spondylolisthesis(脊椎すべり症)と向き合う。_b0112009_8132113.jpg
Spondylolisthesisにも幾つかの分類があるのですが、最もアスリート間で多いのはisthmic spondylolisthesis。私自身も高校で働いていた時に目にした経験があります。

さて、このIsthmic Spondylolisthesis。
Young Athletes(成人前の若い選手)のPersistent LBPの原因第一位であると言われています。
ただ、同時に、かなりの割合がasymptomatic (無症状)であるという統計もあり、
診断が非常に難しいというやっかいな怪我でもあります。

今のところ、研究によれば絶対的Diagnostic Gold StandardはBone scintigraphy with single photon emission computed tomography (SPECT)であり、その適切な診断力はMRIをも上回ります。
(MRIのsensitivityはSPECTのそれと比べて80%と低く、false negativeが有り得ることに。
Masci et al1の研究でも50件の脊椎すべり症患者のうち中10件を見逃すという結果が出ています)
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しかし、この方法には1) 画像撮影前に放射性指示剤を静脈注射で注入しなければならない、そして、2) その身体を電離放射線にさらさなければならない、という二つの大きなマイナス面があり、全ての患者にこれをする前に、適切なスクリーニングを実施して、画像が本当に必要な患者のみに絞れれば、という現場の切実な願いがあります。
さて、それではクリニシャンは画像診断の必要性の有無を決めるために、
一体どういった診断方法が可能なのでしょう?
Spondylolisthesis(脊椎すべり症)と向き合う。_b0112009_8521935.png
●Static Palpation of "Step Deformity"
単純に触診してみる、というのはどうでしょうか。
Bryk and Rosenkranz2 がSpondylolisthesisの患者のレントゲン写真には"Spinous process sign"という棘突起の階段状変形(↑上の写真に見られるような、脊椎が前方にすべった結果生まれる、階段の段差のような凸・凹みを意味する。一般的によくStep Deformityと呼ばれます)が見られる、と発表したことから、これを触診でdetectすることができるのでは、という考えが広まり、Spondylolisthesisの診断の一環として、「Spinous processを順番に触診していく」という方法が教えられるようになりました。

これが本当に信憑性のあるものなのかという研究を行ったのがCollaer et al3
3人の異なる理学療法士が30-44人の患者を対象に触診を行った結果、
Step Deformityの有無のみでSpondylolisthesisが診断できるか、という統計は以下の通り。
Spondylolisthesis(脊椎すべり症)と向き合う。_b0112009_943640.png
Inter-rater reliabilityは63-76%で、ぎりぎりfairくらい。その他の統計は…rule inには使えなくもない感じですが、sensitivityの低さが目立ちます。Collaer氏も考察には「触診は単独で診断材料に使われるべきではない…が、clinical prediction ruleが将来作られるのであれば、是非触診は含まれるべきだ」という結論を下しています。
Spondylolisthesis(脊椎すべり症)と向き合う。_b0112009_923338.png
●Special Testは…
SpondyのSpecial Testと言うと、私はこれ(↑)くらいしか知りません。
Single-Leg/One-Legged Hyperextension Test、またの名をStork Standing Test。
患者は片足で立ち、後ろに仰け反るように腰を過伸展する。これによって腰部に痛みが出るようであれば、陽性。Spondylolysis/Spondylolisthesisの可能性高し。
Starkey et al4によれば"Iliopsoasに引っ張られ、腰椎が前方に動くことでPars Interarticularisにshear forceがかかり、痛みが起こる"のだそう。

このテスト、非常に有名なのに研究している文献はひとつだけ見つけました。
探すのに苦労しました…見つけたときは一人小躍りしてしまった。
Masci et al1によれば、このスペシャルテストの統計は:
Spondylolisthesis(脊椎すべり症)と向き合う。_b0112009_9323439.png
意外にも、diagnostic valueは触診のそれよりもはるかに低いことが明らかに。
"This study suggests that the one-legged hyperextension test is a poor predictor of active spondylolysis and therefore does not assist doctors in detecting this condition"と、Masci氏自身も厳しい結論を出しています。

●Clinical Prediction Ruleの必要性
触診のみ、もしくはスペシャルテストひとつのみが効果的でないなら、
いくつかを組み合わせるよりありません。所謂、Clinical Prediction Ruleってやつです。
前々回紹介した、Wells Scoreみたいなもんですね。Ottawa Ankle Rulesとか。

なかなか面白かったのがKalpakcioglu et al5による記事。
SpondylolisthesisによるLBP患者と、non-spondylolisthesis LBP患者を別グループにわけ、
それぞれの症状の出方の違いを見てみよう、と調べた結果…
Spondylolisthesis(脊椎すべり症)と向き合う。_b0112009_957149.png
p-valueが<0.01の場合を"significant"とすると、キーとなるfindingは、
優秀なもの
- Weak and drooping abdominal wall (99% vs 60%)
- Sign of slipping (palpation) (88% vs 0%)
- Absence of pain with Lumbar flexion (痛みアリが19% vs 96.7%)
- Pain with Lumbar extension (79% vs 33.3%)
- flexionでは痛みがないがextensionではある、という限定の仕方をしたら面白いかも?
- Pain with double leg raising (87% vs 23.3%)
そこそこ優秀なもの
- Paravertebral muscle hypertrophy (65% vs 30%)
- Increased lumbar lordosis (58% vs 36.7%)
- Sign of slipping (inspection0 (21% vs 0%)
- Hamstring spasm (27% vs 3.3%)
- Lumbar lateral flexion (46% vs 16.7%)
ということになりそうです。例えば、この9項目のうち5つ当てはまったら、
みたいなルールを作ったら面白そうですね。

今回主に読んでみた文献と個人的な偏見を総まとめすると、
Spondylolisthesis(脊椎すべり症)と向き合う。_b0112009_10212683.png
1. 青年期のアスリートたちには、Spondylolysis/Spondylolithesisが非常に起こりやすい
2. よって、この年齢の患者が腰の痛みを訴えた場合の診断に、
 a. 触診によるStep Deformityの確認は行ったほうが良い(rule-inのため価値はアリ)
 b. One-legged hyperextension testは行わなくても同じかも
 c. 幾つかの症状を組み合わせたPrediction Ruleの製作が今後必要になってくる。
  その項目の候補としては:
  - 触診によるStep Deformityが確認できる
  - Lumbar lordosisが確認できる
  - Paraspinal muslceがhypertrophyだが、Abdominal wallにatrophyが見られる
  - Hamstring Spasmがある
  - Lumbar flexionでは痛みがないが、extensionで痛みがでる
     …のうち、3つが当てはまればとりあえずx-rayを(←数字は適当だけど)。
     そしてそれがpositive/inconclusiveならばSPECTをという流れはどうだろうか。
     もちろん新しいルールを作るとなれば更に研究が必要だけれども、
     とりあえずこういった項目が現在のevidenceによればパワフルかと。
3. 疑わしきは診断画像を。X-rayをまず撮るべし。
 SpondylolisthesisがYoung AthleteにおけるPersistent LBPの原因No.1ということを忘れずに。
 Gold StandardはBone Scintigarphy with SPECT。これは最終診断に。

…みたいな感じになるかなぁ、と思います。
多少、最後の仮想・Prediction Ruleの項目は私の偏見を含んでいますが。
もし、他にも面白い記事や使えるspecial testをご存知の方がいましたら、
是非教えてください!

1. Masci L, Pike J, Malara F, et al. Use of the one-legged hyperextension test and magnetic resonance imaging in the diagnosis of active spondylolysis. Br J Sports Med. 2006;40:940-6.
2. Bryk D, ROsenkranz W. True spondylolisthesis and pseudospondylolisthesis: the spine process sign. Can Assoc Radiol J. 1969;20:53-6.
3. Collaer JW, McKeough DM, Bossionnault WG. Lumbar isthmic spondylolisthesis detection with palpation: interrater reliability and concurrent criterion-related validity. J Man Manip Ther. 2006;14(1):22-9.
4. Starkey C, Brown SD, Ryan J. Examination of orthopardic and athletic injuries. 3rd ed. Philadelphia, PA: F.A Davis Company; 2010.
5. Kalpakcioglu B, Altinbilek T, Senel K. Determination of spondylolisthesis in low back pain by clinical evaluation. J Back Musc Rehabil. 2009;22:27-32.

  by supersy | 2013-02-06 19:30 | Athletic Training

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