1月13日 第1・2回EBP講習 in 大阪 開催(全4回シリーズ)

1月13日(日)に第1・2回EBP講習 in 大阪を行います!9月に第1回として基礎レベルの「スポーツ傷害評価編」をやらせてもらいましたが、今回はそれを取り逃した人のためにリピート講習を午前中に、臨床応用レベルの「評価・ACL損傷編」「評価・手首の傷み編」を午後にお送りする形で、まとめて一日で開催します!**主催者が通常講習と異なるため、BOC EBP CEUsは尽きませんのでご了承ください**
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日程と構成は以下の通りです。お申し込みはこちらから。

<講習日時>
2019年1月13日(日)
9:15am-12:30pm 第1回: エビデンスに基づくスポーツ傷害評価: 基本から応用まで
           *途中休憩15分含む3時間15分講習
12:30pm-13:30pm 昼食(各自)
13:30pm-15:30pm 第2回: エビデンスに基づくスポーツ傷害評価 ACL損傷の評価法
15:45pm-17:45pm 第2回: エビデンスに基づくスポーツ傷害評価: 手首の傷み評価法

ちなみに、基礎レベルの講習は「エビデンス(科学的根拠)に基づく…」とかよく耳にするけれど、どういうことか実はよくわからない、今更ヒトにも聞きにくい、という完全初心者さんウェルカムな講習で、むしろエビデンスに対して不信感とか苦手意識のある方にこそ来ていただきたいと思っています。エビデンスに基づく実践って思ったほど難しくないや、結構楽しいかも!と思って帰っていただければそんな幸せなことはありません。

午後に行う講習ふたつはどちらも新作の「臨床応用レベル」の講習で、今までの「基礎レベル」の講習から一歩踏み込み、感度や特異度というコンセプトを踏まえた上で実際に臨床の現場で皆さんがぶつかっていそうな症例にとびかかり食らいついていきます。「エビデンスに基づくスポーツ傷害評価: 基本から応用まで」講習の事前履修を強くお勧めしますが、必須ではありません。感度や特異度、陽性/陰性尤度比の何たるかがわかっている方であれば問題なく楽しめる内容になっております。

ACL損傷編では「ACL損傷に使えるSelective Tissue Testにはどんなものがある?」「それぞれの有効性は?」「そういや結局Lelli Testとやらって使えるの?」など紐解いた後で、「では、実際に現場でこんな状況では、あんな状況どうすれば?」というところまで実技を交えて議論、手首の傷み編では臨床で見落とされがちな1) 舟状骨骨折; 2) 有鈎骨鈎骨折; 3) TFCC障害の3つに焦点を絞り、それぞれを「どう評価するのが最善か?」をエビデンスを探し、読み解きながらこちらも実践を交えて検証します。

第3回、4回のEBP講習は詳細は未定ですが、今のところ以下のように予定しています。
第3回: 2019年4〜5月開催予定
④EBP基礎編: 治療介入編
⑤EBP臨床応用編: 治療介入 - 腱障害とリハビリ

第4回: 2019年8〜9月開催予定
⑥EBP基礎編: 予防医学編
⑦EBP臨床応用編: 治療介入 - AMIと抑制解除療法

全講習、参加者の資格は問いません。元々ATC資格保持者さんのためにと思って企画した講習でしたが、今までPT、OT、柔道整復・あんま・鍼灸師さん、医師の方や大学教員・研究者さんなど幅広くご参加頂いています(ありがたやー)。学生さんも大歓迎です!リピーターさんも、リフレッシュにまたという方も結構いらっしゃいます。

<会場> 大阪リゾート&スポーツ専門学校

<定員> 各講習約50名

参加は午前のみでも、午後のみでも、両方でも。お申し込みはこちらから。全4回のシリーズもの講習ですので、継続して受講される方には『継続割引(取れば取るほどお得!)』が適応になります。

<受講料> 
午前(基礎編)のみ 10,000円(学生9,000円)
午後(臨床応用編x2)のみ 12,000円(学生11,000円)
午前+午後 20,000円(学生18,000円)
前回(9月)第一回を受講済みで今回第二回(午後のみ)を受講 10,000円(学生9,000円)

来やすいように色々割引を設定してみたら逆に表記がややこしいことになってしまってごめんなさい。でも午後はずーっとやりたかった、練りに練った内容ですので、実技も一杯の楽しい会になるかと思います。多くの方々にお会いできるのを楽しみにしておりますー。

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  # by supersy | 2018-12-17 09:01 | Athletic Training

極寒のネブラスカより。

ここ一週間ほど大きな仕事と用事があってアメリカはネブラスカに来ておりました。明日帰国します。
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今回の訪問の大きな目的は、PRI本部でのAdvanced Integration(通称AI、4日間の年に一度の総会のようなもの、朝の8時からなんだかんだで夕方6時半頃まで講義が続く)に参加するということと、PRC (Postural Restoration Certified)という資格試験(AIの後の2日間)に同席して視察し、日本でのPRI資格について模索をするという2点でした。これだけでも考えることがいっぱい、お腹いっぱいになるところなんですが、加えて今回はほぼ全てのPRI Facultyが集まったこともあり(約1名を除いて)Faculty同士で質問をぶつけ合ったり、議論をしたり、お互いへの尊敬と愛を確認しあったりと(別に怪しい意味ではないです、非常に健全な意味で)非常に充実した時間が過ごせました。ロンのお家にお邪魔して、RJの手料理をご馳走になったりもしました!楽しかったー。

そんなわけでここ6日間の私の脳みそはわーわー大騒ぎだったわけなんですが…。しかし一度、たった一度、講習中ロンが「こんな患者さんだったらどうアプローチする?」という仮定の話をしている際に、彼が使った表現にハッと息を飲んで思考が止まった瞬間がありました。

その患者さんの描写には、こんなことが書かれていました。「主訴は右頸部の痛み」「プライベートでも仕事でもプレッシャーを抱えている」「首の痛みによって眠れない夜が多々ある」、と。

よくある話です。しかし、これらの情報…特に2つ目と3つ目はクリニシャン側が「適切な」質問をしないと引き出せない、重要な「正解」へたどり着く道へのヒントを含んでいます。

これらをゆっくり声に出して読んだ後、ロンは聴衆にこう問いました。「感じてごらん、この患者さんが自分の中に貯めこんでいっているストレスの多さを。毎日毎日蓄積されていく一方だ」

「患者さんが夜眠れていないと答えた、ということは私たちにとってどういう意味を持つかな」

「寝ていない、つまりこの患者さんは自分の身体を休めることもできていないんだよ」


そして彼はこう言ったのです。
治療できる身体も持ってきていない人に対してどう治療ができる?
充分に睡眠が取れていない=疲れている、ということは誰にも容易に想像がつくことかもしれません。しかしロンは、「この患者さんはこれから受けようという治療を神経的にプロセスできない状態にある」ということを「患者自身がクリニックに治療できる身体を持ってきてくれていない」と表現したのです。

そしてこう続けました、
「この人から大・小胸筋を取ってしまった(=過活動を起こしている筋肉に抑制をかけた)ところで、他にもっと呼吸が簡単にできる筋肉を与えなければ(=適切な筋肉を促通しなければ)この人はもっと苦しくなるだけだよ」と。


衝撃でした。

PRIをそれなりに長い期間学んでいるものとして、この患者さんがシナリオからしてAnterior neck inhibitionが必要なことは非常に明白です。しかし、彼はこの症例では我々クリニシャンがAnterior neck inhibitionに飛びつくことを「不正解」とした。何なら患者の状態を悪化させるリスクすらあると指摘したのです。

患者はreliefを求めてクリニックに足を運んでくれているのでしょう。しかし、彼らが引きずってくるものは何もその身体ばかりではありません。20年なら20年、30年なら30年生きた分の「歴史」も引き連れてクリニックのドアをたたく。それらを見極めないと「正解」だと思っていたものがあっという間に「不正解」になってしまうのだ、と暗に指摘され、背筋が伸びる思いでした。患者はパズルでなければ、治療の道はすごろくでもない。正解に向けてまっすぐ前にだけ進もうとすればいいというものではない、改めて患者さんを症状の塊ではなく一人の人間として時間をかけて見つめないといけない、ということを実感させられました。うぅむ、愛だなぁ…。



さて、話は大きく変わって最近読んだ論文についてです。

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多くの赤ちゃんは胴体を左に捩じり首を右に傾けながら産道を通ってこの世に生まれてきます(上図1)。この「首を右に傾ける傾向」は子宮内にいる赤ん坊にも生まれたばかりの赤子にも観察されており、2,3 特に仰向けに寝る赤ちゃんにはこの特徴が顕著に見られ、その後の右視野の発達と右視野優位性、右利き手の発生、歩行時の左右非対称性を説明するカギになっているのではと言われています。4,5

で。
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このhead-turning preference (頭の方向け方向の好み)は成長と共に消えると言われていましたが、大人になってもあるのでは?と説いているのがこの論文。6 本当に短い文章なので興味のある方は是非読んでいただきたいんですけど、ちょっとなんだか間抜けで面白い内容なんですよ(←褒めている)。

アメリカ、ドイツ、トルコの空港やビーチ、公園などで合計124のカップルがキスをするのをただただ観察したというこの研究。首の傾きはなんと、80/124(64.5%)の割合でカップル同志は首を右に、1/3ほどである44/124(35.5%)のカップルが左に首を傾けていて、統計的に有意な差が認められたというのです(p<0.05)。年齢幅が13-70歳だったらしいのですが(事後にインタビューしたんでしょうか…)、なんと年齢が高ければ高いほど首を右に傾ける傾向があったというのだから驚きです。年を取れば取るほど、ヒトの行動習慣は胎児時代に若返るのでしょうか?同じような割合(2:1)で足も左でなく右を、耳も右を、目も右を使うことを好む成人がいる、というのだから7 この「右好み」パターンは偶然ではないのかも知れません。

あれっ、右に首を傾け続けていたら、右頸部周りの筋肉は過活動を起こして、痛みが出るかも知れませんね。右の首が痛い患者さん、しかも痛すぎて夜も眠れないくらいだなんて、はて、なんだか、どこかで聞いたような…?



ついでといってはなんですが、最後に告知です!

1月13日(日)に第1・2回EBP講習 in 大阪を行います!9月に第1回として基礎レベルの「スポーツ傷害評価編」をやらせてもらいましたが、今回はそれを取り逃した人のためにリピート講習を午前中に、臨床応用レベルの「評価・ACL損傷編」「評価・手首の傷み編」を午後にお送りする形で、まとめて一日で開催します!**主催者が通常講習と異なるため、BOC EBP CEUsは尽きませんのでご了承ください**
日程と構成は以下の通りです。お申し込みはこちらから。

<講習日時>
2019年1月13日(日)
9:15am-12:30pm 第1回: エビデンスに基づくスポーツ傷害評価: 基本から応用まで
           *途中休憩15分含む3時間15分講習
12:30pm-13:30pm 昼食(各自)
13:30pm-15:30pm 第2回: エビデンスに基づくスポーツ傷害評価 ACL損傷の評価法
15:45pm-17:45pm 第2回: エビデンスに基づくスポーツ傷害評価: 手首の傷み評価法

ちなみに、基礎レベルの講習は「エビデンス(科学的根拠)に基づく…」とかよく耳にするけれど、どういうことか実はよくわからない、今更ヒトにも聞きにくい、という完全初心者さんウェルカムな講習で、むしろエビデンスに対して不信感とか苦手意識のある方にこそ来ていただきたいと思っています。エビデンスに基づく実践って思ったほど難しくないや、結構楽しいかも!と思って帰っていただければそんな幸せなことはありません。

午後に行う講習ふたつはどちらも新作の「臨床応用レベル」の講習で、今までの「基礎レベル」の講習から一歩踏み込み、感度や特異度というコンセプトを踏まえた上で実際に臨床の現場で皆さんがぶつかっていそうな症例にとびかかり食らいついていきます。「エビデンスに基づくスポーツ傷害評価: 基本から応用まで」講習の事前履修を強くお勧めしますが、必須ではありません。感度や特異度、陽性/陰性尤度比の何たるかがわかっている方であれば問題なく楽しめる内容になっております。

ACL損傷編では「ACL損傷に使えるSelective Tissue Testにはどんなものがある?」「それぞれの有効性は?」「そういや結局Lelli Testとやらって使えるの?」など紐解いた後で、「では、実際に現場でこんな状況では、あんな状況どうすれば?」というところまで実技を交えて議論、手首の傷み編では臨床で見落とされがちな1) 舟状骨骨折; 2) 有鈎骨鈎骨折; 3) TFCC障害の3つに焦点を絞り、それぞれを「どう評価するのが最善か?」をエビデンスを探し、読み解きながらこちらも実践を交えて検証します。

全講習、参加者の資格は問いません。元々ATC資格保持者さんのためにと思って企画した講習でしたが、今までPT、OT、柔道整復・あんま・鍼灸師さん、医師の方や大学教員・研究者さんなど幅広くご参加頂いています(ありがたやー)。学生さんも大歓迎です!リピーターさんも、リフレッシュにまたという方も結構いらっしゃいます。

<会場> 大阪リゾート&スポーツ専門学校

<定員> 各講習約50名

参加は午前のみでも、午後のみでも、両方でも。お申し込みはこちらから。全4回のシリーズもの講習ですので、継続して受講される方には『継続割引』が適応になります。

<受講料> 
午前(基礎編)のみ 10,000円(学生9,000円)
午後(臨床応用編x2)のみ 12,000円(学生11,000円)
午前+午後 20,000円(学生18,000円)
前回(9月)第一回を受講済みで今回第二回(午後のみ)を受講 10,000円(学生9,000円)

来やすいように色々割引を設定してみたら逆に表記がややこしいことになってしまってごめんなさい。でも午後はずーっとやりたかった、練りに練った内容ですので、実技も一杯の楽しい会になるかと思います。多くの方々にお会いできるのを楽しみにしておりますー。

1. Encyclopædia Britannica (2015). Child Birth. [image] Available at: https://www.britannica.com/science/parturition/images-videos/media/445271/2651 [Accessed December 11, 2018].
2. Ververs IA, de Vries JI, van Geijn HP, Hopkins B. Prenatal head position from 12-38 weeks. I. Developmental aspects. Early Hum Dev. 1994;39(2):83-91.
3. Konishi Y, Mikawa H, Suzuki J. Asymmetrical head-turning of preterm infants: some effects on later postural and functional lateralities. Dev Med Child Neurol. 1986;28(4):450-457.
4. Konishi Y, Kuriyama M, Mikawa H, Suzuki J. Effect of body position on later postural and functional lateralities of preterm infants. Dev Med Child Neurol. 1987;29(6):751-757.
5. Coryell JF, Michel GE. How supine postural preferences of infants can contribute toward the development of handedness. Infant Behav Dev. 1978;1:245-257. doi:10.1016/S0163-6383(78)80036-8.
6. Güntürkün O. Human behaviour: Adult persistence of head-turning asymmetry. Nature. 2003;421(6924):711.
7. Reiss M, Reiss G. Lateral preferences in a German population. Percept Mot Skills. 1997;85(2):569-574.

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  # by supersy | 2018-12-11 23:30 | Athletic Training

「半横隔膜(hemi-diaphragm)」、という考え方

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横隔膜には、"hemi-diaphragms(半横隔膜)"というコンセプトがあります。
つまるところ、横隔膜はひとつの筋肉と思われがちですが実際は「右の半横隔膜」と「左の半横隔膜」という2つのユニットによって構成されている(↑)、という考え方です。で、これらのふたつの半横隔膜は腱(腱中心)の大きさも違えば付着部も異なる(= 右の腱中心のほうが大きく、腰椎付着部も右の『脚』のほうが第1,2,3腰椎と、左の第1,2腰椎よりも長く伸びている)。よって形状や高さも左右で違いますし(= 右の横隔膜のほうが高いドーム状の形をしており、左のほうは平ら)、神経支配も右と左で降りてきている神経が違う(= 右横隔神経と左横隔神経がそれぞれ下りてきて右、左の横隔膜に入っていく)…ということは脳から受け取っているメッセージも違う。そうなれば当然果たす機能も変わってくるでしょうと。
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これを示唆するように、例えば交通事故による横隔神経損傷で右の半横隔膜不全(↑上の写真でabnormally elevated right hemi-diaphragm、つまり異常なまでにせり上がった右半横隔膜が認められる)が確認された症例1や心臓手術の合併症で横隔神経障害を発症し、一年かけて回復した症例(↓同様に手術後に右横隔膜異常挙上あり)など2が今までにも報告されています。横隔膜が一般に思われるように一つの大きな筋肉で、同じ神経によって右も左も支配され、同時に同様に上がり下がりしているのであれば起こるはずのない現象です。
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んで。もっと根本的な解剖学や発達学も交えた論文…左右の半横隔膜の神経支配の違いや作用・機能の違いについてハッキリと示している文献ってないかなーと探していたら、これ3を見つけました!
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遺伝子操作をしたネズミのトランスクリプトーム解析を行ったこの研究では、右と左で横隔神経のdefasiculation(この言葉、初めて目にしました。fasciculate = 束状化するなので、神経の束がほどけていく様子を示す言葉かと)、つまるところ分枝の数、形状、そしてアセチルコリン受容器の数などはかなり違うということが判明したようで。細胞の分化を誘導し、形態形成を支配する物質であるMorphogen中でも、特に「左右」を決定するチカラのあるNodal (ノーダル)が大きく関わっているのではないか、ということが明確になりつつあるんだそうで、中でも横隔神経の神経学的左右差は内臓(i.e. 肺)の左右差や横隔膜筋厚の左右差などの環境的要素の影響を受けない、独立したものとして初期胚発生時に確立されているんだそうです。ほぉぉぉおおお!
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発生学は未だに苦手分野で読みにくいところも多い論文でしたけど、こういう知見をしっかり読んだことがなかったので、面白かった!ニンゲンの文献も出るといいなー。もう少し発生学も掘り下げてみるかー。うーむ。

1. Bell D, Siriwardena A. Phrenic nerve injury following blunt trauma. J Accid Emerg Med. 2000;17(6):419-420.
2. Swallow EB, Dayer MJ, Oldfield WL, Moxham J, Polkey MI. Right hemi-diaphragm paralysis following cardiac radiofrequency ablation. Respir Med. 2006;100(9):1657-1659.
3. Charoy C, Dinvaut S, Chaix Y, et al. Genetic specification of left-right asymmetry in the diaphragm muscles and their motor innervation. Elife. 2017;6(pii):e18481. doi: 10.7554/eLife.18481.

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  # by supersy | 2018-11-30 17:00 | PRI

第5回スポーツセーフティーシンポジウムに参加して: 紹介された文献を読んでみた。

タイトルの通りです。ずーっと参加したいと思っていたスポーツセーフティーシンポジウム、第5回となる会合に先日ついに足を運ぶことができました!
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Beat the Heat!というテーマで一日中熱中症について話す、というある意味とんでもなくマニアックな一日だったのですが、生理学や臨床実践の観点から様々な話を聞くことができて「おおっそれ面白い!」「この文献、読んでみたい!」と思ったものがボロボロ出てきたので、全文入手して目を通す機会があったものに関してなんとなく書き記しておきます。



①"Marathon is a planned mass casualty event."
4番目の演目、永田先生の講義でこんなフレーズを耳にしました。これは元々2013年のボストンマラソンのメディカルマニュアルにあった「Large scale sporting events, such as the Boston Marathon, create a number of complexities when managing medical programs, public safety partnerships, and interagency support. Boston and all of its stakeholders understand that events of this magnitude and side are more or less, planned mass casualty events.」という文章から取ったものらしいのですが(引用元のこれ以上の詳細は分からず、探してみたのですがそれらしい文献には行きつかずこのままで申し訳ありません)、これを聞いてそりゃそうだよなぁ確かになぁと思わず納得してしまいました。
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次いで紹介されていたこの文献1を読んでみたのですが、冒頭から痛いところをついてきます。
マラソンなどの規模の大きなイベントを執り行う場合、参加者の安全確保のために道路規制をかけたり、多数の医療スタッフをイベントに配置したりするなど特別な措置が取られる…が、これらの「準備」によって逆に参加していない一般人への医療提供に滞りが生じたりするなどして予期せぬ被害が生まれることはないのか、ということのようです。で、そういうことを調べている研究ってないよね、と。

この研究で検証されたのは
1) 大きなマラソンの当日に開催地近くの病院(Marathon-affected hospitals)に心筋梗塞・心停止で入院したMedicare保険適応患者
2) マラソンが起こった同曜日、イベント5週間前・後以内に同理由で入院したMedicare保険適応患者
3) 大きなマラソンの当日にマラソンの影響を受けなかった近隣の病院(Control hospitals)に同理由で入院したMedicare保険適応患者
それぞれの患者群で、救急車到着までと搬送にかかった時間、救急搬送中の搬送先の変更、病院で受けた治療、入院後30日間の死亡率等のデータを検証、比較したそうです。*Medicare患者に絞ったのは恐らくマラソンに参加しているようなpopulationではないだろう、という推測に基づくもので、実際これに含まれた「患者」がマラソン非参加者(non-participants)だったという確認は取っていないようです。ふーむ…。ランナー登録と照らし合わせるには個人情報の保護や手間などの問題があったんでしょうか…。

対象となったのは登録ランナー数が全米でもトップ11の大規模なマラソン(i.e. ボストンやシカゴ、ホノルルやヒューストンなど)で、unadjustedな死亡率と、死亡率に影響を与える年齢、性別、人種や慢性持病、収入中央値などを参考に病院ごとに数値をadjustしたものと両方で分析したそうな。
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で、結果です。まず、マラソン前5週間 vs 当日 vs マラソン後5週間では、患者の特徴に統計的に有意な差はなかったと(↑Table 1)。Medicaid適応資格、アルツハイマー病、A-fib、慢性腎臓疾患の有無には統計的傾向はあったみたいですけどね。ふーん。性別や人種も差が全くなかったというわけではなさそう。
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上のAとBがUnadjustedな30日以内の死亡率です。グラフAでは近隣の病院(Control hospitals、青線)ではpoint valueと95%CI共にマラソン前後5週間で比較的安定した死亡率(25%前後)を記録しているのに対し、マラソン地域の病院(Marathon-affected hospitals、橙線)では当日にグンと死亡率が上昇している(24.9%から28.2%まで、3.3%上昇; 95% CI 0.7-6.0%, p = 0.01)のが見て取れます。グラフBでも同様に、マラソンの日の影響は特に受けていないControl hospitalsと、マラソンの日に死亡率が上がっているMarathon-affected hospitalsが確認できますが、95%CIを見る限り統計的な有意性はないかな…?と思いきや、adjustedの分析(グラフC)ではマラソン日28.6% (95% CI 26.1-31.1%) vs 非マラソン日24.9% (95%CI 24.1-25.6%)ということでやはり3.7% (95%CI 1.1-6.4%)の死亡リスク上昇が見られたそうです。一方で、Control hospitalsではマラソン日25.0% (95% 23.6-26.4%) vs 非マラソン日24.7% (95% CI 24.3-25.2%)で、やはり差(0.3%, 95% CI -1.2~1.8%)はないよ、と。

原因となりうるものはなんなのか?
ひとつの導き出せる理由として、「マラソン当日と他の日とでは受け入れ病院に違いはなかった」、つまり、「マラソンやっていようがやっていまいが、心停止で運ばれる病院は一緒」ということがあり、要約すると、「マラソンでスタッフが出払って手薄の病院で、普段の患者ボリュームを支えなければいけなくなる」可能性を示唆しています。
なので、救急車両での搬送距離にはマラソン日 vs 非マラソン日で違いがなかったそう…なんですが、マラソン当日の午前中には搬送にかかった時間が著しく長かった(18.1 min vs 13.7 min, 差4.4 min, 95%CI 1.3-7.5 min, p = 0.005)のだとか。これはパーセンテージに直すと「マラソン当日、午前中の救急時搬送時間は通常より32.1%長くかかった」ということになるんだそう。この差は交通規制が解消される夕方には解消されているそうなんですが。
まとめると、著者らは「交通規制」「救急車両の散らばり」「病院でのケアの遅れ」がこれだけの「重篤(substantial)な死亡率の上昇を招いているのではないか」と考察しています。個人的には「救急車両の散らばり(diversion of ambulance resources)」がどこから導かれたのか理解に少し苦しみます(救急車両の到着時間に大差はなかったはずで、差が確認されたのは大会午前中の搬送時間のはず…これは交通規制によるものと考えられ、救急車両のリソースが散らばっていたからとは考えにくいです)。本文にも一か所typoがあり(p.1448の"a relative difference of 13.3%"というところは3.3%の間違いではと思います)、ちょっと終盤で「??」と考えてしまう個所が多いのですが…。

ともあれ、この論文の最後には「町全体を飲み込むようなイベント開催する際には、イベント参加者のみならず、非参加者の健康、救命も考慮に入れられるべきだ」と結論づけられていて、これには私も賛成です。近隣の住民の健康を犠牲にしてまで大きく危険なイベントを開催するメリットがどれだけあるのか…仮にそれに対する経済効果があるにしても、対価として我々が支払っている犠牲は何なのか…我々医療のプロはイベント運営スタッフと共に一度手を止めて熟考すべきなのではと思います。



②汗腺だって疲れる
3番目の登壇者、永島先生のこの一言も印象的でした。
発汗とそれによる蒸発で起こる熱放散は非常に効果的だ、と示した後で引用されたこの論文(↓)2はちょっと面白かったです。
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8人の思春期前の子供(平均9.4±0.6歳)、8人の若年成人(平均22.7±0.8歳)と8人の年配者(平均71.0±1.0歳)の運動中の発汗能力を検証したこの研究、運動と共に直腸音はどの年齢層でも同様に上昇していったが、比較して、1) 絶対発汗量、表面積当たりの発汗率は子供で著しく低く、2) 運動により代謝で生まれた発熱量(heat production)、環境からの熱利得量(heat gain)は子供のほうが著しく高い…つまり、子供は運動中、体温が成人よりも上がりやすいにも関わらずその熱を効率的に逃がすシステムが完成しきれていないという、非常に耐熱管理が不利な状況にあることが報告されています。ほうー。
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それでそれで。こちらの研究3では熱順化をした男性被験者を8名用意して、それぞれ体重の3%、5%、7%脱水させ、運動中発汗がどう変わるかや深部体温の変動を見た、というなかなかに過激な検証を行っています。現代では倫理審査に通らないかもねー…。
で、分かったこととしては、
1) 脱水していればいるほど、運動中深部体温が上がり、心拍数も上昇する
2) 脱水していればいるほど、運動中の発汗率は下がる
まとめると、こんなグラフ(↓)になるようです。
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ということは成人はもちろん、発汗能力が低い子供は運動中特に水分補給をこまめに行い、発汗能力を十分に高めておく必要がある、ということが見えてきます。

では、飲めば飲むだけいいというのか?…というところで、冒頭の言葉です。飲んだら飲んだだけ、蛇口をひねるように汗が出るようには我々の身体はできておらず、実際には汗腺が一生懸命働いてくれることで汗が作られているのです。運動して、いっぱい水分も取ってじゃんじゃか汗を作っていれば、汗腺もそのうち疲弊してきます。
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そんなことをまとめてあるのが上の論文4。1955年発表とかなり古いものなのですが、こちらも古いだけあってかなり過激な内容になっています。4人の暑熱順化していない若い男性被験者さん(年齢不明)を冬季にめちゃめちゃ暑い部屋に入れ(室温40-45℃、湿度60-90%)、ベッドに寝っ転がってもらって直腸温、発汗量、記録した、というもの。
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で、結果は激しい発汗を3~6.5時間ほど続けた後、発汗率は急に悪くなった(青い矢印; 最大値の30-60%にまで落ち込む)んだそうです。室温、直腸温共に上がり続けたにも関わらず、です(赤い矢印)。分析によると、これらの汗腺は急に活動をやめたというよりは、同じ活動レベルを続けていたそうなんですが、発汗アウトプット量ががくんと減ったと…つまり、汗腺が急にお休みモードになったわけではなく、なんとか汗を作ろうと努力は続けているけれども生産性を保てない状況(=疲労)に達したことを示しているそうです。

この論文では、「汗腺はその機能回復のスピードを需要が越えさえしなければずっと汗をかき続けられるが、機能回復能力以上の発汗需要がある場合、発汗率は汗腺の疲労によって低下していく」とまとめられています。暑熱順化すると発汗率が上がる、というのは有名な事実ですが、これは神経系の伝達メカニズムなどが向上して体内の発汗効率が良くなったというよりも、汗腺が鍛えられて疲労しにくくなったってことなのかしら?という新たなイメージを育むことができました(これが合っているのか分かりませんが)。

運動時はそれでなくても消化器官の血液循環は悪くなりますから、運動中にがぶがぶ水を飲んでも効率のいい発汗を保てるとは限らないんですねぇ(そもそも飲んだ水の吸収も悪くなるし、吸収できたとしても前述のように一定時間後に汗腺の疲労が起こってしまうから)。ですから、永島先生の仰る「(運動中の)飲水を過信するのは危険」「運動前に身体に水分が満ちている状態(euhydrated)にすることが大事」というのには大きく頷けました。非常に面白い講義でした。



③身体の水分量に関わる用語
素晴らしかったと言えば、最後のスピーカーであった細川由梨先生!今までに発表されたデータから、まだ未発表のものまで盛り沢山で本当に勉強になりました。彼女の操る日本語もとても美しく、私もああならねば…と憧れの眼差しで見ておりました。
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その由梨ちゃんから講演後、こんな本(↑)5を紹介してもらったんです。…というのも私が「学会中に使われていた用語に少し不一致があったかな?」とTwitterで言及し、誤用されやすいHypohydrationとDehydrationという用語を分かりやすく図解できないかと試行錯誤していたんですが、この図を見ると分かりやすいですよ、と丁寧に教えてくれたのです。これ、オンラインフルテキストの本みたいで誰でも閲覧可能なんですが、中にあったその図というのがこれです(↓)。すごくわかりやすい!目からウロコが落ちるようでした。
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この概念を少し反映させてもらって、元々私が作っていた図にさらに手を加え、完成したのがこちら(↓)です。
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Hypohydration (何かから水分が抜けてカサカサになっているような状態)と、Dehydration(何かから水が無くなっていくという過程)を両方とも「脱水」という日本語に訳してしまえるからそもそも分かりにくいんだと思いますが、元々健康的な領域を脱して水分を失ったHypohydratedという脱水「状態」は病理状態であり、そこに辿りつくまでの過程がDehydrationという脱水「行為」なのだということです。逆に言うと元々Hyperhydratedしている人がDehydrateしたからといってHypohydrateになるとは限らない(Hyperhydrate→Euhydrateになるだけかも)ので、Dehydration≠Hypohydrationということも分かりますし、必ずしもDehydrateが病理を示すものでもないということも分かるかと思います。

更に言及すると、このHypohydration、EuhydrationとHyperhydrationという身体の水分状態を示す言葉はスペクトラムを構成し、それぞれの状態に幅があります。「Euhydration寄りのHypohydration」や、「Hyperhydration寄りのEuhydration」、というものも存在するということです。一日を通じて水分状態はfluctuate...増えたり減ったりと揺らぐものであり、水をごくごく飲んだ2時間後程は身体の水分状態はこの図右へと傾くでしょうし、逆に汗をいっぱいかき、水分補給をする直前には左へ傾きます。それでいいんです。全く微動だにしない一定値に保たなければ!と思わなくていいし、その必要もないのです。

そこがうまいこと示されているのが、由梨ちゃんが共有してくれた先の図です。Euhydrationの部分に波のような線が描かれていますが、これは「Euhydrationは体内の水分が〇%という特定の状態を指しているのではなく、〇から〇くらい、という幅を持つものであり、一日を通じて波のように変動しますよ」「でもその波を『正常』の範囲内に保っておけば充分Euhydrateと言えますよ」ということを示唆しています。私はこれを矢印でスペクトラム状の図にすることで表現してみましたが(私の頭の中ではこういう風に生理されていたので)、この波モデルも揺らぎをたたえているようでなかなかに深みがあり、素敵だと思います。

由梨ちゃん、貴重な情報源をシェアしてくれてありがとう!スポーツセーフティー・シンポジウムの登壇者様、オーガナイズしてくださったスポーツセーフティージャパンのスタッフの皆様、重要な学びの場を設けてくださってありがとうございました!また来年も行きます。

1. Jena AB, Mann NC, Wedlund LN, Olenski A. Delays in emergency care and mortality during major U.S. marathons. N Engl J Med. 2017;376(15):1441-1450. doi: 10.1056/NEJMsa1614073.
2. Inbar O, Morris N, Epstein Y, Gass G. Comparison of thermoregulatory responses to exercise in dry heat among prepubertal boys, young adults and older males. Exp Physiol. 2004;89(6):691-700.
3. Sawka MN, Young AJ, Francesconi RP, Muza SR, Pandolf KB. Thermoregulatory and blood responses during exercise at graded hypohydration levels. J Appl Physiol (1985). 1985;59(5):1394-1401.
4. Thaysen JH, Schwartz IL. Fatigue of the sweat glands. J Clin Invest. 1955;34(12):1719-1725.
5. Freund BJ, Sawka MN. Influence of Cold Stress on Human Fluid Balance. In: Institute of Medicine (US) Committee on Military Nutrition Research; Marriott BM, Carlson SJ, eds. Nutritional Needs in Cold And in High-Altitude Environments: Applications for Military Personnel in Field Operations. Washington(DC): National Academies Press (US); 1996. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK232865/ doi: 10.17226/5197.

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  # by supersy | 2018-11-26 21:00 | Athletic Training

引き続き、口呼吸の話: 睡眠時無呼吸症候群に対する、口呼吸介入の可能性。

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若年性閉塞性睡眠時無呼吸(Obstructive Sleep Apnea, OSA)の患者にアデノイド口蓋扁桃摘出(↑)をしても予後は意外と良くないんだそうです。一時的にアウトカムが改善しても、長期的には悪化して、戻ってしまったりとか。1 そうなってると、何か見落としちゃってるんじゃないかなぁ、根本の原因は何だろなぁってなりますよね。
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で、この論文(↑)2の著者らが考えたのが「口呼吸が原因では?」という可能性。口呼吸は口腔顔面形成・成長異常(Abnormal Orofacial Growth)を引き起こす3-6→口腔顔面形成・成長異常は睡眠時の呼吸異常(Sleep-Disordered Breathing, SDB)につながる、7,8 というそれぞれの関係性は報告されているのだから、これらを繋げて考えれば全ての原因になっているかもしれない口呼吸の治療も考慮すべきなのでは、という理論展開のはまぁ、考えてみれば至極当然ですよねぇ(豆知識ですけど、起床時の呼吸の92%、睡眠時の呼吸の96%は鼻呼吸を介して行われているべき9 なんですって。へーへーへー)。

そんなわけで、この研究で後ろ向きに検証されたのは
1. アデノイド口蓋扁桃摘出手術前、そもそもOSA患者に口呼吸患者はどのぐらいの割合いるのか?
2. 手術をすることによって、この異常行動癖はどう変化するのか?
3. (手術が成功しなかった場合、エクササイズによる呼吸・口腔介入は有効なのか?)
…ということみたいです。それでは早速結果です。
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OSA改善のため、アデノイド口蓋扁桃摘出手術(T&A)を受けた64人の子供のうち全員が著しく睡眠時異常呼吸関連の症状が改善したのですが(Table 1)、うち、35人の口呼吸は改善されず。手術前と術後6ヵ月で比較するとほぼ全員が口呼吸(63/64, 98.4%)だったところから半数くらいには減った(35/64, 54.7%)んですねぇ。
しかしよくよくこの2グループ(口呼吸グループ、n = 35 vs 鼻呼吸グループ、n = 29)の違いを見てみると、口呼吸がなくならなかった35人の患者は、術後口から鼻呼吸に改善された29人と比較して総症状、AHI(Apnea-Hypopnea Index, 睡眠一時間あたり何回呼吸異常が見られたかを数値化したもの。ちなみに無呼吸は最低でも10秒間呼吸が止まった状態と定義される)、換気空気量制限に酸素飽和度も全て著しく悪かった(Table 2)という劇的な結果になっています。
*こういうの見てると、もしかしたら手術で口呼吸から鼻呼吸に自然に戻れた子は、あくまで閉塞性睡眠時無呼吸症候群が先行して、ほかに手段がなくて口呼吸に切り替わった(だから物理的な閉塞がなくなったら何もせずとも鼻呼吸に戻れた)のかな、と思いますけど、手術をしても口呼吸が治らなかった子は、もしかしたら口呼吸という異常行動ありきで、そこから閉塞が起こったのかなぁという妄想も膨らみますよね。だから手術で「症状」のひとつである閉塞を除去しても結局根本が治ってないから他の症状が残るんじゃないかなぁ、なんて…。

んで。
改善幅の低かった口呼吸患者(n = 35)はさらにこのあと、いかに口呼吸が悪い影響を及ぼすか、介入するべきことかという教育を受け、実際にこれから6ヵ月間続けるようにとエクササイズの処方を受けたそうです(渡された資料はこちらこちら)。専門セラピストへの紹介状も渡し、改善に取り組むよう指導されたとのこと。
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ただ、当然というかなんというか、取り組んでね、といった全員が実際に取り組んでくれるわけじゃありません。術後から12ヵ月のFollow-upに来てくれた口呼吸患者18人のうち、9人が実際にエクササイズ・トレーニングを実施、残り9人はそれを実践してくれなかったらしいのですが、この2つの患者サブグループの経過の違いは一目瞭然でした(Table 4)。AHI(p = 0.015)、換気空気量制限(p = 0.003)に酸素飽和度(p = 0.037)も全てエクササイズ介入したほうが著しく改善されており、逆にエクササイズをしなかった患者群は術後6ヵ月の数値と比べてどの値も全く改善されていない、という結果になったわけです。
*もちろんこの2つのサブグループの違いは呼吸介入に継続的に取り組んだかどうか以上のものがある可能性はあります。家庭の社会経済的地位(socioeconomic status)、教育的背景、Comorbidityにコンプライアンス…。ですのでこのグループ間の差がそのまんまエクササイズをしたかしなかったかどうかの差だっ!とは断言しづらいですけれど、それにしたってふむーと考えさせられる結果ですよね。

結論: アデノイドや扁桃腺の肥大があり、睡眠時無呼吸症候群を発症した患者は睡眠時に鼻呼吸を使わない(nasal disuse)傾向にある。こういった口呼吸傾向が強い患者の中には、手術で気道を閉塞しているものを物理的に取り除いても通常の呼吸パターン(鼻呼吸)に戻るとは限らず、その場合は鼻呼吸に重きを置いたエクササイズ介入が有効かも知れない

Follow-up期間がそれなりに長い+被験者がコドモ、というのもあってか、実験期間中被験者がどんどん減ってしまったのが残念ですが、この結果はなかなか面白い可能性を示唆しています。手術だけでは口呼吸徴候の強い患者は十分に改善しない。逆に言うと、摘出手術を受ける前にこういう呼吸介入をやっていたらどうなっていたのか…?それが根本治療となり換気空気量や肥大が改善され、無呼吸症候群がそれだけで消失可能性もあったのか…(手術が必要ないケースもあったのか…)?そうであれば、手術の決断をする前の保存治療の第一歩として、全ての患者が一定期間取り組むべきものなのか?事前に何らかの計測をすることで誰が手術にrespondするか、誰がしにくいか見極めるスクリーニングのようなことはできるのか?というところも気になりますね。

そんなわけで過去の記事の内容と、今回の内容と、私がさらに追加で見つけた論文の情報を合わせると、口呼吸は脳の不活性を起こすし、Forward Head Postureになり、呼吸能力低下して有酸素運動機能も落ちるし、口腔顔面形成にも異常をきたし、3-6 噛み合わせが悪くなって10咀嚼効率が落ち、11 ドライマウス12や虫歯になりやすくなる13,14という説もありますし、鼻のフィルターを介さない呼吸でアレルゲンに敏感になった結果喘息になりやすくなったり、15 気道が狭まり睡眠時無呼吸症候群になったり、7,8 睡眠の質が下がることで慢性的疲労感が生まれたり、イライラしたり、1 学習障害になる16 というエビデンスまであるしでまぁ踏んだり蹴ったりです。百害あって一利なしとはまさにこのこと。口呼吸こわい…。

そんなわけで今日はちゃんと口を閉じて寝ようと思います。おやすみなさい…。

1. Huang YS, Guilleminault C, Lee LA, Lin CH, Hwang FM. Treatment outcomes of adenotonsillectomy for children with obstructive sleep apnea: a prospective longitudinal study. Sleep. 2014;37:71–76.
2. Lee SY, Guilleminault C, Chiu HY, Sullivan SS. Mouth breathing, "nasal disuse," and pediatric sleep-disordered breathing. Sleep Breath. 2015;19(4):1257-1264. doi: 10.1007/s11325-015-1154-6.
3. Linder-Aronson S. Dimensions of face and palate in nose breathers and habitual mouth breathers. Odontol Revy. 1969;14:187–200.
4. Linder-Aronson S. Adenoids - their effect on mode of breathing and nasal airflow and their relationship to characteristics of the facial skeleton and the denition: A biometric, rhino-manometric and cephalometro-radiographic study on children with and without adenoids. Acta Otolaryngol Suppl. 1970;265:1–132.
5. Mcnamara JA. Influence of respiratory pattern on craniofacial growth. Angle Orthod. 1981;51:269–300.
6. Lime M. Orthognathic and orthodontic consequences of mouth breathing. Acta Otorhinolaryngol Belg. 1993;47:145–155.
7. Ricketss RM. Respiratory obstructions and their relation to tongue posture. Cleft Palate Bull. 1958;8:3–6.
8. Huang YS, Guilleminault C. Pediatric obstructive sleep apnea and the critical role of orofacial growth: evidences. Front Neurol. 2013;3:1–7.
9. Fitzpatrick MF, McLean H, Urton AM, Tan A, O'Donnell D, Driver HS. Effect of nasal or oral breathing route on upper airway resistance during sleep. Eur Respir J. 2003;22(5):827-832.
10. Grippaudo C, Paolantonio EG, Antonini G, Saulle R, La Torre G, Deli R. Association between oral habits, mouth breathing and malocclusion. Acta Otorhinolaryngol Ital. 2016;36(5):386-394. doi: 10.14639/0392-100X-770.
11. Nagaiwa M, Gunjigake K, Yamaguchi K. The effect of mouth breathing on chewing efficiency. Angle Orthod. 2016;86(2):227-234. doi: 10.2319/020115-80.1.
12. Musseau D. Mouth breathing and some of its consequences. Int J Orthod Milwaukee. 2016;27(2):51-54.
13. Mummolo S, Nota A, Caruso S, Quinzi V, Marchetti E, Marzo G. Salivary markers and microbial flora in mouth breathing late adolescents. Biomed Res Int. 2018;2018:8687608. doi: 10.1155/2018/8687608.
14. Choi JE, Waddell JN, Lyons KM, Kieser JA. Intraoral pH and temperature during sleep with and without mouth breathing. J Oral Rehabil. 2016;43(5):356-363. doi: 10.1111/joor.12372.
15. Izuhara Y, Matsumoto H, Nagasaki T, et al. Mouth breathing, another risk factor for asthma: the Nagahama Study. Allergy. 2016;71(7):1031-1036. doi: 10.1111/all.12885.
16. Um YH, Hong SC, Jeong JH. Sleep problems as predictors in attention-deficit hyperactivity disorder: causal mechanisms, consequences and treatment. Clin Psychopharmacol Neurosci. 2017;15(1):9-18. doi: 10.9758/cpn.2017.15.1.9.

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  # by supersy | 2018-11-08 19:30 | PRI

人体には「5つの横隔膜」がある?身体の意外な繋がりの話。

人体に存在する横隔膜(Diaphragms)と言われて、皆さんはどの部位を思いつきますか?Respiratory Diaphragm(横隔膜)とPelvic Diaphragm(骨盤隔膜)?
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今までにも人体に横隔膜が3つある説1 や4つある説2はあったのですが、この論文3ではなんとっ!5つの横隔膜(five diaphragms)の存在について論じています。それらは…

  1. "The" Diaphragm = Diaphragm Muscle: 横隔膜
  2. Pelvic Diaphragm = Pelvic Floor: 骨盤隔膜
  3. Buccal Diaphragm = Floor of the Mouth: 口腔底
  4. Upper Thoracic Diaphragm = Thoracic Outlet: 胸郭出口
  5. Tentorial Diaphragm = Tentorium of the Cerebellum: 小脳天幕

…なんだそうです。著者ら(2名のDOさん)はこれらの組織はFascialを介して構造的に、また神経的に繋がっていると述べています。Roof of the mouth(口蓋)じゃなくてFloor(口底)なのか!へー。

以下が彼らが示す解剖学的根拠です。

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論点#1: 横隔膜と骨盤隔膜の繋がりは比較的明確である
ここは私個人としても疑いの余地がないので割愛します。吸気: 横隔膜下がる→骨盤隔膜下がる、呼気: 横隔膜上がる→骨盤隔膜上がる、ってことですね(↓)。この横隔膜と骨盤隔膜の同期性はDynamic MRI画像でも示されていますし、4 呼吸を吸う一瞬前に骨盤隔膜(と、腹横筋と、内腹斜筋)に筋活性が起こり、腹圧のコントロール、体幹の安定や排泄の自制などに一役買っていることは今までにも充分すぎるほど報告されているかなと。4-6 骨盤隔膜は文字通り下から呼吸を「支え」てくれているわけです。
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論点#2: 横隔膜と口底も繋がっている
実は呼吸で横隔膜が収縮するより一瞬前に収縮を始める筋肉は口底にもあり、その代表がオトガイ舌筋(genioglossus)や舌骨舌筋(hypoglossus)です(↓)。これらの筋肉は呼気に後方、吸気に前方に移動することによって呼吸と共に舌をリズミカルに動かしており7、文字通り空気をかき回して換気を助けています。ということは、咀嚼、嚥下と呼吸とは密接な関りがあり、ひとつが不全を起こすと他分野に連鎖するということも何ら不思議ではないわけです。8-10
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論点#3: 神経的全身への繋がり
横隔膜を支配している横隔神経はC3, 4, 5の神経根から伸びていると言われますが、この神経細胞(neuron)は頸脊髄腹側角(ventral horn of in the cervical spinal cord)に集まり周辺情報を受け取っています。一説によれば横隔神経の走行は腕神経叢全て、頸椎の全てのレベル(C1-T1)に関わっていることもあるようで、鎖骨下筋神経(C5, 6)とも吻合しているそうです。ということは、腕神経叢や頸椎異常が横隔神経活性異常を引き起こし、その異常シグナルが鎖骨下筋神経にも届き、鎖骨下筋が過活動→第一肋骨を引き上げ、胸郭出口症候群を招く、という障害連鎖のメカニズムなんかも考えられる、というわけですね。11,12
神経学的に、横隔神経は迷走神経(CN X)とも吻合しており、その迷走神経は横隔膜の脚部(crura)を支配、そして求心・遠心神経を介して内側縦束(そしてここには脳と脳神経と上部頸椎神経C1-3に繋がる線維も存在する)に、そして求心神経を介して三叉脊髄核に繋がっているわけです。つまるところ、横隔膜の機能不全が頸部、口底、硬膜と眼に出ることもあるだろうと…。まぁもうここらへんは話していくとキリがありませんね。
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論点#4: Fasciaの繋がりも
横隔膜を包んでいるTransversalis fascia(横筋筋膜)はEndothoracic fascia(胸内筋膜)の延長で、これは深部・中層のCervical fascia(頸椎筋膜)、さらには硬膜が起点となっています。ということは、頸部は筋膜を介して恥骨と繋がってるってわけです。Thoracolumbar fascia(胸腰筋膜)も仙骨⇔頸椎の同様の繋がりを後方で作ってますしね。前後でサンドイッチ状態です。
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んで。

筆者はこれらの組織の繋がりを訴えた上で、治療にもこの繋がりを考慮にいれたアプローチが取られるべきだとしています。まだ確固たるエビデンスはないとしながらも、自らの臨床経験から、これらの「5つの横隔膜」を意識した徒手療法の有効性を訴えているのです。例えば先天的心臓疾患や脳卒中患者の横隔膜は上昇位にあるのだから、13,14 これらの連動して動く「横隔膜」を徒手療法で抑制してあげればその症状は和らぐんじゃないか、といったところです。なるほど、その理論の全てに賛成はしませんが面白い臨床観点です。
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著者は「骨盤隔膜からアプローチを始めて徐々に上に上がっていく」アプローチを推奨しています。その一例が論文に示されています(写真でいうと右から左に進んでいく感じ↑)。

まぁまだ仮説段階で、実際の検証はまだまだなんですが、イチ専門家の意見としては非常に興味深い観点で書かれた論文でした。〆もなかなか素晴らしいです。
"The diaphragm muscle should not be seen as a segment but as part of a body system (p.240).3"
だからこそ、患者さんの局所的な主訴に囚われず、システムのリンクを診て全体を治療すべきであるとBordoni氏らは説いています。これは私もココロから賛成しますし、二つ前の記事で書いたように、中枢呼吸リズムを常に刻みつづけ、感覚入力異常が感知されると意識下ではこらえきれないほど大きな呼吸衝動を起こす横隔膜は我々が思っているよりももっと敏感なのかもしれないし、だとしたらそれを治療で利用しない手はないです。私は人体にはまたBordoni氏らが提唱するものとは異なったDome (= Diaphragm)があるんじゃないかと思っていますが、それでもこの「5つの横隔膜」説は非常に刺激的で楽しかったです。かなり活発に論文を出している方のようなので、他のものも読んでみます!

1. Frymann V. The core-link and the three diaphragms. In: Academy of Applied Osteopathy Yearbook 1968. Indianapolis, IN: Academy of Applied Osteopathy, 1968.
2. Speece CA, Crow WT. Ligamentous Articular Strain: Osteopathic Manipulative Techniques for the Body. Seattle, WA: Eastland Press, 2001:93,146–147,161–168.
3. Bordoni B, Zanier E. The continuity of the body: hypothesis of treatment of the five diaphragms. J Altern Complement Med. 2015;21(4):237-242. doi: 10.1089/acm.2013.0211.
4. Talasz H, Kremser C, Kofler M, Kalchschmid E, Lechleitner M, Rudisch A. Phase-locked parallel movement of diaphragm and pelvic floor during breathing and coughing—a dynamic MRI investigation in healthy females. Int Urogynecol J. 2011;22:61–68.
5. Park H, Hwang B, Kim Y. The impact of the pelvic floor muscles on dynamic ventilation maneuvers. J Phys Ther Sci. 2015;27(10):3155-3157. doi: 10.1589/jpts.27.3155.
6. Park H, Han D. The effect of the correlation between the contraction of the pelvic floor muscles and diaphragmatic motion during breathing. J Phys Ther Sci. 2015;27(7):2113-2115. doi: 10.1589/jpts.27.2113.
7. Cheng S, Butler JE, Gandevia SC, Bilston LE. Movement of the tongue during normal breathing in awake healthy humans. J Physiol. 2008;586(17):4283–4294.
8. Cifra A, Nani F, Nistri A. Respiratory motoneurons and pathological conditions: lessons from hypoglossal motoneurons challenged by excitotoxic or oxidative stress. Respir Physiol Neurobiol. 2011;179:89–96.
9. Grace KP, Hughes SW, Horner RL. Identification of the mechanism mediating genioglossus muscle suppression in REM sleep. Am J Respir Crit Care Med. 2013;187:311–319.
10. LuoYM, Tang J, Jolley C, et al. Distinguishing obstructive from central sleep apnea events: diaphragm electromyogram and esophageal pressure compared. Chest. 2009;135:1133–1141.
11. Zhang Z, Dellon AL. Facial pain and headache associated with brachial plexus compression in the thoracic inlet. Microsurgery. 2008;28:347–350.
12. Laulan J, Fouquet B, Rodaix C, et al. Thoracic outlet syndrome: definition, aetiological factors, diagnosis, management and occupational impact. J Occup Rehabil. 2011;21:366–373.
13. Caruana L, Petrie MC, McMurray JJ, MacFarlane NG. Altered diaphragm position and function in patients with chronic heart failure. Eur J Heart Fail. 2001;3:183–187.
14. Voyvoda N, Yu¨cel C, Karatas G, Oguzu¨lgen I, Oktar S. An evaluation of diaphragmatic movements in hemiplegic patients. Br J Radiol. 2012;85:411–414.

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  # by supersy | 2018-11-07 20:30 | PRI

口呼吸とForward Head Postureについて。

脳を活性したければ鼻呼吸をせよ!という記事はだいぶ前(2017年9月6月)に書きましたけど、今日は口呼吸に関する論文です。
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この論文1、初っ端から飛ばしてます。冒頭部分が鋭い & 面白い!慢性口呼吸のことを"Syndrome (症候群)"と呼び(断言しちゃっていいんだ!)、口呼吸は機能的、構造的、姿勢的、生体力学的、咬合的、そして行動学的な全身に影響を与える様々な問題を引き起こす2としています。

具体的には、口呼吸は1) 鼻の求心性神経、自律神経、交感三叉神経を抑制し、それによって呼吸の頻度と深さが変化する。2) 肺の抵抗(lung resistance)が増え、肺コンプライアンス(lung compliance)が減少する(メカニズムは後述)。3) 口腔内の気道確保と空気抵抗減少のため、頭部を前に突き出し、首が伸展(ここでは伸展と書いてありますが、具体的には頸部屈曲のOA伸展だと私は解釈しています)が起こる。口呼吸とForward Head Posture(FHP)との繋がりはもはやConsensusというレベルで疑いの余地なく確立されている3-7んだそうです。
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"This forward head posture will lead to disorganization of the muscle blocks (anterior, posterior, and transverse muscles), impairing diaphragm muscle mobility and, consequently, diaphragmatic function (p.472).1"

…という個所が特にこれといった文献引用なく断言されているのが面白いのですが(この論文、総じて文献引用は非常に甘い印象です)、内容は十分に頷けます。呼吸時、SCMなどの過活性によって胸郭上部を引き上げるような呼吸メカニズムが主流となり、胸腹部のモビリティーと横隔膜の機能が低下することで、呼吸がより努力・労力を要するものになると。不活性になる胸郭周りの(元来の)呼吸筋は筋力低下し、胸郭拡張力が落ちる→肺換気量も落ち、有酸素運動のキャパシティーにも影響が出るんじゃないか、というのがこの実験のキモ部分のようです。

んで。

口呼吸と通常(鼻)呼吸被験者の呼吸能力と有酸素キャパシティーを計りましょう、というのが実際の検証事項。口呼吸で専門医院を来院してきた8-12歳の患者と、小学校に通う健康な同年代の子供(コントロール群)に専門医が鼻、副鼻腔、喉や耳の診察を行ったのち、1) New York Testによる姿勢評価; 2) MIP(Maximal Inspiratory Pressure)、つまり吸気筋力・能力; 3) MEP(Maximal Expiratory Pressure)、つまり呼気筋力・能力; 4) 6MWD(6-min Walk TestによるDistance)、つまり呼吸機能を最大限活かして6分間でどれだけの距離を歩行できるかという運動機能テストを行ってグループ間の結果を比較したそうです。
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結果を(↑)ひとつのテーブルにまとめてみました。
患者のプロファイリングでいうと、気になるのは口呼吸患者の男児の割合ですかね。男性のほうが口呼吸に陥りやすい(今回は76.7% vs 37.1%, p < 0.001)、というような性差は実はこれまでにも報告されており2,8、男性のほうが女性よりも気道内径が狭く、慢性口呼吸と関係があると言われているアレルギー性鼻炎や閉塞性睡眠時無呼吸症候群も多いとの報告9 があったりするようです。ふむー、解剖学的な差?男女の呼吸差があるかもということか?鼻呼吸をする子供の半数以上(32/62, 51.6%)は正常な姿勢(非FHP)だったのに対して、口呼吸の子供のほぼ全員(29/30, 96.7%)がFHPだったというのは、さすがにConsensusと言い切るだけあるわ…という感じです。逆に一人の口呼吸且つ非FHP患者さんが気になっちゃいますね、この子の呼吸メカニズムどうなってんだろ?と。

吸気能力(MIP)は口呼吸と鼻呼吸との被験者間で約3倍以上(20.0 ± 7.1 cmH2O vs 62.5 ± 21.9 cmH2O, p < 0.001)、呼気能力(MEP)は2倍以上(25.3 ± 11.7 cmH2O vs 58.8 ± 22.3 cmH2O, p < 0.001)もの違いが出たのは衝撃ですし、6分間に歩ける距離(6MWD)も平均60mの差(568.1 ± 47.4 m vs 629.8 ± 47.6 m, p < 0.001)があります。同じ6分間という時間で、だいたい口呼吸の子供たちは鼻呼吸の子供たちの90%程度の距離しか歩けなかったということです。歩いてこうなんですから、走らせたり、もっと距離を伸ばしたりしたら…例えば1.5km走なんかやったりしたら…その差は90%では済まなくなるんじゃないですかね。これらの子供たちが例えばサッカーやバスケットボールの試合で対戦したら、どちらが優れたパフォーマンスを見せるかは既にgiven、といっても過言ではないかもしれません。

しかし、興味深いのがこのテーブルの*と¶部分ですかね。鼻呼吸の被験者内では、寧ろFHPがあるほうが呼気・吸気能力共に著しく高い(p = 0.003, p = 0.004)数値が出ています。それが有酸素運動パフォーマンスに反映されているか、というとそうではない(むしろ20m程劣っている?統計的には有意ではない、p = 0.181)みたいですけど。個人的には、鼻呼吸ができる能力をpreserveした状態で首を前に突き出し口呼吸も併用したら、理屈的に呼気・吸気量は増えるはずなのでこの数値は驚くようなものではないかなと思います。ただこれの状態は一時的なもので、個人的にはこれが本格的な口呼吸・FHPの前駆現象となり、徐々に口呼吸が鼻呼吸を凌駕する形で進行していくのではないかと推測します。あくまで推測ですけども。

結論: 口呼吸は男子に多くForward Head Postureを伴い、適切な鼻呼吸をしている同年代のコントロール群と比較して呼吸筋力が呼気・吸気共に低下し、有酸素運動パフォーマンスも低下した状態にある。

そんなわけで色々口呼吸については調べてはおりますが、今のところ「口腔スペースを広げ、一時的に口呼吸をやりやすくする(→さらに「通常」「正常」の口呼吸から遠ざかってしまう)以外は何もメリットがない(→つまり結局のところ長期的には何もメリットがなく、悪影響しかない」ということが言えると思います。

これから寒くなったら余計に冷たい外気温はしっかりフィルター通して湿らせて・温まらせてから吸ったほうがよいですよ。そのためにもハイ、鼻呼吸鼻呼吸~!
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  # by supersy | 2018-11-06 19:30 | PRI

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