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のどにおこるけが。

2月になりましたね!…というわけで、2月分のニュースレターを刊行しました。
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今回は、Minor leg injury後におけるDVTの危険性と、
Discoid Meniscusをどう診断するか、という記事を書いてみました。
以前このブログでもまとめたことのあるようなテーマですが、
改めてEvidenceを探してみると結構知らなかったことも発見できて、面白いもんです。

次回のニュースレターは…まだ実際には手をつけてはいませんが、
実はもうテーマは決まっています。上司から統計学についてまとめてくれという要求がありまして。
Sensitivity, Specificity, Positive Likelihood Ratio, Negative Likelihood Ratio、
それからQUADUS scoreについて書いてくれないかと頼まれたのです。

…というのも、私自身が教師としてうちのUndergrad ATEPの学生に対してこれら(↑)の用語の解説・どう実際に使うのか等を授業で教えているのですが、ACI/CIである現役ATたちがそれをギリギリ習ってない世代だったりするんですよね。なので、学生たちは知っているけど、上司であるはずの彼らが知らない、という妙な構図になってしまうわけで(ぶっちゃけ、前述の上司も知らない)。
個人的には、これらの用語や定義も知らないでEBPの実践は無理なので、
これくらい教科書むさぼって自力で学んでくれよという気がしないでもないのですが、
上司も含め、知っているSyが皆に教えてくれたら便利、と思われているよう。

でもね、ちょっと悩んで、上司にははっきり言いました。
「それは教科書で丸々1章使うような膨大な内容です。これだけのスペースに分かり易くまとめるのはほぼ不可能ですし、さらにそれを面白く書き上げる自信が正直言ってありません。
そもそもそういう内容をこのニュースレターの読者は求めていないと思うのです」

それもそうか、と納得してもらい、じゃあ、QUADUSだけでもいいよ、と言われたので、
今回のテーマはQUADUS scoreに絞って書くことにしました。
これに関しては、また今度まとめたいと思います。
面白く簡潔に、できるかなぁ(好きな事書きたいよ…ちょっと不本意。ぶちぶち)。

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さて、さらっとひとつだけ、最近学んだことをまとめたいと思います。
今学期から教えることになった新しい授業に、Prevention & Careという授業があります。
受講者も40人ほどと非常に多く、基礎的なクラスで、文字通り頭のてっぺんからつま先までの解剖学、怪我のメカニズム(例えばそれこそ脳震盪から脾臓肥大から性病から外反母趾まで)、治療法、予防法をざっくりとカバーする、という内容です。広く浅く、という感じです。

こういうのが、実は一番教えるのが難しい…!
このブログを読んでくださる皆さんはもうご存知でしょうが、私は深く掘り下げてマニアックなことを学んだりシェアしたりするのが好きなタイプなので、全てをざっくり、というのはちょっと苦手だったりするのです。先日も、半泣きになりながら、あまり馴染みのない喉に起こる怪我について色々と調べてみました。

喉の怪我なんて、そうそう起きませんよね。
私自身も、例えばバスケットボールをやっていた頃に、誰かの肘があたってげほげほ、
としたくらいはありますが、怪我らしい怪我は経験したことがありませんし、
Athletic Trainerとしてもそういった怪我には遭遇した経験がありません。
案の定、教科書でもほんの半ページくらい使って、
Contusion(打撲)とFracture(骨折)について実にさらりと解説がしてあるだけで、
あんまり授業で特に言及することもないのかなー、と思っていました。
そこでふと思い出したんですよね。
そういえば、数年前に、喉に大怪我したフットボール選手っていなかったっけ?と。
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調べてみたら、いたいた、出てきました。
2009年にUSCのRunning Backとして活躍していた、Stafon Johnson選手。
いつものように275ポンド(約125kg)のウェイトをベンチプレスしていたある日のこと。
普段なら余裕で上げられるはずの重さでした。スポッターもいました。
しかし、何がどうしてか(彼自身もここはよく覚えていないそうですが)、手が滑り、
一瞬にして125kgの重さが喉に真っ直ぐに落下してしまったのです。
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(*写真はイメージです)

結果、彼の喉はぐちゃぐちゃに潰れ、そのまま病院にかつぎこまれることになります。
状態は専門医が診ても「前例がない」というほど手術が困難な複雑さで、
Larynx(喉頭)の軟骨部はふたつに割れ、周りの筋肉は断裂を起こしていて、文字通りしっちゃかめっちゃかになった欠片をひとつずつ集め、パズルのように当てはめる作業をしたのだそう。
違うピースをはめてしまえばそれまで。しかし、時間を掛けすぎて手遅れになると、
様々な破片が飲み込まれ、更なる合併症を引き起こす可能性も。
7時間もの手術を終えた後、医者すらもこれから彼がまた物を食べたり、
言葉を喋れたりできるようになるのか、そのprognosisが読めなかったほどだそう。
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彼が麻酔から目覚めたとき、医者は彼に、
「動いてはいけない。飲み込んでもいけない。咳をしてもいけない。喋ろうなんて言語道断。
もしこれらを守れなければ、今喉に入っているチューブは二度と取れないと思ってくれ」
と非常に厳しい言いつけをしたそう。

自分の負った怪我がどれほど深刻なのかを知らされたStafonは精神的に打ちのめされますが、それでも医者の言いつけを守り、少しずつ少しずつ回復していったそう。チューブのサイズも徐々に小さなものになり、自発呼吸ができるようになるまで回復した後は、飲み込むことも喋ることも、比較的スムーズに出来るようになっていったそうです。彼が手術後初めて医者に「"Hello"と言ってごらん?」と言われて、“Hello”と囁くような声で返したときは、お医者さんたちもぴょんぴょこ跳ねて喜んだそうな。

かくして、一時は命さえも危ぶまれたStafonはまたフットボールをプレーするために、
そこから更に3度の手術を乗り越えて、見事復帰。
現在はWashington Redskinsの一員としてNFLに所属しています。
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(写真は、手術から回復後、母親と記者会見するStafon)

前例がないほどの喉の怪我、そしてそこからの驚異的なまでの回復。
周りに何と言われても絶対に復帰すると揺るがなかった彼の決心。
いやー、ふと思い出して調べてよかった。これは絶対に授業に盛り込もうと思います。

しかしさぁ、前例がないから、って、あきらめちゃいけないんだよね。
今まで教科書や文献で見たこともない症例なんて、実は結構起きるもので。
そういうときに、本当のクリニシャンとしての本能が試されるよね。第6感も7感も全部総動員で、正しいことを見極めてやるしかない。今回のこのケースは、選手本人もそうだけど、お医者さんたちもすごい仕事をしたなぁと思います。見習わないとね!

  by supersy | 2012-02-02 22:00 | Athletic Training

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