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姿勢はインプットの反映であり、次の姿勢をフィードする。

古くて有名な論文1だとは思うんですけど、忘れないように一度ちゃんと読んでまとめておこうと思います。
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トレンデレンブルグ徴候に見られるような股関節外転筋の出力低下が膝や足関節の傷害発生に影響を及ぼすことはあまりに有名2-5ですが、これを神経ブロック注射(上殿神経)で人工的に作り出したら歩行メカニクスにどんな変化が出るだろうか?ということを検証したこの研究。まぁそら対側の骨盤ドロップが起こるでしょ、とか、立脚側の膝外反が出るでしょ、とかそんな仮説があったわけですが…。

結果はなんと、意外にも「歩行に変化は出ない」だったのです。

8名の健康な男性被験者(平均27±6歳)に神経ブロックをする前と後では、確かに股関節外転筋の筋出力は著しく低下したのですが(1.51±0.38 Nm/kg → 0.81±0.30 Nm/kg, p = 0.001, 46%の筋出力低下)、歩行中の股関節、膝関節のモーメントや活動電位、床反力、骨盤のドロップ、股関節や膝関節角度には一切統計的に有意な変化は見られなかったとのこと。

トレンデレンブルグ歩行や動的膝外反が見られる患者には、股関節外転筋の出力低下が起こっている。
しかし、股関節外転筋の出力低下を人工的に誘発させた被験者では、トレンデレンブルグ歩行や動的膝外反は起こらない。

この一件矛盾する二つの現象を、どう解釈すべきか?

私の個人的な意見ですけれど、ヒトがどう動くか…この場合はどう「歩く」か、というのは、単純に自己身体操作性という単一要素によってのみ構成されるわけではないと思います(そうだったとしたら、自分の身体の一部が急に言うことを聞かなくなったら、歩行はガラッと分かりやすく変化するはず - 少なくとも今回の実験結果ではそうは示されていませんからね)。

私たちを取り巻く環境は一秒一秒変化しており、すぐ右側を肩にぶつかりそうな近さで通り過ぎていくヒトがいるとか、左足で踏んだ地面の石が一瞬グラついたとか、右から強い風が吹いてきたとか、左上の空に鳥が飛んだとか、そういったものを私たちは五感を通じて感じ(Sensory Input)ながら、その環境に置いて最も有意義な動きを生み出している(Motor Output)いるはずです (実際に私が例で挙げたような状況が起これば、貴方は無意識下で自然と歩行の仕方を変えるでしょう?)。

そういった「日常の動き」の中で、「これが効率が良い」と最も頻繁に使われる動作パターンは「動きの癖」として、身体に染み付き、沁み込んでいくのです。もしその「癖」の中でたまたま使われる頻度の低い筋肉があったとしたら、その筋肉は徐々に委縮、筋力を低下させていくこともあるのかもしれません。こうして徐々に色濃くなっていく「動作パターン」の偏りは、今日より明日の、明日より明後日の姿勢をより特徴づけるものとなり、終いにはそこから脱するのが難しいほど溝を深くしてしまうのではないでしょうか。Sensory InputがMotor Outputをより強固でフレキシビリティに欠ける箱の中に閉じ込めてしまうようなイメージですよね。

*つまり、このChicken or Egg論争で私は、中殿筋の出力低下がトレンデレンブルグ歩行を生む、というよりは、トレンデレンブルグ歩行を繰り返すことが中殿筋出力低下につながる、という因果関係のほうがより支配的だと思っているわけです。そして中殿筋の発火がもういよいよ動作構想から消えていくことにより、トレンデレンブルグがより顕著になってしまう、という負のループが完成します。

今回の研究結果はその逆を示している、と言えると思います。特に歩行に代償が生じておらず、乱暴に言うと「様々な感覚入力があっても正常な歩行を完遂できる」ことが当たり前になっていた今回の被験者にとって、人工的な筋力の低下は文字通り大したことではなかったのです。意図的に上殿神経を麻痺させ、中殿筋・小殿筋の機能を一時的に奪ったとしても、「いつもの歩行」の溝がしっかりくっきりそのヒトの中に残っていれば、それは今この瞬間の歩行を変化させるほど大きな要素には成り得ない。Sensory Inputの豊かさがMotor Outputに多様性を保たせていた結果、多少カラダの中のMotorを乱されても、それが歩行そのものの変化を許さなかった、という風に言いかえることもできます。

多少体内の動的能力を奪われても、それをMotor Outputに影響させない術があるって、素晴らしいと思いませんか?少なくとも私はアスリートを対象に仕事をする身ですから、こういった要素を大いに活用しなければいけないと常に考えています(46%の股関節外転筋力低下が『多少』なのかは疑問が残るところではありますが)。左カカトが地面に打ち付けられたその感覚入力で左の腹壁、ハムストリング、内転筋と中殿筋の発火が自動誘発されればそれは見事なSensory Input→Motor Outputのシークエンシングだと思いますが、左カカトが奪われたらそれが途端にできなくなります(例: 某シューズメーカーの踵を浮かせるような靴を履いて歩行・走行しているなど)というのであれば、そこに在るのは限定性であって、多様性ではありません。左のカカトが地面に触れられなくても、左の周辺視野にオプティックフローがあれば、頚椎が右に側屈すれば、右の肺尖に空気が入れば、左のアームスイングが前方に起きれば、左の中殿筋が発火します、というくらい感覚入力に選択肢があり、そのどれかひとつの回路に刺激が入れば「いつもの歩行」が完遂できるとしたら、そのヒトは「ちょっとやそっとじゃ乱れない」動的能力を兼ね備えているということになるのではないでしょうか。「いつもの歩行」を「いつもの走り」「いつものシュート」「いつものスイング」などに書き換えてもらえば様々な競技にこの考えを応用させやすいでしょうか。

ではここで発想の転換をしてみましょう。
目の前にACL再建手術の患者がいるとして、または足関節捻挫から競技復帰を目指すアスリートがいるとして、その患者の動的姿勢を「正常化」するために、またはケガの再発を防ぐために、クラムシェルやモンスターウォークをして中殿筋を鍛えさえすれば、それで本当にいいのでしょうか?そのトレーニングがその患者の歩行から代償を取り除き、最適化させると、貴方はどれほどの自信を持って言い切れますか?

この患者は、この関節のこの筋肉を鍛える必要がある、と嗅ぎ分けること自体は臨床家に必要な能力です。しかし、私はそれに「どういった感覚入力がある状態で」「どの筋肉と発火するというパターニングを」「どうその患者の脳にリズムとして刻み、既存のモーターパターンを書き換えていくか」という要素まで細かく調整し、エクササイズを処方するべきではないだろうか、と考えています。

筋肉がさながらオーディオ器具のようなもので、ボリュームを左右に捻じりさえすれば身体が自在動かせる、というならアスリートは全員優秀なDJになりさえすればいいんですけどね。それよりはもうちょっと人体は複雑な造りをしているから、そこに介入する我々ももう少しその複雑さを楽しむ覚悟がないといけない。そんなことを改めて認識させてくれるような、興味深い論文でしたー。

1. Pohl MB, Kendall KD, Patel C, Wiley JP, Emery C, Ferber R. Experimentally reduced hip-abductor muscle strength and frontal-plane biomechanics during walking. J Athl Train. 2015;50(4):385-391. doi: 10.4085/1062-6050-49.5.07.
2. Crowell KR, Nokes RD, Cosby NL. Weak hip strength increases dynamic knee valgus in single-leg tasks of collegiate female athletes [published online June 20, 2021]. J Sport Rehabil. 2021:1-4. doi: 10.1123/jsr.2021-0043.
3. Zipser MC, Plummer HA, Kindstrand N, Sum JC, Li B, Michener LA. Hip abduction strength: relationship to trunk and lower extremity motion during a single-leg step-down task in professional baseball players. Int J Sports Phys Ther. 2021;16(2):342-349. doi: 10.26603/001c.21415.
4. Powers CM, Ghoddosi N, Straub RK, Khayambashi K. Hip Strength as a predictor of ankle sprains in male soccer players: a prospective study. J Athl Train. 2017;52(11):1048-1055. doi: 10.4085/1062-6050-52.11.18.
5. Khayambashi K, Ghoddosi N, Straub RK, Powers CM. Hip muscle strength predicts noncontact anterior cruciate ligament injury in male and female athletes: a prospective study. Am J Sports Med. 2016;44(2):355-361. doi: 10.1177/0363546515616237.

  # by supersy | 2021-08-03 23:15 | Athletic Training

足首サポーターの思わぬ効果?動作中の足底圧が変化する!

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新しい論文1が目についたので読んでみました。面白いと思ったポイントを勝手にまとめます。

土踏まずの高さ、というとPes Planus (偏平足 - 足部が一般的にフレキシブルで、COPが前方+内側にシフト2,3)、Pes Rectus (正常)、Pes Cavus (ハイアーチ - 足部の動性は低く、COPが後方+外側にシフト2,3)の3種類が有名ですが、これらのFoot Typeによって歩き方・走り方も変わるとの報告5,6がされており、付随する障害リスクにも影響を及ぼすと考えられます。

こういうのって、足首のサポーターをすると変わるのかね?というのが本研究の検証内容。36名の「趣味で身体を動かしている」健康な被験者(男11名、女25名、平均23.1±2.5歳)を対象に、1) サポーターなし、2) Lace-upとFigure-8のコンビネーションタイプ (↓写真左)、3) Semi-rigidタイプ (↓写真右)を着用した場合の3条件下で歩行、走行、カッティング動作をさせ、その足底圧等を計測したとのこと。
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結果をざっくりまとめると、こんな感じ。
Semi-rigidのサポーターをしていると、歩行・走行・カッティング時に接触面 (Contact Area)は前足部(中・内)で減少、中足部(内)で上昇、最大圧 (Maximum Force)は前足部(内)で減少、中足部(内・外)で上昇する。
Pes Cavusの場合、Pes Planusなどと比較して、歩行・走行・カッティング時に最大圧 (Maximum Force)は前足部(内)で上昇し、中足部(内・外)で減少する。
・目立ったサポータータイプ×Foot Typeのインタラクションはなし。

元々の仮説は、「Pes PlanusでもPes Cavusでもサポーターをすれば足底圧などは中和されるのではないか (Pes Planusの人の足底圧は外側に、Pes Cavusの足底圧は内側にそれぞれシフトするのではないか)」ということでしたから、その仮説は立証されなかったという結果になります。今回の結果は「Semi-rigidタイプのサポーターは、Pes PlanusでもPes Cavusであるにも関わらず、足底圧を内側中足部にシフトさせる」という風に言い換えてもいいのかもしれません (Lace-upとFigure-8のコンビネーションタイプはこういった作用がないというのも意外と言えば意外でした)。これ自体が良いことなのか、悪いことなのか (例: ケガのリスクを上昇させるのか、減少させるのかなど)は現時点ではわかりませんが、そしてこれは本文ではそれほど触れられていないのですが、少なくとも「Pes CavusのFoot Typeからすると傾向をひっくり返す形でSemi-rigidのサポーターが作用する」ということは言えるのでは?と個人的には思います。ただ、くどいですが、これが良いことなのか、悪いことなのかはわかりません。その選手の競技ニーズや既往歴にもよるんだろうと個人的には思います。

足関節捻挫予防にテーピング及びサポーター使用は間違いなく有効、というのはもうここまでのエビデンスでも十二分に示されていると思うのですが、このあたりの結果を受けると、COPを動かす意図がなければLace-upタイプのサポーター、またはテーピングでもいいんではないかなぁ、と思ったりしますね。あんまり両側の足で内側中足部にCOPを早く誘導したい場面って、そんなに思いつかないんで…。地面からの感覚入力的に、どうなのかなと。

足底圧を変化させるもの、と言われて靴や足底版を思い浮かべるセラピストは多いでしょうけれど、現場でもうひとつ足される存在である、サポーターもまたそこに一層の影響を及ぼしている、というのは、言われてみれば当たり前で、しかし言われないとなかなか気づかないところでした。ふーむ。面白かった!

1. Dickerson LC, Queen RM. Foot posture and plantar loading with ankle bracing. J Athl Train. 2021;56(5):461-472. doi: 10.4085/1062-6050-164-20.
2. Buldt AK, Allan JJ, Landorf KB, Menz HB. The relationship between foot posture and plantar pressure during walking in adults: A systematic review. Gait Posture. 2018;62:56-67. doi: 10.1016/j.gaitpost.2018.02.026.
3. Buldt AK, Forghany S, Landorf KB, Levinger P, Murley GS, Menz HB. Foot posture is associated with plantar pressure during gait: A comparison of normal, planus and cavus feet. Gait Posture. 2018;62:235-240. doi: 10.1016/j.gaitpost.2018.03.005.
4. Chuckpaiwong B, Nunley JA, Mall NA, Queen RM. The effect of foot type on in-shoe plantar pressure during walking and running. Gait Posture. 2008;28(3):405-411. doi: 10.1016/j.gaitpost.2008.01.012.
5. Buldt AK, Murley GS, Butterworth P, Levinger P, Menz HB, Landorf KB. The relationship between foot posture and lower limb kinematics during walking: A systematic review. Gait Posture. 2013;38(3):363-372. doi: 10.1016/j.gaitpost.2013.01.010.
6. Buldt AK, Levinger P, Murley GS, Menz HB, Nester CJ, Landorf KB. Foot posture is associated with kinematics of the foot during gait: A comparison of normal, planus and cavus feet. Gait Posture. 2015;42(1):42-48. doi: 10.1016/j.gaitpost.2015.03.004.

  # by supersy | 2021-07-30 21:20 | Athletic Training

最新エビデンスレビューから紐解く、日本の中学・高校の部活動で起こる死亡事故の実態

興味のある分野で最新論文1が出ていたので読んでみました!First Authorは細川先生です、相変わらずものすごいペースで良質な論文を世に出してらっしゃる…。すごい。
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日本スポーツ振興センターが発表しているデータを基に、2005年から2016年の間に中・高校で起きた部活中の死亡事故に関してまとめられたこの論文。12年間の間に起きた死亡事故は198件で、これはIncident Rateにすると0.38/100,000AY (athlete-years)となるそう。

死亡事故の状況、プロファイリングとしては1) 練習中の発生が多く(60.6% - Figure 1)、2) 男子生徒が犠牲者の92.0%を占める(149/162 - Figure 2)。男子学生と女子学生の死亡事故発生率は0.60/100,000AY vs 0.08/100,000AYとなっており、男子学生の方が7.5倍 (95%CI 4.43-13.22倍)部活中の死亡事故リスクが高いと言えるとのこと。これらのうち、適切な訓練を積んだスポーツメディスンのプロが現場にいた件数はたったの3件(2%)だった、というのは改めて強調されるべきなのではないかと個人的には思います。
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競技別の統計も興味深いです。死亡事故発生絶対数で言うと、「リスクが高い競技」は以下の順 (Figure 3↓)になるのですが…
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競技者数を加味した死亡事故発生率で示すと、リスクが高い競技はこのように入れ替わります。

 1. ラグビー 4.59/100,000AY
 2. 柔道 3.76/100,000AY
 3. 野球 0.59/100,000AY

これはアメリカの死亡事故統計とはずいぶん違う顔ぶれですよね。文化が違うし、盛んなスポーツが異なるから、当たり前といえばアタリマエなんですが。ただ、あの、結構衝撃だったのが、アメリカで最も死亡事故が多いスポーツと言えばアメリカンフットボールなのですが、この競技は最新2020年の報告2によれば、過去12年の死亡事故発生率は高校アメリカンフットボールで0.79/100,000AY、大学レベルで3.44/100,000AYとなっています。つまり、単純比較で日本の中・高校のラグビーと柔道は、米国の高校アメリカンフットボールのそれぞれ約5.8倍と約4.8倍、大学アメリカンフットボールのそれぞれ約1.3倍と約1.1倍、死亡事故が起こりやすいことになるんです。本文中にはデータの取り方に差異もあるため、直接的な比較はするべきではない、という指摘はありますけれども敢えて。ほえー。ここ、結構、あれですね。怖い…。

死亡原因とされるものを以下(Figure 4)に示します。
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これは(アメリカンフットボールが主体である)アメリカのものと以外にもきっちり一致する3,4んだな、とちょっと驚きました。ちょうど米国のアメフトでの事故を、日本のラグビーが補填する形(男子がメインで参加するコリジョンスポーツ、というあたりとか)になっているのかしら…。変な表現だけれども。あと、本文には「鎌状赤血球形質関連の死亡事故がないのは民族的な差がある部分と言える」と書いてあって、これもおお、確かにね、と。だからといって私は日本人ATの間で鎌状赤血球形質が軽視されるべきとは思わなくて(別に本文に軽視してもいい、とか書いてあるわけじゃないです、私も思う一般的な視点として)、学生スポーツでも海外からの留学生選手が増えていたり、人種としてもこれからもっと様々な国民性が混ざっていくことを考えるならば、鎌状赤血球形質がどんなものなのか、鎌状化の初期症状にどんなものが挙げられ、どう対処すべきかはATならば知っておくべきかなとは思います。

さて、本文中の考察から、面白いなと思った部分を抜粋します。
- 日本での死亡事故発生率が高い原因には、1) 日本の部活が年度を通して、週5日という頻度で行われることにあるのではないか2) 研究期間中は特に競技に不慣れな教員しか現場にいないという現状があったからではないか、そして3) 現場に的確なスポーツメディスンの知識を持ったプロがいないからではないか、ということが挙げられる。
- 2)に関しては、競技の理解も乏しく、その競技に付随するリスクを指導者が把握してないケースも十分に考えられるし、そもそもスポーツ指導者になるにあたっての最低限の救急の知識のDissemination (普及)も不十分 (例えば、CPR講習を取らずとも指導者になれてしまう現実がある)である現状がある。
- 3)では、米国における研究5によればアスリートの心停止の場面にATが居合わせた場合、83%の患者は蘇生できている(24/29 - ATがいない場合は47%, 9/19)と報告されていることから、選手の競技参加の安心と安全のために日本でももっと積極的な人的投資がされるべきである。
- 弱音を吐くんじゃない、という日本独特の文化もこういった数字に一役買ってしまっているのかもしれない。

ふへー、面白かったー。直接比較ができないとはいえ、日本の中・高校での部活の死亡率の高さには改めて気が引き締まる思いです。日本でアスレティックトレーナーができること、すべきことはまだまだいっぱいある…。
全文はこちらで無料公開になってます。興味がある皆様はぜひぜひ原文を読んでみてください!

1. Hosokawa Y, Murata Y, Stearns RL, et al. Epidemiology of sudden death in organized school sports in Japan. Inj Epidemiol. 2021;8:27. doi: 10.1186/s40621-021-00326-w.
2. Kucera KL, Klossner D, Colgate B, Cantu RC. Annual survey of football injury research 1931–2019. University of North Carolina National Center for Catastrophic Sports Injury Research website. https://nccsir.unc.edu/files/2020/09/Annual-Football-2019-Fatalities-FINAL-updated-20200618.pdf. Published February 24, 2020. Updated June 18, 2020. Accessed July 13, 2021.
3. Boden BP, Breit I, Beachler JA, Williams A, Mueller FO. Fatalities in high school and college football players. Am J Sports Med. 2013;41(5):1108-1116. doi: 10.1177/0363546513478572.
4. Casa DJ, Guskiewicz KM, Anderson SA, et al. National athletic trainers' association position statement: preventing sudden death in sports. J Athl Train. 2012;47(1):96-118. doi: 10.4085/1062-6050-47.1.96.
5. Drezner JA, Peterson DF, Siebert DM, et al. Survival after exercise-related sudden cardiac arrest in young athletes: can we do better? Sports Health. 2019;11(1):91-98. doi: 10.1177/1941738118799084.

  # by supersy | 2021-07-13 18:30 | Athletic Training

抑うつ状態の脳は、左半身に心因性疼痛を発現しうる?

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読みたいと思う論文に対する熱量、体力が最近低下気味です。
もうちょっと休み休みいきたい…が、全然論文読めないままなのも気持ち悪い…ということで、久しぶりにひとつ1読んでみます。



慢性疼痛と抑うつ状態の関りは密接であり、"The Pain-Depression Dyad"と呼ばれることもある2そう。Dyad (ダイアド)という言葉は2つで一組の、という意味合いがあり、実際、慢性疼痛「のみ」、抑うつ状態「のみ」よりも「二つが共に発現している」確率の方が高い3,4ので、この呼び名なんだと。
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身体の右半身は脳の左半球によって、左半身は右半球によって司られている - というのはもはや常識かと思いますが、これを痛みというコンテクストで解釈すると、

1) "[P]ain in the left hemibody is represented in the somatotopically organized [primary somatosensory cortex] of the right hemisphere (p.876)1"
左半身に生じる「痛み」は右半球の一次体性感覚野に表されており、
2) "[P]ain in the right hemibody is similarly represented in the [primary somatosensory cortex] of the left hemisphere (p.876)1"
右半身に生じる「痛み」は左半球の一次体性感覚野に表されている、

ということになります。
その他に、痛みと関連があると考えられている脳の部位は1) Thalamus (視床)、2) Insula (島皮質)、3)Anterior Cingulate Cortex (前帯状皮質)などがあり5、これらは興味深いことに抑うつ状態/うつ病とも関連性があると指摘される脳部位と一致6,7します。

んで。ここからが知らなかったこと。
これらの脳部位は右にもあれば左にもある、という左右対称性があるにも関わらず、抑うつ状態に問題が出るのは一般的に右半球のそれ、ということが分かっている8,9んですって。つまり、抑うつ状態の方の脳を検証すると、右半球の脳活動が異常に上がっていたり、下がっていたりするようなんですよ。びっくり!

このへんについて、現存の文献を掘り返して、Literature Reviewをしてみよう!というのが本論文の主目的です。私が面白いなぁと思った箇所を主観と偏見で抜粋していきます。

- 精神疾患患者の訴える疼痛は左半身に発現することが多い
- 痛みが左半身に発現している場合、Emtional Outcomes (情動的アウトカム)は乏しいことが多い(具体的には抑うつ状態、不安状態が高かったり、QOLが低かったり)
- 侵害受容刺激が身体に加えられたとき、一次体性感覚野の活性は対側で起こるが、視床・島皮質・前帯状皮質は刺激が右・左半身で起こったかに関わらず、右側の活性がより顕著に起こる
- 視床部: 介入をしても改善が見られないうつ病患者は、右視床部の過活動が見られる; 改善が見られた患者の中でも、右視床部の活動が高い場合は6週後のフォローアップ時に臨床アウトカムが低い10
  - 偏頭痛とうつ病を併発している患者は、右視床部の活動が低下している11
  - 不顕性うつ病(Subclinical depression)を抱える大学生を一年間追跡する縦断研究では、1年後のうつ病深刻度を予期できた唯一の要素が右視床下部の活動異常だった12
- 島皮質: こちらも同様に、認知行動療法や抑うつ剤の治療応答性は右島皮質の機能的結合性と連動しており、抑うつ症状の程度も右島皮質の機能的結合性や活性度と関連性がある
- 前帯状皮質: 疼痛による情動に大きな影響を与える皮質辺縁回路の一部であるこの部位でも、抑うつ症状がみられる患者では右側のみ機能的結合性に異常が見られたり、内的機能の安定性が低かったりする
  - 前帯状皮質の灰白質部位の体積はうつ病患者の5年後の症状を予期する13

Lateralized Pain-Depression Dyad
神経信号にアクティブパッシブな性質があるとしたら、1) 細胞の神経的機能 - 活性度や結合性などはアクティブに、2) 皮質厚や体積などの器質的、形態的側面はパッシブに、それぞれ分類できるのではないか、と筆者らは提案1しています。それを踏まえた上で、Lateralized Pain-Depression Dyadというフレームワークからこの現象を紐解いてみてはどうか、と論じているのです。つまるところ、右脳と疼痛/抑うつ症状との関連性はアクティブな性質によるもので、左脳と疼痛/抑うつ症状とのつながりはパッシブなものである、と。だから症状の進行の程度や疼痛の有無で左右差が顕著に見えてくるし、疼痛⇔抑うつ状態のつながりも生まれてしまいやすい、と。ふーむ。

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抑うつ状態の脳 - 特に右半球のアクティブな性質異常は左半身に心因性疼痛(Psychogenic Pain)を創るし(上図)、
*本文より、「左半球のパッシブな性質の変化はより局所的に留まることが多い(皮質特定部位の厚みが増えるなど)。疼痛を生じさせるほどのパッシブ性質異常が起こる場合、それはもはやアクティブな性質異常を伴っていると思われる」とのこと

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左半身に生じた慢性疼痛が右脳のアクティブな性質の変化を、右半身に生じた慢性疼痛が左脳のパッシブな性質の変化を生んでいけば、時間の経過と共に脳は抑うつ状態にどんどん近づいていく(上図)、ということになります。

なんでそうなるのかは全くわからないけれど、という限定的なセオリーではあるのですが、起きている現象の説明としては興味深いなぁと思って読んでいました。もしかしたら、動的に優位な右半身をできるかぎり保存、保護する目的もあって、痛みは左半身に生じさせているのかな?という考察もありましたが、うーむ、ここまでの被験者も恐らく大多数が右利きなんだろうし、「利き手」によって引っ張られた、そういう側面もあったりするのかなー。

抑うつ状態が左半身の疼痛を、疼痛経験が抑うつ状態を、それぞれ作り出すかもしれない…というディスカッション、面白かったです。脳の、身体のLateralizationについて興味がある人はぜひ!7月まではオープンアクセスみたいですー。

1. Maallo AMS, Moulton EA, Sieberg CB, Giddon DB, Borsook D, Holmes SA. A lateralized model of the pain-depression dyad. Neurosci Biobehav Rev. 2021;127:876-883. doi: 10.1016/j.neubiorev.2021.06.003.
2. Goldenberg DL. Pain/Depression dyad: a key to a better understanding and treatment of functional somatic syndromes. Am J Med. 2010;123(8):675-682. doi: 10.1016/j.amjmed.2010.01.014.
3. Bair MJ, Robinson RL, Katon W, Kroenke K. Depression and pain comorbidity: a literature review. Arch Intern Med. 2003;163(20):2433-2445. doi: 10.1001/archinte.163.20.2433.
4. Rijavec N, Grubic VN. Depression and pain: often together but still a clinical challenge: a review. Psychiatr Danub. 2012;24(4):346-352.
5. Hashmi JA, Baliki MN, Huang L, et al. Shape shifting pain: chronification of back pain shifts brain representation from nociceptive to emotional circuits. Brain. 2013;136(Pt 9):2751-2768. doi: 10.1093/brain/awt211.
6. Robinson MJ, Edwards SE, Iyengar S, Bymaster F, Clark M, Katon W. Depression and pain. Front Biosci (Landmark Ed). 2009;14:5031-5051. doi: 10.2741/3585.
7. Goesling J, Clauw DJ, Hassett AL. Pain and depression: an integrative review of neurobiological and psychological factors. Curr Psychiatry Rep. 2013;15(12):421. doi: 10.1007/s11920-013-0421-0.
8. Rotenberg VS. The peculiarity of the right-hemisphere function in depression: solving the paradoxes. Prog Neuropsychopharmacol Biol Psychiatry. 2004;28(1):1-13. doi: 10.1016/S0278-5846(03)00163-5.
9. Hecht D. Depression and the hyperactive right-hemisphere. Neurosci Res. 2010;68(2):77-87. doi: 10.1016/j.neures.2010.06.013.
10. Yamamura T, Okamoto Y, Okada G, et al. Association of thalamic hyperactivity with treatment-resistant depression and poor response in early treatment for major depression: a resting-state fMRI study using fractional amplitude of low-frequency fluctuations. Transl Psychiatry. 2016;6(3):e754. doi: 10.1038/tp.2016.18.
11.
11. Ma M, Zhang J, Chen N, Guo J, Zhang Y, He L. Exploration of intrinsic brain activity in migraine with and without comorbid depression. J Headache Pain. 2018;19(1):48. doi: 10.1186/s10194-018-0876-9.
12. Zhang X, Li X, Steffens DC, Guo H, Wang L. Dynamic changes in thalamic connectivity following stress and its association with future depression severity. Brain Behav. 2019;9(12):e01445. doi:10.1002/brb3.1445.
13. Serra-Blasco M, Diego-Adelino J, Vives-Gilbert Y, et al. Naturalistic course of major depressive disorder predicted by clinical and structural neuroimaging data: a 5-year follow-up. Depress Anxiety. 2016;33:1055–1064.

  # by supersy | 2021-06-15 20:34 | Athletic Training

スマートフォンを使った「ながら食べ」はカロリー摂取を増やす。

三か月ぶりです!いやー、こんだけ空くのは久しぶりですね。わちゃわちゃ色々あったんですけど、まぁそれは端折ることとして、とりあえず読んだ論文まとめます!2020年12月にリリースされて以来、読みたいなーと思ってたNarrative Review論文1です。
スマートフォンを使った「ながら食べ」はカロリー摂取を増やす。_b0112009_18472613.png
さて、若い世代を中心にスマートフォンの使用率は近年格段に増えています。トイレで、寝室で、食事中でも「ながら」使用する人は少なくありません。では、「ながら食べ」の悪影響には、どんなものがあるのでしょうか?

●Distraction (注意散漫)
食べながら他のこと ― 特に「ぼーっとこなせちゃう」よりは「考えなければいけない」認知力を要するようなタスク ― をしていると、食べ物の摂取量=カロリー摂取量が増える、という先行研究2があるんだそうです。食べていることから注意が削がれるようなことが起こる3と、どれほど食べたかが分からなくなり、満足度が十分に上がらず、空腹度に関係なく4ついつい必要以上に食べ続けてしまうようであると。ということで、スマートフォンを使用した「ながら食べ」も、やっぱりカロリー摂取が増える5,6ようなんです。食事に「集中する」(私は五感を使って、食べているものの匂いを嗅ぎ、触感で感じ、目で食べた量を確認しながら、味を思いっきり楽しむことと解釈していますが)ことは我々の考える以上に大切なようです。
スマートフォンを使った「ながら食べ」はカロリー摂取を増やす。_b0112009_18580868.jpg
●Social Interaction (社会的交流)
デジタルの使用云々に関わらず、そもそも仲間とわいわい食べる食事は、カロリー摂取を44%上昇させる7んだそうです。びっくり!確かに友人らとの会話がついつい楽しくて、食事が進んじゃう、というのはあるかも!んで、その友人らが物理的にその場にいなくても、デジタル機器で友人らとやりとりをしながら(例: テキストメッセージを送り合うなど)でも、同じことが起こる8んだそうで。同じスマートフォンを使っているんでも、記事を黙々と読むより、友人とやりとりをしていたときのほうがカロリー摂取が増えるそう8なんですよ。面白いですね…。もしかしたら、先の(相手がいるやりとりをしているときのほうが)「認知力を要する」って側面もあるのかもしれないですけれど。

私は普段、一人で食事をするときはほぼ必ずパソコンで仕事をしながらなので(そして一日2-3食は一人で食べてしまうので)、スマフォでこそないですけど、同じようなことが起こっているんだろうなーとは思います。反省すべきですね…。やっぱり食事って、料理の見た目も匂いも、箸を入れた感じの触感も、それから食べているものの産地とか旬の食材であるとか、そういうものも認知しながら味わってこそ、満足感が生まれやすいですよね。前者はともかく、認知力も動員して食事を楽しむ、という発想はなかったかも。少し省みて、できるかぎり「ながら食べ」しないように…努力します!

1. La Marra M, Caviglia G, Perrella R. Using smartphones when eating increases caloric intake in young people: an overview of the literature. Front Psychol. 2020;11:587886. doi: 10.3389/fpsyg.2020.587886.
2. Hetherington MM, Anderson AS, Norton GN, Newson L. Situational effects on meal intake: A comparison of eating alone and eating with others. Physiol Behav. 2006;88(4-5):498-505. doi: 10.1016/j.physbeh.2006.04.025.
3. Chapman CD, Nilsson VC, Thune HÅ, et al. Watching TV and food intake: the role of content. PLoS One. 2014;9(7):e100602. doi: 10.1371/journal.pone.0100602.
4. Blass EM, Anderson DR, Kirkorian HL, Pempek TA, Price I, Koleini MF. On the road to obesity: Television viewing increases intake of high-density foods. Physiol Behav. 2006;88(4-5):597-604. doi: 10.1016/j.physbeh.2006.05.035.
5. Gonçalves RFDM, Barreto DA, Monteiro PI, et al. Smartphone use while eating increases caloric ingestion. Physiol Behav. 2019;204:93-99. doi: 10.1016/j.physbeh.2019.02.021.
6. Kenney EL, Gortmaker SL. United states adolescents' television, computer, videogame, smartphone, and tablet use: associations with sugary drinks, sleep, physical activity, and obesity. J Pediatr. 2017;182:144-149. doi: 10.1016/j.jpeds.2016.11.015.
7. de Castro JM, de Castro ES. Spontaneous meal patterns of humans: influence of the presence of other people. Am J Clin Nutr. 1989;50(2):237-247. doi: 10.1093/ajcn/50.2.237.
6. Teo E, Goh D, Vijayakumar KM, Liu JCJ. To message or browse? Exploring the impact of phone use patterns on male adolescents' consumption of palatable snacks. Front Psychol. 2018;8:2298. doi:10.3389/fpsyg.2017.02298.

  # by supersy | 2021-05-30 20:12 | Athletic Training

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