「ほっ」と。キャンペーン

Positional Release Therapy講習へ行ってきました。

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今週末はダラス・フォートワースで、Positional Release Therapy Institute (PRTi)によってオファーされているLower Quarter (下肢) Positional Release Therapy (PRT)の講習会に参加してきました。字面はPRIと似ていますが、全く別の団体による、別内容の講習です。ストレイン・カウンターストレインや、ポジショナル・リリース・セラピーといえばご存知の方も少なくないと思いますが、私が今回学んできたのは、Dr. Jonesが提案した1964年のオリジナルなものでも、かの有名なDrs. D'Amobrogio & RothやDr. Chaitowが受け継いだものとも少し異なり、Dr. SpeicherというPositional Release Therapy Instituteの創設者が少しツイストを加えた、時系列的には最新のものです。Dr. Speicherは私の博士課程の授業も担当してくださった、文字通り私の「師」でもあり、2年前に彼の授業を履修したときにはこの方のエビデンスの読み込み具合、そしてNeuroscienceへの専門性と情熱に文字通り圧倒されました。それに反映されるように、彼の授業は、博士課程の間で最も刺激的で、最もしんどい(褒め言葉です。朝の2-4時まで寝かせてもらえないくらいヘビーな課題が次から次へと出ました)ものでしたし。そういう先生とほど、仲良くなり後々付き合いも続くものです(笑)。

PRTに以前から興味がなかったわけではないのですが、「Tender Pointを探して圧迫して、その筋肉を最短縮位に持っていって90秒待つんでしょ?難しい技術ではないし、解剖学と神経学の知識があれば臨床で欲しい成果を出すのに十分なレベルでは使えてるから、講習を取るまででもないかな」と考えていました。しかし、Dr. Speicherとこないだの学会でばったり会ったときに直接施術してもらって「な、なんじゃこりゃぁぁぁぁ!私が知っているPRTとは全く違う!」と衝撃を受け、以来、彼の教えるPRT講習には早いところ参加しなきゃいけない!と決意したところだったのです。今回の講習はタイミングも場所も完璧だったので、やったぜふらりと行ってきました。

彼のアプローチは1) 筋肉や靭帯、腱やfasciaにあるtender pointを触診によって見つける (同構造内に複数ある場合は最も痛みのレベルの高いところを治療箇所とする); 2) その個所を「圧迫」するのではなく、患部の上に「軽く」指を置いてfasciculation(線維束性攣縮、ものすごく微細な組織の揺れ)を感じながら、その揺れが最大になるポジションまで患部を動かす。このとき、目指すポジションは基本的には組織の短縮位であるが、個人差があり、必ずしも最大短縮位とは限らない; 3) 患者に深呼吸をさせる。このとき、呼気と吸気それぞれのfasciculationも感じながら、もし呼気の場合にfasciculationが増える場合には空気を吐ききらせた後に、吸気にfasciculationが増える場合には吸い切らせた後に数秒ポーズさせる; 4) fasciculationが消失するまでそのポジションを保つ(多くの場合は90秒かからない)…といった感じです。文字で書いても「は?」という感じかもしれないので、Dr. Speicherのデモ動画をここに貼っておきます(僧帽筋上部の治療動画です)。


PRTの根本にあるセオリーは比較的シンプルで、多くの筋肉などの「張り」は実際に組織が拘縮を起こしているというよりは(もちろんその可能性も無くもないですけれど)、神経反射の影響が最も強いのではと睨んでいるわけです。つまり、特定の筋肉の過活動によって緊張が生まれ(strain)、その対となる筋肉も引っ張られて緊張が生まれ(counterstrain)、stretch reflexの状態が慢性的に続いた結果、muscle spindleの閾値が下がってhyperirritabilityが起き、痛みと張りが取れなくなってしまっている、というわけ(このとき、筋緊張によって局所的に血流も遮られるため、hypoxiaによる痛みと、ATP生産不可によるenergy crisisも付随します。これらは状況を悪化させる要素にしかならないでしょう)。なので、この解決はストレッチ(このセオリーではむしろ悪化しますね)でもsoft tissueを無理やり動かすことでもなく、まずは筋肉を短縮位に持っていってGamma Gainを減少させ、muscle spindleの閾値を下げてやればいいのでは?というのがこのアプローチの軸なのです。

このコンセプト全てに私が賛同するかは別として(大きな目で見ればまだまだ犬が自分のしっぽを追っているように感じるのですが)、私がこのアプローチの最大の魅力だと感じるのはその即効性と「患者が痛みを感じない」点です。痛いところをぐりぐりやるのに達成感を感じる施術者というのも世の中にはいるのかもしれませんが、私は「患者が痛みを感じずに治療できればそれに越したことはない」と考えています。Dr. SpeicherのPRTが追っているのはあくまで「fasciculation」であり、「圧痛」ではないので、痛みも無くものの1分程の施術で患者の痛みが(10段階の)9から0に落ちたりする様は爽快以外の何物でもありません。
(例えば痛みのレベルが高すぎて、PRIエクササイズなどをしようにもとにかくうんともすんともリラックスができず、交感神経優位になりすぎている患者さんに一発こういうテクニック挟むと、お互いのアプローチを補足・補完し合えていいんじゃないかなんて思うわけです。これはDr. Speicherも賛同しています)
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しかしねー、fasciculationが最大になるポジションを探すのが、本当になんというか、言うは易く行うは難し…。Dr. Speicherはさすがにそこがずば抜けてうまいんですけど、私はまだまだ。それでも、2日目の終わりの頃にはそれまで6から4くらいにしか減らなかったパートナーの痛みが7から0、6から0まで落とせるようになりました。彼みたいにもっともっとうまくなりたけりゃ、練習するよりほかありません。今回は下肢の授業でしたが、今度は上肢も出たいな…。頭蓋の奴が一番興味あるなー。
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そんなわけで刺激的で楽しい週末でした!Thank you Dr. Speicher for an awesome course!

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  # by supersy | 2017-01-17 22:00 | Athletic Training | Comments(0)

月刊トレーニングジャーナル2月号発売 & 脳震盪診断指標としての聴覚テスト

とある講習に参加するため、今週末はダラスに来ています!久しぶりにPRIではない講習で、今日一日目が終了したところです。これね、ずっと「機会があれば取ってみたいなー」くらいの興味があった講習なんですが、ちょっと今回ばかりはどうしても見逃せない理由があったのと、近場+学期が始まる直前の余裕が(まだ)ある週末というタイミング諸々の良さも重なったので思い切って今回初めて来てみました。やっぱり新しいことを学ぶのは刺激があっていいですね!これについての詳しい内容は、次回にまとめたいと思います。
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さて、月刊トレーニング・ジャーナル2月号が発売になっています!連載9回目の今回は「スポーツ障害予防」について書いています。この度、日本のEBP講習でも「予防医学編」を追加したばかりですが(自分ではこれ、なかなかの出来だと思っています)、ATの仕事の中でも一番軽視されがち、そしてサボっていてもバレないのが「スポーツ障害の予防」という分野かなと感じます。今回の記事では、どうして予防が重要なのか、そしてどういう風に現場での「予防」実践が可能なのかなどについて提案をしています。興味のある方はこちらからどうぞ。一部書店で販売していますがオンラインでも購入可能で、送料は無料だそうです。



では今回は手短に、本題です。月刊トレーニング・ジャーナルの昨年12月号で「脳震盪の評価・診断」についてまとめたところですが、この分野で新しい論文を見つけたのでさくっとまとめます(ちなみにこの論文もオープンアクセスです)。
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脳震盪の評価は多角的でなければならない、幾つものテストを組み合わせて行わなければならない…というのが現代の常識というかスタンダードですが、それでも「患者の報告(self-report)に頼らなくても良い、且つ『これさえやれば間違いない』という客観的な単独テストはないものか」という研究者のクエストは日々続いています。血液検査やNear Point Convergence (NPC)と呼ばれる視覚検査、dual-taskのバランスや歩行テストなどについてはトレーニング・ジャーナル記事でも言及していたように把握していたのですが、今回の論文1 は聴覚刺激とその処理能力についてです。ひゃー、これは知らんかった。
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「聴く」というのは、考えてみれば想像以上に複雑で高等な行為です。聞かなくていい「ノイズ」は無視され、必要なシグナルだけを意図的に拾い、取り込みながら、入ってくる音の強弱やProsody(韻律)に基づき、社会的な意味付けをし、文脈のある情報にconvertする…。この論文の著者らは、脳震盪の影響でこのプロセスの能力が落ちるのでは、そして、それを推し測ることで脳震盪の診断基準として使えるのでは、と提案しています。英語の原文では "...the auditory system may be sensitive to neurological insults that disrupt microsecond-level temporal resolution (p.2)"ということなんだそうです、ごく微量の情報処理の乱れもキャッチできるかも、ということですね。

さて、この論文で検証されたのはspeech-evoked frequency-following responses (FFRs)というものが脳震盪診断を推し測るのに妥当(valid)、且つ信頼性のある(reliable)バイオマーカーか、 ということ。もう少し細かく書くと、脳震盪と診断された子供の患者20人(男子6人、女子14人、平均年齢13.69歳)と、matched control group(健康な被験者20人、男子6人、女子14人、平均13.64歳)とを比較して、1) ふたつのグループのFFR値に統計学的に有意な違いは見られるか、2) 脳震盪の症状の深刻度(PCSS)とFFR値に関連性は見られるか、3) FFR値を元に、脳震盪の有無が判断可能か、4) 脳震盪から患者が回復すると共にFFR値も回復するか、について調べたそう。FFRというものを聞いたことが無かったので、何ぞや?と調べてみたら、「聴覚的刺激によって脳幹にどれだけの電位反応が見られるか」、つーのを計るものらしくてですね。様々な周波数の、ものすごく短い(40ms)音を聞かせてその反応を計測するそうで、つまるところ、どれだけ速く、正確に健全に聴覚刺激を脳でプロセスできるかという処理能力を数値化したもの、と捉えていいようです。

…で。この論文のすこぶる妙なのはMethodsがResultsの後にあるところ。結果(p.2)をいったん飛ばしてp.7にいくと、やっとMethodsセクションが出てきます。Methodsで気になるのが1) 被験者の特徴(Participants demographics)が非常に限定的にしか触れられていないという点(Table 1参照)、加えて、2) Inclusion criteriaが非常にシンプルで、これを読んだだけだとコントロールグループの被験者に脳震盪既往歴があってもオッケーということになるし、学習障害がある子も被験者に含まれてもいいことになるけれど、もうちょっと制限かけなくてよかったのかな?脳震盪患者は脳震盪を受傷してから平均26.7日経過していたということだけど、それってそこそこの期間ですよね。これは論文の最後にこの研究が行われたのがtertiary-care clinic settingだった、という記述があって少し納得したのですが、そうだとしたらそれはそれで、ほとんどの脳震盪患者は14日で『回復』すると言われていますから(今回の被験者は子供なので、もう少し長くかかるでしょうけれど)、脳震盪は脳震盪でもかなり重症のケースを中心に扱った研究ってことになりますね。こういうのはバイアスの素になりかねません。受傷後6-56日という広いrangeも気になります。これも「受傷から〇日以内」と制限してもよかったのでは、と個人的には感じます。あとは、3) 6人:14人で女子が多い(70%)ね、そしてあくまで子供が被験者だから、大人にこの結果は当てはまらないと考えたほうがいいね(大人と子供では脳震盪からの回復にかなり違いがあることは、もう言うまでもありませんね)、ということと、4) Power-analysisを行ったわけじゃないから、各グループ20人の被験者が適切だったかは分からないよね、しかも95% CI求めていないし、point valueの解釈には注意…ということを念頭に入れてデータを見ていきましょう。

そんなわけで、Methods(p.7)から戻ってきての、p.2の結果(results)です。私が重要だと思うものを偏見たっぷり個人的に抜粋します。

1) 脳震盪患者は、受傷していない被験者と比較して、約35%の聴覚刺激に対する反応の低下が見られ(p< 0.001, Cohen's d = 1.223)、特に反応する音のピッチ幅が著しく狭くなっていた(p = 0.009, Cohen's d = 1.14)。
Cohen's dが1を超えてくるのはすごいですね(= effect sizeがどでかい)。そうなると95% CI領域を見ても決定的なんだろうか、と推測はしたくなりますが、なんにせよ書いてくれていないので推測の域を出ません。

2) 脳震盪患者の中でも特に症状の重い患者は、FFR値は著しく低いという関連性が見られた(R2 = 0.548, p = 0.001)。
Correlationとしてはmoderate(中程度、≒0.6)というとこでしょうか。Outlierがどれくらいあったのか、マッピングされたものが見たいなぁ。

3) 言語刺激への反応開始・終了(onset/offset of sound)のタイミングは脳震盪の影響を受けてなかったにも関わらず(p ≥ 0.183)、脳震盪患者は特定の音に対する処理と反応が遅れる(p = 0.002)、という限定的処理能力低下が見受けられた。
時間にすると0.4msという非常に短いものらしいんですけど、脳神経界ではこれはオオゴトである、と著者は述べています。

4) 平均して脳震盪患者は健康な被験者と比較して聴覚情報のcodingにエラーが多く見られ、正確性が低下する(p = 0.011, Cohen's d = 0.841)。

(1)~(4)を繋げてみると、脳震盪を起こした患者の聴覚刺激に対する反応は、Neuro firing(神経的発火)のタイミングは正常でも、特定の音やピッチの取りこぼしがあり、その後の処理が追い付かず、結果正確性も低下してしまう…という感じでしょうか。取りこぼしがあったらそれを補いながらの「意味付け(make sense out of it)」が余計労力のかかるものになりそうっていうのはイメージが沸きます、ふむふむ、なるほど。

5) さらに、被験者の年齢、神経的バックグラウンドノイズ(聴覚刺激とは無関係な電気アクティビティー)などを考慮に入れてlogistic regressionを組み込むと、FFR値を元にこれが脳震盪患者だったか、健康な被験者だったか、言い当てることが可能
Regression Score = 0.596を閾値とすると、90% sensitivity、95% specificity、94.7% positive predictive value、90.4% negative predictive valueが取れるそうな。これだけ見るとImPACTやSACよりも優秀ですね。95% CIは知らんけど。

6) 20人の脳震盪患者のうち、11人(男子3人、女子8人)が一度目の計測から平均34.9日後にfollow-upに来て、FFR値を再度測定する機会があったそうですが(単純に考えて20人中9人のドロップアウト…45%のdropout rateは容認できるものではありませんが…、理由も不明…)、PSCCの著しい回復(p = 0.002)に比例するようにFFR値も大幅に改善(p = 0.031)、コントロール・グループのそれとほぼ一致するところまで戻ったそう。
つまり、FFR値を継続して計ることで、脳震盪からの回復っぷりを可視化することもできそうですよ、と。

そんなわけで、多少限定的な結果も見られたものの、聴覚の能力を推し測ることで患者の脳震盪の有無、深刻度とその回復をモニターすることができる可能性は大いにあるという結論が導かれていました。私はこの研究は様々なレベルで「統計的にもデザイン的にも問題は多く残る」、「一般化はまだ早い」、「実装までにはまだまだ残された壁は多い」と慎重に判断しますが、それでも脳震盪で聴覚にまで影響が及ぶというのは目から鱗が落ちる思いでした。これからのこの分野の研究にも注目していきたいと思います!


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  # by supersy | 2017-01-14 22:45 | Athletic Training | Comments(0)

女性医師 vs 男性医師?「死にたくなければ女医を選べ」は本当なのか

「死にたくなければ女医を選べ」日本人の論文が米で大反響

こんなYahooニュースの記事が目に入ってきたので、思わず元となっている論文(free full-text)を引っ張ってきて読んでしまいました。すごく面白かったので、この論文を読んで思ったことをまとめておきます。

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この論文1の第一著者、Dr. 津川友介はハーバード大学で研究されている日本人の内科医さんなんですね。だから冒頭の「日本人の論文で」、になるわけです。書き出しに、まずこんな内容のことが書かれています。

女性医師と男性医師では、そのアプローチに違いがある、ということは複数の研究で既に実証されていることなんだそうです。例えば、女性のほうがクリニカル・ガイドラインにきちんと沿った治療方針を打ち出したり、2-4 予防的治療に積極的だったり、5-12 patient-centeredなコミュニケーションを実践していたり、13-16 スタンダード化されたテストの実践が上手だったり、17 患者に対して心理社会的カウンセリングを提供したり15 するんですって。知ってました?私は知らなかった!今ままで仕事をしてきた数々のチームドクター達を振り返っても、総じてみると確かに…と頷けるところも多いです。

だがしかーし、こういった男女医師によるアプローチの違いが実際に患者のアウトカムにどういう影響を与えるか、という論文は存在しないことから今回の研究が生まれたそう。この研究チームが検証したのは、acute care hospitalに入院してきた患者の 1) 病院に入院してから30日以内の死亡数(30-day mortality)と、2) 退院した場合、退院してから30日以内に再入院をした件数(30-day readmission)で、それらについて女性内科医と男性内科医が治療を担当した場合における比較を行っています。なぜ30日という制限を設けたかについては言及されてません。なんでだろう?

ここまで読んで私が危惧したのは、『単純に結論づけられない、第3や第4の要素の影響が強いんじゃないかしら…。女性医師の数が増えてきたのはより近年と考えれば、男性医師のほうが総じて年齢も高く、経験もあるためにより難しい患者を任されることが多い、故に死亡率も必然的に高くなってしまうのでは?』ということだったのですが、そこはだてにハーバード大の名前を背負っていません。幾つもの観点から修正を加えた複数の分析を行うことで、こういったバイアスを極力減らしています。Module 1) 患者のcharacteristics(i.e. 年齢や人種など)に基づいた修正を加えた分析、Module 2) (1)に加え、同一の病院の女性医師、男性医師同士を比較した分析(病院によってはより重病の患者が集まりやすいなど、これもバイアスの元になることがあるため)、Module 3) (1)と(2)に加え、性別以外の医師のcharacteristics (i.e. 勤務年数など)に基づいて修正を加えた分析…という風に。さらに、最も臨床でよく見られるという8つの疾患(sepsis, pneumonia, congestive heart failure, COPD, UTI, chronic obstructive pulmonary disease, acute renal failure, arrhythmia, GI bleeding)に絞って行った分析と、各病気の重症度(illness severity)別に行った分析もあります。Methodを読んだところまででは、mass dataを上手に使った、丁寧にデザインされた研究だなぁという印象です。うーむ、いいですね。

さて、ではここから結果に飛びます。全Medicare(アメリカにある65歳以上の老人医療保険)患者からその20%を無作為に選んだ結果、1,615,855人の患者が内科系疾患で入院を余儀なくされ、58344人の内科医師(うち18,751人、32.1%が女性、39,593人、67.9%が男性)がその担当を担ったそうなんですが、このときの患者群の死亡率、再入院率はこんな感じ。
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このテーブル上部が「死亡率」なのですが、女性医師担当の場合の全体の死亡率は10.82% (95% CI 10.71-10.93%)だったのに対して男性医師が治療した患者の死亡率は11.49% (95% CI 11.42-11.56%)…統計学的に有意な(p < 0.001)差が認められました。再入院率(テーブル下部)に関しても同様です。15.01% (14.89-15.14%)と15.57%(15.49-15.65%)で、95%CIの幅を考慮しても決定的に女性医師が診た患者のほうが再入院率が低い(p < 0.001)という結果になっています。これは、Module 2、Module 3とより多くの要素を考慮に入れた分析でも変わりません(all p < 0.001)。

8大疾患別の分析も、女性医師が治療した場合のほうが死亡率、再入院率共に低いという結果は動きませんでした。ただ、統計学的に有意ではない結果も複数あったようです(↓下参照)。特に、sepsis (敗血症)、pneumonia (肺炎)、acute renal failure (急性腎不全)、arrhythmia (不整脈)患者は、女性医師に治療を担当してもらった場合、男性医師に比べてその死亡率が著しく減ったようです。興味深い…。
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これは、病気の重症度でも同様(↓)。ほとんど全てのカテゴリーで、女性医師のほうが死亡率、再入院率共に低い結果に。
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さて、では、結論としてどういうことが言えるか?
冒頭の「死にたくないなら女医を選べ」は少しばかりoverstatementですが、とりあえずこの研究からはこういう結論が導き出せそうです。
貴方がMedicare保険を持つ65歳以上の患者で、内科系疾患で入院を余儀なくされた場合、男性医師よりも女性医師を担当医に選んだ方が30日以内に死亡する確率は減り、退院から30日以内に再入院するリスクも減る…つまり、貴方がより快方へ向かう可能性は高まる、と。

どのくらいリスクが減るのか?文中にこんな表現がありました。
"Patients treated by female physicians had 0.95 times the odds of death (95% CI, 0.93-0.97; p < 0.001) and 0.96 times the odds of readmission (95% CI, 0.95-0.97; p < 0.001) compared with patients cared for by male physicians (E6)."
患者の抱える疾患、その重症度、患者の年齢や性別、人種、医師の経験年数などに関わらず、女性医師に治療してもらったほうが男性医師に診てもらうよりも死亡オッズが約5%(3-7%)、再入院オッズが4%程(3-5%)低くなるようです。これは、統計学的に有意なだけではく、臨床的にも大いに意味のある数字といってもいいのではないでしょうか。

さらに、こんな表記も。
"...we estimate that approximately 32,000 fewer patients would die if male physicians could achieve the same outcomes as female physicians every year (E7)."
つまり、男性医師が女性医師と同じだけのアウトカムが生産できるようになれば、年間あたり32,000人の患者の命が救える、ということまでも書かれています。この論文ではあくまで30日間の死亡率のみ扱っているので、このstatementは少しばかりストレッチかもしれませんが、「男性医師、もちょっとがんばりたまえよ!」と注意喚起するには面白い論議です。

いやー、実に面白い研究でした。これって、他の医療従事者、例えばATとかPT、OTにも当てはまるのかな…とか、色々妄想させられてしまいますね。Medicare患者に限定した結果であり、あくまで30日間のアウトカムを追ったもの、というlimitationを考慮しても余りある、噛みごたえのある統計群です。あえて疑問を上げるならば、やはり最初の「なんで30日縛り?」というところと、あとTable 1のPhysician and Patient Characteristics, by Physician Sexというところ、「どうしてp valueを計算して書いておかなかったのかな?」というところです。男女の医師の特徴の違い、そしてそれぞれの医師が見た患者の特徴の違いは数値化して比較していてほしかったです。

この研究はあくまでobservational studyであり、実際にどういったアプローチの違いが決定的となってこのアウトカムの差を生むのかという因果関係についてはまだわかっていません。しかし男女問わずお互いのアプローチの違いから学び合い、良いところは認め合い、盗み合いながら、患者のアウトカムをより上げていけるような治療を進めていきたいものですね。くどいですが、この研究はfree full-textですので興味のある方はぜひご自身でも読んでみてください。

1. Tsugawa Y, Jena AB, Figueroa JF, Orav EJ, Blumenthal DM, Jha AK. Comparison of hospital mortality and readmission rates for medicare patients treated by male vs female physicians [published online December 19, 2016]. JAMA Intern Med. 2016. doi: 10.1001/jamainternmed.2016.7875.
2. Kim C, McEwen LN, Gerzoff RB, et al. Is physician gender associated with the quality of diabetes care? Diabetes Care. 2005;28(7):1594-1598.
3. Berthold HK, Gouni-Berthold I, Bestehorn KP, Böhm M, KroneW. Physician gender is associated with the quality of type 2 diabetes care. J Intern Med. 2008;264(4):340-350.
4. Baumhäkel M, Müller U, Böhm M. Influence of gender of physicians and patients on guideline-recommended treatment of chronic heart failure in a cross-sectional study. Eur J Heart Fail. 2009;11(3):299-303.
5. Andersen MR, Urban N. Physician gender and screening: do patient differences account for differences in mammography use?Women Health. 1997;26(1):29-39.
6. Frank E, Dresner Y, Shani M, Vinker S. The association between physicians’ and patients’ preventive health practices. CMAJ. 2013;185(8):649-653.
7. Frank E, Harvey LK. Prevention advice rates of women and men physicians. Arch Fam Med. 1996;5(4):215-219.
8. Franks P, Bertakis KD. Physician gender, patient gender, and primary care. J Womens Health (Larchmt). 2003;12(1):73-80.
9. Franks P, Clancy CM. Physician gender bias in clinical decisionmaking: screening for cancer in primary care. Med Care. 1993;31(3):213-218.
10. Kruger J, Shaw L, Kahende J, Frank E. Health care providers’ advice to quit smoking, National Health Interview Survey, 2000, 2005, and 2010. Prev Chronic Dis. 2012;9:E130.
11. Lurie N, Slater J, McGovern P, Ekstrum J, Quam L, Margolis K. Preventive care for women: does the sex of the physician matter? N Engl J Med. 1993;329(7):478-482.
12. Smith AW, Borowski LA, Liu B, et al. US primary care physicians’ diet-, physical activity-, and weight-related care of adult patients. Am J Prev Med. 2011;41(1):33-42.
13. Bertakis KD, Helms LJ, Callahan EJ, Azari R, Robbins JA. The influence of gender on physician practice style. Med Care. 1995;33(4):407-416.
14. Krupat E, Rosenkranz SL, Yeager CM, Barnard K, Putnam SM, Inui TS. The practice orientations of physicians and patients: the effect of doctor-patient congruence on satisfaction. Patient Educ Couns. 2000;39(1):49-59.
15. Roter DL, Hall JA, Aoki Y. Physician gender effects in medical communication: ameta-analytic review. JAMA. 2002;288(6):756-764.
16. Roter DL, Hall JA. Physician gender and patient-centered communication: a critical review of empirical research. Annu Rev Public Health. 2004;25:497-519.
17. Ferguson E, James D, Madeley L. Factors associated with success in medical school: systematic review of the literature. BMJ. 2002;324(7343):952-957.

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  # by supersy | 2017-01-13 15:00 | Athletic Training | Comments(0)

PRIポスチュラル・レスピレーション大阪講習終了!

一週間ほど前にさかのぼってのブログ投稿ですが、12月28・29日に大阪は履正社医療スポーツ専門学校さんでPRIポスチュラル・レスピレーション講習を終了してまいりました!12月22・23日の東京講習に続き、参加者53名+ラボアシスタント2名+講師2名の大所帯で楽しい年末の2日間を過ごすことができました。エネルギッシュな参加者さんたちでなんだかこう、こんな表現があるのかはわかりませんが、頭脳の遊園地でみんなでわいわい遊んだような気分。ジェットコースターあり、お化け屋敷あり、観覧車ありのあっという間の2日間でした、充実したー!
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日本で講師活動を初めて一年半。少しずつ知り合いができて、「はじめまして」の代わりに「お久しぶりです」を言うことも増え、そんな出会いやご縁もまた楽しいですね。昔お世話になった先輩や長年の友人らともこういう機会に会えて(いやー、ほんとうにこういう人たちに講習会に来てもらえるのは特別にうれしい…)、夜食事に行って腹を割った話をしたり、人生のアドバイスをいただいたり…、そんなのも今の生きるエネルギーになっています。大阪でお世話になったヒロさん、ヒデキさん、ノブさんにジデン、りょうこさん、ありがとうございました。

講習会に参加してくださった皆さんには最後にお伝えしましたが、これからPRIジャパンではポスチュラル・レスピレーションに磨きをかけながら、マイオキネマティック・リストレーションも引き続き提供しながら、そしてまた一年半かけて新たな講習であるぺルビス・リストレーション開催の準備を進めていきたいと思っています。確約はできませんが、ぺルビス講習の第一回開催目標は2018年夏ですね。本業を疎かにするわけにはいきませんし、家族との時間も大事にしたいのですが、PRIを学び続けたいと思う人たちが日本にいる限り、我々もできるだけの努力を重ね、精進し続けるのが使命と思っています。頑張りますので、皆様も長くお付き合い続けていただければ幸いです。

さぁ、それでは日本滞在のもう少しの時間、家族や友人と過ごすことにします。あそぶぞぉ、おいしいものたべるぞぉ。

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  # by supersy | 2016-12-30 23:00 | PRI | Comments(0)

EBP東京講習終了!

一昨日の12月25日、クリスマスには神田の連合会館でEvidence-Based Practice (エビデンスに基づく実践)講習をしてまいりました!連合会館にお邪魔するのは初めてだったんですけれど、実は父の職場から徒歩3分という、妙な身内スポット…。交通の便もよく、分かりやすく、使いやすく綺麗でユーザーフレンドリーな施設でした。
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講習のほうは朝3時間が「評価編」、昼3時間が「治療介入編」、そして夕方3時間が「予防医学編」で、参加者さんは好きな講習を好きに受講可能、というスタイルにしてみました。全部で50名弱の参加者さんが入れ代わり立ち代わりでしたが、うち30名ほどは「全講習参加」というツワモノさんたちでした。しかし、我ながら9時間は長かったですね(笑)。ワークシートを使った実践などはあるものの、立ち上がって実技ー、という講習ではないので、座学9時間は構成として長かったかな。次回はもうちょっとうまいことわけわけしたほうがいいかなぁ。
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ちなみに予防医学編は今回BOC認定が下りて初めてお送りしましたが、Prevalence (有病率), Incidence (発生率), Injury Rate (受傷率)といったEpidemiologyの基本用語から、予防介入のエビデンス解釈には欠かせないControlled/Experimental Event Rate (対照群・治療群イベンド発生率)、Relative Risk (相対危険度)、Absolute Risk Reduction (絶対危険減少)、Relative Risk Reduction (相対危険減少)、Number Needed to Treat (治療必要数)というコンセプトの理解、それから実際に文献を引っ張り出してこういった統計を計算して、臨床的に解釈してみる、という練習もしました。脳震盪リスクが最も高い大学スポーツは?ACL予防にエクササイズプログラムは有効なのか?ハムストリング肉離れ予防にノルディック・ハムストリング・エクササイズはあり、なし?シンスプリント予防には何をすれば?結局のところテーピングやサポーターって足関節捻挫予防に効果はあるの?そんなトピックをがっつり3時間exploreしました。準備していても非常に楽しかった内容なので、参加者の皆様にも楽しんでいただけていれば幸いです!

南は熊本、宮崎、福岡、そして岡山、兵庫、大阪、愛知に滋賀、北からは福島と、遠方からも多くの方にお越しいただきました。参加者の皆様、そして運営をしてくださった高橋さん、あゆみちゃん、本当にありがとうございました!

さて、講習が終わった後はATC7名とDC1名が集い、講習会場から徒歩2分くらいのGreen Tea Restaurant 1899というお食事処で大人の茶会をしておりました。「茶を食す」というコンセプトの和食ダイニングだけあって、出てくるものすべてに「お茶」のツイストが入っています。写真は抹茶ビール(左)、抹茶とろろのかかった出汁巻き玉子(中央)、ほうじ茶黒ビール(右)…特にほうじ茶黒ビール、ほうじ茶の香りが芳醇でお勧めです!楽しかったー!これもコーディネートしてくれたあゆみちゃんありがとうー。
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一日明けた昨日、12月26日はぽっこりあいたオフ日だったので、フロリダ組の友人ら2人と旦那との4人で新宿で昼から忘年会してました。お昼の12時から夕方6時までまったりお酒を飲むなんて初めてで贅沢!こちらも楽しかったー。日本は楽しいことばかりー。

さぁ、また仕事です。これから大阪に行ってきます。2016年最後の仕事、集中して臨みたいと思います!

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  # by supersy | 2016-12-27 10:30 | Athletic Training | Comments(0)

PRIポスチュラル・レスピレーション東京講習終了!

ついについにこの日が!12月22・23日にPRIポスチュラル・レスピレーション講習を日本で初めてお送りすることができました、50名の参加者さん+2名のラボアシスタント+2名のPRI講師で文字通り熱気むんむんあふれる2日間でした。参加してくださった皆様、そして主催していただいたスポーツプログラムスのスタッフの皆様、本当にありがとうございました!
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PRIは生きた講習なので、少しずつ教える内容は変化しています。PRI講師間でも「ここを強調して教えよう」「ここはこういう誤解は招かないようにしよう」と肩を叩き合い、確認し合って足並みを揃えたりもしますし、講習中使うテキスト(教科書)もここはもっと説明しなきゃいけないんじゃないか、ここはいらないんじゃないか、このページをこっちへ持ってきた方がいいんじゃないか、などと常に話し合い、改訂を行うことで、よりよいメッセージのdisseminationを目指しています。そういう意味では、ポスチュラル・レスピレーションという講習そのものがまだまだ育ち盛りのコースだなと思うんです(これは、ポスチュラル・レスピレーションが以前は唯一のPRI講習であり、3日間を使って頭からつま先まで教えるような内容だった…という歴史的な背景を理由に含みます)。まだまだいじる余地と楽しさがあります。もっともっとシャープで面白いものになり続けると思います。

そういう講習を教えるのですから、勝手に内容を変えることなくオリジナルを保ったままで、どう情報を整理しようか、様々なバックグランドから来られる参加者さんに平等に均等に理解してもらうにはどういう日本語を使えばいいか…この試行錯誤の作業は楽しくもあり、時に苦しくもありました。「すごくいいものができそう!」「いや、全然できない気がする」という気持ちのアップダウンの繰り返しの一年半でした。講習開始直前には色々な気持ちが絡み合って講師二人とも妙なテンションになり、「ロンさんが!!!大丈夫、できるよって!!!言ってくれてる声が聞こえる!!!」と励まし合いながら臨みました(笑)。

そんな講習だったので、終了後に参加者の皆さんのナマの感想や建設的な意見・提案を聞けてとてもありがたかったです。受け取り手があっての講習会ですので、参加者さんの学びに最も適切な形態をとれるよう、頂いた意見を元により良いポスチュラル・レスピレーションの形作りに取り組んでいきたいと思います。実際、この一年間で日本で教えられるマイオキネマティック・リストレーションも進化してきましたし、これからポスチュラル・レスピレーションも進化し続けていく予定です。現時点でのベストの講習だった、という終わっての達成感はありますが、これからもより濃い講習を目指して頑張っていこうと思います。あと4日で大阪でのポスチュラル講習がありますが、そちらもがんばるぞう。
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空気の流れ(エアフロー)が見えますか?という切り口からの、刺激だらけの講習会でした。熱意ある参加者さんに助けられ導かれ、あっという間の2日間、楽しかったです。ありがとうございました!

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  # by supersy | 2016-12-24 10:00 | PRI | Comments(0)

月刊トレーニングジャーナル1月号発売 & Lelli Test、改め『Lever Sign Test』は結局のところ使えるの?最新エビデンスまとめその3。

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月刊トレーニング・ジャーナル1月号が発売になっています!連載8回目の今回は「脳震盪シリーズ」第三弾です。今回は脳震盪からの回復、というところに焦点を置き、現行のガイドラインで推奨されている「休息」について掘り下げたのち、最新エビデンスに基づく「休息」とは逆の発想の治療法についても言及しています。私はものすごく近い将来こっちがスタンダードになると思っているのですが…。興味のある方はこちらからどうぞ。一部書店で販売していますがオンラインでも購入可能で、送料は無料だそうです。これで脳震盪シリーズは一区切りで、次回からはまた別のトピックに移ります。



思いっきり私事ですが、2016年秋学期が無事に終了いたしました!学生としても、教授としても、です。明日、日本に帰ります。EBP、PRI、EBP、PRIと講習が立て続けにあるので楽しみです!もう一仕事して12月を無事に終えたら、少し年始はゆっくりしたいなぁと思っちょります。

さて。今回のブログは本当に脈絡がないのですが、以前に何度か書いたことのあるLever Sign Testについて、新しい論文を見つけたのでまとめておきます。なので、最新エビデンスまとめその3ということにしておきますね。以前の記事へのリンクも下に貼っておきます。

Lelli's Test―ACL断裂のための新しいスペシャルテスト!?
Lelli Test、改め『Lever Sign Test』は結局のところ使えるの?最新エビデンスまとめその1。
Lelli Test、改め『Lever Sign Test』は結局のところ使えるの?最新エビデンスまとめその2。

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2015年12月発表らしいこの論文1…どうして前回のまとめのとき(2016年3月)に見つけなかったんだろう。見落としていたのかな?ちなみにこれはPMCなので、誰でもフリーアクセスで読めますよ。興味のある方はこちらから。

今回のこの研究で評価できるのは1) 麻酔有りと無しの場合を比較したのち、2) 被験者全員がDiagnostic Gold StandardであるArthroscopy(内視鏡)をしてACL断裂の有無を確認している、というところですね。例えばDr. Lelliの以前の研究2なんかは診断基準としては甘いMRIを使ってましたからね。

ただ、inclusion criteriaはちょっと不可解です。「内視鏡によってACL断裂が認められた患者117人 (男96人、女21人、平均25.8 ± 5.9歳)」ということなんですけど、もし前述の「実験の手順」の記述が正しいとしたら、この実験で検証された患者が被験者になれる資格(eligibility)があったかどうかは一番最後に判明したことになります。被験者になれるかどうかわからないまま、とりあえず実験に参加させて最後にふるい落とす…そういう実験デザインは聞いたことがありません。そういう意味ではこれはRetrospective Studyってことになるのでは?Prospectiveでそんな後付けのinclusion criteriaってありますか?どうしてinclusion criteriaを「Physical Examの結果、(Lachman、Anterior Drawer、Pivot Shiftのいずれかが陽性などで)ACL断裂の疑いが濃厚な患者」にしなかったのか?それで診断研究の一環として最後に内視鏡をして、実際にACL断裂の有無で2x2 Tableを作ればよかったのに…。 「ACL断裂があるかないかわからない」患者を使うからSensitivityもSpecificityも実際の臨床状況に近い数値が出るんです。「ACL断裂があることがもうわかっている」患者しか使わなければ、Sensitivity(除外力)しか求めることができませんし、Specificity(確定力)は未知のままです。確定力と除外力のバランスが取れていることが確認できなければ、「触れただけで全ての者にぼこぼこ陽性を出してしまうようなやたら敏感なだけのテスト」ではないという保証がないではありませんか。これは比較的致命的なデザインミスかも。

まぁとりあえず読み進めます。2人の"臨床家"が、手術前の患者の麻酔が無い時とあるときに健側と患側の両膝にLever Sign、Lachman、Anterior Drawer、Pivot Shift Testを使って結果を記録。この際、2名の臨床家はお互い、もうひとりの臨床家がどういう判断を下したのかを知らない状態(=independently assessed, blinded to the other clinician's results)で陽性・陰性の判断を行います。しかし、この臨床家(clinician)という緩い表現もあまり文献では見かけませんね、整形外科の医師なんでしょうか?PA?AT?臨床経験はどのくらい?Lever Sign Testのトレーニングをどのくらい積んでいるの?これもここらへんが分からなければ、再現性の高さが保証されませんね。
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で、結果です(↑)。麻酔前と後での数字を比べると、1) Pivot Shift TestとAnterior Drawerは患者が意識がある状態では除外力に限界がある。そして、2) Lachman TestとLever Sign Testは麻酔の影響が比較的少ない、つまり、意識がある患者に行っても有効、ということが言えそうです。Muscle spasmやGuardingの影響を最も受けにくい、と言い換えてもいいですね。4つ全て比較しても、Lever Sign Testが一番優秀ですね!94%、98%とは非常に高い数値。前回紹介したThapa氏らの研究3の85.71%より高いです。

ちなみに2人の臨床家のテスト結果を比較したInter-rater Reliabilityも計算されているんですけど、ICCがLever Sign Testで0.89と0.96、Lachman Testで0.85と0.91、Pivot Shift Testで0.82と0.88に、Anterior Drawer Testで0.84と0.93と、いずれもかなり優秀でした。これも4つ比較するとLever Sign Testが一番高いんですね。Lever Sign TestのReliabilityが報告されたのはこれが初めてじゃないかな?「どんな経験を持つ臨床家がテストしたのか明記されていないので、再現性は保証されない」ということはくどいくらいに強調しておきたいですが、それ以外はencouragingな結果です。

さて、著者らはLever Sign Testのシンプルさと実用性の高さ、そしてACL断裂という傷害の解剖学的な観点から「tibiaではなくfemurをmanipulateすることは理に適っている」と論じています。その上で、他の一般的なACLテストよりもLever Sign Testのほうがsensitivityとreliabilityの高い、有効なテストである、というのがこの論文の結論です。私は個人的に、以前にも論じたようにLever Sign Testのそういった利点を踏まえたうえで、
1. 95%CIは分析含まれておらず、決定性のある統計かは不明
2. この研究の前述したinclusion criteriaでは、研究に多大なバイアスが生じている可能性がある
3. Exclusion criteriaに、medial meniscus posterior root tear, bilateral ACL tear, multiple ligament injuries or previous arthroscopic surgeryが含まれていることから、こういった患者に対するLever Sign Testの有効性は全く分かっていない
4. 試験者の素性(といういい方もアレですけど)もわからないので、私のするLever Sign Testと彼らのするそれがどれだけ一致するか不明…
という大きな制限がこの研究には存在するのだ、ということも噛みしめておきたいと思います。この論文も読めてよかったけれど、研究の質や読みごたえとしてはThapa氏らの研究3のほうが面白かったなぁ。

個人的には、次は被験者対象をもっと拡大して、半月板損傷付随やACL再断裂の患者にどれほどLever Sign Testが有効なのかということについて学んでみたいです。そんな研究出ないですかね、楽しみにしてます。しかし、これだけ名実ともに大きくなってくると、いよいよ下肢の傷害診断の授業でLever Sign Testも教えなきゃいかんな。来学期、少し膝のところ内容を入れ替えてみるか…。

1. Deveci A, Cankaya D, Yilmaz S, Özdemir G, Arslantaş E, Bozkurt M. The arthroscopical and radiological corelation of lever sign test for the diagnosis of anterior cruciate ligament rupture. Springerplus. 2015;4:830. doi: 10.1186/s40064-015-1628-9.
2. Lelli A, Di Turi RP, Spenciner DB, Dòmini M. The "Lever Sign": a new clinical test for the diagnosis of anterior cruciate ligament rupture. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2014. doi:10.1007/s00167-014-3490-7.
3. Thapa SS, Lamichhane AP, Mahara DP. Accuracy of Lelli test for anterior cruciate ligament tear. J Inst Med. 2015;37(2):91-94.

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  # by supersy | 2016-12-14 21:00 | Athletic Training | Comments(0)

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