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Clinical Immersion (臨床没入)をAT教育に採用するということ。

2020年より有効となったCAATEのアスレティックトレーニング教育スタンダード1 の中には、

Standard 16: The clinical education component is planned to include at least one athletic training immersive
clinical experience.
Annotation: An athletic training immersive clinical experience is a practice-intensive experience that allows the student to experience the totality of care provided by athletic trainers. Students must participate in the day-to-day and week-to-week role of an athletic trainer for a period of time identified by the program (but minimally one continuous four-week period).

スタンダード16: 臨床教育の中には、最低でも一度のアスレティックトレーニング臨床教育没入体験を含まなければならない。
注釈: アスレティックトレーニング教育に置ける没入的臨床体験というのは、学生がアスレティックトレーナーの提供するケアの全貌を経験できるような、実践に満ちた経験のことを指す。学生はプログラムが設定した期間(最低でも継続的に4週間)、アスレティックトレーナーが一日の始まりから終わりまで、週の始まりから終わりまで果たす仕事の役割に実際に参加する。

という項目があります。言い換えれば、座学要素をほぼゼロにして、臨床教育強度をMAXまで上げる - さながらプロのアスレティックトレーナーのように働く就労疑似体験をさせよう、ということなんですよね。看護師教育でよく用いられる手法です。

CAATE教育スタンダードの移り変わりを追っている方ならわかると思うのですが、教育項目にこういった要素が明記されたのは本改訂が初めてになります。全米規模でプログラムが修士に移行し、AT教育に費やせる時間が2年という短期間になったことによって懸念されたことのひとつに、「臨床教育の質をいかに保ち、資格取得後の就労に対する『準備』ができるか」という点がありました。わかりやすくいうと、教科書的知識だけはみっちり頭に詰められても、応用・実践ができないクリニシャンを世に出すようではまずいよねと誰もが思ったわけなんですよね。

個人的には、学生の間は学生に、「学生である」ことを謳歌してもらいたいと思っています。具体的には、学業の場では臨床の現場で無償の動労力として利用されることなく、学びたいことを学びたいだけ勉強していい環境を用意し、その他にやりたいことも(i.e. 好きなアーティストのコンサートにいったり、旅行をしたりなど。やるべきことやって、スジさえ通していれば。)迷わず挑戦して、ATである前にヒトとしても見聞を広めてくればと常々願っているわけです。でも、嘘偽りない「仕事の厳しさ」を体感してもらうのも同じくらい大事なわけで。社会に出てから、「この仕事、こんなにキツいは知らなかった」と言わせてしまったらやはり、教育者失格ですからね。

そんなわけで、このClinical Immersion (臨床没入)なのです。この漢字が適切な日本語訳なのかどうか実は私は分かっておらず、もしかしたら「クリニカル・イマーション」というカタカナ表記で十分通じるものなのかもしれませんが。個人的には「就労疑似体験」という日本語は思いのほかしっくりきます。

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んで。
この論文2 では全プログラムのProgram DirectorとClinical Education Coordinatorにメールで調査し、背景情報を取得。その中から、なるべく満遍のないサンプルが集まるよう人選をして、合計11名にClinical Immersionに関して抱いている様々な思いに対して電話インタビューをおこなっています。

回答をテーマ別にまとめると、こんな意見が見えてきたそうな。ちょっと意訳を挟みながらまとめますね。
1. Perceived Benefits (実施のメリット)
一人の患者を受傷から回復まで見たり、早朝5amの出勤や日付が変わっての退勤、週末の仕事など、決してセクシーでない部分も含めて「全て」体験できるところに何よりの価値があり、この仕事がどんなものであるという期待がより現実的になるだろう。Preceptorはもちろん、他学生、患者、コーチやその他医療従事者とプロとしての関係性を築く機会も得られ、しかもそれが授業や宿題、テスト勉強に制約を受けることがない(= 臨床にだけ没頭できる)というのがいい。遠征などにも気兼ねなく帯同できるようになる。さながらフルタイムの臨床家としての日々を楽しめるのだ。今までのTraditionalなやり方で学生が逃しがちだった"Patient Contact Opportunity (患者にダイレクトに接する機会)"もまとまって得られるチャンスにもなる。(授業との行ったり来たりがないぶん)より遠方の実習先にも躊躇い少なく学生を送れるようになるかもしれない - 他州大学やプロチームなど、臨床実習先の選択肢が増えるとしたらこれは学生にとっても嬉しいことだろう。
他の医療従事職では「Residency」という形状を取られるものが、我々ATにとってのClinical Immersionなのかもしれない。こういったスムーズなTransitionを促進する時期があり、先輩とのMentorshipが築ける時間を設けることこそが職業そのものの財産となる可能性は多いにある。

2. Challenges or Concerns (実施にあたり、障壁や心配の種になりそうなこと)
座学カリキュラムをその分詰めなければいけなくなってしまうが、それは可能且つ健全なのか?今以上に「詰め込み教育」になってしまうのではないか?Preceptorの負担が重くなりすぎやしないだろうか?例えば「4週間、一日10時間、うちの生徒を2人見てほしいのだけど」と頼んで、結果PreceptorもClinical Siteもプログラムから離れてしまうようなことはないだろうか?(これらの「心配」は「まだClinical Immersionを実践していない」プログラム関係者から多く聞かれた半面、「私もそういう心配をしていたんだけど、いざ蓋を開けてみたら『ぜひ仲間に入れて!』というClinical Siteの数に驚いた!」という既に実装済みのプログラム関係者からの声もあったそうではあるが)
授業と実習同時進行しているときにあった「これ今日授業でやったやつ!」というスピード感は喪失される。費用や法的書類の多さなど、プログラムの負担になる要素は多く、一方で「これやったからって学習成果がより大きくなるという根拠はあるの?」という疑問は残る。
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障壁・心配の種に関してはもうひとつの論文3 でより詳しく言及されているのでこちらも合わせながらまとめてみます。
24の大学(学士レベル1校、修士レベル12校、学士&修士両方4校)からの24名のオンラインアンケートと、うち17名とのインタビューによると…
学生にとっての障壁
Isolation: オフキャンパスにて実習漬けの生活になると学生同士のつながりやプログラムとのつながりが薄れ、学生が孤立しているように感じるのでは?グループ学習の良さが薄れてしまう?確かに、オフキャンパス実習の比重が増えると私の前任校を考えた時、先輩⇔後輩の仲がとてもよくお互い刺激を受け合っていたのを見ると、それが減ってしまうんだろうかとも…。オンキャンパスに十分実習先が確保されていてばいいんでしょうけどね。
Financial Burden: 実習先までの交通費、住み込みの場合ならば宿泊費、バイトとの掛け持ち不可…。それらの経済的負担を学生が「投資」と割り切れるか?「現実味に欠ける夢物語」になってしまうのか?
Time Engaged in Learning: 今やCAATE教育は学生の実習経験を定量化する際、〇〇時間ではなく〇〇Patient Contactでカウントされるようになってきていると思うが、Clinical Immersionになれば選手が活動していようがいなかろうが「一日中」の実習が当たり前になる。質より量の実習に逆戻りしないか?学生がBurnoutを起こさないか?という声もあるよう。まぁ、選手がいないときに私たちが何しているのかは学生も学ぶ機会があってもいいとは個人的に思うんですけどね。ただ、「一日中」ダラダラと仕事しているのは別に美学ではないので、そもそもそういう勤務形態そのものを見直してもいいような気はするのですが…。
プログラムにとっての障壁
Lack of a Definition: Clinical Immersionの明確な定義がなく、不安やフラストレーションを抱えるプログラム関係者は多い。彼らが大学のもっと大きな立場の人たち(学科長、学部長、理事長など)にこれによってかかる費用や手間を説明・必要性を説得しなければいけない立場なので、もう少しはっきりとしたガイドラインのようなものを示してもらえると動きやすいのに…という気持ちはあるだろう。
これは確かに、個人的にも「例」をいくつか示してもらえるとありがたいかなという気はしています。
Scheduling: 座学をどう組みなおす必要があり、それに対して教師陣の理解は得られるか?完成されていたはずのカリキュラムを取り壊すことに抵抗を感じる人もいるとのこと。個人的に気持ちはわかるような気がする一方で、文中の「もう10年もやってきている、完成されたカリキュラムなのに…」という文面から読み取れる凝り固まった価値観は、あまりよくないかもと思ったり。いいんじゃないですか、こういうきっかけで「より良いもの」を目指して10年使ってきたものを建設的に壊すのも。
Preceptor Involvement: Preceptorだって一人になりたいときがあるのでは?学生をふとしたダウンタイムにEntertainしなきゃ、Babysitしなきゃ、とばかり思っていると疲弊させてしまうので?…というのはごもっともな指摘かも。特に1 on 1の場合は。

Millennial世代はチーム・ワークを好む傾向にあるので、Peerやプログラムとの繋がりを保つためにClinical Immersionの間にもオンラインなどで交流の場を設けたり、Patient volumeを考慮しダウンタイムを最小限に抑える工夫をすることでただただ長時間その場にいる、という状況を避けたり、工夫できることは多そうです。しかし、質の高いPreceptor Trainingをすること、そして元Clinical Education Coordinatorの立場からいうと、CECが各Preceptorと近い距離を保つことは難しそうだなぁと思います。

さて、メインの論文2 のほうに戻ります。最後は…
3. Strategies for Implementation (実施策)
Building Blocks - 座学同様、実習も「以前習った臨床スキルに今回はこういう側面を積み重ねる」という階段的構成を練ると良いのかもしれない。PT, OTや看護、医学部などお手本にできるモデルは多くある。比較的動きやすい夏学期にClinical Immersionをおこなう、既存のアカデミックカレンダーにとらわれない学期構成をする、Undergradのプログラムをつぎはぎで大学院に持ってくるのではなく、根本的な構造から見直す改革的姿勢を持つなど、クリエーティビティを促進するような思考の柔軟さがカギになる。

ただの個人の感想ではありますが。私はもうこのClinical Immersionについて頭を痛めなくてもいいポジションについていることが、悲しくてなりません。学生にとって理想的なDidactic EducationとClinical Educationのフローは?一般的に思われるような「座学ありきの臨床」にとらわれず、一年の初っ端にまず短めのImmersionをガツンと挟んでみてもよいのでは?2年生終盤の「メイン」となるClinical Immersionは、4週間ではなく8週間程度が理想的?高校のFreshmen, JV, Varsityが入り乱れるFootball Two-a-Daysのような混とんとした現場は絶対に経験すべきだし、大学でのがっつりRehabilitationに専念できるような現場も捨てがたい。学生に選べるように設定したいけれど、「絶対大学で働きたい、高校は興味ない」と言っていたような学生が、実際に現場に出ると「高校が!!!!いい!!!!」って言いだすことも多いしな…。時間があまりない中で、学生にどれだけの多様性のある経験をさせてあげられるだろう…。色々妄想は膨らむのですが、これを実践に移せるような立場にいないことが、やっぱり少し悲しいです。
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まぁそれでも今アメリカでばりばり教育やってる人たちの見解を聞いてみたいですね!あとは実際やってみての学生さんの感想も!CAATE ConferenceとかATECとか久しく行けてませんが(そしてしばらくは行けない状態が続きそうですが)、色々な教育者さんと意見交換してみたいです。

1. Commission on Accreditation of Athletic Training Education. 2020 Standards for Professional Masters Programs. CAATE website. https://caate.net/wp-content/uploads/2019/08/2020-Standards-Final-7-15-2019.pdf. Published July 15, 2019. Accessed July 6, 2020.
2. Harris AM, Volberding JL, Walker SE. Stakeholder perceptions of clinical immersion in athletic training programs. Athl Train Edu J. 2020;15(1):75-84. doi: 10.4085/1947-380X-19-055.
3. Mazerolle Singe S, Myers SL, Campbell M, Clements C, Eberman LE. Perceived challenges of clinical immersion in professional master's programs: a report from the athletic training clinical education network. Athl Train Edu J. 2020;15(1):18-25. doi: 10.4085/150118118.

  # by supersy | 2020-07-07 17:00 | Athletic Training

2017年記事再掲: 歯のケガの対応、知っていますか?

こちらも、前回同様、某ウェブ媒体に以前掲載されていた記事を再掲したものです。

こちらは2017年にスポーツ指導者、アスリートや保護者さん向けに書いた歯牙外傷 - つまり、歯のケガに関する文章です。一生付き合っていきたい大切な歯だからこそ、スポーツの現場に出る人たちに知っておいてもらいたいこと、私個人の意見が多く反映されているかもですがさっくりとまとめてあります。ご活用いただけたら幸いです。

ちなみにこのトピックに関しては、スポーツ現場で働くアスレティックトレーナーさん向けに個人の動画配信サービス(#18 歯牙外傷の救急対応と予防、前後半)、またはAZCARE ACADEMY内の講習(Lesson 5, 頭部・顔面)でもっと詳細に専門用語連発でまとめてあります。興味のある方はこれらも合わせてチェックしてみてください。



歯のケガの対応、知っていますか?

スポーツでは、「命に関わる」というまではいかないけれど、それでも充分に緊急を要するケガが起こりえます。今回はその中でも歯に関するケガについてお話したいと思います。
2017年記事再掲: 歯のケガの対応、知っていますか?_b0112009_14505363.jpg
意外と深刻な歯のケガ
虫歯治療などからもわかるように、歯は一度損傷してしまうと残念ながら自然治癒することはありません。歯は一生もの、なんてよくいいますが、年齢を重ねても美味しいものを遠慮気兼ねなくもぐもぐ食べるためにも、自分の歯とは末永く良いお付き合いをしたいものですよね。
スポーツで顔や口周りに起こるケガはスポーツ傷害全体の3-38%と言われています。1-3 例えば、皆さんは、口周辺にボールや他選手の肘がぶつかるなどして衝撃がかかり、歯が刃物代わりになって自分の頬や唇、舌を切ってしまったことなどありませんか?こういった口腔(こうくう: 口の中)のケガのマシなところは特に何もしなくても「治りが比較的早い」ことなのですが、例え短期間とはいえ、物を食べたり飲んだり、喋るたびに痛い思いをするのはなかなかにしんどいものです。
それから、もっと重症だと歯が欠けたり(破折)、グラついたり(不完全脱臼)、抜けたり(完全脱臼・脱落)してしまう場合もあります。これらのケガは放っておいても治らないばかりか、実は適切な対応をすぐにしないと手遅れになってしまうかもしれない、「緊急」と称されるような一分一秒を争うケガなんです。4 これらのケガが起きた場合の対処法、皆さんはご存知ですか?

歯が抜けてしまった!
では、歯がぼろっと抜けてしまった場合はどうするか?一番にすべきは抜けてしまった歯を拾うことなのですが、この際、歯の根の部分をなるべく触らないように気を付けてください。根の部分には歯茎に固定する靭帯や膜が付着していて、この部位の治癒が再植の際のカギになります。4
抜け落ちてしまったこの歯は、さながら陸に揚げられた魚のようなものです。呼吸ができず、息も絶え絶え。このまま外気に触れ、乾燥すればどんどん細胞が死んでいってしまいます。ですから、彼らが呼吸できる環境に一刻も早く戻してあげることが大事なのです。

歯の脱落に対する適切な対応
歯が比較的キレイな状態ならば、そのままえいやっと元の場所に歯を差し込んでみてください。向きだけ間違えないように、慎重に。これ、乱暴に聞こえるかもしれませんが、実は一番有効な対処法なのです。元の場所に差し込むことで、歯は息を吹きかえします。そして千切れた靭帯や膜たちが再生を始められるのです。「5分以内に再植できるか」がその後の治癒の成功を左右する最も大きな要素になる、と私たちアスレティックトレーナーも学校で習うんですよ。4多少ぐらついていても、とりあえずその場に落ち着けばオッケー。そのままガーゼを患部に軽く噛ませた状態で、歯医者さんへ向かいましょう。
歯に土やほこりなどが付着して、そのまま差し込むのがためらわれる場合は水を使ってさっと洗い流しましょう。この際、歯をごしごしこすり洗いしたり、石鹸や消毒液を使って洗ってしまっては絶対にダメです。これらは息も絶え絶えの歯に「トドメをさす」行為になってしまいますので、「すすぎ洗い」で十分。4 日本では水洗いは30秒以内5 というようですが、アメリカではもっと厳しく10秒以内と指導されます。4 水道水も歯にとっては外気とそう変わらない、「呼吸できない」厳しい環境なのには変わりないからです。流し終えたら、先ほど同様、一刻も早く歯を差し込みなおして、歯医者さんへ直行してください。
歯を差し込みなおしてみても、あまりにグラグラして歯が全く安定せず、歯がぽろりと抜けてしまう場合は?こうなったら、歯医者さんにワイヤなどの装具を使って固定してもらうよりほかありません。一刻も早く最寄りの歯医者さんへ向かいながら、その間、歯を「なるべく呼吸できる環境」へ置いておいてあげる必要があります。
先ほども言いましたが、外気に曝すのはもちろん、水道水に浸すのも決して歯にとって好ましい環境ではありません。乾いたガーゼや紙ナプキンで包むのもダメ、とにかく乾燥は避けなければなりません。4 うーん、ではどうすれば?
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歯の保存のために
最も好ましいのは歯保存目的で作られた専用液体の中に歯を浸すことです。4 例えば、アメリカにはsave-a-toothという製品が存在します。スポーツの現場で働くアスレティックトレーナーならば救急キットに必ず用意しているおなじみの道具です。手のひらにすっぽり収まるほどの小さな容器に保存液が入っており、抜けた歯もこの液体に入れておけば「呼吸」し続けることができるというわけ。日本には「ティースキーパー『ネオ』」という同等の製品があり、学校などでは常備されている場合が多いほか、処方箋なしでも個人で一般的な薬局(もしくはオンライン)で購入することができますよ。お値段はひとつ約1600-1800円。永久歯が一本守れると思えば、ずいぶん安い投資なのではないでしょうか(ちなみにこの保存液、室温保存が条件で、約2年ほどで使用期限が来てしまいます。直射日光の当たる場所に置いておかないこと、液体の色を確認し使用期限及び品質が悪くなっていないことを定期的に確認するようにしましょう)。
専用の保存液が手元にない場合は、冷たい牛乳(できれば低脂肪のもの)が次に理想的です。4 それもなければ、「患者の口(唾液)の中に入れてしまう」という荒手もあります。誤飲を防ぐために抜けた歯を歯茎と下唇の間に含み、そのまま歯医者へ向かいましょう。4 しかし、歯が抜けた部位からの出血が激しい、患者が脳震盪も併発しており意識が朦朧としている、または患者が泣きじゃくっていてうっかり歯を飲み込んでしまう恐れがある場合などは、口の中に入れないほうが良さそうです。その場合、生理食塩水(コンタクト液など)に浸しておけば、専用保存液や牛乳ほどではありませんが、水道水よりは体内に近い浸透圧のある環境が保てます。

歯が欠けた!
かけらがあまりに小さく、痛みもない場合は「何もしない」という選択肢もありますが、もう少し深いところで折れた場合は痛みがあったり、冷たい・熱いものがしみたりすることもあります。見た目が気になる方もいるでしょう。やっぱり、できることならくっつけたいですよね。この場合も脱落と同様、欠けた歯を1) 専用保存液、2) 牛乳、3) 口腔か生理食塩水に入れ (好ましい順に)、すぐに歯医者へ向かいましょう。4

歯が曲がった、グラグラする!
歯が少しだけグラグラする、くらいだったらそのままプレーを続け、終わり次第歯科医へ向かうのでも構わないのですが、例えばミシッと口の中で動いて明後日の方向を向いてしまっている場合は、まず方向を正したうえで、歯科医へ駆け込みましょう。4 こちらもワイヤなどで固定し、靭帯と膜の再生を促すことで充分な回復が見込めます。
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歯のケガの予防のために
さて、おさらいすると、歯が抜けた場合、1) 歯を(必要があればさっとすすいで)元の場所に差し込み、すぐ歯医者へ。もしくは、2) 差し込んでも安定しなければ専用保存液(なければ牛乳、それもなければ口腔か生理食塩水)に浸して、すぐに歯医者へ、というのが正しい対処法です。とはいえ、歯の心配なんてしないにこしたことはないですよね。歯のケガを予防するのに、はっきりと有効と言われている方法がひとつあります。それは、マウスガードを使うことです。4
日本でボクシング、テコンドーなどの格闘技とアメリカンフットボールではマウスガードの使用が完全義務化、加えてラグビー、アイスホッケー、ラクロスなどでは一部義務化されているそうですが、6 やはり指定の無いスポーツのほうが圧倒的に多いのが現状です。しかし、マウスガードをしていないほうが、している場合に比べて歯のケガのリスクが1.6-1.9倍になるといわれていることを考えれば、7 義務化されていないスポーツでも率先して選手がマウスガードを使ったほうが賢明と言えるでしょう。強制こそしていないものの、各協会もマウスガードの使用をスポーツ全般で推奨しています。4,8
マウスガードって呼吸がしづらくなるのでは?と不安に思う方もいるかもしれませんが、専門家が貴方にぴったり適切に合うよう作ったマウスガードは呼吸の妨げにならないはずですよ。9 マウスガード作成について興味のある方は、餅は餅屋!ぜひお近くの歯科医へ相談なさってみてください。この記事が、一人でも多くの方が大切な歯を守るために何ができるか考えるきっかけになってくれれば幸いです。

1. US Department of Health and Human Services. Oral Health in America: A Report of the Surgeon General. Rockville, MD: National Institute of Dental and Craniofacial Research, National Institutes of Health; 2000.
2. Kvittem B, Hardie NA, Roettger M, Conry J. Incidence of orofacial injuries in high school sports. J Public Health Dent. 1998;58(4):288–293.
3. Kumamoto DP, Maeda Y. A literature review of sports-related orofacial trauma. Gen Dent. 2004;52(3):270–280.
4. Gould TE, Piland SG, Caswell SV, Ranalli D, Mills S, Ferrara MS, Courson R. National athletic trainers' association position statement: preventing and managing sport-related dental and oral injuries. J Athl Train. 2016;51(10):821-839. doi: 10.4085/1062-6050-51.8.01.
5. 埼玉北足立歯科医師会. 歯の脱臼についてwebsite. http://www.kitaadachi-dent.or.jp/QA/QA_A23.html. 2002. Accessed March 2017.
6. 潮見台歯科クリニック. マウスガード装着義務のスポーツ website. http://www.shiomidai-shika.com/mouseguard/674.html. Accessed March 26, 2017.
7. Knapik JJ, Marshall SW, Lee RB, et al. Mouthguards in sport activities: history, physical properties, and injury prevention effectiveness. Sports Med. 2007;37(2):117–144.
8. The dental trauma guide. The International Association of Dental Traumatology website. http://www.dentaltraumaguide.org. Accessed March 26, 2017.
9. Kececi AD, Cetin C, Eroglu E, Baydar ML. Do custom-made mouth guards have negative effects on aerobic performance capacity of athletes? Dent Traumatol. 2005;21(5):276–280.

  # by supersy | 2020-07-05 18:00 | Athletic Training

2016年記事再掲: 身体にも影響する「脳震盪」の怖さ

以前某ウェブ媒体用に依頼を受けて書いたテキストが2つあるのですが、気が付いたらひっそりそのウェブ媒体ごとなくなっていたようなので、個人のブログに再掲載しようと思います。まぁ、書いたのは2016年ですし今更という感じはするのですが…。陽の目を浴びてほしくて書いた特別な文章が、土に埋まってしまうというのも悲しいので。

下のものは、えーと、少し背景情報を足しておくと、2016年にスポーツ指導者、アスリートや保護者さん向けに書いた脳振盪に関する文章です。簡単な言葉を使いながらも、分からないことは分からないと線を引きながらも、これが分かっていたらスポーツの現場がもう少し安全になっていくんではないか、と私が個人的に思うことを中心にまとめてあります。ご活用いただけたら幸いです。



こんにちは、テキサスA&M大学コーパスクリスティー校のキネシオロジー学部で臨床助教授として活動している阿部さゆりです。
今回はスポーツ傷害予防や診断などの授業を担当している私から、現役のスポーツ選手や指導者の方に向けて情報を発信したいと思います。

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絶対に無理をしてはいけない「脳震盪」

逆境でも時に歯を食いしばって頑張りぬくのがスポーツですが、絶対に無理をしてはいけないとき、というのもあります。それが、「脳震盪(のうしんとう)」を受傷したときです。

脳震盪とはなにか?
脳震盪はよく誤解されがちですが、決して脳の一部が腫れや出血、壊死などを起こしているわけではありません(それらの障害には脳血腫(のうけっしゅ)や脳挫傷(のうざしょう)といったような、もっと仰々しい名前が付きます)。1 構造的に問題がなく、且つ脳の機能が一時的に低下していることが認められた場合に脳震盪という診断が下されるのです。2
2016年記事再掲: 身体にも影響する「脳震盪」の怖さ_b0112009_13082078.jpg「脳の機能低下というのがなんともイメージしにくい」という方もいるかもしれません。そんな方は例えば、こんな風に考えてみてください。脳という器官はその様々な部分が独自の機能を担っており、バランスの取れた仕事をするために常にお互い連絡を取り合っています。
「ねえ、あなた今何しているの?」「次はキミこれをしてくれない?」という具合です。効率の良いコミュニケーションを取りたければ、誰が話していて、誰が聞き役なのかはっきりしていることが大前提なのですが、みんなが一斉にわぁわぁと喋りだしてしまうようなことがあっては、誰が誰に対してどんなメッセージを送ろうとしているのか聞き取れなくなってしまいます。
会話が混線してしまい、お互いのメッセージが聞き取りにくくなっている状態……つまりこれが機能低下した、脳震盪を起こした脳なのです。「5足す3ってなんだっけ?」「8だよ」というような、普段なら二言で済む会話も雑音が混じることで「え、何?聞こえない、5足すなに?」「え?何が聞こえなかったって?」と無駄なやりとりが増えてしまい、簡単なはずの作業をこなすのに普段の倍以上の労力と時間を必要としてしまうのです。3,4

脳震盪の一般的な症状とは?
脳震盪になると稀に意識を失ったり、記憶が一時的に曖昧になったりすることはありますが、こういったことは10回に1回あるかないかで、1,2それよりももっと一般的に見られる症状は頭痛やめまい、集中力低下に吐き気に耳鳴りなどです。5 夜中に目がランランと冴えて眠れなくなったり、逆に一日中ずっと疲れて眠かったりすることもあれば、理由もなく悲しくなったりそわそわしたり他人に当たり散らしたくなったり、判断力が鈍ったりすることもあります。1,2
人間の全てを司る脳に起こる障害ですから、症状は個人差があり、人によって感じるものは実に様々なのです。症状の出るタイミングも、人それぞれ。受傷直後に全ての症状が一気に出ることもあれば、15-30分ほどしてから症状がじわじわと出ることも。型にはめられないので、診断をする医者にとってもなかなか厄介な傷害です。
もうひとつ、脳震盪の実に不思議なところは、「これだけの力がかかったら脳震盪になる」とは特に決まっていないところです。強い衝撃が脳にかかっても平気なこともあれば、小さめの力でもタイミングや打ちどころが悪ければ脳震盪になってしまうことがあります。加えて、頭部に直接衝撃を受けなくても、肩や胸、腰などに衝撃を受けてもそれが脳を揺さぶるだけの力が十分にあれば脳震盪になることもあり得ます。1,2 「そんなに激しいぶつかり合いに見えなかったから」とか、「今のは頭にぶつかったわけじゃないから大丈夫だろう」という甘い考えでは脳震盪の発見が遅れてしまうことがあるんです。
脳震盪を早期に発見するためには、見た目だけで勝手な推測を立てず、「あれっ?」と思ったら必ず「気分はどう?」とお互いに声をかけあう文化を作ることが、チームにとって非常に大事になってきます。

脳震盪の怖いところ

蓄積される脳へのダメージ
脳震盪に関してはまだまだ我々の分からないことも多く、日進月歩で日々研究が進んでいる真っ最中です。
最新の研究で見えてきていることに、脳にかかった衝撃は繰り返されれば繰り返されるほどじわじわと蓄積されて、長い時間をかけて脳の萎縮を生むかもしれないこと、だからこそ脳震盪後の選手の競技復帰には慎重にならなければいけないことなどがあります。6
アメリカでNFL選手団が引退後に記憶・言語障害、痴呆やうつ病などを続々と発症し、「脳震盪がさも何でもないことかのような印象操作をし、脳のダメージが蓄積されることをきちんと教育しなかったリーグの責任は重い」としてリーグを相手取って大規模な訴訟を起こしたことは、ご存知の方も多いのではないでしょうか。7
結果リーグ側が責任を認め、10億ドル以上という賠償金を払うことに合意した、ということからもその深刻さはうかがえるかと思います。脳は体にひとつしかない、文字通り命と心を司る大事な器官。ひとつひとつの脳震盪からきちんと回復をした上で競技復帰をすることが大切なのです。

脳震盪の後は身体のけがも増える
ごく最近、脳震盪受傷後すぐに競技を中止して医師の診断を仰いだ場合と、症状を無視して競技を続行した場合とでは、復帰までの日数が倍以上違う、という興味深い研究が発表されました。8 日数にして、すぐに中止した選手は完全回復まで平均22.0日かかったのが、継続した選手では平均44.4日ほどと、はっきりとした差が出たそうです。さらに面白いことに、脳震盪受傷後は足首の捻挫や膝の前十字靭帯断裂など、そのほかのけがも受傷率も2~2.5倍ほど上がるという統計も報告されています。 9,10

何故すぐに競技を中止しなければいけないか
「なんか頭が痛いけど、とりあえずこの試合だけは…」という気持ちの油断が20日以上も復帰を長引かせる、もしくは、他のけがを引き起こす原因になってしまうかもしれません。「疑わしきはとりあえずプレーを続けて様子を見る」、ではなく「とりあえず一時中止してきちんとプロによる評価を受ける」、ということをスポーツの現場で徹底させなければいけません。

若いアスリートへの影響
膝や足首、肩などのスポーツ障害であれば若ければ若いほど回復が早いのが一般的ですが、実は脳の場合はそれが逆になります。まだまだ発達途中の若い脳は、脳震盪を受傷したときに成人よりも回復により長い時間がかかってしまうのです。2だからこそ、周りの大人が正しい知識を持ち、「今日はプレーをやめておこう。これは負ってはいけないリスクだよ」とストッパーとして機能しなければいけないこともあります。くどいですが、疑わしい場合にはまずはプレーを中止、医療機関を受診し、医師の指示を仰ぎましょう。
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チーム全体で脳震盪への対策を

最後に「あれっ、おかしいかな?」と思ったら選手本人がまず声を上げること、それ以上に指導者はそれをしてもいいんだという空気を作ることが何よりも大事です。というのも、選手が「脳震盪かも」と思いつつもそれを隠してしまう理由一位に「コーチに怒られるのでは」という恐怖心があるからなのです。11 「コーチは私たちの健康を大切に考えてくれている」と選手が実感できるよう、日々コミュニケーションを積むこと、そして例えばシーズン開始前にチームミーティングを開き、脳震盪の深刻さと迅速な報告の重要性をしっかりと確認しあうような教育と意見交換の場を設けるのもいいですね。それぞれのチームに合った工夫を現場の皆さんが考え、実践してくだされば幸いです。

1. McCrory P, Meeuwisse W, Aubry M, et al. Consensus statement on concussion in sport-the 4th international conference on concussion in sport held in Zurich, November 2012. Clin J Sport Med. 2013;23(2)89-117. doi:10.1097/JSM.0b013e31828b67cf.
2. Broglio SP, Cantu RC, Gioia GA, et al. National athletic trainers’ association position statement: management of sport concussion. J Athl Train. 2014;49(2):245-265. doi:10.4085/1062-6050-49.1.07.
3. Hutchison MG, Schweizer TA, Tam F, Graham SJ, Comper P. fMRI and brain activation after sport concussion: a tale of two cases. Front Neurol. 2014;5:46. doi: 10.3389/fneur.2014.00046.
4. Ptito A, Chen JK, Johnston KM. Contributions of functional magnetic resonance imaging (fMRI) to sport concussion evaluation. Neuro Rehabilitation. 2007;22(3):217-227.
5. Meeham MP, d’Hemecourt P, Comstock RD. High school concussions in the 2008-2009 academic year: mechanism, symptoms, and management. Am J Sports Med. 2010;38(12):2405-2409.
6. Gavett BE, Stern RA, McKee AC. Chronic traumatic encephalopathy: a potential late effect of sport-related concussive and subconcussive head trauma. Clin Sports Med. 2011;30(1):179-188, xi. doi: 10.1016/j.csm.2010.09.007.
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8. Elbin RJ, Sufrinko A, Schatz P, et al. Removal from play after concussion and recovery time [published online August 29, 2016]. Pediatrics. 2016. pii: e20160910.
9. Lynall RC, Mauntel TC, Padua DA, Mihalik JP. Acute lower extremity injury rates increase after concussion in college athletes. Med Sci Sports Exerc. 2015;47(12):2487-2492. doi: 10.1249/MSS.0000000000000716.
10. Brooks MA, Peterson K, Biese K, Sanfilippo J, Heiderscheit BC, Bell DR. Concussion increases odds of sustaining a lower extremity musculoskeletal injury after return to play among collegiate athletes. Am J Sports Med. 2016;44(3):742-747. doi: 10.1177/0363546515622387.
11. Chrisman SP, Quitiquit C, Rivara FP. Qualitative study of barriers to concussive symptom reporting in high school athletics. J Adolesc Health. 2013;52(3):330-335.e3. doi: 10.1016/j.jadohealth.2012.10.271.

  # by supersy | 2020-07-04 18:00 | Athletic Training

脊椎損傷疑いのアスリートの搬送前措置 (Prehospical Care of the Spine-Injured Athlete)に関する最新推奨事項、おまけ。

脊椎損傷疑いのアスリートの搬送前措置 (Prehospical Care of the Spine-Injured Athlete)に関する最新推奨事項、おまけ。_b0112009_12021622.jpg

脊椎損傷疑いのアスリートの搬送前措置 (Prehospical Care of the Spine-Injured Athlete)に関する最新推奨事項、その1。
脊椎損傷疑いのアスリートの搬送前措置 (Prehospical Care of the Spine-Injured Athlete)に関する最新推奨事項、その2。

ここまで新たに発表されたふたつの脊椎損傷マネジメントに関する論文(↑)をまとめてきましたが、これらの論文を書いた著者らが直接お話をしている動画を見つけたのでこちら(↓)も見てみました。


この動画は、実際の論文の内容を掘り下げて解説しているというよりは、どういう意図/どういうやり方でこれらの論文がまとめられたのか、という背景情報が多く含まれており、より深い理解に役立ちます。

28:42からの会話は、「高校など、人員が十分にいない環境で働くATはどのように対応すべきか」という観点からのもので、特に日本で働く我々が聞くのに非常に有用かと思います。要約すると…

様々な状況があるからこそ、これらの論文では「これをしなければいけない」ではなく、大枠のテンプレートとそれに付随するより多くの選択肢を用意するように努めた。現場に自分しかいないのであれば、防具取り外しは当然ながら、SMR具での固定すらせず/できず、EMS隊が到着するまで待つ、という選択肢だって存在する。同時に、誰ならばいるのか(コーチやマネージャー、高校生エイドも救急車を呼ぶ人員としては十分活躍できる - そのためのトレーニングはしている?)、または今よりも多くの仲間を得るため、ローカルERのスタッフを対象にワークショップをおこなえるよう動いてみなければ、など具体的に「連携を確立する」ために尽力しなければいけないことも見えてくる。

…ということだったかなと思います。人員がいないから何も考えない、何も取り組まない、何もできないとあきらめる、じゃないんですよね。やれないやりたくない言い訳はいくらでもできますけどね。

合わせて、こちらのリンク(↓)もぜひリソースとしてお使いください。

Best Practices and Current Care Concepts in Prehospital Care of the Spine-Injured Athlete in American Tackle Football
March 2–3, 2019; Atlanta, GAのSupplementary Data

Ron Courson氏がHead ATを務めるUniversity of GeorgiaのSpine Injury Management Protocol, EAPやEmergency Equipment Checklistがサンプルとして含まれていて、涙がちょちょぎれそうです。私個人としては、ここまでの2つの推奨事項やBest Practiceの論文よりも、これを見ることができたことがありがたいです。本当に本当に非常に貴重な情報が詰まっています。ATであれば是非一度は見るべきです。
なるほど、Trauma Bagとは別にSpine Bagも常備しておき、そこに防具取り外しのツールや、頚部周りに詰めるためのタオルなどを入れておくんですね。Inventory Listに用途目的も書くと確かにわかりやすいです。勉強になります…。なりまくりです。

  # by supersy | 2020-07-04 12:00 | Athletic Training

脊椎損傷疑いのアスリートの搬送前措置 (Prehospical Care of the Spine-Injured Athlete)に関する最新推奨事項、その2。

脊椎損傷疑いのアスリートの搬送前措置 (Prehospical Care of the Spine-Injured Athlete)に関する最新推奨事項、その1。
…の続きです。
脊椎損傷疑いのアスリートの搬送前措置 (Prehospical Care of the Spine-Injured Athlete)に関する最新推奨事項、その2。_b0112009_16020557.png
さて前回の続き、2連記事の2番目のほう1 を見ていきましょう。
前の記事の「Best Practice & Current Care Concept」に対し、こちらは「Consensus Recommendations (合意推奨事項)」がテーマになっています。

冒頭部分では、15歳未満の頚椎損傷患者(Cervical Spine Injury, 以下CSI) の1/4がスポーツ外傷起因で、そのうち85%に四肢麻痺の後遺症が残る2 とあります。となるとやっぱり、現場にいる我々が迅速に、適切な対応をすることで少しでも損傷や障害を最小限に抑え、患者の健康やQOLを高める手助けができれば…と思いますよね。

では、20名の権威が集い、49件の研究論文から導き出した「脊椎損傷マネジメントにおける推奨事項」は以下の通りです。私の意訳も含めてさっくり簡潔にまとめていますので、是非皆様は原文のほうをご覧ください。

1. 搬送先: CSI疑いの患者が送られるべきレベル1 or 2のトラウマセンターと連携を取り、事故発生の場合には迅速に安全に搬送が行えるようにしておく。
2. フェイスマスク: 搬送前に気道への物理的アクセスを確保しておく必要がある。アメリカンフットボール選手であればフェイスマスクを取り外す必要があるので、用具と訓練を積んだ人物を用意しておく。道具は複数用意し、選択肢がひとつでない状況を作っておくこと。
3. ヘルメットとショルダーパッド: 最重要優先事項は頚椎のアライメントの維持である。ヘルメットとショルダーパッドはセットとして考え、外さないなら両方外さない、外すすなら両方外すのが頚椎のポジションとしては望ましい。ヘルメットとショルダーパッドの取り外しが必要はどうかは現場にいる訓練を積んだ人物が判断すべきことだが、外すのであれば頚椎動作を最小限に抑えるよう細心の注意を払っておこなう。もし選手のヘルメットが取れているが、ショルダーパッドが装着されたまま、などの状況が起こってしまった際には頭部に支持物を配置し、アライメントを保護する必要が生じる。
ヘルメットとショルダーパッドを外すかどうかはCAB(Circulation, Airway, Breathing - 循環、気道、呼吸)維持ができているか、意識レベルが正常かが最も影響的な要素となるが、選手の体格、競技、ヘルメットとショルダーパッドのモデル(例: 取り外しが容易な最新タイプか)、どんなSMR具が使用可能か、なども考慮に入れる必要がある。
  *この項目はアメリカンフットボールだけでなく、男子ラクロスやアイスホッケーにも当てはまる。
4. SMR具と移動法: CSIの疑いがあり、患者であるアスリートがうつ伏せの場合Log-Roll Pushを用い、仰向けの場合は8-Person Lift-and-Slideを用いる。ただ、現場現場で異なる状況が起こりうるため、何が最善かは訓練を積んだ人間が判断すべきで、そのために複数の移動法を心得、習得しておく必要がある。仰向けの非アスリート患者用には、スクープストレッチャーを用いることも許容できる。
5. トレーニングの形態: 現地のメディカルスタッフが適切なトレーニングを積んでおくのは最優先事項のひとつである。救急の場面を想定したシナリオベース/実践ベースのトレーニングには、多分野の専門家が広く参加するべきで、練習施設・試合会場問わずどこでも実践できるようにするべきである。練習前、試合前に小まめにEAPをレビューし、試合前には両チーム(と、前回の記事と読み合わせるなら審判・オフィシャルも)が参加する"Medical Time Out"をおこなって緊急時の対応を事前に確認しておく。
6. 頚椎アライメント修正: CABの維持は最優先事項であり、頚椎のポジションによっては気道確保が難しい場合もある。患者が意識清明で指示に従える場合には訓練を積んだ医療従事者の判断で自動または他動で慎重に頚椎のリアライメントを試みても良い。意識がない患者には基本的には頚椎アライメント修正はおこわない(…が、差し迫った必要があれば考慮する)。頚椎を動かすことで痛み、神経症状が悪化するまたは抵抗がある場合にはそれ以上動かさず、そのままのポジションで頚椎を固定する。
7. 救助者人数: フェイスマスク取り外しに理想的な人数は2名(1名が頭頚部固定、1名が取り外し)、ヘルメット取り外しに理想的な人数は2名(1名が頭頚部固定、1名が取り外し)、ショルダーパッドの取り外しに理想的な人数はTorso-Tilt法を用いた場合は4名(この方法は胸腰椎損傷疑いがある場合は使えないので注意)、Flat-Torso法を用いた場合は2名である。
8. 搬送中の固定: 救急車に乗り込む際、SMR具の使用を継続するかどうかは現場の判断になるが、基本的には頚椎カラーやSMR具が既に使われている場合は搬送中も使用を継続する。ただ、ロングボード(= スパインボード)に乗っている時間は最小限に抑えたいので、救急車両のストレッチャーに移動する時点で除去しても構わない。その場合は十分な人数で脊椎動作を最小限に抑えながらおこなう必要がある。

…ということになりそうです。前回の記事よりも、疑問に思う箇所は少ないです。
ただ、それでもひっかかるというか、つっこみたくなる箇所は複数あります。例えば、

●これを読んで、やっぱり仰向けは8-person Lift、うつ伏せはLog-Roll Pushなんだと再認識できたけど、前回の記事と言葉遣いは合わせたほうがいいのでは?こと8-person Liftは8-person Liftでいいの?Multiperson Liftなの?(個人的には必要人数が明確な8-person Liftという名前のほうが好ましいと思うから、それで統一してもらいたい)
●8-person Liftが人数の関係でおこなえない場合、次の選択肢はSupine Log-Rollなの?それともStraddle Lift-and-Slideなの?(私は後者のほうが好ましいのかと思っていたけど、名前が両論文で一度も上がらなかったので) - これは個人的にはちょっとクリアにしておきたい。私はSupine Log-Rollはもはや使ってはいけないテクニックだと思っていたんですよ。そういうわけでもないのかな?
●先の論文では「病院スタッフの訓練がカギ」と強調されていたけど、こちらではそれは一度も触れられず、むしろ「現場のスタッフの訓練が最重要」という書き方されてるけど、結局両方大事ということだよね?(元も子もないけど) どっちが前提と言われると、たぶん後者だよね?

どちらにしても、両記事を読み終えての感想は「練習しなきゃ!」です。まだまだ見知らぬ、よくわからぬテクニックがたくさんあります。それを、わからないままにしておくのか、とりあえず一度二度(と言わずできればもっと)練習しておくのかで私の恐怖心も変化していくことと思います。皆さんもぜひぜひ「とりあえずやるとなったらできそうだ」と思えるところまで、各現場でシミュレーション、ディスカッション、練習を積んで腕を磨いておいてください!
https://www.nata.org/practice-patient-care/health-issues/spine-injury
今回の両記事も、前回紹介した動画なども詰まっている、リソースのリンクです。こちらもご活用いただければー。

1. Mills BM, Conrick KM, Anderson S, et al. Consensus recommendations on the prehospital care of the injured athlete with a suspected catastrophic cervical spine injury. J Athl Train. 2020;55(6):563-572. doi: 10.4085/1062-6050-0434.19.
2. 2018 Annual statistical report for the spinal cord injury model systems. National Spinal Cord Injury Statistical Center Web site. https://www.nscisc.uab.edu/public/2018%20Annual%20Report%20-%20Complete%20Public%20Version.pdf. Accessed July 2, 2020.

  # by supersy | 2020-07-02 10:30 | Athletic Training

脊椎損傷疑いのアスリートの搬送前措置 (Prehospical Care of the Spine-Injured Athlete)に関する最新推奨事項、その1。

でたー!ついに出ました!5年待ちました!
Prehospical Care of the Spine-Injured Athleteに関する推奨事項のアップデート、最新版です!
脊椎損傷疑いのアスリートの搬送前措置 (Prehospical Care of the Spine-Injured Athlete)に関する最新推奨事項、その1。_b0112009_16011845.png
まずは2連記事の一番目、こっち(↑)1 から、個人的に重要だと思った部分を抜粋、要約しようと思います。私の尊敬するCourson氏が筆頭著者ですね、さすが第一人者です!

冒頭では、1) スポーツで起こる脊柱損傷の最も深刻な結果は外傷性脊髄損傷である; 2) アメリカにおいて、スポーツ起因の脊髄損傷はその多くがアメリカンフットボールで起こる; 3) スポーツ起因の患者は若年であり、一般的な健康状態は良好で、交通事故などと異なり脳外傷やその他のケガを伴わないことが多い; 4) 患者がヘルメットやショルダーパッドなどの防具をつけており、治療の際に障壁となり得ることなどが特徴として挙げられています。

"The goal of the sports medicine team is to safely restrict the motion of the suspected spine-injured athlete during transport to an appropriate medical facility (p.546)1."
スポーツメディスン・チームの目的は、適切な医療機関への搬送中、脊椎損傷疑いの選手の動きを可能な限り、安全に、制限することである。

さて、このために我々ができなければいけないこと、知っておくべきことはなんでしょうか。

●緊急のための備え
脊椎疑いの患者用のEAPを作っておくことはもちろんですが、これに際して、1) 全てのローカル救急隊(EMS)とできればEAPを共に作り、練習すること、2) 施設別に詳細をカスタマイズし、メディカルディレクターが確認・承認をすること、3) シナリオベースのトレーニングを(EMSを含む)メディカルチーム全体で少なくとも年に一回はおこない、プロトコルに慣れ親しんでおくこと、4) もしこのEAPを実行する機会があったとしたら(= 本当に救急の場面が起こったとしたら)、事後にその流れを振り返り、質を向上できないか再検証すること、なども挙げられています。
患者の搬送先病院がどこであるか、という選択肢も重要なので、こちらもEAPに組み込んでおく必要があります。Level 1 or 2 トラウマ・センターであれば最も深刻な脊髄損傷にも対応可能はなずです。こういった病院のスタッフとは事前には話をつけておき、防具取り外しのプロトコルを作ってもらうようにするのが最も好ましく、病院のスタッフが防具取り外しの訓練を積んでおく、またはチームのメディカル担当代表者が病院に同行し、病院にて防具取り外しをおこなうようにとの記述があります。

これには少し驚きです。今までのトレンドを見る限り、チーム医療スタッフによる現場での防具取り外しを積極的に推奨する方向へ進んでいるのかと思っていました。この内容だと、防具取り外しのプロトコル作成に対し、チームを有しているチーム・学校側よりも病院側が責任を負う、というニュアンスに読み取れます。確かに州によってはチームスタッフによる現地取り外しは法的問題などの大きそうだとは思っていましたが…。防具取り外しは現場<病院なのか?もうちょっと読み進めてみます。

●メディカル・タイムアウト
(練習も勿論だが)各試合の前に両チームのメディカルスタッフ、EMSスタッフ、試合の審判・オフィシャルが顔を合わせる"Precompetition Medical Timeout (試合前メディカル・タイムアウト)"の機会を設けるべきです。医療スタッフや医療用具はどこに配置されているか、事故発生時のマネジメント・プロトコルはどんなもので、どんなシグナル(身振りなど)がどんなことを意味するか、救急車経路はどう確保するかなどを確認する時間として有効に使われるべきだ、とあります。

脊椎損傷疑いのアスリートの搬送前措置 (Prehospical Care of the Spine-Injured Athlete)に関する最新推奨事項、その1。_b0112009_17054838.png
●状況のコントロール
「穏やかさは伝染する」が、現場に居合わせた人が(悪意なく)ディストラクターになってしまう可能性があるため、どの集団に対して誰が責任を持つのか事前に明確にしておく必要もあります。ケガが起きた際、(受傷した)アスリートと医療スタッフでない人たちの間にBuffer Zone(バッファー・ゾーン、上の写真↑ 右はゾーンがある状態、左は喪失している)という十分な空間を確保する必要があり、これがないと救急車の出入りや適切な処置が理想的なタイミングでおこなえないこともあるからです。ゾーン確保のためには必ずしも医療従事者ではなく、コーチやADなども含むイベント責任者が空間のマネジメントの役割を担ってもよい、とありますし、医療スタッフがすべきことに専念できる環境を作るには、私もこういった人たちの協力を仰ぐ(ことを前もって決めておく)ことは重要だと思います。

●気道へのアクセス
自発呼吸があってもなくても、気道のアクセスは搬送前に確保されるべきであるとあるのは、患者の容体はいつでも急変する可能性があるから、ということでしょうか。これは、アメリカン・フットボールにおいて、フェイスマスクまたはヘルメットを搬送前取り外すべきである、ということと同意でもあります。今までのガイドラインでは「ヘルメットはそのままでフェイスマスクを外す、顎ストラップは下顎挙上法などの際にジャマであれば外してもよい」が一般的でしたが、必要があればヘルメットとショルダーパッドも搬送前に外してもよい、ともあります。少し表現としては弱いものにも感じられますし、先と読み合わせると「できれば病院で外したいけど差し迫った緊急性があれば現場で外してもよい」というニュアンスに取れますが…、この「必要」が何を指すのかという詳細は次の箇所にあります。

●防具取り外し
ヘルメットとショルダーパッドを取り外すかどうか考える際に、最も優先されるべきはCAB - Circulation (循環), Airway (気道), Breathing (呼吸)の維持です。取り外すことによって気道マネジメント、胸部へのアクセス(AED、CPRの際に必要)は容易になりますが、患者の状態、装着している防具の種類、現場にいる救助人の人数と熟練度(使うテクニックによって2-9人必要)など総合的に考慮し、取り外すかどうかを判断する必要があります。取り外しが必要ない/不適切なときは当然ですがその場で防具を取り外さなくてもよいのです。

●胸部へのアクセスは優先事項
生命維持のため人工呼吸よりも優先されるべきは胸部圧迫・AEDの使用であり、ショルダーパッドはつけたままではAEDパッドが貼れない、または胸部圧迫が不十分となる2場合もあるため、胸部圧迫・AEDが必要であればこの防具の取り外しの需要は必然的に高まります。ハサミでパッド前部を切っての取り外しがここまで一般的ではありましたが、最近のデザインではそれでは取り外せないような造りをしているものもあるので注意が必要です(これは知らなかった、どんな造りなんだろう)。反面、容易な取り外しを考慮したデザインを採用しているメーカーもあり、こういった防具は脊椎の動揺を最小限に抑えた取り外しに効果的とも聞きます。
ヘルメットの取り外しはフェイスマスク取り外しよりも頚椎を動かしてしまう危険性を孕んでいますが、いつかどこかでは外さなければいけないものでもあります。ヘルメットを装着したままでも気道確保は不可能ではありませんが、バッグバルブ・マスク使用時には確実にジャマになります。訓練を積んでいればフェイスマスクよりもヘルメットの取り外しのほうが迅速におこなえる3ということもあるようです。
防具がついたままでは頚椎カラーの装着が難易度が上がる。加えて、搬送前に防具を外す大きなメリットに、病院に到着してからの診断テストや治療のプロセスをExpedite(促進/時間短縮)させられるという点も合わせて覚えておきたいところです。レントゲンやCT、MRIなどの画像診断に直行できたり、投薬経路の確保がすぐにできたりすることは、生命維持や問題の特定に有効でしょう。

結局、現地>病院なのか、現地=病院なのか、現地<病院なのかはケースバイケースってことなんですよね。わかってきたような、まだまだこんがらがってるような。えーと、もうちょっと読み進めてみます。

防具の取り外しは救急医療チームの中でも最も訓練を積んだ人物がおこなうべきで、多くの場合それは(病院所属の救急スタッフではなく)チーム所属の医療スタッフ(アスレティックトレーナー、EMT、医師など)です。ただ、患者の状態、トレーニングを積んだ人数の不足など現場で防具取り外しがおこなえない場合は、病院についてからの防具取り外しとなるため、現時点での最善策(Best Practice)はEAPによって脊椎損症患者を受け入れることになっている病院が、所属救急チームの全てのスタッフに防具取り外しの訓練を施すことです。プロトコルの中で弱点となりえるポイントを強化したい、という意味合いでここを強調しているのかな?と個人的には解釈しています。

ふむふむなるほど。つまるところ、防具を外すときに考慮すべきは、1) 患者の状態、2) 適切な訓練を積んだ人材がどこにいるのか、という2点に要約可能かと思います。私自身の解釈ですが、論文を複数回読み直しこういう風(↓)に理解してみました。

脊椎損傷疑いのアスリートの搬送前措置 (Prehospical Care of the Spine-Injured Athlete)に関する最新推奨事項、その1。_b0112009_09563482.png
赤は非理想的状況」…としたのは、赤部分に行きついてしまうと、効果的な治療に対して時間的ロスまたは人員的ロスが生まれる結果になってしまうからです。やはり「現地にしか取り外しできる人間がいない」シナリオも、「病院にしかいない」シナリオでも、非理想的な環境()が生まれてしまうリスクが残ります。であれば、やはり現地のスタッフはもちろん、病院スタッフきちんと訓練を積んでおくことで、「現地でも病院でも、どちらでもニーズに合わせて取り外しが行える」環境を担保しておくのが最も好ましいのではないでしょうか。だから、くどいですが、この論文では最もハードルが高く、最も実現が恐らく現時点では難しい「病院のスタッフを訓練しよう!」「それがBest Practiceだ!」という部分を強調しているんではないかな、と思うんです。どうでしょう?この読み、合ってるかな?違う風に解釈した方いらっしゃいますか?

さて、少し頭を切り替えて。次は実際の防具取り外しのテクニックについてです。

●フェイスマスク取り外し
コードレス・スクリュードライバー、クリッパーなどの切除道具を用意しておきましょう。ひとつの道具に頼らず、複数の道具があればフェイスマスク取り外し成功率は98-100%を担保4,5可能とのことです。クイックリリース式クリップがあるタイプだとより取り外しが簡単になる6,7ので、もし選択肢があるのであれば、こちらを買いそろえておくことが好ましいとも言えます。ヘルメットとフェイスマスクの接続部分はシーズンを通じてメンテナンスをしておくことが理想的ですが、もし救急の場面で外せないような変形などをしている場合はヘルメットごと外す必要が出てきます。その際はショルダーパッドも外すか、頭部後方にパッドを入れることで頚椎のアライメントを保たなければいけません。

●Spine-Motion Restriction (SMR, 脊柱動作制限)
頚椎「完全固定」は事実上不可能なので、脊柱「動作制限」(以下SMR)という言葉がこの分野では共通言語として確立されてきている印象です。脊柱の動作を極限まで減らし、これ以上脊髄損傷を拡大させないというのがSMRの大きな目的となります。
SMRをしなければならない場面は1) 激しい衝撃を受け、患者の意識レベルが低下している、2) 脊柱の痛みまたは圧痛がある、3) 頚椎の可動域制限(…って、どのくらい?と思っちゃいますが)、4) 四肢のうち最低でも二肢以上に認められる神経症状(感覚麻痺や脱力など)、5) 脊柱の変形、のいずれかが認められる場合になります。逆に言えば、選手が正常の意識レベルで、脊柱痛や変形がなく、神経症状の訴えがなければSMRをする必要はありません

固定する際は可能な限り、脊柱のニュートラル・ポジションを保った上でパッドなどで補強・固定していくことが重要です。気道マネジメントや固定具の装着、血液の循環という観点からも中間位に勝るものはないからです。患者が意識があり、応答ができる状態で落ち着いていれば、医療従事者の判断により、自動又は他動的に頚椎を中間位まで動かすことも可能性としては十分に考えられますし、患者の意識がない場合、CABの維持に必要でなければ頚椎を無理に動かすことはありません (逆に言えば、意識がなく、且つCABが維持できていない場合は頚椎を中間位に戻すことも考慮すべき、ということになります)。ただ、頚椎動作の際に痛み、神経症状が悪化したり、物理的抵抗がある場合には直ちに動かすのをやめましょう。ここらへんは、以前の推薦事項と相違ないですね。

SMR器具は救急用ストレッチャー、スパインボード、頚椎カラー、スクープストレッチャー、真空マットレスにベスト状固定具など、定義としては様々なものを含むようです。「硬SMR具(例: スパインボード、スクープストレッチャー、真空マットレスなど)によるSMRは今でも推奨されているが、固定時間はできる限り最低限に抑えるべきである」一方で、「現場で移動用のボード使用が不適合と判断されれば救急用ストレッチャーに頚椎カラーの併用でもよい」とも記されています。スパインボードが神じゃないというのは重々承知しているけれど、ストレッチャーでもいいの?頚椎損傷疑いの患者に本当にそれで充分なの?とちょっと悶々としたのですが…。すぐ次の文章に、「多くのEMSシステムが、ガイドラインから頚椎損傷マネジメント・搬送の際のスパインボードの使用を排除しつつある」という記述があったのでおお!と思いました。スパインボードをこちらが使いたくでも、EMS側が拒否することがあるということでしょうか。なので、ローカルまたは州レベルでのEMSプロトコルとかみ合うよう、すり合わせをしておきましょう、ということなのかもしれません。

スパインボードに代表される硬SMR具を用いる場合、
- Multiperson List: 仰向けの患者向け、最低でも8名の救助者が必要
- Supine Log Roll: 仰向けの患者向け、最低でも5名の救助者が必要
- Prone Log-Roll Push: うつ伏せの患者向け、最低でも5名の救助者が必要
- Prone Log-Roll Pull: うつ伏せの患者向け、最低でも4名の救助者が必要で、狭い空間しかない場合に有用
などが患者をボードに移動させるテクニックとして使えます。一度ボードに載せた患者を中心にずらしたいときはHorizontal Slideを用いるとのことです。
あれば、スクープストレッチャーの使用も仰向け患者に使ってもよいとのことです。こちらは必要な救助者が3名と少なくていいのも特徴です。

あれ8-person Liftという名前はどこにいったの?仰向けのLog RollはUnacceptableで完全撤廃したんじゃなかったの(Straddle Lift-and-Slideのほうがましなんじゃ)?Prone Log-RollはPushのほうがPullよりも好ましいものだと思っていたけど、今回は比較級でどちらがベター、という表現はまったくなかったけれどもいいの?というあたりに大混乱しています。前まではもうちょっと詳しく厳しく書いてたじゃーん。ええー、全部許容する感じですか?特に優劣つけず?ここまでの研究はどうしちゃったの?

真空マットレスは米国よりもヨーロッパ諸国での利用率が高いものではありますが、患者の不快感はスパインボードよりも少なく、「もし使えるならExcellent Optionである」と表記されています。どんな見た目でどう使うのかという詳細は、上の動画を参照してください。これは防具をつけたままでも(もちろん取り外していても)使用可能なんだそうです。

使う道具はなんであれ、一度固定具の上に載せたら、胸部・骨盤・大腿を固定する3-ストラップ・テクニックやX-ストラップ・テクニックを用いて全身を固定し、次に頭頚部を固定していきます。吐血や嘔吐などで気道が塞がれた際、患者を固定具ごと傾ける必要があるため、この順番を守りましょう。全身固定の際、IVや神経血管評価のために腕を自由にしておく必要があるので、ストラップで胴体と一緒に巻き込んで固定してしまわないように注意する必要があります。
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●防具取り外し
防具の取り外しをおこなう際、ヘルメットをまず外し、ショルダーパッドは2番目に、というのが約束事のようです。
1. ヘルメットは救助者Aが頭頚部を徒手固定した状態で、救助者Bが顎ストラップとユニフォーム(T字に)をハサミで切ったのち、顎・頚部周りを前後からはさみこむように(上の写真参照)固定します。以前推奨されていた左右の挟み込みは、頬パッドが邪魔になることがあるようで、現在推奨されているのはこちらのテクニックのようです(ただ、前後挟み込みテクニックが痛みを伴う場合のみ左右挟み込みに切り替えるべしとのこと)。知らなかった! …で、救助者Aは頭頚部の固定の手を放し、ヘルメットをそのまま上にすっぽり引き抜いてから、また頭頚部を徒手固定して、完了です。
2. 次はショルダーパッドです。こちらは取り外しと同時に固定具への移動も行ってしまうのが手っ取り早く、やり方は何通りかあるとのこと。
 1) Multiperson Lift: 7名(A~G)で頭部固定しながら患者を持ち上げ、救助者Hがボードをしたから滑りいれ、救助者Iがショルダーパッドを上へ引き抜く(最低9名の救助者が必要)。
 2) Elevated-Torso or Tilt Technique: 救助者Aが頭頚部固定している場面から、救助者Bが前方から頚椎固定を取って代わり、救助者Aが自由に動ける状態を作る。次に救助者CとDが腰から患者の身体を30°ほど折るように傾けて、頭部・肩部分が持ち上がったところで救助者Aがショルダーパッドを引き抜く(最低4名の救助者が必要)。
 3) Flat-Torso Technique: 救助者Aが頭頚部固定している場面から、救助者Bが前方から頚椎固定を取って代わり、救助者Aがそのままショルダーパッドを引っ張り出すように引き抜く。左右から2人がかりで引ければ望ましいが、無理なら一人でもおこなえる(最低2名の救助者が必要)。
 4) Log-Roll Technique: Supine Log-Rollを半分おこなった状態(= 地面に身体が垂直になった状態)でショルダーパッドを(前部分だけでなく)前後にも切り、もう半分を転がし終えてからパッドを引き抜く(理想としては最低5名の救助者が必要)。
 5) Quick-Release Shoulder Pads: ケーブルを引っ張ると前後が分かれるようになっているパッドもあるんだそう。こちらも、頚部を救助者Aが固定し、救助者Bがケーブルを引いて、救助者B&Cがパッドを引き抜く(最低3名の救助者が必要)。
 6) Over the Head: 前述の、ショルダーパッド前方がハサミで切れないタイプの場合に用いる。救助者Aが通常通り頭頚部を固定しているところから、救助者Bがショルダーパッドの下に手を潜り込ませ、そこから頭頚部の固定を代わる。そこからはElevated-Torso or Tilt Techniqueを用いて3人がかりでショルダーパッドを引き抜く(最低4名の救助者が必要)。

ぬおー、ややこしいですね。ちょっとこのへんは全テクニックを練習して比べてみないと、私自身もイメージが持ちづらいかも。うつ伏せ状態の患者がヘルメット・ショルダーパッド取り外しを必要としている場合h、まずはLog-Roll PushまたはPullを用いて仰向けにする必要があるとのことです。

上が、今回の頚椎マネジメントプロトコルの資料となる公式動画だそうです。全てのテクニックが動画内で紹介されているわけではありませんが、それでもビジュアルがあると助かります。ぜひ皆さんも一度と言わず、二度三度と見てみてください。


脊椎損傷疑いのアスリートの搬送前措置 (Prehospical Care of the Spine-Injured Athlete)に関する最新推奨事項、その1。_b0112009_16020557.png
さて、対になっているもうひとつの論文であるこちら(↑)8 なんですが、ちょっと長くなってしまったので次回分に分けてまとめます!続きます。

1. Courson R, Ellis J, Herring SA, et al. Best practices and current care concepts in prehospital care of the spine-injured athlete in american tackle football March 2-3, 2019; Atlanta, GA. J Athl Train. 2020;55(6):545-562. doi: 10.4085/1062-6050-430-19.
2. Del Rossi G, Bodkin D, Dhanani A, Courson RW, Konin JG. Protective athletic equipment slows initiation of CPR in simulated
cardiac arrest. Resuscitation. 2011;82(7):908–912.
3. Mihalik JP, Lynall RC, Fraser MA, et al. Football equipment removal improves chest compression and ventilation efficacy. Prehosp Emerg Care. 2016;20(5):578–585.
4. Copeland AJ, Decoster LC, Swartz EE, Gattie ER, Gale SD. Combined tool approach is 100% successful for emergency football face mask removal. Clin J Sport Med. 2007;17(6):452-457.
5. Gale SD, Decoster LC, Swartz EE. The combined tool approach for face mask removal during on-field conditions. J Athl Train.
2008;43(1):14-20.
6. Gruppen T, Smith M, Ganss A. Removal time and efficacy of Riddell Quick Release Face Guard Attachment System side clips during 1 football season. J Athl Train. 2012;47(4):421–427.
7. Scibek JS, Gatti JM, McKenzie JI. Successful removal of football helmet face-mask clips after 1 season of use. J Athl Train.
2012;47(4):428–434.
8. Mills BM, Conrick KM, Anderson S, et al. Consensus recommendations on the prehospital care of the injured athlete with a suspected catastrophic cervical spine injury. J Athl Train. 2020;55(6):563-572. doi: 10.4085/1062-6050-0434.19.

  # by supersy | 2020-07-01 17:00 | Athletic Training

NATAのPosition Statementができるまで。

昨日こんな面白い論文(↓)を見つけて読んでいて、今朝になって友人から「これ見ました?教材として秀逸ですよね!」という連絡が来て、同じようなものを見て同じようなことを思うのだなぁとなんだか嬉しくなりました。ふふふ、そうなんですよ、こんな視点からの記事って珍しいんですよね!アメリカの大学でまだ教えていたら、全AT学生に一度は読ませようと思うような貴重な情報の詰まった教材です。
NATAのPosition Statementができるまで。_b0112009_07474201.png
残念ながら私が日本の大学でこれを教材として使える機会はなさそうなので、せっかくだからここに教えたかったことを書き残しておこうと思います。



NATA Position Statementに関しては、今までこのブログでも繰り返し言及してきました。

NATA最新Position Statement、「関節脱臼時の適切な初期対応」を読み解く。(2019年1月7日)
NATA最新Position Statement、「Patellomofemoral Pain(膝蓋大腿疼痛)に対するマネジメント」を読み解く。(2018年10月30日)
NATA最新Position Statement、「アスレティックトレーナーのWork-Lifeバランスの促進について」を読み解く。(2018年10月22日)
NATAの最新Position Statement、SLAP損傷の評価、マネジメント、RTPについて読み解く。(2018年4月9日)
ACL損傷予防に関する最新NATA Position Statement。(2018年1月15日)
などなど

NATA Position Statementとは全米アスレティックトレーナー協会が持てる全ての英知を集結させ、特定の事柄に対して、現在どの程度科学的根拠が判明していて、我々はアスレティックトレーナーとして何をすべきなのかを文章化し、まとめてある書物のことを指します。もっと簡潔に言うと、「ATCの資格を持ってプロとして活動するなら、これは最低限知っておいて、できるようにしておくべき事柄のまとめ」ってことです。Position Statementに書いてあることをせずに訴訟された場合、まず負ける(資格剥奪も十分あり得る)と覚悟しておくべきです。それくらい、米国AT業界の「常識」、「共通言語」になるべきことが詰まっています。

んで。このNATA Position Statementの内容というのは労作性熱中症の診断・マネジメントから、突然死予防、糖尿病マネジメント、仕事とプライベートのバランスの保ち方など多岐に渡り、何十という数が存在するのですが、より読みやすく・分かりやすくという観点から、2011年4月に発表されたNATA Position Statement: Prevention of Pediatric Overuse Injuries以降、"the Strength of Recommendation Taxonomy" 略してSORT(私はこのブログで勝手にこれを「推奨度」と訳してきましたが)が記載されるようになりました。何を推奨するか、だけでなく、「どの程度」推奨しているか、をアルファベットで示すことにしたわけですね。

SORTはAからCの3段階に分類されていて、
A: Recommendation based on consistent and good-quality patient-oriented evidence
B: Recommendation based on inconsistent or limited-quality patient-oriented evidence
C: Recommendation based on consensus, usual practice, opinion, disease-oriented evidence, or case series for studies of diagnosis, treatment, prevention, or screening

略すと、
A: 一貫性のある、良質且つ患者指向の科学的根拠に基づく推奨事項
B: 一貫性に欠ける、または質に多少の問題を含む患者指向の科学的根拠に基づく推奨事項
C: 専門家間の(あくまで)意見や疾患指向の科学的根拠、または症例シリーズなどに基づく推奨事項
といったところでしょうか。

で、通常であればこの程度の背景理解でPosition Statementを読み始めてしまっても全く支障はないのですが、今回は「どのように各項目に対するSORTが決定されるか」についてちょっと掘り下げてみましょう。SORTはExternal Evidence(= 科学的検証によって示されたエビデンス)がどの程度あるかによって決まっていくのですが、そのためには、集められた研究ひとつひとつも個別にレベルわけされている必要があります。各論文のエビデンス・レベル (Level of Evidence, LOE)は1から3の3段階にこれまた分けられており、レベル1のものが一貫して示している事柄がSORTのAに(下例、ちょっとアホみたいな例ですけど)、レベル2中心であればSORT B、レベル3くらいしかない場合はSORT Cとして、それぞれPosition Statementに組み込まれていくことになります。
NATAのPosition Statementができるまで。_b0112009_09165235.png
ここで合わせて理解しておくと楽しいのが、この文脈での「エビデンス・レベル(LOE)」という言葉の持つ意味です。通常LOEというと、ピラミッド式のこの図(↓)を思い浮かべる人が少なくないかもしれませんが、実際にSORTを作成する目的でLOEを検証していく場合、研究デザインのみならず、研究にどの程度バイアスが含まれている危険性があるか(言い換えれば効果的に盲検法が使われていたり、ランダム化が行われているなど)、そしてなにより、その研究が推し量っていたのはPatient-Oriented Outcome (患者指向: 疼痛レベルや機能レベルなど、患者の生活や人生にとって意味のある計測事項)なのかDisease-Oriented Outcome (疾患指向: 可動域の変化や、血中炎症マーカーの低下など、疾患や外傷の持つ生理的影響の計測に留まったもの)なのかどうかも大きなポイントになってきます。
NATAのPosition Statementができるまで。_b0112009_09205145.png
そして、複数の研究がおこなわれていて、それらが一貫して同じ結果を示している、というのも重要事項です。例えば上のおにぎりの例では、過去3件の研究がおこなわれ、3つ全ての研究で「おにぎりの具といえば?」と問われ「シャケ」と答えた人が圧倒的過半数を占めたと出ています(繰り返しますが、これはあくまで私が適当に作った例です。全国のツナマヨ好き、オカカ好き、昆布好きの皆さんごめんなさい)。これは一貫性がありますよね。3つの異なる時系点、場所、被験者群を検証しても同じものが「答え」として浮かび上がってきたよということなので。
が、もう少し検証を進めて「和歌山の調査ではウメが一位だった」「福岡ではどうやら明太子人気がカタいぞ」と出てしまうと話が変わってきます。あれれ、「シャケ」はどうやら一貫した答えではないのかもしれない。もしかしたら地域による影響が大きいかな、となると、最低でも47都道府県全てで一回は調査をおこなう必要があるかな…なんてことが見えてくるわけで。

何度も検証したけど、毎回同じ結果が今のところ出ています、というところに重みがあるんですよね。その結果が多少の変数をいじったところで動かない、何度も何度でも再現可能な「事実」である可能性がぐぐっと高くなってくるので。

せっかくなので、推奨度B、Cの「シャケ」例も下に示しておきます。あくまで例ではありますが、推奨度Aのものと見比べたりしてみてください。
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そんなわけで、より多くの研究で、バイアスが可能な限り排除された状態で、より一般化できる対象者に対しておこなわれた検証で、繰り返し同じ結果が示されており、それが患者に対して大きな意味を持つ場合にSORT評価は高くなっていく、というわけです。

つまり、先ほどは
A: 一貫性のある、良質且つ患者指向の科学的根拠に基づく推奨事項
B: 一貫性に欠ける、または質に多少の問題を含む患者指向の科学的根拠に基づく推奨事項
C: 専門家間の(あくまで)意見や疾患指向の科学的根拠、または症例シリーズなどに基づく推奨事項
と定義通り表記しましたが、

A: 強く推奨されること
B: やったほうがよさそうではあるが、ここまでの結果に一貫性に欠けるので、強くは推奨できないこと/実際におこなうどうかは個々のクリニシャンが判断すべきこと
C: やったほうがよさそうではあるが、エビデンスがまだ成熟していないまたは成熟できない分野なので、ほんわり推奨していること/他の要素(自分自身の専門性、患者の価値観)をしっかり考慮して決断すべきこと

つまり、
A: What we must (or must not) do
B: What we should (or should not) do
C: What we can (or cannot) do
という風にフランクに捉えてみてもいいのではないでしょうか (ちょっとシンプル化しすぎかもしれませんが)。

実際にPosition Statementを読んでもらうと分かるのですが、SORT Aに分類される推奨事項は非常に少なく、多くの項目はSORT Cに留まっています。エビデンスそのものの蓄積がまだまだ足りない分野もありますし、そもそも科学的検証自体が人道的観点から難しい場合も少なくありません。エビデンスの成熟のしようがないトピックも多くあるんです(例えば心肺停止からのAEDを使うまでの時間と、生存率の変移のためにRCTをおこなうということはできないわけで - 何年経ってもここは観察研究に頼るしかない分野です)。Position Statementを読む際に、Cを見るたびにがっかりするのではなく、「SORT Cで頭打ちの推奨項目も存在する」と心のどこかにとどめておくことも重要かなと思いますね。

まぁ何が言いたかったかというと、Position Statementは「完ぺきなエビデンスの集合体」ではありませんが、それでも何人もの専門家が推敲に推敲を重ね、現時点でのベストを文章に還元してくれているとても貴重なものだよなってことです。学生の皆さんにはぜひ「読み始める」という習慣をつけてもらいたいものでありますし、私もATCの資格を有している限り最新のものから古いものまできちんと「読み続け」、把握し続けておきたいものですし、ATとして成熟した手練れになった暁には、是非「書く」側により多くの方が回ってもらえたらと思います。

Yeargin S, Lopez RM, Snyder Valier AR, DiStefano LJ, McKeon PO, Medina McKeon JM. Navigating athletic training position statements: the strength of recommendation taxonomy system [published online June 23, 2020]. J Athl Train. 2020. doi: 10.4085/1062-6050-240-19.

  # by supersy | 2020-06-25 11:15 | Athletic Training

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