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アメリカのプロスポーツで採用される、「ATC Spotter」システム。

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この論文1はMust-read! です!



ATC Spotterという言葉をご存知ですか?
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Spotは「見守る、監視する、見抜く」という意味があり、Spotterは「見守り役、監視役、見抜く人」という意味になります。アメリカのプロフットボールリーグであるNFLでは2011-2012のシーズン以来、全試合中アスレティックトレーナー(Certified Athletic Trainer, ATC)を「監視役」としてスタジアムを見渡せる位置に配置し、フィールド上全ての選手に目を配るようになりました。もちろんフィールドには各チーム勤務のアスレティックトレーナーは複数名いるのですが、彼らはフィールド上を見渡せる位置にはいないし、選手の出血や怪我などの対応でそもそも忙しく、フィールドで何が起こっているかを把握しきれないことが多いからです(アメリカンフットボールチームで勤務した経験があるATは分かると思いますが、そもそも選手の壁で試合は見えないことが多いです)。

彼らATC Spotterが「監視」しているのは試合中に起こる「脳振盪疑い」。以前別記事(2019年4月24日付)にもまとめましたが、脳震盪を受傷した患者は一定の所見を露呈することがあり、注意深く見ていれば早期発見できるケースは多そうです。NFLは2011-2012年シーズン中に起きた脳振盪見逃し(選手がタックルを受け、足元をふらつかせた様子を誰も見ておらず、そのまま競技続行させてしまったが、試合後脳振盪と診断されたケース)を受け、金銭的人的投資をしてでも脳振盪に対して適切な処置が取れる環境づくりに尽力しなければいけない、これはそれほど深刻で重要な問題である、という迅速な判断を下しました。見逃し発生の2週間以内にATC Spotterの配置(↑写真上、2016年以降Spotterの数は2名に増員されています)を実現させ、そこから一か月で動画監視システム(↑写真下)までも作り上げたというのだからこのスピード感とSense of Urgencyはなんというか、近代のアメリカっぽいというか、さすがです(ここら辺に関しては、詳しくはこちら-NFL Operation Websiteをご覧ください)。

脳振盪疑いが発生したら、ATC Spotterはチームドクター、チームのHead Athletic Trainer、またはリーグ勤務(チーム無所属)の神経外傷専門家に直接連絡を入れ、受傷シーンを撮影した動画と共に選手の背番号情報を送ります。受け取った医療従事者は、情報をレビュー後即座に該当選手の診断を行い、以後の診断を下していきます(なので、ATC Spotterは脳振盪の診断は下さず、あくまでも疑わしいケースをチームへ報告するまでが仕事、ということになります)。サイドラインスタッフと迅速に連絡が取れない場合、ATC Spotterには、必要があれば審判に連絡をしメディカルタイムアウトをcallして試合を止める権限があります(このRole Expansionは2015年以降認められたものです)。これは最終手段ではあるのですが、疑わしい選手をこの手順で試合から強制排出し、脳振盪の疑いが晴れるまでは該当選手は競技復帰ができません。

これは、安全管理とスムーズな試合進行を要求される、非常に繊細で難しい仕事だろうと思います。甘い判断で脳振盪ではないケースばかり指摘してしまっては試合が何度も中断されて世間やチームから批判を浴びるでしょうし、かと言って逆に見逃しをしてしまっては元も子もない。そのプレッシャーたるや、想像するだけでこちらの胃が痛くなります…。当然ATC Spotterになるにあたっては厳しい条件があり、例えば「ATCとしての経験が最低10年以上ある」「NFLでのHead Athletic Trainerとしての勤務経験がない」「過去10年以内にNFLチームに雇われていない」などの項目が挙げられます。後者二つはATC Spotterが"Independent (= 独立した、無所属の、特定のチームの影響を受けない)"であることを確認するためです(立場を悪用すれば特定のチームの利益・不利益になるよう作用してしまえるのは想像するに容易いかと思います)。当たり前ですが、これらのATC Spotterはリーグ(NFL)に雇われており、個別とチームとはなんら帰属関係がありません。前述のメディカルタイムアウトを取れる条件も細かく定義されており、脳振盪に関する全てのフローはプロトコル化されてATC Spotterはその全てを把握していなければいけないばかりか、試合終了後には両チームの詳細な(脳振盪に限局されない)外傷・障害報告の作成義務もあります。私だったら大金積まれてもできないかもです。ATC Spotter現職の皆様を心から尊敬します…。
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2015年以降のこれらのATC Spotterによるレポートによれば、年間平均1,700-2,300件の受傷が監視中に起こり、うち567-680件が頭部・頚椎外傷だったそう(試合平均は約2件↑)。実際にサイドラインのスタッフとコミュニケーションを取ったケースは509-568件、メディカルタイムアウトを取るに至ったのは2015年は5件、2016年は8件、2017年は7件で、この20件のタイムアウトで脳振盪という最終診断が下ったケースは4/20件なんだそうです。割合にしたら20%なんて少ないじゃん、と思うかもしれませんが、逆にこのシステムがなければこれら4件の脳振盪は見逃されていた可能性が極々高いと考えるとぞっとします。

これらのSpotterシステムは現在ではNHL、Australian Football League, National Rugby League, Measure League Soccer (MLS)の数多くのプロリーグが採用しています。それだけ脳振盪という怪我が他の部位の外傷とは異なり、未知でヒトの人生を壊しかねない恐ろしいものであるという危機感があるからでしょう。個人的にはこういったシステムはもっともっと多くの国とリーグに広まるべきだと思うし、その先駆けとなったNFLで他でもない私の仕事であるCertified Athletic Trainer (ATC有資格者)がQualified Individualsであると選ばれ認められたことは純粋に誇らしく思います。日本に同じような目を向けた場合、プロリーグの意識、設備と人的投資はどうでしょうか。同じようなシステムを日本風にアレンジしながら構築するとしたら、"Qualified Individuals"はどんな有資格者になるのでしょうか。こういう妄想を私と一緒にしてくれるプロは、どれくらいいるでしょうか。こんな会話も、そろそろ日本で始められるといいですよね。スポーツは安全なものであるという前提をより確固たるものにするための準備や投資と、それについての真剣な話を。嫌味でなく、本当に心からそう思います。

1. Mack C, Myers E, Barnes R, Solomon G, Sills A. Engaging athletic trainers in concussion detection: overview of the national football league ATC spotter program, 2011-2017 [published online August 15, 2019]. J Athl Train. 2019. doi: 10.4085/1062-6050-181-19.

  # by supersy | 2019-09-13 09:30 | Athletic Training

痛みの定義が変わる?と、パブリックコメント制度について。

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今回は「痛み」、疼痛についてです。

こんなツイート(↑)を目にして、「お!」と思いまして。
IASP、正式名称「The International Association for the Study of Pain (国際疼痛学会)」は痛みについて掘り下げることに関して、世界レベルで最も認知されている団体だと思います。授業で痛みについて教える際、私もいつもここの「痛み」定義を引用させていただいていたので、それが変わるとなればオオゴトです!どんなことなのかリンク先ページを読んでみました。
見てみると、2年ほど前からIASP評議員会で痛みの現在の定義について再協議するためのタスクフォースを作ろうという動きが始まっていたようで、いよいよ新しい定義のリリースが近いんだそうです。なので、ここで一度公開してパブリックコメントを募ろうという段階なんですね。なるほどなるほど、ここらへんの動向を私は一切把握してなかった。

ではちょっと「現在」の定義と、今回提案された「新しい」定義を読み比べてみましょう。

現在の定義
An unpleasant sensory and emotional experience associated with actual or potential tissue damage, or described in terms of such damage.
実際の組織損傷が起こった時、組織損傷が起こりそうだと感じた時、またはそのような損傷の描写表現に触れたときに内から湧き上がる「不快である」という感覚もしくは感情のこと (注: 意訳)

注釈(Note)箇所を読んでみると、「患者が言葉を発することができないからといってその人が痛みを感じていない、疼痛軽減のための介入が必要がないというわけではない」、「痛みは常に主観的なものであり、人生初期にケガなどを通じてその言葉の持つ意味を学んでいく」「この定義では痛みを刺激と結びつけることは敢えてしていない。多くの疼痛経験は器質的な損傷を伴うが、そうでない場合でも本人が同じように痛いと感じているときは間違いなくそれは痛みなのである」など、非常に興味深く、個人的には頷ける文章が並んでいます。しかし、ところどころ確かに古い知見に基づくものだなと感じる箇所はあり、近代の疼痛の理解とは少しずれているかなとも感じます。この「現在」の定義が発表されたのは何しろ1979年なので、当たり前と言えば当たり前なのですが。いや、寧ろ、その時代にこの定義が提唱されたということは画期的革新的という表現では足りないくらい様々な研究者、臨床家の熱い想いが詰まったものだったのかもしれません。


提案されている新しい定義
An aversive sensory and emotional experience typically caused by, or resembling that caused by, actual or potential tissue injury.
実際に起こった、または起こりそうな組織損傷がある際に起こる、または起こるものに酷似した、逃げたい避けたいという衝動を掻き立てられるような感覚且つ感情的経験のこと (注: これもこりずに意訳)

注釈には「痛みは生物的、心理的、社会的要素に様々な栄養を受ける主観的経験である」「疼痛と侵害受容(nocoception)は異なる現象である: 疼痛経験は単なる感覚経路刺激ではない」「人間は人生経験を通じて疼痛というコンセプトとそれが持つ意味を形成していく」「だからこそ、個人の疼痛経験はその人の人生経験とその表れとして受け入れられ、リスペクトされるべきものである」「痛みは環境適応に重要な役割を果たす一方で、人間の機能、社会・心理的well-beingに悪影響を及ぼしてしまう可能性もある」…など書いてあります。前回との大きな違い、というか、明確にしようとしている点は「Pain and nociception are different phenomena: the experience of pain cannot be reduced to activity in sensory pathways」というところでしょうか。そして、各個人の感じる痛みはそれぞれの人が形成した学びの結果であり、受け入れられ、尊敬されるべきだという表現も胸に残ります。この新しい定義は画像診断などの結果「なんでもありません」「痛いはずがありません」「気のせいでは」「甘えなんじゃ」と言われ、苦しんだであろう過去の数多くの患者さんの訴えを改めて認めるもの、そして未来の患者さんの多くを救うものであってほしいですね。


パブリックコメント制度
ところで話は変わるようですが、皆さん、今回IASPが採用しているパブリックコメント制度はご存知ですか?ご活用されたことはありますか?
パブリックコメントは、英語でもそのままPublic Commentと表記されますが、文字通り一般(Public)の人が何かの草案を読み、思ったことを自由にコメント(Comment)として表現でき、発案元に送り返せるシステムのことです。国の行政機関や、学会・協会レベルでも大きな決め事をする際に近年よく取られるやり方です。多くの人に影響を与えかねない事柄を決定する前に、これになりそうであるという案を事前共有する透明性を持たせようという意味合いと、実際に影響を受ける対象のフィードバックを聞く機会を設けることで、よりよいものに磨き上げていく質の向上が見込めます。

何かモノや制度が変化したあとに、なんだこれはひどいじゃないかと後付けでやいやい文句を言う人は国年齢を問わずに多くいます。しかし、実は変化の途中で「ねぇねぇ何か意見はある?あったら今のうちに教えてほしいんだけど」という先方の要望、姿勢があったにも関わらず知ってか知らずか無視していた、というケースも少なくないんじゃないかな、と思ったりすることもあるんですよね。せっかく母体となる組織が「今回とてもとても大きな変化を生み出そうとしているよ。専門家を集めて何年もかけて練ったものがこれだよ。皆はどう思う?」と聞いてくれているのですから、意見があるなら是非今言うべきですし、言わないことを選択したなら、後でぶうぶう文句を言うだけってのもおかしいんじゃないかなと個人的には思うわけです。

そんなわけで、別に今回に限らずなんですが、もっと我々の多くがこの「パブリックコメント制度」、活用してもいいんじゃないかなと感じています。まぁ枠組みとしては何でも自由に言っていい、というのがこのパブリックコメントのいいところではあるんですけど、とはいえコメントを残す際に重要になってくるのが、意見の示し方。ひいては、批判の仕方、でしょうか。
1) 「ひどい」「最悪」「やめろ」「嫌い」というだけでは今回の案のどこに問題があるのか、どういったトラブルを生むことが推測されるのか相手に伝わりません。まずは「ここがこういう風だとこういう勘違いが生まれる可能性がある」「こういう場合を考慮しきれていない」など、具体的な問題点とそれが引き起こしかねない(好ましくない)結果を明確な言葉で指し示すことが重要になってきます。
2) その上で次にすべきは「代わりにこういう表現を使ってはどうか」「こういう言い方も足してはどうか」と、改善案を提案することです。その案を採用することで生まれる(好ましい)結果も示せれば説得力が増すかもしれません。
3) 批判とは、悪い(と思う)ところを指摘するだけが全てではありません。自分が草案を読む中で秀逸だと思った箇所、この表現は絶対にキープでしょ!と思う個所についても言及しましょう。何もフィードバックがないと相手は「あれ、これあんまり良くなかったかな?」と受け取ってしまい、結果良かったはずのものが変えられてしまう、という可能性がないわけでもありません。ここは素晴らしい、こういった表現を使うことでこんな(好ましい)効果が生まれると思う、というところも惜しみなく表記してこそフェアなコメントかなと、個人的には思います。
4) これはおまけかもしれませんが、やはり長い時間と労力をかけてこの草案をまとめてくださった方々がいるという事実と、こうして我々が意見を言える機会を設けてもらった事実にはしっかりと感謝したいものです。コメントとして「感謝しています」と必ずしも残さなくてもいいのですが、生きる姿勢としてこういう感謝の念を持っているか持っていないかって、色々な文書の端々に出るものじゃないかなぁって思います。

さて、今回私も思ったことをCommentとして記入、送信させてもらいました。パブリックコメントの締め切りは4日後の9月11日!何かモノ申したい人はあと数日のチャンスですよ、疼痛に関わるお仕事をしてらっしゃる皆様もぜひぜひ!

  # by supersy | 2019-09-07 12:00 | Athletic Training

第8回日本アスレティックトレーニング学会学術大会二日目を振り返って

さて、二日目分です。

●二日目
<日本アスレティックトレーニング学会の足跡と将来を語る>
これは日本AT学会の存在意義と軌跡を辿るうえで、私にはとてもありがたい講演でした。この学会に「特定の資格や職業の人たちだけでなくアスレティックトレーナーが一同に集う場所」になるよう願いがこめられていたこと、協会にすることも考えたが、それでも学会という形を取ったのは、協会(職業団体)は複数作れるが、アスレティックトレーニング学はひとつであるべきであり、様々な人が集まれる場所になるはずであるという考え方に基づいていることなどを学びました。なるほど!とここは非常に納得。2018年7月26日に日本学術会議協力学術研究団体に認定され、公的な学術団体になったことで、アカデミックな発言権を育んでいこうということのようです。無知な私でも恐らくこれが非常に大変なプロセスだったのだろうということは分かります。
それから様々な委員会やプロジェクトなどもぐいぐい進行中であるという報告に、純粋にワクワクしました。具体的にはこれからワークショップなども積極的に開催したり、研究支援の助成などもできるように体制を整えようということになっているようです(全てをすぐにってわけじゃないでしょうけども)。学会誌もJ-Stageに掲載されるようになり、オープンアクセスになりましたし、優秀論文賞も今学術大会から始まったようです。優秀な人やものがどんどんオープンに認められるようになっていくの、いいですね!英文雑誌の発刊も準備中とのこと。以前から学術誌も「良いものは英語にしないと世界の人が見つけてくれないからなー、でも今の目的は国内の人たちとの情報シェアなんだろうなー」と思っていましたので、英語でも、というステージに差し掛かってきたことは素晴らしい成長なんだろうと思います。すみません、新参者が偉そうに。でもワクワクできる団体に属せて幸せ!

入会資格も「アスレティックトレーニングの関連分野の研究、もしくは実践に従事し、本学会の主旨に賛同するもの(学部生、専門学校生は不可)」と少しマイルド(?)な表記に変わったのだそう(前のを覚えていない)。でも学生はダメなんですね。NATAとかは学生会員の活動も活発なので、なんでだろう?もったいない!と思ってしまうけど…。その代わりにあるのが学生トレーナーの集い、ってやつなのかな。あれがStudent Senateの集まりとか、iLEAD Student Leadership Programの代わりなんだったら次回(3月か)是非出席してみたいです。日本のAT界の未来を担う子たちの顔をもっと見ておきたい。

<ラグビー競技のタックルで生じる外傷予防の取組み>
ラグビーで起こる脳振盪の多くはタックルの場面だが、その場合の要因の殆どはタックラーにある、というのが大きな内容でした。具体的にはコンタクト前に頭が下がっている、横をすり抜けられながらタイミング・角度がずれたタックルはリスクが高いとのことでした。
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これまたお恥ずかしいことにまだまだラグビーは知らないことが多いんですけど、ラグビーの「正しいタックル」は上図のA、相手の進行方向に対して頭が後ろにある状態1なんだそうです。で、チェストアップでぶつかっていって、同時に手でふくらはぎを引き上げる…という、力業に見えて実は非常にテクニックの要ることを一瞬でしているわけなんですけども。これが、判断が遅れてとっさにやると、頭のポジションが逆になってしまうことがある…通称、「逆ヘッドタックル」が起こります(B)。この状態だと、なんと外傷発生リスクが正しくタックルした時と比べて31倍!!!!に!!!なるんだそうです1!!
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*文中のTable2を元に作成

んで。外傷を起こしたタックルは、そうでないタックルに比べてより短い歩数(3歩 vs 4歩)で、短い時間(0.43秒 vs 0.85秒)でコンタクトを起こしている1らしく、やはり前述の「不意を突かれて、体制などを十分に整える時間もなくぶつからざるを得ない」という状況が見えてきます。肩の外傷には肩脱臼が多いらしいんですが、これは逆ヘッドタックル時には首が過度に側屈・屈曲している場合が多く、付随動作として肩甲骨が前傾・外転位に持っていかれるため、上腕骨骨頭との整合が悪くなり、関節がより不安定な状態で衝撃を受けざるを得なくなる2ようです。こういうの、受傷時の動画から起こす3-D分析でどんどん可視化されるようになってきてるんですねぇ。すごいなぁ。
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それから、今演目最後のスピーカー、今学術大会唯一海外からのゲスト、Dr. Busseyの講演もめちゃめちゃ面白かった!タイトルは「Altered Cervical Muscle Reflexes Are Associated with History of Concussion in Male Rugby Union Players」。これ3(↑)にとても近い研究だと思うんですが、ちょっと詳細が違うので、探求的検査を経て、近いプロトコルで繰り返したもっと最新の研究をシェアしてくれたのかな。私が理解したことを、箇条書きでまとめます。
 - 脳振盪の既往歴が一切ない(n = 17)、過去24か月以内(n = 19)にある、過去24か月以内ではないがある(n = 13)の3グループに男性ラグビー選手を分ける
 - 目が開いている状態(predictable)と閉じている(unpredictable)状態で肩にタックルに酷似した衝撃を与え、首周辺の筋肉がどう反射的に活性するかを調査
 - 便宜上、目が閉じている場合のみに言及すると、過去24か月以内に脳振盪を受傷した被験者はそうでない被験者に比べて頭部の回転加速度が著しく高かった(=首や体幹で衝撃を受け止め切れず、頭部が激しく揺れた)
 - 脳振盪の既往歴がある被験者は、衝撃を受けてからSplenius Capitis (頭板状筋)を活性するまでのlatencyが長く(30ms程反応時間が遅く)、一度始まるとその活性は不必要に長く強く続いた
 - この"Too late too much"な筋発火パターンは脳振盪の受傷歴回数に比例した(脳振盪既往歴が3回以上である場合に特に著しかった)
 - こういった頭部の不十分のコントロールがあるのでまた脳振盪が起きやすくなるのでは?
…ということでした。面白い!!!どうしても聞いてみたくて、「目を開けた場合は被験者もフィードフォワードメカニズムを使って準備ができるので、こういった差異は見られなかった、ということはあるんでしょうか?」と尋ねてみたら、「いや!それが実は!」と、目が開いていて予測ができた場合、脳振盪の受傷歴がある被験者のほうがOverprepareをして、衝撃が加わる不必要に前から首に力が入っており、その発火も極端に高かったのだと教えてくれました(おもしろい!!!!!!!)。つまり、"Too early too much"の筋発火のパターンが生まれたわけで、「他の怪我との共通する、Visual feedbackに頼り過ぎる傾向が見られたと言っていいんじゃないかしら」とのことでした。

すごく面白くてほくほくしていたら、講演の直後にわざわざ私の横まで来てくれて、一緒に座ってお話をすることができました。こうなっている場合の介入は何がいいのかねぇ、有酸素かねぇ、Visual-vestibular系かねぇ、とか、すごいねぇ、Hodgesさんとかの腰痛とかと似たような結果になるんだねぇ、とか、色々お喋りに付き合っていただいて楽しかったです。良い出会いでした。またどこかでお見掛けできたらいいなぁ。

<脳振盪ハンドブック - 大伴茉奈氏>
これを頂けたこともひとつの収穫でした!JISS所属の大伴さんが選手、保護者、指導者向けにこんなにわかりやすい脳振盪のハンドブックを作ったそうで、一部頂いてしまいました。この夏、菅平などに100部単位で置かれるそうですよ、合宿でそちらへ向かわれる方はチェックチェック!オンラインでもダウンロードできるようにするそうで、こちらも楽しみにしております。
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<スポーツ現場における冷却を最高する>
このシンポジウム演題は学術大会の締めに相応しかったと思います。何故かというと、「冷却と一言に言っても急性外傷処置とワークアウト後のクールダウン・リカバリー目的で使われる場合は勝手が全く違う」「それに、寒冷療法のモード、使用する身体の部位、冷却温度や時間など、考慮する要素は沢山ある」「冷却と一括りにせず、場合場合で必要な要素を見つけ、理論を構築し、使用するかしないかを判断すべきだ」という本講演中に講師3人全員が繰り返した要約にまさにサイエンスとアートの融合を感じたからです。これは私が最近動画配信サービス用にまとめた「RICE, PRICE, POLICE and PEACE & LOVE」の結論とも共通点が多く、また知らなかった文献の紹介もあり大変勉強になりました。
冷却という誰にとっても身近なテーマを主題に、エビデンスはもちろん、まさに初日の話で上がった暗黙知などのお話も交えて終えられたこと、そしてそれを見届けられたことが非常に光栄でした。いやー、日本アスレティックトレーニング学会学術会、想像以上に楽しかった!来年もまた沢山学ばせていただこうと思います。関係者の皆様、ありがとうございました!

1. Sobue S, Kawasaki T, Hasegawa Y, et al. Tackler's head position relative to the ball carrier is highly correlated with head and neck injuries in rugby. Br J Sports Med. 2018;52(6):353-358. doi: 10.1136/bjsports-2017-098135.
2. Tanabe Y, Kawasaki T, Tanaka H, et al. The kinematics of 1-on-1 rugby tackling: a study using 3-dimensional motion analysis. J Shoulder Elbow Surg. 2019;28(1):149-157. doi: 10.1016/j.jse.2018.06.023.
3. Bussey MD, McLean M, Pinfold J, et al. History of concussion is associated with higher head acceleration and reduced cervical muscle activity during simulated rugby tackle: An exploratory study. Phys Ther Sport. 2019;37:105-112. doi: 10.1016/j.ptsp.2019.03.012.

  # by supersy | 2019-07-25 00:00 | Athletic Training

第8回日本アスレティックトレーニング学会学術大会一日目を振り返って

先週末(7月21・22日)、第8回日本アスレティックトレーニング学会学術大会が日本体育大学で行われ、出席してきました。日本でATに関わる学会に入会する、そしてその学びの場に足を運ぶのはひとつの夢でしたので、わくわく感慨深いものがありました。ただの感想の羅列になると思うんですが、学ぶことのあった講演・演目について一部書き残しておきます。

●一日目
<社会におけるアスレティックトレーニングの可能性>
日本スポーツ協会、金沢敬氏の講演で、「これからのJSPO-ATという資格の発展や定義」という趣旨のお話が一番頭に残りました。興味深いと感じたのが、

- アスレティックトレーナー(以下AT)はメディカル・コンディショニング資格のひとつ

…としながら(メディカル資格って医療資格ってことと具体的に何が違うの?という新たな疑問も湧いてきますが)、

- ATの職域定義は1) 外傷・障害の予防、2) 医療資格者に引き継ぐまでの救急対応、3) コンディショニング、リコンディショニング、4) アスリートの安全と健康管理

…という風に仕事のドメインをかなり狭く設定しているところです。具体的には「他業種の職域を尊重し、リハビリテーションという言葉を敢えて外した」という説明にはかなり驚きました。個人的にはコンディショニング(リコンディショニング)とリハビリテーションはベツモノだと思っていますので、ただただ忖度をして、または面倒なことになりたくないから名称としては外しておいてリハビリ行為は結局実務としては行うのか、それとも名実ともに職域から外して「ATはリハビリはしない」という舵きりをしたのか…。この違いは大きいと思います。しかしどちらにせよ、この新ドメインが確立すればずるずると後者になってしまうことは間違いないでしょうし、そもそもアスリートと誰よりも長い時間を過ごす職種である(= 最も患者の金銭的・時間的負担にならずにリハビリを提供できる存在である)ATがリハビリをしないと自ら宣言してしまっていいんでしょうか。資格職域から外すということは教育領域から外すということも日本では直結すると思うのですが(BOCとCAATEのように独立した資格 vs 教育機構があるわけではないので)、これから世に出るATはリハビリを全く学ばなくていいんでしょうか…。様々な議論を巻き起こすと思います。

加えて、評価という言葉がひとつも入っていないことにも同様の不安を覚えます。評価無しに患者の状態の把握はできない。救急対応や選手の安全管理は上記に上げられている項目ですが、評価をする能力を持たずしてアスリートの命を救うのに十分な対応が本当にできるのかも疑問です。

ううむ。ATは評価をしなくていい。リハビリをしなくていい。これは社会としての共通の見解なんでしょうか?十分な職業マーケットとニーズ分析を行った結果なのでしょうか?途中、透明性のある議論は組織内外の人たちとどれほど行われたんでしょうか?少なくとも学術大会の他の発表の内容とは大きくズレがあると感じました。

アメリカはアメリカは、とついつい言ってしまうのですが、私が熟知してると言えるのはアメリカしかないので言ってしまうと、BOCの発表している書面にRole Delineation Study/Practice Analysisというものがあり(定期的に更新、最新版は2017年6月発表の第6版)、これはアメリカにおけるATという仕事の職域を文字通り定義・確立する超重要ドキュメントになっています。加えてCAATEは更に細かい教育要綱をStandardとしてまとめており、2020年版の改訂にあたり、幾度も「Public Comment」制度を用いステークホールダーからのフィードバックを元に編集を重ねてきました。これらを指針に米国学生は試験対策の勉強法を練り、教育者はカリキュラム構想を練り、実践し、現職者は資格更新のための勉強を重ねていくのです。

こうした多元的な視点からの批評を元に作り上げても数年で改定の必要が出てくるのがこれらのドキュメントです。米国と同じだけの厚みと深みを求めることがそもそもおかしいのかもしれませんが、日本で教育を受けたATと米国で教育を受けたATの考える「ATのあるべき姿」に大きな差異がないことも事実1です。日本は改定が頻繁に行われない分、様々な有識者から意見、批判を取り入れながら職業の姿形を彫り上げていってほしいと部外者でありながら思います。

<ポスター発表>
「大学ラグビー部における人工芝張替えに伴う傷害発生の変化 - 崎濱氏ら(中京大学)」: 摩擦した人工芝を張り替える前と後でラグビー部の傷害発生率が1.51/1,000Hから0.96/1,000Hに減少、中でも下肢の傷害現象が著しかった
張り替え前の人工芝は衝撃吸収試験基準を満たしていなかったとのことですが、こういった芝は今日本全国にいくつほどあるのでしょう…。適切なメンテナンスと張り替え啓蒙に繋がりそうな貴重な研究ですね。

「国民体育大会出場競泳選手に対する大会中のトレーナー介入が選手の身体の疲労と身体の痛みに与える影響 - 名執氏ら(高島平中央総合病院)」: 介入をしたほうが疲労度と痛み共に「改善した」を答えた選手が増え、「改悪」を訴えた選手は減った
いやそれにしても介入したにもかかわらず改悪した選手が疲労度では23%、痛みでは20%って高すぎじゃないかと驚きました。4-5人に一人の割合ですからね。改善するか改悪するかがこれだけのギャンブル確率だと、治療そのものを見直す必要性も高そうです…。

「Foam Rollerを用いたマッサージが関節可動域及び疼痛閾値に及ぼす影響 - 吉村氏ら(早稲田大学)」: Foam Rollerをふくらはぎに使っても、可動域・閾値共に向上は見られず。この二つの要素の相関性も決して強くなかった(0.514, p = 0.29)。仮にFoam Rollの使用で可動域が上がったとしても、これは疼痛閾値変化に起因しないと思われる。
文字通りですかね、ふーむ。まぁこの研究じゃそもそも「Foam Roll使って可動域向上」の再現性すらデモンストレートできなかったんですけど。

「Functional Movement Screenの判定基準に関する知識の教示の有無がスコア変更に及ぼす変更 - 倉持氏ら(中京大学)」: FMSの採点基準を習うと、総得点は13.0±1.6点→16.1±1.5点へと著しく上昇した(コントロール群は14.2±1.6点→13.8±1.7点)
考察には課題優先順位の変化が中心の議論が書かれていましたが、個人的にはFMSの妥当性を否定する先行研究2,3同様の結果だなという印象でした。

「アスレティックトレーナーとしてフルタイムで働くJSPO-ATの特徴: 第二報 - 泉氏ら(東京有明医療大学)」: フルタイムATとして活動しているJSPO-ATの多くは何らかの医療資格を持つ25-35歳の男性で、301-400万円の年収で大都市圏でプロ・社会人レベルのメジャースポーツで働いている
簡潔かつ視覚的に訴える、超良質ポスターでした。QRコードを使ってポスターをダウンロードできるのもいい。調査結果はもう、上の文章が全てを示してくれているかなと。男性多い!年収少ない!単独資格ではもっと待遇悪そう!わぁ!

「アスレティックトレーナーの資格制度に関する一考察 - 馬場氏(帝京平成大学)」: ATの上位資格の認定(= エントリーレベル以上のスキル・知識の価値を認める)、表彰制度の整備(= 偉大な功績を組織として称える)をするべきである
これはその通りですよね!後者はNATAもずっとやってるし、前者はこれからまさにアメリカでも行われるようになること。このポスターは様々な知識と意見が散りばめられていて非常に読み応えがありました。面白かったです。

<トレーナー教育>
タイトルから、トレーナー教育の何たるやを学べるかと思って行ったのですが、かなり想像していたものと違いました。中でも驚いたのが、「大学体育会における学生トレーナーの必要性について」や「大学トップアスリートが求める学生トレーナーの能力」など、教育というサービスの受け手が誰なのかを認識し間違えていないか?と思える研究たちです。結果自体はどれも興味深かったのですが、トレーナー教育というテーマであるにも関わらず、「学生トレーナーは労働力ではなく、教育サービスの受け手の対象、いわば教育の主役である」という視点からの「学生は、受けている教育にどれほど満足しているのか」「学生、または教育者の感じる教育の現状、問題点や上手くいっている点は何なのか」「現場の実習監督は十分、有益に行われているのか」「どんな試みで学生の学びはより深くなるのか」などの議論は皆無でした。『学生トレーナー』は消費されるリソースではなく、彼らがいなくても十分なプロによるメディカルサポートが手に入る状態でなければいけない、と個人的には強く思います。学生は学びに実習に出ているのです。働いてチームやアスリートに対して具体的な貢献を示す義務はない。挑戦や失敗をしてなんぼです。もちろん副次的に貢献が起きたら素敵ですが、それが彼らの居る目的ではないのです。もっともっと彼らを主語にした、彼らのための講演や議論がこの学会でも行われるようになればいいと感じました。

<ラグビー外傷・障害予防>
HIA導入で脳振盪を受傷した選手がそのままプレー続行してしまう、というケースはかなり減ったという個所がなるほどと思いましたね。具体的には、
2011 IRB脳振盪ガイドライン
 • 脳振盪平均評価時間 68秒
 • 脳振盪を起こした選手が見逃され、競技継続した割合 56%
2012 PSCA(ピッチサイド・コンカッションアセスメント)導入
 • 脳振盪評価時間 5分
 • 脳振盪を起こした選手が見逃され、競技継続した割合 12%
2014 HIAシステム導入
 • 脳振盪評価時間 10分
 • 脳振盪を起こした選手が見逃され、競技継続した割合 4%
…という、ルール改正で著しい変化があったようで。この数値は驚異的、ものすごい変化だと思います。同時に現場で働く人たちには苦労も多かったでしょう。大きな成果が付いてきていて本当によかったです。安心したというのが正直なところ。新ルール導入で、現場のラグビーで働くATが働きやすくなったと感じているだけではなく、元日本代表選手、現監督からも「選手の安全が第一。それを選手に明確に伝えるにも役立ってくれているルール」と発言が学会中あったことは非常に有意義だったと思います。

<AT領域における実践的事例研究の普及に向けて>
つまるところもっと実践に繋がりやすい、皆が経験則で感じていることを目に見えるデータとして残していきましょう、という話だったんですけれど(そしてそれはとても重要で、第一プレゼンターの信州大学・木村先生の講演は実に素晴らしかったです)、お恥ずかしいことに途中出てきたトランス・サイエンスという言葉に不慣れだったもので、その後これ4を読んでみました。
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"[trans-scientific questions are] questions which can be asked of science and yet which cannot be answered by science (p.209)"…ということらしいです。サイエンスから生まれる疑問であるにもかかわらず、サイエンスを通じては回答することはできない。サイエンスを超越した(transcend)ものである、という位置づけなのだそうです。なるほど、知らなかった…。向こうでは聞いたことがなかったです。

本講演では、「サイエンスと臨床実践の間にあるのがTrans-science」という文脈で使われており、サイエンスだけでは表現できないような、しかし確かに我々の財産であるような暗黙知をどうしたら可視化し、共有することを進めていけるかというところに焦点が当てられていたんですけれども。こういった話が日本AT学会で行われているということに非常に感銘を受けました。これから日本AT界独自のエビデンスを構築していく中で、この視点から始め、ここを失わずにエビデンスを成熟させていくことってひとつの大きな目標になるんじゃないでしょうか。これから学会誌などで見かけるであろう、実践的事例研究の見方が大きく変わるだろうなと感じられる内容でした。素晴らしい…貴重なお話を、ありがとうございました!

1. Izumi H, Tsuruike M. Portability of United States athletic training education in an international setting. Athl Train Educ J. 2018;13(1):33–41.
2. Frost DM, Beach TA, Callaghan JP, McGill SM. FMS scores change with performers' knowledge of the grading criteria-are general whole-body movement screens capturing "dysfunction"? J Strength Cond Res. 2015;29(11):3037-3344. doi: 10.1097/JSC.0000000000000211.
3. Bryson A, Arthur R, Easton C. Prior knowledge of the grading criteria increases functional movement screen scores in youth soccer players [published on July 17, 2018]. J Strength Cond Res. 2018. doi: 10.1519/JSC.0000000000002724.
4. Weinberg AM. Science and trans-science. Minerva 1972;10(2):209-222.

  # by supersy | 2019-07-24 07:00 | Athletic Training

キリンの首について考察する。

キツツキは何故脳震盪にならないのか、フクロウの頸動脈は何故切れないのか。(2013年2月2日)
キツツキは脳振盪にこそならないが、長期的に脳のダメージは蓄積している可能性がある。(2018年2月6日)

たまにやってしまう動物モノ。以前はフクロウやキツツキについて書いたりもしましたが、今回はキリンです。

数週間前、ふと気になってキリンの頸椎について色々調べていました。解剖学の授業で頸椎について話す際、「哺乳類は色々いるけれど、殆どの種が頸椎は7つで共通しているん1だよ。キリンも長い首だけれども同じなんだよ」という話をする目的でわちゃわちゃっと調べ始めたのだと思うのですが、調べているうちに「イヤやっぱり同じ7つと言ったって造りが相当違うわなコレ(i.e. 強靭な筋肉・靭帯の付着部として、棘突起や横突起が形を変えている2、長い首を介して脳に充分な血流を送るため、キリンは生理的高血圧である3とか、水を飲む際などの急激な血圧の変化に耐えうるようワンダーネットという網状の毛細血管があるとか…)」と考え始め、論文をあれこれ読み始めていたらついつい止まらなくなってしまったのです。面白いぞキリン。奥が深いぞキリン。

で、最終的に辿りついたのが当時発売目前(7月8日に既に発売済)だった「キリン解剖記」という本でした。
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知ったその日のうちに予約をして、発売日にちゃっきりと受け取り。大学に入った著者さんが、「キリンの研究をしたいな」とふと思い立ち、努力と苦労を重ねながらめきめきと研究者として力を付け、大きな発見を論文にして世に送り出すまでのお話(もちろん実話)です。私は聡明さとユーモアと愛情に溢れた文章を読むのが大好きなんですが、まさにそんな感じの一冊でした。楽しかった!

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で。せっかくだったらそのFinal productである論文も読んでみたいな、と思って見つけたのがこちら(↑)4です。以下の内容は、未読の方には本のネタバレになってしまうかもしれないので、続きを読みたい人は下の「本文を読む」をクリックしてください。ちなみにオープンアクセスなので、誰でもこれはフルテキスト読めますよう。


本文を読む

  # by supersy | 2019-07-20 00:05 | Just Thoughts

大学の教員が、コミュニケーションを教える、ということ。

アメリカの大学に勤務していたころは、「CONVINCE ME! I need to hear more」とよく言っていたように思う。
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もう、何年も前の話。

「小テスト、受けさせてもらえないんですか?」

とある学生が授業後、仏頂面で私のオフィスを訪ねてきた。お世辞にも授業態度が良いとは言えない学生なので、印象には残っている。この子はさっきの授業に遅れて来て、授業開始に行った小テストを受けられなかったのだ。遅刻したら小テストは受けられない、ゼロ点が付く、というのは説明済み。よほどの事情がなければmake-upはしないという授業ポリシーは、シラバスに書いて学期初日に説明もしてある。

「ポリシー上、『よほどの事情が無いと』無理なんだけど、どうして授業に遅れたの?」
と聞くと、
「バスが遅れたから」
と言う。

「バスはどうしたって不定期で、遅れる日もあるよね。それは自分にはコントロールできないことだから仕方ない。自分にコントロールできる要素である、『家を出る時間』に余裕を持つしかないよね」
というと、仏頂面をさらにムスッっとさせて黙っている。

「ところで差し支えなければ、今日はキミは何時に家を出たの?何時ごろに学校に着くつもりだったの?」
…と尋ねると、なるほどなるほど。それなりにリーズナブルな時間的余裕を持って大学に着こうとしていたようではある(私ならそれでももう少し早く出るけれど)。更に聞いてみると、途中の道でかなり大きめの交通事故があり、大渋滞を起こしていたようだ。大学にあの方面からくるにはあの道を通らなければいけないし、迂回できる他のルートはない。ほぼ一車線のあの道にstuckしながら、バスの中でイライラハラハラしていたであろう学生のフラストレーション度合いは容易に想像がつく。

「なるほど、だいぶ事情が見えてきたよ。でも『受けさせてもらえないんですか?』と言うだけじゃキミが今日直面したゴタゴタわちゃわちゃは私に伝わってこない。もう少し自分の事情を理解して、相手にそれを汲んでもらいたいと思っているなら、伝え方を工夫したらどうだろう。例えばこう言うのはどうかな。『私はバスで通学をしていて、きちんとした余裕を持って今朝も家を出て、普段通りであれば問題なく大学に着けているはずだったのですが、途中大きな交通事故があり、大渋滞にはまったこともあって到着が遅れ、小テストを受けることができませんでした。こういうこともあるんだと踏まえ、次回からは更に余裕を持って家を出ること、そして遅れてしまうと分かった時点で先生に連絡をいれるべきだ、ということを学びました。』…こう言ってもらえると、私もキミはキミがやるべきことはそれなりにやったんだということが理解できるし、どうしようもないことも起こるよね、分かるよ、という同情心もくすぐられる。予期せぬ渋滞にハマったことのない人なんていないからね。今回の失敗から学び、次に生かそうとして具体的に改善点を挙げているところもどうしようもなく好感が持てる。若い子たちが学んで成長していくのを見るのは、センセーたちは大好きだからね!」

学生の顔は仏頂面から次第に驚いたような表情に変わってきた。

「で、残る問題は小テストだ。ゼロ点はいやだ、なんとかしたい。しかし、ここはちょっとテクニックが要る。よく聞いてね。『ポリシーにあるようによほどの事情でなければmissしたテストは受けさせてもらえないという点は理解しています。しかし私は今回の小テストに向けてしっかり勉強したつもりでしたので、それを試す機会が得られなかったというのは非常に残念でもあります。もしよろしければ、状況を考慮して、何とか受けさせてはいただけないでしょうか』…こう言ってもらえれば、なるほど、この子はポリシー自体は読んで把握しているんだな、常識は常識としてちゃんと理解してるんだな、という納得はこちらとしてはできる。受けさせてくれないなんてオカシイ、という横柄な態度ではなく、もしよかったら…という謙虚さもいい。それに、頑張って勉強した子が報われないというのはセンセーとしてはやっぱり嫌だ。なんとかしてあげたいと思っちゃう。ね、キミが先生だったらそう思わない?」

「思います」と、学生は笑って言う。

「よし、じゃあ、これを私に言ってみて!」
と、私が言うと、学生は虚をつかれたようで、目をまんまるくしている。
「CONVINCE ME(私を納得させてみて)! 今のような内容を、本気で言われたら、私だって気を変えるかもしれない。Let's give it another try. I am all ears.」

学生はたどたどしく、えーと、を繰り返しながら、この内容を自分の言葉でもう一度私に伝えてくれた。私もところどころ少し助け舟を出す。「次回からはこうします」の部分では、「本気で言っている?言わされてるんじゃない?」といたずらっぽく聞くと「本気です!本当に本気」と向こうも笑って答えてくれる。

最後までうんうんと聞いてから、「あーまいった!You've convinced me! キミの言ったことは全て的を射ている。反省すべきところはして、これをきっかけに学んで成長しようという姿勢まで見せている。そんな素晴らしい学生にNoと言えるか。オッケー、いいよ、小テスト、今からでよければ受け直ししようか」と伝えた。「いいんですか?」と聞き返す学生に、「キミは元々これが目的で来たんだろう?ちゃんと策を練って、工夫して伝えれば、きちんと目標は達成できるということだよ。キミはいい仕事をした。自信を持っていい」と答えると、学生は嬉しそうに「ありがとうございます」とまた笑った。



予想外にも、と言ったら失礼かもしれないが、学生はこの小テストで悪い点を取らなかった。この後の彼の努力は目を見張るものがあり、以降ぐんぐん成績を上げ、最終的にはしっかりとBを取って学期を終えた。後日私のオフィスにまた遊びに来た彼は、「Aを取りたかったけど」と笑って、この授業は難しかったけど楽しかったです、と言ってくれた。きちんと顔を突き合わせて話し合ってよかったと思えた案件のひとつだ。

彼の笑顔がとてもかわいらしかった、というのも嬉しいサプライズだった。仏頂面よりよっぽどいい。



こういう仕事をしていれば、学生に頼みごとをされたり、学生がヘマをしてしまってどうしたらいいんでしょう、と相談されることはよくある。指導なくともきちんと自分を表現できる子もいれば、前述のようにそうでない子もいる。

コミュニケーションできない学生を見捨てるのは簡単だ。でも、もしかしたら「彼ら・彼女らはここを今まで誰にも指摘してもらったことがないのかもしれない。教わる機会がなかったかもしれない」と一度は思うようにしている。Just give it the benefit of the doubt. きちんと教えてもらえれば劇的に変わる、伸びる子は少なくない。

「いつもSyが締め切り直前にReminderをくれていたでしょ…でも今回メール来なかったから、うっかり忘れてしまって」
「確かに今回は締め切りギリギリReminder Announcementを送らなかった。でもそれは別に本来私がやらなくてもいいエクストラなniceness of meであって、締め切りは授業内で少なくとも2回は伝えているよね。BlackBoardのカレンダーにも入れてある。把握はできたはずじゃないかな。現に他の子は皆、締め切り守って提出をしている」
「それはそうなんですけど…」
…とモゴモゴする学生には、冒頭の「C'mon, CONVINCE ME! I need to hear more! (私が気を変えるための理由をもっと聞かせて!)」なのである。

「なるほど他人のReminder頼りだとこういうイレギュラーが起こることも分かった。同じ轍を踏まないために、自分でコントロールできることには具体的にどんなものがある?」
「ケータイに入れておく?Plannerに書き込む?締め切りをクラスメートとこまめにチェックし合う?いいね!どれも全て素晴らしい案だ!」
「ここでもう一押しするのに、『いつもあったReminderがなくて混乱してしまったのもあって』と付け加えてもいい。締め切りを忘れたメインの言い訳には相応しくないかも知れないけど、混乱を招いた要素であるのは確かだし、私も確かにもっとみんなのためにできたことはあった。そこは私も反省すべき点だから、ここを指摘するのはフェアだよ」
「じゃあ遅れて提出する今回の課題について、センセである私はどんな風に受け取るのが適切だろうか。本来であれば締め切りを過ぎた課題は20%減点だ。そのまま厳しく20%減点であるべきかな、減点は0%にすべきかな、間を取って10%とかかな。締め切りを守った学生にとってもそれはフェアだと思えるものかな?」

意外かもしれないが、つつけば彼らも「今回のことはこれが原因だったかもしれない」と自分の言葉で紡ぎだし、「こうしていればよかった。だから次回からはこうしてみる」と提案し、それなりに謙虚に「さすがに減点ゼロは甘すぎるように感じる、10%減点で受理してもらえないだろうか」と言ってきたりするのだ。

「こういうのは交渉事だと思ったらいい。キミがひとつの揺ぎ無く信頼してもいいことに、私の一番の興味はキミたちの学びと成長だ、ということがある。ミスをしたこと自体に私が怒ることは決してない。だからヘマをしたときには、ここは自分がマズかった。今回はこう対応し、次回からはこう改善しようと思う。この経験から私がこういうことを学べたら貴方(先生)にとっても有意義なのではないか、と話してくれさえすれば、私はふむふむその通りだねと頷く以外選択肢がなくなる。お互いシンプルに話が進めてラッキーだ」
「私が怒るのは、自分で自分がした約束事を守らなかったときだ。キミが『次はこうして改善しようと思う』と言ったにも関わらず、同じミスを繰り返したら、私が『どうしてこの失敗がまた起きてしまったんだい?』と尋ねることは予測ができるでしょう。その時の答えが『すみません、前回やると言ったことをやっていませんでした』だったら私は怒る。怒らなきゃいけない。それは分かるよね」
「もう一つ、私が怒ることがある。それは自分がしてしまった失敗を隠そうとしたり、嘘をついたときだ。断言しよう、キミの失敗は必ずいつか人の目につく。後ろめたいものであればあるほど必ずだ。隠したり嘘をつくのは、自分をより窮地に追い込むだけだし、何よりキミを信頼してくれている人に不誠実だ」
「人の成長にある程度の失敗は欠かせないとしたら、失敗するベストなタイミングは今だ。今のうちに私の目の前で失敗しておきなさい。どう改善すればいいか分からないときは一緒に考えよう。それは私たち二人が成長するまたとないチャンスでもある」



こうして交わした学生との数えきれない会話は、私の教えた「授業単位」にも、もちろん「発表論文数」にも数えられない。教員のする仕事として大学に評価されるものではないのだろう。しかし、大学生が社会人に変革していく時期に、思考の仕方やコミュニケーションの方法などをしつこく教える人がいなかったら、彼ら・彼女らは一端の「社会人」になりきれるのだろうか。社会人力って(そんな言葉があるとしたら)、意図的に教えなくてもそんなに全員がもれなく「自然と」育めるものなのだろうか。

もっともっと「意図」されて教えられてもいいんじゃないか、コミュニケーション。大学教員よ、寛大であれ。学生は、失敗を通じて成功体験を重ねるためにここに来ている。

  # by supersy | 2019-07-19 13:00 | Just Thoughts

スポーツ関連脳振盪診断のための身体検査や重症化予防のための早期有酸素運動についての最新エビデンスレビュー。

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●脳振盪診断の一環としてのPhysical Exam

スポーツ関連脳振盪(Sport-Related Concussion, SRC)の診断は難しい、というのは現場に出ている方なら思わず頷いてしまう事実かなと思います。症状は多岐に渡り、その全てが目に見えて明らかなわけではなく、脳振盪に非特異的なものも多い。加えて、主観的な訴えばかりに囚われてしまうとunder-reportなどの壁にぶつかってしまうことも珍しくありません。

では、既往歴チェックと認知評価をした後、ごく短い身体検査(A Brief, Focused Physical Examination)をしてはどうか、というのがこの論文1の焦点です。本文では脳振盪患者の症状の出方、感じ方は人それぞれなので完璧なサブタイプに分類することはできないが、最も顕著な身体所見や症状(predominant physical signs and symptoms)を見つけることが後に患者がPersistent Post-Concussive Symptoms (PPCS)を呈してきた際の効果的な治療方針の決定へと繋がるのではと論じられています。なるほど、私もここらへん曖昧なまま頭でごっちゃにしていましたが、著者らはPost-Concussion Syndrome (PCS)とは脳震盪受傷後、患者の自律神経のバランスが崩れ、脳血流が減少している状態を指すと考えているようで、脳代謝異常を伴わない頸椎や前庭・眼球、気分外傷後障害とは区別されるべきだ、と提言しています(私の不勉強で、これがUniversalな理解なのかあくまでも現時点ではひとつの意見なのかは測りかねます、後者寄りの前者かなという気はしておりますが…)。分類はざっと分けるとこんな感じ。

 1. Autonomic/Physiological PCS: 非特異的身体所見・症状、初期運動耐性欠如
 2. Cervicogenic PTD: 頸椎関連身体所見・症状、末期運動耐性欠如
 3. Vestibulo-ocular PTD: 前庭動眼関連身体所見・症状、末期運動耐性欠如
 4. Mood-related PTD: 感情的・認知的症状、目立った身体所見なし、運動耐性あり
  *PTD: Posttraumatic Disorder

ちなみに、初期/末期運動耐性欠如はこういう訳がベストなのかわかりませんが、英語ではEarly/Late Exercise Intoleranceと表記されており、具体的には前者が年齢から推測される最大心拍数の<70%で運動耐性欠如(= 症状が悪化するなどして運動継続が不可能になる)が出現、後者が>70%で出現、という定義分けらしいです。70%だったらどう判断するんだろうって思っちゃうのは余計なお世話?ちなみにちなみに、著者らはMood-related PTDの場合は精神科医(Psychiatrist)、心理学者(Psychologist)、または神経心理学者(Neuropsychologist)を含むMultidisciplinary Team Approachが必要不可欠だとしています。こういう細かい一文を省かずしっかり書いているところがやっぱり素敵、素晴らしい(完全にファン目線)。

んで。実際に行われるべき身体検査ですが、Buffalo Concussion Physical Examination (BCPE)と言う名前で以下の項目の検査が推奨されています(詳細はリンク先参照)。
・Orthostatic Vital Sign: 仰臥位と立位(1分後)での血圧、心拍数、症状(dizziness/lightheartednessなど)の比較
・Cranial Nerve Exam
・Oculomotor/Ophthalmologic Exam: 眼底鏡検査、パスートにサッケード、VOR、NPC
・Cervical Exam: 亜急性頸椎損傷は脳振盪と至極似た症状を引き起こすこともあるので、スパズム、圧痛に可動域をチェックする
・Vestibular Exam: 継ぎ足スタンス、継ぎ足歩行(Dual-task化しても良し)

Orthostatic Vital Signを事前に取った状態で医師の診察が開始できれば、BCPE完了までには5分程度しかかからないそうです。今までに治療指標としてのDr. Leddyの提唱するBuffalo Concussion Treadmill Test (BCTT)やBuffalo Concussion Bike Test (BCBT)についてはこのブログでも言及してきました(以下のリンク参照)が、同じものを診察のための運動テストとしてもここで足してもいいのでは、とも書いてありました。運動耐性があるかどうかを見る…つまり、上のカテゴリー分けを決定づけるために有意義なSupplemental Testではないか、というわけなんです。BCTT/BCBTは身体的運動を伴いますが、既に先行研究2によって中高生患者を相手に脳振盪受傷後一週間以内に行っても安全であると示されています。


ここんとこで重要そうな文章だなと思ったのが、"Early (<70% of max HR) exercise intolerance at the initial examination is very sensitive for diagnosing physiological concussion, whereas exercise intolerance later (>70%) in the test is suggestive of other cause of the symptoms such as cervical injury and/or vestibulo-ocular subsystem dysfunction."ってところでしょうか。ここがかなり評価の分かれ目になると思っても良さそうです。

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●身体検査の重要項目

ではBCPEに関してもう少し詳しく見ていきましょう。こちらの論文(↑)3がちょうどいいかと思います。急性脳振盪患者と健康なコントロール群に合計82人の中高生アスリート(男59人、女23人、平均15.60歳)を集め、Blindedな医師がBCPEを用いて診察を行ったというこの実験では、「受傷後平均4.4±2日後に行ったInitial EvaluationではBCPEは効果的に脳振盪患者と非・脳振盪患者を区別することができた」そう。中でも効果的だった項目は頸椎圧痛(p = 0.0055)、パスート(p = 0.0001)、NPC (p = 0.0002)、水平サッケード(p = 0.0001)、VOR (p = 0.0002)、継ぎ足歩行(p = 0.0009)。第二回来院時(初回来院時より平均13.6±1日後)の評価では脳振盪患者52人中41人が既に回復を見せていたそうなのですが、この時点でもパスート(p = 0.0001)、NPC (p = 0.0002)、継ぎ足歩行(p = 0.0002)は症状が残っている患者と消失した患者をDifferentiateするのに有効だったそうです。

これ、地味にすごいですよね。Baseline Testingしてなくても(= 各個人の「通常」「正常」を手間をかけて定義しなくても)BCPEだけでも区別が可能っていうことですから。結論にはもちろん「脳診断にこのテストを単独では使わない」「他のテストと併用すべし」と書かれていますが、Additional Toolとしての力はかなりあるのでは、という印象です。

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●心拍数から重症化患者を事前に予期できるか

ちょっとずれますが、こちら(↑)4はBCTTについて。脳振盪受傷後BCTTを行い、測定された心拍数閾値が135 bpm未満だと回復までに>21日かかる…という先行研究2があるらしいのですが、休息時の心拍数にはかなりの幅があるし、絶対的なCut-off値を示すより個々に合ったもののほうがいいだろう、ということで、今回は「BCTT心拍閾値と休息時HRとの差がどれほど少ないと脳振盪からの回復に時間がかかると予期できるか」という相対的なCut-off値探しに焦点が置かれています。

被験者となったのは10日以内に脳振盪を受傷した13-18歳の中高生アスリート130人。うち27人を「Rest」組、51人は「Placebo」組、52人は「有酸素運動」組とし、それぞれ介入を行いました。…で、結果に飛んでしまうとこんな感じ。有酸素運動組は52人中2人しかPPCSを発症した人がいなかった&心拍数の差に相関がみられなかったので分析は行っておらず、Rest組とPlacebo組のみの結果になります(↓)。
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Rest組でPPCS発症した患者(n = 4)の心拍数差(△HR)は35.25±9.5 bpmで、順調な回復を見せた患者(n = 23)の心拍数差は75.57±26.4 bpm(p = 0.01)、Placebo組では43.43±20.5 bpm vs 63.73±20.9 bpm (p = 0.04)。Cut-off値を≦50 bpmとすると、PPCS発症のPredictorとしての感度が72.73% (95%CI 46.41-99.05%)、特異度が77.61% (67.63-87.59%)になるんだそうです。2x2テーブルがなかったので本文のデータを元に作ってみました。
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つまるところの結論: 急性脳振盪患者が休息時のHRと比較して運動時に>50 bpmも上昇させられなかったら(= 症状が悪化するなどしてそれ以上の強度の運動継続が不可能)、その患者は回復までにかなり(>21日以上)かかると予測がつく。初診時に重症化予備軍患者が認められたら、それだけ早い治療介入開始が可能になりますよね。多々負えば有酸素運動とか。それで重症化を避けられたら大したもんじゃないですか。ふむふむ。
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●重症化予防策としての早期有酸素運動介入

この流れで、最後にこの研究5です。待望のRCT!脳振盪から受傷10日以内の中高生アスリートを被験者に、Placebo組(n = 51, 平均15.4±1.7歳, 受傷から平均4.8±2.4日後)と有酸素運動組(n = 52, 平均15.3±1.6歳, 受傷から平均4.9±2.2日後)にランダムに分けてPlacebo組は毎日ストレッチを、有酸素運動組は毎日BCTTプロトコルに則った有酸素運動を繰り返したそうな(両グループ共受傷後2日は介入せず休息をしたそうですが)。ちなみにこの被験者数は事前にパワー分析を行い、各グループ最低50名必要である、とされているのを越えてきています。研究の性質上、リサーチ助手や患者さんは介入内容を把握した状態で検証を行ったのですが、患者が臨床的に回復したかどうかを決めたPhysicianは患者のグループアサインメントにBlindだったそうです。さすがにこのへんは丁寧に作られています。
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結果です。回復までにかかった日数の中央値はPlacebo組が17日(IQR 13-23日)、有酸素運動組が13日(IQR 10-18.5日)と有酸素をしたほうが著しく短く(↑左グラフ、p = 0.009)、症状の減少も有酸素運動組のほうがより速かった…ですが、これは統計的に有意な差は見られなかったとのこと(↑右グラフ、p値未報告)。気になるCompliance Rateですが、ストレッチも有酸素運動も等しく高かった(86.6%, 83.8%, p = 0.16)そうで。まぁSelf-reportなので本当に正確かどうかは分かりかねますが。

結論としては早期有酸素運動は回復を早め、脳振盪後の後遺症を和らげたり予防する効果があるのではないか、ということでした。平均4日の回復の差は、短いようで中高生には社会的、学業的な意味でも大きいのではないだろうか、と論じられていて、それは確かにそうだよな、と思います。私だって4日早くケガや病気から職場復帰できたら嬉しい。ただ、今回特筆すべきはAdverse Effectでしょうか。今まではBCTT/BCBTプロトコルは安全である、症状がひどく悪化したり、回復が長引くことはない、という結果や報告ばかりでしたが、今回の研究では実は一件の「ニアミス(本文まま)」があり、被験者の一人がBCTT中に症状が著しく悪化。研究からWithdrawしたそうな。この方がこのあとどんな経路を辿って回復したのか(またはそもそも回復したのかどうか)は分からず仕舞いですが、今まで安全安全と言われてきた中、初めてこういう報告があったことは心のどこかに留めておきたいと思います。

そんなわけで、Dr. Leddy関連の論文4つのまとめでした!いやしかし、世に出している論文の数、ペースと質が半端じゃないですDr. Leddyさん…。尊敬と畏怖の念しかありません。これからもうきうき論文読ませていただきたいです!後発研究も楽しみにしています。

1. Haider MN, Leddy JJ, Du W, J Macfarlane A, Viera KB, Willer BS. Practical management: brief physical examination for sport-related concussion in the outpatient setting [published online November 7, 2018]. Clin J Sport Med. 2018. doi: 10.1097/JSM.0000000000000687.
2. Leddy JJ, Hinds AL, Miecznikowski J, et al. Safety and prognostic utility of provocative exercise testing in acutely concussed adolescents: a randomized trial. Clin J Sport Med. 2018;28:13Y20. doi: 10.1097/JSM.0000000000000431.
3. Leddy J, Lesh K, Haider MN, et al. Derivation of a focused, brief concussion physical examination for adolescents with sport-related concussion [published online on October 29, 2018]. Clin J Sport Med. doi: 10.1097/JSM.0000000000000686.
4. Haider MN, Leddy JJ, Wilber CG, et al. The predictive capacity of the buffalo concussion treadmill test after sport-related concussion in adolescents [published on April 24, 2019]. Front Neurol. 2019;10:395. doi: 10.3389/fneur.2019.00395.
5. Leddy JJ, Haider MN, Ellis MJ, et al. Early subthreshold aerobic exercise for sport-related concussion: a randomized clinical trial [published on February 4, 2019]. JAMA Pediatr. 2019. doi: 10.1001/jamapediatrics.2018.4397.

  # by supersy | 2019-06-21 20:30 | Athletic Training

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