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足首を捻ったら、治療すべきは本当に靱帯?―Distal Tibfib Joint Mobilizationsについて考える。

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足首の捻挫って、痛いですよね。
私も両足首数回捻挫したことがあり(5-6回ではすまないだろうなぁ)、
以前私の足首でAnterior drawerをして遊んだいた友人ケニーいわく、
「さゆりさん、こっちの靭帯完全に切れてますよ」な状態だとか。まいっちまいますね。

…で、足首の捻挫といえば、Fallet氏1の統計によれば、
最も損傷を起こしやすいのがATF ligament(前距腓靭帯) (83%)、続いてCF ligament (踵腓靭帯)
(67%)、そして最後にPTF ligament (後距腓靭帯) (34%)という順なんだそう。
私自身も、足首の捻挫を評価しているときは(骨折をrule outした後で)
真っ先にSinus tarsiを触診して圧痛があるか見ますからね。
Inversion Ankle Sprain = ATF損傷、というのはこの世界の常識中の常識です。

…しかしこの常識、本当の本当に真実なのでしょうか?

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足首を捻ったら、治療すべきは本当に靱帯?―Distal Tibfib Joint Mobilizationsについて考える。_b0112009_8561936.jpg有名な書『Manual Therapy(←)』を書いたBrian Mulligan氏2は「我々が思っているほど、forceful inversionによるligamentous damageは少ないのではないか」と述べています。彼の説によれば「異常なinversionの力が足首にかかった場合、distal fibulaが前方に強く押し出される格好になり、Positional Faultが起こる。ATFLそのものは損傷せずに残るが、前方に動いてしまったdistal fibulaはそのまま亜脱臼した状態で留まってしまい、痛みや可動域の制限を生む」のだそう。
下の写真(↓)は足首のレントゲンで、このMulligan氏の言うところのAnterior Positional Fault of the Distal Fibulaを目に見えるようdemonstrateしたもの。Distal fibulaがTibiaに比べてかなり前方(写真左)に配置されているのがはっきりと分かります。
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諸悪の根源は靱帯の損傷ではなく骨のdisplacement? にわかには信じがたい話ですし、今まで見てきた統計はどうなっちゃうんだ、って話ですが、もっとよく知ってみる価値はあります。もしかしたら、今までの所謂「伝統的な足首捻挫の治療」があまり大きな成功を収められていないのも(だって、足首の捻挫って一度治ってもクセになって何度も起こりやすいし、Chronic Ankle Instabilityになっちゃって慢性的痛みやfunctional limitationに繋がり易い。決してそれは治療が成功した例とは言えませんよね)、もしかしたら私たちが焦点の当てどころを間違っていたからかも知れません。本当に注目すべきは、Distal tibfib jointだったのか?

様々な研究を見てみると、「捻挫後の足首には確かにAnterior Positional Faultが存在した」と確認されているケースが少なからずあります。3-5 Fibulaが変な格好のまま戻れなくなってしまっていることにより、1) Altered joint arthrokinematics, 2) Chronic pain, 3) "Giving-way" episodes, 4) Limited dorsiflexion, 5) Overall decreased functions等が起こり得るわけです。
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(4)について、こんな初歩的なことは説明しなくてもいいのかなと思うのですが、Distal (or Inferior) Tibiofibular Jointはガチガチの繊維に囲まれたSyndesmosic jointではありますが、全く動かないわけではありません。Dorsiflex中にfibulaとtibiaが離れるように「spreading motion」と呼ばれるAccesory movementをするのが特徴であり、これが起こらなければMax. Dorsiflexionを達成できません。つまり、Distal fibulaが前方に押し出されstuckしてしまっている場合、この微々たる「spreading motion」が起こらないため、Dorsiflexを制限する原因と成り得る、というわけ。

さて、本当にこれらの問題がAnterior Positional Fault of the Distal Fibulaのせいで起こっているのだとしたら、これを手っ取り早く治療してしまうに越したことはありません。しかし、どうやって?骨が前方にズレているというのなら、シンプルに押し戻してみる、というのも一手です。手を使ってね。
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このコンセプトが、所謂Mulligan氏のMWM (Mobilizations with Movement) technique。簡単に言うと、Distal fibulaを後方へ押し戻し、Fibulaを正しいポジションに固定した状態で足首をpassiveにplantarflexion + inversionに10-30回ほど動かす(↑写真左)、というもの。さらに、この正しい状態をキープするために、治療後にはテーピング(↑写真右)を施します。私が読んだarticleの中には「このテープがfibulaを固定するほどの強い力があるとは思えないので、あくまでproprioceptive facilitationが目的であると思うのだが」という記述を見かけましたが、本当のところは不明…。残念ながら、このテクニックに関するstrong evidenceは見つけられなかったのですが、あなたのいつもの「捻挫後の(典型的な)治療法」に手軽に加えられる、手っ取り早い技術であることに間違いはありません。YouTubeでもなかなか実用性のあるビデオをいくつか見つけたのでここでシェアさせてもらいます。


“Mulligan Lateral Malleolus Posterior Glide for Ankle Sprains” (3.5 min)


“How to Get an Ankle Sprain Better Quickly” (3.5 min)


“Mulligan Taping Techniques: Inversion Ankle Sprain” (<2 min)


私も最近、3件ほど足首の捻挫の患者を診たのでこのテクニックを試してみたのですが、Fibulaを後方に押し戻してやるだけで面白いくらいに痛みなく足首を自由に動かせるようになるケースの多いこと!圧痛さえひどくなければ、acute, subacute, chronicのどのphaseにも使えるという実に便利なテクニックです。テーピングも、正直こんなのが効くのかなと半信半疑で試してみたのですが、「歩くのさえも痛い」と言っていた患者が、治療・テーピング後にはpain-freeで歩けるようになったのだからあっぱれ。テープの切れっ端をつけて一日歩くのイヤじゃない?と聞いてみたら(そういうお年頃の患者さんなので)、痛みがないんだから全然良い!んだそう。想像以上に効き目があるのでこっちがびっくりしています。

もちろんTalusのJoint Mobilizationが有効な場合も多いと思うし、Conservativeなiceにelevation、GameReadyなんかも症状に応じて併用されるべきだと思います。Evidenceのレベルも決して高くないし、このテクニックだけを推奨しようとしているわけではありません…が、あなたのTherapistとしての引き出しのひとつに入れておいても良いのでは?骨そのものalignmentを直し、通常のarthrokinematicをrestoreすることも非常に大事だし、Distal tibfibのJoint MobilizationsでSoleusのmotoneuron pool excitabilityが上がるという非常に面白い研究6もあったりします。意外と「骨を接ぐ」ことの相乗効果も多いのかも?次回足首の捻挫の患者が着たら、是非試してみて下さい。


1. Fallet L, et al. Sprained ankle syndrome: prevalence and analysis of 639 acute injuries. J Foot Ankle Surg 1998;37(4),280-5.
2. Mulligan BR. Manual therapy “NAGS”, “SNAGS”, “MWM’S” etc, 4th ed. Wellington: Plane View Services Ltd; 1999.
3. Hetherington B. Lateral ligament strains of the ankle, do they exist? Man Ther 1996;1(5):274-5.
4. Kavanagh J. Is there a positional fault at the inferior tibiofibular joint in patients with acute or chronic ankle sprains compared to normals? Man Ther 1999;4(1):19-24.
5. Hubbard TJ, Hertel J. Anterior positional fault of the fibula after sub-acute lateral ankle sprains. Man Ther 2008;13:63-7.
6. Grindstaff TL et al. Immediate effects of a tibiofibular joint manipulation on lower extremity H-reflex measurements in individuals with chronic ankle instability. J Electromyogr Kinesiol 2011;21:652-8.

  by supersy | 2012-11-06 19:00 | Athletic Training

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