PRI Advanced Integration 1-3日目とそれに関連する文献色々。

年に一度のPRIの祭典!Advanced Integration(通称: AI)に出席するためにまたネブラスカに来ています。AIは四日間、8時から5時まで(+夜の5-6時半くらいのゲストレクチャー)というもはや変人レベルの勉強会なんですけど、誇張なく、世界各国から(大半はアメリカ人なのですが、英国、韓国、日本、イスラエル、アイルランド、シンガポールなど他の様々な国からも)97人の猛者が参加しております。たーのーしーいー。
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今回はAIで話題に上がった論文のレビューをまとめておきます。どれも面白かった。
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まずはこちらの論文1。2011年発表の日本人研究チームのもの。
Adolescent Idiopathic Scoliosis(思春期特発性側弯症)の原因とは何なのか?どうして思春期で発症するのか、そしてどうして左の脊柱側弯症よりも圧倒的に右が多いのか?まだまだ謎の多いこの疾患ですが、もう少し踏み込んで、「病理的変化のない『一般的』と言われる脊柱でも、『思春期特発性側弯症』を思わせるような特徴はどれだけ認められるのか?成長と共にそれらの『特徴』は変化していくのか?」…に焦点を当てたのがこの論文です。
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検証方法は至ってシンプル。被験者の立位脊柱レントゲンを撮り、Cobb angle(上図参照)を計算して検証する、というもので、加えてCobb angle計測のintra- & inter-rater reliabilityも3人の整形外科医の間で検証されました。対象となったのは大きく分けて2種類の被験者群。既に脊柱側弯症と診断されている患者(44名)と、「通常」な脊柱を持つ人たち(1200名)です。この研究の目的は大きく2つ。脊柱側弯症患者は、右と左「どちらの方向」に湾曲が起こっているのか?健康な被験者は、「どちらの方向」に、脊柱側弯症とは言わないにしても「どの程度」の湾曲が見られるものなのか(又は全く湾曲なくまっすぐなのか)?ということを紐解こうとしているわけです。ふむふーむ。もう少し詳しい各被験者群の描写は以下の通り。

脊柱側弯症患者
Cobb angleが15-75度(= scoliosis)の非先天的且つ症状がない脊柱側弯症患者44人(年齢幅5-19歳, 平均12.7歳、男2人、女42人)。 *個人的には性別の偏りが気になります


「正常」な脊柱
幼少期(4-9歳)と思春期・青年期(10-19歳)、成人期(20-29歳)の被験者をそれぞれ400人(男女比は完璧に50:50、合計1200人)。
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結果です。
Intra- & Inter-rater Reliabilityは、同じX-rayを見ていても思ったより高くないんだなというのが正直な印象です。< 0.40 Poor; 0.40-0.59 Fair; 0.60-0.74 Good; 0.75-1.00 Excellentという基準を考慮すると、それでもGoodからExcellentのrangeには入るんですけど (↑Table 1 & 2参照)。

脊柱側弯症患者のなんと全員(44/44, 100%)は右側にその側弯症が認められたそうな。
「正常」な被験者では右の脊柱側弯症を正の数字(> +1)として、左の脊柱側弯症を負の数字(< -1)で表した場合、

  幼少期 男 +0.6±3.7° 女 +0.1±3.9°左 125人、側弯症無し 125人、右 155人
  思春期 男 +1.8±2.2° 女 +1.5±3.3°左 70人、側弯症無し 114人、右 216人
  成人期 男 +2.3±3.2° 女 +2.3±3.1°左 46人、側弯症無し 102人、右 252人

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というわけで、幼少期と比較すると思春期と成人期の右脊柱側弯症への傾向は著しく高い(p < 0.01, p < 0.001)ことが見えてきました。思春期と成人期は統計的に有意な違いは見られなかったそうな。男女差も特になかったそう。

つまるところ、何らかの理由で成長過程で我々の脊柱は右に向かって曲がっていくという傾向が確かにあるわけです。これらの1200人の被験者は「脊柱側弯症」という診断を下されておらず、見た目にも明らかな胸椎、胸郭の変形がない、自覚症状もない(脊柱とは全く関係のない身体の問題で病院に来院した)人たちだったわけですから、もしかしたらこれは我々が生活の中で繰り返す動きの癖やパターンに大いに関りがあるのかも知れません(これは私個人とPRIの意見で、本文では触れられていません)。加えて、今回報告された「思春期以降は健康な被験者にも右の脊柱側弯が認められる」という事実がAISのdevelopmental patternと酷似していることを考えれば、右の脊柱側弯症はそれなりに「normal variant」とも言えるのではないか?(特に症状を伴わない場合)病気や疾患という扱いをしてしまっていいのか?疑問が沸いてきます。くどいですが、これも私個人とPRIの見解です。ここらへんについてもっと知りたい方は前回紹介したPRIコンセプトと脊柱側弯症についての教科書の一章2をぜひご自分でお読みになってください。


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この論文も面白いです。3
2015年発表のブラジル研究チームによるPatellofemoral Pain(PFP)患者に関する研究。PFPの危険因子には膝が内側に崩れるようなDylanic Valgusや、逆に片足立位時に股関節外転金の出力不足によって起こるVarusなど、いわゆる動的エラーと呼ばれる要素が上げられたりします。これらの要素をSingle-Leg Triple Hopというかなりインパクトの強い動作中に、PFPありの患者とない健康な被験者でどう動きに違いが出るか見てみましょうぜ、というのが検証内容。
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20人の女性PFP患者(平均23.1±3.3歳)と同じく20人のAge-matchedな健康な女性被験者(23.5±2.1歳)を対象(ちなみに90%のStatistical Powerを得るための「各グループ最低17人」の条件は十分に満たしています)に、10分間トレッドミルで歩いてウォームアップしてもらったのち、Single-Leg Triple Hop Testを実施。一度目のジャンプの着地から、2度目のジャンプの踏切りの間のTransitional PeriodのBiomechanical Analysisを行ったわけです(写真↑)。テストはPFP患者は痛みがある方の足で、被験者は利き足で行った…という表記がありますが、具体的に右が何人、左が何人という数字は記述がありませんでした。個人的にはそこが気になりますし、私は右足でこのテストを行った人数が圧倒的に多かったのではと予測します。数字がない以上、予測の域を出ることはできませんが。

結果です。
Peak Joint Angle Data (Table 2)より。
胴体: PFP患者はより胴を前方(p = 0.038)同側側(p = 001)に傾ける傾向があるが、同側回旋は非PFP患者に比べて起こらない(p = 0.003)。
骨盤: PFP患者は逆側のPelvic Drop(p = 0.001)が著しく大きく起こる一方で、同側回旋は起こりにくい(p = 0.001)。最大骨盤前傾度合いにグループ間の大きな差は見られない(p = 0.299)。
股関節: より大きな股関節内転(p = 0.02)と内旋(p = 0.002)が見られるが、屈曲は著しく少ない(p = 0.029)。
膝: 屈曲が少ない(p = 0.001)が、内転は大差なし(p = 0.614)。
足首: よりEversionが大きい(p = 0.019)が、Dorsiflexionは著しく少ない(p = 0.003)。
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ふーむ、矢状面での屈曲が少なく、水平面での内旋が早く過剰に起こってしまうことから、伸展・外旋による爆発力が生まれにくい。加えて全額面では支脚方向に身体が極端に寄ってしまう、ということなのか。Table3も4も含め、総合的に見るとPFP患者はこういう位置(↑)に自分の身体を置きやすいことが見えてきます(Aが健康な被験者、BがPFP患者)。立位側に胴体を傾け、逆側骨盤を落とし、立位側股関節は内転内旋…。写真で見比べてみても、PFP患者のほうがより身体を右半球に埋め込んでいる感じ、つまり、健康な被験者がやっていることをより大げさにしてしまっているのがPFP患者なんですね。これは研究筆者も同意見のようで、"While both groups that participated in this study exhibited a similar movement pattern, the pattern was more pronounced in those with PFP" (p.804)という表現が文中に確認できます。PFP患者と非PFP患者、同じ動的パターンを見せる傾向があっても、そのパターンをより色濃くしてしまうとpathologyに繋がるんだ、という発見が面白い研究でした。

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では、最後にこの論文です。4
この論文は美しい!詩のように流れるような文章で、それでいて充実した内容の情報が的確にまとめられていて。冒頭は特に芸術的です。"There is arguably no other muscle in the human body that is so central literally and figuratively to our physical, biochemical and emotional health as the diaphragm. From its most obvious role in respiration, to its less obvious roles in postural stability, spinal decompression, fluid dynamics, visceral health and emotional regulation, the diaphragm has a repertoire of function that is broad by any muscle's standards" (p.342). これは日本語に訳そうと思うことが失礼にあたるくらい完璧に書かれた文章です。アンダーライン引いて何度も読み返したい…。

「横隔膜の担う呼吸という役割は(特に休息時において)主要である一方で、この機能は実は発生学の観点からは「『二次的(exaptation, side-effect)』と言わざるを得ない」、詳しくは、我々がまだ海中生物だった頃に空気を吸い込んでしまうことを防ぐメカニズムとして(つまり今の「空気を吸う」のとは真逆の目的で)できた組織なのではないか、または他の生物と比べて異様に発達した脳を持つ胎児を産道から押し出すことだったのではないか…など、実にわくわくする説を展開しています。横隔膜は部位としてはTransverse Abdominis (TA)の肋間に触れる部分が剥がれてできたといっても過言ではないんだそうで。さらに、発生学的に考えると、TA, IO, EOなどの深層腹筋群とAnterior, Middle and Posterior Scaleneは同じ胚の部位からできているというstatementもめっちゃ面白かったです…。こうして考えるとScalenes(斜角筋)が呼吸に深い関りがあると言われるのも実に道理にかなっているのだと本文では説明されています。

横隔膜がphrenic nerve (C3-5)によって(動的・感覚的)神経支配されているのは周知の事実だと思うのですが、なんと下部の肋間神経(6-7)からも神経支配を受けているらしいです。だから、横隔膜に対する治療アプローチはがっつり肋骨の機能・形状に影響をもたらすのだ、と。それだけではありません。Phrenic nerveはAnterior Scaleneと「関りのある」fasica周りを通過することから、Whiplashなどによる損傷や慢性的過活動(i.e. FHP)など、Anterior Scaleneに変化が起こるとそれがPhrenic nerve機能不全を招いたりすることもあるんだそうな。だから、呼吸に問題のある患者に対して姿勢介入が有効だったりする、その理屈もここらへんから来ているのではないか、なんだと。他にも横隔膜は嚥下と消化にも深いつながりがあり(横隔膜下部はPhrenic nerveではなくてVagus nerveの神経支配を受けているので)、逆流性食道炎などの治療にも横隔膜が注目されていること(食べ物がスムーズに胃に辿りつくにはcruraの部分の横隔膜が適度にリラックスしている必要があり、且つその間も横隔膜は呼吸を止めるわけにはいかない、ということを考えれば、この「神経支配の住み分け」は至極当然なのかもしれません。これと同じことが嘔吐などの場合にも当てはまります)も言及されています。横隔膜の姿勢筋としての機能、IAP制御などについても表記がありますが(横隔膜はspindle cellの数が少ないのでtensionやプレッシャーのコントロールを一人ではとても仕切れない、abdominal wallやpelvic floorとの連携が必要不可欠である、など)、このへんの論文は自分でも読みつくしているし、真新しい情報はなかったので省略でいいかな。前にも書きましたしね。横隔膜の活動がgait(歩行)のフェーズや飲食のリズムと深い関係があることについても(なので歩行のフェーズに合わせた呼吸介入もそのリズムを取り戻すのに有効であるかもしれないことなど)少し記述がありましたし(ちなみに四足歩行の哺乳類の殆どは一歩歩くごとに一呼吸をするという1:1であるのに対して、ヒトは2:1~4:1程違いがあるそう。四足歩行の動物は移動の際に前後にvisceral piston、つまり内臓が前に押し出されることで横隔膜のドーム形状がリストアされ、次の呼吸がしやすくなるという独特のチカラの掛かり方が起こることを考えれば、1:1という割合は動物学的にもスジが通っています。四足歩行動物でもグレイハウンドのような長距離を走ることを得意とする動物は2:1の割合で呼吸をする種もいるんだそうで、それらの種はどうしてそんな進化を遂げるようになったのかも妄想をめぐらすと楽しいです。あ、話が逸れた。ヒトの呼吸は割合としては2:1が一番エネルギー消費の無駄が少ないのだとか)、感情のコントロールと横隔膜の機能の箇所では「例えば子供が痛みを感じるとハッと息を飲み込み(それらは横隔膜の収縮によってもらたされたものである)、その後に子供は大声で泣き始めるだろう(これは横隔膜のリラックスと、abdominal wallの収縮によって起こる現象だ)」と説明し、「ところが大人はどうだ、同じような痛みを感じて空気を飲み込むことはあっても、子供のように思いっきり泣いて吐き出すことは滅多にない。もしかしたらそういう出来事があるたびに横隔膜の緊張は高まっているのかもしれない」という推測も、ユニークで斬新でもうめちゃめちゃ面白いです…っていうか、この論文いちいちひと段落ひと段落が面白いです。横隔膜好きは一度読んだほうがいいです…。

それでは、キリがないし、明日も一日講義のでそろそろ休むことにします!AI後半の報告のため、また更新します。

1. Doi T, Harimaya K, Mitsuyasu H, Matsumoto Y, Masuda K, Kobayakawa K, Iwamoto Y. Right thoracic curvature in the normal spine. J Orthop Surg Res. 2011;6:4. doi: 10.1186/1749-799X-6-4.
2. Henning S, Mangino LC, Massé J. Postural restoration: a tri-planar asymmetrical framework for understanding, assessing, and treating scoliosis and other spinal dysfunctions. In: Bettany-Saltikov J, Schreiber S,eds. Innovations in Spinal Deformities and Postural Disorders. London, UK: InTech; 2017.
3. dos Reis AC, Correa JC, Bley AS, Rabelo ND, Fukuda TY, Lucareli PR. Kinematic and kinetic analysis of the single-leg triple hop test in women with and without patellofemoral pain. J Orthop Sports Phys Ther. 2015;45(10):799-807. doi: 10.2519/jospt.2015.5011.
4. Wallden M. The diaphragm - More than an inspired design. J Bodyw Mov Ther. 2017;21(2):342-349. doi: 10.1016/j.jbmt.2017.03.013.

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  # by supersy | 2017-12-09 23:30 | PRI | Comments(0)

ACL再建手術からの競技復帰は、「最低9ヶ月」かけろ?

秋学期ももう終盤。年末の帰国時期が迫ってきています、やっほうー。と、いうことは帰国翌日から始まるEBP講習までもあと2週間ほどです。新たな講習もあるので今回は特にわくわくです。

<講習日時>
2017年12月17日(日)
9:30am-12:45pm  エビデンスに基づく治療介入: 基本から応用まで
           *途中休憩15分含む3時間講習
12:45pm-14:00pm 昼食(各自)
14:00pm-16:00pm エビデンスに基づく治療アプローチ: AMIと抑制解除療法 (NEW!)
16:20pm-18:20pm エビデンスに基づく治療アプローチ: 腱障害リハビリ (NEW!)

2017年12月20日(水)
18:20pm-21:35pm エビデンスに基づく予防医学: 基本から応用まで
           *途中休憩15分含む3時間講習

2017年12月21日(木)
18:20pm-21:35pm エビデンスに基づくスポーツ傷害評価: 基本から応用まで
           *途中休憩15分含む3時間講習

まだ申込受付中ですので興味のある方は是非!詳しくは以前のブログ記事からどうぞー。



先週末の話になるのですが、Thanksgiving Breakはオハイオはクリーブランドにお邪魔していました。中山佑介(ゆっけ)さんの「好きな時にいつでも遊びに来てください」というお誘いを真に受け、遊びに行くならこのタイミングしかないー!と飛んでいったのです。すみません、誘われると私はいちいち本気にします。

11月22-25日の三泊四日の小旅行でしたが、11月22日のvs Nets戦と24日のvs Hornets戦の2試合を観戦させてもらったばかりか、Cleveland Cavaliersの練習施設も見学させていただいたりと非常に充実していました。Thanksgivingに休暇の旅行をしたのは10年ぶりくらい…羽を伸ばすとはこういうことかー!という幸せなひとときでした。
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この業界にいるひとつの楽しみに、友人の働くチームの活躍を心の底から応援できる、つまり、応援できるチームが各リーグにたくさんできる、というのがあります。試合中、コートやフィールドを走り回っている選手を見ながら、この選手一人一人が元気でプレーできている裏に何十、何百、何千時間というメディカルスタッフの尽力、努力、苦労があるのだろうなぁと勝手に妄想を膨らませてしんみりしたり感動したりするのがそれはそれはとても楽しいのです。観戦した2試合ともCavaliersは接戦を制し、7連勝と勢いに乗っていました(その連勝記録を今日までに11に伸ばしているようです)。あー楽しかったー。ゆっけさん、ありがとうございます!この写真は昨年Spurs戦にSan Antonioにいらしたときにゆっけさんと撮ったやつです。
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さて、話は変わりまして。ACL(前十字靭帯)断裂はアスリートにとって脅威ですよね。中でも「ACL再建手術を経験した若年スポーツ選手のうち、その30%程が術後2-3年の間に二度目のACL断裂を経験する」1,2 という統計はかなり深刻で、「どう(理想的に)ACL再建手術から回復していくか」という分野はまだまだ掘り下げる余地がありそうです。
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で。Level I sports (jumping, cutting, pivotingのあるスポーツ、上記の表3 参照)に競技復帰するにあたって、ACL再建手術をした患者の術後2年以内の再受傷率はどのくらいなのか?競技復帰のタイミングや競技復帰時の機能にそれはどのように影響されるのか?を検証した論文がこちら。4 タイトルが興味深いですね、とりあえず読んでみましょー。
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対象となったのは106人のACL再建手術を受けた患者。Inclusion criteriaは1) 3ヶ月以内に片方の膝にACL再建手術を受けていること、2) KT-1000で3mm以下の左右差があり(= 手術成功した、という基準に使っているのかなと解釈)、3) 13-60歳で(ちょっと年齢幅が広い…競技復帰など、この結果がapplicableになる患者層を考えれば13-35歳くらいに限定してもよかったのでは)、4) Level IかIIのスポーツを少なくとも一週間に2回の頻度で受傷前に参加している、ということ(Level Iの競技復帰を検証するのに、どうしてLevel IIのみしかしていない患者を含むのかは疑問)。Exclusion criteriaは1) 膝(健側患側のいずれかも)の怪我受傷の既往歴があること(何故これがダメなんだろう?)、2) 患側の膝にグレード3の靭帯損傷やfull-thicknessの軟骨の損傷が認められること、3) ACL断裂に付随する半月板の損傷が有り、且つそれが受傷3ヶ月後にplyometric exerciseをしていると痛みもしくは腫れが出ること。ここらへんは個人的にはもう少し説明をしてほしいというか、何故グレード2はオッケーでグレード3がダメなのか、「再建手術をここ3ヶ月以内に受けた」の患者が対象で、「受傷から3ヶ月経ってもPlyo最中に痛み・腫れが出る」というタイムラインは合わないのではないか、など疑問が残ります(= 再建手術後3ヶ月以内でplyoが元気にできるケースのほうがレアなのでは?など、理に適っていない部分が多いと感じます)。

患者群は受傷後、5週間のpre-operativeリハビリプログラムを全員一貫して終了したのち、手術をするか保存療法で行くかを決めたという記述があるので、そこで手術をしようと判断された患者がこの研究に流れてきたってことなんでしょうね。しかし、どういう患者が「手術が必要」と判断されたのかという記述はありません。手術の際のグラフトはBPTBかHamstringかの二択があったらしいんですが、これも統一されていない→outcomeに影響を及ぼす可能性は大いにアリで、postoperativeのリハビリに関しても、preoperativeと異なり個々の患者に合ったものが作られたらしいんですが、リハビリの多様性もoutcomeに影響を及ぼすのではと思いますね。ぼややっと「postoperativeのリハビリは全部共通の3 phasesがあり、それぞれのphaseではこういう目標がありました」という概要は明記されているのですが、一体何人のPTがリハビリデザインをし、実践したのか、どれだけの多様性が実際存在したのかなど細かい説明はありません。こういうのは大いにこの実験のInternal validityを脅かす要素だと思いますね。

実験期間中、患者はonline surveyを使って毎月参加したactivityや膝の怪我を報告(self-reportなので真実でない可能性、報告を忘れる可能性、recall biasなどが入る可能性あり)。期間中、再受傷した場合はクリニックに戻って再受診をしたそうな。ふむふむ。

で。結果です。106人中、脱落者が6名おり(一人はwithdrawn、残り5人はonline surveyをやらず)、最終分析に含まれたのは100人(男46人、女54人、 平均24.3±7.3歳)。受傷前にLevel Iスポーツに参加していた患者のうち、74人が競技復帰(89.16%)を果たし、まぁ当然というかなんというか、もともとLevel Iスポーツに参加していなかった患者17人はのうち、Level Iスポーツを手術後するようになった患者はおらず(0/17, 0%)。
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100人中、術後2年間以内に膝の怪我を再受傷した患者は24人(24/100、24%)で、詳しい怪我の内訳は上(Table 2 ↑)通り。このうち、Level Iスポーツに復帰した74人中再受傷したのは22人(29.7%)で、うち、45.5%の怪我は競技復帰してから2ヶ月以内に起こったものだったそう。年齢に関して統計的修正を加えて分析すると、「ACL再建手術の後、Level Iスポーツに競技復帰した患者は、より低いレベルのスポーツに競技復帰した患者に比べて、膝の再受傷リスクが4.32倍(95%CI 1.01-18.40, p = 0.048)上がる」という結果が出たそうな。95%CI幅がちょっと広いなー。ぎりぎり統計的に有意ですね。

復帰のタイミングも大きな要素だったよう。全体としては「競技復帰のタイミングが遅いほうが再受傷のリスクも低い」という結果で、競技復帰を一ヶ月遅らせるごとに再受傷率は51%下がっていくという数字は非常に興味深いです。具体的には、手術後5ヶ月以内に競技復帰した4人のうち4人全員が、競技復帰して2ヶ月以外に再受傷(4/4、100%)したのに対して、9ヶ月未満に復帰した患者 vs 9ヶ月以上かけた患者の再受療率は39.5% (15/38)と19.4% (7/36)。9ヶ月以上遅らせてもadditional benefitはない、つまり、9ヶ月という数字がcutoffになりそうだ、とのことです。へぇー。

やはり最低でもACL再建手術からは9ヶ月競技復帰まで見たほうがいい、というのがこの研究の最終結論です。アメリカではACL再建手術からの復帰は「6ヶ月」というのがスタンダードになっており、一昔前には「Accelerated rehab」という、ACL断裂から4-5ヶ月での競技復帰が称賛されたりしたこともありましたね。日本では、というと、以前知り合いに「日本ではACL再建手術からの復帰に必ず10ヶ月かける」と聞いて、「えー、問答無用で10ヶ月って長くない?もっと短くできるでしょ」と思ったことも正直ありました。でもこういう論文を読んだり、Ligamentizationという体内のプロセスを理解するにつれて、いやいややっぱり結局なんだかんだで一年弱かかるよな、と思うようになったんですよね。日本がまだ「最低10ヶ月」というタイムラインを使っているんだとしたら、それはアメリカの「6ヶ月くらい、なんだったらできる限り短く」とする基準よりも遥かにいいものなのかもしれない、と今は考えています。急げばいいってもんじゃないですもんね。患者の身体に徐々に起こる変化をリスペクトできてこそ、セラピストの役目を果たせるってもんなのかもしれません。

1. Paterno MV, Rauh MJ, Schmitt LC, Ford KR, Hewett TE. Incidence of second ACL injuries 2 years after primary ACL reconstruction and return to sport. Am J Sports Med. 2014;42:1567–1573.
2. Webster KE, Feller JA, Leigh WB, Richmond AK. Younger patients are at increased risk for graft rupture and contralateral injury after anterior cruciate ligament reconstruction. Am J Sports Med. 2014;42:641–647.
3. Hefti F, Müller W, Jakob RP, Stäubli HU. Evaluation of knee ligament injuries with the IKDC form. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 1993;1:226–234.
4. Grindem H, Snyder-Mackler L, Moksnes H, Engebretsen L, Risberg MA. Simple decision rules can reduce reinjury risk by 84% after ACL reconstruction: the Delaware-Oslo ACL cohort study. Br J Sports Med. 2016;50(13):804-808. doi: 10.1136/bjsports-2016-096031.

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  # by supersy | 2017-12-03 23:30 | Athletic Training | Comments(4)

「マルチスポーツ選手のほうがNBAで活躍しやすい」論文を読み解く。

ちょうど一年程前にこんな記事を書いたりしておりまして。

ひとつのスポーツに特化する高校生アスリートは怪我をしやすい?: マルチスポーツのすゝめ。(2016年11月16日付)

続きってわけじゃないんですが、こんな論文(↓)1 を発見したので読んでみました。まとめです。
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この論文の冒頭では、様々な組織や団体、協会が「しないほうがいい」と叫んでいるにも関わらず、2,3 近年若いうちからアスリートがsingle-sport specialization (一つのスポーツに特化)する傾向が強まっていること。4-6 そしてタイガー・ウッズやアンドレ・アガシを見て多くの人が「プロとして成功するには早いうちから一つのスポーツに特化していなければいけない」と考えている一方で、その説はエビデンスによっては指示されておらず7,8 (唯一、年齢的ピークが他のスポーツに比べて早いと言われている体操競技に関してはearly specializationが有益かもというデータもあるようですが9)、むしろspecializationは遅いほうが後に活躍しやすいという説が近年支持されてきているようなのです。10 ふーむ。

で、NBA選手に限って言えば、どういう選手が活躍してるの?Single-sportアスリート、それともMulti-sportアスリート?ちょっと調べてみようかしらん、というのがこの研究。2008年から2015年までの全NBAチームのドラフト一巡目に指名された選手237人(一試合でもNBAでプレーしていることが条件)を対象に、インターネットや新聞、雑誌で手に入る情報を使って、それぞれの選手が 1) 高校時代にバスケットボール以外の競技にも参加していたか、2) NBAで怪我をしたか、3) NBAで何試合プレーしたか、4) 現在でもNBAで現役選手として活躍中なのかどうか、について調べ、データをまとめたそう。ここで気になるのが、インターネットや新聞、雑誌など、一般に手に入る情報を元にこれらのデータを収集した、というところですかね。prospective studyでリアルタイムで選手を追っかけているならもう少し信頼性に足るかと思うのですが、こういったretrospectiveなデザインの研究となると、インターネットの情報が間違っていたり、でたらめである可能性も否定できません。情報の信憑性がそもそも確立されていない、というのは大きな問題かもしれません。それから、「ドラフト一巡目指名」というのは「これらの選手は間違いなくエリートだから」というくくりから来ているらしいんですけど、だったら二巡目だろうが三巡目だろうか、リーグに入っているなら十分にエリートじゃありません?ここの理論建ては少し強引だな、もうちょっと丁寧な説明が必要かなと思います。

この論文で使っている言葉の定義がなかなかに独特なのでこれも記載しておきます。
まずは「マルチスポーツ選手」の定義。これは、所属していた高校でバスケットボール以外でのスポーツに参加していたことが確認できれば「マルチスポーツ選手」と見做されるようですが、レクリエーション目的で他のスポーツをやっていたり、小・中学校のみでやっていた場合はカウントしない、というルールが設けられていたよう。例えば、助っ人として高校時代一試合だけ野球の試合に駆り出されて出た場合でも「マルチスポーツ選手」になるということ?これ(= 一試合のみ助っ人)がカウントされて、小・中学校でがっつり野球をやっていた場合は一切カウントされないというのは少しおかしい気もするけれど…。(学校外の)クラブチームでのスポーツ参加に関しては、一切記述がありません。これは全く考慮に入れなかったと解釈すべきなのでしょうか?
それから、2)の「怪我」についてですが、これはNBAレギュラーシーズン中に頸部、腰、胴、鼠径部に足部や膝を含む下肢に起こった、最低でも10試合欠場せざるを得ない規模の怪我のみをカウントしたようで、つまるところ、軽度の10試合未満の欠場にしかならなかった怪我やプレシーズン、プレーオフ中の怪我、そして上肢や顔面の怪我、それから脳震盪などは数に入れなかったそうなんです。後で「慢性的なオーバーユースによる怪我をカウントしたかったから(この設定を選んだ)」という記述があるのですが、どうしてこの定義が「慢性的なオーバーユースによる怪我」に限定するのに十分と言えるのでしょうか?フツーに急性前十字靭帯断裂なんかもこの定義だとカウントされちゃうわけですけど、でもこれって、「慢性的なオーバーユースによる怪我」ではありませんよね?それから説明が一切ないけど、10試合という期間の限定っぷりも、なんでなんで?時間にするとNBAのレギュラーシーズン10試合といえば15日間、つまり2週間強くらいになるのかなと思うんですが、この期間にこだわった理由が知りたいです。それから、便宜上「レギュラーシーズン」に限ってデータ収集を行ったのはやむを得ないというか、全然構わないと思うんですけど、上半身の怪我や脳震盪を考慮に入れなかった点は大いに疑問が残ります。「バスケットボールで上肢の慢性的な怪我はあまりないから」という理由が本文内で少しだけ触れられていましたが、えー、そうですか?subacromial impingement syndromeとか、そこそこあると思うんですけど。こういう物事や用語の定義は非常に大事で、あまりユニークな定義は避けるべき・他の研究とも一貫性を設けるべきです。あちこちちょっと説明足らずで不可解で、ここまではあまり読者に優しい論文じゃないなぁという印象です。

んで。結果です。調査対象となった237人中、「マルチスポーツ選手」と分類されたのは36人(15.19%)で、「シングルスポーツ選手」は201人(84.81%)。やはりというか何というか、決して多くはないですね。しかし、統計のセクションにpower analysisの結果、各グループ最低36人いればよいと判明した、という記述があるので、マルチスポーツ選手組の36人というのがまさにどんぴしゃで見事ですね(…というか、36人になるまで年月を遡ってデータを集計していったと考えるのが自然かな)。統計的なパワーには恵まれていた研究である、ということになります。NBA入り年数別に見てみると、2008年加入者のうちマルチスポーツ選手の割合は全体の3.3%、2009年では23.3%、2010年は3.3%、2011年は6.7%、2012年は23.3%、2013年は26.7%、2014年は16.7%、2015年13.3%と、年によってかなりランダムな差があったそう。論文読みながら、「マルチスポーツ選手が減ってるというなら、マルチスポーツ選手のほうが全体的に年齢が上、キャリアが上となって、怪我している可能性が増えるのでは?」と考えていたりしたんですけど、いらぬ心配だったほうです。その証拠に、マルチスポーツ選手とシングルスポーツ選手では年齢や身長、体重、ポジションに大差は見られませんでした(p > 0.2)
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上の表からは、マルチスポーツ選手のほうがよりレギュラーシーズン全82試合のうち、より多くの試合に出場を果たしており、怪我をしにくく、今でも現役で活躍している可能性が著しく高いことが見て取れます。もう少しわかりやすい数字に直すと、つまるところマルチスポーツ選手のほうがシングルスポーツ選手よりも1シーズンあたり4.4試合多くプレーしてる計算になるんだそうです。結論には「プロのエリート選手は、高校で複数のスポーツに参加していたほうが、より多くの試合に出場でき、怪我をしにくく、より長くキャリアが続くなど、早いうちに一つのスポーツに特化した選手と比較して著しく生産的で健康なキャリアを保てる」と書かれていますが、これは少し言い過ぎというか、一般化しすぎなんじゃないかしらん、と私は感じています。もっと正確に、「NBAドラフト一巡目に指名された選手のうち、高校で複数のスポーツに参加していたアスリートのほうが、早期にバスケットボールに特化したアスリートに比べ、より多くのレギュラーシーズンの試合に出場でき、最低でも10試合の欠場に繋がるような首、腰、胴体と下肢の怪我を起こしにくく、より長く現役選手でいることができる」くらいの限定的な結論に留めておくべきなのではと個人的には思いますね。この研究の結果はあくまで「NBAドラフト一巡目指名選手」に限ったものであり、これが例えばドラフト二巡目指名選手にも当てはまるのかとか、現役NBA選手全員でもこういう結果になるのかとか、そういう根拠や保証は現時点では全くありません。怪我が無く試合に出場できる健康状態を保つことは、プロスポーツ選手である以上「成功」を構成する要素のひとつなんでしょうけども、「生産的で(productive)…」なんて表現を使ってしまうと、より多く得点できるとか、リバウンドがもぎ取れるとか、そういった「試合のスタッツ」の要素も入っているような言い回しで、誤解を招きそうな気もしますね。もっと突っ込んでしまうと「健康」は必ずしも「怪我をしていない」状態とイコールではないですし(肉体的に怪我をしていなくても、健康ではないという状態は十分あり得るでしょう)、逆に怪我を抱えながらも(= 非健康でも)休まずなんとか試合をこなす選手だっているわけですしね。そういう選手をこの研究では測り切れていないものな、とは思うんですよね。

そんなわけで、タイトルに負けないほどの衝撃の内容!というわけではありませんでしたが、しかしそれでも色々と妄想の膨らむ興味深い研究です。スポーツの早期特化という意味では日本はアメリカよりも更に悪い状況にあるかと思いますが、日本の中学校・高校でももっと兼部ができる環境があってもいいのではという気はしますね。そのためには、シーズン制の導入が必要不可欠ですけども…。

1. Rugg C, Kadoor A, Feeley BT, Pandya NK. The effects of playing multiple high school sports on national basketball association players' propensity for injury and athletic performance. Am J Sports Med. 2017:363546517738736. doi: 10.1177/0363546517738736.
2. Lord M. Too much, too soon? Doctors group warns against early specialization. US News World Rep. 2000;129(3):46.
3. Brenner JS. Sports specialization and intensive training in young athletes. Pediatrics. 2016;138(3): e20162148.
4. Bell DR, Post EG, Trigsted SM, Hetzel S, McGuine TA, Brooks MA. Prevalence of sport specialization in high school athletics: a 1-year observational study. Am J Sports Med. 2016;44(6):1469-1474.
5. Hill GM, Simons J. A study of the sport specialization on high school athletics. J Sport Social Issues. 1989;13(1):1-13.
6. Post EG, Thein-Nissenbaum JM, Stiffler MR, et al. High school sport specialization patterns of current division I athletes. Sports Health. 2017;9(2):148-153.
7. Feeley BT, Agel J, LaPrade RF. When is it too early for single sport specialization? Am J Sports Med. 2016;44(1):234-241.
8. Vaeyens R, Gullich A, Warr CR, Philippaerts R. Talent identification and promotion programmes of Olympic athletes. J Sports Sci. 2009;27(13):1367-1380.
9. Hume PA, Hopkins WG, Robinson DM, Robinson SM, Hollings SC. Predictors of attainment in rhythmic sportive gymnastics. J Sports Med Phys Fitness. 1993;33(4):367-377.
10. Moesch K, Elbe AM, Hauge ML, Wikman JM. Late specialization: the key to success in centimeters, grams, or seconds (cgs) sports. Scand J Med Sci Sports. 2011;21(6):e282-e290.

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  # by supersy | 2017-11-29 23:30 | Athletic Training | Comments(0)

ネブラスカ滞在とModified Lateral Scapular Slide Testについて。

ようやく風邪が治ってきた…ような!

もう一か月以上前の話になるのですが、事情があって10月は2週末連続でネブラスカはリンカーンを訪問していました。2回とも大いに実りある滞在だったのですが、二度目のネブラスカ訪問では初めてUniversity of NebraskaのAthletic Performance Labにもお邪魔する機会がありました。施設の現ディレクターさんが元恩師なのです。遊びに行きたいです!と言ったら快諾してもらって感謝感謝。
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University of Nebraskaと言えばStrength & Conditioning発祥の地!Footballチームが使うというWeight Training Roomは40ものWeight Stationのある壮大な施設でした。
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85,000人入るというUNの超巨大フットボール・スタジアムですが、NCAA記録の359試合連続満員御礼を誇っており、私がお邪魔した時点でこの記録はまだ更新中でした。すごい!
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他にもHruska Clinicでシャドーイングをする機会にも恵まれ(しかも幸運なことにRonが患者を診るタイミングでのシャドーイング!)、脳みそトロけそうなひと時も過ごしてきました。た、楽しい…!また来たい…!わー自分はまだまだ何も知らないんだ、と打ちのめされ、圧倒される感覚は一年に数度は味わいたい「ガソリン補給」体験です。これでまたしばらく頑張れます。まぁ後一週間半くらいで、ここにはまた帰ってくるんですけども。


さて、話は変わりますが。
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Lateral Scapular Slide Test (LSST)はもともとKibler氏1が提案した「肩外転0°、45°と90°時に、肩甲骨の位置が左右で比較してどれだけ同じ・異なるのか」というのを肩甲骨の下角とそれに最も近い胸椎の棘突起との距離を測り、左右比較することでassessするテストなんですが、信頼性がマチマチなのでまーどうしたもんか、って感じだったんですよね。
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で、興味深いのがこの論文。2 オリジナルのLSSTが完璧でないならどう修正したらより改善できるだろうか?っつーことで、30人の健康なバスケットボール選手(平均22.53±3.72歳、全員男性)を対象にちょこっと変更を加えた様々なバージョンのLSST(Modified Lateral Scapular Slide Test, MLSST)を行い、どれが一番reliableなのかを見極めようとした、シンプルかつ実用性の高い研究です。明記はされていないんですけど、被験者の年齢幅20-31歳ってことは大学生選手ではないので、プロなのかな?でもだったらProfessional Basketball Playerと書くような…セミプロ?アマチュア?レクリエーショナル?少し疑問が沸くというか、興味がそそられます。

ともあれ、今回検証されたのは以下の7つのテスト・ポジション。
 Position 1) 腕を脇に休めた状態(=外転0°)
 Position 2) 外転90°(腕は内旋="thumb down")
 Position 3) Scaption (肩甲骨面挙上) 90°(腕は内旋="thumb down")
 Position 4) Position #3 + 1kgのダンベル
 Position 5) Position #3 + 2kgのダンベル
 Position 6) Position #3 + 4kgのダンベル
 Position 7) Full Scaption (肩甲骨面挙上) 90°(腕は内旋="thumb down")
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これらの変更の背景としては、純粋な肩外転よりはScaption (肩甲骨面挙上)のほうが機能的でしょ、というのと、自重よりはloadを足したほうがよりkinematic alterationが如実に出るかな?というところみたい。なるほど、理には適っています。
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…で、結果です。一番intra-とinter-rater reliabilityが高いのはP1 (high & good)。P2とP3の比較ではP3のほうがどうやら優秀(high & good)だが、それに1~4kgのダンベルを加えたP4~6(high & fair; high & good; high & fair)もなかなかいいのではないか…ということになっています。ふむふむ。総じて、LSSTより、MLSSTのほうが信頼性が高いじゃん!って感じですかね。
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同じ研究チームが25人の肩の痛みを訴えた患者(平均42±2.7歳、男12人、女13人)と、25人の健康な被験者(平均40±2.1歳、男15人、女10人)を使ってMLSSTを再検証した論文がこちら(↑)。3
この研究では前回の論文でいうところのPosition #4を採用したようで(これが必ずしも最高の信頼性を示したわけではないのに、rationaleは何なのか?説明が無いのが気になります)、つまるところ、従来のPosition #1 (Arms resting by the side); Position #2 (45° abduction, hands on the hips)に、新たなPosition #3 (90° scaption with 1kg, thumbs down)が加わったわけですね(下写真参照↓)。
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で、結果ですが、ひとつ前のもの以上に良いです!Intra-raterは0.83-0.96でgood to high; Inter-raterは0.90-0.97でhigh!えー、かなりのconsistencyじゃないですか。素晴らしい。
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今回は肩の痛みがある患者も対象に含んでいたので、「MLSSTの左右差が1.5cmより大きい場合、陽性とみなす」という判断基準で陽性・陰性を判断した場合、どれほど「肩の痛み」を診断するのに有効なのか?という分析もなされています。sensitivity, specificity, +LRと-LRも計算されてるんですが、それらも見てみると…。
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どうやら確定にはそこそこ有効のようですね。Specificityは80-91%と悪くありません。Sensitivityが低い分、LRがイマイチな数字になってしまっていますけど。研究には「やはりこのテストの診断的価値には制限が多い」という結論は導かれていますが、私はこれはあくまで「現在の痛み」をpredictするかどうかに捕らわれているからじゃないかと思いますけどね。Scapular dyskinesisが上肢の怪我のリスクを高めることは良く知られているのだし、仮に今、現時点で痛みが無くてもプレーを続けていれば痛みが出てくる可能性が高い、というのなら、早めにdetectして介入するに限るでしょう。それなりの診断価値はあるテストだと、個人的には思います。

…そんなわけで、proもconもあるLateral Scapular Slide Testですが、これからやる場合にはPosition #3は従来の90°肩外転、ではなくて、90°のScaption + 1kgの重りで行こうかな!と思っています。ちょっと実験プロトコル変えにゃいかんな。書き直してこよーっと。



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それから、これは完全におまけなんですが、移動時、空港でぽけりと読んでいた文献4 に"organ weight distribution"というフレーズがあっておお!と思いました。人体の胸郭・腹部に位置する臓器についての文章だったのですが、なるほど、左右の臓器の重さのバランスがどこでどっちに偏っているかを考えたことはありませんでした。Upper quadrantsでは、右肺に3つのローブがあり、重さとしては比較的軽いのに比べ(450g程だそうです)、左は左肺のふたつのローブ(400g)と心臓(300g)が座っており、重量があります(右450g vs 左700g)。Lower quadrantsでは逆に、どでかく重たい肝臓が右に陣取っており(1.5kgもあるんだそうです)、upperでの重量差を補うどころか、引っ繰り返したるー、とでも言うかのようにバランスを取っています。つまり、上から下に目線を移行していくにつれ、重心が左から右にシフトする様子が見て取れるというわけです。

私が読んでいた文章は、ここからいかに人体が右足荷重にバイアスがかかるよう作られているのか、という話になっていくのですが、臓器の重さをappreciateし直すことでここらへんのコンセプトが再整理され、スッと頭に入ってきて感動しました。いやー面白かった。

b0112009_13221649.jpgちなみにこの文章はとある教科書の一章(←)なんですが、「PRIのコンセプトと脊柱側弯症」について実によくまとめられています。この冬にもまた日本でポスチュラル・レスピレーション講習会を開催させていただきますが、PRIジャパンが「マイオキン講習の事前履修を強くお勧めします」と言っている一方で、初めてPRI講習取ります!というチャレンジャーな参加者さんがポスチュラル講習に毎回いるのも事実です。今回ももしそういう方がいらっしゃるとしたら、この教科書(オープンアクセスですので、どなたでも無料・自由にダウンロード可能です)を事前に読んでから講習にいらっしゃると理解が早いかもしれません。英語ですけれど、非常に読みやすい文書だと思います。お勧めです!

1. Kibler WB. The role of the scapula in athletic shoulder function. Am J Sport Med. 1998;26,2:325.
2. Shadmehr A, Azarsa MH, Jalaie S. Inter- and intrarater reliability of modified lateral scapular slide test in healthy athletic men. Biomed Res Int. 2014;2014:384149. doi: 10.1155/2014/384149.
3. Shadmehr A, Sarafraz H, Heidari Blooki M, Jalaie SH, Morais N. Reliability, agreement, and diagnostic accuracy of the Modified Lateral Scapular Slide test. Man Ther. 2016;24:18-24. doi: 10.1016/j.math.2016.04.004.
4. Henning S, Mangino LC, Massé J. Postural restoration: a tri-planar asymmetrical framework for understanding, assessing, and treating scoliosis and other spinal dysfunctions. In: Bettany-Saltikov J, Schreiber S,eds. Innovations in Spinal Deformities and Postural Disorders. London, UK: InTech; 2017.

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  # by supersy | 2017-11-26 22:30 | Athletic Training | Comments(0)

ビタミンCに風邪の予防効果・回復効果はあるのか。

風邪がっ!治らないんですよっ!ズルズルズルズル治りきらないまま、かかり始めからもう一か月以上経ちますわ。睡眠に気を付けたり、休める時はスパっと休んだりしてるつもりなんですけど、なんででしょ?もう歳ってことかな。ちょっとしたかすり傷も痕が残るようになっちゃったし、免疫機能、回復機能が落ちてるのは残念ながら近年身に染みて実感しております。
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ところで、風邪にはビタミンC!とよく言われたりしますね。免疫機能を助けると。実際風邪の引き始めにビタミンCサプリメントをせっせと飲んでる人を見かけるのも珍しいことではありませんし。…しかしながら私はサプリメントや薬の類がもともとあまり好きではなく、積極的にわさわさ取る方ではないので(少し補足すると、folic acidやomega-3など、取っておきたいと感じるサプリはいくつかあるのですが、アメリカではサプリメントは全くFDA規制が及ばない、どれに何が入っているか全くわからない闇鍋業界なのです)、今まではどちらかというとそういう人を冷ややかな目で見ていました。効くわけないじゃん(むしろ腎臓に負担かけてるだけじゃん)、と思っていたわけですね。しかし、よく考えたらそういう分野の論文をちゃんと読んだわけでもないので、「ビタミンCのサプリメントが風邪の予防・回復には効かない」というのは私の偏見でしかありません。一度くらいはちゃんとエビデンスを見てみないといけないな、ということで、ちょっとレビューしてみました。
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手始めに全体像を掴むため、最新(2013年)のCochrane Libraryによるメタ分析論文1を読んでみました。合わせて29(総患者数11,306人)の研究をレビューし、RRを計算した結果のまとめでは、1) 一般の人がビタミンCを摂取することによって起こる風邪の予防効果はRR 0.97 (95%CI 0.94-1.00)でほぼ全く効果なし; 2) マラソンランナーやスキーヤー、兵士など普段から身体を酷使する人らがビタミンCを摂取した場合の風邪予防効果はRR 0.48 (95%CI 0.35-0.64)で大いに効果あり; 3) 前もってビタミンC摂取をしておくと、風邪を引いている期間が成人では8% (95%CI 3-12%)、子供の場合は14% (95%CI 7-21%)短くなる傾向にあり、特に子供が多めのビタミンCを摂取した場合(一日当たり1-2g)、その効果はより大きくなる(18%); 4) 風邪の深刻度(severity - 仕事や学校を休まなければいけなかった日数や、symptom severity scaleなどによって推し量られる)も、普段からビタミンCを摂取している患者のほうがより軽い風邪にかかるのみで済んだ…などの報告がなされています。ほうほうほう。面白い。しかし、5) Therapeutic Vitamin C、つまり風邪の症状が出始めてからのビタミンC摂取に関してはまだまだ研究の数も少なく、結果にもバラつきがあって一貫性ある効果は今のところ認められていない…と言う感じなんだそうです。

副作用はないのか?というのも気になるところなんですけど、2490人のhigh-dose (≧1g/day)のビタミンCを取った被験者と2066人のプラシーボ薬を取った被験者を比較すると、「副作用発症」率は5.8% vs 6.0%と大差なし。つまり「気のせい」の範囲内ってことですね。深刻な副作用は全く報告されていないそうです。

…となると、日常的なビタミンCサプリメントの摂取は、1) 風邪予防には普段から身体を酷使していなければ効果はないが、2) 風邪の期間や深度を下げてくれる効果はそれなりに期待できる、且つ3) 深刻な副作用はない、ということが言えそうです。ほぉー!
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もうちょっと新しいオリジナル研究論文はないかな?と調べていて見つけたのがこちら(↑)。2 2014年発表のrandomized, double-blind, placebo-controlled study。サクッとまとめちゃいますね。

30人の健康で喫煙歴のない、年齢幅18-35歳の男性を対象に行われたこの実験。これらの被験者は現在ビタミンCサプリメントを摂取していない、且つ普段食事で取っているビタミンC量が“marginal (決して多くない、基準値ギリギリくらい)”であることが条件で、血液検査でビタミンC濃度が45 μmol/Lであることを確認した上で実験を行ったそう(血液中のビタミン濃度ってどれくらいのスパンで変化するものなのだろう…食べたものや飲んだものの影響をモロに受けやすいなら、これは『普段からビタミンCをあまり摂取していない』という事実を確認するのに十分なテストなのか?という疑問は浮かびます。どちらにせよ私自身あまり詳しくない分野なので、どうして45 μmol/Lを閾値としたのかなど、個人的にはもう少し説明してほしかったです)。

んで。ランダムにビタミンC組(n = 15, 平均23.0±3.1歳)とプラシーボ組(n = 15, 平均23.2±4.3歳)に分け、風邪が流行りやすい1-4月の期間に、各被験者が「ビタミンC (500mg x 2 tablets/day)もしくはプラシーボ錠剤 (ビタミンCサプリメントと見た目は全く同じ)のサプリメントを朝と夕方の一日二錠摂取を毎日8週間続ける、というデザインで、被験者は1) 実験期間中フルーツジュースを飲むことは禁止され (self-reportのみ?どうやって確認を取っていたのかの記述はなし。果物の摂取そのものについては記述が無かったので、これについては制限は無かったと思われる)ていたほか、2) Wisconsin Upper Respiratory System Survey-21(5点以上が複数日続いたら『風邪』と判断)を毎日、3) Godin Leisure-Time Exercise Questionnaireとshort food frequency measureを毎週記録していました。実験開始から4週間と8週間(実験終了時点)にビタミンCとヒスタミンの血中濃度も計測されていたとのこと。

プラシーボ組15人のうち2人(13.3%)が途中drop out(1人は指示通りに錠剤を飲まないnon-compliantな被験者、もう一人は実験開始直後に回復に24日かかる酷い風邪を引いたため)したので、最終分析に含まれたのはビタミンC組15人とプラシーボ組13人(元々サンプル数が少ないうえに13.3%のdrop out rateは少し高いかと。どうしてITT分析にしなかったのだろう?)。

んで結果です。ビタミンC組では4週間(41.3±10.9 vs 30.8±11.4 μmol/L; p = 0.02)と8週間(41.2±10.4 vs 33.9±10.9 μmol/L)時点でプラシーボ組よりも著しく高い血中ビタミンC血中濃度が確認された、というところはまぁ驚くことはないかと思います。食事ログによればグループ間での食事の質、食事によるビタミンC摂取量に大差はなかったそうですが、こういったログのcompletion rateが何パーセントなのか、それから錠剤をどれほどきちんと指示通りに飲んでいたのか、というcompliant rateなどについては全く記述がありません。ここらへんが雑だとせっかくのrandomized, double-blind, placebo-controlっぷりが台無しになってしまうと思うんですけどねー…。
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実験期間中の被験者の平均運動量については「ビタミンC組のほうが少しばかり活発に運動できた!」ということが書かれているんですが、p値が最小でも0.10ですし、そもそもbaselineでのMET数値がグループ間で著しく違った(57±24 vs 38±22でビタミンC組のほうがそもそも活動レベルが多い人たちが集まっていた; p = 0.03)ので、実験期間中の比較自体が成立しなくなります。Treatment effectsが週数を増すごとに増えているのも見受けられるんですが、95%CIは0をまたいでおり、統計的に決定的ではないことがわかります。ここは、筆者が強調しているほど重要ではない、trivialなfindingであると私は判断します。
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風邪を引いた人数、回数、深刻度や日数なんですが、これも上の表にあるように、統計的に有意な差が見られたのは「各グループ内で風邪を引いた人数(7 vs 11人; p = 0.04)」のみ。RRは0.55 (95%CI 0.33-0.94)と、うーん、イマイチピンとこないというか、ギリギリ効果があるんだかないんだかって結果というか…。風邪を引いてしまったあとの発症期間の比較は統計的にmarginalな違いがある、といってもいいとは思うんですが(2.2±1.4 vs 5.4±4.5日; p = 0.06)、そしてこれは平均してビタミンCを日常的に摂取しているヒトは、摂取していないヒトに比べて、風邪を引いても約3.2日回復が早い(p = 0.06)という風にも言い換えられるんですが、うーん、他の計測値で特筆すべきことはありませんね。

結論としては、「普段十分にビタミンCを摂取できていない若年男性にはビタミンCのサプリメント摂取は活動レベルを上げ、風邪にかかっている期間を短縮させる効果がある」と言い切る形で述べられているんですが、個人的にはタイトルや結論で言われているほど、飛び上がって興奮するような効果ではないと感じます。marginalって感じですよね。より大きいサンプルサイズで、しっかりサプリメント摂取ログも提出させ、compliance rateも推し測った上でもう一度検証を行ってほしいなぁと思いますね…もちろん、女性を被験者とした研究も見てみたいです。

…そんなわけで、今回こうして複数の研究を読んで、「なるほど、確かにビタミンCの日常的摂取は副作用も無いし、風邪をもしかしたら薄っすら予防、そして発症しても軽度に抑える効果はあるのかも」という風に認識しなおせるいい機会にはなったんですけど、よーーーく考えたらエビデンスで実証されつつあるのはそもそも「風邪を引く前からビタミンCサプリメントの摂取している人達」に対する効果であって、「風邪を引いてからのサプリメント摂取開始 (= therapeutic supplementation)」に関してはほとんどエビデンスがないのが盲点でしたっ!もうすでに風邪をひいてしまっている私にはあてはまらない内容だったので、そこは反省して、とりあえずアパートの部屋を気合い入れて今週末に徹底的に掃除してやろうと思います。今週中には治したるー!

1. Hemilä H, Chalker E. Vitamin C for preventing and treating the common cold. Cochrane Database Syst Rev. 2013;(1):CD000980. doi: 10.1002/14651858.CD000980.pub4.
2. Johnston CS, Barkyoumb GM, Schumacher SS. Vitamin C supplementation slightly improves physical activity levels and reduces cold incidence in men with marginal vitamin C status: a randomized controlled trial. Nutrients. 2014;6(7):2572-2583. doi: 10.3390/nu6072572.

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  # by supersy | 2017-11-16 21:00 | Athletic Training | Comments(0)

ゴミはゴミ箱へ、舌は“スポット”へ:舌のポジションが下肢の筋肉の出力に及ぼす影響

もう4年以上も前に「口を休めている時の歯と舌のポジション」について記事を書いたことがありましたね。

顎の話をしよう:Having A Dentist in the Sports Medicine Team (2013年5月23日)
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今日のトピックはあっかんべー、ではなくて、舌についてです。舌は、咀嚼、嚥下、呼吸、そして「喋る」能力にも深く関わる奥の深い器官で、その機能の全てがCNSによって司られている(CN V-咀嚼、VII&IX-味覚、X-嚥下・発声、XII-舌の動き, etc)ことからも器官としての重要性が伺えます。

…で、一方で運動時に筋肉がどれだけ出力を上げられるかも、CNSが最終的な決定力を持っているわけですよね。舌のトレーニングによってCNS活性に変化が起こる、という過去の報告1 をふまえて考えると、舌の状態に影響を受けたCNSが、筋活動にも連鎖的に影響を及ぼす可能性は十分にあるわけで。これを研究として検証してみよう!というのが今回紹介する記事2 の概要です。
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b0112009_07570573.jpg健康な男性被験者(平均年齢26.6±4.5歳)18人が対象で(Pilot studyなので被験者は少なめですね)、条件はレクリエーショナル・アスリートであることと、循環系疾患、神経系疾患、整形外科外傷がなく、試験前24時間以内にアルコールやカフェインを、実験前4時間以内に食べ物・飲み物を一切摂取していないこと。加えて、概日リズム(生物体に本来備わっている一日の周期リズム)の影響を受けないよう、どの被験者も一日のうち同じ時間に実験を行うようにしたんだそう。丁寧に色々調整してる印象ですね。

デザインとしては、舌のポジションを少しずつ変えながら、Biodexを使って膝の伸展・屈曲の最大torqueを図る…と言う感じなのですが、サッカーボールを蹴る足を「利き足」として、利き足のみをテストしたそう。舌の異なる3種類のポジション(A: Middle Position-舌を前歯に押し付ける、通称MID; B: 口蓋上部のPalatine Spotと呼ばれる“スポット”に軽く触れる、通称UP; C: 下顎歯列弓の後ろに触れる、通称LOW)の影響を検証するために、各被験者それぞれ3日間のテスト日(疲労等を防ぐために中2日)を設け、ランダムな順番(人によってはUP→LOW→MIDとか、MID→LOW→UPとか)でテストを行ったそうです。

どの被験者も、スタンダード化されたウォームアップ(10分間のバイク、5分間のアクティブ・ストレッチ)を同様にこなし、最大torque計測中に唾などを飲み込んでしまうと舌のポジションが微妙に変わってしまうため、実験中の飲み込みは禁止。細かいところまで徹底されていますねー、よくできてる。

…で。結果がマジヤバイです。百聞は一見に如かずなので、とりあえずTable 1をご覧ください。

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もう、完全に一貫してUP(B)ポジション(赤枠)がことごとく勝利してるんですよ!MAX peak torqueもMAX workも加速も減速も、全ての計測において、舌が“スポット”に当たっているときが3つの異なるポジションのうちもれなく最も優秀だったわけです(*はp<0.05, ♰はp<0.01)。計測値の信頼度も非常に高く、ICC = 0.952-0.987とこれも文句ありません。

この研究の結論は、「舌のポジションは下肢の出力に多いなる影響を及ぼす」、もっと正確に言うと、「舌を“スポット”に当てておくと、下肢の出力が上がる」ということです。被験者の数こそ少なかれ、これだけ信頼性の高い数値が出たなら、被験者の数を増やしても再現性は高いのではと個人的には推測します。もっと大きいサンプルでもやってほしいし、上肢の出力も検証してほしい…!めっちゃ興味ある…!

こうなってくると、Palatine Spot(日本語では通称“スポット”で通じるみたいです)って何者なんだ、って話なんですけど、これは論文には“The palatine spot is a place in the mouth ceiling in correspondence of the palatine bone between the inter-dental papilla of the upper front teeth and the first fold of the palate (p.318)”と説明されていて、つまるところ、口蓋皺襞前方部の比較的平らな部分を指します(↓下図参照)。ええっと、やってみたい方は実際に舌を動かしてみてほしいんですけど、上前歯のすぐ後ろの歯茎部分にザラザラした突起がありますよね?そのすぐ後ろは逆に凹んでいて、ツルツルとなだらかな表面になっているはずです。そこのことなんです!一般的には、「ヒトが口と顎を休めているときは、舌はここに収まっているべきである」と言われる場所です。
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この「舌の収納場所」は興味深いことにTrigeminal nerve (CN V、三叉神経)のbranch (神経枝)があり、多くのexteroceptors (外受容器)集まっていると言われています。ここに舌を置くと、ゼルダの伝説の謎解きのように、カチッと何かのスイッチが入るんですかね。なんかこうして絵を見ていると(↓)、“スポット”に舌をあてることで、三叉神経がまるで電気回路のようにclosed loopを作りますもんね。確かに、自分がここにいるという知覚を確立するには十分なのかもしれない…。口蓋や歯科の知識はまだまだ乏しいので、これ以上の話は私には今日の時点ではできませんが、どちらにしても興味深い発見であることは確かです。どなたか、Palatine Spotについてもっとよく知るために良い論文などご存知でしたら教えてくださいー。
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1. Kothari M, Svensson P, Jensen J, et al. Training-induced cortical plasticity compared between three tongue-training paradigms. Neuroscience. 2013;246:1–12.
2. di Vico R, Ardigò LP, Salernitano G, Chamari K, Padulo J. The acute effect of the tongue position in the mouth on knee isokinetic test performance: a highly surprising pilot study. Muscles Ligaments Tendons J. 2014;3(4):318-323.

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  # by supersy | 2017-11-15 18:30 | Athletic Training | Comments(0)

異常と普通の境目: 画像診断の進歩による弊害、「Overdiagnosis」について考える。

風邪を連続で引いてあまり元気がなく、書こう書こうと思っているブログ記事もまだ終えていないんですが、そちらのアップはまた今度にすることにして、今日は久しく絶対に読んでおきたい論文を見つけたのでこの機会にまとめておきます。こういうのを目にすると途端に元気が湧き出てきますっ。
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もうタイトルからしてうほうほです!とにかく読んでみましょー。
画像診断の技術は年々目まぐるしく進歩していますが、だからといって見えるものをいちいち全て文字通りに取る必要もないのかもしれません。私、小学生の時に徐々に視力が落ちてきて、初めて眼鏡を作って「これでどうでしょう」とそれをかけてもらったときに、眼鏡屋さんのお兄さんの顔に無数のシミが見えてぎょっとしたんですよね。その時に、ああ、ニンゲン見えればいいってもんじゃないのね、と小学生ながらに思ったりしたんですけど…(お兄さんごめんなさい)、同じことが近年の画像診断でも言えるのではと思うんです。

さて、この論文の冒頭1では1) SLAP損傷と診断される患者の数が年々増えていること、2) そのうち、SLAP損傷手術を受ける患者の大半が「中年(40-65歳)」であることを挙げ、2-5 これらの手術が全て高い成果を上げているならばまだしも、現実はそうではない、3,6-9 であればこそ、患者の訴えている症状とSLAP損傷の存在との因果関係がどれほどあるのかをまず知る必要があるのでは、と訴えています。これは、尤もです。

で。この研究は53人(45-60歳、平均51±4歳、男性26人、女性25人)の、一度も肩を怪我した経験がなく、現在も肩の痛みが全くない(VAS=0)健康な被験者を対象に行われました。これらの被験者はまず「肩が健康である」ことを確認するために、3名の担当医師のうちひとりによるスタンダード化された肩の診察を受け(ROM, RC Strength, Palpation, Apprehension Test, Jerk Test, Anterior and Posterior Load and Shift, Sulcus Sign, Active Compression Test, and Crank Testなど)、それらのfindingが全て正常であることが実験の参加条件だったようです。SLAPを除外するのに選ばれたのがActive Compression TestとCrank Testなんですが、私はこれは実にいいセレクションだと思っています。Rationaleは具体的に書かれていませんが、除外するためには統計的にこのふたつが比較的優秀と言っていいと思うんですよね。確定って言われたらYeargason TestとAnterior Slide Test入れたくなるところですけど、今回の目的は除外っすからね。個人的には、(どうせAnterior Apprehensionをするなら)Biceps Load Test入れるのもアリかな?と思うけど。

さて。そんで「両肩共に健康である」条件を満たした被験者の肩を片方ランダムに選び、Non-contrast MRIを撮りましたよと。これはContrastじゃあかんかったのかな?その画像をこの研究の目的を知らず、患者のbackground(年齢や性別など)を知らない筋骨格専門のトレーニングを受けた2年目と4年目の2名のRadiologistさんにそれぞれ読んでもらって、その結果を検証しました、というのがこの研究の流れです。MRIの機械とviewは全く同じものを53人の被験者全員に使ったようです(私はこのあたりは良くわからないのですが、より高い画質でMRIが取れるとされる1.5-T scannerという機械だったそうです)。

で、結果へ飛びましょう。
Radiologist #1は53人中38人(71.7%)を、Radiologist #2は53人中29人(54.7%)を「Superior Labral Tear」ありと判断。k = 0.41(p = 0.001)というinterrater reliabilityはカテゴリーとしてはギリギリmoderateなんですけど、正直言って思ったより低いですね。同じMRI画を画像を見ても53人中9人(17.0%)の被験者でSuperior Labral Tearがあるかないかの判断が食い違うというのはなんとも…(文章中のTable 2は細かく見ると結構衝撃です)。自分が患者だったら、LabralとかRC損傷アリと言われてもsecond opinion聞きに行きたくなっちゃうなぁ…。

しかーし!驚くべきは、低く見積もっても、肩の怪我の既往歴も痛みもなく、診察の所見でも全く異常が見られない健康なヒトでも、その半数以上(≧54.7%)にSuperior Labral Tearが認められたという事実です。その他にも、Anterior Labral Tearは53人中3人(5.7%)、Posterior Labral Tearは少なくとも53人中8人(≧15.5%)で確認できたというのだから、これもびっくりです。つまるところ、「歳を取れば関節唇は自然と衰えていくものである (= A superior labral tear confirmed by MRI may need to be considered as one of the normal variants associated with aging」、言い換えれば、「肩の痛みを訴えてきた中年患者のMRIでSuperior Labral Tearが確認できたとしても、それが患者の主訴と直接因果関係があるとは限らない (= The presence of a superior labral tear in MRI may or may not be relevant to the patient's chief complaint」ということになります。関係が無いかもしれないものに対してメスを入れるというのは、他に疑わしきものがなければ確かに理解できない思考ではないのですが、しかし少しばかりぞっとする、怖いアイデアのような気もします。他の選択肢をexhaustする前に「SLAPが認められますね、手術しましょう」と医師に言われたら…私は「ちょっと待ってください、このSLAP損傷と私の肩の痛みが直接関係しているという根拠はどこにあるのですか?(How do you know it's clinically relevant to my pain?)」と聞きたくなってしまうかもしれません。医者にしたら嫌な患者でしょうけれど、それでも患者として医師に説明を求める権利はありますよね。喧嘩腰にオラオラと質問したいのではなくて、純粋に医師の考える根拠を聞いて、自分でも納得した上で手術を受けたいのです。「だってたぶん関係あると思うから」では、目をつぶって銃を打っているようなもんじゃーありませんか。当たればいいけど、当たらなかったら…?

うーん、冒頭に戻ってしまうんですけど、科学が進歩したが故に、見えなくていいものが見えるようになってしまった、過剰診断 (overdiagnosis)という現象が起こるようになってしまった、というのはあると思うんですよね。私は肩のSLAP、腰椎の椎間板ヘルニア、股関節の関節唇損傷、膝のChondromalaciaなんかは、「知らないほうがいい、見えないほうがいい『損傷』トップ4」だと勝手に認識しています。特に中年患者の場合、『異常』が見られても、それが『正常 (normal variant)』であるケースは、かなりあるんじゃないかと…。私みたいに「なんでなんで」とズカズカ図々しく聞いちゃうニンゲンが患者ならそれもまだいいんでしょうけど、逆に例えば医療従事者側が「これは画像診断では認められたけど、今回の患者の主訴とは関係ないだろう」と判断しても、患者が「えっでもこれなんですか、やばいですよね、これやばいやつですよね!」と過剰反応してしまったら、事態はさらに悪化するかもしれません。例えば、今回の被験者全員に、「実はMRIで貴方の肩には関節唇損傷が認められましてね…」と素直に結果を伝えたら(実際伝えたかどうかは分からないですが)、彼らはどう思うのでしょう?全く痛みも異常も見られない、「健康」だったはずの肩が、彼らの中で「損傷のある肩」に変わってしまうかもしれません。病は気からと言いますが、損傷があると分かって送るこれからの生活の中で、「あれ?なんか肩が痛い…気もする?」「なんかパキって言った?これも損傷のせい?」と「病」を作り出してしまう可能性だってあるのです。そうなったら、治療すべきは関節唇損傷なのか、「被害者意識」なのか、「損傷がある」という認識なのか?うーむ?どんどんややこしくなってきますね…。

次は同じ研究を大学スポーツ選手やプロスポーツ選手でやってほしいですね。年齢が若い分、もしかしたら「損傷」が認められる頻度は落ちるのかもしれませんが、それ以上に肩を使い込んでいるのも事実ですから…。Overheadスポーツとそうでないスポーツにわけて…、いや、各スポーツとレベルごとに細かく分けて、massive MRI studyしてほしいですね。お金めっちゃかかりそうですけど、かなり興味深い結果になるはず!

1. Schwartzberg R, Reuss BL, Burkhart BG, Butterfield M, Wu JY, McLean KW. High prevalence of superior labral tears diagnosed by MRI in middle-aged patients with asymptomatic shoulders. Orthop J Sports Med. 2016;4(1):2325967115623212. doi: 10.1177/2325967115623212.
2. Onyekwelu I, Khatib O, Zuckerman JD, Rokito AS, Kwon YW. The rising incidence of arthroscopic superior labrum anterior and posterior (SLAP) repairs. J Shoulder Elbow Surg. 2012;21:728–731.
3. Weber SC, Martin DF, Seiler JG, Harrast JJ. Superior labrum anterior and posterior lesions of the shoulder. Incidence rates, complications and outcomes as reported by American Board of Orthopedic Surgery part II candidates. Am J Sports Med. 2012;40:1538–1543.
4. Zhang AL, Kreulen C, Ngo SS, Hame SL, Wang JC, Gamradt SC. Demographic trends in arthroscopic SLAP repair in the United States. Am J Sports Med. 2012;40:1144–1147.
5. Vogel LA, Moen TC, Macaulay AA, et al. Superior labrum anterior-to-posterior repair incidence: a longitudinal investigation of community and academic databases. J Shoulder Elbow Surg. 2014;23:e119–e126.
6. Neri BR, ElAtrrache NS, Owsley KC, Mohr K, Yocum LA. Outcome of type II superior labral anterior posterior repairs in elite overhead athletes. Am J Sports Med. 2011;39:114–120.
7. Park MJ, Hsu JE, Harper C, Sennett BJ, Huffman GR. Poly-l/d-lactic acid anchors are associated with reoperation and failure of SLAP repairs. Arthroscopy. 2011;27:1335–1340.
8. Sassmannshausen G, Sukay M, Mair SD. Broken or dislodged poly-l-lactic acid bioabsorbable tacks in patients after SLAP lesion surgery. Arthroscopy. 2006;22:615–619.
9. Stetson WB, Snyder SJ. Clinical presentation and follow-up of isolated SLAP lesions of the shoulder. Arthroscopy. 2011;27:e30–e31.

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  # by supersy | 2017-11-14 21:00 | Athletic Training | Comments(0)

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