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スポーツ関連脳振盪診断のための身体検査や重症化予防のための早期有酸素運動についての最新エビデンスレビュー。

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●脳振盪診断の一環としてのPhysical Exam

スポーツ関連脳振盪(Sport-Related Concussion, SRC)の診断は難しい、というのは現場に出ている方なら思わず頷いてしまう事実かなと思います。症状は多岐に渡り、その全てが目に見えて明らかなわけではなく、脳振盪に非特異的なものも多い。加えて、主観的な訴えばかりに囚われてしまうとunder-reportなどの壁にぶつかってしまうことも珍しくありません。

では、既往歴チェックと認知評価をした後、ごく短い身体検査(A Brief, Focused Physical Examination)をしてはどうか、というのがこの論文1の焦点です。本文では脳振盪患者の症状の出方、感じ方は人それぞれなので完璧なサブタイプに分類することはできないが、最も顕著な身体所見や症状(predominant physical signs and symptoms)を見つけることが後に患者がPersistent Post-Concussive Symptoms (PPCS)を呈してきた際の効果的な治療方針の決定へと繋がるのではと論じられています。なるほど、私もここらへん曖昧なまま頭でごっちゃにしていましたが、著者らはPost-Concussion Syndrome (PCS)とは脳震盪受傷後、患者の自律神経のバランスが崩れ、脳血流が減少している状態を指すと考えているようで、脳代謝異常を伴わない頸椎や前庭・眼球、気分外傷後障害とは区別されるべきだ、と提言しています(私の不勉強で、これがUniversalな理解なのかあくまでも現時点ではひとつの意見なのかは測りかねます、後者寄りの前者かなという気はしておりますが…)。分類はざっと分けるとこんな感じ。

 1. Autonomic/Physiological PCS: 非特異的身体所見・症状、初期運動耐性欠如
 2. Cervicogenic PTD: 頸椎関連身体所見・症状、末期運動耐性欠如
 3. Vestibulo-ocular PTD: 前庭動眼関連身体所見・症状、末期運動耐性欠如
 4. Mood-related PTD: 感情的・認知的症状、目立った身体所見なし、運動耐性あり
  *PTD: Posttraumatic Disorder

ちなみに、初期/末期運動耐性欠如はこういう訳がベストなのかわかりませんが、英語ではEarly/Late Exercise Intoleranceと表記されており、具体的には前者が年齢から推測される最大心拍数の<70%で運動耐性欠如(= 症状が悪化するなどして運動継続が不可能になる)が出現、後者が>70%で出現、という定義分けらしいです。70%だったらどう判断するんだろうって思っちゃうのは余計なお世話?ちなみにちなみに、著者らはMood-related PTDの場合は精神科医(Psychiatrist)、心理学者(Psychologist)、または神経心理学者(Neuropsychologist)を含むMultidisciplinary Team Approachが必要不可欠だとしています。こういう細かい一文を省かずしっかり書いているところがやっぱり素敵、素晴らしい(完全にファン目線)。

んで。実際に行われるべき身体検査ですが、Buffalo Concussion Physical Examination (BCPE)と言う名前で以下の項目の検査が推奨されています(詳細はリンク先参照)。
・Orthostatic Vital Sign: 仰臥位と立位(1分後)での血圧、心拍数、症状(dizziness/lightheartednessなど)の比較
・Cranial Nerve Exam
・Oculomotor/Ophthalmologic Exam: 眼底鏡検査、パスートにサッケード、VOR、NPC
・Cervical Exam: 亜急性頸椎損傷は脳振盪と至極似た症状を引き起こすこともあるので、スパズム、圧痛に可動域をチェックする
・Vestibular Exam: 継ぎ足スタンス、継ぎ足歩行(Dual-task化しても良し)

Orthostatic Vital Signを事前に取った状態で医師の診察が開始できれば、BCPE完了までには5分程度しかかからないそうです。今までに治療指標としてのDr. Leddyの提唱するBuffalo Concussion Treadmill Test (BCTT)やBuffalo Concussion Bike Test (BCBT)についてはこのブログでも言及してきました(以下のリンク参照)が、同じものを診察のための運動テストとしてもここで足してもいいのでは、とも書いてありました。運動耐性があるかどうかを見る…つまり、上のカテゴリー分けを決定づけるために有意義なSupplemental Testではないか、というわけなんです。BCTT/BCBTは身体的運動を伴いますが、既に先行研究2によって中高生患者を相手に脳振盪受傷後一週間以内に行っても安全であると示されています。


ここんとこで重要そうな文章だなと思ったのが、"Early (<70% of max HR) exercise intolerance at the initial examination is very sensitive for diagnosing physiological concussion, whereas exercise intolerance later (>70%) in the test is suggestive of other cause of the symptoms such as cervical injury and/or vestibulo-ocular subsystem dysfunction."ってところでしょうか。ここがかなり評価の分かれ目になると思っても良さそうです。

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●身体検査の重要項目

ではBCPEに関してもう少し詳しく見ていきましょう。こちらの論文(↑)3がちょうどいいかと思います。急性脳振盪患者と健康なコントロール群に合計82人の中高生アスリート(男59人、女23人、平均15.60歳)を集め、Blindedな医師がBCPEを用いて診察を行ったというこの実験では、「受傷後平均4.4±2日後に行ったInitial EvaluationではBCPEは効果的に脳振盪患者と非・脳振盪患者を区別することができた」そう。中でも効果的だった項目は頸椎圧痛(p = 0.0055)、パスート(p = 0.0001)、NPC (p = 0.0002)、水平サッケード(p = 0.0001)、VOR (p = 0.0002)、継ぎ足歩行(p = 0.0009)。第二回来院時(初回来院時より平均13.6±1日後)の評価では脳振盪患者52人中41人が既に回復を見せていたそうなのですが、この時点でもパスート(p = 0.0001)、NPC (p = 0.0002)、継ぎ足歩行(p = 0.0002)は症状が残っている患者と消失した患者をDifferentiateするのに有効だったそうです。

これ、地味にすごいですよね。Baseline Testingしてなくても(= 各個人の「通常」「正常」を手間をかけて定義しなくても)BCPEだけでも区別が可能っていうことですから。結論にはもちろん「脳診断にこのテストを単独では使わない」「他のテストと併用すべし」と書かれていますが、Additional Toolとしての力はかなりあるのでは、という印象です。

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●心拍数から重症化患者を事前に予期できるか

ちょっとずれますが、こちら(↑)4はBCTTについて。脳振盪受傷後BCTTを行い、測定された心拍数閾値が135 bpm未満だと回復までに>21日かかる…という先行研究2があるらしいのですが、休息時の心拍数にはかなりの幅があるし、絶対的なCut-off値を示すより個々に合ったもののほうがいいだろう、ということで、今回は「BCTT心拍閾値と休息時HRとの差がどれほど少ないと脳振盪からの回復に時間がかかると予期できるか」という相対的なCut-off値探しに焦点が置かれています。

被験者となったのは10日以内に脳振盪を受傷した13-18歳の中高生アスリート130人。うち27人を「Rest」組、51人は「Placebo」組、52人は「有酸素運動」組とし、それぞれ介入を行いました。…で、結果に飛んでしまうとこんな感じ。有酸素運動組は52人中2人しかPPCSを発症した人がいなかった&心拍数の差に相関がみられなかったので分析は行っておらず、Rest組とPlacebo組のみの結果になります(↓)。
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Rest組でPPCS発症した患者(n = 4)の心拍数差(△HR)は35.25±9.5 bpmで、順調な回復を見せた患者(n = 23)の心拍数差は75.57±26.4 bpm(p = 0.01)、Placebo組では43.43±20.5 bpm vs 63.73±20.9 bpm (p = 0.04)。Cut-off値を≦50 bpmとすると、PPCS発症のPredictorとしての感度が72.73% (95%CI 46.41-99.05%)、特異度が77.61% (67.63-87.59%)になるんだそうです。2x2テーブルがなかったので本文のデータを元に作ってみました。
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つまるところの結論: 急性脳振盪患者が休息時のHRと比較して運動時に>50 bpmも上昇させられなかったら(= 症状が悪化するなどしてそれ以上の強度の運動継続が不可能)、その患者は回復までにかなり(>21日以上)かかると予測がつく。初診時に重症化予備軍患者が認められたら、それだけ早い治療介入開始が可能になりますよね。多々負えば有酸素運動とか。それで重症化を避けられたら大したもんじゃないですか。ふむふむ。
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●重症化予防策としての早期有酸素運動介入

この流れで、最後にこの研究5です。待望のRCT!脳振盪から受傷10日以内の中高生アスリートを被験者に、Placebo組(n = 51, 平均15.4±1.7歳, 受傷から平均4.8±2.4日後)と有酸素運動組(n = 52, 平均15.3±1.6歳, 受傷から平均4.9±2.2日後)にランダムに分けてPlacebo組は毎日ストレッチを、有酸素運動組は毎日BCTTプロトコルに則った有酸素運動を繰り返したそうな(両グループ共受傷後2日は介入せず休息をしたそうですが)。ちなみにこの被験者数は事前にパワー分析を行い、各グループ最低50名必要である、とされているのを越えてきています。研究の性質上、リサーチ助手や患者さんは介入内容を把握した状態で検証を行ったのですが、患者が臨床的に回復したかどうかを決めたPhysicianは患者のグループアサインメントにBlindだったそうです。さすがにこのへんは丁寧に作られています。
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結果です。回復までにかかった日数の中央値はPlacebo組が17日(IQR 13-23日)、有酸素運動組が13日(IQR 10-18.5日)と有酸素をしたほうが著しく短く(↑左グラフ、p = 0.009)、症状の減少も有酸素運動組のほうがより速かった…ですが、これは統計的に有意な差は見られなかったとのこと(↑右グラフ、p値未報告)。気になるCompliance Rateですが、ストレッチも有酸素運動も等しく高かった(86.6%, 83.8%, p = 0.16)そうで。まぁSelf-reportなので本当に正確かどうかは分かりかねますが。

結論としては早期有酸素運動は回復を早め、脳振盪後の後遺症を和らげたり予防する効果があるのではないか、ということでした。平均4日の回復の差は、短いようで中高生には社会的、学業的な意味でも大きいのではないだろうか、と論じられていて、それは確かにそうだよな、と思います。私だって4日早くケガや病気から職場復帰できたら嬉しい。ただ、今回特筆すべきはAdverse Effectでしょうか。今まではBCTT/BCBTプロトコルは安全である、症状がひどく悪化したり、回復が長引くことはない、という結果や報告ばかりでしたが、今回の研究では実は一件の「ニアミス(本文まま)」があり、被験者の一人がBCTT中に症状が著しく悪化。研究からWithdrawしたそうな。この方がこのあとどんな経路を辿って回復したのか(またはそもそも回復したのかどうか)は分からず仕舞いですが、今まで安全安全と言われてきた中、初めてこういう報告があったことは心のどこかに留めておきたいと思います。

そんなわけで、Dr. Leddy関連の論文4つのまとめでした!いやしかし、世に出している論文の数、ペースと質が半端じゃないですDr. Leddyさん…。尊敬と畏怖の念しかありません。これからもうきうき論文読ませていただきたいです!後発研究も楽しみにしています。

1. Haider MN, Leddy JJ, Du W, J Macfarlane A, Viera KB, Willer BS. Practical management: brief physical examination for sport-related concussion in the outpatient setting [published online November 7, 2018]. Clin J Sport Med. 2018. doi: 10.1097/JSM.0000000000000687.
2. Leddy JJ, Hinds AL, Miecznikowski J, et al. Safety and prognostic utility of provocative exercise testing in acutely concussed adolescents: a randomized trial. Clin J Sport Med. 2018;28:13Y20. doi: 10.1097/JSM.0000000000000431.
3. Leddy J, Lesh K, Haider MN, et al. Derivation of a focused, brief concussion physical examination for adolescents with sport-related concussion [published online on October 29, 2018]. Clin J Sport Med. doi: 10.1097/JSM.0000000000000686.
4. Haider MN, Leddy JJ, Wilber CG, et al. The predictive capacity of the buffalo concussion treadmill test after sport-related concussion in adolescents [published on April 24, 2019]. Front Neurol. 2019;10:395. doi: 10.3389/fneur.2019.00395.
5. Leddy JJ, Haider MN, Ellis MJ, et al. Early subthreshold aerobic exercise for sport-related concussion: a randomized clinical trial [published on February 4, 2019]. JAMA Pediatr. 2019. doi: 10.1001/jamapediatrics.2018.4397.

  # by supersy | 2019-06-21 20:30 | Athletic Training

めまいと前庭についてのお勉強。

昨日、「めまい、バランス障害に対する理学療法」という講習に参加してきました。講師はまっちゃんこと松村将司先生!杏林大学にお勤めの同い年のPTさんで、教育でも臨床でも第一線で活躍されてる尊敬すべき方です。そんなに毎日忙しいのに週末は日本全国を飛び回り更に忙しくセミナー等講演をしてらっしゃるのですが、東京開催で今年日程が合うのは今回しかなさそう!とぎりぎりで申し込んで私も参加することができました。


眩暈というと2012年(↑)にブログ記事を一回だけまとめたことがあるのですが、私の知識はそこらへんで止まっていました。今回きちんとお勉強してみて、学んだこと印象に残ったこと、講習が終わってから自分で調べ足したことなどを断片的にメモ的に書き残しておきたいと思います。
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●BPPVのサブタイプ
まず、お恥ずかしいことに良性発作性頭位めまい症(BPPV)にサブタイプ(↑)がある1ことを知りませんでした。耳石がどの区画にあり(後半規管、外側半規管、前半規管↓)、どこに付着・または浮遊しているかによって症状が異なり対処も変わるので、ここの分類を知っておくこと(中でも半規管結石症とクプラ結石症を理解しておくこと)は非常に大事なように感じます。上の発症率のグラフは疫学論文にあったもの(Figure 11)と講習資料に使われていた日本語訳を組み合させてもらってます。あっちなみにまっちゃんの講習資料はとても丁寧に作りこまれており、英語資料にはない表現(i.e. ライトクプラなど)もあって、英語論文と見比べるだけでもなかなか勉強になります。
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●専門性へかかるバイアス
講習冒頭で、眩暈にも様々な種類があり、中でも末梢性(耳性)には良性発作性頭位めまい症(BPPV)、前庭神経炎、メニエール病、突発性難聴などが考えられる…という説明がありました。実際の発症数のトップ3は1) BPPV; 2) メニエール病; 3) 前庭神経炎らしいのですが、臨床感覚として「メニエール病」って言われている患者多くない?という話が印象的でした。…というのも、メニエール病の特徴に「精神的・肉体的疲労やストレス、睡眠不足と関りがある」という個所があるんですが、「疲れてます?ストレス感じてます?睡眠取れてます?」って感じて「No」って答える眩暈患者はたぶんあんまりいないよねって話で…。

なるほど。確かに論文2,3を見てみても、BPPV患者は高い不安感・パニックを抱えた状態で医療機関を受診しており(これはそうだよね、しんどいよね、わかるよーという感じ)、それは適切な治療介入で改善こそするものの、症状がほとんど消失しても健常な人と同じレベルまでは下がらないことが見て取れます。これは当事者ではない目線からするとともすれば不思議(なんで症状消失したのにまだ気分が落ち込んでるのさ?という)。だからこそ、言葉の響き以上に深刻に受け取られるべき問題です。症状が消え(= being clinically healed/recovered)ても、不安は残るんですね。

患者が抱える不安度は患者の最終学歴(Levels of Education)と反比例するのでは(被験者の数が少なすぎて統計的に有意な差が出たわけではないのですが)という考察3もなかなか興味深かった(↓)です。これは教養がある人のほうが「今はひどい症状が出ていても指示通り治療が進めばきっと良くなるはずだ」という医者の言うことを信頼し、素直に信じやすいのか、はたまた学歴が無い人のほうがその日その日の労働と稼ぎに頼っているため、「今日働けない」ということに大きな不安を感じやすいのか?理由はわかりませんが、Education = 学位を取ると考えず、Education = 患者の知識に厚みと深みを持たせること、と考えると、患者が病状把握、治療の効果を実感しやすいよう、また、再発のリスクがどれほどあり、次に起こった場合はどんな対処法が有効なのかをしっかり専門家が各患者にコミュニケーションする必要があることを示唆しています。
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Gunes & Yuzbasioglu, 20193、Table3より

おっと少し話が逸れました。つまるところメニエール病の診断を、本来の確実診断基準の一部である「20分以上の眩暈エピソードが2回以上」などの条件をきちんと満たしているかどうか確認せず下してしまっている案件はきっと少なくないのだろうと…。端的に言ってしまえば誤診が多い、Diagnostic Biasがある可能性も否定できないよねって話も出ました。

これに関して、ひとつのシステマティックレビュー4を読んでみました。42件の論文(総患者数21,637人、女性患者59.0%; 95%CI 58.3-59.7%、患者平均年齢55.8±8.39歳)のまとめなんですが、診断している専門家の専門性によって最終的診断で付く名前に偏りは生まれるのかって面白い観点からまとめられているものです。

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Parker et al., 20194、Table 2より

もちろん、各専門家には(正しい判断をして)その専門性に特化した患者が集まりやすいという患者層バイアスの影響はあると思うんですけどね。それを踏まえても誰が診断したかで最終診断名がかなり違うってのが分かります。中でも救急医(Emergency)による診断のBPPVの少なさ、Cardiacの多さはその思考プロセスを見事に反映している気がしてなりません(別に悪いと言っているわけではありません。命に関わる重篤な問題から除外しようというのが救急医の思考回路でしょうから)。
もうひとつ、この論文が言及している点で面白いのが、時代と共に見る診断数の移り変わり!時代と共にそれぞれの疾患の理解も進み、診断ツールも発展を続けているからか、診断数そのものの変化もここ10年だけ見てもかなりの変動があるのかわかります(↓)。具体的にはBPPVやVestibular Migraineの診断が近年ぐんと増え、Meniere's Diseaseの診断は逆に減っているようです。
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Parker et al., 20094、Figure 2より

●骨ミネラル濃度
しかし再発率が高いことも含め、なんでBPPVという現象は特定の人に起きてしまうんだろうなぁというのはやっぱり疑問として残ります。論文11件(総患者数1982人)をレビューした今年発表の最新メタ解析論文5によれば、骨粗鬆症または骨減少症の患者はBPPVになるリスクが3.27倍にも高まる(OR 3.27, 95%CI 2.66-4.03)んだそう。具体的には骨粗鬆症だと3.48倍(OR 3.48, 1.86-6.51)、骨減少症だと1.75倍(OR 1.75, 1.01-3.04)とのことで、やっぱり骨ミネラル濃度の低下はBPPVの発症と関連性がありそうです。加齢とともに発症数が増えるというのもここらへんがきっと関係していることでしょう。ふむー。

ともあれ。
今回のまっちゃんの講習、明確なメッセージがあり、非常に有意義でした。BPPVの疑いを深めていく中で、排除すべき要素にどんなものがあるのか、そしてその一つである頸椎の不安定症などはどう的確除外していけるのかなどとても効率よく学べました。友人だからという贔屓目を無しにしても、彼の講習はおススメです!このあと、6月は大阪や7月は沖縄、鹿児島、9月は宮崎に10月は福島、熊本などあちこち飛び回って講習されるようなので、興味のある方は彼のFacebookなどから予定をチェックチェックですよ!

アスレティックトレーナー(AT)仲間に向けて書くと、ATに眩暈や前庭の知識などあまりなくてもいいだろうと感じている方も少なくないかもしれません。そんなの我々の専門外だろうと。しかし近年のスポーツ整形外傷関連の報告を見ていても、例えば「(Passiveな安静ではなく)脳振盪の(Activeな)治療やリハビリ」という概念が広がる中で前庭リハビリテーション (Vestibular Rehabilitation) の果たす役割はこれからも大きくなる一方だろう6,7と予測ができますし、これをATが知らないというのは恐らく年を追って大きな問題になってきます。
更に、我々が現場でよく見る足関節慢性不安定症(CAI)8前十字靭帯の断裂9受傷後、患者のバランス能力が低下することはよく知られていますが、これらの患者はより視覚情報にのみ頼ってバランスを取るようになる(= Visual Dominance)…つまり、感覚システム統合に不具合が生じることも認められています。元々バランスはVisual (視覚)、Somatosensory (体性感覚)、Vestibular (前庭)の3つの感覚システムがその状況に合うようお互い協力・微調整し合いながら保たれるべきもので(i.e. 暗い場面では体性感覚と前庭の活動が上がることで、足元が柔らかく不安定な場所では視力と前庭の活動が向上することでバランスが保たれる)、10,11 特定の誰かが支配的になることは好ましくありません。前庭という感覚システムのポテンシャルを最大限に引き出すためにも、前庭の解剖、そしてリハビリの知識は全てのATが触れておいて損はないと思いますね。最低でもBPPV関連ならDix-Hallpike TestとEpley's Maneuverくらいは知っておかないとね(これは2012年の前述の記事にまとめたので割愛)。YouTubeにも様々な有益な動画など転がっていますし、特別複雑・難しいテクニックだというわけでもありません。不慣れだと言う方は是非これを機に勉強してみてはいかがでしょう?

あっ、おまけに。忘れないように書いておくと、Epley'sをやる際の、「首のターンは素早く行うと耳石が正しい方向へ転がりやすい」というアドバイスは貴重だったなぁ。正しい角度に顔を向かせても、ゆっくりだと逆方向に転げてしまうということがあるようです。Violentでない程度に、患者の許容できる範囲で、しかし素早く次のターゲット角度を向かせることが有効な治療への秘訣なのかなと思いました。

1. Higashi-Shingai K, Imai T, Kitahara T, et al. Diagnosis of the subtype and affected ear of benign paroxysmal positional vertigo using a questionnaire. Acta Otolaryngol. 2011;131(12):1264-1269. doi: 10.3109/00016489.2011.611535.
2. Kahraman SS, Arli C, Copoglu US, Kokacya MH, Colak S. The evaluation of anxiety and panic agarophobia scores in patients with benign paroxysmal positional vertigo on initial presentation and at the follow-up visit. Acta Otolaryngol. 2017;137(5):485-489. doi: 10.1080/00016489.2016.1247986.
3. Gunes A, Yuzbasioglu Y. Effects of treatment on anxiety levels among patients with benign paroxysmal positional vertigo. Eur Arch Otorhinolaryngol. 2019;276(3):711-718. doi: 10.1007/s00405-019-05297-9.
4. Parker IG, Hartel G, Paratz J, Choy NL, Rahmann A. A systematic review of the reported proportions of diagnoses for dizziness and vertigo. Otol Neurotol. 2019;40(1):6-15. doi: 10.1097/MAO.0000000000002044.
5. He LL, Li XY, Hou MM, Li XQ. Association between bone mineral density and benign paroxysmal positional vertigo: a meta-analysis. Eur Arch Otorhinolaryngol. 2019;276(6):1561-1571. doi: 10.1007/s00405-019-05345-4.
6. Murray DA, Meldrum D, Lennon O. Can vestibular rehabilitation exercises help patients with concussion? A systematic review of efficacy, prescription and progression patterns. Br J Sports Med. 2017;51(5):442-451. doi: 10.1136/bjsports-2016-096081.
7. Park K, Ksiazek T, Olson B. Effectiveness of vestibular rehabilitation therapy for treatment of concussed adolescents with persistent symptoms of dizziness and imbalance. J Sport Rehabil. 2018;27(5):485-490. doi: 10.1123/jsr.2016-0222.
8. Song K, Burcal CJ, Hertel J, Wikstrom EA. Increased visual use in chronic ankle instability: a meta-analysis. Med Sci Sports Exerc. 2016;48(10):2046-2056. doi: 10.1249/MSS.0000000000000992.
9. Grooms D, Appelbaum G, Onate J. Neuroplasticity following anterior cruciate ligament injury: a framework for visual-motor training approaches in rehabilitation. J Orthop Sports Phys Ther. 2015;45(5):381-393. doi: 10.2519/jospt.2015.5549.
10. Peterka RJ. Sensorimotor integration in human postural control. J Neurophysiol. 2002;88(3):1097-1118.
11. Peterka RJ. Sensory integration for human balance control. Handb Clin Neurol. 2018;159:27-42. doi: 10.1016/B978-0-444-63916-5.00002-1.

  # by supersy | 2019-06-10 20:00 | Athletic Training

近位脛腓関節の解剖と機能についてのあれこれ。

最初は告知です。7月28日(日)にIMPROVEさん主催のセミナー@福岡で講師を務めさせていただきます!足関節捻挫は臨床で非常によく目にする外傷ですが、ここらへんを取り巻く様々な解剖、その他外傷・障害やそれらのアプローチについて思いつくまま、エビデンスと嗜好に導かれるままに好きに話させてもらおうかと思ってます。
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んで。
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脈絡はないんですが、近位脛腓関節についてあんな論文1やこんな論文2を見つけたので読んでみました。知らなかったことや面白いと思ったことをメモ書きとしてまとめようと思います。
まずはひとつめ。
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- 滑膜関節である近位脛腓関節は前上脛腓靭帯 (anterior proximal tibiofibular ligament, APTFL)と後上脛腓靭帯 (posterior proximal tibiofibular ligament, PPTFL)によって主にその安定性を供給されているが、APTFLは3つのBundleがあり、厚みがあって強度が高いのに比較してPPTFLのBundleは広いものがひとつあるのみ、という違いがある。
- 関節の造りには個体差があり、分類法がいくつか存在する
●関節の接触面の角度が水平面から20℃のズレがあるかどうかによってOblique (下図左) vs Horizontal (下図右)に分ける *これはシンプルなこともあり、現在で最も頻繁に使われる分類法とされている
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Radakovich &Malone,3 Figure 1より

●腓骨関節面の造りに基づき7種類の関節に区別する(下記参照)。しかしこれはPlaneが最も頻繁である(33.55%)4 という研究もあれば、いやいや20人の献体の膝調べたらPlane、Trocoid、Double Trocoidがそれぞれ10%、65%、25%だったけど?という報告5もあり、何が「通常」「正常」なのか意見が分かれている。
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Eichenblat & Nathan,4 Figure 3より


で、当たり前なんですけどこれだけ造りや面の角度に違いがあれば、当然近位脛腓関節で生まれる動きにも違いが出てくるわけで。例えばHorizontalな造りであれば回旋可動性が増し、それによる受傷リスクも上がる一方で、Obliqueな関節面はその関節接触面積が小さいために可動性に制限が出やすく、捩じりの力に対しての抵抗が少なくなる…などが指摘されていると。ふむふむ。

- この関節を"Accommodatory Joint (微調整役、調和役とでも訳しましょうか)"と考えてはどうかという意見もあり、確かに1) 足関節に生じた捻じれの力(torsional forces)を発散させる; 2) 脛骨が外側に曲がる動作(lateral tibial bending moments)を発散させる; 3) 荷重時のストレスを圧迫ではなく張力性に転換する、という役目を果たしているようである。膝や足関節が動くときにこの近位脛腓関節にも動作が生じており、例えば足関節背屈時には腓骨は距骨の回旋に"Accommodate"して外旋しなければならないし、膝が屈曲から伸展へ移行した場合には大腿二頭筋による張力と外側側副靭帯の弛緩により、腓骨は後方へ移動する。言い換えれば、近位脛腓関節のケガの受傷メカニズムに「足関節の内返し、底屈、膝関節の屈曲と体幹の回旋」が含まれているのもそういうことで。これらの力がかかると脛骨が外旋し、近位脛腓関節は前外側へ引っ張られるというわけ。
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- 近位脛腓関節の腓骨動作としては、最近の研究では(多少関節の造りに左右されるにせよ)内旋も外旋も起こると言われている。しかし、ここで考慮すべき事項にInterosseous Syndesmotic Membrane (下腿骨間膜)もあるのではないだろうか。この膜も線維面に対して垂直だと164N、水平では3604Nもの張力に耐えられるほどの強靭さを持っており、当然近位脛腓関節に影響を及ぼすと思われる。この組織の詳しい貢献度は、しかし、まだ十分に検証されていない。

…で、この研究1では献体(14 Knees from 3 men, 4 women)を使ってAPTFL、PPTFL、骨間膜をこの順番で足すように切除していくと膝・足関節の動作と共に近位脛腓関節ではどんな動きが生じるか?を検証しています。結果から面白かった点を挙げると…

- この研究で使われた14の膝のうち、12(85.7%)はPlane、2つ(14.3%)はTrochoidで、14全て(100%)がObliqueだった
- 足部の底背屈より、脛腓靭帯の直接のGliding動作よりも膝の屈伸と内外旋が最も脛腓関節の空間の変化を生んだ(全ての組織がIntactでも24.2-47.3mmほどの動きが生まれる↓)
- APTFL、PPTFL、骨間膜…と切除する部位が増えれば増えるほど著しい動作増加につながりやすい(下表参照)。
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- 興味深いことにAPTFLは腓骨頭の後方グライド制動にはさほど貢献せず、むしろ足関節背屈、外返しを制動しているのではないか、ということが見えてきた。一方でPPTFLは底屈、内返し、膝屈曲を制動。
- 回旋の制動には、APTFL、PPTFL、骨間膜の全てが大きく貢献する。

個人的には2.5-4.7cmのというかなりの幅の動きが正常時(Intact)でも確認されたいうのは驚きだけど、この計測が行われた全献体でIT Bandは切除されていたというところは少し注意かも。この組織が膝関節に与える影響は言うほど大きくないとも言いますけども、やっぱり個人的には色々組織取ってしまったら変わってくることもあるんじゃないかなと思うんです。これが上方に数字を動かし、バイアスを作っている可能性はありますね。
あとはAPTFLが切除された状態からPPTFLを追加で切ってPPTFLの役割を推し量る、という蓄積型の検証をしていますが、これらもその前に切られた部位の影響をどうしても受けるのでやり方としてはどうかな。もっと多く献体を用意して、PPTFLならPPTFLのみを切除してその動作変化を見るのが妥当だったのではないかと。まぁ費用の問題など色々あるとは思いますが。献体だから荷重していたわけではなく、これらの可動性がそのまま立位の生体にも見られるかは怪しいところですね。

んで。二つ目の論文2です。こちらは短めに。
近位脛腓関節不安定症が起こる際に最も起こっているケガとして多いのが前外方脱臼(85%)で、これが原因で慢性不安定症になることもあるとのこと。このケガは見逃されがちではあるが、典型症状は膝外側部の痛み、Mechanical Symptoms (i.e. clicking, popping)に総腓骨神経機能不全も含むんだそうで。そうよね、位置的に近いものね。

で。献体10体(平均57歳、男8名、女2名)の膝を3D検証してその靭帯の構造を細かく検証したぞ、というのがこの研究。意外や意外、この研究での最も興味深いFindingは最初の論文の説とは異なり、APTFLには4つ(Superior…平均長さ14.9mm, Middle 1…12.8mm, Middle 2…12.4mm, Inferior…7.0mm)、PPTFLには3つ(Superior…6.8mm, Middle…9.2mm, Inferior…11.7mm)のBundleが確認できたということです(図で見るそれぞれの靭帯部位はこちら↓)。
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ただ、全ての献体にそれぞれ4つ/3つのBundleがあったわけではなくて、確認できたケースはAPTFLのSuperior vs Middle 1 vs Middle 2 vs Inferiorがそれぞれ100、90、70、60%、PPTFLはSuperior vs Middle vs Inferiorが100、100、20%だったとのこと。つまり大部分(80%)被験者のPPTFLは3つではなく2つのBundleがあったということですね。この論文にはもっと細かく、それぞれの靭帯がどのランドマークから何mmの位置にあるか、とか、脛骨部の面積 vs 腓骨部の面積がそれぞれ何㎠で…などと色々まとめてあるんですが、そういう情報って各献体の身長なども大きく反映しているのだろうし、性別差もあるだろうし…と脳内でツッコミが入ってしまい、個人的にはあまり楽しく読めなかったので割愛。Joint Orientationを示した角度だけは残しておくとこちら(↓)。思っているよりかなり後方に位置しているなぁ、腓骨頭。
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この論文の結論には、「それなりの一貫性はあるものの、近位脛腓関節の靭帯には個人差によるところが大きい」「Bifurcated(二分化)していたものも中にはあった」とあり、しかし「APTFLのほうが総じて厚みがあり、PPTFLは薄い造りをしているが、関節包と密接な関係性があるのはむしろこちら」だと示されています。
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関節包というキーワードから考えてみると、膝(Tibiofemoral Joint)の関節包は腓骨頭まで伸びており、近位脛腓関節(Proximal Tibiofibular Joint)の関節包と物理的に繋がっているわけで6 (表面の膜部分だけでなく、中の空間も100%くらいの確率で繋がっているのではという論文もあります、少なくとも17人の被験者全員そうだったと7)。それを踏まえれば、膝関節にかかった力が近位脛腓関節にも影響を及ぼすとか、近位脛腓関節の動作不全が膝関節の機能障害を生むとか、そういう相互作用は十分にあり得るわけです。膝(Tibiofemoral)のケガだけど腓骨の心配なんかしなくてもいいだろうとか、逆に腓骨の問題は膝に影響なんか及ぼさないだろうとか、勝手に思い込まずKnee Complexとして評価、治療介入していくのがきっと好ましいですよね。私も実際近位脛腓関節亜脱臼(←これは個人的にかなり見逃されている外傷だと思っている)の患者の非急性期の治療中に腓骨頭のモビライゼーションしてましたもん。前後で膝の屈曲可動域が全然変わってくるんですよね。

1. Alves-da-Silva T, Guerra-Pinto F, Matias R, Pessoa P. Kinematics of the proximal tibiofibular joint is influenced by ligament integrity, knee and ankle mobility: an exploratory cadaver study. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2019;27(2):405-411. doi: 10.1007/s00167-018-5070-8.
2. Anavian J, Marchetti DC, Moatshe G, et al. The forgotten joint: quantifying the anatomy of the proximal tibiofibular joint. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2018;26(4):1096-1103. doi: 10.1007/s00167-017-4508-8.
3. Radakovich M, Malone TR. The superior tibiofibular joint: the forgotten joint. J Orthop Sports Phys Ther. 1982;3(3):129-132.
4. Eichenblat M, Nathan H. The proximal tibio fibular joint. An anatomical study with clinical and pathological considerations. Int Orthop. 1983;7(1):31-39.
5. Espregueira-Mendes JD1, da Silva MV. Anatomy of the proximal tibiofibular joint. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2006;14(3):241-249.
6. Nasu H, Nimura A, Sugiura S, Fujishiro H, Koga H, Akita K. An anatomic study on the attachment of the joint capsule to the tibia in the lateral side of the knee. Surg Radiol Anat. 2018;40(5):499-506. doi: 10.1007/s00276-017-1942-8.
7. Puffer RC, Spinner RJ, Murthy NS, Amrami KK. CT and MR arthrograms demonstrate a consistent communication between the tibiofemoral and superior tibiofibular joints. Clin Anat. 2013;26(2):253-257. doi: 10.1002/ca.22087.


  # by supersy | 2019-06-04 20:00 | Athletic Training

左利きの人は、病気になりやすい?利き手と免疫機能に関する論文レビュー。

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面白い論文1を紹介してもらったので読んでみました。2012年と少しばかり古いものなのですが…ものすごく私には新鮮で刺激的でした。とりあえず私が興味深いと思ったポイントを簡潔にまとめていきます。

●脳の左右非対称性とNeuroimmunomodulation (神経免疫制御)
脳の右半球と左半球は違うようにニンゲンの免疫機能に作用していくんじゃないか、という説は1970年代から存在した2ようです。動物実験を経て人体実験で、左半球の活性が高いとナチュラルキラー細胞の活性やCD3+, 4+, 8+T細胞カウントが高いこと、逆に右半球の活性が高いと免疫抑制がかかった状態(immunosuppressed)になるということが分かってきているのだそう3-6。加えて左半球は副交感神経を、右半球は交感神経系をそれぞれmodulate (調節)し、自律神経システムの中でも異なる「担当」があるんだそうで7-12 …てかこの論文、サラっと「まぁ皆さんは当然知っていると思いますが」ってトーンですごい情報並べてあるんですけど!!私はそもそもこれ(自律神経と右脳 vs 左脳のModulation能力の違い)を知らなかった。

●利き手が及ぼす影響
では、利き手が違えば免疫機能に違いは生まれるのか?動物実験の結果が示す答えはどうやら「その通り」らしいんですよね。この論文の著者は様々な実験を引用しながら「どうやら非右利き動物の場合、脳の左半球が右利きと比較して活性していないので免疫細胞・活動が増えない/右半球の活性により免疫抑制が顕著に起こる → 総合的に免疫力が落ちる、つまり左利きの動物のほうが免疫疾患にかかりやすいのではないか」と論じています。
「左利きは免疫疾患にかかりやすい」というこの統計は確かに人間を被験者にした場合も確認できるそうで。ここらへんの議論によく引用されるのが先駆者となったGeschwind & Behanの1982年の論文13なのですが、彼らの研究では重症筋無力症などの自己免疫疾患の有病率は左利きのほうが右利きに比べて2.7倍多かったと報告されています。他にもクローン病、潰瘍性大腸炎14,15、炎症性腸疾患15などの自己免疫起因と言われる胃腸過敏性の問題も2.13倍上がるとの報告や、喘息16,17、薬物アレルギーや皮膚アレルギー18もどうやら左利きに多いぞと。ふむー。

●"Cortical Lateralization of Emotional Processing" (p.4)
…って言葉にビリビリ痺れたんですけど。すごくないですか?つまるところ皮質も左右で処理する感情が異なり、右半球はネガティブな感情を、左半球はポジティブな感情を扱う(例: 経験する、表現する)のが得意4,19なんだと。ストレスがかかって右半球が活性すると、ナチュラルキラー細胞の機能が低下20し、インフルエンザのワクチンを受けても抗体ができにくい21んだそうです。ほんでもって左利きの動物はストレスがかかると右半球の活性がより大きく起こる22という報告もあったりして…。ここらへんは普段左利きで右脳活性が日常的に起こっているからなんでしょうか。推測ですが。

ただ、一応Geschwind-Behanの仮説(実際は更に細かくその理由付けとして「胎児の時の子宮内のTestosterone向上が原因で左半球の発育が一部阻害され、左利きになる…」云々言っているのですが、ここでは大まかに仮説=「左利きは免疫疾患が多い」とします)はそれを支持する研究23と、いやー、免疫疾患全般と関連性はあってもごくごく微量24、Overreporting Biasもあるんじゃ25?というものが混在していることはここに明記しておきます。中でも糖尿病やがん(特に乳がん)のリスクなどは否定・肯定をする論文がかなり混ざっている印象ですね。なので全然、気にしたくない方は気にしなくていいし、むしろ今回私は私が個人的に面白いなぁと思っていることについて好き勝手に書いているだけなのでガン無視しちゃってください。

どちらにしたって左利き→免疫疾患になる、という因果関係 (Causation)を示している論文はひとつもないです。あくまでもこの2項目(左利き、免疫疾患)に繋がりがある?というCorrelation (関連性)があるかもというだけなので、今回のブログを読んで左利きのヒトに不安になってほしいわけでも、病気になるよと言っているわけでもないということだけはご理解くださいね。エビデンスはあくまで、「今までのヒトを調べたらこんなことが見えてきたよ」というデータなので。未来の絶対を予言するものではありません。左利きで健康な人なんかいくらでもいますし。うちの旦那とか。

あとは、これらの関係性が本当にあったとしても、その理由が本当に全て脳の左右非対称性起因なのかもわからないですよね。例えば、左利きの人は早いうちに親に右利きになるよう無理矢理矯正されたり、周りの生活用品全てが右利き用に設計されていて使いづらいことからストレスを多く抱える機会が多い → 右脳活性 → こういった免疫疾患の発症率増加に繋がる可能性も否定できません。だとしたら何利きだろうがハッピーに過ごしていればこのオッズを克服することは容易いのかもしれませんし。「左利きって病気になりやすいんだってわぁぁ悲しいいやだー」と考えちゃえばより免疫は低下する一方だし。まぁ左利きは右利きより外的要因が理由でストレスを感じやすいのでは?ってのはあくまで私の推測と仮説です。そもそも病気になる要素って一つではないはずなので。



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●ちなみに…
ちょっと話はズレるかもですが、興味が出たので他の疾患についても調べてみました。するとびっくり、左利きの人は右利きの人に比べて免疫疾患のみならず偏頭痛13、発達性協調運動障害26、失読症27、躁うつ病28、統合失調症28、自閉症29、聴覚障害30などになりやすいんだそうです。それぞれ統計的にかなり大きい被験者群を使ったデータにPrevalenceの有意差が出ています。ADDやADHDの結果はまちまちのようで、学習障害に関してはまだはっきりと分かっていないようですが、IQは総じて右利きのほうが僅かに高い31というメタ解析論文も…。

これらが脳の機能の左右差によるものなのか、免疫がどのように関わっているのか、外的環境要因は、感情は…まだまだ分からないことは多いですが、とにかく左右で利き手が違うと思った以上にその影響は全身に出そうである、ということが分かってきます。ううううむ興味深い!

1.Stoyanov Z, Decheva L, Pashalieva I, Nikolova P. Brain asymmetry, immunity,handedness. Cent Eur J Med. 2012;7(1):1-8. doi:10.2478/s11536-011-0121-2.

2. Semenov SF, ChuprikovAP. Asymmetry of brain lesions and immunobiologic reactivity. Zh NevrolPsikhiatr Im S S Korsakova. 1975;75(12):1798-1806.

3. Kang DH, Davidson RJ,Coe CL, Wheeler RE, Tomarken AJ, Ershler WB. Frontal brain asymmetry and immunefunction. Behav Neurosci. 1991;105(6):860-869.

4. Davidson RJ. Cerebralasymmetry, emotion and affective style. In: Davidson R.J., Hugdahl K.eds. Brain asymmetry. Cambridge, MA: MIT Press;1995.

5. Gruzelier J, Clow A,Evans P, Lazar I, Walker L. Mind-body influences on immunity: lateralizedcontrol, stress, individual differences predictors, and prophylaxis. AnnN Y Acad Sci. 1998;851:487-494.

6. Meador KJ, De LecuonaJM, Helman SW, Loring DW. Differential immunologic effects of language-dominantand nondominant cerebral resections. Neurology. 1999;52(6):1183-1187.

7. Yoon BW, Morillo CA,Cechetto DF, Hachinski V. Cerebral hemispheric lateralization in cardiacautonomic control. Arch Neurol. 1997;54(6):741-744.

8. Wittling W. Brainasymmetry and autonomic control of the heart. Eur Psychol. 1997;2:313-327. doi:10.1027/1016-9040.2.4.313.

9. Hilz MJ, Dütsch M,Perrine K, Nelson PK, Rauhut U, Devinsky O. Hemispheric influence on autonomicmodulation and baroreflex sensitivity. Ann Neurol. 2001;49(5):575-584.

10. Foster PS, Harrison DW.Magnitude of cerebral asymmetry at rest: covariation with baselinecardiovascular activity. Brain Cogn. 2006;61(3):286-297.

11. Engel J, Pedley TA(eds.). Epilepsy: a comprehensive textbook. Philadelphia, PA:Lippincott Williams & Wilkins;2007.

12. Abramov VV, Gontova IA,Kozlov VA. Functional asymmetry of thymus and the immune response in mice. Neuroimmunomodulation. 2001;9(4):218-224.

13. Geschwind N, Behan P.Left-handedness: association with immune disease, migraine, and developmentallearning disorder. Proc Natl Acad Sci USA. 1982;79(16):5097-5100.

14. Searleman A, FugagliAK. Suspected autoimmune disorders and left-handedness: evidence fromindividuals with diabetes. Crohn's disease and ulcerative colitis. Neuropsychologia.1987;25(2):367-374.

15. Morris DL, MontgomerySM, Galloway ML, Pounder RE, Wakefield AJ. Inflammatory bowel disease andlaterality: is left handedness a risk? Gut. 2001;49(2):199-202.

16. Krommydas G,Gourgoulianis KI, Andreou G, Molyvdas PA. Left-handedness in asthmaticchildren. Pediatr Allergy Immunol. 2003;14(3):234-237.

17. Preti A, Lai A, SerraM, Zurrida GG. Mixed handedness prevails among children and adolescents withinfantile asthma and diabetes. Pediatr Allergy Immunol. 2008;19(8):769-772.doi: 10.1111/j.1399-3038.2007.00703.x.

18. Bryden PJ, Bruyn J,Fletcher P. Handedness and health: an examination of the association betweendifferent handedness classifications and health disorders. Laterality. 2005;10(5):429-440.

19. Wager TD, Phan KL,Liberzon I, Taylor SF. Valence, gender, and lateralization of functional brainanatomy in emotion: a meta-analysis of findings from neuroimaging. Neuroimage.2003;19(3):513-531.

20. Davidson RJ, Coe CC,Dolski I, Donzella B. Individual differences in prefrontal activation asymmetrypredict natural killer cell activity at rest and in response tochallenge. Brain Behav Immun. 1999;13(2):93-108.

21.Rosenkranz MA, JacksonDC, Dalton KM, et al. Affective style and in vivo immune response:neurobehavioral mechanisms. Proc Natl Acad Sci USA.2003;100(19):11148-11152.

22. Su Y, Xie Z, Xin G,Zhao L, Li K. Predator exposure-induced cerebral interleukins are modulatedheterogeneously by behavioral asymmetry. Immunol Lett. 2011;135(1-2):158-164.doi: 10.1016/j.imlet.2010.10.017.

23. Tønnessen FE, Løkken A,Høien T, Lundberg I. Dyslexia, left-handedness, and immune disorders. ArchNeurol. 1993;50(4):411-416.

24. McKeever WF, Rich DA.Left handedness and immune disorders. Cortex. 1990;26(1):33-40.

25. Pennington BF, SmithSD, Kimberling WJ, Green PA, Haith MM. Left-handedness and immune disorders infamilial dyslexics. Arch Neurol. 1987;44(6):634-639.

26. Darvik M, Lorås H1,Pedersen AV. The prevalence of left-handedness is higher among individuals withdevelopmental coordination disorder than in the general population. FrontPsychol. 2018;9:1948. doi: 10.3389/fpsyg.2018.01948.

27. Eglinton E, Annett M.Handedness and dyslexia: a meta-analysis. Percept Mot Skills. 1994;79(3Pt 2):1611-1616.

28. Ravichandran C, ShinnAK, Öngür D, Perlis RH, Cohen B. Frequency of non-right-handedness in bipolardisorder and schizophrenia. Psychiatry Res. 2017;253:267-269. doi:10.1016/j.psychres.2017.04.011.

29. Markou P, Ahtam B,Papadatou-Pastou M. Elevated levels of atypical handedness in autism:meta-analyses. Neuropsychol Rev. 2017;27(3):258-283. doi:10.1007/s11065-017-9354-4.

30. Papadatou-Pastou M,Sáfár A. Handedness prevalence in the deaf: Meta-analyses. NeurosciBiobehav Rev. 2016;60:98-114. doi: 10.1016/j.neubiorev.2015.11.013.

31. Ntolka E,Papadatou-Pastou M. Right-handers have negligibly higher IQ scores thanleft-handers: Systematic review and meta-analyses. Neurosci BiobehavRev. 2018;84:376-393. doi: 10.1016/j.neubiorev.2017.08.007.


  # by supersy | 2019-05-21 20:00 | Athletic Training

紙 or デジタル機器?今、改めて紙で本を読むべき理由。

史上最長10連休のゴールデンウィークも終わりましたね。
私はAZCARE ACADEMYの撮影もあり、終盤は福岡に行っていました。3日間の予定撮影が順調に進んで2日でほぼ終わってしまったこともあり、3日目は近藤社長(!)の許可をもらって大阪でのInterdisciplinary Integrationの講習(↓)に飛び入りで参加をしてきちゃいました。
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アスレティックトレーナーの近藤拓人を始め、歯科医師の西川岳儀先生、石田亮人先生、検眼士の神田泰志先生、小松佳弘先生のお話とっても面白かったです。改めて一人でよりも他業種の方々と手を繋げばもっともっと遠くへ行けて、もっともっと多くの景色が見られるんだろうなと実感しました。今度は足底版介入とか、栄養学とかそういう専門家さんとの"Interdisciplinary Integration"講習もしてほしいですね。あったら次回も是非参加したいです!大いに刺激を頂きました。

さて、その講習中に頭蓋の動きがあるのかないのかという話になって、私が手元に持っていた情報を少し共有させてもらう機会がありました。その時の反響が思ったよりも大きく、「あれ?世の中にはこういうエビデンスを欲している人が思ったよりもいるのね?」と驚いたこともあり、動画配信ウェブサイトの次のテーマに使うことにしました。今日付けで40分ほどの頭蓋の動きに関する講義動画を挙げてます。ざっくりと下のような文献群(↓)をレビューして、頭蓋は本当に動くのか?ということを検証しました。会員の皆様はお暇つぶしにご覧くださいー。

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さて、話は変わるのですが皆さんは本を読む際、タブレットと紙媒体、どちらを使いますか?日常的に、パソコンやケータイの画面で一日どれほど「モノを読む」作業をしていますか?
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個人的な話ですが、私は、マンガだけははっきりとタブレットでほぼExclusiveに読んでいます。今考えればアメリカ生活のなごりなのかもしれませんが、在米当時、日本の漫画を購入するのに電子版くらいしか手段がなかったんですよね。加えて保管にもかさばらないし、持ち歩きが楽だし、うっかり汚したりしないし、読み続けている漫画の新刊が出たら通知が来るように設定出来たりで結構便利なので今でもついつい使ってしまっています。でも、本はというと全て紙媒体でしか読めないです…。電子版のほうがお値段が安いってことも分かってはいるんですが、やっぱり本ばっかりは手でその重みを感じながらページを一枚一枚めくる感覚が好きで…。時々専門書に限ってはCtrl + Fを使いたくなるもどかしさはありますが(笑)、基本やっぱりページをめくりながら自分で自分のペースを刻みながら読み進めていきたいんですよね。論文はというと、昔は全部印刷して紙で(ノートを取りながら)読まないとイヤでしたが、最近は読むペースが早くなって読む数も増えたのでエコのためにも能率化のためにも、パソコンで一気読みがほとんどです。

さて。
経済的な問題や保管場所やスペースの優越はともかく、紙の本を読んで頭に入ってきた情報と、デジタル機器とのそれに何か違いはあるんでしょうか?過去の研究で何度か「Screen Inferiority (デジタル媒体のほうが低い学習効果がある)」が示されたことはあったけれども、それは制限時間というプレッシャーをかけた場合のみに出現するのだとか、若い人より高齢の人の場合のみに見られる傾向だとか、その限定性も指摘されており、イマイチまだよくわかっていないというのが現状です。
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そこで、メタ解析しちゃいましょう、ということで2018年に発表されたのがこの論文1(↑)。
Linear Reading Materialsのみを扱った研究に絞り(= ハイパーリンクなどのインタラクティブ性のない、紙の本に近いデジタルヨミモノ)、紙版 vs 電子版での比較をしようというのが焦点です。ここで考慮されるべき、と著者らが考えたのが「時間軸」、つまり年代の経過。これに関しては二通りの考え方ができるのですが、仮説#1) 近年の若い子たちは、デジタル機器により若年から触れる機会が多いので、それを使って学習するのも得意(ついでに同時に紙媒体での学びに触れる機会が減り、こちらが苦手になる): つまり紙媒体に対してデジタル媒体での学び・読解力が相対的に向上しているとするか、むしろ 仮説#2) デジタル機器を使っての作業はスピードとマルチ・タスク重視なので、逆に深い学びなどは不得手になってきているとも考えられる: つまり、紙媒体に対してデジタル機器を使っての学び・読解力は悪化してきているとするか…。全く逆の仮説が立てられるので、ここについても検証しています。
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さ、ではさくっと結果です。
このEffect Sizeを一覧にした下のグラフ(文中Figure 3)ではBetween-Participants Designを使った研究を、その下のグラフではWithin-Participants Designを使った研究の統計を示しています。メタ解析した結果はそれぞれ-0.21 (95%CI -0.28~-0.14)、-0.21 (-0.37~-0.06)となっていて、いずれも「デジタル機器を使って読解をしたほうが、紙媒体よりもパフォーマンスが悪かった」という結論になっています(紙媒体での学習を基準値、ゼロにしているので、数字が負になるとそれよりも学習効果が低かったことを示唆します)。
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Table 1 (↓)の細かい情報も興味深いです…。これを見る限り、対象者が小学生でも、中・高校生でも、大学生でも、それから文章が短くても長くても変わらずに一貫して「デジタル機器のほうが劣る」、ということがわかります。しかし、「制限時間がある場合に比べて、自分のペースで学習ができればデジタル機器の悪影響が出にくい」、「コンピューター画面を見るよりは手で持つタイプの電子機器(i.e. タブレット)のほうが悪影響が出にくい」、「文章のみのほうが、情報のみ、文章と情報の混合と比較して、悪影響が出にくい」ということも見えてきますね。ふぅむ。
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この論文の結論には、「明確なScreen Inferiorityが確認できた」とあり、可能であれば生徒に印刷した紙媒体で資料を提供することの重要性が説かれています。この「Screen Inferiority」の傾向はここ18年で増加傾向にある、つまり、早いうちからデジタル機器に触れておけばそれを使った学習も得意になるというわけじゃないことも分かったのだとか。Screen Inferiorityを時代と共に消えるだろうと勝手に思い込んではいけない、学習の在り方を今一度考えなければならないと著者らは警鐘を鳴らしています。

なぜデジタル機器を使った学習…今回の場合は特に読解が紙媒体より劣るかはまだ分かっていないのですが、一説によれば「Shallowing Hypothesis」という仮説があるんだそうです。デジタル機器を使った作業は素早いInteractionで手っ取り早く報酬が手に入る、という特徴が強いため、逆にこの道具を使って難しいタスクにチャレンジするということへのギャップを使用者が感じやすいのでは、ということなんだそう。私は自分の経験則からそうは思わないんですけどね(紙媒体だって簡単なことにも難しいことにも使うし…道具はただの道具だと思うタイプなので)。でも自分のペースで勉強が進められるときには学習への不利益が消えることを考えると、結局このセオリー通り、「軽い心持ちでちょっとOverconfident気味に軽い気持ちで学びに臨んでしまう人が多い」ってことなのかな(= 時間制限があるとこの油断慢心が特にミスを誘いやすい)?しかし、この論文の最後に「実は被験者に好みの方の媒体を選ばせ、そちらでやらせればより学習が有意義なものになるという研究もあった」とも表記があり、やはり学びには個人差があり、本人が好きだ、使いたいと思うほうを優先させることも大事なのでは、個体差は考慮されるべき、ともまとめられています。

この論文を読んでデジタル機器を学びの場から完全に排除しろ!というのはちょっと極端かなと思いますし、エコ化の進む今の時代、多くの宿題やテストはコンピューターを使って行われるようになっています(BOCも例外ではありません)。例えば大きな資格試験をコンピューターで将来受けなければいけない学生に対して、紙のみの勉強を小学生~大学生まで強いるというのはやはり無理があるんじゃないかなと思いますよね。なので、目指すべきはデジタル機器と紙媒体の理想的な融合なんじゃないかなと思います。デジタル機器を使わなければいけない際には、この論文の結果を受けて、例えば勉強はなるべく自分のペースでできるようにしてみるとか、手で持てるタイプのデジタル機器を使うとか、情報やデータのみをバーンと見せるよりはしっかり文章を読ませるようにするとか、スクロールしなくてもいいようにするとか、そういった工夫を混ぜていくことが大事なんじゃないかなと思うわけです。

本当は、Interdisciplinary Integration講習の神田先生の講義中にも話題に挙がったような、「デジタル機器を使った場合、紙媒体に比べて視覚的脳活性が起こりにくい」というところももうちょっと読みこんでみたかったんですけども…、トッパン・フォームズさんのウェブサイトに示されるようなわくわくする研究はまだ論文という形になっていないみたいで、残念!でもトッパン・フォームズさんのページで使われているこの画像(↓)、めちゃめちゃインパクトありますよね。同じDMを見ても、それが紙媒体かデジタル画面かで脳活性が違ったよっていう…。紙のほうが脳活性するよっていう…。この結果が「学習」にも反映されるんだと鵜呑みにすれば、やはり紙媒体で勉強したほうが脳活性が起こりやすいってことに?個人的にはこのDMに文章が多く含まれていたのか、情報・データもあったのか、スクロールする必要があったのか、6人の被験者は何歳くらいで、そもそも彼らはデジタル vs 紙での学びのどちらが好きなのか、などの詳細も気になります!
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もっと多い被験者でこれに似た研究、誰かやってくれませんかねー!静かに待つことにしますー。

1. Delgado P, Gargas C, Ackerman R, Salmeron L. Don't throw away your printed books: A meta-analysis on the effects of reading media on reading comprehension. Educ Res Rev. 2018;25:23-38. doi: 10.1016/j.edurev.2018.09.003.

  # by supersy | 2019-05-08 19:15 | Athletic Training

ユーススポーツにおける突然死の実態。

4日前に発表になったこの論文。これはMust-read!ってことでまとめてみます。
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高校や大学生アスリートの突然死に関してはそこそこ論文出てるけど、ミドルスクール(≒ 中学校)とか校外ユースリーグ、レクリエーショナル・スポーツとかの統計ってないよね?ということでまとめられたこの論文。オープンアクセスですのでお時間がありましたら是非皆さまご自身でご一読ください。

んで。
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2007年8月から2015年12月までの6-17歳のアスリートの突然死の実態調査をしました、というのが大まかな内容。この8年5か月の調査期間中に45件の死亡事故があったそうです。年々増加傾向があるのが気になります(↑文中のFigure 2: Frequency and incidence rate of sudden death in youth sports by yearより)。

このボコボコのグラフをえいえいと平らに踏み固めると年間平均は約5件で、被害者のうち80%(36/45)が男子、死亡者の平均年齢は13±2歳。試合中(13/45, 28.9%)よりも練習中に起こる(32/45, 71.1%)ことが多く、死亡事故発生率の高い種目はバスケットボールが一番(16/45, 35.6%)、次に野球とアメフト(それぞれ7/45, 15.6%)、サッカー(6/45, 13.3%)だったそう。Settingとしてはミドルスクールが半数以上(26/45, 57.8%)で、次いでユースリーグ(18/45, 40.0%)、レクリエーショナル・スポーツで起きた死亡事故は1件にとどまったとのことです。

最も気になる死亡理由ですが、やはり心疾患系が最も多く(34/45, 75.6%)、うち31件(91.2%)は非外傷性で、残り3件(8.8%)は心臓振盪だったそうです。他に理由として挙げられたのは外傷性脳損傷(3/45, 6.7%)、身体への強い衝撃(2/45, 4.4%)。他、一件ずつと少数ではありますがアナフィラキシーショック、落雷、溺死、労作性熱射病があり、2件に関しては情報がなく「不明」とのこと(↓文中のFigure 1. Frequency of sudden death in youth sport by sport and cause of deathより)。
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んで。
考察部分ではやはり「近年の死亡事故の増加傾向」が推測されています。若年アスリートの数が単純に増えたから?でもそれならばIncident Rate (受傷率)自体が上がることはないよね?メディアや一般の興味がよりこちらに向くようになったから?昔の情報が既に消えてしまっていて、古い死亡事故ほど見逃されてしまっている可能性もあるかな?などなど様々な可能性が議論されています。原因の特定にはさらなる研究が必要ですが、個人的には若年スポーツの強度上昇、メディアなどで若い子たちがもしかしたら「すごいプレー/激しいプレー」を目にすることが増え、危険なテクニックを基礎力が欠如した状態で試してしまう機会が増えたのでは?とも思っています。

まとめると、ミドルスクール、ユースリーグ、レクリエーショナル・スポーツでの死亡事故は1) 男子に多い、2) 練習中に多い、3) バスケットボールに多い、4) 心疾患が原因のNo.1である、という特徴があり、これは今までに報告されている高校や大学生アスリートに見られる傾向と一致するのだそうです。若いから何が違うっていうわけじゃないんですね。個人的にはユース野球などで起こると言われている心臓振盪がもっと多いのではと思っていたので、高校生・大学生と大差がないというのは意外でした。

この論文の最後にこれらのSettingの医療形態はまだまだ未熟なのではないか、きちんとしたMedical Coverage(医療従事者の配置、監督)はあるのか、という問題提起が投げかけられています。これはもちろん私も同意見ですし、上に報告されている死亡事故傾向を見る限り、少なくともスポーツの安全性を確保するという意味では、例えば高校や大学で勤務していたアスレティックトレーナーが何も特殊なトレーニングを積む必要なくそのままミドルスクールやユースリーグに移行して勤務しても問題なく対応できるはずだ、というのは心強いメッセージになるのではと思います(少なくとも、近年アメリカではミドルスクールでのAT雇用が爆発的に増えており、現在高校・大学に勤務している多くのATがより良い労働環境を求めてミドルスクールでの勤務を選択肢に入れ始めていますから)。

しかし、なんというか、この論文の全てをそのまま鵜呑みにして、「女子はともかく男子スポーツにMedical Coverageを充実させよう」「試合はともかく練習だ」「アメフトは二の次で、まずはバスケットボール!」と結論に飛び過ぎてしまうのも新たな問題を生む可能性があります。今回の報告でともすれば「Low-Risk」と見做された子たちに対して安全の担保をおろそかにしていいということではないと思うんです(そんなメッセージを送ってしまうのも著者らの意図ではないと思います)。

ただ、安全対策をこれから強化していく上で、全世界全てのアスリートに対する安全確保が最初から完璧にはできないというのも事実。順番をつけていくのであれば高いリスクが認められる環境から、というのは当然の思考だと思います。これからもこういった疫学の統計がしっかりと報告、検証され、それを社会に反映させて活かしていけるような仕組みを補強し続けないといけませんよね。いちアスレティックトレーナーとして、私も研究界の最前線を走っている研究者さんが提供してくれるサイエンスをありがたく受け取り、どう実践に繋げていくか試行錯誤するプロセスを怠けずに重ねていけたらと思います。

1. Endres BD, Kerr ZY, Stearns RL, et al. Epidemiology of sudden death in organized youth sports in the united states, 2007-2015 [published online April 23, 2019]. J Athl Train. 2019;54(4). doi: 10.4085/1062-6050-358-18.

  # by supersy | 2019-04-27 09:00 | Athletic Training

動画で確認できる「脳振盪の動作所見」に関する国際合意声明。

まずは告知です。
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6月30日(日)に第3回EBP講習 in 大阪を行います!2018年9月に第1回、2019年1月に第1・2回として「スポーツ傷害評価編」の基礎レベル臨床応用レベルの講習をやらせていただきましたが、今回の第3回は少し角度を変え、「治療介入編」の領域のエビデンスについて掘り下げていきます!**主催者が通常EBP講習と異なるため、BOC EBP CEUsは尽きませんのでご了承ください**

日程と構成は以下の通りです。Facebookのイベントページはこちら、お申し込みはこちらから。

<講習日時>
2019年6月30日(日)
12:45pm-16:15pm エビデンスに基づく治療介入: 基本から応用まで
16:30pm-18:30pm エビデンスに基づく治療介入: 腱障害とリハビリ

ちなみに、第3回と謳ってはいますが、今回は独立した内容ですので初めての方、単独講習参加しかできないという方も大歓迎です!

基礎レベルの講習は「エビデンス(科学的根拠)に基づく…」とかよく耳にするけれど、どういうことか実はよくわからない、今更ヒトにも聞きにくい、という完全初心者さんウェルカムな講習で、むしろエビデンスに対して不信感とか苦手意識のある方にこそ来ていただきたいと思っています。エビデンスに基づく実践って思ったほど難しくないや、結構楽しいかも!と思って帰っていただければそんな幸せなことはありません。英語論文の読み方の話もありますので、ガリガリ講義時間を使って実践もしてみましょう!

後半に行う講習は「臨床応用レベル」で、前半の「基礎レベル」の講習から一歩踏み込み、P値や効果量というコンセプトを踏まえた上で実際に臨床の現場で皆さんが直面しそうな症例である「腱障害とそのリハビリ」について、エビデンスを紐解いていきます。こちらの講義は実技要素が少しあり、身体を軽く動かしますので、スクワットなんかができるような動きやすい恰好でお越しくださいー。

第4回のEBP講習は詳細は未定ですが、今のところ以下のように予定しています。
第4回 (最終回): 2019年8〜10月開催予定
⑥EBP基礎編: 予防医学編
⑦EBP臨床応用編: 治療介入 - AMIと抑制解除療法

全講習、参加者の資格は問いません。元々ATC資格保持者さんのためにと思って企画した講習でしたが、今までPT、OT、柔道整復・あんま・鍼灸師さん、医師の方や大学教員・研究者さんなど幅広くご参加頂いています(ありがたやー)。学生さんも大歓迎です!リピーターさんも、リフレッシュにまたという方も結構いらっしゃいます。

<会場> 大阪市立青少年センター (KOKOPLAZA) *新大阪駅徒歩7分

<定員> 約50名

お申し込みはこちらから。初めての方、単独講習参加しかできないという方も大歓迎ですが、全4回のシリーズもの講習ですので、継続して受講される方には『継続割引(取れば取るほどお得!)』が適応になります。

<受講料> 
通常料金(今回が初めての方): 15,000円(学生14,000円)
参加2回目(第1回、第2回どちらか参加した方): 13,000円(学生12,000円)
参加3回目(第1回、第2回の両方参加した方): 12,000円(学生11,000円)

多くの皆様にお会いできるのを楽しみにしております!



では本題です。
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脳振盪はただでさえ分かりにくい、外目には見えにくいスポーツ外傷です。サイドラインに立っているプロのはずの我々も、その微々たるサインを見逃してしまうことがあります。
技術の進化と共に各種スポーツで取り入れられるようになった「ビデオ判定」。特定のプレーを「審判のコールは正しかったのか」等の目的でレビューすることは様々なプロスポーツの間で広まっていますが、これを脳振盪のRecognitionに利用することはできないのでしょうか?例えば衝撃を受けた後、動かずに倒れている(Lying motionless/Loss of responsiveness)や、ふらつき(Motor incoordination)、癲癇発作(Impact seizure)に緊張性姿勢(Tonic posturing)などがあるとついつい脳振盪を疑いたくなってしまうものですが…。
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こういう所見がビデオで確認できたら脳震盪を疑いましょう!という共通理解を国際的に確立できませんかね?というのがこちらの論文1 (↑)。なるほど時代を反映していますよね。今月発表になったばかり。

様々な国際競技規則を決める立場の13人のメディカル・ディレクター、チーフ・メディカル・オフィサーが集まり、何を「signs of possible concussion」と見做すか意見を募り、うち90%以上のメンバーの意見が一致したものが8項目あったそう。で、それを更に専門家のパネルが集まって定義しなおし、まとめなおしたところ以下の6点に要約できたんだそうで。

1. Lying motionless (倒れたまま最低でも2秒間動かない)
2. Motor incoordination (立った際の足や身体のふらつき、手のもつれなど)
3. Impact seizure (癲癇発作: 左右非対称に体軸や肢を不定期なリズムで動かす)
4. Tonic posturing (倒れる際、または地面に倒れている際に手や足の硬直が見られる)
5. No protective action - floppy (地面に倒れる際、脱力をしており、手をつこうとするなどの防御動作が見られない)
6. Blank/vacant look (無表情、焦点が定まっておらず、視覚的にモノを認識していない状態)

なるほど。私も受傷の瞬間を見ることができていれば、これらの所見が確認できた瞬間に「脳振盪!」と頭に浮かぶようなものばかりです(頸椎損傷や脊髄損傷などももちろんDDxに挙がってきますが)。
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今回明確にされたこれらの用語は、混乱を避けるために類似語は敢えて排除しており(例えばImpact convulsionではなくてImpact seizure、とか、AtaxiaやStaggerじゃなく、Motor incoordinationとか)、これらの用語を今後一貫して使うのが好ましいと思われます。まぁだって、だからこその「国際的合意声明」ですもんね。これらの定義と理解が世界的に広まり、現在NFLで導入されているような第3者による脳震盪判定がこれからも更に一般化する中で役立ってくれればいいなと思います!

1. Davis GA, Makdissi M, Bloomfield P, et al. International consensus definitions of video signs of concussion in professional sports [published on April 6, 2019]. Br J Sports Med. 2019;pii:bjsports-2019-100628. doi: 10.1136/bjsports-2019-100628.

  # by supersy | 2019-04-24 19:00 | Athletic Training

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