引き続き、口呼吸の話: 睡眠時無呼吸症候群に対する、口呼吸介入の可能性。

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若年性閉塞性睡眠時無呼吸(Obstructive Sleep Apnea, OSA)の患者にアデノイド口蓋扁桃摘出(↑)をしても予後は意外と良くないんだそうです。一時的にアウトカムが改善しても、長期的には悪化して、戻ってしまったりとか。1 そうなってると、何か見落としちゃってるんじゃないかなぁ、根本の原因は何だろなぁってなりますよね。
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で、この論文(↑)2の著者らが考えたのが「口呼吸が原因では?」という可能性。口呼吸は口腔顔面形成・成長異常(Abnormal Orofacial Growth)を引き起こす3-6→口腔顔面形成・成長異常は睡眠時の呼吸異常(Sleep-Disordered Breathing, SDB)につながる、7,8 というそれぞれの関係性は報告されているのだから、これらを繋げて考えれば全ての原因になっているかもしれない口呼吸の治療も考慮すべきなのでは、という理論展開のはまぁ、考えてみれば至極当然ですよねぇ(豆知識ですけど、起床時の呼吸の92%、睡眠時の呼吸の96%は鼻呼吸を介して行われているべき9 なんですって。へーへーへー)。

そんなわけで、この研究で後ろ向きに検証されたのは
1. アデノイド口蓋扁桃摘出手術前、そもそもOSA患者に口呼吸患者はどのぐらいの割合いるのか?
2. 手術をすることによって、この異常行動癖はどう変化するのか?
3. (手術が成功しなかった場合、エクササイズによる呼吸・口腔介入は有効なのか?)
…ということみたいです。それでは早速結果です。
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OSA改善のため、アデノイド口蓋扁桃摘出手術(T&A)を受けた64人の子供のうち全員が著しく睡眠時異常呼吸関連の症状が改善したのですが(Table 1)、うち、35人の口呼吸は改善されず。手術前と術後6ヵ月で比較するとほぼ全員が口呼吸(63/64, 98.4%)だったところから半数くらいには減った(35/64, 54.7%)んですねぇ。
しかしよくよくこの2グループ(口呼吸グループ、n = 35 vs 鼻呼吸グループ、n = 29)の違いを見てみると、口呼吸がなくならなかった35人の患者は、術後口から鼻呼吸に改善された29人と比較して総症状、AHI(Apnea-Hypopnea Index, 睡眠一時間あたり何回呼吸異常が見られたかを数値化したもの。ちなみに無呼吸は最低でも10秒間呼吸が止まった状態と定義される)、換気空気量制限に酸素飽和度も全て著しく悪かった(Table 2)という劇的な結果になっています。
*こういうの見てると、もしかしたら手術で口呼吸から鼻呼吸に自然に戻れた子は、あくまで閉塞性睡眠時無呼吸症候群が先行して、ほかに手段がなくて口呼吸に切り替わった(だから物理的な閉塞がなくなったら何もせずとも鼻呼吸に戻れた)のかな、と思いますけど、手術をしても口呼吸が治らなかった子は、もしかしたら口呼吸という異常行動ありきで、そこから閉塞が起こったのかなぁという妄想も膨らみますよね。だから手術で「症状」のひとつである閉塞を除去しても結局根本が治ってないから他の症状が残るんじゃないかなぁ、なんて…。

んで。
改善幅の低かった口呼吸患者(n = 35)はさらにこのあと、いかに口呼吸が悪い影響を及ぼすか、介入するべきことかという教育を受け、実際にこれから6ヵ月間続けるようにとエクササイズの処方を受けたそうです(渡された資料はこちらこちら)。専門セラピストへの紹介状も渡し、改善に取り組むよう指導されたとのこと。
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ただ、当然というかなんというか、取り組んでね、といった全員が実際に取り組んでくれるわけじゃありません。術後から12ヵ月のFollow-upに来てくれた口呼吸患者18人のうち、9人が実際にエクササイズ・トレーニングを実施、残り9人はそれを実践してくれなかったらしいのですが、この2つの患者サブグループの経過の違いは一目瞭然でした(Table 4)。AHI(p = 0.015)、換気空気量制限(p = 0.003)に酸素飽和度(p = 0.037)も全てエクササイズ介入したほうが著しく改善されており、逆にエクササイズをしなかった患者群は術後6ヵ月の数値と比べてどの値も全く改善されていない、という結果になったわけです。
*もちろんこの2つのサブグループの違いは呼吸介入に継続的に取り組んだかどうか以上のものがある可能性はあります。家庭の社会経済的地位(socioeconomic status)、教育的背景、Comorbidityにコンプライアンス…。ですのでこのグループ間の差がそのまんまエクササイズをしたかしなかったかどうかの差だっ!とは断言しづらいですけれど、それにしたってふむーと考えさせられる結果ですよね。

結論: アデノイドや扁桃腺の肥大があり、睡眠時無呼吸症候群を発症した患者は睡眠時に鼻呼吸を使わない(nasal disuse)傾向にある。こういった口呼吸傾向が強い患者の中には、手術で気道を閉塞しているものを物理的に取り除いても通常の呼吸パターン(鼻呼吸)に戻るとは限らず、その場合は鼻呼吸に重きを置いたエクササイズ介入が有効かも知れない

Follow-up期間がそれなりに長い+被験者がコドモ、というのもあってか、実験期間中被験者がどんどん減ってしまったのが残念ですが、この結果はなかなか面白い可能性を示唆しています。手術だけでは口呼吸徴候の強い患者は十分に改善しない。逆に言うと、摘出手術を受ける前にこういう呼吸介入をやっていたらどうなっていたのか…?それが根本治療となり換気空気量や肥大が改善され、無呼吸症候群がそれだけで消失可能性もあったのか…(手術が必要ないケースもあったのか…)?そうであれば、手術の決断をする前の保存治療の第一歩として、全ての患者が一定期間取り組むべきものなのか?事前に何らかの計測をすることで誰が手術にrespondするか、誰がしにくいか見極めるスクリーニングのようなことはできるのか?というところも気になりますね。

そんなわけで過去の記事の内容と、今回の内容と、私がさらに追加で見つけた論文の情報を合わせると、口呼吸は脳の不活性を起こすし、Forward Head Postureになり、呼吸能力低下して有酸素運動機能も落ちるし、口腔顔面形成にも異常をきたし、3-6 噛み合わせが悪くなって10咀嚼効率が落ち、11 ドライマウス12や虫歯になりやすくなる13,14という説もありますし、鼻のフィルターを介さない呼吸でアレルゲンに敏感になった結果喘息になりやすくなったり、15 気道が狭まり睡眠時無呼吸症候群になったり、7,8 睡眠の質が下がることで慢性的疲労感が生まれたり、イライラしたり、1 学習障害になる16 というエビデンスまであるしでまぁ踏んだり蹴ったりです。百害あって一利なしとはまさにこのこと。口呼吸こわい…。

そんなわけで今日はちゃんと口を閉じて寝ようと思います。おやすみなさい…。

1. Huang YS, Guilleminault C, Lee LA, Lin CH, Hwang FM. Treatment outcomes of adenotonsillectomy for children with obstructive sleep apnea: a prospective longitudinal study. Sleep. 2014;37:71–76.
2. Lee SY, Guilleminault C, Chiu HY, Sullivan SS. Mouth breathing, "nasal disuse," and pediatric sleep-disordered breathing. Sleep Breath. 2015;19(4):1257-1264. doi: 10.1007/s11325-015-1154-6.
3. Linder-Aronson S. Dimensions of face and palate in nose breathers and habitual mouth breathers. Odontol Revy. 1969;14:187–200.
4. Linder-Aronson S. Adenoids - their effect on mode of breathing and nasal airflow and their relationship to characteristics of the facial skeleton and the denition: A biometric, rhino-manometric and cephalometro-radiographic study on children with and without adenoids. Acta Otolaryngol Suppl. 1970;265:1–132.
5. Mcnamara JA. Influence of respiratory pattern on craniofacial growth. Angle Orthod. 1981;51:269–300.
6. Lime M. Orthognathic and orthodontic consequences of mouth breathing. Acta Otorhinolaryngol Belg. 1993;47:145–155.
7. Ricketss RM. Respiratory obstructions and their relation to tongue posture. Cleft Palate Bull. 1958;8:3–6.
8. Huang YS, Guilleminault C. Pediatric obstructive sleep apnea and the critical role of orofacial growth: evidences. Front Neurol. 2013;3:1–7.
9. Fitzpatrick MF, McLean H, Urton AM, Tan A, O'Donnell D, Driver HS. Effect of nasal or oral breathing route on upper airway resistance during sleep. Eur Respir J. 2003;22(5):827-832.
10. Grippaudo C, Paolantonio EG, Antonini G, Saulle R, La Torre G, Deli R. Association between oral habits, mouth breathing and malocclusion. Acta Otorhinolaryngol Ital. 2016;36(5):386-394. doi: 10.14639/0392-100X-770.
11. Nagaiwa M, Gunjigake K, Yamaguchi K. The effect of mouth breathing on chewing efficiency. Angle Orthod. 2016;86(2):227-234. doi: 10.2319/020115-80.1.
12. Musseau D. Mouth breathing and some of its consequences. Int J Orthod Milwaukee. 2016;27(2):51-54.
13. Mummolo S, Nota A, Caruso S, Quinzi V, Marchetti E, Marzo G. Salivary markers and microbial flora in mouth breathing late adolescents. Biomed Res Int. 2018;2018:8687608. doi: 10.1155/2018/8687608.
14. Choi JE, Waddell JN, Lyons KM, Kieser JA. Intraoral pH and temperature during sleep with and without mouth breathing. J Oral Rehabil. 2016;43(5):356-363. doi: 10.1111/joor.12372.
15. Izuhara Y, Matsumoto H, Nagasaki T, et al. Mouth breathing, another risk factor for asthma: the Nagahama Study. Allergy. 2016;71(7):1031-1036. doi: 10.1111/all.12885.
16. Um YH, Hong SC, Jeong JH. Sleep problems as predictors in attention-deficit hyperactivity disorder: causal mechanisms, consequences and treatment. Clin Psychopharmacol Neurosci. 2017;15(1):9-18. doi: 10.9758/cpn.2017.15.1.9.

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  # by supersy | 2018-11-08 19:30 | PRI

人体には「5つの横隔膜」がある?身体の意外な繋がりの話。

人体に存在する横隔膜(Diaphragms)と言われて、皆さんはどの部位を思いつきますか?Respiratory Diaphragm(横隔膜)とPelvic Diaphragm(骨盤隔膜)?
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今までにも人体に横隔膜が3つある説1 や4つある説2はあったのですが、この論文3ではなんとっ!5つの横隔膜(five diaphragms)の存在について論じています。それらは…

  1. "The" Diaphragm = Diaphragm Muscle: 横隔膜
  2. Pelvic Diaphragm = Pelvic Floor: 骨盤隔膜
  3. Buccal Diaphragm = Floor of the Mouth: 口腔底
  4. Upper Thoracic Diaphragm = Thoracic Outlet: 胸郭出口
  5. Tentorial Diaphragm = Tentorium of the Cerebellum: 小脳天幕

…なんだそうです。著者ら(2名のDOさん)はこれらの組織はFascialを介して構造的に、また神経的に繋がっていると述べています。Roof of the mouth(口蓋)じゃなくてFloor(口底)なのか!へー。

以下が彼らが示す解剖学的根拠です。

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論点#1: 横隔膜と骨盤隔膜の繋がりは比較的明確である
ここは私個人としても疑いの余地がないので割愛します。吸気: 横隔膜下がる→骨盤隔膜下がる、呼気: 横隔膜上がる→骨盤隔膜上がる、ってことですね(↓)。この横隔膜と骨盤隔膜の同期性はDynamic MRI画像でも示されていますし、4 呼吸を吸う一瞬前に骨盤隔膜(と、腹横筋と、内腹斜筋)に筋活性が起こり、腹圧のコントロール、体幹の安定や排泄の自制などに一役買っていることは今までにも充分すぎるほど報告されているかなと。4-6 骨盤隔膜は文字通り下から呼吸を「支え」てくれているわけです。
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論点#2: 横隔膜と口底も繋がっている
実は呼吸で横隔膜が収縮するより一瞬前に収縮を始める筋肉は口底にもあり、その代表がオトガイ舌筋(genioglossus)や舌骨舌筋(hypoglossus)です(↓)。これらの筋肉は呼気に後方、吸気に前方に移動することによって呼吸と共に舌をリズミカルに動かしており7、文字通り空気をかき回して換気を助けています。ということは、咀嚼、嚥下と呼吸とは密接な関りがあり、ひとつが不全を起こすと他分野に連鎖するということも何ら不思議ではないわけです。8-10
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論点#3: 神経的全身への繋がり
横隔膜を支配している横隔神経はC3, 4, 5の神経根から伸びていると言われますが、この神経細胞(neuron)は頸脊髄腹側角(ventral horn of in the cervical spinal cord)に集まり周辺情報を受け取っています。一説によれば横隔神経の走行は腕神経叢全て、頸椎の全てのレベル(C1-T1)に関わっていることもあるようで、鎖骨下筋神経(C5, 6)とも吻合しているそうです。ということは、腕神経叢や頸椎異常が横隔神経活性異常を引き起こし、その異常シグナルが鎖骨下筋神経にも届き、鎖骨下筋が過活動→第一肋骨を引き上げ、胸郭出口症候群を招く、という障害連鎖のメカニズムなんかも考えられる、というわけですね。11,12
神経学的に、横隔神経は迷走神経(CN X)とも吻合しており、その迷走神経は横隔膜の脚部(crura)を支配、そして求心・遠心神経を介して内側縦束(そしてここには脳と脳神経と上部頸椎神経C1-3に繋がる線維も存在する)に、そして求心神経を介して三叉脊髄核に繋がっているわけです。つまるところ、横隔膜の機能不全が頸部、口底、硬膜と眼に出ることもあるだろうと…。まぁもうここらへんは話していくとキリがありませんね。
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論点#4: Fasciaの繋がりも
横隔膜を包んでいるTransversalis fascia(横筋筋膜)はEndothoracic fascia(胸内筋膜)の延長で、これは深部・中層のCervical fascia(頸椎筋膜)、さらには硬膜が起点となっています。ということは、頸部は筋膜を介して恥骨と繋がってるってわけです。Thoracolumbar fascia(胸腰筋膜)も仙骨⇔頸椎の同様の繋がりを後方で作ってますしね。前後でサンドイッチ状態です。
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んで。

筆者はこれらの組織の繋がりを訴えた上で、治療にもこの繋がりを考慮にいれたアプローチが取られるべきだとしています。まだ確固たるエビデンスはないとしながらも、自らの臨床経験から、これらの「5つの横隔膜」を意識した徒手療法の有効性を訴えているのです。例えば先天的心臓疾患や脳卒中患者の横隔膜は上昇位にあるのだから、13,14 これらの連動して動く「横隔膜」を徒手療法で抑制してあげればその症状は和らぐんじゃないか、といったところです。なるほど、その理論の全てに賛成はしませんが面白い臨床観点です。
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著者は「骨盤隔膜からアプローチを始めて徐々に上に上がっていく」アプローチを推奨しています。その一例が論文に示されています(写真でいうと右から左に進んでいく感じ↑)。

まぁまだ仮説段階で、実際の検証はまだまだなんですが、イチ専門家の意見としては非常に興味深い観点で書かれた論文でした。〆もなかなか素晴らしいです。
"The diaphragm muscle should not be seen as a segment but as part of a body system (p.240).3"
だからこそ、患者さんの局所的な主訴に囚われず、システムのリンクを診て全体を治療すべきであるとBordoni氏らは説いています。これは私もココロから賛成しますし、二つ前の記事で書いたように、中枢呼吸リズムを常に刻みつづけ、感覚入力異常が感知されると意識下ではこらえきれないほど大きな呼吸衝動を起こす横隔膜は我々が思っているよりももっと敏感なのかもしれないし、だとしたらそれを治療で利用しない手はないです。私は人体にはまたBordoni氏らが提唱するものとは異なったDome (= Diaphragm)があるんじゃないかと思っていますが、それでもこの「5つの横隔膜」説は非常に刺激的で楽しかったです。かなり活発に論文を出している方のようなので、他のものも読んでみます!

1. Frymann V. The core-link and the three diaphragms. In: Academy of Applied Osteopathy Yearbook 1968. Indianapolis, IN: Academy of Applied Osteopathy, 1968.
2. Speece CA, Crow WT. Ligamentous Articular Strain: Osteopathic Manipulative Techniques for the Body. Seattle, WA: Eastland Press, 2001:93,146–147,161–168.
3. Bordoni B, Zanier E. The continuity of the body: hypothesis of treatment of the five diaphragms. J Altern Complement Med. 2015;21(4):237-242. doi: 10.1089/acm.2013.0211.
4. Talasz H, Kremser C, Kofler M, Kalchschmid E, Lechleitner M, Rudisch A. Phase-locked parallel movement of diaphragm and pelvic floor during breathing and coughing—a dynamic MRI investigation in healthy females. Int Urogynecol J. 2011;22:61–68.
5. Park H, Hwang B, Kim Y. The impact of the pelvic floor muscles on dynamic ventilation maneuvers. J Phys Ther Sci. 2015;27(10):3155-3157. doi: 10.1589/jpts.27.3155.
6. Park H, Han D. The effect of the correlation between the contraction of the pelvic floor muscles and diaphragmatic motion during breathing. J Phys Ther Sci. 2015;27(7):2113-2115. doi: 10.1589/jpts.27.2113.
7. Cheng S, Butler JE, Gandevia SC, Bilston LE. Movement of the tongue during normal breathing in awake healthy humans. J Physiol. 2008;586(17):4283–4294.
8. Cifra A, Nani F, Nistri A. Respiratory motoneurons and pathological conditions: lessons from hypoglossal motoneurons challenged by excitotoxic or oxidative stress. Respir Physiol Neurobiol. 2011;179:89–96.
9. Grace KP, Hughes SW, Horner RL. Identification of the mechanism mediating genioglossus muscle suppression in REM sleep. Am J Respir Crit Care Med. 2013;187:311–319.
10. LuoYM, Tang J, Jolley C, et al. Distinguishing obstructive from central sleep apnea events: diaphragm electromyogram and esophageal pressure compared. Chest. 2009;135:1133–1141.
11. Zhang Z, Dellon AL. Facial pain and headache associated with brachial plexus compression in the thoracic inlet. Microsurgery. 2008;28:347–350.
12. Laulan J, Fouquet B, Rodaix C, et al. Thoracic outlet syndrome: definition, aetiological factors, diagnosis, management and occupational impact. J Occup Rehabil. 2011;21:366–373.
13. Caruana L, Petrie MC, McMurray JJ, MacFarlane NG. Altered diaphragm position and function in patients with chronic heart failure. Eur J Heart Fail. 2001;3:183–187.
14. Voyvoda N, Yu¨cel C, Karatas G, Oguzu¨lgen I, Oktar S. An evaluation of diaphragmatic movements in hemiplegic patients. Br J Radiol. 2012;85:411–414.

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  # by supersy | 2018-11-07 20:30 | PRI

口呼吸とForward Head Postureについて。

脳を活性したければ鼻呼吸をせよ!という記事はだいぶ前(2017年9月6月)に書きましたけど、今日は口呼吸に関する論文です。
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この論文1、初っ端から飛ばしてます。冒頭部分が鋭い & 面白い!慢性口呼吸のことを"Syndrome (症候群)"と呼び(断言しちゃっていいんだ!)、口呼吸は機能的、構造的、姿勢的、生体力学的、咬合的、そして行動学的な全身に影響を与える様々な問題を引き起こす2としています。

具体的には、口呼吸は1) 鼻の求心性神経、自律神経、交感三叉神経を抑制し、それによって呼吸の頻度と深さが変化する。2) 肺の抵抗(lung resistance)が増え、肺コンプライアンス(lung compliance)が減少する(メカニズムは後述)。3) 口腔内の気道確保と空気抵抗減少のため、頭部を前に突き出し、首が伸展(ここでは伸展と書いてありますが、具体的には頸部屈曲のOA伸展だと私は解釈しています)が起こる。口呼吸とForward Head Posture(FHP)との繋がりはもはやConsensusというレベルで疑いの余地なく確立されている3-7んだそうです。
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"This forward head posture will lead to disorganization of the muscle blocks (anterior, posterior, and transverse muscles), impairing diaphragm muscle mobility and, consequently, diaphragmatic function (p.472).1"

…という個所が特にこれといった文献引用なく断言されているのが面白いのですが(この論文、総じて文献引用は非常に甘い印象です)、内容は十分に頷けます。呼吸時、SCMなどの過活性によって胸郭上部を引き上げるような呼吸メカニズムが主流となり、胸腹部のモビリティーと横隔膜の機能が低下することで、呼吸がより努力・労力を要するものになると。不活性になる胸郭周りの(元来の)呼吸筋は筋力低下し、胸郭拡張力が落ちる→肺換気量も落ち、有酸素運動のキャパシティーにも影響が出るんじゃないか、というのがこの実験のキモ部分のようです。

んで。

口呼吸と通常(鼻)呼吸被験者の呼吸能力と有酸素キャパシティーを計りましょう、というのが実際の検証事項。口呼吸で専門医院を来院してきた8-12歳の患者と、小学校に通う健康な同年代の子供(コントロール群)に専門医が鼻、副鼻腔、喉や耳の診察を行ったのち、1) New York Testによる姿勢評価; 2) MIP(Maximal Inspiratory Pressure)、つまり吸気筋力・能力; 3) MEP(Maximal Expiratory Pressure)、つまり呼気筋力・能力; 4) 6MWD(6-min Walk TestによるDistance)、つまり呼吸機能を最大限活かして6分間でどれだけの距離を歩行できるかという運動機能テストを行ってグループ間の結果を比較したそうです。
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結果を(↑)ひとつのテーブルにまとめてみました。
患者のプロファイリングでいうと、気になるのは口呼吸患者の男児の割合ですかね。男性のほうが口呼吸に陥りやすい(今回は76.7% vs 37.1%, p < 0.001)、というような性差は実はこれまでにも報告されており2,8、男性のほうが女性よりも気道内径が狭く、慢性口呼吸と関係があると言われているアレルギー性鼻炎や閉塞性睡眠時無呼吸症候群も多いとの報告9 があったりするようです。ふむー、解剖学的な差?男女の呼吸差があるかもということか?鼻呼吸をする子供の半数以上(32/62, 51.6%)は正常な姿勢(非FHP)だったのに対して、口呼吸の子供のほぼ全員(29/30, 96.7%)がFHPだったというのは、さすがにConsensusと言い切るだけあるわ…という感じです。逆に一人の口呼吸且つ非FHP患者さんが気になっちゃいますね、この子の呼吸メカニズムどうなってんだろ?と。

吸気能力(MIP)は口呼吸と鼻呼吸との被験者間で約3倍以上(20.0 ± 7.1 cmH2O vs 62.5 ± 21.9 cmH2O, p < 0.001)、呼気能力(MEP)は2倍以上(25.3 ± 11.7 cmH2O vs 58.8 ± 22.3 cmH2O, p < 0.001)もの違いが出たのは衝撃ですし、6分間に歩ける距離(6MWD)も平均60mの差(568.1 ± 47.4 m vs 629.8 ± 47.6 m, p < 0.001)があります。同じ6分間という時間で、だいたい口呼吸の子供たちは鼻呼吸の子供たちの90%程度の距離しか歩けなかったということです。歩いてこうなんですから、走らせたり、もっと距離を伸ばしたりしたら…例えば1.5km走なんかやったりしたら…その差は90%では済まなくなるんじゃないですかね。これらの子供たちが例えばサッカーやバスケットボールの試合で対戦したら、どちらが優れたパフォーマンスを見せるかは既にgiven、といっても過言ではないかもしれません。

しかし、興味深いのがこのテーブルの*と¶部分ですかね。鼻呼吸の被験者内では、寧ろFHPがあるほうが呼気・吸気能力共に著しく高い(p = 0.003, p = 0.004)数値が出ています。それが有酸素運動パフォーマンスに反映されているか、というとそうではない(むしろ20m程劣っている?統計的には有意ではない、p = 0.181)みたいですけど。個人的には、鼻呼吸ができる能力をpreserveした状態で首を前に突き出し口呼吸も併用したら、理屈的に呼気・吸気量は増えるはずなのでこの数値は驚くようなものではないかなと思います。ただこれの状態は一時的なもので、個人的にはこれが本格的な口呼吸・FHPの前駆現象となり、徐々に口呼吸が鼻呼吸を凌駕する形で進行していくのではないかと推測します。あくまで推測ですけども。

結論: 口呼吸は男子に多くForward Head Postureを伴い、適切な鼻呼吸をしている同年代のコントロール群と比較して呼吸筋力が呼気・吸気共に低下し、有酸素運動パフォーマンスも低下した状態にある。

そんなわけで色々口呼吸については調べてはおりますが、今のところ「口腔スペースを広げ、一時的に口呼吸をやりやすくする(→さらに「通常」「正常」の口呼吸から遠ざかってしまう)以外は何もメリットがない(→つまり結局のところ長期的には何もメリットがなく、悪影響しかない」ということが言えると思います。

これから寒くなったら余計に冷たい外気温はしっかりフィルター通して湿らせて・温まらせてから吸ったほうがよいですよ。そのためにもハイ、鼻呼吸鼻呼吸~!
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1. Okuro RT, Morcillo AM, Ribeiro MÂ, Sakano E, Conti PB, Ribeiro JD. Mouth breathing and forward head posture: effects on respiratory biomechanics and exercise capacity in children. J Bras Pneumol. 2011;37(4):471-479.
2. Barros JR, Becker HM, Pinto JA. Evaluation of atopy among mouth-breathing pediatric patients referred for treatment to a tertiary care center. J Pediatr. 2006;82(6):458-464.
3. Huggare JA, Laine-Alava MT. Nasorespiratory function and head posture. Am J Orthod Dentofacial Orthop. 1997;112(5):507-511.
4. Chaves TC, de Andrade e Silva TS, Monteiro SA, Watanabe PC, Oliveira AS, Grossi DB. Craniocervical posture and hyoid bone position in children with mild and moderate asthma and mouth breathing. Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 2010;74(9):1021-1027.
5. Yi LC, Jardim JR, Inoue DP, Pignatari SS. The relationship between excursion of the diaphragm and curvatures of the spinal column in mouth breathing children. J Pediatr. 2008;84(2):171-177.
6. Cuccia AM, Lotti M, Caradonna D. Oral breathing and head posture. Angle Orthod. 2008;78(1):77-82.
7. Neiva PD, Kirkwood RN, Godinho R. Orientation and position of head posture, scapula and thoracic spine in mouth-breathing children. Int J Pediatr Otorhinolaryngol. 2009;73(2):227-236.
8. Di Francesco RC, Passerotii G, Paulucci B, Miniti A. Respiração oral na criança: repercussões diferentes de acordo com o diagnóstico. Rev Bras Otorrinolaringol. 2004;70(5):665-670.
9. Rappai M, Collop N, Kemp S, deShazo R. The nose and sleep-disordered breathing: what we know and what we do not know. Chest. 2003;124(6):2309-2323.

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  # by supersy | 2018-11-06 19:30 | PRI

貴方はどれだけ息を止めていられますか?Gasping for Air: Breath Holding and What Drives Us at Its Breakpoint。

皆さんは「できるだけ長く息を止めてください」と言われたら、何秒くらい止められますか?
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意識を失い倒れるまで、その息を止めていられますか?

…無理ですよね。

ではその「息を吸うまい」とする努力の終わりに、貴方の意識を吸気へと駆り立て、空気を吸えと急かす衝動の正体はなんですか?
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そんな論文があったので読んでみました。1 面白いと思ったことをつらつらとまとめます。つーか、超面白いですコレ。呼吸好きは読んだほうがいい。視点がマニアックすぎる。変。おもしろい!
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この論文の冒頭にもあるのですが、生物が自らの意志で「息を止める」というのはそもそもなかなかに不自然、不可解な行動です。生きようとする努力とは逆の行動ですからね(このスイホウガンちゃんは超例外です 笑 ↑)。実際非人間が自らの意志で地上にいるにもかかわらず5秒以上息を止めることはないので、動物実験ができない、よってこのレビューに含まれているエビデンスは全て人間を被験者に行ったものである、とありますが言われてみればそりゃそうだ。加えて、水中に顔を付けると異なる神経反射が引き起こされる2 とのことで、水中でのbreath-holdingはこの論文では言及されていないそうです。へぇぇぇ。

そもそも、「息を止める」とはどういうことなのか?シンプルに声門(glottis)を気道を閉じ、空気の流れを止める、ということとこれは同義語ではありません。だって、そういった構造が開いていたって息は止められるんですから。そして、呼吸を止められる長さ(duration)に影響している要素とは何なのか?そもそも息を止めていられる長さはかなり個人差があり、そして同一の人物でも環境が違うと13-19%、高い時は37%変わってくるそうなんです。3 ほうほう。

まぁそれでも先の質問にあるように、人間が自分の意志で呼吸を止めた場合、いずれ「限界(breakpoint)」が訪れて我々はどうやったって我慢できずについつい息をしてしまいます(通常は短い呼気が起こり、直後に吸気が続くそうです)。意識消失するまで息を止めていられるニンゲンは普通はいない("practically impossible(p.2)1")というのが現在のエビデンスの示す見解のようで、つまり、それだけの大きな力…抑えきれない意識下(involuntary)の衝動が我々の中で沸き上がってくる、ということなんですけど、我々はこの正体を知らないのです。我々の強い意志をも乗り越え、書き換えるだけの強い「息をしろ」という命令…これは一体誰が出しているものなのか?

Chest Volume Shrinkage and Metabolic Rate
今のところ分かっていることとして、肺を大きく膨らませられればられるほど、息を止めていられる長さは長くなる。そして、代謝率が上がるほど、息を止めていられる時間は短くなるんだそうです(例えばステーショナリー・バイクを漕いでいて、代謝が2倍以上になると息を止めていられる時間も半分以下になるのだとか)。
ふむ。ところで、息を止めている間って、胸郭の体積(volume)は変わらないんだと思いません?胸郭内で酸素が体内に引き抜かれ、それと同量の二酸化炭素がそこに交換で入るんじゃないかと?実はこれは不正解で、実際には引き抜かれる酸素量に取って代わる二酸化炭素量がマッチせず、胸郭のボリュームは息を止めている間、だんだんしぼんでいくのだそうです。ということは、個人がどれだけ息を長く止めていられるかは、そもそもその人がどれだけ息を止め始める前に(変な日本語ですが)どれだけ胸郭を膨らませられるかにかかっているのではないか?という仮説が立てられます。しぼみ切ったところで呼吸衝動が高まり、呼吸強制再開(breakpoint)を迎えるのだろうと。
しかし、この仮説は仮説で否定されているようなんですよね。例えば息を止めている最中に呼気を交えて胸郭のしぼみを早めたり、異なる気圧下で同じ手順を繰り返してみた研究などでも呼吸を止めていられる長さが短くなるようなことはかなったそう。肺がしぼみ切った、というメッセージが脳に行かなきゃいいのか?ということで肺や心臓の移植手術を受けた患者や、硬膜外麻酔を受けた患者も検証してみたようなんですが、これらの患者にも正常な呼吸衝動が見られたことから、「胸郭がこれ以上しぼめなくなったら呼吸強制再開」という単純な今日からの神経信号によるメカニズムではないようです。

Oxygen and Carbon Dioxide
息を止めている間、動脈血酸素分圧(arterial partial pressure of oxygen, PaO2)と呼気終末酸素分圧(end tidal partial pressure of oxygen, PetO2)は減少、動脈血二酸化炭素分圧(PaCO2)と呼気終末二酸化炭素分圧(PetCO2)は増大し、それぞれ通常値とされる100 mmHg/40 mmHgを下回る/上回るんだそう。一般的にBreakpointとなるときのPetO2は62±4 mmHgで、PetCO2は54±2 mmHgくらいなのだけれど、ここから我慢すればするほどさらにそれぞれの数値は減少・増大を続けるんだとか(理論上意識を失うのはPetO2が27 mmHg以下、PetCO2が90-120 mmHgあたりを越えてきたあたりなのではと推測される)。お、ということはBreakpointは酸素・二酸化炭素の閾値によって定義されており、これらの濃度に敏感なCarotid Chemoreceptor(頸動脈化学受容器)によって作られているのでしょうか?これを逆手に取れば、事前に高濃度の酸素を吸うなどしてPa/etO2を引き上げられる、もしくは過呼吸状態を作ってPa/etCO2を下げることができれば息を止めていられる時間も長くなるという、そして、hypoxia/hypercapniaの状態から始めればそれだけ止めていられなくなるという仮説が立てられそうです。ここらへん、どうなのでしょう?
実はこれらの仮説も実験によって既に否定されているんだそうです。元々のPa/etO2が高けりゃ高いまま、Pa/etCO2が低けりゃ低いままBreakpointを迎えるんですって。一度呼吸を停止させ、そのBreakpointを迎えたときに、窒素ガス(さらにPaO2を下げ、PaCO2を下げる)を吸わせればヒトはそこから再度20秒の呼吸停止ができるって研究もあるらしいですしね(なんて実験だ)。血中酸素・二酸化炭素濃度の目安数値こそあれ、これらはBreakpointをdictateしないんですね。頸動脈化学受容器を切除(denervation)してもBreakpointは起こるという研究も報告されていますし、単純に頸動脈化学受容器が感知できるChemical Imbalanceによって起こるものではなさそう。

まだ生きているのは、頸動脈の酸素・二酸化炭素バランスに敏感な頸動脈化学受容器でなくて、より作用が大きいのは横隔膜の形状やトーンに関わる横隔膜感覚受容器なのではないか、という説なんだそうです。PeripheralではなくCentral Chemoreceptorから主だったシグナルが来ているのではないかと。それに関わってくるのが、「リズム」というコンセプトです。

The Central Respiratory Rhythm
生命には2つのリズムが宿っています。心拍と、中枢呼吸リズム(central respiratory rhythm)です(この名前は、脳幹がセットする呼吸のアクティビティーレベルと、横隔神経による動的アウトプットを反映しているという意味で使われているそうな)。ヒトは心拍を意識レベルでほとんどコントロールできませんが(よーし、心拍数を毎分きっかり62にするぞ!なんてできませんよね)、呼吸リズムは比較的用意にコントロールが可能です(呼吸数を毎分15回にしよう、と思ったら時計見ながら合わせられますよね)。では、我々が息を止めている間、中枢呼吸リズムは完全に停止しているのでしょうか?
これは研究が難しく、様々な議論を呼んでいる分野らしいのですが、著者の意見は否!中枢呼吸リズムによって支配される呼吸性不整脈(respiratory sinus arrhythmia)、つまり呼吸に伴う心拍数の変化の変化を追った研究があるのですが(↓)、呼吸を止めている間にもこれらの活動(赤矢印や赤四角部分)は続いており、著者は「息を止めている間中、中枢呼吸リズムは継続して身体の中で刻まれている」とその解釈を示しています。

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ここから示唆される可能性は複数あって、
1. ニンゲンは、中枢呼吸リズムは絶対的制御ができない。我々が「呼吸を止めている」状態は、あくまで胸郭を固め、中枢呼吸リズムを「抑制(suppress)」しているだけであって、このリズムごと「止める」ことはできない(…恐らくそのメリットも必要もない、というのが私個人の考え)。
2. 息を「吸って止める(inspiratory breath-hold)」とか「吐いて止める(expiratory breath-hold)」という今までの研究に使われた概念や言葉は適切でない…何故なら実際は呼気、吸気で身体が「止まる」わけではないからだ。もっとシンプルに「inflation breath-hold(胸郭を膨らませた状態での息止め)」や「deflation breath-hold(胸郭をしぼませての息止め)」という言葉を用いるほうが好ましい。
3. これまでに行われたいくつかの研究は中枢呼吸リズムが止まるという前提で行われてきたが、この前提がそもそも成立していないことになる。
4. …となれば、人体における化学受容器の全てが中枢呼吸リズムに貢献していると考えられるべきか?(個人的には生命維持のシステムなのだから保険は三重、四重にかけてあるはず。そうでないほうがおかしい)

Paralysis of the Diaphragm
1960年代に、横隔膜を(d-ツボクラリンという強力な弛緩剤を注入し)人工的に麻痺させ自発呼吸停止状態を作り、そのBreath-holdを観察するという改革心と探求心に満ち溢れた研究4-6 が行われたんだそうです。被験者には人工呼吸器を入れ、被験者が望んだとき、もしくは意識消失した際にはすぐに呼吸を再開できるようにしていたらしいですが…現代では人道的、倫理的に絶対に繰り返すことのできない研究デザインですね。詳細は是非本文を読んでみてください。ひー、寒気がします。ここらへんから横隔膜を麻痺させると何らかのフィードバックシステムが阻害されて息が長く止められるようになりました、という考察が導けるそうなんですが、
①横隔神経からの感覚入力(phrenic afferents)は横隔膜の活動を調整(modulate)する。これは動物からのデータですが、猫や犬、ネズミの横隔神経の30%は求心性(500-800 afferent per nerve)なんだそうで。これらの感覚入力が無くなると呼吸衝動がより抑えられるということの反映にもなるということなのか…。
②しかしこれらの求心性フィードバックは主にどんな情報を脳に送っているのか?横隔膜の状態(proprioception)?その疲労度?興味深いことに、息を止めている間に横隔神経の運動的シグナリングがどう変化するかということを追った研究はないのだそう。ここらへんは単独で動くのか、前述した動脈血酸素・二酸化炭素濃度とも連絡しながら活動を決めるのか?
③そしてそれらのフィードバックはどう使われているのか?普通の人は横隔膜を「感じる」力に長けてはいないので(これだけ求心性感覚受容器が存在するのに…それも変な話だけど。我々が感じられないと思っているだけでは?)、筋活動の状態などを「不快感」として感じて、息をしなければというメッセージとして受け取っているのか?
④この感覚と動作の統合はどこで起こるのか?脳幹と考えるのが最も自然かもしれないが、皮質や脊髄レベルでの統合がないとも言い切れない。しかし意識的に変化させることができるものでもあるし…。むむむ。謎は深まるばかり。

Anesthetic Blockage of the Vagus Nerves
迷走神経(CN X)と舌咽神経(CN IX)にブロック注射(リグノカインという局所麻酔薬)することで息止め時間が3倍まで長くなった、という研究も複数7-9あるんだそうで。この際、「第3頸椎のブロック注射によって息止めの感覚("the sensation of breath-holding"...これが具体的に何を示すのかは不明)が薄まった」故に「この『感覚』は迷走神経反射起因の『もうちょっといい加減にしてよね』という横隔膜の収縮("frustrated contractions of the diaphragm")が生み出しているのではないか」と考察する研究者もいたそうです。9 この研究結果はもう少し陽の目を浴びてもいいのではないかと述べたうえで、これらの研究では横隔膜神経はintactだったことから、横隔膜の感覚入力は横隔神経より迷走神経の比重のほうが重大なのでは?とさらに著者は論じています。

そんなわけで、まとめです。著者は、この論文の結論に繰り返し「横隔膜のbreakpointへの貢献度」を強調しています。
- 横隔膜のproprioceptorとchemoreceptorが中枢呼吸リズムに及ぼす影響は大きく、これらの求心性刺激により横隔膜が収縮を起こしたくなる衝動を我々は「(息を止めている際の)不快感」と感じる。
- この衝動は無意識下から湧き上がってくるもので、脳幹によって制御されているというよりは脊髄反射に近いメカニズムかもしれない。
- 中枢呼吸リズムは我々が意識下で制御できる範疇を越えており、息を止めても止まらない。しかし、呼吸を止めることで抑制(suppress)することが可能なのであれば、過呼吸など呼吸需要が高まっていると患者が思い込んでいる(= 感覚と需要のミスマッチが起こっている)場合に息を止めることが治療として使えるのは納得がいく。
- 文中には「横隔膜からの感覚入力が増えればフィードバック量が増え、感覚的ミスマッチが増大する」とあるが、逆に言えば、息を吐ききって胸をしぼめ、横隔膜をリラックスさせてトーンを下げた状態で息を止めれば、フィードバック量が減って感覚ミスマッチが増えるということでもある?と私は考えます。これをBreakpointまでholdすると逆に求心性刺激が増えてしまうかもですが、呼気を作って数秒保持することで、患者の呼吸をしなければいけないという衝動と、いや、実際しなくても別に平気じゃん、横隔膜さん、もちょっとリラックスしましょうぜっていう抑制刺激とがもう少し調和をし始めるんじゃないか、と思ったり…。

最後は私自身の見解も入ってしまいましたが、なるほど、改めて私が普段使うエクササイズの中に「息を吐ききって、3-4秒止める」という表記があることへの理解、感謝が深まりました。横隔膜の感覚と、実際の呼吸実態とのミスマッチ…。息を止めるという観点からでも、これだけ論じられるものなんですね。ちょっと読みにくかったですが、読み応えは十分にある論文でした!

1. Parkes MJ. Breath-holding and its breakpoint. Exp Physiol. 2006;91(1):1-15.
2. Sterba JA, Lundgren CE. Diving bradycardia and breath-holding time in man. Undersea Biomed Res. 1985;12:139–150.
3. Bartlett D. Effects of valsalva and mueller maneuvers on breath-holding time. J Appl Physiol. 1977:42:717–721.
4. Campbell EJM, Freedman S, Clark TJ, Robson JG, Norman J. Effect of curarisation on breath-holding time. Lancet. 1966;ii:207.
5. Campbell EJM, Freedman S, Clark TJ, Robson JG, Norman J. The effect of muscular paralysis induced by tubocurarine on the duration and sensation of breathholding. Clin Sci. 1967:32;425–432.
6. Campbell EJM, Godfrey S, Clarke JH, Freedman S, Norman J. The effect of muscle paralysis induced by tubocurare on the duration and cessation of breath holding during hypercapnia. Clin Sci. 1969;36:323–328.
7. Guz A. Effects of blocking the vagus nerves in Man. In: Howell JBM, Campbell EJM, eds. Breathlessness. Oxford, UK: Blackwells;1966: 65–71.
8. Guz A, Noble MIM, Widdicombe JG, Trenchard D, Mushin WW, Makey AR. The role of vagal and glossopharyngeal afferent nerves in respiratory sensation, control of breathing and arterial pressure regulation in conscious man. Clin Sci. 1966:30;161–170.
9. Noble MIM, Eisele JH, Trenchard D, Guz A. Effect of selective peripheral nerve blocks on respiratory sensations. In: Porter R, ed. Breathing: Hering–Breuer Centenary Symposium. London, UK: Churchill;1970:233–247.

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  # by supersy | 2018-11-05 19:30 | PRI

スポーツ中に起こる内臓損傷の実態

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こりゃーワクワクするタイトルです!一昨日発表になったばかり!早速読んでみます。

アメリカでは現在、スポーツ現場で起こる障害を記録するシステム(Injury Surveillance)として3つの大きな枠組みが存在します。High School-RIO(高校スポーツで起こる怪我監視システム)と、NCAA-ISP(大学スポーツで起こる怪我監視システム)と、NCCSIR(高校・大学の全米規模のCatastrophic Sport Injury監視システム)。これらの超巨大情報バンクから毎年刺激的な論文がバンバン出ていますが、中でも内臓損傷(Internal Organ Injury)の論文ってなかったよね、需要はあるよね、ということで、過去10年(2005-2006年から2014-2015年まで)に起こったスポーツ中の内臓損傷を振り返ってみましょう!というのが今回の論文です(3つのスポーツ傷害監視システムの詳細については本文のTable 1をご参照ください)。

*ちなみに今回の論文、ターゲットにしたのはDirect Contact(i.e. ヒトや道具、地面による衝撃)による腹部ないしは胸部の内臓損傷(i.e. 肺や腎臓など)で、Commotio Cordisは臓器の直接的損傷というよりは心拍リズムの乱れが原因で起こるので当論文の対象からは除外しました、だそうです。個人的には入れてもよかったのではと思いますが。

では、結果です。

過去10年間で3つのシステムに報告されたスポーツ傷害データによれば、Direct-Contactによって起こった内臓損傷は全部で174件だったそうです。内訳は、
 High School-RIO: 124
 NCAA-ISP: 41
 NCCSIR-HS (catastrophic): 7
 NCCSIR-College (catastrophic): 2

怪我の75.3%(131/174)が高校で起きているんですね。しかし、競技人口が大学のそれより格段に多い点を考慮に入れ、受傷率(Injury Rate = IR, /1,000,000 AEs)に直すとやはりリスク同程度(高校:IR = 3.49, 95%CI 2.87-4.10; 大学: IR = 3.55, 95%CI 2.46-4.63)とのことですが。患者の性別はそのほとんど男性で(高校: 111/131, 84.7%; 大学: 18/20, 90.0%)、傾向としては1) 半数以上がフットボールで起こっている(高校: 65%, 大学: 58%)、2) 約半数からそれ以上が(練習ではなく)試合で起こっている(高校: 67%, 大学: 49%)、3) そして半数以上が他プレイヤーとの接触で起こっている(高校: 78%, 大学: 68%)、という点が挙げられます。

競技別に受傷率(IR, /1,000,000 AEs)を見ると…
 - 高校フットボール: IR = 11.68 (9.12-14.24)
 - 高校ラクロス: IR = 10.00 (3.07-16.93)
 - 大学フットボール: IR = 8.30 (4.98-11.62)
 - 大学アイスホッケー: IR = 7.85 (0.97-14.73)

…が一位と二位になるようで。やっぱりフットボールが高校・大学の両レベルで多いのは明確ですね。そこで過去10年間のフットボールにおける内臓損傷率を並べてみると…
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件数が少ない分決定的なことは言いにくいですが、明らかに増加傾向にあるとか、減少しているとか、そういうハッキリとしたことは言えないようです。個人的にはスポーツそのものの「アタリ」がキツくなったりはしていますが、練習量の制限がより厳しくなったり、タックルの技術に関しても安全指導が進んだことによってリスクの増減が相殺されているのかな、などと勝手に考察しましたが。ともあれ、過去10年に内臓損傷のリスクに大きな変化はなかった、というのがこの論文の結論でした。

NCCSIRによれば、内臓損傷による重篤な事故(catastrophic injury)は過去10年で9件報告されており、これらもやはり1) 高校で(7/9)、2) フットボールで(7/9)、3) 試合中に(5/9)、4) 多プレイヤーとの接触で起こった(6/9)という傾向はそのまま反映されています。うち、4件は死亡、5件はsemipermanent or permanent disabilityに繋がったそうです。
4件の死亡例の詳細は、
 - 14歳の高校生チアリーダー。バスケットトスの最中、回転が足らず、腹部から下に落ちる形でキャッチされる。腹部の痛み、息苦しさを訴えた後に意識消失。脾臓破裂で出血多量による死亡。
 - 18歳の高校生フットボール選手、タイトエンド。前後2プレイヤーにタックルされ、脾臓と小腸を損傷。手術をするも合併症で命を落とす。
 - 15歳の高校生フットボール選手、ワイドレシーバー。ボールキャッチの際、2人のプレイヤーに挟まれるようにタックルを受け、その後自力でサイドラインまで歩行するも意識消失。肝臓損傷で翌日死亡。
 - 20歳大学ロデオ選手。チェストプロテクターを装着していたが、牛に胸部を踏まれ死亡。詳しい臓器は不明だが、書き方からは複数の臓器の損傷が想像される。
…という感じ。読んでいるだけで痛々しい。ううう…。
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具体的な(非・死亡例も含む)内臓損傷について、残念ながらRIOのデータではどの臓器が、という情報が欠損しているため、NCAA-ISPとNCCSIRのシステムからのみの情報になりますが、詳細をまとめると…
 - 受傷数トップが腎臓(ISP = 33.9%, NCCSIR = 14.9%)と脾臓(ISP = 14.3%, NCCSIR = 57.1%)
 - 次いで肺、腸、肝臓、膵臓、そして複数の臓器の同時損傷

…とのこと。私、死亡例ばかり頭に残っていたからか脾臓・肝臓が一番多いのかと思ってました…。腎臓もかなり頻度は高いのね。死亡に繋がることが少ないってだけか。

そんなわけでまとめると、
 - スポーツ外傷において、内臓損傷が起こることは稀である
 - しかし、いざ起こると重篤な被害を起こすのもまた事実である。一次予防に取り組んでいくことはもちろん、現場で働くATが腎臓、脾臓、肺、腸、肝臓、膵臓などの内臓損傷の兆候をいち早く疑い、見つけ、迅速に適切な医療機関への受け渡しをすることが二次予防につながる。

というところに尽きるかなと。日本版NCAA…UNIVAS?でしたっけ?が始まったら願わくば各大学にアスレティックトレーナーが配属されることが義務付けられるようになるといいなと思っていますが(その際はJSPO-ATの資格保有を必須にすべきと個人的には感じています)、その際にNCAAで実際に行われているようなInjury Surveillanceのシステムを導入し、「日本大学スポーツで起こる全ての怪我がセントラル・ロケーションに記録されている」状態を作るのは今後この国でのスポーツ発展に必要不可欠だと思います。捻挫や前十字靭帯断裂といったスポーツ外傷のリスクマネジメントや、熱中症や頭部外傷などの死亡事故の予防もまず現状のリスクを把握するところから始まらなければいけませんからね。ここで得られた情報が我々の未来への知識の欲求を形成し、それが未来のAT育成の教育にも反映されるのですから、こういったシステムの構築についてUNIVAS内で活発に議論されていることを祈ります。私はそこから出てくる論文を将来読んで、NCAAのものと比較したりしてウハウハ楽しく勉強させてもらえるのを楽しみにしてます。

1. Kucera KL, Currie DW, Wasserman E, et al. Incidence of sport-related internal organ injuries due to direct-contact mechanisms among high school and collegiate athletes across 3 national surveillance systems [published online on October 30, 2018]. J Athl Train. 2018. doi:10.4085/1062-6050-271-17.

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  # by supersy | 2018-11-01 19:30 | Athletic Training

NATA最新Position Statement、「Patellomofemoral Pain(膝蓋大腿疼痛)に対するマネジメント」を読み解く。

にゃー立て続けに!
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また新たなNATA Position Statement1 がリリースになりました!今度はPatellofemoral PainのManagementについて。これ結構前の全米学会で少し聞いたかも。とりあえず読んでみましょう。今回も各項目の推奨度がStrength of Recommendation(SOR) A, B, Cに分類されているので、いつも通り、A = what we must do、B = what we should do、C = what we can doと勝手に解釈して要約したいと思います。

【導入部】
Patellofemoral Pain(PFP)は運動を日ごろからする、特に女性に多く、この障害を発症する70-90%の患者は症状が再発したり慢性化するなど被害は甚大である。治療介入は短期で一定の効果を発揮するが、長期となるとなかなかアウトカムが思うように向上しないこともあり、整形外科界のブラックホールとも称されることもある。これは我々のPFPという障害に対する不十分な背景的知識の欠如を示しているのかもしれない。

【Risk Factors (危険因子)】
1. 1) 走行時、着地時などダイナミックな動作に伴う股関節内転と内旋(推奨度・B)、2) 走行時やドロップ着地時の膝外転的衝撃(推奨度・B)、3) 外側踵、第2・3中足骨を地面に叩きつける(increased vertical peak force)ように走る(推奨度・B)*1、4) 外側広筋と比較した、内側広筋、特にVMO部位の発火のタイミングの遅れ(約0.30~0.67ミリセカンド、推奨度・C)、5) 大腿四頭筋タイトネスと垂直飛びのパフォーマンス低下(推奨度・B)はPFPの危険因子である。同様に、6) 大腿四頭筋の出力低下*2はリスクを上げる(推奨度・B)が、一方で 7) 股関節外転・外旋・伸展のisometric出力低下とQアングル、足部のアラインメントや下腿から踵の角度などの静的計測はリスクに影響を及ぼさない(推奨度・B)、
*1Supination(回外)からの充分なPronation(回内)が起こっていないということか?Foot wobbleが足りずにhard landingになっている?
*2これはisometricなのかcon/eccentricなのか不明。元の論文読んでみないとなー…。

【アウトカム計測】
2. 治療介入をする段階になったら10段階のVASで痛みの変化を追い、前週と比較して2.0以上VASの数値に変化があれば「臨床的に有意な改善・改悪があった」と捕えられるべきである(推奨度・B)。
3. その他に使うPatient-Based Outcome MeasuresとしてはAnterior Knee Pain Scale (AKPS, MCID = 10.0)かLower Extremity Functional Scale (LEFS, MDC = 8.0)*3が挙げられる(推奨度・B)。
*3 いやいや、そこはどちらもMDC、MCID両方書いてくれないと!もしやここはまだestablishされてない?それを推奨するって、どゆこと?

【保存治療】
4. PFPは複数の要因が絡まって起こる障害であるからして、治療も多角的(multimodal)でないといけない。具体的には殿筋+大腿四頭筋の強化、Patient EducationとActivity Modificationなどを含むべきである(推奨度・A)。エクササイズプログラムは(大腿四頭筋よりも)殿筋の強化により重きを置き(推奨度・B)、内・外腹斜筋、腹直筋、腹横筋、脊柱起立筋、多裂筋*4に重きを置いたコアエクササイズも同時に処方されるべきである(推奨度・A)。
5. PF関節にかかる負担を減らすため、大腿四頭筋のエクササイズをする際は、NWBのポジションでは膝の屈曲角度は45-90°の間で、WBの場合は0-45°の角度で行うべし(推奨度・C)。この際、膝蓋骨テーピング(McConnell Tapeのことだと思われるが、明記なし)をすることで痛みを軽減しながらのエクササイズが実現することも(推奨度・B)。
6. リアルタイムの視覚や聴覚によるフィードバックを使いながら外側膝などの危険因子となる動作に介入していく(movement retraining)べし(推奨度・A)。
7. 必要があれば足底版や超音波、レーザー治療なども併用するべし(推奨度・B)。
*4 これ全部、本当に?と個人的には思いますが…。膝だけじゃなく、もう少しHolisticに行こう、というメッセージとしてならともかく…。腹直筋と脊柱起立筋鍛える必要あります?横隔膜と骨盤隔膜はどうした?この分野に関しては、他にも私は今はこれは絶対しない、と言いたくなるものも多くあります…。ぐぬぬ。

【手術介入】
8. 明らかな膝蓋骨の不安定症があったり、保存治療が失敗したときにのみ手術を考慮するべし(推奨度・A)。
9. Lateral Retinacular Releaseは 膝蓋骨の過度なlateral tiltingのみがあり、不安定症や軟骨の高度損傷が付随していない場合に限り有効である(推奨度・B)。
10. Tibial Tuberosity Osteotomyなどのリアラインメント手術もPFP、不安定症がある患者には有効である(推奨度・B)。

背景部分で面白いところを抜き出すと、危険因子の中にVMOの発火の遅さの言及などあるのだから、VMOをターゲットにトレーニングすればいいのでは?となりそうだけれども、この歴史的に良いとされてきたトレーニング法は、(特にVMOにターゲットに絞らず)大腿四頭筋全体を鍛えたトレーニングに何ら利益を足さないことが分かっている、という部分でしょうか。つまりもう、「はいーVMO鍛えますよ、Quad Setやりましょつんつんつんつん…」みたいなアプローチに拘ることはPFP患者にとって有益ではないということですね。本文中にRussianなどのNMESなどの電気治療を足すことによる追加利益はほとんどないと明記されていますし。これは聞かせてあげたいATがたくさんいる…。

大腿四頭筋強化に有効なエクササイズの一例として、本文では以下(↓)のようなものが挙げられています。まぁびっくりするようなものはありませんかね。総じて大腿四頭筋よりも殿筋、体幹の筋肉に重きを置いたトレーニングのほうが改善が早い、という個所も興味深かったです。
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ただね、やっぱり何度か読んでみても全体的に保存治療の箇所に納得がいかないんですよ。結局対処療法の域を出ていないように見える。例えば着地時に大腿が内転・内旋する→過度に膝外転し過ぎてはいかんと脛骨が外へ捻りかえし、足部は回外する…という多関節筋連鎖的リンクがあるとして、これによって膝部で捻じれが生じ、結果patellar pullが乱れPFPが起こっている…んだとしたら、問題は大腿を内旋位に持ってきている前傾した骨盤にありそうだし、それは当然殿筋群の活性を乱す原因になりえるでしょう。そう考えると臀部への介入でアウトカムが向上するのも納得がいきます。しかしその場合、介入すべきは本当に「臀部」なのか?そもそも骨盤を前傾させたのは誰なのか?ここらへんに私はこのPosition Statementが触れなかった横隔膜と骨盤隔膜が一役買っていると考えます。特に意志なく、言われた通り動く膝蓋骨を悪者に仕立て上げて、Lateral ReleaseしてみたりTibial Tuberosity移動させてみたりするような時代は完全に終わったと思っていたし、あそこらへんの手術が長期でそれほど有効なアウトカムを生んでいないのはエビデンスもそれなりにあるかと思っていたのですが(いや、よほどExtremeな形成異常がある患者の場合は有効かもしれませんが、少なくともTibial Tuberosity Osteotomy手術を受けた一人の患者としてこの手術は今の知識があったらしていなかったとは声を大にして言いたいです)。

そもそもの危険因子の研究がほぼ全て後ろ向きなので、因果関係の証明になっていないんですよね。だからそこに介入すればいい、という理論の裏付けが不十分なんです。何故損傷を起こしていないVMOの発火がVLに比べてほんの少し遅れてしまうのか、どうしてその発火パターンが見についてしまったのか?この原因究明と介入を話すことがない限りは、アウトプットをいくらいじっても仕方がないでしょう。このままでは「整形外科界のブラックホール」から完全に脱せるようになるまではあと10年はかかるんじゃないかと思ってしまうような内容でした。私が5年、10年前に捨てたPracticeが良しとされているのを見るのは衝撃的で、非常に複雑な思いです。私のリハビリの観点、人を見る視点がそれほど一般のATからズレてきてしまっているということかも知れませんが…。

ただ、この分野の専門家の集まりである著者らを責めることもできないのも事実です。文中に何度も書かれているように、そもそも現状、発表されている研究の一貫性やデザイン上の考慮が足りない部分が多すぎる。加えてPFPという障害が起こるにあたって患者の身体の中であまりに複雑に複数の要素が絡み合いすぎていて、このデータはどこのmanipulationによって変化があったのかなど判断し辛い。確かに「現時点で出ているエビデンスに基づいて、全ATに分かりやすいように無難に」書くならばこういう文章になるのもわかります。そうせざるを得ないのは、よーくわかります。悲しいですが、まだまだ患部に電気治療にアイシングする程度の狭い臨床感しかないATも数多くいるのでしょうから、「殿筋や体幹にも目を向けてね」というメッセージをNATAとして発信できただけでもう充分今回のPosition Statementには意味があったというのが現状の可能性はあります。

私はPosition Statementを読むのが好きです。しゃくしゃくもぐもぐ読んでいく中で、プロのATとして、我々は最低でもどこまでを知っていて、何ができることを「よし」とされているのか、それを自分の心に刻み込むように確認できるからです。

Position Statementの中には、エビデンスレベルが覆らないレベルでもう充分に高く、「完成形」に近い、と私が個人的に感じることもあれば、これはまだまだだなぁ、良質のエビデンスが圧倒的に足りないなぁ、と感じる分野もあります。今回のPosition Statementが出たことはいつものように有難く受け止め、専門家さんの尽力に感謝して誠意を持って読ませていただきましたが、この内容がまだまだ満足すべきレベルに達していないことは誰の目にも明らかだと思います。誰の悪口を言いたいわけじゃありません。PFPに関するエビデンスがもう一回り熟すのを待ちながら、その間ここに書かれた内容以上の治療が提供できるよう勉強し続けていきたいと思います。

1. Bolgla LA, Boling MC, Mace KL, DiStefano MJ, Fithian DC, Powers CM. National athletic trainers' association position statement: management of individuals with patellofemoral pain. J Athl Train. 2018;53(9):820-836. doi:10.4085/1062-6050-231-15.

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  # by supersy | 2018-10-31 23:40 | Athletic Training

NATA最新Position Statement、「アスレティックトレーナーのWork-Lifeバランスの促進について」を読み解く。

How did I miss this? このPosition Statement, 発表は今年8月になっていますが、一週間ほど前まで目にしませんでした!早速読んでみましょう!
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まずはこのPosition Statementが発表されるに至った経緯についてざっと妄想したいと思います(注: あくまでも個人の妄想です)。正直言ってこのPosition Statementに特に我々が読んで目からウロコが落ちるような目新しい情報はないのですが、1) NATAがこのPosition Statementを出さなければいけないと危機感を感じるほど、現状、ATがWork-Lifeバランスを保てていない→結果、28~30代にかけて離職率が高いことを深刻に危惧しており、組織として何かアクションを取らなければと思っている、ということ。そして、2) 全米各地で働くATがこのPosition StatementをNegotiation Toolとして使って積極的に雇用主と労働環境について討論し、各職場環境を改善してほしいと思っていること…が背景にあるんじゃないかと思うんです。我々が今まで許してきた悪文化、例えば「on call 24/7(電話があれば24時間365日いつでもすぐに対応する)」から本気で脱却しようとしているその気持ちの表れだと思うんですよね。覚悟を感じます!

では、実際にPosition Statementに書かれている推奨事項をまとめていきたいと思います(いつもはかなり簡略化しながらさっぱり要約するのですが、今回はそれを殆どせずに原文に比較的忠実にまとめようと思います)。他分野のPosition Statementにあるように、今回も各項目の推奨度がStrength of Recommendation(SOR) A, B, Cに分類されているのですが(そしていつもA = what we must do、B = what we should do、C = what we can doと勝手に解釈してますが)、この分野のエビデンスはRCTをしてどうこうというものでもないので結局のところほぼ全ての項目が推奨度Cになっています。

管理職員や監督者が考慮・実践すべきこと
1. ATに対し、gender-、marital-、parent-neutralなWork-lifeポリシーを作成するべし。このポリシーにはpersonal leave(病欠、休暇などを含む欠勤)やpatient-care coverage(通常営業時間の設定やその例外、medical coverageの定義、イベントの予定変更はいついつまでに連絡する)についての規則などが含まれているべきで、全メディカルスタッフ、コーチや管理職員全員が持つ共通理解として伝達しておく必要がある(推奨度・C)。
2. ATとコーチ・管理職員とのミーティングを定期的に(最低でもシーズン開始前に一回)持ち、その際にはミーティングのアジェンダを前もって作っておくべし(推奨度・C)。
3. ATスタッフ一人一人の仕事量、ニーズを公平に評価するべし(推奨度・C)。
4. 新規雇用になったATには先輩職員をメンターに付け、組織としてWork-lifeバランスについての教育を積極的に行うべし(推奨度・C)。
5. それぞれが個の責任を全うしながら必要があれば仕事をシェアし合う、というModified Job Sharingシステムを採用し、イチ職員にとって重要な用事(病院のアポや友人の結婚式、子供の発表会な一日オフなど)がある場合、お互いをカバーし合う形で勤務できるようにすべし。例えば夏休みの間には全スポーツ選手用にATセンターを一か所だけ開けておき、シフト制の勤務に切り替えることで休みを取り合うシステムを実施するなど、秋学期開始前にリフレッシュする機会を積極的に設けるべし(推奨度・C)。
**この項目は個人的には画期的です!何故なら「個人的な用事」の例に実際に"...such as a wedding, a child's recital, or a day off(p.798)"と、本人にとって大事であれば周りの全員が大事だと賛成しなくてもいいような些細なこと…「(休みたいときの)a day off」まで明記されているからです。私もこの年になって、頑張るときは覚悟決めてシートベルト締めてアクセル全開で頑張るけど、「あーもう休まなきゃだめだ!」というときは休む以外ないと実感します。だましだましいくにも限界があります。本人の「ここで一日休みたい/休まないと仕事の質が保てない」という声には皆で耳を傾けるべき!もちろんそれを特定の個人が乱用するようなことがあってはダメだけど。

6. 職員が社会的・精神的サポートを要しているときは、それを提供すべし。ポリシーの積極的な実践を推奨し、形式的、非形式的の両方の手法でATがその価値を認められているという実感を作るべし(推奨度・B)。
7. スタッフの努力を認め、それに見合う褒美を与えるべし(これは金銭的なものばかりでなく、予期せぬ休日や「ありがとう」の言葉なども含む)(推奨度・C)。
**ああ、どうしてこんなことがわざわざ書かれなければいけないのか!しかし、ATは恐ろしいほどに上司からその「ありがとう」がもらえないこともあるということである。ちなみに私は大学で5年間ATをとして勤務したがAthletic Directorに直接感謝の言葉を伝えられたのは一回しかない。

8. 自己も健全なwork-lifeバランスの実践者であれ(推奨度・C)。
9. ホリデー・パーティーや一年お疲れ様会を設け、仕事内外のお祝い事を組織として喜ぶべし(推奨度・C)。
**個人的には仕事じゃないなら早く家に帰らせてくれと思うタイプですが(苦笑)、アメリカだったら喜ぶ人も多いでしょうねー。うちの昔の大学でも料理持ち寄りパーティーとかやったなー。

10. 仕事が終わっているなら早い帰宅を許すなど、可能な時に積極的に仕事から離させてあげるべし(推奨度・C)。
11. 学会参加など知識を広げよう、プロフェッショナルなネットワークを広げようという職員の努力を理解し、金銭的にも応援すべし(推奨度・C)。
12. 適切な時には仕事とプライベートの統合を許すべし。お昼休みに光熱費の支払いを済ませたり、職場に家族を連れてくるなど、仕事に支障が出ていなければ許すべし(推奨度・C)。
13. 仕事量の多い、責任の大きいクリニシャンに積極的により高い給与を払うことで、公平感を共有し仕事の満足度を上げるべし(推奨度・C)。
14. NATAの発表している"Recommendations and guidelines for appropriate medical coverage of intercollegiate athletics"2を参考に、フルタイムのATの雇用に積極的になるべし(推奨度・C)。
**それぞれのスポーツにHealth care unit(HCU)という単位を設け(各スポーツの受傷率や治療に必要な時間によって決定されるほか、遠征なども5日あたり0.25HCUにカウントされる)、一人のATあたり年間12HCUを越えないように、という旨のことが謳われている。詳しくはリンク先参照。

個々のATが職場で考慮・実践すべきこと
15. 緊急時以外は何時から何時までの連絡しか取らないなど、明確な境界線を引くべし。その際、「緊急事態」とは何を指すのかも明確に定義しておくべし(推奨度・C)。
16. 日々やるべき職務も、プライベートなニーズを満たすこともどちらもしっかり優先すべし(推奨度・C)。
17. 全スタッフ、コーチ、選手に管理職員とのコミュニケーションを明確にし、イベントのcoverageなどポリシーをしっかり共有しておくべし(推奨度・C)。
18. プロとして、そして一人の人間としての目標を設定し、それらを達成するための計画を前もって練るべし(推奨度・C)。
19. 仕事をしていく中で自分の役割や新たな機会などが徐々に明確になってきたら、豊かな人生を保つためにきちんと職場に対して交渉をするべし。時にはnoと言ったり、責任を他人に依託することも必要である(推奨度・C)。

個々のATが職場外で考慮・実践すべきこと
20. 職場を出たらATとしての役割に区切りをつけ、日常的にプライベートな時間を設けて自らにエネルギーをチャージするべし(推奨度・C)。
21. 助けが必要な時は助けを求めるべし(推奨度・C)。。
22. 定期的に運動したり、健康的な食事を摂ったり、睡眠を十分に取る、趣味を楽しむなど健康なライフスタイルを実践すべし(推奨度・C)。
23. 仕事で真っ当すべき役割と、プライベートでのそれを区別すべし。務める役割は一度にひとつに絞るべし(推奨度・C)。
24. チームプレイヤーとなり、仕事上の責任を同僚とシェアすべし(推奨度・C)。
25. Work-lifeバランスを整え、人生の質を上げるべし。ひとつの役割が充実してこなせれば他の役割もついてきて、QOLが向上する(推奨度・A)。

いやーなんか…書かれてるのが恥ずかしくなるくらいの内容も少なくないですね。大人が子供に言い聞かせてるような…。でもこうして書かれないと、実感として生まれない、真剣に取らない人もいるというのが事実なんでしょう。今のAT学生はこういうところ、結構しっかりプログラムで習っているとも思うんですけども。私たちの世代はこういう話一度もされてませんからね。

AT個人よりその上に立つ者への推奨事項(#1~14)のほうが多いというのがまぁ、私の「妄想」を裏付けているというかなんというか。補足といいましょうか、Background Informationから気になったところを抜粋すると…
- Work-family balanceという言葉は独身の職員に当てはまらないことから一般にはWork-life balanceという言葉が積極的に使われるべき(故に、このPosition Statementのタイトルである)
- Work-life conflictは3つの要素が複雑に絡まり合って起こる: Sociocultural factors (gender ideology, cultural norms and expectations), Organizational and structural factors (job demands, autonomy, flexibility, role strain, conflict, overload, lack of value, compensation, advancement)と、Individual factors (personality, gender, practice setting)である。中でもATにおいてはOrganizational and structural factorsの影響が特に大きい。
- Work-life conflictの割合に男女比はないが、NCAA Division-Iで子持ちの女性ATはなんと全米で22名しかいないそうな。3,4 まぁこれは2008年時点のデータとはいえ、今でもそう変わっているとは思えない…なぜなら私が結婚していて子供がいるD-I勤務の女性AT(臨床現役)の顔と名前を一人も思いつかないから…。アメリカに16年いたけど…知り合いは少なくないと思うけど…一人も…。

こうして咀嚼してみるといかにNATAが、Dr. MazerolleがこのPosition Statementを「キミにこのはがねのつるぎをあげるよ!これを武器に戦うんだ!」と言ってくれているかが分かります。これは手にしなければ、そして勇気を持って立ち上がり、戦わなければ損です。自分のために、職業の未来のために。ああ、っていうかDr. Mazerolle…この方もATの最新知見への貢献度が恐ろしく高いけど充分な評価がなされてこなかったという意味では今回のPosition Statementの筆頭著者になられて本当に嬉しい限り…。彼女は業界を変える、Milestoneとなりパラダイムシフトのきっかけとなる論文たちを世にも恐ろしいペースで発表しているんです…。興味がある人は調べてみて…。素晴らしいから…。時代に名前が残るべきだと思っていました…。

1. Mazerolle SM, Pitney WA, Goodman A, et al. National athletic trainers' association position statement: facilitating work-life balance in athletic training practice settings. J Athl Train. 2018;53(8):796-811. doi: 10.4085/1062-6050-51.11.02.
2. National Athletic Trainers' Association. Recommendations and guidelines for appropriate medical coverage of intercollegiate athletics. National Athletic Trainers' Association Web site. https://www.nata.org/sites/default/files/amcia-revised-2010.pdf. Accessed October 22, 2018.
3. Mazerolle SM, Bruening JE, Casa DJ. Work-family conflict, part I: Antecedents of work-family conflict in national collegiate athletic association division I-A certified athletic trainers. J Athl Train. 2008;43(5):505-512. doi: 10.4085/1062-6050-43.5.505.
4. Mazerolle SM, Bruening JE, Casa DJ, Burton LJ. Work-family conflict, part II: Job and life satisfaction in national collegiate athletic association division I-A certified athletic trainers. J Athl Train. 2008;43(5):513-522. doi: 10.4085/1062-6050-43.5.513.

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  # by supersy | 2018-10-22 19:20 | Athletic Training

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